第2章 不運な終わり

−1994年 5月−
斎藤は家事に野球に学業に大忙しと言う事はなくマイペースに練習をやって行く。
月砂「うーん?」
斎藤「なあ姉貴、聞いてる?」
月砂「聞いてない」
斎藤「そうって聞いてるじゃないか!」
月砂「―――うーむ」
斎藤「―――なあ、お店そんなに悪いのか」

斎藤の家の喫茶店MOONは料理も飲み物も美味くなかなか人気のある喫茶店だ。月砂は昔から家の手伝いをしていて現在では経営の全てを任せられている。斎藤の方は昔から野球一筋で家の方はさほど手伝ってはいない為にお店の話はしにくいらしい。
月砂「順調だけど」
斎藤「…………では何を悩んでたのですか?」
月砂「今よりお店が繁盛する方法よ」
斎藤(姉貴も頑張ってるんだな。俺も負けずに頑張るか)
月砂「どうしたの?」
斎藤「行って来ます!」
月砂「へ?」

単純だが姉は家事で頑張ってるから斎藤も野球と学業で頑張ろうと思い張り切り赤竜高校へ行く。

赤竜高校野球部
中西監督「1ヶ月で少しは練習も慣れたと思うが」
大下主将「でもなさそうですよ」
全員「ひぃふう」
中西監督「全体の約半数がこれか…………先が思いやられるな(まあ、問題ないのも半数以上いるんだが)」
斎藤「ところで監督、うちは練習試合とか紅白戦とかしないんですか?」
中西監督「紅白戦は4月にやっただろう」
全員「えっ?」
中西監督「あれ? やってなかったっけ?」
全員(こくっ)

全員がいっせいに頷く!
中西監督「……じゃあ紅白戦をするか」
大下主将「じゃあクジ引きな」

ポサッ!
斎藤「なんでクジ引きがすぐに出て来るんですか?」
大下主将「ふふふ、ゲーム好きな俺はいつもクジ引きを隠してるのさ」
斎藤「このクジ引きは大きさ的に無理があると思うんですが?」
大下主将「斎藤、この世は色々と複雑なのさ」
斎藤「意味が分かりませんけどこれ以上聞くとまずい気がするんで聞くのはやめます」
相良「それじゃあ、みんなでクジ引こうか」

−紅白戦 赤竜高校グラウンド−
3年 間宮 亮太郎
後攻 先攻
紅組 白組
VS
真田 和希 1年
2年 伊沢 樹 安達 正孝 2年
3年 大下 真二 吉田 毅 1年
1年 斎藤 一 相良 京一 2年
2年 嵯峨 蓬 佐山 啓 3年
2年 野々宮 煉 松野 結 2年
3年 大杉 克 玖珂 良雄 2年
2年 津山 旬 加納 利雄 2年
3年 後藤 猛 七瀬 忍 3年

斎藤「エースで4番だ!」
嵯峨「俺が5番かよ」
間宮「いつも5番だろ」
嵯峨「1年に5番に落とされるのは複雑なんですよ」
大下主将「斎藤は投球より打撃の方が凄いからな。まあ、どうせ相良がいるから4番は誰も奪えんだろう」
間宮「だな」

相良「あっちの4番は斎藤か」
玖珂「くっくっく」
吉田「先輩、怖いんですが」
安達「嵯峨が5番を打つのが嬉しいんだろう」
吉田「ところで何故に俺がキャッチャーなんでしょう?」
七瀬「うちは外野と内野は多いんだが何故か捕手は少ないからだ。お前は捕手をやってたと言うじゃないか」
吉田「俺は外野希望なのに、みんな、キャッチャーやらせるんだから」
真田「別にいいじゃん。おかげでスタメンなんだから」
吉田「複雑だ」

中西監督(主審)「では試合を始める! 紅が後攻で白が先攻な!」
大下主将(せっかくクジを作ったのに……どうして後攻と先攻を決めるのに使わせてくれないんだ?)

1回表 斎藤がいよいよ投球開始!
真田「走るぞ!」
斎藤「いきなりこいつが相手か、とにかく足が速いからな絶対ランナーに出さん!」

ズバ―――ン!

足が速くとも打撃はさほどでもない真田はかすりもせず三振に倒れる!
真田「すんごく速いんですけど」
安達「130キロは出てるからな(1年にはきついか、甲子園ではあれ以上の選手がいたし2、3年は打てそうだな)」

斎藤(ストレート中心のリードだな)

ズバ―――ン!

続く安達もストレートのみでかすりもせず三振に倒れる!
安達「変だな当てる事も出来ないなんて?」

スト―――ン!

続く吉田はフォーク3つで三振!
吉田「妙なリードをするな?」

斎藤「3者連続3球三振だ!」
大下主将(斎藤はこれで図太い神経もしてるし夏には七瀬のエースナンバーを奪うかも知れないな)

1回裏 エースは渡さんと頑張る七瀬!
七瀬「あの1年やるなあ」
吉田「―――ところで先輩、球種とサインの確認ですが」
七瀬「ストレート、スライダー、カーブだ!」
吉田「サインは先輩からですか」
七瀬「お前に任せる。気に入らなければ遠慮なくクビを振るから気楽にやれ!」
吉田「はい!」

カキ―――ン!

