第44章 最後の夏(2)〜2つの決勝戦〜(後編)

−1996年 7月−
斎藤のいる赤竜高校は甲子園出場を決めた。そして時は少し溯り風祭のいる無明実業も最後の戦いが始まるのだった。
風祭主将「1回戦は峰仙高校に決まった」
直人「峰仙高校?」
風祭主将「今年できた野球部らしい。実力は未知数と聞いているが」
大沼「できたばっかりなら楽勝かな」
大岡監督「そうでもないぞ。キャプテンの佐野はうちの誘いを蹴って峰仙高校に入ったしピッチャーとしての実力は確からしい」
坂本「いわゆるワンマンチームですか?」
大岡監督「佐野以外は分からんからな。風祭の言う通り未知数、ダークホースだな」
風祭主将「相手の情報はないが1回戦から負ける訳には行かない。油断せず練習して来た力を出し切ろう!」
全員「おう!!!」

佐野主将「と言う訳で相手は無明実業に決まった」
荒木「クジ運に恵まれるのも考え物だな」
景山「ハズレクジだけどね」
佐野主将「とにかく頑張って抑えるから5点くらいで頼む」
全員「自信のなさがうかがえるな」
咲野監督「とにかく今日勝てば甲子園に出るのは決定見たいな物ですね」
景山「えっと1回戦なのでまだ始まったばかりです」
佐野主将「いいや。今日勝てば全国レベルだと言う証明にもなる。つまり今日勝てば甲子園出場は決まったも当然だ!」
景山「凄く都合の良い考え方だな」
荒木「いきなり相手が『あれ』だから無理に明るく振る舞ってんだろう」
景山「まあな。あれだからなー」
全員「はあ」

−地方大会1回戦 地方球場−
3年 佐藤 佐助
後攻 先攻
無明実業高校 峰仙高校
投手力 機動力 投手力 機動力
打撃力 守備力 VS 打撃力 守備力
意外性 経験値 意外性 経験値
総合力 総合力
西山 業 3年
2年 坂本 隆行 馬場 大輝 2年
3年 天野 直人 川上 双太 3年
3年 風祭 大吾 景山 望 1年
1年 水島 一星 熊谷 西都 2年
3年 戸田 正樹 荒木 大和 1年
3年 藤井 孝一 佐野 耀柄 1年
3年 鈴木 忠 早川 凍矢 2年
1年 紫集院 曜介 大西 荒野 3年

1回表 無0−0峰 1年生通しの投げ合いとなった1回戦!
紫集院「先発は僕なんですね?」
藤井「今日はお前が一番調子良いし監督やキャプテンにしたら今の内に実力を確かめときたいんだろう」

ズバ―――ン!

130キロのストレートに手も出ず西山は見逃し三振に終わる。
西山「これが三番手のピッチャーのボールかよ!?」

紫集院(速い球に慣れてないみたいですね)
藤井(うーん、振って来ないし不気味だったな。とりあえず油断せずに行こう!)
紫集院(はい!)

ククッ!

最後はカットボールを見逃し三振と馬場も三振に終わる。
馬場(ストレートと変わらない速度で変化したな!?)

紫集院(シュッ!)

ガキッ!

なんとか当てるが結果はショートフライで紫集院は1回を三者凡退と見事な立ち上がりを見せる。
景山「どうでした?」
川上「やっぱり速いな。それに外見に似合わず球も重いぞ」
景山「さすがに1年でベンチ入りするだけはありますか」
川上「俺は野球素人だが1年にしては良いボールを投げると思うぞ」
景山「俺も野球素人ですけどね」

3年の川上と1年の景山は3番と4番だが野球センスが買われてクリーンナップを打ってるらしい。ちなみにちゃんとした野球経験者は佐野と荒木くらいといかにこの対戦が無謀かうかがえる試合だった。
紫集院「やっぱり全員三振は無理でしたね」
藤井「川上って奴は3番だけあって良いスイングだったな。パワーはなさそうだけど」
紫集院「自分で言うのもなんですけど、次の4番も体格からしてパワーヒッターにも見えませんね?」
藤井「だな。部員も9人ギリギリで戦力が整ってないし、多分このチームは連打系でコツコツやって行くんじゃないかな?」
紫集院「とすると相手投手の攻略を如何にするかですね」
藤井「だな。監督の言ってた様に佐野はシニアでも活躍してたピッチャーだからな要注意だ」

1回裏 無0−0峰 紫集院は初マウンドながら堂々としたピッチングで三者凡退と順調な立ち上がりを見せる!
佐野主将「抑えるぞ!」

ガキッ!

