第5章 友人との再会

−1994年 7月 上旬−
4、5月は練習や環境になじみ6月は練習試合で経験値を上げてついに今日、レギュラーを発表する。
中西監督「練習試合も終わり俺と大下で考えてレギュラーを決めた!」
大下主将「それじゃ、発表します!」

背番号 Lv 名前 守備位置 学年 背番号 Lv 名前 守備位置 学年
斎藤 一 投手 1年 相良 京一 外野手 2年
大下 真二 外野手(捕) 3年 10 七瀬 忍 投手 3年
玖珂 良雄 一塁手 2年 11 安達 正孝 二塁手(遊) 2年
後藤 猛 二塁手 3年 12 松野 結 三塁手 2年
嵯峨 蓬 三塁手(一) 2年 13 加納 利雄 遊撃手(一) 2年
間宮 亮太郎 遊撃手 3年 14 佐山 啓 外野手 3年
吉田 毅 外野手(捕) 1年 15 大杉 克 外野手 3年
真田 和希 外野手 1年

吉田「Lvってのは何ですか?」
大下主将「そんなのRPG(ロープレ)ではお馴染みのレベルに決まってるじゃないか、段と言うゲームもあるし存在しないゲームもあるけどな」
吉田「それは分かっているんですけど、どういう基準なんですか?」
大下主将「俺の独断と偏見だけど」
吉田「やっぱり」
真田「何か納得いかない感じもしますね」
大下主将「良い質問だね真田君、確かに総合Lvで勝っているのに控えなのかと言う疑問はもっともだが」
中西監督「真田が良い例だな。お前は全体的に見劣りするが足の長所はチーム1だ! そう言った事を考慮した結果こうなった」
大下主将(監督にセリフ取られた)
安達「俺の場合は?」
中西監督「今回は魅せる守備の安達より堅実な守備の後藤を選んだ。そう言う事だ!」
後藤「てっきり俺が3年の事を考慮してと思っていました」
中西監督「大下はそうかも知れんが俺は実力第一で選んだつもりだ!」
後藤「不幸な俺をそんなに買ってくれるとは」

例の紅白戦以降、後藤は不運な奴と呼ばれていた。実際、あれ以降は不運な出来事は起こっていない。
安達(スタメンを奪うには後藤さんの守備技術を盗むしかないか)
真田「佐山さんや七瀬さんはどうなんですか?」
吉田「そうですよ。佐山さんは俺より上の選手ですし、七瀬さんだって新球を取得して斎藤に勝るとも劣らない投手になってるじゃないですか?」
中西監督「勝るとも劣らないと言う事は大して違いはないって事だ。斎藤をエースにしたのはあいつのポテンシャルには底知れない物を感じたからだ!」
七瀬(まあ、監督の言う通りだな。それにまだ新球も完全じゃないし)
真田「それじゃ、佐山さんは確かに足は僕が速いですけど吉田より打撃は良いですよ?」
中西監督「あいつは代打として起用する事にした」
全員「あっなるほど!」
大下主将「佐山は勝負強いしここぞと言う場面の代打ってのは良いアイデアだろう。俺が考えたんだぞ!!」
全員「……………………」
中西監督「いや、本当だぞ」
全員「ええっ!?」
大下主将「俺ってそんなに信用ないかな」
吉田「すみません。そう言う事をあんまり考えられるタイプとは思えなくて」
大下主将「これでも俺は学年トップの成績なんだぞ」
全員「ええっ!?」
吉田「本当ですか?」
七瀬「嘘に決まってるだろう。大下の成績は悪くもなければ良くもない。まあ、普通ってとこだな」
大下主将「本当の事を言うな!」
全員「なんだ(一瞬本気で信じそうになったじゃないか)」
中西監督「とまあ、佐山が控えなのはこう言った事情だ。引き受けてくれるか?」
佐山「ええ。だけどあれは良いんですか?」

あっちでは大下と七瀬がケンカをしていると言っても大下が叫び七瀬はそれを涼しい顔して受け流しているだけなのだが
大下主将「もう少しで俺のキャプテンらしい威厳が復活したのに」
七瀬「はいはい(元々、そんな物はないと思うがな)」

