第7章 無冠の王(後編)

−1994年 7月 下旬−
いよいよ今日は決勝戦、相手は県どころか全国でもトップクラスの実力を持つ斉天大附属高校!
結依「起きるのじゃ!」

バサッ!

聞きなれない声に反応してかいつも以上に早く目が覚める。
斎藤「…………結依さん? そうか泊まってたんだよな」
結依「ふむ。寝起きは良いな」
斎藤「まあ、朝には強いですけど、ところで今何時っすか?」
結依「朝の5時じゃな!」
斎藤「5時!? 何でこんな早くに?」
結依「今日の試合、先発じゃろう! なら早起きして調子を整えて行く物じゃろう!」
斎藤「試合の日に限らず俺は毎朝、普通に起きますけど」
結依「起きて食事をして5時間後が1番調子が良いらしいから今度からはもっと早く起きる様にした方が良いじゃろう」
斎藤「その意見は今度から参考にさせてもらいますけど」
結依「うむ。それでは朝食をとりに行くか」

こうして珍しく姉弟以外が混じって食事をとる事になった。
月砂「結依さん、お味はどうですか?」
結依「美味じゃ! 朝は和食と決めていたんだが洋食も良いもんじゃのう!」
月砂「そう、良かった」
斎藤(こんなしおらしい姉貴を見たのは始めてだな)
結依(こう言うふうに顔を合わせて食事と言うのも良いもんじゃな)

こうして結依さんを含めて食事し試合会場へ向かう。

赤竜高校
中西監督「いよいよ決勝だ。斉天は恐ろしく強い。赤竜高校(   うち   )より強いのは間違いない。しかし勝てないと言う訳ではない」
真田「監督、前置きが長いです」
全員「あっ!」

全員が頭で考えてた事を真田が言った!
中西監督「ようするにあっちの方が強いけど頑張ればきっと勝てる!」
真田「よーく分かりました」
中西監督「………………」
全員(監督のやる気が下がってるな)

−地方大会決勝戦 横浜スタジアム−
1年 真田 和希
後攻 先攻
赤竜高校 斉天大附属高校
投手力 機動力 投手力 機動力
打撃力 守備力 VS 打撃力 守備力
意外性 経験値 意外性 経験値
総合力 総合力
真貝 廉一 3年
3年 間宮 亮太郎 平坂 翔 3年
3年 大下 真二 嘉神 高政 2年
2年 相良 京一 高須 光圀 2年
1年 斎藤 一 八坂 健太 3年
2年 嵯峨 蓬 柚原 郁三 3年
2年 玖珂 良雄 相木 貴 3年
1年 吉田 毅 音田 春文 3年
3年 後藤 猛 佐伯 真敏 1年

斎藤「まさか、本当に1年でエースとはな」
佐伯「それはお前もだろう。とにかく今日はとことん投げ合おうぜ!」
斎藤「ああ!」

八坂主将「今日で最後の対決かな」
大下主将「今年こそは勝つ!」
八坂主将「ラストチャンスに賭けるか、また敗北を教えてやるぜ。真二!」
大下主将(これが健太との最後の試合かも知れん。主将として絶対に勝ってみせる!)

相良「今日は勝つ!」
嘉神「スタメンの3人が1年か」
相良「1年とはいえあいつらはやるぞ!」
高須「知ってる。ビデオで研究させてもらったからな」
相良「慢心はないって事か」
嘉神「そういう事、たっぷりと俺達の実力を見せてやる!」

大島監督「それでは今年も勝たせてもらいます!」
中西監督「そうそう、うまく行くかな!」
大島監督「ここ数年は一度も楽に勝てた試合はなかったですからね」
中西監督「慢心はないって事か」
大島監督「ええ!」

