バシィ!!

「ストライッ!!バッターアウッ!!ゲームセット!!」

明日香「やった!!」

明日香がガッツポーズをすると大歓声が起こり夕陽ヶ丘ナインが整列するためにホームベースに走ってきた。

今年の静岡県大会は誰もが予想しない波乱が起こっていた。

その波乱を起こしているのがダークホース夕陽ヶ丘高校である。

夕陽ヶ丘はここまで快進撃を続けていた。

一回戦の八谷工業を辛くも1対0で破った後、二回戦は羽柴、黄瀬のアベックホームランや榊原の三安打。明日香は五回ながらノーヒットノーランなど15対0のコールド勝ちだった。

そして三回戦は明日香が押し出しで今大会初失点を失い1対1で延長に突入。

しかし延長10回裏一番武沢のサヨナラタイムリーで劇的な勝利を収めた。

そして勢いにのり準々決勝の海宝高校戦。

去年ベスト4にまで上り詰めた実績がある海宝高校は今年目立った選手がいないと言われていたが野球の上手さで今年もここまで勝ち上がってきていた。

そんな強豪とも言える学校と今日対戦して結果は上記の通りである。

3対1の快勝で準決勝進出を決めたのだ。

今日の試合は明日香が六回に今大会初のホームランを浴びた。

あの八谷工業との試合で投げた最後の球を投げようとするのだがあの後全く投げられなくなった。

だが変化しないチェンジアップは投げられるため緩急をつけるためにたまに投げていた。

そしてたまに投げるそのチェンジアップを狙われたホームランだった。

そして0対1の終盤八回裏、武沢と田代の連続ヒットでチャンスをつかんだあと榊原送りバントでランナーを進める。そして羽柴。

羽柴は黄瀬が今大会加わりしかも好成績(.372 本3 点8)を残しているので勝負してもらえる数が増えた。そしてこの打席も勝負してもらい逆転スリーランを放った。

そして九回を明日香が抑え夕陽ヶ丘高校は快進撃のベスト4となったのだ。

そんな夕陽ヶ丘高校の面々はベスト4の祝勝会ということで球場近くの焼き肉屋へと来ていた。

佐沼「というわけでベスト4の祝いにワシが奢ってやる!!」

第四話以降出番がなかった佐沼監督が演説をしているが無視して皆焼き肉へと箸をのばしていた。

明日香「あれ?遼は?」

明日香は焼き肉を頬張っている瑞希と武沢にそう聞いた。

瑞希「ふぇ?りょうたりょ〜?ひょこひったんだりょ〜?」

武沢「りょうたりょ〜ならバッチョ持ってしょとに出ていったじょ?」

二人が何を喋ったのか正直わからなかったがとりあえず外に言ったことだけはわかったので箸を置いて外に出てみた。

明日香「…?」

明日香が外へ出てみるとどこかからバットを振る音が聞こえてきた。

その音の正体はすぐ近くの路地裏のところにいた。

明日香はその音を発している正体に気づかれないようにゆっくりと近づいていった。

黄瀬「…っ!!」

ブンッ!!!

バットの音が鋭く響く。

黄瀬の調子は明らかに大会前とは変わっていた。

スイングスピードもフォームの安定も桁違いである。

明日香「へぇ…。」

明日香がそう感心した声を出すと黄瀬は途端にスイングを途中で止め明日香の方を見た。

黄瀬「覗きとはいい趣味してるな…。」

黄瀬は笑いながらそう言った。

明日香「誰が覗きが趣味よ!!…それより見てないところで頑張るなんて…モテる男はツラいねぇ…。」

明日香がからかうような口調で黄瀬にそう言うと黄瀬はため息を大きく吐くと明日香の方を流し目で見た。

黄瀬「俺がそんなことを気にしてると思うか…?」

明日香「……見えないね…。」

明日香は、ははっ…と苦笑いを浮かべて黄瀬の方に近づいていった。

明日香「でも…あれだけバット振ってなかったのにどういう風の吹き回し?」

明日香は路地裏にあった小さな一人用のベンチに座りながら黄瀬にそう話しかけた。

黄瀬は素振りを再開しながらもこの疑問に丁寧に答えた。

黄瀬「別に…。これが俺の調整法なの。大会が始まったら今日対戦した投手達をイメージして素振りすんだよ。その方が数こなすよりも遥かに練習になるんだ。」

黄瀬は素振りをしながらも長々とした説明を一字一句噛まずに言い終えた。

明日香「じゃあ私と対戦するところもイメージしてよ!」

明日香はキラキラした目で黄瀬にそう言った。

しかし黄瀬は当然と言えば当然だろうかこんなことを言ったのだ。

黄瀬「…お前と対戦しても練習にならん。」

ブチッ!!!

