今年の夏はとにかく暑い。

まだ夏の初旬であるにも関わらず少し立ち止まっているだけで汗が吹き出てくる。

そんな暑さの中で一つの白球を追いかけているもの達がいた。

「ストライーバッターアウッ!!!」

明日香「よしっ!」

八イニングを抑えきった小さな女選手は小さくガッツポーズをしマウンドを降りていった。

試合のスコアは八回を終わって1対0。

未だ明日香が黄瀬のホームランの一点を守っていた。

黄瀬「ふ〜…暑ぃ…」

黄瀬は自分の帽子をとってパタパタと扇風機の風を送っていた。

瑞希「ちょっと!一人で扇風機の風とらないでよ!ね?明日香ちゃん?」

明日香「……………」

瑞希「明日香ちゃん?」

明日香「ふぇ?何?」

瑞希「いや…その…明日香ちゃんも暑いよねって…。」

明日香「あっ…うん。暑いよ!遼も他人のこと考えてよね!」

明日香はまるで瑞希みたいな早口でそう言うとベンチ裏へと消えていった。

黄瀬「…………」

「ストライッ!バッターアウッ!」

今日12回目の審判のコールで九番の青田が三振に倒れた。

吉岡「っしゃ!!」

吉岡のガッツポーズが飛び出し球場が盛り上がる。

黄瀬「…もうそんなに打てねぇな…。」

瑞希「大丈夫だよ!一点勝ってるのはこっちなんだから後は明日香ちゃんが抑えるだけだよ!」

瑞希が黄瀬の言葉を遮るように大声でそう言った。

黄瀬「…そう簡単にいけばいいけど…。」

黄瀬はベンチ裏への通路に目をやりながらそう呟いた。









明日香「…はぁ…はぁ…はぁ…」

夕陽ヶ丘高校頼みのエースはベンチ裏の水道の前でしゃがみ込んでいた。

明日香「(あと一回…、あと一イニングなのに…。)」

明日香は完全に壁にもたれ掛かるように座りこんだ。

ここまで猛スピードで野球の実力をあげてきたが、さすがの明日香も本番の試合となると話は別だった。

現在明日香の球数145球。被安打はわずか2と少ないが四死球が9というのが球数を増やしていた。

しかしストライクが入らないのは想定していたことであり明日香自身その備えとしてブルペンでは200球近くの投げ込みをしてきた。

スタミナだけは自信をもって臨んだ大会だった。

だが実際はそのスタミナが足りなかった。

だから自分は今こうやって立っていられないのだ。

明日香「(でも…降りるわけにはいかない…。私が降りたらそこで終わりだもん…。)」

これは決して明日香の自惚れではない。

実際夕陽ヶ丘の投手陣は褒められたものではない。

明日香がマウンドを降りると相手は仮にも去年ベスト16のチームだ。こちらがリードしているのにも関わらずあちらに流れが全ていってしまうだろう。

明日香「(私って…やっぱり中途半端だな…。)」

明日香は目をつぶって中学の時を思い出していた。














私立成恭学園中等部。それが私が通ってた中学校だった。

地元はここ静岡にある私だが中学の時は寮生活でこの東京に住んでいた。

何故この中学を選んだか?