佐助はガンガン振って行くがカットボールを引っ掛けてピッチャーゴロに倒れる。
佐助「ストレートは紫集院とそんなに変わらないかな? ただカットボールのキレはあっちの方が上かな?」
坂本「センスは悪くなさそうですね」

カキ―――ン!
佐野主将「何っ!?」

あまいコースに来たストレートを打ち返し坂本は2ベースヒットを打つ!
景山(耀柄のボールを簡単に打つな!?)
坂本(コントロールは結構あまいしこれじゃクリーンナップには通用しないな)

佐野主将「負けるか!」
直人「カットボールか!」

カキ―――ン!

続く直人も合わせて打ち佐野は1アウト1、3塁のピンチを迎える。続く風祭は高校至上最高の打者とも噂されている。佐野は当然の様に敬遠を選択する。
風祭主将「敬遠が悪いとは言わんが1点を守ってどう言う結果になるかな?」

佐野主将「これで良いはずだ。次は1年で5番の水島か」
水島(キャプテンは敬遠か、ま、監督には歩かされたキャプテンを返す為の5番と言われているし期待に応えないとな!)

カキ―――ン!
全員「んなっ―――!?」

ここで水島が可愛げのない一発を打ち満塁弾で一気に4点先制される。
風祭主将「恐れ入ったよ。打つとは思っていたけどそれでも満塁弾はないと思っていた」
水島「日本一の高校の5番を打たせてもらってますからね。期待には応えますよ!」
風祭主将「やれやれこれほどの選手が無名とはな」
水島「地元じゃ結構有名でしたけどね。ま、無名の軟式出で他県出身ですから」

佐野主将「ちくしょう!」

ズバ―――ン!

満塁弾を浴びる物の続く戸田は空振り三振に抑える。
戸田「崩れるかと思ったが…………打たれ強い奴だ」

佐野主将「負けるか!」

ククッ!

そして藤井も空振り三振に抑えると打たれながらも1回三振3個と調子の良さをアピールする佐野だった!
藤井「結構変化するな」

たった1回の攻防だったがもはや試合の結末は見えたか質量共に充実している無明実業の敵ではなく試合は大差で進んで行く。

5回表 無11−0峰 試合は大差で続いて行きこのまま終わればコールドが成立すると後のない峰仙高校!?
紫集院「後4点取ってたら前の回で終わってたんですけどね」
藤井「さすがに佐野から15点は難しいからなってこれだけ取って文句言うなよ!」
紫集院「いえ。2ケタの援護で文句など言いませんよ」
藤井「とにかく、パーフェクトに抑えてるからって気にせずに投げろ!」
紫集院「はあ」
景山(とにかく2点だ! なんとか2点取ってコールドをなくすぞ!)

カキ―――ン!!!
全員「んなっ―――!?」

飛距離は文句なしだがファール! しかし飛距離は測定不能ととんでもない打球が場外へ消えて選手達や審判は困惑する!?
紫集院(ちょっと今の飛距離はなんですか!?)
藤井(分からん? きっとあれだ! マグレだ!)
紫集院(いや、飛距離でマグレは有り得ませんから!けど、面白い! 真っ直ぐで勝負だ!)
景山(とにかく一振りだ!)

カキ―――ン!!!
紫集院「ふう、凄いバッターだったな」

景山は打ち直し今度はバックスクリーンへと運ぶ!
紫集院(シュッ!)

ズバ―――ン!
熊谷「打てない」

ガキッ!
荒木「当ててもヒットにはならないか」

ガキッ!
佐野主将「終わってしまった!?」

今日初めてのヒットがホームランと峰仙高校は期待を見せるが後続は続かず5回コールドで峰仙高校は夏を終えるのだった。

咲野監督「残念ながら負けてしまいましたが良い試合でしたね」
佐野主将「あははは、ほんとー2ケタ失点で敗戦投手なんて野球やって初めてですよ」
荒木「まあ完全に抑えられなかったのがせめてもの救いだな」
佐野主将「そうですね。さすがは救世主の望君ですよ」
景山「気のせいか責めてられるような」
大西「せっかくの公式戦だし1回くらい勝って見たかったな」
川上「俺達に取って最初で最後の公式戦だったからな」
西山「俺もヒット打ちたかったな」
咲野監督「きっと来年には貴方達の後輩が頑張ってくれますよ」
川上「そうですね。ま、最初で最後の試合で悔しい終わり方だったけど思い出にはなったよ」
大西「だな。けど悔しいよな」
佐野主将「秋や来年の夏も頑張るし先輩達は強くなった俺達を見に来て下さい!」
大西&川上&西山「ああ!!!」
咲野監督「うんうん。ところで秋もあるんですか?」
全員「………………………………」