放送席
霞「いよいよ決勝戦が始まります」
武藤「と言っても甲子園行きが決まってたら盛り上がらないんじゃないですか?」
垣内「そうでもないですよ。少なくとも両高校はベストメンバーで試合を望んでいます」
霞「遅れながら解説には元球界の速球王、垣内栄治(かきうちえいじ)さんに来てもらいました」
垣内「よろしくお願いします」
霞「ここ数年はほとんど斎天大附属が優勝しておりますが両校の実力はどうなんでしょうか?」
武藤「そうですね。まず選手の多さが圧倒的に斉天大附属が多いですからね。私は斉天大附属が勝つと思います」
垣内「私も勝率と言う点では斉天大附属ですね」
霞「なるほど、2人共、斉天大附属が勝利すると」
武藤「はい」
垣内「いえ、私は赤竜高校に賭けます」
武藤「へ?」
垣内「私はいつも大穴狙いですから、まあ赤竜高校は立派な対抗馬ですから大穴とは言えませんけどね」
武藤「垣内さんって競馬好き?」
垣内「昔からギャンブル全般は好きだな」
霞「それで何を賭けるんですか?」
武藤「テレビの前でできるか!?」
垣内「今晩の夕食とか?」
武藤「垣内さん(  あんた  )も何言ってるんだー!?」

放送席でトラブルもあったがこうして試合が始まった。

1回表 赤0−0斉 いよいよ決勝戦が始まった
斎藤「斉天の1番打者か」
真貝「なかなか速くノビのある球を投げる投手だったな」
大下主将(真貝は足が速く選球眼も良い打者だ。思いっきり力勝負で行くぞ!)
斎藤(はい!)

斎藤は頷き初球を投げる!

ズバ―――ン!
霞「見逃し三振! まずは1番の真貝君を三球三振と見事な立ち上がりを見せます!」
武藤「1球も振らずに三振とは」
垣内「1打席目は斎藤君のボールに慣れる為に捨てたんでしょう」

真貝「手元でのノビが凄いな。普通に振れば振り遅れるだろう」
平坂「そうか」

ガキッ! パシッ!
霞「平坂君はバントで打ち上げ2アウト!」
武藤「平坂君もボールに慣れる為に打席を捨てたみたいですね。まさか嘉神君も?」

嘉神「平坂さんがバントで打ち上げるなんて珍しいですね(そんなに凄い球なのか?)」
平坂「やはり手元で凄くノビてるらしい。普通に振ったら1打席じゃかすりもせんだろう」

ガキッ!
霞「続く嘉神君も打ち上げ3アウトチェンジ!」
垣内「嘉神君も当てるだけのコンパクトのスイングですね」

嘉神「本当に凄いな(思いっきり速く振ったら当たったし)」

斎藤「………………」
大下主将「どうした?」
斎藤「いえ。1イニングで三振が1個もとれなかったもので」
大下主将「今までの試合でもあっただろう?」
斎藤「はい。しかし初回からこれじゃ今まで対戦したどの高校よりも上ですね」
大下主将「ああ。だからお前は出来る限り飛ばしてくれ。後ろには七瀬が控えてるしな」
斎藤「はい!」

1回裏 赤0−0斉 佐伯をどう崩すか
真田「と言う訳で師匠!」
七瀬「それはひょっとして俺の事か?」
真田「他に誰がいるんですか? それであの弟子はどうやって崩せば良いんですか?」
七瀬「そうだな。やっぱり決め球のクリティカルシュートを打てば良いんじゃないか?」
真田「どう打てば良いんですか?」
七瀬「知らん」
真田「ケチな事言わないで下さいよ。僕、全然活躍してなくて焦ってるんですから?」
全員「……………………」

全員が信じられない物を見る様な目をする。
真田「中学の時は3割は内野安打で打てたのに今は2割ですよ」
中西監督「お前にも学習機能があったんだな」
真田「でどうすれば打てるんですか?」
中西監督「お前が佐伯から打つのは無理だ!」
真田(グサッ!?)
中西監督「打つのは無理だが出塁は可能だ!」
真田「へ?」
中西監督「お前は足が速い。その特技を生かすんだ! ようするにバットに当てたら全速力で走れ!」
真田「――――――はあ?」

結局、いつも通り頑張れと言う事なのかと思い真田は打席に入る。
佐伯「どんなアドバイスをされたのかは知らないが俺の球は一朝一夕じゃ打てないぞ!」
八坂主将(―――さてと真田は内野安打で打率を稼いでいる。俺の見立てじゃ足の速さは県内トップだ。どう攻めるかな?)