東京への憧れもあるけど一番はとにかく親から離れたかったこと。

私の親、特にお母さんは勉強に関してはかなり口うるさかった。

口を開けばいい大学に入ればかりだった。子供ながらに大学ってものはそんなにえらいものなのかと心の中で思っていたことは今でも覚えている。

小学生からそんな風に言われていた私は中学をここに決めたのは親への当てつけでもあったのかもしれない。

成恭学園はそんなにも勉強では名を馳せてはいなかった。

むしろスポーツや芸術の世界などで有名だった。

そんな中学に入学するなんて言い出した私とお母さんはもちろん大喧嘩した。

結局両者譲らず私が勝手に東京に来た形になった。つまり家出してきたのである。

学費はお父さんがこっそりと振り込んでくれたそうで未だにそのことに関してはお父さんには頭が下がらない。

そんなこんなでこの中学に入学した私は楽しい生活を送っていた。

陸上では都大会とはいえいい成績を残し学校生活では友達がたくさんできて申し分ない学生生活を満喫していた。

そんなある日私の人生を大きく変えることになる出来事がおきる。

その日私は図書館で下校ギリギリまで本を読んでいた。

その日はちょうど練習が休みで暇なのもあったがこの時点で進路をどうするかというのが悩みの一つだった。

陸上で一応結果を残して推薦はきているものの自分の力で高校レベルで自分の力が通用するとはとても思えなかった。

先生からは私の学力ならかなりいい高校にいけると言われた。ほとんどの生徒はこのままエスカレーターで高等部にあがるのだが成績がいい生徒は他の学校に入学する人が多い。

私自身も高等部にあがるつもりはなかった。さすがに親への怒りも収まってきたしちょっと真面目に勉強でもしてみようかなと思っていたところだった。

明日香「あちゃ〜…雨降ってきちゃった…。」

ちょうど明日香が図書館の外に出ると滝のような雨が空から落ちてきていた。

さすがにこれでは寮まで走っていくだけでも服がびしょ濡れになってしまう。

明日香「(風邪引くのもイヤだし…。とりあえずあそこで雨宿りでもしよ…。)」

明日香は学校の体育倉庫の屋根のところに走っていった。

明日香「この距離なのにもうこんなに濡れて…ん?」

明日香がハンカチを出して濡れたところを拭いていると体育倉庫の後ろから呻き声のような声が聞こえてきた。

???「うっ……。」

明日香は雨の日そして放課後というのがあって気味が悪くなり体が寒さとは違う震えが体を襲った。

明日香「…何?」

ただでさえ小さい体が肩をすくめてさらに小さくなる。

明日香は生唾をゴクっと飲み恐る恐る体育倉庫の後ろへと歩を進めていく。

明日香「…誰かいるんですか…?だったら風邪引きますよ…こんな雨の中でこんなところにいちゃ…」

その時空から怪奇的な光が眩しいくらいに光り雷鳴がとどろいた。

明日香「キャッ!!!」

明日香は悲鳴をあげるとその場に座り込んでしまった。

明日香「私…雷とオバケだけは駄目なのに…。どうしてその2つが同時にくるのよ〜…。」

明日香は涙目になりながら小刻みに震えていた。

どうやら明日香はあの物音の正体はオバケだと思いこんでいるらしい。

???「っ…!…誰か…いるん…ですか?」

明日香「キャーーーー!!!!!食べないで連れていかないで、呪わないでーー!!!!」

明日香は物音の正体?に声をかけられそう大きな声で叫んだ。

???「え…?いや僕食べたり…呪ったりなんか…しないで…すよ…?」

実に弱々しい少年の声が耳に入ってきた。

その声はまるで猛獣に襲われて体が弱った子羊みたいだ。

明日香は声を聞いたがまだ恐怖感があるのかゆっくりゆっくりと声が聞こえた方へと歩いていった。

明日香「えっ…!?」

そこには本当に猛獣に襲われたのだろうかと疑うぐらいにボロボロになっている少年が倒れていた。

明日香「どうしたの君!?顔から血が出てるし…誰にやられたの!?」

明らかに動転している明日香をなだめるように少年は口を開いた。

???「いや…大丈夫ですよ…。もうちょっと休めば動けるようになりますから…。」

明日香「だけどこんなところにいちゃ風邪引いちゃうよ!
とりあえず校舎の中に入ろう?」

そう言うと少年に肩を貸して校舎の中に入った。

???「ありがとう…ございます…。」

少年は礼を途切れ途切れだが言うと完全にダウンしたように壁にもたれかかった。

明日香「…君?大丈夫?」

???「大丈夫ですよ…。ちょっと元気になってきたし…それに元々そんな大きな怪我じゃないですから…。」

少年はそんなセリフをはくがとてもじゃないがそうは見えない。

明日香「…誰にやられたの?」

明日香は静かにそう聞いた。

そうすると少年は静かに口を開いた。

???「…先輩からの…洗礼ですかね…。」

少年が力なく苦笑いを浮かべて小さく呟く。

明日香「…それってイジメってこと…?最低…!誰にやられたの!!」

