第1章 親子

−1980年 1月−
プロ野球選手になった織田利夫(  おだとしお  )は実家から寮へ移動するのだが家業を継ぐか継がないかで両親とケンカしてしまい晴れない心のまま寮へと向かうのだった。
織田「出て行けって言われたな」
高見「そうか……やっぱり認めてくれなかったか」
織田「親父が頑固なのは分かってたし最後まで反対するのも目に見えてたし大した事じゃないさ」
高見「大した事じゃないって…………お前のそう言うとこは本当に尊敬するよ」
織田「お前も専門学校で何するか忘れたけど頑張れよ!」
高見「ひでえな。栄養士や調理師の資格を取ればお前の役にも立つってのに」
織田「ふぐ調理師とかか?」
高見「そこでふぐが出て来るところはさすがは漁師の息子ってとこか……とにかく、お前は就職が決まってるし応援するぜ!」
織田「ドラフトでは一番期待されていない選手だし2軍生活が大半になるだろうからテレビでなく生で観に来るんだな」
高見「へいへい。お前も地元の期待を裏切るなよ!」
織田「正直、ファンって言われても良く分からないんだが?」
高見「ま、仕方ないっちゃ仕方ないよな。いきなりプロになりますからファンの為に頑張れって言われてもなー。人気とかあれば別なんだろうが地元でもお前の事良く知らないって人は多そうだし」
織田「まあ無名でスターになった人も多いし気にせずやって行くさ」
高見「心配するだけ損だったな」
織田「ふっ、お前も頑張れよ!」
高見「ああ!」

こうして親友の高見健一( たかみけんいち )と別れてから数ヶ月が過ぎた。
織田「………………」

カキ―――ン!

最初は2軍だったが織田は打撃力を買われて1年目の最後には1軍入りを果たすのだった。
鉄監督「ルーキーにしては度胸があるし良い選手だな」
垣内「特に厳しい場面って訳じゃありませんがね」
鉄監督「ふむ。実力的にも未熟だが将来大化けする可能性もあるか、それでバッテリーとしてはどう思う?」
垣内「そうですね。技術的にまだまだですけど度胸はあるし強気な良いリードをしますよ。長打力もあるし来年は結構打つんじゃないですかね」
鉄監督「本塁打と打点はまだないが、特に勝負弱いと言うイメージもないし問題ないか」

織田の1年目は23試合で7安打とそこそこの活躍だったが首脳陣の評価は高く来年も期待され年俸もUPした。
織田「まあこんな物だな」
野村「既にベテランの風格だな」
織田「年寄りに年寄り扱いされるいわれはないです!」
野村「まだ20代なんだけどな…………まあ来年で9年目になるしベテランとも言えなくはないか」
織田「それで何の用ですか?」
野村「マイペースだね(……こりゃ先輩達に良い印象を持たれなくても仕方ないか)おっほん。先輩としては若手の君が心配な訳だよ!」
織田「……それで?」
野村「うーんとせっかくだし食事でもどうかな……タイトル料も入って来たし俺のおごりでどう?」
織田「特に断る理由はないですね」
野村「それじゃ決まり!」

レストラン
織田「いきなりファンに声を掛けられるとは思わなかったですね?」
野村「まあ地元だから声を掛けられる事は多いよ。負けた時は逆に絡まれる事もあるけど」
織田「野村さんの成績なら問題ないでしょう」
野村「ふっ、例えシーズンで良い成績出しても負けるとファンの機嫌は悪くなる物さ」
織田「……どっちにしろ俺の顔を知っているファンは少なそうだし気にする事はないか」
野村「君は今年から正式に1軍だろうしファンも増えるだろう」
織田「大半のファンが期待するのはスタメンで活躍している選手か……大学のスラッガーが入って来るしそっちに話題が集まるんじゃないですか?」
野村「2位の小山も評価が高いけど、やはり今年の新人王候補では1位の折笠かな。全員スラッガーだし良い意味でライバルになりそうだな」
織田「ええ。ポジション違うのが不幸中の幸いですね」
野村「真神さんが引退して長打力が不足しているし4番争いは来年も熾烈そうだな」
織田「……4番か」

球団は織田の長打力を期待しているが織田としてはリード面の方が重要で打順に興味のないシーズンとなるのだった。しかし興味のなさとは裏腹に20本塁打と長打力を爆発させてチームを優勝に導いた1人となった。