ガキッ! パシッ! シュッ!

真田は言われた通り当てたら全速力で一塁へ走る!
柚原「嘘?」

霞「平凡なピッチャーゴロに見えましたが内野安打!」
武藤「飛んでもない足ですね!?」
垣内「現役時代の野村を見る様ですね」

真田「何でセーフになったの?」

吉田「凄え足ってか何でセーフになったんですか?」
中西監督「簡単な事だ。今まではフェアかファールか見てから走ってたが」
吉田「なるほど、今回は確認せずに走っていたからその分早くヒットになっていたと」
斎藤(しかしこんな博打みたいな打法はもう出来ないんじゃ?)

佐伯「くっ! 走って来るか?」
八坂主将「安心しろ。走ったら俺が刺す!」

中西監督「さてと」
全員「待って下さい。まさか真田を走らせるつもりですか?」
中西監督「サインを出しても出さなくてもあいつは走る。そう言う奴だろうが」
全員「……そうですね」

真田(サッ!)

初球、不安も感じずに真田は盗塁を狙う!
八坂主将(あまい!)

ビュ―――ン!
音田(パシッ!)

審判「アウト!」
真田「…………嘘?」

真田はここまで6盗塁しているがどれも楽々成功と余裕で刺されるなんて考えもしなかった。
霞「内野安打で出塁した真田君でしたが盗塁は失敗!」
武藤「話には聞いてましたが凄まじい肩ですね。今まで八坂君から盗塁を狙うランナーはいなかったので始めてみました!?」
垣内「警戒もせずに八坂君から盗塁はまず狙えません」

佐伯「さすがは八坂さん」
八坂主将「あんなに分かりやすい盗塁じゃあ俺からは盗めないな」

真田「………………」
大下主将「信じられないと言った顔だな」
真田「初めてなもんで盗塁して刺されたのは」
大下主将「むかつく事にあいつの肩はプロでも即戦力として期待されてるからな」
吉田「さすがは高校No.1の捕手ですか」
大下主将「ああ」
相良「訂正、高校No.1捕手は名雲ですよ!」
大下主将「ああ、名雲が居たな。あいつの強肩も健太と同等かそれ以上だもんな」
真田「嘘っ!? 八坂さんより上の強肩がいるの?」
吉田「無明高校の正捕手の名雲さんだよ。八坂さんより1つ下だけど走者殺し(ランナーキラー)と言われている強肩はプロをもしのぐって話だよ」
真田「この世界は凄いんだね」
相良「名雲は別格さ。あいつとはリトルの頃からの付き合いだが勝てないと何度も思った物さ。まあいずれは超えてやるがな!」
真田「相良さんより上って事はバッティングも凄いのか?」

ククッ!
霞「やはり2ストライクからはクリティカルシュートだ! 三振です!」
武藤「凄いキレですね!」
垣内「変化も凄いな。それに福井さんのシュートに似ているな」

間宮「シュートのキレは七瀬より上だな」

佐伯「次は大下さんか」

大下主将「まったくとんでもない1年が入ったもんだな」
八坂主将「斉天大附属(   うち   )はここ近年良い投手が少なかったからな。佐伯が入った今、春の雪辱を果たすさ!」
大下主将「へえ。赤竜高校(   うち   )と対戦中にもう無明実業(   あっち   )との試合を考えてるとはずいぶん余裕だな!」
八坂主将「俺は捕手だからな。その辺の計算はできるさ!」
大下主将「言ってくれる!(しかし仕方ないのかも知れん。ずっと負け続けているの事実だし)」