明日香が大きな声で明らかに怒りを露わにしているのに対し少年は至って冷静だった。

???「…野球部の先輩です。」

明日香「私…先生にこのこと言ってあげる。」

明日香がそう言うと少年は慌てて止めてくださいと明日香の腕をつかんだ。

???「僕…スポーツ推薦みたいな形でこの学校に入学して…すぐレギュラーになったから妬まれてるんです…。」

明日香「だからってこんなことしていいことないわよ!」

明日香がそう言うと少年は一瞬黙りそして口を開いた。

???「…でもそれって俺の野球の実力を認めてくれてるってことですよね…?関係のないことでこんな目に遭ったら僕も怒りますけど野球のことだから…いいんです。」

優しすぎるよ!と明日香は言おうとした。

しかしその言葉が明日香の口から出ることはなかった。

いや出せなかった。あまりにも真っ直ぐで綺麗な目をしていたから…。

明日香は聞いた。そんなことされてるのに辞めないの?と。

すると彼はさも当然のごとくこう答えたのだ。

???「俺…これって決めたものは最後までやらないと気が済まないんです…。おかしいですかね…。」

明日香「…ううん…。おかしくなんかないよ…。」

眩しかった。この少年の言葉の一つ一つが私の心に響いた。

私はこの日自分の将来を決めた。

私は今まで中途半端だった。だから今度からはこれと決めたことは必ずやり遂げようと心に誓った。

明日香「そういえば…君の名前聞いてなかったよね?」

私がこう聞くと彼は笑顔で答えてくれた。

佐隈「佐隈…佐隈洋輔です!」

この日以来私は何か見つけては最後までやりきっていた。

漢検や英検、部活にテスト勉強。料理なんてのにもチャレンジした。

そのいずれもが私がちょっとやってすぐ飽きたものや真剣に取り組んではいない適当にやってきたものばかりだった。

部活は最後の大学でインターハイにまで出場しいい成績を残し、検定ものは全て受かった。もちろん何回も落ちはしたが…。

料理も人並みには出来るようになり今も諦めずにやっている。

こんな私になれたのも全部彼のお陰だった。

あの一つ年下で笑顔が爽やかな彼がいたから。

でも…

明日香「えっ!?佐隈君が転校した!?」

あの後何度かあってお話をしたこともあった。その彼に久しぶりに会いに行ったら…

女子「はい。確か二週間前だったかな…。親の転勤の都合で急遽決まったらしくて…。」

正直ショックだった。

私に何も言わずに行ってしまったことも…。

私の話を聞いてくれなかったことも…。

数日間私は抜け殻のような生活を送った。

何もする気がおきずずっとボーっとしていた。

そしてある時私はすっとあることを思った。

自分は恋をしていたんだ…と。

あの真っ直ぐで綺麗な瞳に…。あの爽やかな笑顔に…。

だから私はもう一度彼と会ったときには胸を張れる自分でいよう。そう心の中で誓ったのだ。









明日香「なのに…やっぱり中途半端だな私…。」

私が野球を始めたきっかけ。それはある人の言葉だった。



−−−君が必要なんだ!



そんなことを言われて嫌な人はいないだろう。

その言葉に応えたい。

それもきっかけの一つだった。

でも…本当は…

明日香「(あの目が…佐隈君に似てたから…なのかもね…。)」

フフっと明日香は自嘲気味に笑った。

スタンドが湧いている。多分九回表の攻撃が終わったんだろう。

明日香「…行かなきゃ…。私…決めたんだもん…。私を必要としてくれているこの野球部に必ず恩返しするって…!」

明日香はそう言うとフラフラと立ち上がりお酒を飲んで酔っ払ったような千鳥足でグラウンドの方へと歩を進めていった。










「九回裏八谷工業の攻撃は一番ファースト河野君。」

アナウンスがあり一番の河野が左バッターボックスに入る。

イニングが始まる前ベンチの前で円陣を組んだ。

中河「お前ら…。とうとう泣いても笑っても最後の攻撃だ。」

中河が言葉を発するとベンチにいる野球部員全員だけに限らずスタンドにいるベンチ入り出来なかった部員までもがこの言葉に全神経を集中している。

中河という男はそれだけ部員に尊敬されているのだ。

中河「俺はこんなところで終わりたくはない…。お前らも俺と同じ気持ちだと思う。」

鴻上「当たり前だろ!!」

河野「"矢月"を打つために練習したこの一年間無駄にしたくないぜ!!」

吉岡「そうですよ!!」

次々と部員から声があがる。

中河は大きく頷きそして気合いを入れた。

中河「よし!お前ら。この試合絶対勝つ!いいな!」

野球部員全員「ヨッシャーーーー!!!!」

気合いを入れた八谷工業野球部員達は一斉に小高いマウンドにいる小さな選手を睨みつけた。

明日香「(あと…あと一イニング…。あと三人なんだ。絶対に勝ちたい…!)」

明日香は決意をさらに深め第一球を投げた。

カキーン!!