なんか色々台無しだったがこうして峰仙高校の初の公式試合は終わった。しかし景山の一発と超特大なファールは伝説として峰仙高校野球部に伝えられるとこの敗北は景山の伝説の始まりと伝えられて行く。

大岡監督「5回コールドと今年も順調に勝ったな」
小椋「パーフェクトは惜しかったな」
紫集院「いえ。あれは完全に実力負けでしたから」
藤井「しかし1打席の時は大振りして三振だったのに2打席で合わせて来るとは、それにあの飛距離は凄まじいし!?」
風祭主将「今でも結構なレベルだし1年と思うと末恐ろしいな」
紫集院「それもですが、体格に似合わず凄い威圧感を感じましたよ」
藤井「俺もだよ。殺気と言うのかな? なんかオーラ見たいな物を感じたよ!?」
坂本「守備はあんまり上手そうじゃなかったけど、足も速そうだったな」
水島「肩は差ほどでもないし守備は単純に経験が足りない印象を感じましたね」
直人「確かに末恐ろしそうだな」
大岡監督「とにかく今年も強いし安心して観られるな。俺の給料も安泰だ!」
全員「テンション下がる事は言わないで下さいよ!」
大岡監督「…………ごめんなさい」

と言う訳で今年も無明実業は強く破竹の勢いで勝利して行き当然のように決勝に進出する。

無明実業高校
大岡監督「と言う訳で相手は名門の天狼学園だ。キャプテン平下を中心にしたチームで特待生が多く強そうなチームだ」
風祭主将「強そうと言うか強いチームで平下以外にも今年のドラフト候補として注目されているキャッチャーの堺やピッチャーの池田も要注意だ!」
坂本「それに1年生ながら池田さんや鈴木を抑えてエースを奪った大野も要注意ですね」
風祭主将「とまあ、うちと同じく総合力は高く穴のないチームだ。一瞬のミスが致命的な結果を生むかも知れないから集中して試合に望もう!」
全員「はい!」
風祭主将「それと今日の先発は小椋だ。2失点以内に抑えろ!」
小椋「はい!」
大沼「エースなのに俺はベンチですか!?」
風祭主将「今日は小椋の方が調子が良いからな」
大岡監督「それにお前は球威がないから小椋の方が観てて安心できるんだよ」
大沼「ううっ、エースなのに調子でベンチ送りなんて情けない」
藤井「仕方ないさ。ミートが良くパワーのあるバッターが多い天狼学園とは相性が悪過ぎる」
水島「それで相手の大野はどんなピッチャーなんですか?」
風祭主将「右の本格派だな。ストレートは見た目以上にノビるし変化球も良くコントロールも良いって話だ。タイプとしては小椋に似ているな」
大岡監督「1年早く生まれてきたら右の大野と左の小椋と注目されていたかもな」
風祭主将「そうですね」
直人「けど、全国に行けばもっと上の神童とかもいるんだよね」
風祭主将「ああ。それに小椋のライバルはベンチの鈴木かな」
小椋「ですね。シニア時代じゃ鈴木が一番って言われてましたから」
大岡監督「成長期で一気に抜く事ってのも良くあるからな」
小椋「でも鈴木も要注意だと思いますよ。少なくとも変化球やコントロールは俺達の世代じゃナンバーワンでしょうから」
紫集院「それだけ大野って投手が凄いって事ですか?」
大岡監督「都内じゃお前のライバルになりそうだし覚えとけ!」
紫集院「はい!」

天狼学園高校
瀬戸監督「決勝は無明実業だ。いまさら言うまでもないだろうが総合力の高い春の優勝校だ。そろそろ名門の終わりを見せてやれ!」
全員「はい!」
堺「あっちも良い投手が多いし投手戦になりそうですね」
瀬戸監督「どんな投手が来ようとも打ち崩す! そしてどんな打者が来ようとも抑える! これが俺の目指す最強のチームだ!」
平下主将「言うは易し行うは難しですね」
瀬戸監督「だがお前達にはそれだけの才能がある。力でねじ伏せろ!」
全員「はい!」
瀬戸監督「特に失点の少なさは重要だ。大野はなんとしても無失点で抑えろ!」
大野「はい!」
池田「出番がないに越した事はないけど俺達も何時でも登板できるようにしとこうか」
鈴木「はい!」
瀬戸監督「野手陣は2ケタとは言わんがなんとしても5点は奪え!」
全員「はい!」
堺「しーちゃんやみーちゃんを除いたら打撃力は文句なしですし問題なく打てるでしょうね!」
篠田&御坂「……………………」
池田「まあ総合力は無明実業と同等かそれ以上だからな。10回やれば半分は勝てるだろうな」
全員(接戦の予感がするな)
平下主将「相手が誰か分からないが誰が相手でも打つ!」
篠田「俺は守備で貢献しないとな!」
大野(抑えるだけでなく打って活躍もするぞ!)
堺「ふむ。リードも重要と今後の俺の野球人生に関わる重大な試合だからな」
池田「頭の中はプロでいっぱいだな」
瀬戸監督「後は気力の問題だ。こう言う精神論は主義ではないがお前達の勝ちたい気持ちが相手を上回っていれば勝てるだろう!」
平下主将「そうですね。みんな勝って甲子園に行こう!」
全員「おう!!!」

