第55章 新たなる日々

−1997年 1月−
年も明けて斎藤は巨人寮へ来ていた。案内しているのはかつてのライバルと言うかこれからは頼りになる先輩の嘉神だった。
嘉神「俺が首位打者の嘉神様だ。遠慮なく嘉神様と呼びたまえ!」
斎藤「そう言うキャラだったんですか?」
嘉神「冗談だ。お前の部屋は俺の隣でそのまた隣が堺だ。そういやお前ら知り合いだって聞いたが本当なのか?」
斎藤「まあ中学、高校と離れてましたが会ってからはいつも通りって感じですね」
嘉神「ほほう。リトルからバッテリーが復活したと言う訳だな!」
斎藤「そう言う事になりますね」
嘉神「知っての通りチームのエースはタイトル獲った妹尾さんだ。相手は手強いが頑張れよ!」
斎藤「いきなりエース奪える自信はありませんが努力します!」
嘉神「新人王に一番近いのは石崎って話だがさすがのあいつも竜崎さんからエースを奪うのは難しいだろうな」
斎藤「難しさはこっちも同じですけどね」
嘉神「河島は置いといて天野は1年目でエースになったぞ! まあどっちもタイトル奪えそうなピッチャーは少ないから1年目でエースは当然と言えば当然か」
斎藤「問題発言だと思いますが……それにオリックスは日本一のチームだし」
嘉神「あそこはバッティングが凄かったんだよ。スタメン3割打者が6人って有り得ないだろう!」
斎藤「確かに」
堺「今年の新人王本命ゴールデンルーキーの堺君です! どうぞよろしく!」
嘉神「今年は若いのが2人と生きが良いね! しかも期待大と来ているとマヌエルさんや安田さんは大変だな」
橘「未来のエースと正捕手が来たか」
神代「久し振りだね」
嘉神「って知り合いなんですか?」
神代「ちょうど1年くらい前に自主トレで会ったんだよ」
斎藤「そうでしたね(すっかり忘れてたよ!?)」
堺「しかし首位打者に盗塁王にMVPと豪華なメンバーが寮にいるんですね」
嘉神「俺達はまだ若いからな」
神代「まだ20代だけど7年目と僕は若手と言うよりは中堅かな」
橘「俺は5年目と中堅に入った感じかな」
斎藤「全員野手か」
神代「まあ有名な先発は家に住んでるからね」
堺「神代さんは引っ越さないんですか?」
神代「そうだね。今年タイトル獲れたら考えて見るよ」
嘉神「MVP獲ったと言え打撃部門のタイトルはまだないですからね」
神代「まあ槙原さんや籾山さんも来たし意外とチームメイトが最大のライバルになるかもね」
堺「2人共ファーストですけど、どっちがスタメンになるんですかね?」
橘「成績から言えば槙原さんだろうな。それに籾山さんってサードも守れたからそっちにコンバートかな?」
斎藤「どっちにしろ凄い打線で投げれば結構勝てそうですね!」
堺「俺は当然新人王を狙うが斎藤は?」
斎藤「まずはローテーション入りして新人王と沢村賞かな」
嘉神「エースは無理でも沢村賞は獲る気かよ?」
斎藤「あくまで獲れたら良いなですよ」
神代「ははっ、ルーキーで沢村賞は少ないけどいる事はいるね。ただ、沢村賞獲るなら投手部門のいくつかのタイトル獲らないと厳しいかな」
橘「さすがはドラフト1位だな!」
堺「俺もいずれは首位打者獲りたいと思うけど……そう言う意味じゃ嘉神さんと橘さんと争う事になると仲間内でも油断はできないな」
神代「本当に今年のルーキーは大物だね」
橘「昨年も大物でしたけどね」

当初は野手達と友好を深めるが自然に投手陣とも仲良くなりと斎藤は順調なスタートを始めた。そして自主トレと言う事でいつもの3人組+2人追加で昨年と同じ合宿所に向かうのだった。

合宿所
堺「投手、捕手、内野手、外野手と見事なまでにバラバラだな」
村雨「効率が悪そうだね」
斎藤「うっさい! まあ俺と堺でピッチング、お前らはバッティングで良いんじゃないか」
堺「バッティングはできないのか」真田「走塁はダメなのか」
吉田「まあ普通にやりたい事やれば良いんじゃないか」
堺「ま、俺達もプロになったんだしマイペースでやれば良いよな!」
真田「では走って行きます!」村雨「では守って行きます!」
吉田「それじゃ俺は打って来るわ」
堺「それじゃこっちも投げ込みと行くか!」
斎藤「打ちたいんじゃなかったのか?」
堺「なんかバラバラだしお前に付き合ってやるよ!」
斎藤「ありがとう(しかしみんなマイペースだよな。個性的って事かな。これって良い事なんだろうか?)」
吉田「うおっ!」