明日香「!?」

打球は心地よい金属音を残しセンター前に落ちた。

田代「(不味いぞ…。球威がなくなってきてる。かと言って変化球に逃げられない。)」

そう。いくら明日香と言えどもこの短期間でストレートのキレやノビをあげるのがやっとだった。

なので変化球には着手していなかったのだ。

明日香「(あと…三人なのに…。)」

意識が朦朧としている中明日香は左手を太ももに叩きつけた。

その後二番の大野は定石通り送りバント。

そして三番の吉岡をストレートの四球で歩かせてしまった。

そして…

「四番キャッチャー中河君」

『頼むキャプテン!打ってくれー!!』

観客からそしてベンチから大きな声援を送られながら中河はバッターボックスへと入った。

田代はこのままではまずいと考えタイムをかけた。そして内野手全員がマウンドへ集まってきた。

明日香「…はぁ…はぁ…はぁ…。」

明日香の息切れは相当ひどかった。

もしかしたらこのまま続けたら明日香の体に関わるんじゃないかとまで思うほど、それぐらい異常なぐらい疲れきっていた。

田代「明日香ちゃん…もうこれ以上は…明日香「大丈夫だよ…!」

明日香は誰の目から見ても明らかな作り笑いを浮かべて皆の顔を見つめた。

黄瀬「…わかった。投げろよ。」

ずっと黙っていた面々の沈黙を打ち破ったのはマイペース男だった。

田代「黄瀬君!?」

黄瀬「大丈夫だよ。いざ倒れそうになったときは無理やり止めればいいんだ。それに…この状況を抑えられる投手はうちにはいないしな…。」

黄瀬はそう田代をなだめて皆も納得した。

羽柴「黄瀬の言うとおりだな。それに悔いが残るのは一番避けたいだろ?」

羽柴はそう笑いながら田代に言う。

皆納得して一斉に田代をなだめはじめた。

田代「…わかりました…。じゃあ僕がもう本当に無理だと思ったら強制で代わってもらうからね。」

その言葉に明日香はコクっと頷いた。

内野手が散らばっていくなか捕手の田代と黄瀬が残った。

黄瀬「黒木…ちょっといいか…?」

明日香「…うん?」

明日香は黄瀬のいつにもない真剣な声を聞いて素直に聞く体制をとった。

そして明日香と田代に黄瀬は話しはじめた。








「プレイ!!」

審判の声がかかって長いインターバルをおいたあと試合が再開された。

中河「(もうストレートの球威が落ちている。いくら相談しても無駄だ!)」

中河は大きく構えた。

明日香「(…よし。行きます!!)」

明日香はランナーに目を配りながら第一球…

ビシュ!!

