第11章 新チーム始動

−1994年 9月−
夏の大会も終わり秋と言ってもまだ暑い日が続くが斎藤達は練習を頑張っていたのだが
大下「来たぜ。スカウトが指名するかも知れないって」
相良主将「それは厳密には指名される可能性があるってだけで必ず指名されるとは限りませんよ」
大下「それでもオッケー! 指名しないと言われないだけマシだろう!」
間宮「指名しない時は話す事がまずないからな。わざわざ指名しないと言うスカウトは居ないと思うぞ!」

真田「キャプテンは来年からはプロか」
吉田「いや、まだ指名すると決まってる訳じゃあ」
真田「ドラフトって確か11月だっけ?」
斎藤「ああ」
吉田「昨年から逆指名制度ができたからな。上位指名は大学や社会人中心になるかも知れないな」
斎藤「そうだな。だけど八坂さんは希望の球団は特にないって話だし逆指名使わずに指名する球団もあるだろう」
吉田「昨年は分からないけど一昨年は高卒選手の当たり年だったしな」
真田「へえ。今年はどうなるかな?」
吉田「高卒1年目で活躍する選手なんて昔からまれだしな。去年は新人でタイトル獲得する選手が何人も出たけど」
斎藤「今年はうちのOBの中西さんが10勝で新人王っぽいけど」
吉田「そうだったな。うちのOBで新人王獲れば福井さん以来だから確か1966年だから28年振りになるのか」
真田「凄いね僕達が生まれるずっと前だよ」
中西監督「確かに時代の流れを感じさせるな」
斎藤&真田&吉田「監督!?」
中西監督「しかし福井か―――あいつ何やってんのかな?」
福井「実はここにいたりします」

噂をすれば影と言うか偶々来てた福井が出てきた。
斎藤&吉田「本物の福井さんっ!?」
中西監督「なんでここに居るんだ?」
福井「実は解説でこっちに来てたんですよ。帰る前に時間あまってたし監督と昔話でもしようかと来たんですけど―――やっぱり元プロが来るってのは少し非常識ですかね」
中西監督「まあ、お前の母校だし指導とかしない限り問題ないだろう」

斎藤「あのサイン下さい!」
福井「まあ、サインくらいはいっか、君、斎藤君だろう」
斎藤「何故俺の名前を!?」
福井「そんなに驚かなくても90年代になってから赤竜高校が良く甲子園に出るからテレビで観てて自然に覚えてるんだよ」
真田「察するところ僕達のOBでプロ選手ですか?」

真田は1人分からないのか疑問をそのまま言葉にする。
福井「とまあ知らないのが普通だよな。俺はカープで25年間ピッチャーやっていた福井真一(ふくいしんいち)って言うんだ。よろしくな!」
吉田「つうか野球やってて伝説の選手で永久欠番にもなってる選手を知らないってのは問題あるんじゃ?」
真田「そんなに凄い人なのか、じゃあ僕もサインをお願いします!」
福井「いいよ。俺なんかのサインで良ければ―――けど色紙とかあるの?」

勿論都合よくそんな物があったりはしない。
斎藤「そんなこんな時に色紙がないなんて」
福井「いや、何も泣かなくてもまあ監督と話するつもりだし今から買って来たらどう?」
斎藤「うぉっ―――!!!」

そう言って走って色紙を買いに行く斎藤!
福井「クスッ! 面白い子ですね」
中西監督「……まあな」
吉田「前にファンって聞いていたが凄いな…………あれ? 真田は?」
中西監督「あいつなら斎藤の後についてったぞ。一緒に色紙を買いに行ったんだろう」
吉田「なぬっ? 俺も行って来ます!」

