第31章 一縷の望みに賭けて(中編)

試合は5回表、大下の3ランで一気にベイスターズが3点リードする。中西監督もここが限界と見たか柚に降板を指示するが
柚「まだ投げる!」
中西監督「ダメだ! スタミナが落ちてただでさえ球威の軽いボールが更に軽くなってるんだぞ!」
柚「……この試合にコールドはないからずっと投げ続けて逆転を待つ!」
中西監督「そう言う問題じゃなく下手すれば投手生命がここで終わりになるぞ!」
柚「ここで勝てなければ私に次はない。だから投げ続ける!」
斎藤主将「監督、柚の好きにさせてくれませんか」
中西監督「なっ!? 斎藤、お前まで」
斎藤主将「柚の言う通りここで負けたら柚に次はないんですよ!」
中西監督「違う。次はある。大学でも社会人でもプロでも壊れなければ次はあるんだ。俺は身を持ってそれを知っている!」
全員「……監督」
柚「私は構わない。負けるくらいなら諦めるくらいならここで全てを出し切る!」
斎藤主将「多分、同じですよ。監督と」
中西監督「………………」

中村「もうその辺にしとけ。投げ込むのも良いがやり過ぎると肩を壊すぞ?」

中西監督の時代ではピッチャーは500球とボールを投げ込んで肩を作るのが当然の時代だった。練習も科学的とは言えず精神論に基いた練習がほとんどだ。だから中西監督も当時は毎日500球と投げ込み3年になったばかりの頃に肩が壊れた。昔の時代にはアマでもプロでもこんなふうにケガに泣いた選手は多かったらしい。
中西「壊れたらそれまでの肩だったって事だ。こんな練習で壊れるようじゃ日本一の栄冠は手に入らん!」
中村「ったく」

中村も言いたい事はあったが長い付き合いのせいか何を言ってもムダだとは分かってるので何も言わなかった。しかし彼はこの時の選択を終生悔いる事になった。
中西「嘘だろう。くそっ、この痛みは!?」

この日に中西の投手生命は終わった。少なくとも以前の様な剛速球は終生投げれる事はないと医者に告げられた。
中西「所詮、俺はここまでが限界なのか?」
結依「ふっ!」
中西「うぐっ!?」

背後からの結依の不意打ちで地面に投げ付けられて引き摺られる。
中西「痛い痛い引き摺るなよ!?」
結依「冷たいではないか、人が待ってるのに全然店に来ないとは?」
中西「だからっていきなり背後から不意打ちはないでしょう。ったく結依さんは」
結依「少しは元気が出たか?」
中西「へ? ああ、そうか結依さんも聞いたんですね」
結依「と言うかこの近くの連中は全員知っとるぞ」
中西「えっ!?」
結依「赤竜高校が誇る大投手、この辺じゃ将来のプロ野球を背負う男とまで言われておるからな。お前のケガの事はみんな知っとるよ」
中西「すみません」
結依「何を謝る必要がある。お前だってケガしたくてケガした訳じゃあるまい」
中西「そりゃそうですけど」
結依「それでお前は何をしとるんじゃ?」
中西「………………」
結依「仮にも主将のお前が練習に出なくてどうするんじゃ!」
中西「あっ、そうだ。俺は主将だ。俺が練習に行かないでどうするんだ!」
結依「あいつらはお前を信じて練習しとるんじゃぞ。ま、お世辞にも良い顔をしてるとは言えないがの」
中西「くそっ!(タッ!)あいつらが必死で夏を目指してるのに俺はこんなところで何をやってたんだ!」
結依「うむ。それでこそ男の子じゃ!(しかし単純じゃな。ま、そう言う奴が好きなんじゃが)」

中西監督(何度あの頃に戻ったとしても俺は同じ選択をするだろうな。壊れたらそれまでの肩だったか―――呆れる事に壊れた今でもそう思うんだよな。しかし赤竜高校のピッチャーってのは何でこう言うタイプばっかり集まるのかね?それにしてもあの妖怪には昔から世話になってんだよな)
全員「監督?」
中西監督「っと、はあ、選手がそこまで覚悟を決めたんだ。俺も覚悟を決める!」
吉田「続投ですか!?」
中西監督「腹は決めた。こうなったらこの試合は柚と心中だ!」
柚(コクッ!)