ククッ!
霞「大下君も空振りクリティカルシュートを空振り三振し3アウトチェンジ!」

大下主将「何てキレだ!?」
八坂主将「初回でそんなんじゃ到底俺には勝てんな」
大下主将「別にお前に負けた訳じゃねえ。次は打ってやる!」

霞「佐伯君、ランナー出す物も無失点に抑えます!」
武藤「1年生同士の投げ合いとは思えないですね」
垣内「確かに面白い試合展開になりそうですね」

赤竜高校は佐伯を打とうとするがクリティカルシュートの前に三振して行く。斉天大附属は全選手1打席目は捨てて2打席目に斎藤を打ち込もうとする。

4回表 赤0−0斉 いよいよ2打席目
霞「試合は4回表、現在斎藤君はパーフェクトに抑えています!」
武藤「パーフェクトと言ってもまだ1打席抑えただけですからね」
垣内「斉天大附属は打線の力に絶対的な自信がありますからね。このまま無失点は難しそうですね」

真貝(攻撃開始だ!)

コツンッ!
斎藤(パシッ! シュッ!)
玖珂(ちっ!)

審判「セーフ!」
霞「まずは真貝君がセーフティバントで出塁します!」
武藤「やっぱり名門の1番ともなるとセンスが良いですね」

真貝(大下から盗塁はさほど難しくない)
平坂(サッ!)

平坂はバントの構えをする。これを予想していた内野陣は一気に前進する!
斎藤「よし、これなら!」
平坂(サッ!)
全員「バスター!?」

ガキッ!

さすがの平坂もバスターで斎藤のストレートを芯でとらえるのは難しかった。しかし打った場所は本来定位置の三塁手の場所だが
霞「これは嵯峨君が前進したせいか打球の場所には誰もいない!」

間宮(くっ!)

パシッ!

しかし何とか間宮が飛びついてランナーは1塁、2塁に抑える。
霞「これは間宮君のファインプレー!」
武藤「あのまま見送ったらランナーがホームに返ってたかも知れませんから今のは良いプレーですよ!」
垣内「確かに、しかしピンチには変わりない。ここを斎藤君がどう抑えるか?」

斎藤「助かった。しかしこうも打たれるとは?」
大下主将(斎藤の球は悪くない。その証拠に平坂は芯に当てる事はできなかった。次は嘉神か、まずいな)
嘉神「ここは打たせてもらうぞ(まあ、後ろには頼りになるのがいるし出塁すれば十分なんだけど)」
斎藤「考えても仕方がない。ねじ伏せる!」

ズバ―――ン!! ブ―――ン!!
霞「完全に138キロのストレートに振り遅れて空振り三振に倒れます!」
武藤「嘉神君が得点圏で三振なんて珍しいですね」

斎藤「おっし!」

嘉神「ノビがある上にコース付かれたら打つのは難しいな」
高須「あの嘉神が三振か―――斎藤だったか、底知れない物を感じるな」

霞「続く打者は全国トップの打者とも噂される高須君!」
垣内「確かに全国でもトップクラスの打者でしょう。まあ、他にも凄いのがいるからトップとは言い切れませんが」

カキ―――ン!
斎藤「なっ!?」
相良「行かせるか!」

ビュ―――ン!
霞「右中間真っ二つ! 捕った相良君はホームへ投げる!」

真貝「とおっ!」
大下主将(パシッ!)

審判「―――アウト!」
真貝「何て肩だ…………化け物めっ!?」

斎藤「コース付いたのに真芯でとらえられた。高須さんかこんな凄い打者がいるのか」

霞「これで2アウトランナーは1塁、3塁!」
垣内(2アウトと言えこの場面を無失点で抑えるのは難しい。しかしもし抑えられるならこいつは?)

ズバ―――ン!
八坂主将「なっ!?」

霞「空振り三振!」

斎藤「ふう、なんとか無失点に抑えられたな」

武藤「得点圏で斉天のクリーンナップが打てないなんて久し振りに見ましたね」
垣内(欲しいな。1年でこの潜在能力ならプロでも通用しそうだ)

八坂主将「ランナー背負ったら更にノビが上がったな。これは得点するのに苦労するかも知れん!」

4回裏 赤0−0斉 再び佐伯をどう崩すか
佐伯「1回はやられたからな。ここでリベンジさせてもらうぜ!」
真田「気合いが入ってるな。こっちも負けられない。打率3割到達するまでは!」