中西監督「放っておけ」
佐山「……はい」

真田「今気付いたんだけど斎藤は?」
吉田「あいつは風邪で休みだと言っただろう」
真田「そうだっけ?」
吉田「見舞いに行ってエースナンバーを取った事を教えてやらないとな」
真田「斎藤はもう分かってるんじゃないかな」
吉田「それでもやっぱり不安はあると思うぜ。決めるのは当人じゃないからな」
真田「そうだね。僕もいきなりレギュラーに選ばれるとは思わなかったよ」
吉田「俺だって同じさ。佐山さんや大杉さんを抜いていきなりレギュラーとはって感じだよ」

かくして夏の大会のメンバーも決まった。そして休んでいる斎藤にこの事を伝えに行く。

喫茶店MOON
斎藤「そっか、ありがとな」
真田「いやあ、僕はメロンが良いと言ったんだけどバナナにしたよ」
吉田「だからメロンは高すぎるっての、手持ちの金じゃ買えん」
斎藤「(レギュラーが決まった事を伝えてくれた礼だったんだけど)見舞いの品もありがたくもらうよ」
月砂「だけど大した物ね。あんた達、全員、レギュラーなんて」
斎藤「まあね」
真田「ふっ、当然だね!」
吉田「嘘つけ。さっきレギュラーに選ばれるとは思わなかったって言ってたじゃないか」
真田「僕は過去を振り返らない主義なんだ」
吉田「嘘くさいけど、突っ込まないでやるよ」
月砂「それで1回戦の相手は?」
真田「…………何処だっけ?」
斎藤「………………」
吉田「風雲高校(ふううんこうこう)だよ」
月砂「そこは強いの?」
斎藤「いや、聞いた事のない高校だし?」
吉田「普通だってさ」
斎藤「普通ね」
月砂「まずはそこに勝たなきゃいけないのね」
斎藤「だね。それまでには風邪も治るだろうし」

こうして夏の大会が始まった。

赤竜高校
中西監督「いよいよ夏の大会も始まりだ。初戦の相手は風雲高校だ。まず注意するのは今年入った1年の村雨剣だ!」
斎藤&真田&吉田「ええっ!?」
中西監督「知り合いか?」
斎藤「俺の幼馴染です」
中西監督「なるほど、なら斎藤に説明してもらおうか」
斎藤「中学時代は守備が凄くうまくて打撃も良かったんですけど」
全員「手短だな」
斎藤「高校に入ってからはどれだけ成長したか分からないですから?」
中西監督「打撃はうちの大下クラスだ。守備に関しては斉天高校の嘉神を上回るほどの選手だ!」
全員「凄い1年ですね!?」
中西監督「うむ。後は2年の山根と主将の遠藤だな。山根はミートだけでなくパワーもあるらしい。遠藤の変化球は相当の物らしい!」
全員「話を聞いてるとかなり強そうに感じるんですが」
中西監督「うむ。この3人は名門並のレベルだな。しかし他のスタメン選手は普通より少し下ってレベルだからな。総合的には普通だろう」
全員「なるほど」

−地方大会1回戦 地方球場−
1年 真田 和希
後攻 先攻
赤竜高校 風雲高校
投手力 機動力 投手力 機動力
打撃力 守備力 VS 打撃力 守備力
意外性 経験値 意外性 経験値
総合力 総合力
六車 劉蔵 3年
3年 間宮 亮太郎 堅田 尚 3年
3年 大下 真二 村雨 剣 1年
2年 相良 京一 山根 信広 2年
1年 斎藤 一 遠藤 泰徳 3年
2年 嵯峨 蓬 小見山 敏 2年
2年 玖珂 良雄 吉岡 勇治 1年
1年 吉田 毅 戸倉 漣 2年
3年 後藤 猛 石田 勉 1年

村雨「と言う訳で知り合いに挨拶に行ってきます」
遠藤主将「何がと言う訳なんだ?」
山根「さあ?」
氷室監督「意味不明なのはいつもの事だ」
全員(相変わらず威厳がないな)

と言う訳?で村雨が斎藤に挨拶に行く。
村雨「おひさー!」
斎藤「おひさーじゃねえよー! 大馬鹿野郎!!」
村雨「効いた。耳が痛い!? つうか何で怒ってんの?」
斎藤「親友の俺に何処の高校に行ったか教えてくれないってのはあんまりじゃないか?」
村雨「だってさ。家に来なかったし知ってるかと思って」
斎藤「うっ!? だってお前の家に行くとなー」
村雨「爺ちゃんが居るからダメと」
斎藤「はい。その通りです」
村雨「斎藤は変わんないなー」
斎藤「お前にだけは言われたくねえよ」
村雨「宿命の対決、親友VS親友、運命と書いてさだめと読む〜♪」
斎藤「相変わらず意味不明な事を」
村雨「じゃあね♪」

そう言って去って行く。
吉田「何かすんごく変わった奴だな」
全員(コクッコクッ!!)