5回表 赤2−5横 柚が降板を拒み続投する
霞「長いタイムも終わり試合はまだ5回表、1アウトランナーなしでバッターは服部!」
武藤「まさかこのまま続投させるんでしょうか?」
水原「そうかも知れませんね」
武藤「スタミナ的に限界だと思うんだけどな?」
霞「風祭さんはここで負けたらもう公式戦には出れませんからね。意地でも降板はできないんでしょう」
武藤「そうか、大体無茶なんだよ。プロ相手に勝てなんて」
水原「赤竜高校もそう言う条件で受けましたしね。とりあえずここまで来たら最後まで彼女の投球を観ましょうか!」

柚(シュッ!)
服部(コールドはないが、とにかく点を取れる時に取らないと)

カキ―――ン!
霞「服部選手はライト前に打って1塁へ!」
武藤「やっぱり厳しいな」
水原「まあね。そして次は2打席連続本塁打と打っているジャクソンか」

ジャクソン「ここで終わらせる!」

カキ―――ン!
篠原「ちっ!」

霞「ライトフェンス直撃の打球! 篠原君の判断が良かったかランナーは3塁でストップ! しかしまたしてもランナー2、3塁のピンチです!」
武藤「敬遠するのも手ですけど、なさそうですね」
水原「プロ相手じゃランナーためる方が危険だと判断したんでしょう。まあ英断かも知れませんね」

柚(シュッ!)

ズバ―――ン!
小山「何っ!?」

霞「追い込んだ後は130キロのストレートで空振り三振!」
武藤「嘘だろう。バテバテの癖に何であんなボールを!?」
水原「さあ、火事場の馬鹿力とかそう言うのかな。ただ疲労の極限に達した時に人間は一番疲れない動作をするって言うからね。疲労の限界を超えてピッチャーとしては最高のフォームで投げれる様になったのかもね?」
武藤「すみません。何か投げやりに言ってませんか?」
水原「いや、俺にも良く分からんからそうなんじゃないかなーと解説として言って見てんだよ」
霞「ようするに自分でも半信半疑だからどう言うふうに言えば分からないんですね」
水原「そう言う事です」

柚(シュッ!)

ガキッ!
望月「変化が小さくなって逆に打ちにくい」

霞「望月選手はエアナックルを打ち損じてセカンドゴロで3アウトチェンジ!」
武藤「意外に抑えられるもんですね。ここで一気に失点すると思ったのに?」
水原「ああ、それに関しては同感だ。3点差か、まだ分からんかな?」

全員「何とか3点差か」
中西監督「ギリギリ望みはあるな」
斎藤主将「ええ、これからも失点するでしょうから本当に小さな可能性ですけど」
中西監督「この裏で4点か―――きついが頼めるか!」
真田「柚ちゃん、僕、相川君が出て吉田がホームラン打つのが理想だね」
吉田「ホームランはきついがここまで来たら俺も覚悟を決める。どんなピッチャーが来ても打ってやる!」
真田「そう言えばピッチャーは誰だろう?」
相川「あっ、出て来ました。木崎さんの様ですね。球速は140キロ後半、変化球、特にスライダーは定評があります」
中西監督「さっきの高岡に比べて穴の少ないタイプだが今年の防御率は高岡より悪い」
真田「とにかく誰が相手でも打たなきゃダメだね。次は柚ちゃんからか」

5回裏 赤2−5横 限界だったが何とか向こうが打ち損じて3失点に抑える
霞「試合は5回裏、赤竜高校、代打は出さず表情からは分かりませんがバテバテの風祭さんが打席に行きます!」
武藤「やっぱり代打はないのか?」
水原「その様ですね」

木崎(見たところミートは上手そうだな。コースを付いて凡退させるか)

ガキッ!
柚(さすがはプロ、これをヒットにするのはきつい)
河村(凡退したとは言え木崎のスライダーを1打席で当てやがった!?)