霞「現在、佐伯君は1安打無失点と斎藤君に負けない投球内容です!」
武藤「恐ろしい1年生投手達ですね」
垣内(こうして見てみると佐伯も捨てがたいな)

ガキッ!
霞「良いところに飛びましたがセカンドの音田君の好プレーでアウト!」
武藤「名門だけあって守備もうまいですね」

真田「当たった佐伯のクリティカルシュートに」
佐伯「いきなり当てたか、真田、いずれはやっかいな打者になるかも知れないな!」

ククッ!
間宮「ちっ!」

霞「続く間宮君は空振り三振!」
垣内「かすりましたね。シュートにタイミングがあって来てるのか?」

佐伯「間宮さんもタイミングがあってたな」

カキ―――ン! パシッ!
大下主将「嘘っ!? 会心の当たりが―――

霞「続く大下君も芯に当てましたがピッチャーライナーで3アウトチェンジ!」

佐伯「俺のシュートのキレが落ちてる?」
八坂主将「違うな。あいつらがお前のシュートに対応して来てるんだ!」
佐伯「つまり油断はできないって事ですね!」
八坂主将「そういう事だ!」

この後も斎藤と佐伯はヒットを打たれるがランナーは返さない投球内容で無失点に抑えて行く。

7回表 赤0−0斉 ついに均衡が破れるか
斎藤「絶対絶命のピンチってか……まあ、サヨナラの場面じゃないからそこまでは言えないか」
嘉神「今度こそ打つ!」

霞「現在、無死満塁のピンチを迎えております。マウンドの斎藤君!」
武藤「嵯峨君のエラーで調子が狂った感じですね」
垣内「続いて玖珂君も暴投しましたしね」

嵯峨&玖珂「むうっ!」

カキ―――ン!
嘉神「しまった!?」
相良(パシッ! ビュ―――ン!!)
佐伯(間に合えっ!)
大下主将(パシッ!)

審判「アウト!」
霞「嘉神君、ヒットを打つものも相良君の肩の前に斉天大附属、得点ならずです!」
武藤「良く抑えましたね。これで併殺といきたいところですね」
垣内「まだ油断はできませんよ」

カキ―――ン!
斎藤「………………」
霞「―――入りました。初球、失投でしょうかを迷わず振り打球は場外へ」

高須「一瞬安心して気が抜けたのがまずかったな」

大下主将「失投だな。まあ、仕方ない。次も健太って強打者だ。気を抜かずに抑えよう!」
斎藤「………………」

カキ―――ン!
大下主将「………………」

霞「また入りました! これで5点目です!」
武藤「さっきの満塁弾で終わったみたいですね。もう球速も球威もノビもありません」
垣内(やはり1年生投手か、精神面はまだまだだな)

中西監督「斎藤! 斎藤!! 斎藤!!!」

さすがに中西監督も心配しマウンドに行って斎藤に話しかける。
斎藤「……あれ? なんで監督がここに?」
中西監督「そんなふうに放心してたら心配するだろうが」

中西監督は呆れるように言った。ふと掲示板を見ると……
斎藤「5失点!? なんで? 満塁弾なら4点のはずじゃあ!?」
全員「おいおい!!」

それを聞いてマウンドに集まった全員(一部を除く)が呆れた。
嵯峨&玖珂「すまん。斎藤、俺達のせいで」

仲の悪い2人だがさすがに後輩をここまで追い込んだ責任を感じてか素直に謝罪する。
斎藤「いえいえ。先輩達は悪くありませんよ。気を抜いて打たれた俺の責任です。それにしても八坂さんにも打たれてたとは?」
中西監督「大丈夫なのか、後ろには七瀬もいるし代わっても」
斎藤「大丈夫です。ちょっときつい一発食らって落ち込んでただけですから」

ククッ! ズバ―――ン!