−地方大会決勝戦 明治神宮野球場−
3年 佐藤 佐助
後攻 先攻
無明実業高校 天狼学園高校
投手力 機動力 投手力 機動力
打撃力 守備力 VS 打撃力 守備力
意外性 経験値 意外性 経験値
総合力 総合力
御坂 耀 2年
2年 坂本 隆行 篠田 正 2年
3年 天野 直人 堺 戒 3年
3年 風祭 大吾 平下 和俊 2年
1年 水島 一星 石村 龍二 2年
3年 戸田 正樹 蓮沼 浩正 2年
3年 藤井 孝一 牧野 幸弘 2年
3年 鈴木 忠 浅見 毅彦 2年
2年 小椋 真司 大野 晶 1年

1回表 無0−0天 今年の決勝のカードも昨年と同じとなった。どちらも全国クラスのレベル、今年はどちらが勝つのだろうか?
小椋「スタメンのほとんどは同期だな」
御坂「あまい!」

カキ―――ン! パシッ!
風祭主将「ふう」

良い当たりだがショートの風祭が追い着いて1アウト!
御坂「やっぱりショート方向でヒットを打つのは難しいか」

小椋「さすがは名門の1番、あまいボールが行ったらさすがに振って来るか」

ガキッ!

スライダーを狙ったが想像以上に変化した為か打ち上げて2アウトとなる。
篠田「当てるのがやっとだな!?」

小椋(シュッ!)

カキ―――ン! パシッ!

センター前に抜けるかと思いきや風祭がファインプレイを見せて3アウトチェンジとなる!
堺「相変わらずとんでもない身体能力だな!?」

小椋「なんとか3人だな」

あまいボールも多いと内心冷や汗物の立ち上がりだったが味方の好守備にも救われて小椋は1回を三者凡退に抑える。
藤井「球のキレは悪くないけど、コントロールが安定してないな。まあ1回だし少しずつ調子を上げて行くだろう」
坂本「相手の先発は1年か」

1回裏 無0−0天 1回を三者凡退と小椋は好調?
大野「相手は今までとは段違いのレベルか」
堺「臆する事はない。うちの打撃陣に投げると思えば良いだけだ!」
大野「簡単に言いますね。まあエースですから無失点で抑えて見せます!」
堺「そうそう。臆せず行け!」

ズバ―――ン!

佐助は手が出ずあっさりと見逃し三振に終わる。
佐助「速くキレてノビるって感じだな」
坂本「ふむ」

大野(シュッ!)

ガキッ!

坂本も138キロのストレートを打ち上げて2アウトとなる。
坂本「手元で結構ノビるな。コントロールも悪くなさそうだ」

大野(シュッ!)

カキ―――ン! パシッ!

スライダーをとらえるがセカンド正面のライナーでチェンジとなる。
直人「なんと言うかあっさりと終わったな」
風祭主将「だがタイミングは合ってたしこの調子なら攻略して行けそうだな」
直人「…………まあセンスあるって言っても1年だからな。これくらい攻略しないと全国制覇達成はできないか」
風祭主将「そう言う事だ」

と言う物もヒット性の当たりをアウトにされるなど野手陣の働きによって6回まで両投手は無失点に抑えて行く。

7回表 無0−0天 好投好守で試合は進み無失点で進んで行く
小椋(シュッ!)
大野(届く!)

カキ―――ン!
小椋「なっ!?」
直人「ダメだ!?」

天狼学園、今日8本目のヒットはホームランで打ったのはなんとピッチャーの大野だった。
大岡監督「大沼、悪いが登板してくれるか」
大沼「ええ。投げ込みは十分ですし問題ありません!」
大岡監督「おう!」

ここで早くも無明実業が動き投手交代を告げる。
小椋「それじゃ後は頼みます!」
大沼「気にするな。後輩の尻拭(しりぬぐ)いをするのも先発の勤めだ!」
藤井「尻拭(しりぬぐ)いってあんまり良い意味で使う言葉じゃないけどな」
大沼「うるさいなとにかく任せとけ! 必ず勝って甲子園に連れて行ってやる!」
小椋「はい!」

カキ―――ン!
藤井「っていきなり打たれてるじゃないか!?」

続く御坂も1打席でタイミングを合わせて行きライト前にヒットを打つ!
御坂(タッ!)
藤井「盗塁はさせない!」

ビュ―――ン! パシッ!