霞「期待の風祭さんでしたがスライダーを打たされピッチャーゴロ!」
武藤&水原「……………………」
霞「どうかしましたか?」
武藤「いえ木崎のスライダーは竜崎ほどではないにしろ一級品、それを1打席で当てる事にちょっと驚いて」
水原「そうですね。少なくとも当てる技術は大したもんですよ。小技が上手ければバッターとしてプロでも通用するかも知れませんね」

木崎(なるほど、センスは大した物だ。まあ、あの手のバッターとは相性が良いし俺は問題ないが)
河村(さすがは木崎、落ち着いてるな。おっしこの勝負はもらった!)
木崎(次のガキは抑える!)
河村(投手陣を貶されたのを怒ってるのね。まあ原因の1つは俺でもあるんだけど)

ガキッ!
真田「147キロってMAXですか!?」

霞「147キロのストレートを何とか当てますが結果はピッチャーフライ!」
武藤「高岡で速さに慣れたのか珍しく速球に当てましたね」
水原「うーん、しかしバッティングセンスは平凡ですね。せっかくの足も出塁できなきゃ意味がないですよ」

真田「終わった!?」
相川「は?」
真田「3打数ノーヒット、プロのスカウトや監督の評価が一気に下がった気がする」
相川「まだ1打席は回って来ますから頑張りましょう」
真田「うむ。落ち込んでる暇があったら次の打席にどう打とうか考えよう」
相川「ええ(この緊迫感の中でもいつも通りとはさすがは師匠だな)」

ガキッ!
霞「今日ヒットを打っている相川君でしたがスライダーを打ち上げ3アウトチェンジ!」
武藤「今日の木崎は良いですね」
水原「ええ、シーズンでも最高潮くらいに良いですね。残り4回じゃなく3回かで3点、いや勝つ為には4点か、厳しいですね」
霞「そして9回にはセーブ王の樋川選手、確かに絶望的ですね」
武藤「テレビの前のみんなは諦めてチャンネルを変えてるのかな?」
水原「かも知れませんね。とにかく赤竜高校としては残り4回の攻撃で最低でも同点にしときたいですね」

木崎「残り3回か」
河村「次の回からは今日2得点の斎藤に回るな」
木崎「ええ、あれはプロクラスのバッターです。少なくともセンスだけは抜群ですね」
河村「ああ、注意するぞ」

相川「やっぱりプロの主力ピッチャーからはそうそう打てませんね」
福西「だよね。スライダーと言うと筒井さんや天野さんを思い出すけど、あの2人よりキレも変化も上っぽいし」
真田「監督、何か良い打ち方ありませんか?」
中西監督「ないな!」
全員「そんなあっさり!?」
中西監督「プロの決め球だ。普通に考えてもアマに打てるボールじゃない」
全員「そりゃそうですけど」
中西監督「打つとしたらスライダーを捨てて別の球を狙うか、スライダーを狙うなら予想以上に変化すると思って強振で狙うかだな」
吉田「ようするにマグレ当たりを期待ですか?」
中西監督「何度も言う様にあっちはプロ、打てなくて当然なんだ。こうなったら打てると思って思いっ切り振れ!」
相川「四死球も期待できないしコースも抜群なところに決めて来ますからね。確かにそれしかないかも」
真田「やっぱり相川君でもヒット打つのは難しいの?」
相川「ええ、あの変化でコース付いて来ますからね。当てるのがやっとですよ!」
中西監督「相川ほどのバッターでも当てる事がやっとだからな。やはり一発を狙うか打てそうな斎藤の前にランナーをためるかだな」
山口「その出塁が難しいんですよね」
中西監督「左バッターならインコースのスライダーに当たりに行けばデッドボールになるが」
相川「そう思ってインコースを狙うと、アウトコースに投げて来るんですよね」
中西監督「さすがは河村か、リード力だけは衰えるどころか年々上がってるな」
相川「ベテランの方が洞察力が優れてますからね」
中西監督「そうだな」

6回表 赤2−5横 代わった木崎が三者凡退と赤竜高校にプレッシャーを与える
柚(シュッ!)