立ち直った斎藤はさっきの落ち込みが嘘のような投球内容で後続を抑える。
霞「斎藤君、後続を三振と見事に立ち直します!」
武藤「精神面が強いのか弱いのか分からない投手ですね?」
垣内(まったくだ。しかしこの5点を返すのは無理だろうな)

柚原&相木「結局打てずか―――」

8回裏 赤0−5斉 佐伯から得点ができない赤竜高校
相良「斎藤の為にも佐伯を打つ!」
佐伯「相良さんかこの人は要注意だな!」

霞「この回の先頭打者は相良君です。佐伯君には3打数1安打と一応打っています!」
垣内「しかし本人は納得していないでしょうね。ホームラン打てなきゃ納得できない性格みたいだし」

カキ―――ン!
霞「2ベースの当たりですが嘉神君の好守備でまたしてもシングル止まりです!」

相良「これで4の2か」

長打の当たりを単打に止められて納得はできない相良だった。しかし!
斎藤「ここだあ―――!!!」

カキ―――ン!!!

佐伯のクリティカルシュートを完全に真芯でとらえて打球はスタンドに突き刺さる!
霞「いったあ! 斎藤君の意地の一振りで佐伯君のシュートを粉砕します!」
武藤「ほえー、バッティングセンスは本当に凄いですね。あの相良君でさえホームランするのは難しいシュートをスタンドにまで運ぶなんて」
垣内(このバッティングセンスもスター性を感じさせるな…………どうも気になる選手だな。野村にそれとなく話してみるか)

佐伯「おのれ斎藤、俺の完封を!」
嵯峨「らあっ!」

ガキッ!
霞「続く嵯峨君、あまり良くない当たりですが飛んだ場所が良かったのかポテンヒット!」

玖珂「嵯峨(あいつ)らしいヒットだな。俺も負けてられん!」

カキ―――ン!
佐伯「………………」

霞「いきました! 佐伯君のシンカーをスタンドに運ぶ2ランホームラン!」
武藤「なんか、あっさり1点差になりましたね」
垣内「玖珂君もなかなか良いですね。さほど変化しない変化球とはいえこの場面でホームランを打つとは」

カキ―――ン! パシッ!
霞「続く吉田君も芯でとらえますが嘉神君の守備範囲内で1アウト!」

吉田「俺の方が嵯峨さんより良い当たりなのに!」
佐伯「やばいやばい。放心してる場合じゃなかった。次は後藤さんか」

ズバ―――ン!
霞「後藤君は三振!」

後藤「こんな140キロの球なんて打てるか」

ズバ―――ン!
真田「速っ!?」

霞「続く真田君もストレートで三振!」
武藤「シュートで忘れがちですが佐伯君も140キロと速い球を投げますからね。打ちにくいですよ」
垣内「しかしこの回に4点と試合の結果はまた分からなくなったな」

9回表 赤4−5斉 斉天大附属、更に追加点をとれるか?
霞「今日はいまいちな嘉神君から始まります!」

嘉神「さてと俺からか」

斎藤「ここを3人で抑えれば裏で逆転もできる!」

ズバ―――ン!
嘉神「嘘だろう!?」

霞「追い込まれて135キロのストレートに振り遅れて三振!」
武藤「もう9回なのに球速が落ちませんね」
垣内(スタミナは問題なしだな)

ズバ―――ン!
高須「ぬうっ!?」

霞「続く高須君もストレートに三振!」

カキ―――ン!
後藤(パシッ!)
八坂「なあっ!?」

霞「八坂君、良い当たりでしたが後藤君のファインプレーで3アウトチェンジ!」
武藤「1点差のまま最後ですか、試合の行方は分かりませんね?」
垣内「佐伯君しだいですね。1年生で名門のエースをとるなど潜在能力は申し分ないですが精神面はまだ未熟っぽいですから」

9回裏 赤4−5斉 点差は1点、逆転できるか赤竜高校?
大下主将「間宮! 意地でも打て!! 絶対に出塁しろよ!!!」
間宮「………………」
相良「間宮さんにプレッシャーかけてどうするんだか?」

ククッ! ブ―――ン!!