福井「クスッ、変わった子達ですね」
中西監督「まったくだ。昔のお前にそっくりだよ!」
福井「監督の若い頃にもでしょう」
中西監督「まあな。しかし時代も代わったな。お前はプロ野球の解説者、宗はライオンズの監督と時の流れってのは分からんもんだ」
福井「監督も隠居するには早いでしょう。息子さんは新人王目指して頑張ってるし赤竜高校が3回連続甲子園出場なんて初ですし」
中西監督「確かに赤竜高校は相良の居る今がピークなのかも知れんな」
福井「そうそう相良君はぜひカープに入れて下さいね」
中西監督「あのな」
福井「冗談ですよ。しかし彼がプロ入りしての活躍は楽しみにしてますよ!」
中西監督「まあ、あいつは地元のベイスターズのファンだが何処に指名されても入るだろうな」
福井「大学や社会人はなしですか?」
中西監督「そうだな。現在の有名な2年の誰か1人がプロ入りを蹴ったりでもしない限りないだろうな」
福井「そうですか逆指名制度ができてからは特に大学や社会人を希望する選手が多くなりそうですから心配してたんですよ」
中西監督「ふむ。お前は逆指名には反対なのか?」
福井「いえ。むしろ推奨してますね。好きな球団に入れますから―――ただ観るなら早く観たいそれだけです!」
中西監督「ふふ、全然変わらないな。お前は」
福井「いえ監督こそご健勝で何よりです」

と昔話に花を咲かせ斎藤達(つうか部員全員)にサインをし福井は帰って行った。
真田「サインも貰ったし帰るか」
中西監督「上機嫌だな―――それで練習は?」
吉田「監督達が話してる間に終わりましたよ。今日は軽めでしたね」
中西監督「全国制覇の目標は何処にいったんだ?」
相良主将「いきなりの訪問客が来ましたし今日は良いじゃないですか」
中西監督「お前も何気にサインを貰ってるし」
相良主将「こんなチャンスは滅多にないですから」
中西監督「はあ、明日は練習を倍にするからな」
全員「げっ!?」
中西監督「当然だろう」
全員「はい」

こうして斎藤達と福井の始めての出会いは終わった。

喫茶店MOON
月砂「それで私のサインは?」
斎藤「はい!」

そう言ってサインを渡す。
月砂「…………珍しいわね。絶対にそんな気が利く様な事はしないと思っていたのに」
斎藤「まあね。真田と吉田が言わなきゃ気が付かなかっただろうし結依さんにも」
結依「かたじけない」
斎藤(今度は時代劇にハマッたのかな?)
月砂「それで結局サイン貰っただけなの?」
斎藤「練習もあったし監督との想い出話をジャマする訳にもいかなかったしと結局2、3話してサインを貰って帰って行ったよ」

福井との出会いも会ったが以降は練習付けの毎日が続いて行く。そして休養日の日が来た。
真田&村雨「と言うわけで罰ゲーム、吉田君の初アルバイト体験!」
斎藤&吉田「なんで村雨が居るんだ?」
村雨「久し振りに斎藤の家に遊びに来たからだよ♪」
月砂「はいはい。それじゃ毅には注文を受けて来てもらうわよ!」
吉田「いきなりお客に注文を聞きに行くんですか?」
月砂「ええ。まずメモは必ず取る事と分からない事があったら他のバイトか私に必ず聞く事、これだけは守ってね!」
吉田「はい!」

それから数分後、真田と村雨はお客として吉田と斎藤を見守っていた。
真田「やはり吉田君は笑顔が硬いですね」
村雨「そうですね。まあ初めてなので仕方ないかも知れません」

斎藤「いいな。暇そうで」
月砂「ハジメ! アンタは注文を取りに行く!」
斎藤「は、はいっ!?」

斎藤も吉田だけを働かせるのは気が引けてか珍しく手伝っているが慣れていないらしく何度もミスをしている。
真田「しかし斎藤君は接客業には向いてないんでしょうか? 注文を間違えたりとミスが多いですね」
村雨「彼は昔から手伝いをさせられるのが嫌で逃げ出す事が多かったですから」

樹里「クス!」

真田と村雨も何故か客寄せになってるのか客はドンドン増えている。
斎藤「頼むからそう言う事は言わないでくれ。噂になる」
月砂「噂になって収入が上がるんなら別にいいけどね」

月砂はシビアだった。それを聞いてますます客は笑う。
樹里「クスクス!」
斎藤「もう勘弁してください」

と色々あって吉田も斎藤もミスが目立ったが真田と村雨のパフォーマンス?のせいか客入りは多くいつもより収入は多かった。
月砂「お疲れ様!」
吉田「お疲れ様でした。しかしバイトがこんなに大変とは思わなかった!?」
斎藤「俺は別の意味で疲れたよ(当分、店に顔出すのはやめとこう)」
月砂「とりあえず罰ゲームだからお金は払えないけど夕食と言うには遅いけど結依さんが料理作ってるからそれ食べて泊まっていきなさい!」
村雨「おうメシか俺も食ってくぞ!」真田「僕も僕も!」