あまく入ったスライダーをセンター前に打ち返すシングルヒット!
間宮(やっぱり制球も変化もいまいちだな。予選では通じても全国ではとても通じないだろう)

吉田(制球も変化もなかなか良いと思うけどな。高校じゃこのレベルで打たれるのか)
七瀬「次は伊沢か」

ガキッ!

続く伊沢はキャッチャーフライに倒れる。
伊沢「バッティングは苦手なんだよ」

カキ―――ン! タッタッタッ!
真田「よっと!」

パシッ!
大下「あれを捕るか!?」

守備範囲の広い真田が難なく捕球し2アウトとなる。
七瀬「本当に今年の1年は頼もしいな」

カキ―――ン!!!

ホッとしたか初球あまく入ったストレートを斎藤が狙い打ち!
斎藤「やった2ランホームラン!」

七瀬「本当に今年の1年は頼もしいぜ」
吉田「俺よりバッティングが良いな。あいつ、マジで夏からレギュラー取りそうだ!?」

ククッ!

続く嵯峨は力み過ぎて三振に倒れる。
嵯峨「ちっ!」
玖珂「『ちっ』じゃないだろう。1年の斎藤に抵抗してどうするんだよ!」
嵯峨「俺は4番の意地で」
玖珂「お前は4番じゃないし結果は三振だし」
嵯峨「分かった。真面目にやるよ」
玖珂「まったく敵チームの俺に言わせるなよ」

吉田「凄え大振りでしたね」
七瀬「いつもはもっとちゃんとしたバッティングだよ。斎藤に4番取られてムキになってるんだろう(俺も人の事は言えないけどな)」
吉田(確かに俺も自信はあったんだけど今は斎藤に敵わないな)

2回表 紅2−0白 斎藤VS赤竜の主砲!
斎藤(キャプテン達には悪いけど、やっぱりこのチームの大将はこの相良さんだろうな。この人を抑えれれば俺のボールは高校でも通じるはずだ!)

ズバ―――ン!

まずは初球を空振り1ストライク!
相良(当たったと思ったのに当たってないって事はかなりノビてるな。確かに速く感じるが)

カキ―――ン!
斎藤「なっ!?」

2球目カーブを打たれるソロホームラン!
相良(カーブも変化が大きいしキレのある球だがスタンドに運べないほどでもない。まあ並みの選手には十二分に通じるから問題はないな)

大下主将(相良の奴、またレベルを上げたな)
斎藤「やっぱり凄いですね。相良さんは」
大下主将「2年ながらプロのスカウトも注目しているからな。ああ言う怪物がプロに行けるんだろうな。と言うよりあいつの世代は他にも怪物がゴロゴロしてるからな」
斎藤「なんつうかやっぱり上には上がいるんですね」
大下主将「そう言う事だ。お前もこれからだ。相良に負けないよう頑張れ」
斎藤「はい!」
大下主将(単純、だけどこう言う奴が案外凄くなったりしてな)

ズバ―――ン!

続く佐山は三振に倒れる。
佐山「おかしいな。打てないほどでもないんだけど?」

スト―――ン!

続く松野も三振!
大下主将「と言うかあの程度のフォークを三振ってのは恥ずかしいぞ」
松野「すみません」

ガキッ!

続く玖珂は打ち上げチェンジ!
斎藤「相良さんに一発くらったけど後続は何とか抑えれたな」

大下主将「あそこまで外れたボール球は振らないようにしろよ」
玖珂「ヒットが打てると思えたもんでしかし良い投手ですね。あいつ」
大下主将「ああ、七瀬の後釜と期待していたんだが夏からエースナンバー奪うかもな」

2回裏 紅2−1白
七瀬「くらえ!」

ガキッ!

スライダーを打ち上げ1アウト!
野々宮「微妙に芯を外してるな」

ククッ!

続く大杉は空振り三振!
大杉「かすりもしないとは」

ガキッ!

続く津山は打ち上げチェンジ!
津山「駄目ですか」

吉田「何かレベルの違いが出てますね」
七瀬「まあな。うちは確かに甲子園に出場できたが全国レベルには程遠いその1つが主力と控えのレベルの差が激しく違うって事だな。俺も去年からエースをやっているんだが正直甲子園どころか予選でも抑えられる自信はない」
吉田「神奈川には斉天大附属高校(せいてんだいふぞくこうこう)がありますからね」
七瀬「ああ。斉天とは決勝で会いたい物だ」

赤竜高校は神奈川県に所属している。ここは激戦区と言われていて優勝校と他1校が甲子園に出場できるのだが中学の有名選手は大半、斉天大附属高校に入ってる為に斉天はその名を全国に知られているが他の高校はそうでもなかったりする。ちなみに斉天以外の高校は年々レベルも落ちてると言う事で再び1校のみになりそうと言われている。

3回表 紅2−1白

ズバ―――ン!
加納「あれ?」

先頭の加納を仕留め今日これで6個目の三振を奪う!
斎藤「絶好調パワーを見せてやる!」
七瀬「とおっ!」

ブ―――ン!