プレッシャーをかけられたせいか? クリティカルシュート3つで三振する。
霞「先頭の間宮君、変化球にタイミングが合わず三振します!」
武藤「変化球のキレはいまだに落ちませんね」
垣内(佐伯もスタミナがあるな)

佐伯「まずは1人!」

大下主将「こらあっ! 何やってんだあ!!」
間宮「すまん。けど佐伯の変化球はまだキレてるぞ!」

大下主将「うらあっ!」

カキ―――ン!!
霞「これは大きな当たりだあっ! 行ったか入ったか?」

真貝(パシッ!)

霞「同点かと思いましたが後一歩届かずこれで2アウト!」

佐伯「危なかった。あやうくクリティカルシュートをスタンドまで飛ばされるところだった!?」
大下主将「――――――嘘っ!?」
八坂主将「まあ、しょせんお前の力なんてこんなもんだろうな」
大下主将「悔しいが言い返せん」
八坂主将(しかしレフトかライトならスタンドに入って同点だったな。佐伯のシュートを1試合でここまでとらえるバッティングセンスはさすがだな。プロに入ったら良いライバルになれそうだ――――――真二の前じゃあ言えないが)

佐伯「最後は相良さんか―――後ろには斎藤がいるし歩かせられないな」
八坂主将(相良で逃げてたらこの先、誰にも勝てないぞ!)
佐伯(甲子園に行けば相良さん以上のバッターとも対戦する事になるからな―――)
相良「―――ふう。ここで同点にしたいところだな!」

ガキッ!
霞「ファール! 相良君、初球から振って来ました!」
武藤「ファールですがタイミングは合ってますね」
垣内「ここで相良君が出れば次はホームランを打っている斎藤君ですから勝負でしょうね」
武藤「私だったら相良君と斎藤君を敬遠して嵯峨君と勝負しますが?」
垣内「ラッキーヒットを打っている嵯峨君はある意味、相良君や斎藤君より嫌かも知れませんよ」
霞「武藤さんの場合、運だけの勝負なら負けるとは思えないんですね」
武藤「それって誉めてるつもりなんでしょうが私には悪口にしか聞こえないので勘弁して下さい」
霞「はあ、よくそう言われるんですが、いまいち私には分からないんですよね?」

カキ―――ン!
嘉神「俺のところに打ったのは間違いだったな。これで終わりだ!」

パシッ!

審判「アウト!」
相良「――――――負けたか」

打撃ではいまいち目立てなかった為、守備で無茶苦茶張り切った嘉神の守備は凄まじくヒットの当たりをアウトにする!
霞「アウトです! 1点差を守りきって斉天大附属が優勝!」
武藤「今年も斉天大附属は強いですね」
垣内「しかし赤竜高校も1点差と甲子園レベルの実力( ちから )を見せた良い試合でしたね」

大下主将「甲子園の決勝だ! そこで必ず借りは返す!!」

真田「……甲子園の決勝?」
吉田「同じ県で2校が甲子園に出場したら決勝で会えるようになってるんだ」
真田「なるほど」
斎藤(そうだっけ?)

八坂主将「赤竜高校(  あいつら  )は勝ちあがれるかな?」
佐伯「斉天大附属(    うち    )と互角の戦いをするんですから可能性は高いんじゃないですか?」
嘉神「あまいな。短期決戦なら互角だろうが連戦で勝ち上がるのは難しい。特に自分達より強い相手と戦って勝ち上がるのはな」
高須「そういう事だな」
佐伯「それじゃあ斉天大附属(    うち    )と決勝で戦う事はないと?」
八坂主将「分からないさ。赤竜高校(  あいつら  )はしぶといからな!」
嘉神&高須&佐伯「確かに!」

喫茶店MOON

とりあえず負けたがみんなでパーティと言う事になったので野球部全員で斎藤の家に来ていた。
結依「とりあえず、お疲れ様なのじゃ!」
中西監督「どうでもいいが、その言葉づかいはどうにもならないのか?」
結依「ふむ。そのセリフは久々じゃな。だが人間どうにもならない事はあるのじゃ!」
中西監督「そんな大層な事とも思えないが」

真田「くっくっく!」
吉田「なんだよ。監督達を見ながら気持ち悪く笑って」
真田「夫婦漫才みたいで面白いから」
吉田「確かに面白いから否定はしねえよ(監督の前では言えないが)」