と言う訳で遅めの夕食!
結依「まだ早いが鍋にして見たぞ!」
真田「ちゃんこですか?」
結依「うむ!」
吉田「美味しいですね!」
結依「うむ。特別な材料はないが順序良くキチンとやればこれだけの味は出せる!」
斎藤「確かに―――いつもの鍋よりも美味いな」
月砂「そうね。結依さん、後で調味料の細かい分量なんかを教えて下さい!」
結依「構わんぞ!」

こうして罰ゲームなのかは分からないが吉田のアルバイトは終わった。そして数日後!
斎藤「なあ全国の高校が秋の大会目指して頑張っているのにこんな事して良いのかな?」
真田「斎藤は野球をし過ぎだよ。それじゃ休みの日の意味がないよ!」
吉田「真田の言う事にも一理あるな!」
斎藤「吉田まで?」
吉田「今日は疲労を抜く為の休みだ。練習ばかりしてたら壊れるぞ!」
斎藤「うーん。けど!」
真田「仕方ないな。それじゃバッティングセンターにでも行く?」
村雨「いいね!」
斎藤「そうそう。疑問には思っていたんだけどなんでお前がここに居る!」
村雨「えっ? 誰? 誰?(キョロキョロ!)」
斎藤「村雨剣と言う名前の人ですよ」
村雨「珍しい。実際同姓同名って居るもんですね」
斎藤「僕の親友の村雨君です」
村雨「なんだ僕の事か―――そりゃイベントがあるなら練習サボッて来ますよ!」
真田「ちょっと待って、練習あったの?」
村雨「うん!」
吉田「それってまずいんじゃないのか?」
村雨「少なくとも良くはないね。うちの監督はあまい人だし口車でどうでもできるしキャプテンもあれで理解力はあるから問題はないよ!」
斎藤「はあ、昔からお前はそうだから何も言う事はないけど」
村雨「そんな事よりとっととバッティングセンターに行こう!」

こうして呆然としている斎藤達をなかば無理矢理に連れて行くのだった。

バッティングセンター

今までのバッティングセンターと違って近代的だった為使用方法が分からず受付のお姉さんに斎藤達は聞く。
樹里「販売機でカードを勝って機械口にカードを入れたらボールが出て来ますよ!」
斎藤「なるほど、しかしここのバッティングセンターはずい分近代的ですね?」
村雨「久し振りに来てすっかり変わってるから俺も驚いたよ。スクリーンもあるし?」
樹里「そうですか、ここは佐藤コンツェルンが力を入れてますから」
斎藤「佐藤コンツェルンってあの大企業のですか?」
樹里「はい。ぼそっ(と言っても今は経営状況は悪いんですけどね)」
吉田「どうかしましたか?」
樹里「いえ。何でもないです。それより今はスピードガンコンテストと飛距離コンテストをやってますから挑戦して見てはいかがでしょうか?」
真田「足のコンテストはやっていないんですか?」
樹里「えっと残念ながらそれはないですね」
真田「それじゃ僕はどちらも結果が出そうもないな」
斎藤「別に良いじゃないか商品が出る訳じゃないだろうし」
樹里「えっと出ますよ。TOP10に入った人にはちゃんと商品が出ます!」
真田「うわっ! ますます落ち込むなあ!」
吉田「ドンマイ!」
斎藤「一応真田もやってみよう。こう言うのは参加するのが大事だしさ」
真田「そんな事言ってこの中じゃどれも斎藤が有利じゃないか1人だけ商品貰う気なんだろう?」
村雨「いや、結構やっかいだぞ。スピードガンコンテストの1位を見てみろよ!」
斎藤&真田&吉田「?」

スピードガンコンテスト 1位 150キロ 竜崎 武蔵
斎藤&真田&吉田「なんだって!?」
吉田「タイガースの竜崎さんなのか?」
村雨「同姓同名で150キロはないと思うが」
斎藤「確かに―――これってプロ野球選手の竜崎選手ですか?」
樹里「はい。母校の後輩の前で良いところ見せようと投げてましたから良く覚えています!」
真田「150キロって凄いと思ってたけどプロの人だったのか?」
樹里「それでやりますか?」
村雨「勿論やります! なっ?」
斎藤&真田&吉田「うん」

