第1章 野球とは何か?

今日は入学式とここ桜花高校も初の男子生徒を受け入れるのだった。ちなみに2、3年は女子だけと当然ながら大半は女子生徒ばかりである。
縁(ここが桜花高校か、ま、元女子校らしい名前ではあるな)

そしてこいつこそが物語の主役と言うべきか名前は天神縁と(  あまがみえにし  )言う。ある事情で他県からここに入学をして来たのだがその理由は内緒と言う事にしておこう。
要(結局ここに来てしまったな。あの人に憧れてたのにな)

そしてこっちは周防要(すおうかなめ)、彼女も主人公と言えなくもないがあくまでこれは天神縁の物語なので彼女は準主人公と言った感じで進む。
縁&要「ん?」
要「そう言えば今年から共学になるんだったね」
縁「どうも」
要「と言う事は君も新入生か私は周防要、君は?」
縁「…………天神縁です」
要「そうか縁君か良い名前だね」

馴れ馴れしい人、それが縁の感じた要の第一印象だった。
縁「それじゃ」

元々来たくて来たところでもないし縁は自分の名前は好きではなく要に好感を持たなかった事もあり素っ気なく去って行った。
要「あははっ、いきなり失敗したかな。勇気だして男の子に声をかけたんだけどな」

人との出会い方は様々だ。そして2人は気付いてなかった。こんなに長くも一緒に高校生活を送る事になるとは…………2人の最初はこんな感じで入学式など部活紹介など進んで行く。
縁(部活と言っても女子ばっかりだな。当然だけど、男子がやるような部活はないか男子マネージャー募集ってなんか女の子のたくましさを感じるな)

張り紙に書いてある男子マネージャー募集などを見た縁は呆れ半分感心半分に女子のたくましさを知るのだった。
縁(ま、俺には関係ないか、元々、入るなら何処でも良かったし)

やはり内緒と言うほどでもないのであっさりと言うが縁は実家に嫌気が差してツテを辿ってこっちに転校して来た。
縁(結依様にも迷惑かけたくないし3年間は大人しくしとくか)

縁の淡い目標など既に燃えつきるがごとくそれは起こった。
縁「っ!?」
要「ごめんなさい!」

縁にぶつかった要は急いでるらしくと一言謝罪して慌てて去って行った。
縁(痛いな。またあの人か、縁があると言うかなんか気に入らない人だな…………なるほど、慌てて逃げる訳だ)

要の後をたくさんの女子が追いかけるのを見て慌てている訳は理解した縁だった。
縁「あっちへ行きました」

追いかける女子にどっちに行ったかを聞かれ別に隠す事もなく縁はあっさりと教えた。
縁(しかし何をやったのやら、ま、俺には関係ないから良いか)

そう関係ないと縁は思っていたが翌日になって楽観した自分がアホだと思う出来事に直面するのだったがそれはまあ翌日の話となる。

天神家
結依「よう1日目はどうじゃった?」

知っている人は知っているだろうこの人は年齢不詳の天神結依( あまがみゆえ )さんと言う。天神の性で分かる様に縁とは親族とも言える間柄でもあった。
縁「普通でしたね」

縁は率直に言った。要の出来事を除けば確かに普通の日常を送ったと言えるだろう。
縁「結依様は」
結依「様はいらんと言っとるじゃろう」
縁「ですが」
結依「ここは天神と遠く離れた土地じゃ」
縁「しかしこの赤竜市は」
結依「もはや天神は離れた土地じゃ、お前が気にする事はない。それに家を出た物が仕来たりを気にする事もあるまい」
縁「……そうですね。ただ、やっかいになっている以上、お店の手伝いくらいは」
結依「やれやれそう言うところは天神の血なのかの、まあ良いじゃろう。日が落ちる頃には部活関係の連中が大勢来るだろうし頼もうか」
縁「はい!」