カキ―――ン!
深町「さてと」

霞「右中間を抜けた。打った深町選手は3塁へ!」
武藤「ブブッ―――!? 初球打ちかい!?」
水原「ノーアウト3塁か―――しかしコントロールは落ちてないのは凄いな」
霞「そうですね。球威や変化や速度は落ちましたがコントロールだけは不思議と何とかなってますね?」
武藤「ボールが少ないから一応試合にはなってるんですよね」

河村(代打はなしか―――このまま逃げ勝てって事か)
柚(シュッ!)

ガキッ!
河村「今度は上に叩いちまった!?」

霞「これはセカンドゴロ! ホームではなくファーストに投げて1アウト! サードランナーの深町選手は帰塁し3塁残塁!」
武藤「ホームには返れなかったか」
水原「しかしピンチには変わりないです。次は木崎のまま代打はなしですね」
武藤「下位打線で助かってるな。木崎もバッティング練習はあんまりやってないだろうし打つのは難しいかな?」

柚(シュッ!)

ガキッ!
木崎「ダメか」

霞「打ち上げた。ピッチャーフライでランナーはやはり3塁のままです!」
武藤「結果論だけど、スクイズした方がマシだったな」
水原「まあ河村も木崎もどちらかと言えば器用ではないからな。次は及川だし問題ないだろう」

及川「お兄さんがプロの厳しさを教えてやらんとな」
吉田「いえ、十分過ぎるほど分かったので加減してくれるとありがたいんですが」
及川「わっははは、お兄さんにささやき戦術は通用せんぞ!」
吉田(うわーこの人誰かさんにそっくりだ)

柚(シュッ!)
及川「TheEnd!」

カキ―――ン!
真田「とりゃ!」

パシッ!
及川「…………嘘!?」

霞「得意の盗塁はまだ見せられないが守備で快足を見せた真田君、センター前の当たりをアウトにします! とにかく赤竜高校、この回は無失点で抑えました!」
武藤&水原「まあ、運はまだ残っているようですね」
霞「解説のお二人さんは信じられない顔をしていますが、結果としては無失点です!」

全員「何とかなるもんだな」
中西監督「と言っても後3回もあるんだ。まあ1回で逆転できれば話は別だが」
吉田「頑張ります!」
真田「いや、それにしても僕の守備はさすがだよね。タイムリーの当たりをアウトにするんだから」
斎藤主将「はいはい。凄い凄い」
木下「それより俺の出番ってないんですか? せっかくプロ野球選手と対戦できるのに?」
中西監督「逆転すれば柚の打席で代打か守備で代えるつもりなんだけどな」
篠原「流れ的に難しいな。出すとしたら逆転するしかないな」
木下「たった3点じゃなかった4点くらい返してくれ!」
全員「たったって結構と言うか、かなりきついぞ」
木下「ですよね」
斎藤主将「それより柚は休める時に休め」
柚(コクッ!)

相川「表情からは読めませんが返事で返せないくらい辛そうですね」
真田「ま、普段からは寡黙な娘だけどね。僕が捕った時には珍しく本当に嬉しそうな顔をしてたからね。やっぱり辛いんだろうね」
吉田「しかしこのままじゃ本当に壊れかねないし早く逆転してやらないと!」
真田「ま、焦らない焦らない。こんな時こそ慎重にね」
吉田「そうだな」
真田「あれツッコミなし?」
吉田「次は俺からの打席だ。何とか出塁を狙う!」
真田「チームとしてはやる気が出ているのは嬉しいんだけどツッコミのない吉田なんて吉田じゃない!」
相川「自分で自分にツッコムほど残念なんですね」