どこかで聞いたような鈍い音が場の空気を一瞬のうちに凍らせた。

黄瀬「…別に…そういう意味で…いったんじゃないですよ…?」

黄瀬は手を前に出しなだめるようなポーズをとりながら後退んでいった。

明日香「…じゃあどういう意味なのよ!!」

明日香の鉄拳が黄瀬の頭に当たろうとした瞬間黄瀬の頭に名案が浮かんだ。

黄瀬「そ、そうだ!確か俺たちの準決勝の相手が今日決まるんだよ!見に行こうっと…。」

黄瀬はそう言うと一目散にグラウンドへと走っていった。

明日香「あっ!ちょっと待ちなさい!!」

明日香は逃げる黄瀬を全速力で追いかけていった。








黄瀬「は、速すぎる…。お前はの○△き博士が作った某女の子ロボットか!!」

明日香「わかりにくいボケ入れないでよ!大体私陸上部だったし、舐めないでよね!」

黄瀬は逃亡後わずか30秒で確保され明日香のきついパンチが飛んできた。

当然きっちりと黄瀬の頭に大きなこぶが出来ていた。

二人は引き返すか迷ったがせっかくここまで来たので自分達の次の相手を偵察することにした。

黄瀬「次のカードは…京徳商業と陵芭学園か…。こりゃ陵芭の勝ちだな。」

明日香「確か陵芭学園って去年の準優勝校だよね?去年のメンバーの大半が二年生だったから今年星光の17年連続の甲子園を阻むのに一番近いチーム…だったよね?」

明日香が先ほどの黄瀬と同じく長々と説明して黄瀬は相槌をうった。

黄瀬「まぁそこまでは覚えてないけどまず確実にあがってくるな。」

黄瀬がそう言うと後ろから大きな声がかけられた。

???「おい!陵芭が勝つって誰が決めたんだよ!」

その声の主を見るために二人は後ろを振り向いた。

そこにはこの世のものとは思えない大男が立っていた。

黄瀬「…黒木…陵芭の相手チームはこんな人たちがOBなのか…?」

明日香「…絶対違うでしょ…。」

黄瀬と明日香はお互い目を合わせながら横目でチラチラと大男を見ていた。

???「なんだよ文句でもあんのかよ!」

大男が半ば逆ギレ気味にこちらにくってかかってきたとき後ろからこちらも中々の長身の男がひょっこり顔を出し大男の肩を掴んだ。

???「止めろ海藤。試合前に無駄な騒ぎを起こすな。」

???「だけどよ〜二宮…。何にも知らねぇ一般人にこんなこと言われたら腹立つぜ!!」

海藤と呼ばれた男は二宮という男にそう叫んだ。

普通に喋ってるだけなのだろうが如何せん煩い。本当に叫んでるみたいだった。

???「お前…まさかこの二人知らないって言わねぇよな…?」

半ば呆れた表情で大男そう言うと大男はさも当然のように知らんと言った。

後ろの男がはぁとため息をついて大男に説明しようとした瞬間。

さらに後ろから二人の女の子が出てきた。

???「馬鹿だね〜海藤ちゃん!この二人は今日の試合で準決勝行きを決めた夕陽ヶ丘高校のマサカリさんと長バットさんじゃん!」

明日香「マサカリさん…!?」

黄瀬「…長バット…。(ってか4人もいたのか…。)」

最近わかってきた(最初からわかっていた)が明日香は頭に血が上るのが早い。

今の言葉で早くも半分キレかかっていた。

???「倉持…言葉を慎め…。」

???「え〜!憲ちゃんだってそう思うでしょ?」

青髪が特徴的な小さい少女は男を下から見上げている。

???「…とりあえずその憲ちゃんというのをやめろ…。」

至って冷静にそう注意する男。

黄瀬もクールだと思っていたがさらにクールな人もいるんだと明日香は感心していた。

???「私のニックネームが気に入らないの!?いいニックネームばっかりなのに…。朱ちゃんもそう思うよね!?」

朱ちゃんと呼ばれた少女は顔をトマトみたいに真っ赤にさせながら申し訳なさそうに口を開いた。