ズバ―――ン!
樹里「136キロを計測と凄いですね。7位にランクインしました!」
斎藤「なんとか入ったか」

ランク 球速 名前 年度 年齢
1位 150キロ 竜崎 武蔵 1994年 24歳
2位 147キロ 佐藤 宗崇 1994年 15歳
3位 146キロ 八坂 健太 1994年 17歳
4位 143キロ 嘉神 高政 1994年 16歳
5位 141キロ 佐伯 真敏 1994年 15歳
6位 139キロ 高須 光圀 1994年 16歳
7位 136キロ 斎藤 一 1994年 15歳
8位 133キロ 村雨 剣 1994年 15歳
9位 128キロ 早瀬 拓郎 1994年 18歳
10位 125キロ 工藤 和真 1994年 13歳

樹里「以上がスピードガンコンテストTOP10です!」
真田「知ってる名前が多いね」
吉田「ああ―――やっぱり八坂さんは凄いな。キャッチャーで146キロか!」
斎藤「―――あの2位の佐藤宗崇って人は?」
村雨「聞いた事のない名前だね。147キロってところから素人じゃないっぽいけど」
樹里「私の弟です!」
斎藤&真田&吉田&村雨「弟?」
樹里「はい。オープン日に目立つ様に投げてもらったんです。竜崎さんが来るまでは1位だったんですけど」
斎藤「15歳って事は高校1年ですか?」
樹里「はい。今は海外留学していますから名前は知られていません」
斎藤「海外と言うとアメリカですか?」
樹里「ええ。父の要望で帝王学を教えているんですが―――弟は昔からメジャー挑戦の夢があって―――と知らない人に話す事ではありませんね」
斎藤「メジャーか」
村雨「そう言えばバファローズの白銀選手が来年にメジャー挑戦するって話があったけど」
吉田「ゴシップネタだろうと最初は言われたけど何か本当らしいな」
真田「メジャーって本場の野球だよね」
吉田「ああ。もし白銀さんがメジャーのマウンドに立ったら何十年振りに日本人メジャーリーガー2号になるって話だ」
真田「白銀さんって1号じゃないんだ?」
吉田「まだメジャー行きが決まった訳じゃないが―――確か1号が居たって話だ?」
斎藤「確か稲葉雷さ(  いなばいかずち  )んだったな。雑誌で読んだ事があるんだけどメジャー初マウンドで肩を壊して引退したって話だよ」
村雨「へえ。そんな人が居たのか」
吉田「しかし日本を越えていきなりアメリカか―――無謀かどうかは置いといて凄い奴としか言えないな!」
斎藤「だな」
樹里「父も私も無謀な事はやめてって言ったんだけどね。あの子、頑固なところがあるから―――それに才能も飛び抜けてるらしいから」
斎藤「えっと俺にも姉貴が居るんですけど―――もし俺が何かに挑戦するとしたらやっぱり応援して欲しいと思います。だからお姉さんもできれば弟さんを応援してやって下さい」
樹里「―――ありがとう。ハジメ君!」
斎藤「―――いえ生意気な事言ってすみません!」
樹里「ううん。そうよね。姉の私が一番あの子を応援してあげなきゃいけないよね!」
真田「月砂さんといい結依さんといい斎藤って年上キラー?」
吉田「真面目な話のジャマをしてやるなよ!」
村雨「いや、斎藤は昔から良い子で終わって告白される様な事はなかったぞ!」
吉田「お前もかよ!」
真田「良い友達じゃなく良い子か―――年上受けが良い事に変わりはないって事?」
村雨「ああ!」
斎藤「お前らな」
樹里「クスッ! 面白い子達ね。そうそう。私の名前は佐藤樹里( さとうじゅり )って言うのMOONには良く顔を出すからよろしくね!」
斎藤「―――ひょっとして最初から?」
樹里「うん。月砂とはこっちへ来てからの親友だからハジメ君の事は月砂に聞いてるよ!」
斎藤「姉貴の親友!?」
真田「うわっ! 自分のお姉さんの親友に手を出すとは斎藤君も凄いですね」
村雨「いやあ、まったく怖いもの知らずとは彼の事を言うんですね」
吉田「………………」
斎藤「てめえら―――!!!」
真田「ではまた来週お元気で!」村雨「お元気で!」

ピュ―――ン!