御坂は積極的に走って行き盗塁を成功させる。続く篠田も送りバントを成功させて1アウト3塁となる。
篠田「じゃあ後は頼むよ!」
堺「おう!」

ククッ!

続く堺も積極的に振って行くが結果はフォアボールで出塁する。
藤井「このバカが状況を分かってるのか!」
大沼「分かってるよ」
藤井「とにかく次の平下は歩かせて5番の石村で勝負だ」
大沼「分かった」

続く平下は歩かされてこれで2アウト満塁となる。
藤井(ピンチでもあるがチャンスでもある訳だ。とにかくここを抑えるぞ。間違っても押し出しなんてするなよ!)
大沼(ふふふ、昔の俺とは違うピンチに強いのが今の俺の真骨頂だ!)
藤井(石村も平下ほどじゃないにしてもそこそこチャンスに強いからくれぐれもあまいコースなんて投げるんじゃないぞ!)
大沼(分かってる!)

ククッ!

大口叩くだけ合って最後は最高のスライダーで見逃し三振と大沼はこのピンチを無失点に抑える。
石村「左から右になったせいか打ちにくい!?」

大沼「これが今の俺の真骨頂!」
大岡監督「さすがは俺の采配だな。さすがは俺だ!」
小椋「ひそひそ(いきなりヒット打たれてからはオロオロしてたのにな)」
紫集院「ひそひそ(まあ良いじゃないですか結果的には抑えたんですから)」
小椋「ひそひそ(まあな…………けど続投したかったな)」

7回裏 無0−1天 天狼学園がついに1点を先制した!
瀬戸監督「ツメがあまいな」
石村「すみません」
大野「大丈夫ですよ。このまま俺が無失点に抑えて甲子園に行きますよ!」
瀬戸監督「結構、その調子を維持して行け!」
大野「はい!」
佐助「………………」

カキ―――ン!
瀬戸監督「やれやれ」

佐助が今日2本目のヒットを打つ!
大野(いきなりか!?)
坂本(サヨナラと)

カキ―――ン!

走って来ると思いきや坂本が初球からヒットを打ちノーアウト1、2塁となる。
大野「落ち着け!まだ点を取られた訳じゃないんだ!」

コツンッ!

続く直人は送りバントを成功させそれぞれのランナーは進塁する。
直人「バント成功させたし後は頼むぜ」
風祭「相手が勝負を選択してくれるんならな」
直人「水島の怖さも知ってるだろうし勝負するかもよ」

大野(やられた。まさかここで送りバントとは!?)
堺(まあアウト1つ取れたんならそれで良いさ。風祭は敬遠で水島と勝負するぞ!)
大野(コクッ!)

堺と大野は風祭との勝負は回避し敬遠、そして水島との勝負を選択した。
堺「あんまり活躍してこっちのエースを潰してくれるなよ」
水島「潰しますよ。勝負事は最初が肝心ですから!」
堺(なるほど、こりゃ将来とんでもないバッターになるかもな。ここは押し出しでも良いからコース付いて行くぞ!)
大野(っ!? 分かりました!!)

カキ―――ン! パシッ!
平下主将「ちっ!」

センター深いところだがなんとか追い着き平下がキャッチしたが犠牲フライにはなりランナーが1人返る。これで2アウト1、3塁となる。
水島「ちょっとあまく見てたな。投手も良いが捕手も良いリードをする人だ」
大岡監督「嫌いなバントをさせたんだからな。最低でも同点にしてくれなきゃ俺が困る」
水島「けど、チャンスはまだ続いてますよ」
大岡監督「まあな」

しかしここで瀬戸監督も動く。ここまで好投してた大野を代える。
大野「お役ごめんですか?」
瀬戸監督「無失点で抑えると言ったのはお前だろう」
大野「分かりました」

そう言って大野はトボトボとベンチに引っ込む。
堺「ボールは衰えてなかったんですがね」
瀬戸監督「だが、7回で向こうもタイミングを合わせて来てる。お前はこの采配が不服か?」
堺「いえ。野球は投手力です。うちには他校( よそ )でエース張れるピッチャーが2人もいるし采配は合ってると思います…………ただ」
瀬戸監督「大野のケアはお前がやれ! ここで終わってもらっては俺も困る!」
堺「分かってますよ。ただ俺だけじゃなく監督からお褒めの言葉をかけたらどうですか?」
瀬戸監督「俺は指導はできるがそう言う事はできない」
堺「ったく分かりましたよ!」
瀬戸監督「すまん」
堺「でどっちにするんですか?」
瀬戸監督「鈴木だな」
堺「まあ池田はピンチに弱いですからね」

と言う訳でマウンドへは2年の鈴木が向かう。
鈴木(シュッ!)