???「いや実は私も…そのあだ名止めてほしいな〜…なんて…。」

青髪の少女から目をそらしながらそう言った少女は今度は申し訳なさそうに俯いた。

???「朱ちゃん落ち込まないでよ…!!私が朱ちゃん泣かしちゃったみたいに見えるじゃん!!」

いや…明らかに小学生の喧嘩のように見えるが…。

黄瀬はそう心の中で的確につっこんでいた。

???「馬鹿なことやってないで…。さっさと謝れ。」

男が少し凄んでそう言うとゆっくりだが三人とも(一番小さな少女は関係ないが…)はっきりとした口調で謝った。

黄瀬「…うん?」

黄瀬は謝るために一列に並んだ面々が同じ服を着ていることに今気づいた。

胸のところには"京徳"とロゴがプリントされていた。

黄瀬「京徳…商業…。4人全員が?」

黄瀬はもっともな疑問を口にした。

どこをどう見てもあの一番偉そうな男以外高校生には見えまい。

おっさんもいるし小学生もいる…。

黄瀬「京徳商業は高校の年齢関係ないとか…?」

明日香「そんなわけないやろ!!」

明日香は関西風に黄瀬につっこんだ。

これを見てなんでかわからないが大男がよくわからないライバル心を燃やしてきた。

???「ぐ〜!!俺たちバッテリーより息があってる!!ムカつくぜ!!!」

黄瀬&明日香「はっ?」

また二人同時だ〜!!と言って悶絶している大男を尻目に偉そうな男が話し出した。

二宮「自己紹介がまだでしたね。二宮憲一。一応京徳のエースやらしてもらっています。今後ともよろしく。」

帽子をちゃんと取り頭を下げた。

さすがにここまで礼儀がいいとこっちまで頭を下げなけりゃいけない気がする…。

海藤「海藤駿介!キャッチャーだ!!」

倉持「私は倉持光!特徴はミスユニバースも驚くこの美貌かな!!」

黄瀬と明日香はまたも二人同時に同じことを思っていた。

黄瀬&明日香「(いや…どう見ても青髪だろ(でしょ))」

そんなことを思っているとはつゆ知らず…。

倉持は自己紹介を続けていた。

倉持「好きな食べ物はオムライスで〜好きな野球選手はイチロー!!それから…」

二宮「もう…終わっとけ…。」

二宮の制止が出て倉持はまだ言い足りない表情をしていたがポジションはセカンドもしくはライトよろしく!と言って自己紹介を締めた。

朱音「矢吹朱音です…。ポジションはセカンドもしくはライト…。光ちゃんと同じだけど頑張ってます…。」

朱音は小さい声でそう言うとぺこりと頭を下げた。

また馬鹿丁寧なのがいたな…と思いながらも黄瀬は一応頭を下げ返した。

二宮「俺たちはこれから試合があるんで…失礼。」

二宮はそう言ってこの場を去っていった。

それに続いてふんっ!と踵を返して去っていくもの。

バイバーイ!と全力で手を振りながら歩いていくもの。

下げすぎだろ…と言いたくなるほどペコペコしながら去っていくもの。

三者三様な去り方をして姿が見えなくなってしばらくして黄瀬は第一声を発した。

黄瀬「あいつら結局なんだったんだ…?」

明日香「…さぁ…?」

黄瀬と明日香は首を傾げて去っていった方向を見つめていた。











明日香「…うそ…。」

明日香が試合を見ながらそうポツリと呟いた。

黄瀬「…こりゃ気合い入れて練習しなきゃ…マジでやべぇかもな…。」

そこには信じられないといった表情を浮かべている陵芭学園の選手達がいた。

二宮「シッ!!」

バシィーン!!!

「ストライッ!バッターアウッ!」

海藤「ウォリャ!!」

グァキーン!!!

倉持「へへっ…!」

カキーン!!

朱音「わわっ…!」
バシィ!!

「アウト!!」

黄瀬「おいおい…お前ら…冗談は顔だけにしろよな…。」

黄瀬が見つめるスコアボードには18対0の文字が刻み込まれていた…。