続く七瀬も力み過ぎの三振!
大下主将「つうか何だよあのスイングは?」
七瀬「まぐれ当たりでも期待しないと打てそうもない気がしたんでな―――あれストレートだよな?」
大下主将「それは間違いないな。手元でかなりノビてるからみんな振り遅れて三振してる!」
七瀬「後ろで観てると何で打てないかって思うんだよな?」
大下主将「相良でも1打席であのストレートを打つのは無理だろうな!」
七瀬「それじゃなんでカーブを投げさせたんだよ?」
大下主将「あの変化でコースをついたんだぜまさかスタンドにまで運ばれるなんて!?」
七瀬「相良の怪物振りは知ってるだろうが」
大下主将「はい。過小評価してた事を今自覚しました」
中西監督(主審)「どうでもいいがさっきから後輩達が待っているぞ」

さすがに長話の間に待たされている後輩達が不憫か中西監督が試合の進行を急がせる。
斎藤&真田「……………………」
大下主将&七瀬「あっ!すまん」

再び試合を再開!
斎藤「それでは気を取り直していくぞ!」

ガキッ!

2ストライク取られてからスリーバントするが失敗し3アウトチェンジ!
真田「意表をついたつもりだったんだけどな」
大下主将「足を生かすと言う意味では良かったがノビのある球は打ち上げやすいからな。お前の場合はバントよりゴロ打ちを練習した方が良いんじゃないか」
真田(キャプテンの言うとおりゴロ打ちの練習も追加するか)

3回裏 紅2−1白

ボコッ!
後藤「うっぎゃ―――!?」
中西監督(主審)「デッドボール!」

ここで七瀬のコントロールが乱れ先頭の後藤にぶつけてしまう!
七瀬「すまん」
後藤「天地が引っくり返ったよ」
間宮「後藤、お前の犠牲は無駄にしない」
後藤「そのセリフは洒落になっていないのでやめて下さい」

カキ―――ン! ボコッ!
後藤「!?」

全員(―――サアッ)

デッドボールでうずくまった後藤に間宮の打球が直撃して全員の血の気が引けた。
中西監督(主審)「後藤! 生きてるか!! 生きてるのか!!!」
後藤「生きてます(腹に直撃食らったけど)」
間宮「すまん。あの言葉はそういうつもりで言った訳じゃないんだが」
後藤「分かってるよ。しかし監督、さすがに硬球を二発も食らっては無理っぽいです」
中西監督(主審)「そうだな。後藤は保健室へ運ぶか、それと今日はここでコールドで終わろう」
後藤「いえいえ。俺はともかくみんなは」
中西監督(主審)「いや、さすがにこう不幸が続くとな」
全員(コクッコクッ!!)
七瀬「すみません。俺があんなボールを投げたせいで」
間宮「いや、俺があんな方向に打ったせいだよ」
中西監督(主審)「それを言うなら俺が紅白戦の事を忘れてた」
斎藤「とりあえず後藤さんを保健室へ運びましょう」
大下主将「そうだな。それじゃあ俺が運んで行くよ」
後藤「すまん」
大下主将「気にするなって」

こうして紅白戦は途中にて終わった。しかし斎藤は相良に一発を食らう物の7奪三振と1年生離れした実力を見せる!

喫茶店MOON
月砂「それでその人は大丈夫だったの?」

なんとなく食事中は姉の月砂に学校であった事を話す事になっている。これは月砂が昔から斎藤の保護者代わりのような生活をしていたからだろう。
斎藤「うん。お腹に打球受けたんだけど全然問題ないって後藤先輩も明後日からは復帰する予定だってさ」
月砂「あんたもケガには気を付けるのよ」
斎藤「大丈夫だよ。昔からケガには縁がないから」
月砂「ならいいけど」
斎藤「………………」
月砂「それで甲子園出れそうなの?」
斎藤「それは分からないよ。近隣の高校のレベルがまだ分からないし甲子園なんてそう簡単に行ける物じゃないだろうし」
月砂「それと斉天高校だっけ?」
斎藤「うん。この県内じゃ実質的に君臨しているTOPで甲子園でも何度も優勝してる。春の甲子園じゃ準優勝だったけど」
月砂「全国で2番目に強い高校を倒さなきゃ出られないのか、そりゃあ大変よね」
斎藤「まあね。でも組み合わせしだいじゃあ倒さなくても出られるけどね」
月砂「そっか! うちの県じゃ決勝まで出場すれば出られるのか!」
斎藤「そういう事、まあ、こういう考え方は嫌いなんだけどね」
月砂「あんたも私と同じで負けず嫌いだからね」
斎藤「それじゃあご馳走様」

とりあえず紅白戦は終わった。先輩達の顔も覚えてきて斎藤も高校野球に慣れて来た。