斎藤主将「呆れるほど、あいつらはいつも通りだな?」
篠原「こう言う時こそ平常心です。良い傾向です!」
斎藤主将「あれ平常心って言って良いのかな?」

及川「あのセンター凄い足してるな。俺の高校時代より上かも」
山崎監督「足は全国でもTOPクラスで1年から1番を打ってるらしいからな。守備に定評があるとは聞かなかったが良いプレーを見せるな」
深町「タイプ的には及川さんに似てますね。まあバッティングはそれほどでもなさそうですが」
山崎監督「そうだな。もう少しミートが上手くなれば上位のドラフトにかかるかも知れないな」
服部「うちは外野手が多いから指名されないでしょうかね」
山崎監督「さあな。だが今年は赤竜高校の相良を1位指名するつもりだから来年はピッチャーかキャッチャーを指名するんじゃないか?」
大下「何とてっきり真島を指名と思ってたのに?」
山崎監督「真島は2位指名を考えている。残っていればの話だがな」
大下「ふっふっふ、来年には相良が来るのか、俺が面倒見てやろう」
深町「そんな事言ってる場合か?」
大下「え?」
深町「及川さんはともかく相良が来たら俺とお前と相良のレギュラー争いが熾烈だぞ!」
大下「それなら大丈夫、俺はキャッチャーでも……真島が来るんでしたっけ?」
山崎監督「引ければな」
大下「終わった。外野の守備でもバッティングでも俺は相良にも深町さんにも劣る。それに真島とはリードレベルが違い過ぎる」
山崎監督「まあ、外野は左から深町、及川、相良にするつもりだけどな」
大下「こうなったらサード辺りを狙ってコンバートして見るか」
山崎監督「まあ、相良が話通り即戦力だったらの話だがな」
大下「あいつは即戦力です。その凄さは嫌ってほど知ってます!」
深町「しかし嘉神じゃなく相良を指名ですか?」
山崎監督「本来なら名雲だが指名しても入るつもりはないときっぱり断られたからな。どちらかと言えば一発長打のバッターが欲しいからな」
深町「なるほど、それなら高須か真島を1位ってのも手ですけど」
山崎監督「うむ。高須は競合になるだろうし真島は普通なら1位だが今年のドラフトではあまる可能性もあるからな」
深町「一応考慮した上での相良指名ですか、しかし相良も競合でしょう?」
山崎監督「うむ。ここは俺のクジ運にかかってるな」
大下「何言ってるんですか、昨年健太を獲ってたらこんな事にはならなかったのに?」
山崎監督「いや、来年には名雲や真島がいるし何とかなるだろうと自然と勝負弱くなってしまったんだ。うむ」

6回裏 赤2−5横 限界は超えたが何とか無失点と一応は抑えた
吉田(出塁を狙うと偉そうな事は言った物のプロの先発から1打席で打てるんだろうか―――いや打たなきゃ柚が壊れちまう。ここで何としても打たないと!)
木崎(今日はノーヒットと言え3番、注意はするか)

ズバ―――ン!
吉田(やっぱり速いな。しかし佐伯との対戦も長いし当てるくらいなら何とかなりそうだ)

霞「初球は145キロのストレートがストライクゾーンに決まります!」
武藤「高校生にはきつい速さですね。しかし1年生の頃から甲子園ではこの速さのボールを見て来た吉田君です。期待しましょう」
水原「しかし木崎はコントロールも良いですからね。難しいと思いますよ」

スト―――ン!
吉田(フォークは狙ってみても良かったな)

霞「次はフォークが決まり一気に2ストライクと追い込まれました!」
武藤「次は外に外して来るかな?」
水原「いや、木崎のスライダーは右バッターに相性が良いですからね。3球勝負の可能性もあります!」

木崎(次はアウトコースにスライダーだ。俺は右バッターに対しては絶対の自信がある。3番とは言え高校生にこれは打てん!)

クククッ!
吉田「やはり凄い変化だな。しかし打つ!」

ガキッ!
木崎(当てたか?)