謎の会話が続くがこの物語には大して影響がないのでここでの話は省略しよう。とにかく結依と縁は遠く近い関係と仲が良いのだった。
村田「お代わり頼むぜ!」
矢吹「俺もだ!」
小田切「その辺にしたらどうだ。食べ過ぎると腹を壊すぞ」
工藤「言うだけ無駄だ」
小田切「それもそうか」
縁「じゃあこれもどうぞ」

そう言って縁が渡したのはデザートのアイスだった。
小田切「これは?」
縁「店長からサービスだそうです!」
村田「さすがは我らの女神の結依さんだ!」
矢吹「アイスとは裏をかかれたな」
小田切「こんなメニューもあるのか?」
縁「裏メニューらしいですよ。まあそんなに珍しい物ではありませんけど」
工藤「まあ普通のバニラにしか見えないしな」
縁「一応自家製で今が食べ頃らしいです。残念ながらトッピングはないので許せだそうです」
村田「なんのシンプルこそ一番!」
矢吹「そうそう。これを食って今年こそ全国制覇だ!」
小田切「せっかくの差し入れだし俺達もいただくか」
工藤「そうだな」
縁「(赤竜高校の生徒か、そう言えばあそこの校長って)……はい。今行きます!」

考え込んでいた縁だったが部活動の生徒がどんどん増えて行き落ち着く暇もなかった。
縁(しかしこの数なのに1人で店をやっているってさすがは結依様ってとこか)
結依「こんなとこじゃな。そろそろ客足も落ち着いたろうしお前も休め」
縁「お前もと言うか俺以外いないんですけど」
結依「当然じゃ、1人で十分じゃからな」
縁「普通は無理なんですけどね」
結依「幸い近所に知り合いも多いしお前も部活や友達付き合いと高校生活を楽しめ」
縁「一応考えときます」

縁の初日はこうして終わるのだった。しかしこのまま終わったらつまらないので翌日へ移動する。

桜花高校 理事長室
理事長「それなら規定の人数に達したら野球部として認めて上げるわ」

要達は部活動を認めてもらう為に理事長室へと来ていた。理事長は昔からの知り合いの要の提案を簡単に認めると出足は最高で進んだ。
要「ありがとうございます!」
羽海「さすがお母さん!」

こっちは理事長の娘であり要の親友の吾妻羽海(  あづまうみ  )、要と同じく野球経験者と頼もしい存在である。
理事長「こらここでは理事長先生でしょう!」
羽海「ごめんなさい」
理事長「しかし要さんも相変わらずね」
夜刀「まったくですよ」

こっちは周防夜刀(  すおうやと  )、要の弟で野球の実力は高く名門からの誘いもあったが両親からのお願いで要と同じ高校に入学する事となった。
要「悪かったわね」
理事長「まあまあ、とにかく私も応援するから部員集め頑張ってね!」
要「はい!」
羽海「今は3人だから後は6人ね」
夜刀「男子生徒は少ないけど俺もクラスの連中に当たって見るよ」
羽海「私は女の子の友達に当たって見るけどあんまり期待はできないかな」
夜刀「それはこっちも同じだけどな」
要「難しいと思うけど、経験者がいるかどうか聞いて見ようか」
夜刀「期待薄だな」
羽海「でももしかしたらいるかも知れないし」
夜刀「聞くだけは聞いて見るか」
要「そう言う事!」
夜刀「そう言えば姉貴は彼氏できたのか?」
要「は?」
羽海「噂になってるんだけど…………はあ、やっぱり知らなかったのね」

桜花高校 1−B
縁「は?」
上野「だから周防ちゃんと付き合ってんの?」
縁「待て待て! なんで俺と周防が付き合ってんだよ?」
上野「おかしいな。学校中で噂されてるんだけどな」
縁「なんだそれ!?」

縁と要はやはり縁があるのかクラスは同じ、そしてこんな噂が出ていた。
女子A「ねえねえ。周防さんと天神君、2人で桜見ながら仲良く話していたそうよ」
女子B「うん。私も見たわ。あれは絶対恋人同士ね。そう言う雰囲気だったわ」
女子C「マジマジ、じゃああの子達がこの学校で始めてできたカップルってわけ!?」