ククッ!

内外と針の穴を通す様なコントロールと大きく変化する変化球であっさりと抑えられチェンジとなる。しかし試合の均衡は崩れそうもなく再び同点となる!
戸田「入ってるのか!?」

瀬戸監督「同点か」
堺「まあ、1点で良かったと思うべきですよ。とにかく戦力に差はなさそうだしこのまま行けば最後は気力の勝負になりそうですね!」
瀬戸監督「一瞬のミスが命取りになりそうだな。緊張感のある良い試合だ。終われば良い経験になりそうだな」
平下主将(流れが変わらないな)

8回表 無1−1天 貴重な犠牲フライで1点を取り同点と流れは変わらないらしい
大沼(下位打線とは言え油断はできない!)
藤井(ああ。とにかくスタミナ配分なんて考えず全力で投げて来い!)
大沼(ああ!)

ガキッ!

シュートになんとか当てるが打ち上げて1アウト!
蓮沼「球種が多いのがやっかいだな」

大沼(シュッ!)

カキ―――ン!

7番だが他校なら3番タイプの牧野も合わせて打ち再びヒットを打たれる!
牧野「うっし!」
大沼「またファーストにランナーがいるし」
藤井(次の浅見も他校ならクリーンナップを打つほどの奴だ。慎重に行こうぜ!)
大沼(コクッ!)

ガキッ!

続く浅見はスライダーを打ち上げキャッチャーフライに倒れる。
浅見「スライダーの変化は凄いな。しかし球速がない分、当てるのはそう難しくないかな?」
藤井(これで2アウトだ。次はリリーフで出てる鈴木だし落ち着いて投げれば問題ない!)
大沼(コクッ!)

スト―――ン!

最後は落差あるフォークで空振り三振と大沼がエースとしての実力を見せる。
鈴木「そうそうは打てないか」
堺「お前は抑えるのが仕事だ。1点取られたら致命的だ。心して行け!」
鈴木「はい!」

8回裏 無1−1天 代わった大沼は好調らしくランナーを出しても後続を断ち切る!
藤井(とにかく1点だ。そうそう連打できると思えないし一発を狙うぞ!)
堺(力んでるな。初球はストライクで追い込んでボール球を振らせれば問題ないだろう)
鈴木(シュッ!)

ブ―――ン!

鈴木のコントロールと変化球に対応できず藤井は空振り三振に抑えられる。
藤井「くそっ!?」

鈴木(シュッ!)

ガキッ!

ボール球を振らされてサードゴロに倒れ一気に2アウトとなる。
鈴木「こう言うコントロールの良いタイプは苦手だな」

鈴木(シュッ!)

ズバ―――ン!

平凡な大沼だったが鈴木のコース付くピッチングで最後は見逃し三振に抑えられる!
大沼「コントロールと変化球のキレは俺以上かよ!?」
佐助「くっくっく、しかしタイプは似てるな」
大沼「コントロールと変化球で勝負するところはな。けど、1つの変化球を極めて行くあいつと変化球の数で勝負する俺だからな」
佐助「質と量の違いか、ふっふっふ」
大沼「まあな。どっちが良いかとは言えんけど(こいつの不気味笑いだけは3年経っても慣れる事はなかったな)」

9回表 無1−1天 試合は接戦で9回に入った!
大沼(シュッ!)

ガキッ!

御坂はカーブを打ち上げてしまいあっさりアウトとなる。
御坂「的を絞るのが難しいな」

大沼(シュッ!)

ククッ!

大沼はスライダーで決めようとするが篠田が粘って見逃しフォアボールで出塁する!
篠田「これで平下まで回るぞ!」

藤井(次の堺をなんとか併殺に抑えろ!)
大沼(低めに付いて行けば良いんだろう!)
藤井(ああ!)
堺(低めに投げて来そうだな。変化球も狙うが、問題は球種か)

ガキッ!

堺はスライダーを狙ったが打ったのはムービングファストだった。しかしセカンド後方へのフライと併殺は免れた。
平下主将「ボール球でしたね」
堺「まあな」
平下主将「ま、落ちるボールでしたしゴロにならなかっだけマシですか」
堺「と言う訳で後をよろしく!」
平下主将「任せて下さい!」

カキ―――ン!
直人「たあっ!」

パシッ!