カキ―――ン!
村雨「まあ外野の出場が多そうだしこれでもいっか!」

パシッ!
真田「走るぞ!」

タッタッタッ!
斎藤「行くぞ!」

ズバ―――ン!
堺「ナイスボール!(仕上がりが早過ぎるのが気になるが斎藤は昔から体調管理が良かったし大丈夫だよな?)」

ビュ―――ン!
斎藤「そんなに強く投げるなよ」
堺「送球練習だよ」

効率の悪そうな練習だが伸び伸びと斎藤達は自主トレをして行くのだった。
名雲「ほう。今年のルーキー達もいるな」
嘉神「あいつらもここだったんだな……そう言えば神代さんが自主トレした時に会ったって言ってたな」
高須「神代か」
相良「グループとは関係ないだろう」
嘉神「そう言う事!」
高須「神代だけでも聞くとな」
宗介「神代さんは関係なかったんだろう?」
嘉神「いや家の事は毛嫌いしている感じで大した事は聞けなかった」
名雲「総帥とは犬猿の仲と聞いているし関係ないと思うが」
嘉神「まあ毛嫌いしてるのは事実だったしそう言う事に関係しているとは思えないな!」
河島「思ったんだけどさ。いっその事あいつらにも話して協力してもらったらどうかな?」
高須「堺は天狼出身だったな」
嘉神「関係はしていないと思うけどな」
宗介「どっちにしろ巻き込みたくはないな」
名雲「そう言う事だ。それに自主トレで来たんだ。野球に集中するぞ!」
宗介&嘉神&高須&相良&河島「おう!!!!!」

遠くて何を話していたかは分からないが遠目でもその姿は分かると斎藤達は当然ながら驚いていた。
斎藤「なんであの人達が!?」
吉田「昨年も神代さんが自主トレしてたしあの人達が来てもそんなに不思議じゃないだろうけど」
真田「これで練習効率が良くなると言うかタイトル獲った人達ばかりだし一緒に練習したら絶対に参考になるだろうしサインも欲しいし行こう!」
村雨「異議なし!」堺「同じく!」

当然のように一緒に練習する事になると斎藤達は一気に効率の良い練習と言うか参考になる練習をして行くのだった。

ピッチング練習
河島「うらっ!」

ズバ―――ン!

とんでもなく速いストレートがストライクゾーンを大きく外れて行く。
宗介「あれは真似しなくても良いから」
斎藤「はあ?(……知ってるつもりだったけど改めて見るとバッターには恐ろしいピッチャーだよな)」
宗介「お前と俺のストレートは違うが握りは似ているな。投げる時の回転が少し違うのかな?」
斎藤「分かりませんが同じノビのあるストレートを投げるし似ていても不思議じゃありませんね」
宗介「……ちなみに河島は普通の握りであれだけどな。多分、石崎も同じタイプかな。河島と違って暴発する恐れはないし石崎の方がプロ向きかな」
斎藤「そこは自滅じゃないんですね?」
宗介「あいつの場合は自滅とか自爆より暴発って感じだな」
斎藤「まあデッドボールが多かったし危険球退場もありましたからね」
宗介「あいつと組むキャッチャーは内野や外野よりも大変かもな」
斎藤「四死球はリーグワーストでしたからね」
宗介「信じられないだろうがあれでも高校時代よりコントロールは上なんだよな。あれで良く15も勝ったもんだ!?」
斎藤(何か知らんが最多勝獲った人が言うと説得力があるな)

斎藤は宗介から投球術を盗み河島からは…………まあ度胸や不屈の精神をもらったと言う事にしておこう。
河島「むう!」
斎藤「どうかしたんですか?」
宗介「またどっかの電波を受信したんだろう?」
斎藤「……プロって大変なんですね」
河島「そんな訳ないだろうが―――!」
斎藤「っ!?」
宗介「驚いて倒れたな。少しは手加減してやれよ」
河島「こっちも手加減して下さい」
宗介「はいはい」