縁「そんな訳あるか―――!」
上野「なんだ誤解なのか、しかしもう全校中に知れ渡っているぞ」
縁「俺の高校生活は終わった」

ちなみに上野は縁の隣の席で良く話しかけて来るらしい。
上野「周防ちゃん、明るくて良い子だし人気あるし噂になって良いじゃん」
縁「良い訳あるか!」
上野「何? 周防ちゃんの事嫌いなの?」
縁「うん!」
上野「マジで…………ふーん、それじゃあの話は話さなくても良いかな?」
縁「話してくれ。どうせこれ以上落ち込みようがない」
上野「そう言う話じゃないんだけどな。ま、良いか、周防ちゃん、野球部作るんだってさ!」
縁「野球、女子野球ってあったっけ?」
上野「違う違う。彼女が目指すのは甲子園だよ!」
縁「甲子園ね。確か高校野球じゃ全国大会のあるところだっけ、だったらなんでここに来たんだ?」

この辺には斉天大附属を筆頭に野球の強い高校は多い。ここ桜花高校は今年から共学と当然ながら野球部はあるはずもなかった。
上野「まあ女子校でも今なら甲子園出れるんじゃないの」
縁「そうなのか?」
上野「実は俺も良く知らないんだけとな。さっきも言った様に周防ちゃんの人気は高いけど野球だからな。なかなか人数が集まりそうもなくて俺達、男子を中心に集めているらしい」
縁「女子は集まらないのか?」
上野「女子が参加できるようになってまだ2年程度だからな。そう大勢は集まらないらしい」
縁「ふーん、周防って変わってるんだな」

縁の感想は要は変わった奴って事だった。少なくとも野球する環境ではない桜花高校、野球をやる為に入ったのならおかしいとしか思えなかった。
上野「ま、変わっていると言えば否定はできないな。俺は入る予定だけど、天神は、良かったら見学だけでもして行かないか?」
縁「野球なんて小学生の頃に遊びで付き合ったくらいだぞ」
上野「実力はなくても構わないだろう。俺もほとんど素人だしな。ま、3年間一緒に頑張って行くんだ。数少ない男子同士の友人だし一応気に留めといてくれ」
縁「そうだな。気が向いたら見に行ってやるよ」
上野「おう!」
縁(野球に周防か、良く分かんない奴だな)

あまり良い感情を持ってなくても何故か気になるらしく。縁は野球や要について考え込むのだった。

天神家
結依「くっくっく、また野球か、つくづく縁があるの」
縁「どう言う意味ですか?」
結依「ここ数年の知り合いは野球少年ばっかりと言う訳じゃ、本命はプロ入りすると色々あるな」
縁「本命っていたんですか!?」
結依「言い方が悪かったの、本命と言うのはちょっと違う。似ていたが別人だった。しかしまあ惹かれておったのかも知れんな」
縁「……そう言う事ですか」
結依「もう気にするな。過去の事を今を生きるお前達が気にする事はない」
縁「気にしますよ。それが天神の天命ですから」
結依「止めておけ! いまさら『あの神』に祈ったところでなんになる。お前達は1人の人間として正直に生きれば良いのじゃ!」
縁「そうですね」
結依「天神の当主として命じる。縁、お前は野球部に入れ!」
縁「…………それが主のお望みなれば!」
結依「はあ、そこまでしてワシに尽くすか、お主も不器用じゃな。まあ良い楽しい高校生活を送って楽しめ!」
縁「はっ!」
結依「だからもっと普通にと少し堅苦しいぞ」
縁(ルールも特に知らないんだよな。そもそも野球ってどんなスポーツなんだろう)

こうして縁は野球部に入るのだった。物語は結依の冗談から始まると縁と野球の出会いはこう言う物だった。