全員が無言で2度頷く。

放送席
霞「今年も甲子園に向けての地方戦が始まりました。アナウンサーは私事、( わたくしこと )白銀(はくぎん)弾丸(だんがん)、白銀霞で( しろがねかすみ )す!」
武藤「白銀(はくぎん)弾丸(だんがん)と呼ばれてるのはあなたのお兄さんでしょう」
霞「細かい突っ込みは放置しまして解説は阪急ブレーブスで活躍した。武藤小太郎( むとうこたろう )さんです!」
武藤「放置ってどうせ俺は活躍したとはっきり言えるほどじゃない選手ですよ!!」
霞「ご謙遜を兄が言ってましたよ。運も実力の内だって」
武藤「やっぱりそういう覚えられ方なのね」

1回表 赤0−0風 夏へ向けての初戦
斎藤「たあっ!」

ズバ―――ン!
六車「ぬうっ!?」

霞「まずは130キロのストレートで三振と斎藤君、1年生ながら速い球を持っていますね」
武藤「確かに1年生にしては速いですがストレートだけで風雲高校は抑えられないでしょう!」

堅田「どうした見てて打てない球とは思えなかったんだが?」
六車「分からん。気が付いたら三振してた?」

斎藤「村雨の前にランナーは出したくないな!」

ズバ―――ン!
霞「続く堅田君も三球三振!」
武藤「抑えられていますね。思っていたよりノビてるのかな?」
霞「今のところ武藤さんの解説は期待できないようなので後半に期待しましょう」
武藤「…………頑張ります」

堅田「村雨、あの投手の球って?」
村雨「言い忘れていましたが斎藤のストレートは無茶苦茶ノビるんで1打席目は球筋を見ていった方が良いですよ」
六車&堅田「それを早く言わんかいっ!」
村雨「耳が痛いっス!?」
大下主将「早くボックスに立って欲しいんだが」
村雨「アイアイサ―!」
大下主将「アイアイサ―!」
全員「何をやってるんだか?」

霞「1年生の村雨君、妙な儀式をやってバッターボックスに入ります!」
武藤「あれは儀式と言わないと思うんだが?」
斎藤「村雨―――例えお前でも打たせん!」
村雨「斎藤との勝負、この為に風雲高校に来たんだ!」

ズバ―――ン! ブ―――ン!
霞「速いっ135キロのストレートでまずは1ストライク!」
武藤「ミートのうまい村雨君があれだけ振り遅れてると言う事はあのストレートはかなりノビてるんですね」

斎藤「相変わらず良いスイングしてるな」
村雨「やっぱり凄いな斎藤は中学の頃より更に凄くなっている!」

カキ―――ン!
間宮(シュッ! タッ!)

パシッ!
霞「三遊間を抜けると思いましたが間宮君のファインプレーで3アウトチェンジです!」
武藤「良いカーブだったんですけど綺麗に打ちましたね」

斎藤「危ねえ。緩急を付け様として投げたのに易々と打ちやがった!?」
村雨「あの遊撃手、なかなかやるな!」
大下主将「こりゃリードするのが大変だな」

1回裏 赤0−0風 無名だがプロのスカウトも注目している投手がマウンドに向かう
遠藤主将「うらっ!」

スト―――ン!
真田「うなっ!?」

霞「凄い落差のフォークで三振です!?」
武藤「遠藤君は無名ですがフォークの落差は高校トップクラスでプロのスカウトも注目しているほどの投手なんですよ!」
霞「どうしてそんなに凄い投手が無名なんですか?」
武藤「実力はあるんですが勝ち星に恵まれないせいか無名なんですよね」
霞「武藤さんとは正反対の投手と言う事ですね」
武藤「それは実力もないのに活躍したと言う意味でしょうか?」
霞「いえいえ。他意はないので気にしないで下さい」