良い当たりだったが直人が追い着きキャッチするとここで無明実業がファインプレイを見せる!
平下主将「さすがは天野さん」
堺「センターの一番深いところって右か左ならスタンドに入ってたな」
池田「傷口抉る様な事言うなよ」
堺「すまんすまん」

9回裏 無1−1天 大沼は四死球を1つ出す物の後続は断ち切るとここに来て好調振りを見せる!
鈴木(1点取られたらそれで終わりか)
堺(と言う訳でここからは一球入魂の精神で行こう!)
鈴木(はい!)

ククッ!

佐助は外へ逃げるシュートを振らされて空振り三振に終わる。
坂本(左打者には外のシュートで右打者には外のカーブで抑えられているな。コース付くコントロールも相当の物だし追い込まれてから決め球を狙うか?)

カキ―――ン!

カウントを取りに来た厳しいコースのストレートだったがそれでも合わせて坂本は2ベースヒットを打つ!
堺(一打サヨナラの場面だな。三振奪いにくいバッターが続くしランナーがセカンドじゃダブルプレーに取るのも難しいし困ったな)
鈴木(歩かせましょうか?」
堺(得点圏で風祭なんて冗談じゃないし!)
鈴木(それじゃあ天野さんと勝負して風祭さん敬遠で行きましょうか?)
堺(ふむ。しかし天野もチャンスに強いしな。風祭と言えど10割打てる訳じゃないしここは敬遠して風祭で勝負だ!)
鈴木(分かりました!)

堺と鈴木は直人を歩かせて風祭との勝負を選択した。
直人「風祭が4番になってからの敬遠は初めてだな。どっちにしても度胸のあるバッテリーだ!?」
風祭主将(ここで読みは必要ない。来た球を打つだけだ!)
堺(慎重にボール球から入って行くぞ!)
鈴木(コクッ!)

真夏ながらも冷たい汗が出て来るが鈴木は動揺する事なく完璧なピッチングを見せるが
風祭主将「打てる!」

カキ―――ン!

インコースのカーブを完全にとらえ打球は左中間を抜けて行き当然の様にランナーは返ると風祭が4番としての実力を見せて試合は終わるのだった。
堺(敬遠は完全に裏目に出たか、まあ鈴木には悪いが天野と勝負しても抑えれたとも言えないし完全にこの打線に敗北したな。鈴木もだが俺には苦い試合となったな。池田にもか)
池田「………………」
瀬戸監督「言いたい事があるなら言って見たらどうだ?」
池田「言ったところで結果は変わりませんから」
瀬戸監督「…………そうか」
池田(何もせず終わったか、確かに悔いが残るな。けど鈴木や堺を責めるのも筋違いな気もするし俺はこれからどうなるのかな?)
瀬戸監督「プロ入り意志が高いならプロテスト受けるのも一つの手ではあるぞ」
池田「え?」

そう言って瀬戸監督は先にバスに戻って行った。
堺「あれ監督は?」
池田「先に戻った見たいだけど」
堺「俺らこれで引退なのに冷たくないか!?」
池田「…………そんな事もないかな」

何気なく呟いた瀬戸監督の一言だったが池田はあれが不器用な監督なりの優しさじゃないかなと思い瀬戸監督を弁護した。
堺「なんかあったのか?」
池田「いや、プロテスト受けて見ようかなと思ってね」
堺「は? お前ほどの実力があれば指名されるだろう」
池田「けど、エースは1年に取られたし俺ってピンチに弱いし」
堺「まあ精神的な物は分からんが、ボールは一級品だし指名されると思うけどな」
池田「だと良いけどな。それより鈴木は大丈夫か?」
堺「まあサヨナラ食らった訳だし落ち込んでるよ。まあ大半は俺達の最後の夏が終わった事に責任感じてるんだろうな」
池田「そうだよな。悪い。まだ心の整理がつきそうもないからあいつとはもう少し時間かけて話す事にするよ。なんとか上手くやってくれ」
堺「ったく監督といいお前といい、後でなんかおごれよな!」
池田「ああ!」

大岡監督「王者の座は譲らずとやっぱり今年も強いな」
風祭主将「先発した大野は1年、次に登板した鈴木も2年と来年はもっと厳しくなりそうですけどね」
大岡監督「こっちの先発は2年の小椋だし紫集院も控えているとやっぱり差はないさ」
風祭主将「そうですね(しかしだからこそ恐ろしい。創部2年でうちと互角に戦っている。この進歩は尋常じゃない!)」
直人「今日はみんな頑張ったけど、やっぱりサヨナラ打った風祭がヒーローかな」
風祭主将「僅差だったし先発した小椋とリリーフの大沼がヒーローで良いよ」
直人「なんか高みからで嫌味なセリフですよ」
風祭主将「そんなつもりはねえよ。それじゃサヨナラの状況作った坂本で良いよ」
水島「今日も猛打賞ですし確かにヒーローですね」
坂本「他に欲しい人がいないんなら別に俺でも良いですけど」
紫集院「不思議と誰も欲しがりませんね?」
佐助「くっくっく」
藤井「そんな事より甲子園出場決定だからな。お前は初めてだろう。もっと喜べよ!」
紫集院「いや、嬉しいんですけど、まだ実感がなくて」
大沼「あそこで投げれば嫌でも実感がわくさ。俺もまた投げるのが楽しみだな」