即座に逃げ出す真田と村雨!
斎藤「訳の分からない事言ってんじゃねえ!!!」

斎藤もそれを追って行く!
吉田「やれやれ、それじゃ俺も行きますから!」
樹里「うん。月砂によろしく!」
吉田「はい!」

喫茶店MOON
月砂「そう。樹里に会ったの」
斎藤「まさか姉貴の親友に会うとは夢にも思わなかったよ!?」
結依「うむ。世間は広く狭いもんじゃ!」
斎藤「何か結依さんが言うと説得力がありますね?」
結依「長く生きとるからな!」
月砂「樹里は良くMOONに来るけど、店の手伝いをしないアンタとは絶対無縁だと思っていたけど、アルバイト先で会うとはね」
斎藤「何気に責められてる様な」
月砂「本当の事を言ってるだけで別に責めてないわよ。アンタは野球と学業に集中しなさい!」
斎藤「うん」
結依「麗しい姉弟愛なのじゃ!」
斎藤「違う!」月砂「違います!」

こうしていつもの日常が過ぎて行く。

赤竜高校野球部

今日は中西監督が斎藤を呼んで部室でこっそりと話している。
中西監督「斎藤、悪いが秋は打者として活躍してもらう!」
斎藤「なん」全員「何だって―――!?」

斎藤が言う前にこっそりと覗いていた部員が驚く!?
中西監督「何やってるんだお前ら?」
全員「すみません。気になってつい」

赤竜のエースはもはや1年の斎藤と決まっている。野球では特に投手力が重要になる事が多い。それで1人呼ばれている斎藤の事をみんな気にしていた。
中西監督「やれやれ、後輩想いと誉めるべきか、覗いた事を怒るべきか、どっちにするか?」
斎藤「それで何で俺が打者なんですか?」

落ち着いたか斎藤が疑問に思ってる事を聞く。
中西監督「夏には七瀬が居たからまだ良かったが現状ではどうしてもお前に負担がかかってしまう。2番手の山中に試合経験を積ませたいってのが正直なところなんだが」
山中「監督、正直俺の力じゃ全国はおろか県内でも通用しません!」
中西監督「吉田、山中についてどう思う?」
吉田「そうですね。夏に比べて球速も変化球も上がってます。実戦経験を何度か積ませれば県内でも通用する投手になると思います!」
山中「なっ?」
中西監督「と言う事だ。もちろん斎藤をずっと投げさせないと言う訳じゃない。危ない試合になれば登板させる事もある。山中の力をつける為に打者に集中して頑張って欲しい!」
斎藤「分かりました。そう言う事なら打者に専念します!」
中西監督「そうか、良く決断してくれた。と言う訳で秋は山中に頑張ってもらう!」
山中「試合に出れるなら喜んで!」
中西監督「よし! 相良!」
相良主将「はい。今のうちは3回連続甲子園出場と言う昔の先輩達を上回る実力をつけている。だが全国制覇は監督が学生の頃からできてはいない。今度こそ俺達の力で赤竜高校を日本一に導こう!」
全員「おう!」