真田「あんなに落ちるフォーク、どうやって打てば良いんですか?」
間宮「落ち際を拾う様に打つとかかな」

さすがに間宮もあんな落差のフォークは初めてでどうやって打てば良いのか分からなかった。
中西監督「うむ。間宮が言ってた様に落ち際を狙うかフォークを捨てて別の球を狙うか後は球数を投げさせて落差をなくさせるかだな」
大下主将「待球作戦で行きましょう!」
相良「俺は嫌ですね」
大下主将「そうか」
相良「とは言っても負けるのはもっと嫌ですからそれで行きますけど」
大下主将「うむ」

遠藤主将「ふんっ!」

スト―――ン!
間宮(本当に凄い落差だな!?)

霞「続く間宮君もフォークを見逃し三振!」
武藤「しかし見てるとフォークばかり投げてますね。このペースじゃいずれスタミナが尽きますよ」

遠藤主将「くらえ!」

ズバ―――ン! ブ―――ン!
霞「大下君はストレートを空振り三振しチェンジです!」
武藤「バットとボールが天と地ほど離れてますね。あきらかにフォークを待ってましたと言わんばかりのスイングです」

相良「三球三振って作戦はどうしたんですか?」
大下主将「あんまり凄い落差なんでつい打ってみたくなってな」

この後、斎藤も遠藤も単打は打たれるが失点はせずに抑えて行く。そして、試合が動くのは

6回表 赤0−0風 村雨と3度目の対決!
霞「ここまで投手戦が続いております。これじゃ1点を奪った方が勝ちそうですね」
武藤「後3回ありますしまだ分かりませんよ」

斎藤「ここまでは俺が完全に抑えている!」
村雨「ここまで3打数ノーヒット、1三振か、さすがは斎藤、こうじゃなきゃ敵にまわす意味はないな!」

ズバ―――ン!
霞「まずは空振り1ストライク!」
武藤「初球はほとんどストライクから入ってますね。大下君のリードらしいです!」

村雨「さすがに4打席目でかすりもしないのは情けないなもっと速く振らなきゃ!」

カキ―――ン!

バットをコンパクトに振って当てる事に集中しそれを真芯でとらえ打球はスタンドへ入ってしまった!
斎藤「…………何っ!?」

霞「なっなっなーんと!? 入りました勝ち越しホームランです!!」
武藤「驚きすぎでしょう」
霞「さっき話してたばかりなのに入るとは思わなかったものでこれで今日は風雲高校の勝ちになるんでしょうか?」
武藤「いえまだ決まったわけじゃ」

村雨「ふっふっふ、運も実力の内だよ」

本来なら芯に当たってヒットが良い所だが真芯に当たった為、更に打球が伸びてスタンドへ入ったのは運によるものだろうと村雨は考えた。
斎藤「公式戦の初失点被本塁打は村雨か」

ズバ―――ン!
山根「これで4打席連続三振か」

ズバ―――ン!
遠藤主将「ぬうっ!?」

カキ―――ン!
吉田「おっと!」

パシッ!
小見川「ちっ!」
霞「村雨君にホームランを打たれた物の後続は三者凡退に抑えます!」
武藤「ホームランを打たれて動揺してましたからここはじっくりボールを見て行くべきだったんですが山根君と遠藤君の早打ちのせいで立ち直ったみたいですね」
霞「まあ、結局見てても結果は一緒だと思いますが」
武藤「え? 何故そう思うんですか?」
霞「女の勘です!」
武藤(何と答えたら良いんだろうか?)

大下主将「さすがは斎藤だな。良く1失点で抑えた!」
斎藤「山根さんと遠藤さんは選球眼がさほど良くないみたいですね。ボール球をガンガン振りに来てました。そのおかげで1失点ですみました」

6回裏 赤0−1風 1部の人間を除いて待球作戦を続けて来ている
遠藤主将「きついな」
石田(キャプテン、ずいぶん疲れてるな。ストレートを投げる様に言ってるんだけどな)
遠藤主将(ブンブン)

ストレートのサインを見た途端クビを大きく横に振る。
真田(それにしても分かりやすいな。クビを横に振ったら確実にフォークとは)

真田はフォークを狙ってスイングする!