ドラスポ
霞「と言う訳で東東京都大会も熾烈でしたが今年も勝ったのは無明実業でした!」
武藤「さすがの天狼学園も春の優勝校には届きませんでしたか」
霞「甲子園出場は各校常連がほとんどですが無名の高校も出場と今年の夏も楽しくなりそうです」
武藤「と言ってもここ数年は無名は勝ち上がって来ませんからね」
霞「いえいえ。青森代表の轟天農業高校は違いますよ。あの小林千里(こばやしせんり)君を中心とした勢いのあるチームです!」
武藤「確かに1年ながら全国レベルの投手ですが部員は9人しかいないと層が薄すぎますからね」
霞「それでも甲子園出場したんだから並の物じゃありませんよ」
武藤「確かに、それに小林君だけでなく他の1年生も凄い打者って話ですしね。キャプテンの内海君もプロ注目の捕手とも聞いてるし確かに未知数な存在ですね」
霞「そして他の1年生と言えばシニアナンバーワン投手と言われた冥空高校の神童君も出場します!」
武藤「他にも御堂選手の弟の勇人君も正捕手を獲りましたよね。後、松谷君も1年ながら凄くレベルが高かったですね」
霞「と言う訳で凄そうな1年もたくさんと今年の夏の甲子園も楽しくなりそうです!」
武藤「確かに年々レベルが上がっていますね!?」
霞「ちなみにプロ野球ですが7月も終わりセリーグの首位はカープです。やはりここでの原動力は新人ながら打点トップを走る高須選手のおかげでしょうか」
武藤「確かにあれも凄いですが他の野手陣も安定していると言うか3割打者が5人とカープの打線は凄すぎですよ!?」
霞「そしてパリーグの首位はファイターズです。それほど目立った選手はいませんけど若手選手が活躍していますね」
武藤「あそこの平均年齢は若いですからね。若きエースの定岡も凄いですがルーキーの進藤も防御率が良いとファイターズはどちらかと言えば投手陣が活躍していますね」
霞「ちなみに新人王争いは昨年以上と言うか球史に残りそうなほど熾烈な争いとなっております!」
武藤「来年も同じ様な感想を言いそうですね」
霞「と言う訳でドラスポがお送りしました!」

喫茶店MOON
真田「と言う訳で今回も決勝で会えそうだね」
吉田「決勝とは限らないだろう」
真田「ちなみに吉田は来年カープかも知れないし活躍してくれると嬉しいんじゃないの?」
吉田「いや、レギュラーを獲るのが死ぬほど難しそうだなと思うけど」
真田「吉田は捕手だから香住さんから奪うんだっけ」
斎藤主将「長打力はないがリードは抜群に上手く現在下位打線ながら3割打ってる1人だな。確かにあの人からレギュラーを奪うのは難しそうだな」
吉田「いや、俺は外野手希望だから」
斎藤主将「外野にしても打って走って守れる人ばっかりだし難しそうだけどな」
吉田「まあな」
真田「その点、僕はベイスターズだから楽勝だね!」
吉田「いや、あそこの外野手争いはカープ以上に凄まじいぜ。それに同校の先輩が2人も一緒に争っているのは驚きだけど」
斎藤主将「まあな。けど相良さんはもう決定だろう。真島さんも正捕手の座を奪ったし玖珂さんも代打で活躍しているし」
吉田「考えて見ればみんな活躍しているんだよな。嵯峨さんはまだ2軍だけど」
斎藤主将「お前の言ってた通りカープのレギュラー争いは凄まじい。死ぬ気でやらなきゃ獲れないかもな」
吉田「考えて見れば常勝チームに指名されても活躍できるかどうかは分からないんだよな」
斎藤主将「高校だってそうだ。名門に入ったからと言ってレギュラーになれるとは限らない」
吉田「まあな」
真田「ちなみに僕達5大会連続甲子園出場と凄いよね」
斎藤主将「まあうちは2校と運が良かったのもあるけどな」
真田「そう言う意味じゃ今年は佐伯君達の分まで頑張らないとね!」
斎藤主将「ああ! 今度こそ優勝するぞ!」
真田&吉田「おう!!」

こうして斎藤達は今年も出場が決まった。そして宿敵である風祭も見事に勝ち上がり再び彼らが対決する事があるのだろうか?