リード練習
名雲「リードはこんな感じだな」
堺「俺とは正反対ですね」
名雲「慎重になるにこした事はないがそれで実力を発揮できないピッチャーもいるからな。敬遠した後に崩れるピッチャーも多いだろう。勝負に行かない事でメンタル面を崩す事も結構あるからな」
堺「プロだし気持ちを立て直す事くらいできると思うんですが?」
名雲「強い人間もいれば弱い人間もいるさ。それをどう生かしてやるかが俺達の仕事だ! お前のリードが悪いとは思わないがルーキーなんかこれで潰れてしまうかも知れないぞ!」
堺「参考になります!」
名雲「それじゃここにいる3人のピッチャーをイメージしてリードして見ようか、バッターはあいつらをイメージしてやって見るか」
堺「うっす!」

堺は名雲の大胆なリードを自分の中に組み込んで行く。特に名雲はメジャー経験のあるバッターも見た事があり十分な参考となって進んで行った。

バッティング練習
真田「吉田はキャッチャーの勉強しないの?」
吉田「まあ出場機会が多そうなのは外野で最初は代打だろうしバッティングを磨いて行くよ!」
村雨「こっちも同じくだな。まあ守備練習もしたいけど、まずはバッティングからだ!」
高須「あいつらはアベレージヒッターだから長打よりも単打を意識して打った方が良いかな」
相良「だろうな。まずはマシン打撃で見て行くか」
嘉神「首位打者にしてゴールデングラブ賞の俺の出番って訳だな」
高須「そうだな。癖とかあれば指摘はできるけど」
相良「修正するのに時間はかかる。確かに嘉神に任せた方が良さそうだ」

カキ―――ン! カキ―――ン! カキ―――ン!
村雨「わっははは!」

嘉神「欠点が見当たらんな。風祭に匹敵するバッターってのは本当らしい」
高須「ミート範囲が恐ろしく大きいな。センスだけ取れば3人の中でも一番か」
相良「これでそこそこ長打力もあるしスタメン獲得は時間の問題かも知れないと」
嘉神「間違いなく即戦力だな」

カキ―――ン! カキ―――ン!
吉田「こんな物かな」

嘉神「悪くはないが、村雨と比べるとミートは落ちるな」
高須「しかし長打力は高いと勝負強さがあれば1年目から使えそうだ」
相良「しかし開幕1軍は難しいかも知れないな」
嘉神「まだまだ発展途上だしキャンプやオープン戦の結果次第だろう」
高須「俺が教えられるところも多そうだしコーチに助言して見るよ」
相良「俺に取っても大事な後輩だし教えられるところは教えてやるかな」

カキ―――ン!
真田「ふう」

嘉神「2人と比べると落ちるな。しかしこいつの持ち味は足だしな」
高須「一番粗さが多いし教えがいがありそうだ」
相良「別に非力って訳じゃないしリストの使い方を教えたら上達するんじゃないか?」
嘉神「そうだな。ゴロを打って内野安打を量産と野村さん見たいなバッティングが合っているかと思うんだが」
高須「足の速さはプロでもトップクラスって既に言われてるしそれで良いんじゃないか」
相良「それじゃそう言う方向で行こうか」

若手とは言えタイトル獲ったバッターの助言は確かで技術面でも成長して行く3人だった。

旅館
斎藤(やっぱり寒いな……明るいとまだ起きてるんだ?)
嘉神「……こんなところだな」
高須「浩二さんに相談した方が良いかも知れないな」
名雲「いや、向こうも忙しそうだしな」
河島「うーむ。宗崇に話しとくか」
宗介「いや、あいつは知らない事だ。それに巻き込みたくはないしな」
相良「……神代家か」
斎藤(神代家って……神代さんの実家……神代グループの事かな?)
堺(うーむ。何を話してるのかさっぱり分からんな?)
斎藤「っ!?」
堺「ひそひそ(静かにしろって近所迷惑だぞ)」
斎藤「ひそひそ(なんでお前がここにいるんだよ)」
堺「ひそひそ(ふっ、お前と同じさ)」
斎藤「ひそひそ(トイレ行った帰りなのねっと格好付けて言うセリフじゃないだろう!)」
嘉神「まあ立ち聞きは仕方ないとしてもだ。そうやって話していると盗み聞きになっちまうし入ったらどうだ?」
斎藤&堺「っ!?」
堺「違うんです! 俺はとっとと部屋に戻ろうと言ったのにこいつがもう少しここにいようと言うもんで説得してたら」
斎藤「真顔で大嘘言うなよ!」
名雲「まあ気配で分かってたし別に気にしなくても良いぞ」
堺「気配っすか? やっぱりプロの一流ともなると凄いんですね!?」
河島「いや気配なんてむぐっ!?」
相良「まあな!」
宗介「明日と言うか日付じゃ今日か、とにかく練習があるから部屋に戻って休んでろ!」
斎藤「はい」
堺(気になるけど仕方ないか)