スト―――ン!
霞「三振! 遠藤君、またもやフォークボールで三振を奪います!」
武藤「しかしフォークのキレが落ちていますね」

真田「もう頃合です。あの程度のフォークとっとと打っていきましょう」
間宮「とは言っても少し落ちてるだけだろう。もう少しスタミナを削らないと」

ズバ―――ン!
遠藤主将「うっ!?」

霞「続く間宮君にはストレートのフォアボールです。しかし遠藤君はフォアボールが多いですね」
武藤「そうですが今までのフォアボールはフォークが落ちすぎてだったんですか今のフォアボールはあきらかに違いますよ」

相良「もう頃合ですね。キャプテン、ここはヒットで良いですよ!」
大下主将「任せとけ!」

カキ―――ン!
霞「続く大下君はフォークをライト前に打ちます!」
武藤「次は相良君ですしここは敬遠でしょうね」

石田「この打者は歩かせましょう」
遠藤主将(コクッ)

遠藤は無言で頷き相良は歩かせる。
相良(やはり俺は敬遠か――――――さてどうなるかな?)

霞「これで1アウト満塁です」
武藤「まあ正解ですね。4番の相良君より1年の斎藤君と勝負した方が正解ですよ」

斎藤「このチャンスは必ず生かす!」

カキ―――ン!!!
遠藤主将(!?)

霞「入りました――――――満塁ホームラン!?」
武藤「―――信じられん。あの飛距離は本当に1年生ですか!?」

打球はスタンドを越えて場外へと運ばれる。ちなみに推定140mと言う飛距離らしい。
斎藤「イエーイ!」

相良「本当に期待を裏切らない奴だな!」
大下主将「頼もしすぎて逆に怖いな(敵に回すとこいつほど恐ろしい奴はいないのかも知れん)」
七瀬「さすがに俺からエースを奪っただけはある」
後藤「打者としての活躍でエースは関係ないと思うけど」

嵯峨&玖珂&吉田&後藤(シュッ!)

カキ―――ン! カキ―――ン!
カキ―――ン!
 カキ―――ン!
遠藤主将「ぐうっ!?」
石田(まずい、もう限界だ!?)

続く嵯峨、玖珂、吉田、後藤に連打をくらい遠藤は降板し続く2番手投手も滅多打ちをくらう。

7回表 赤10−1風 もう後がない風雲高校
氷室監督「こりゃダメだな」
村雨「監督が真っ先に諦めてどうするんですか?」
氷室監督「そうなんだが、あの投手から1イニングで点を取るのは難しい。こうなったら奇跡にでも頼るしかないな」
山根「奇跡って?」
氷室監督「相手投手が運悪くケガするとか」
小見川「このオッサン乱闘させる気かよ」
氷室監督「恐ろしい事を言うなよつうか俺はまだ20代だ!」
吉岡「それでオッサンじゃなくて監督、俺はどうすれば良いんですか?」
氷室監督「ミートの下手な吉岡からか――――――ホームラン打って来い」
六車「このオッサン、何も考えてないな」
氷室監督「考えとるわい! ただボールを良く見て振って行けと言いたかっただけだ。それと3年のお前達に取っては最後の試合になるかも知れん。だから思いっきり振って行けと言おうとしたんだ」
全員「……………………」
小見川「なんだちゃんと言えるんじゃないか」
六車「そりゃ威厳がなくとも監督だからな。なあ遠藤!」
遠藤主将「ああ。吉岡、お前はミートが下手だが1年とは思えんパワーがある。一発狙って行け!」
吉岡「はい!」
氷室監督(ほらな俺が言ってる事と変わらんじゃないか)

斎藤「下位打線とは言え気をつけて行かないと!」

吉岡「うらっ!」

ガキッ!

霞「これは高く打ち上げライトフライ!」
武藤「芯を外した割には良くノビましたね」

斎藤「まずは1人と!」

吉岡「すみません。討ち死にしました」
遠藤主将「仕方ない。次は戸倉だな。お前は足があるしミートもうまいここは粘って来てくれ!」
戸倉(コクッ! タッタッタッ!)