月砂「どんどん料理作っていくからどんどん食べてね!」
斎藤(相変わらず売り上げが良い時は上機嫌だな)
相良「月砂さん、お代わりお願いします!」
月砂「はーい!」
斎藤「それにしても姉貴と相良さんが知り合いなのは驚きでした!?」
相良「俺だって驚いたよ。まさか月砂さんの弟が斎藤だとは思わなかったからな?」
嵯峨「名字で分からなかったのか?」
相良「実は月砂さんの名字を知ったのは今だったりするんだな!」
玖珂「それはまた急だな」
月砂「私の事を名字で呼ぶ人は少ないからね」
斎藤「そもそもどこで知り合ったの?」
大下主将「ふっふっふ、それは―――」
七瀬「知らないんなら黙ってろよ」
相良「リトルの頃にな。草野球で遊んでた時に知り合ったんだ。それからここにはよく来たなあ」
斎藤「へーえ」
月砂「まあ、家の手伝いはせずに野球ばっかりしてたアンタが知らないのも当然よね」
斎藤(グサッ!)
月砂「それに相良君も高校に入ってからはあんまり来てくれないけどね。嘉神君達は来てくれるのに」
相良「俺も野球ばっかりですからそれに友達と一緒だったら食事は結依さんのところになるし」
斎藤「あのさ、嘉神さん達もって?」
相良「俺、嘉神、高須、名雲、天野、河島と良くここに来たんだよ」

今、相良が言った名前は相良と全員、同学年で高校で野球やっている人間ならまず間違いなく知ってる名前だったりする。
斎藤「話には聞いてたけど凄い豪華メンバーですね。世界大会でも優勝した人達が(うち)に来てたのか」
月砂「真面目に家の手伝いをしてたら知り合えたのにね」
斎藤「うーむ。確かに勿体ない事をした様な」
相良「まあ、それはいいとしてなんでさっきから泣いているんですか?」
大下主将「いやあ、影が薄いなって」
間宮「月砂さんと話した事があるのに覚えてくれていないって?」
月砂「えっと? ―――どこで話したのかな?」
大下主将「もちろん赤竜高校でです」
斎藤「えっ? 姉貴は……そっか、大下さんが1年の頃なら会っててもおかしくはないか」
月砂「何気に私の歳をばらしたわね」
斎藤「すみません。不可抗力です!」
月砂「冗談よ。それで何を話したの?」
大下主将「お姉さん、一緒にお茶しませんか」
相良「ようするにナンパしたんですね(嘉神も似た様な事をしてたな)」
斎藤「(命知らずな)それでどうなったんですか?」
大下主将「決まってるだろう無言で立ち去られたよ」
月砂「―――ごめん。全然覚えてないわ!」
大下主将(グサッ!)
相良「そもそもそれって会話したとは言えないんじゃ?」
大下主将(グサッ!!)
間宮「やっぱそう思うよな」
七瀬「普通そう思うだろう」
大下主将(グサッ!!!)

バカ話が続き盛り上がって行く。そしてパーティも終わりになり野球部のみんなは帰って行く。
斎藤「それでなんでアンタらが居るんだ?」
吉田「真田が無理矢理泊まれって言うからかな」
斎藤「なんで真田が自分の家みたいに言うの?」
真田「ふっ、ここはもう僕の別荘みたいなものだからね」
斎藤「勝手に別荘にするなよ」
結依「良いではないか賑やかな方が楽しそうじゃ!」
斎藤「結依さんも自分の家に帰らなくていいんですか?」
結依「月砂にしばらくこっちで暮らさないかと言われてな。ふっ、もてる女の辛いところじゃな」
月砂「あのー、結依さん、人をそういう趣味みたいに言わないで下さい」
斎藤(やばっ!? 一瞬信じそうになっちまった)
吉田「なんか賑やかだな」
真田「楽しければOKだよ!」
斎藤「別に不満はないけどさ。平穏って言葉が少し懐かしいかも―――」

こうして赤竜高校VS斉天大附属の戦いは敗北に終わった。しかし斎藤の夏はまだ始まったばかりだ。