神代グループ
零「なるほど、君達の言いたい事は分かった。でもね。これは絶対的な命令でありできないと言うなら君達は用済みと言う事になるんだよ」

電話の相手からは明らかに畏怖する気配が伝わって来るが神代零は普段の口調のまま穏やかに話して行く。
遊佐「くっくっく」
壬生「不謹慎だぞ」
零「分かってくれて嬉しいよ。それじゃ…………やれやれ」
遊佐「元々不可能な話でしょう。そりゃ相手だって文句くらい言いますよ」
零「してくれなきゃ計画の全てはぶち壊しだ。その為にはオカルトだろうとSFだろうと何でも利用するよ」
遊佐「ははは、さすが我らのご主人だ。計画の為ならそれこそ何だってやると」
零「さてね。少なくとも善人と呼ばれはしないだろうけど」
壬生「真の意味で善人と言う者は存在せんでしょう」
零「壬生君が言うならそうなのかもね。計画には君達の力も必要だし期待してるよ」
遊佐「駒の役目くらいは果たしますよ。それでひねくれ者のキングは大丈夫なんですか?」
零「彼に取って大切な事だからね。それは慎重にさせてもらってるよ。しかしキングと言う呼び名はどうかな?」
遊佐「……計画の理由の大半はあいつの為と思ったんですが?」
零「彼の為でもあり私の為でもあると言いたいけど私の本質はエゴイストだから彼の為ではないかも知れないね」
遊佐「そうですかね?」
壬生「自身の事が理解できるのは自身のみ」
遊佐「断言するのな」
零「どっちにしろまだまだ先の話だよ。それまでよろしく頼むよ!」
遊佐「了解しました!」壬生「言われるまでもありません!」

神代零達が謎の話を進めて行くが斎藤達は知る事もなく宿敵の風祭もかつての仲間と共に自主トレを終えていた。

グラウンド
風祭「自主トレもいよいよ終わりか」
直人「結構良い感じで終わったよな」
風祭「次はキャンプだがお前らは大丈夫なのか?」
大沼「俺は下からって話だからな」
藤井「お前らは1軍か―――ま、俺達もすぐに追い着いてやる!」
直人「全員敵同士と少し複雑だけど楽しみでもあるな。上がって来るの楽しみにしてるぜ!」
藤井「おう!」
大沼「………………」
風祭「どうした?」
大沼「佐助の奴も指名されてたらなと思ってな」
藤井「あの不気味笑いも近くにいなければ寂しくはならないけど」
直人「まあ言いたい事は分からなくもないけどさ」
風祭「あいつの実力なら大丈夫だろう。指名されなかったのが不思議なくらいだからな」
大沼「野球センスはあったからな」
藤井「俺達の2位指名も不思議なくらいだったからな」
直人「ポジションの違いかな?」
藤井「お前が言うと嫌味だよな」
直人「悪かったな!そりゃ確かに同じポジションだけどさ。俺より足は速いし他に指名された奴ともそんなに差はないし」
風祭「そんなにって事は劣っていると言う事を認める訳だな」
直人「うっ!?」
風祭「ま、バッティングで劣っているのは確かだしな」
藤井「俺が指名されたのもバッティングのおかげかな」
直人「他に何があるんだ?」
藤井「どうせ俺には一発か三振しかないですよーだ!」
大沼「拗ねるなよ」
風祭(プロになっても変わらないな。まあいきなり変わる訳はないし気楽で良いよな)
直人「どうした?」
風祭「次はキャンプだし気を引き締めて行こうと思ってな!」
大沼「自主トレも終わりなのにぐだぐだだからな」
藤井「まったくだ」
直人「………………」
風祭「ま、次はキャンプだし気を引き締めてな」

最後はあれだが各人有意義な自主トレとキャンプに向かって順調に進むのだった。今年は昨年と同じくルーキーの期待が高いと昨年と同じかそれ以上に1軍で活躍する選手は出るのだろうか?