無言で頷きバッターボックスに走って向かう。

ククッ!
斎藤「外れたか」

霞「戸倉君は粘った末のフォアボール!」
武藤「少なくともこの回に3点は取らなきゃ行けませんからああ言うプレーは正解ですよ!」

戸倉「役目は果たした。続け!」
遠藤主将「えっと石田は?」
石田「代打ですか?」
氷室監督「ベンチにいる奴より石田の打撃の方がまだ上だろう」
遠藤主将「そうですね。悪いんだが苦手なバッティングだがここは頑張ってくれ!」
石田「はい!」

ズバ―――ン!
大下主将「くっ!」

ビュ―――ン! パシッ!
戸倉「ふう」

霞「初球いきなりの盗塁でしたが見事に成功しました!」
武藤「大下君はさほど肩が良い訳じゃありませんからある程度の足があれば盗塁は成功します。ここは戸倉君の判断が良かったですね」

氷室監督「盗塁の事は考えなかったな」
遠藤主将「俺もです。併殺に倒れば終わりですから戸倉の判断は正解ですよ」

ガキッ!
霞「2−3から振りますがセカンドゴロに倒れます!」
武藤「斎藤君が追い詰めましたね!」

斎藤「しぶといな。これは次の打者にも気をつけないと!」

氷室監督(戸倉が2塁にいなかったら併殺で終わってたな)
石田「打てませんでした」
遠藤主将「六車、これが最後の打席かも知れん。気持ちだけは負けるな!」
六車「ああ!」

カキ―――ン!
霞「これはレフトへの大きな当たり!」
武藤「抜ければ1点は確実ですね!」

吉田「ふんっ!」

タッ! バンッ! パシッ!
真田「おっ! ちゃんと捕ってる!」

霞「―――アウトです。試合終了です!」
武藤「あれを良く捕りましたね」

六車「―――終わったな」
堅田「―――ああ」
遠藤主将「最後こそ甲子園と思っていたんだがな」
村雨「…………」
戸倉(フルフル)

村雨が声をかける前に抑えクビを横に振る。
山根「今はそおっとしとこう」
村雨「―――はい」

こうして赤竜高校が勝利し風雲高校は敗北した。

定食屋

とりあえず1回戦を勝った事で珍しく中西監督のおごりで夕食を食べて帰る事になった。
中西監督「と言う訳で代金は俺が持ってやるから遠慮なく食べろ」
全員「は〜い♪」
中西監督(はあ、ガキだな)

こうして和気藹々と食事をする。
斎藤「疑問なんだけどここの定食屋の名前何て言うんですか?」
大下主将「知らん。だから俺達は定食屋と呼んでいる」
斎藤「まんまですね」
大下主将「分かりやすくて良いだろう」
斎藤「分かりやすいのは否定できないけど」
相良「疑問に思うのは多分当然だと思うが忘れろ。ここの主人が教えてくれないんだ」
斎藤「その人は何処に?」
相良「さあな」
斎藤「と言うか料理を運ぶ人も見た事ないんですが気が付いたら料理が置いてあるし?」
真田「世の中可笑しな事もあるもんだね」
吉田「可笑しいですむ問題じゃないと思うんだが?」
相良「俺も1年前はお前らと同じ様に考えたよ。そして1年たったら何も気にしない様になったな」
斎藤(狐にでも化かされてるのか……それともこれは七不思議か?)

喫茶店MOON
月砂「へえ、あのお店に行ったんだ」
斎藤「姉貴もあの店行った事あるの?」
月砂「まあね。私も2年くらい前までは行ってたし、しかし狐に化かされるね。クスッ」
斎藤「姉貴何か知ってるの?」
月砂「う〜ん、別に」
斎藤(何か知ってて隠してる感じだな)
月砂「しかし初戦で剣君と出会うとはね」
斎藤「俺の方が驚いたよ。あいつと戦うとは思ったけど初戦とは思わなかったからな」
月砂「これで剣君は秋まで試合なしか」
斎藤「多分ね。だけど練習はこっちとは比べ物にならないくらいやるんじゃないかな」
月砂「曖昧な表現ね」
斎藤「仕方ないだろう。風雲高校の練習内容なんて知らないんだから」

この後も赤竜高校は苦戦なく順調に勝ち上がって行く。