吉田「大丈夫か?」
斎藤「ああ。マウンドに立てないのは残念だけど、キャプテンが言った様に日本一になる為には山中先輩の力が必要だからな!」
真田「偉いよ斎藤、僕は感動した!」
斎藤「そうか」
真田「しかし僕としては活躍していない自分がレギュラーになれるか心配だよ」
吉田「大丈夫だろう。うちはお世辞にも層が厚いとは言えないし―――ぼそっ(多分)」
真田「そうだと良いんだけど、はあ、吉田は良いよね。キャッチャーだから間違いなくスタメンだろうし甲子園でも活躍したし」
斎藤「でも、お前も守備は夏よりうまくなったし監督も評価してると思うぜ!」
真田「バッティングの方がね。良い投手が多いチームなら練習に事欠かないんだろうけど」
吉田「特訓するか!」
真田「特訓?」
吉田「ああ。秋は斎藤も外野?(多分)らしいし俺も元は外野だし打撃も守備も特訓するには最適な人材だろう!」
真田「ううっ! 僕はますます感動したよ。ついに僕もひのき舞台に立つ事ができるんだね!」
斎藤「珍しくネガティブだと思っていたけどポジティブに変わって来たな」
吉田「ああ」
真田「さあ師匠1号2号、何をするんだい?」
斎藤「思ったんだけど打撃ならキャプテンに聞くのが一番じゃないかな?」
吉田「そういやそうだな」
真田「いや、それならもう教わったけど―――全然ダメだった!」
斎藤「威張って言うなよ!」
吉田「まあ、普通に考えれば泣いてる時点で教わってダメだったと考えた方が自然だよな。気が付かなかったけど」
真田「斎藤師匠! どうか打撃の秘訣を教えて下さい!」
斎藤「秘訣と言われてもな。俺は来た球を打ってるだけだし」
真田「何故それで4割も打てるんですか!?」
斎藤「うーん?やっぱりセンスかな!」
真田「(ガーン!?)そうですか才能のない奴はお呼びじゃないと!?」
吉田「おい。また落ち込んじまったぞ」
斎藤「悪い。真田はやっぱり足が速いんだしセーフティバントを狙うかボールをもっと見て選球眼を鍛えるかで良いんじゃないか?」
真田「バントには自信があるんだけどね。ただ速い球には慣れてないんだよ」
吉田「あっ! 良い方法思いついたぞ!」
真田「本当?」
吉田「ああ。バッティングセンターだよ!」
斎藤「こないだの?」
吉田「あそこに145キロのマシンがあった!」
真田(ピュ―――ン!)
吉田「早速行こうって速っ!?」

吉田が言う前に真田が走って行った。とりあえず真田の後を追う前に中西監督に報告する。
中西監督「なるほど、良いアイデアだな。全額は出せんが多少なら後で部費で立て替えてやる。お前らもそこで練習して来い!」
吉田「多少ですか?」
中西監督「余裕がそんなにある訳じゃないからな」
斎藤「3回連続で甲子園に出てるんだしバッティングマシンくらいあっても良いと思うんですけど?」
中西監督「前から希望してるんだけどな。他の要望も多くてな。しかし学校側も甲子園出場で学生数が増えて来たせいか前向きに考えてくれるだろうし問題ないだろう!」
吉田「いやに現実的ですね」
中西監督「まあな。俺も頭の方は良くなかったから偉そうには言えんがやっぱり学生の本分は勉強だからな。学校に強くは言えんよ!」
斎藤「それじゃ行って来ます!」
吉田「みんながここで練習してるのに俺達だけバッティングセンターで特別扱いって感じで気が引けるなあ」
中西監督「ほとんど、自費で払ってもらうから問題はないさ!」
吉田「現実的で凄く悲しいです」
斎藤「まあ、こればっかりは仕方ないさ」

バッティングセンター
樹里「あっ! 久し振り!」
斎藤「はい(赤面)」
吉田「真田は来てませんか?」
樹里「前に来た子ならさっきからバッティングしてるけど」

ブンブンブンブンブン!
真田「ダメだ。かすりもしない!?」

斎藤「見事な空振りだな」
吉田「やっぱりいきなり145キロに挑戦していたか」

吉田が真田に声をかける。
真田「あっ! 遅かったね?」
吉田「アホ! 監督の許可を取って来たんだよ。それといきなり145キロじゃなく遅い球から順に慣れる様に打つんだよ!」
真田「おう。なるほど!」

斎藤「それじゃ俺達もするか!」
吉田「そうだなっていきなり145キロかよ!?」
斎藤「ああ!」

ブ―――ン! ガキッ! カキ―――ン!
吉田(もう芯でとらえてる。やっぱり斎藤は打者としては一級品だな。俺も負けられないな!)
樹里「みんなの一生懸命な顔は宗崇にそっくりね。私も少しは野球の事を知ってみるかな!」

こうして斎藤、真田、吉田の打撃が上がって行った。9月は福井や樹里と出会い斎藤が打者に専念と色々あっていよいよ秋の大会が始まる。