霞「またもやライト前に落ちた。ライトは強肩の深町選手でしたが刺せずノーアウトでランナーが出ます!」
武藤「当たりはいまいちでしたが、一応ヒットになりましたね」
水原「ええ、しかしスイングを見る限りセンスはありそうですね。ヒットはマグレでも当てた事はマグレじゃなさそうです」

吉田(ふう、何とか出れた。次は今日絶好調の斎藤だ。プロと言え楽に抑えられるバッターじゃない)
斎藤主将(吉田―――おっしやるぞ!)
木崎(こいつは慎重に行かないとな!)

カキ―――ン!
深町(パシッ!)

霞「これはライトを越えるかと思ったが深町選手がジャンピングキャッチ!」
武藤「普通ならライトフェンス直撃の長打ですよ。しかしスライダーを1打席であそこまで!?」
水原「どんなピッチャーにも即座に対応できるバッティングセンスは凄いですね」

斎藤主将「何とか芯には当てたんだが振り遅れたのが悪かったか」
篠原「芯でとらえた時点で凄いですけどね」
斎藤主将「まあ、吉田がランナーのままなのは不幸中の幸いだったな」
篠原「深町さんの守備は定評がありますからね。足が速く強肩で好守を見せると守備のスペシャリストと言われるだけはありますよ」
斎藤主将「レフトを狙った方がヒットの確率は高いか、しかし引っ張って打つのは難しいからな」
篠原「俺は左なので流して来ます!」
斎藤主将「おう!」

河村「良いピッチャーって聞いてたけど、バッターとしても凄いな」
木崎「まあピッチャーってのは天才率が高いですから野手は作れても才能のある投手は作れないとか言われてますからね」
河村「まあな。しかし若手に素質のある選手が多いと俺の様なロートルはお役ごめんなんだよな」
木崎「まあ河村さんにはプロで培った経験があるしまだ頑張れますよ」
河村「リードはな。しかし年々来る衰えで身体能力は愕然と下がってるしな」
木崎「それは運動選手の宿命って奴ですよ。とにかく次も5番、一応は警戒しましょうか」
河村「だな。左バッターかまあ右バッターより相性が悪いけど1打席でお前のボールは打てんだろうな」
木崎「相性の良い右バッターがランナーにいるんですけどね」
河村「まあな。けど、たまたま良いところに落ちただけだしコース狙えば問題ないと思うぞ」
木崎「ええ、もちろん河村さんのリードは信用してます!」

ガキッ!
望月「おっと!」

霞「サードゴロ! 危なげない送球をしますがダブルプレーでチェンジです!」
武藤「結果的には3人で終わったか、ノーアウトでランナー出たし、もしかしたらとも思ったんだけどな」
水原「まあ普通に考えて1打席でアマが打てるピッチャーじゃないですからね。ここまで2得点している事じたいが奇跡見たいな物ですよ」
霞「うーん、しかしこのままだと風祭さんは公式戦に出れません。頑張れ赤竜高校!」
武藤「普通は中立なんだけど、どう見ても今日はプロがヒールだからな。仕方ないかな?」
水原「まあ、あっちも好きでヒールやってる訳じゃないですけどね」

木崎「残り1回か2回でお役ごめんだな」
河村「まあ問題ないだろう。お前も樋川も急に崩れるタイプじゃないからな」
木崎「はい!」

吉田「結局ファースト残塁のまま」
真田「ヒットで出たところまでは格好良かったけどね。4番と5番がね(ジ〜〜〜!)」
斎藤主将「芯でとらえるのがやっとで引っ張るのが無理だったんだよ」
相川「いえ、あのスライダーを芯でとらえられるだけでも凄いですよ」
篠原「こっちも当てるのがやっとでしたね。サードの頭を越すつもりだったんだけどボールの上を叩いちまった」
相川「まあ、上を叩いて併殺と結果は悪かったけど、狙いは悪くなかったよ」
真田「うーん、ツキにも見放されて来たかな。このままだとズルズル行きそうだよ」
中西監督「元々無茶だと分かっていた事だ」
全員(あんな条件を呑んだあんたが言うなよ!)
中西監督「こうなったら諦めず食い付いて行け! 諦めなければ突破口も見つかるかも知れん!」
斎藤主将「突破口か、癖とかで球種が分かればとか?」
吉田「それは難しいと思うぞ。ビデオで見ながら何度もフォームを修整してるんだ。そんな癖があったらトレーナーやコーチがすぐに気付くだろうし」
斎藤主将「だよな。しかしコース付かれてあの速度と変化じゃ連打も難しい」
中西監督「河村のリードもコントロールのあるピッチャーと組んだら抜群だからな。奴は17年間プロの一流バッターとも対戦して来たんだ」
真田「聞けば聞くほど絶望的ですな。こうなったら山勘で打つしかないかな」
中西監督「そうだな。読みで打てるほどあまい相手じゃない。野球の原点、ただ来た球を打つ。そんな精神論くらいしか思いつかんな!」
斎藤主将「来た球を打つか」
中西監督「とにかくまだ3点差、回を増す事にきつくなる点差だが諦めるには早過ぎる点差だ!」
斎藤主将「そうですね。まずは守備だ。お前ら死ぬ気で守り抜くぞ!」
全員「おう!」