中河「(何!?)」

そのボールは綺麗な弧を描いてミットに吸い込まれた。

「ストライッ!!」

審判のコールを聞くと今度は夕陽ヶ丘スタンドが大いにわく。

今の球はスタンドの球速表示に81kmと表示されていた。

中河「(チェンジアップ!?変化はまるでないが緩急が激しい…。こんな武器を隠していたとは…。)」

中河が驚愕しているときバッテリーは全く違うことを思っていた。

明日香「(やっぱりいきなりは曲がらないよね…。)」

田代「(緩急差があるけど危ない球だ…。)」

そうこの球は偶然すっぽ抜けただけであって投げようと思って投げたのではなかったのだ。

バッテリーは黄瀬の言ったことを守っていた。



−−−黄瀬「いいか…。少し挟んで投げるんだ。そうすれば必ず大丈夫だ!」



明日香「(素直に聞いてはみたものの大丈夫かな〜…。)」

明日香はチラッと三塁方向を見たが黄瀬の目は一点の曇りもなかった。

明日香はその目にかけてみようと思い二球目も少し挟んで全力で腕を振った。






???「あの球どこかで見たような…。」

帽子を深めに被っている男が唐突にそう呟く。

???「そんなことどうでもいいだろ!とにかくあのバッターを追い込んだんだ。夕陽ヶ丘には絶対勝ってもらわねぇと…!」

横にいる体格のいい男はそう興奮気味に言った。

???「黄瀬やあの女の子と対戦したいからだろ?何回も聞いたよ…。」

帽子を深めに被った男がそう呆れた顔をしながらため息混じりにそう言った。









明日香「(あと一球…!)」

二球目もチェンジアップ気味のボールになったが運良く見送ってくれてツーストライクノーボールになった。

田代「(追い込んだ…。ここでストレートに戻ろう。緩急で詰まるはずだ。)」

田代は内角ストレートのサインを出した。

しかし明日香はこれに首を振ったのだ。

田代は驚いたが明日香の表情は実に真剣だった。

明日香「(ここはこの球で最後までいかせて…!なんかストレート狙ってそうな予感がするの…。)」

明日香の予感通り中河はストレート一本で次の球を待っていた。

田代はその考えに折れて唯一の変化球のサインを出した。

急遽決めたのでグーを出すだけという至って単純なものだが。

そのサインに首を縦に動かしランナーに目を向けた。

明日香「(それにここでストレートにいったらまた中途半端に逃げちゃう結果になるし…。それに…ここで逃げたら…)」




−−−黄瀬「やっぱりビビりだな〜…。」




明日香「(…ムカつくし。)」

明日香は大きく足をあげて特徴のあるマサカリ投法から第三球を投じた。

その球は一直線にホームベースの真ん中へと向かっていった。

つまり失投である。

中河「(もらった!!!)」

中河はバットを勢いよく振り出した。

中河は勝ちを確信し、バッテリーは負けを覚悟した。

しかし中河には無情、バッテリーには奇跡的なことが起こった。

ボールは垂直に勢いよく落下したのだ。

中河「何…!?」

その球に対応するべく中河は必死にボールの軌道にバットを合わせていく。

執念なのかそのバットはボールを捕らえた。

キンッ!!

小気味いい快音が発されスタンドが湧いた。

ランナーはその瞬間一斉にスタートをきる。

しかしそのスタンドを一気に悲鳴に変えるものがいた。

バシィ!!!

ランナー&打者「!?」

黄瀬「悪いけどこっちだって負けられないんだ…。」

なんと三遊間を破りそうな打球を横っ飛びで黄瀬が掴んだのだ。

ランナーは急いで反転して塁に戻るが時すでに遅し。

白球は二塁手のグローブにきっちりと収まっていた。

「ゲームセット!!!」

そのコールの瞬間一斉に夕陽ヶ丘スタンドから歓声が沸き上がり、ベンチからも全部員(マネージャーも含む)がマウンドの方へと集まってきた。

その中心には今まで倒れそうだった小さなエースが満面の笑みを浮かべていた。








???「勝ったかー!!いやいい試合だった!…悠生?」

悠生と呼ばれた帽子を深めに被った男は立ち上がって一点を見つめていた。

???「(あれは…間違いない。フェニックスの第一段階"朱雀"だ。あのバッターから投げ出したってことはインターバル中に黄瀬が教えたに違いない。しかしそんな短時間で投げられる訳が…。)」

試合が終わると試合に集中してた人たちがこちらに気づいたのか色んな人たちが指を指す。

「ねぇ…あれってもしかして…。」

「星光学園の…!」

周りがざわざわしだすと明らかに大きな少年は焦りだした。

???「おい…!悠生まずいって!監督にこんなところにいるのバレたら地獄のグラウンド100周が待ってるぞ…!!」

明らかに焦っている少年とは違い帽子の少年は冷静にそして目は明日香と黄瀬を捉えていた。

???「(面白い…。この矢月悠生。お前らとの対戦がさらに楽しみになったぜ…。)」

不敵な笑いを浮かべその目は確かに明日香と黄瀬を射抜いていた。

チーム 1 2 3 4 5 6 7 8 9 R H E
0 1 0 0 0 0 0 0 0 1 3 1
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 3 0
勝 黒木 負 吉岡
本 黄瀬(夕)