7回表 赤2−5横 赤竜高校は打線を繋げる事ができず結果的に3人で終わる
柚(シュッ!)

バコッ!
大下「うむ。硬球とは言え球威が軽いせいか全然痛くないな」
柚(ペコリッ!)
大下「ああ、いいよいいよ。気にすんな」

霞「初球ストレートがすっぽ抜けてデッドボールで大下選手が1塁へ!」
武藤「やっぱり疲労がきつい様ですね」
水原「昔にはあんなバテバテでも根性で投げきる投手ばっかりだったんですけどね」

柚(シュッ!)
大下(タッタッタッ!)

ズバ―――ン!
服部(くそっ見逃すのがもったいないくらい良いボールだったな!)

霞「一応ストライクが入りましたがランナーの大下君は盗塁を成功させ2塁へ!」
武藤「本当に容赦がないですね。盗塁せず一気に打って行けば良いのに?」
水原「それは別の意味で容赦ない気もするが、しかしカウントはストライクと良い根性してますね」
武藤「確かに根性は凄いですね」

柚(シュッ!)

ガキッ!
服部「なっ!?」

霞「エアナックルを打ち上げセンターフライ! まれにですが生きたボールが行ってますね!」
武藤「ええ、まだアウト1つですがこの疲労の中でこれは凄いですね」
水原「しかし勝つにしろ負けるにしろこのまま行ったら壊れかねないですよ?」
霞「やっぱりそうですよね。でも一応はさっきの回も無失点に抑えてますからね」
武藤「今も服部を抑えましたしね」

ジャクソン(かわいそうだがこれで終わりだ!)

カキ―――ン!
柚「………………」

霞「入った。バックスクリーンに叩き込む2ランホームラン! これで5点差となりました!」
武藤「ここまで良く持ったと言うべきでしょうかね」
水原「……まだ投げさせる気ですね」

全員(…………5点差か)全員(まだ投げさせるのか?)

敵味方、放送席が困惑する中、柚だけが変わらずに投げ続ける。
柚(シュッ!)

ズバ―――ン!
小山「嘘だろう。何で球速が落ちないんだよ!?」

霞「しかし続く小山選手は134キロのストレートで空振り三振に抑えます!」
武藤「信じられん!?」
水原「と言っても目の前で観てるからな」
武藤「そうですけど」

しかし精神力にも限界がありついに柚も限界を越えた反動が来る。
柚(バタッ!)
全員「柚さん!?」

倒れた柚に慌てて全員が駆け寄る。
吉田「気絶してる。文字通り精も根を使い果たしたか?」
中西監督「慌てるな。医者はもう待機させてある」

中西監督は続投を認めた時からこうなる事も予想して頼んで医者を待機させていた。
中西監督「すみませんがそう言う訳ですので勝手ながら試合はコールドと言う事で」
山崎監督「それは良いですから早く」
中西監督「はい!」

結局このまま試合はコールドとなり赤竜高校は7対2で敗北した。柚は疲労が極限に達して気絶しただけで問題ないと医者も呆れるほどの頑丈振りだったらしい。