後楽園球場
鉄監督「しかしシリーズで移動がないと言うのも変な感じだね」
全員「まあそうですね」

今年のシリーズの相手は日本ハムなので同一球場同士と言う史上初の対戦となった。地元出身の選手の家族の大半は気楽に応援席から声援を送っている。
織田「………………」
折笠「今日もファンは多いし今日勝って日本一と行くぞ!」
野村「折笠は今日も元気だな」
小山「まあ調子が良いんでしょうね。野村さんほどじゃないですけど」

今日はシリーズ6戦目で既に巨人が王手をかけている。そして今日の先発はエースの早乙女とファンも勝利は確実だと思ってるせいか声援が多い。
野村「今日は早乙女だし問題ないだろう。なあ?」
早乙女(何が何でも勝つ!)
織田「今日も調子が良いし問題ないでしょう。それでも無失点は厳しいかも知れませんが」
野村「ま、4戦、5戦と打線は調子良いし大丈夫だろう」
織田「だと良いんですが……相手は勝率10割の烏丸さんですからね」
小山「シーズンで15勝0敗ですからね。防御率は3点台だけどMVPの可能性も高いかも」
織田「しかし昨年の方が驚異的に見えたしシリーズでは敗戦と調子も悪そうだし問題ないでしょう」
早乙女「とにかく俺が抑えてバッターが打てば勝てる!」
小山「分かりやすいですね」

烏丸「………………」
和田「今日もガンガン打ってやるぜ!」

小山「何と言うかクールな人ですよね」
野村「和田さんは逆に熱いタイプだな…………しかし19年目で二冠王ってのも凄いな」
早乙女「元気なおっさんだからな。さすがの俺もあの人相手だと気を抜いて投げれん」
織田「第1戦では気を抜かずに投げて打たれて負けましたけどね」
早乙女「確かに開幕じゃ打たれて負けたけど、4戦目は打たれたけど勝った!」
小山「結局打たれる事に変わりはないんですね」
野村「打席のほとんどは四球とヒットだから勝てばシリーズMVPは間違いなかっただろうな」

−1981年日本シリーズ第6戦 後楽園球場−
永瀬 琢磨
後攻 先攻
2勝 VS 3勝
野村 隼人
岡上 孝蔵 船橋 洋人
木原 盾平 春日 悠真
和田 勲 ゴードン
ドナルド 折笠 真空
加納 潤也 織田 利夫
赤松 智之 小山 力
佐島 秀一 石原 涼樹
烏丸 烈 早乙女 虎鉄

後楽園球場
類「神出鬼没なアナウンサーの類です。今日もやって来ました。移動が楽なシリーズ第6戦をお伝えします」
真神「本当に変わらない人だな?」
類「解説は誰もがご存知の真神京四朗( まがみきょうしろう )さんです。今日は両チームともエースの投げ合いと盛り上がっていますがご感想は?」
真神「感想と言っても……投手四冠を獲得した早乙女とシーズン15連勝無敗の烏丸と力は早乙女で天運は烏丸としか言えませんね」
類「ちなみにシリーズでは敗戦していますので無敗とは言えないかも知れません」
真神「それから総合力は巨人が上ですが意外性と言うか潜在能力と言うかは日本ハムが上と試合次第で流れが一気にな展開になるかも知れません」
類「前の試合では巨人が完全に抑えて打線爆発と完全な勝利でしたが今日はどうなるか?」
真神「それでは楽しませてもらいましょうか!」

1回表 巨人0−0日本ハム エース同士の投げ合いとなった第6戦が始まった!
烏丸「………………」

クルッ!
野村「入ったか」

類「最後はチェンジアップに見えますがナックルが入って見逃し三振に終わりました!」
真神「変化が小さいから本来なら引っかけさせるボールなんですけど、虚を衝くとこう言う三振を奪える事もありますね」

烏丸(シュッ!)

ガキッ!
船橋「ダメか」

類「スライダーを引っかけてファーストゴロで2アウトです」
真神「あのスライダーってストレートと同じくらいの速度で変化するから合わせにくいんですよね」

烏丸(こいつで決める!)

ガキッ!
春日「シンカーかよ」

類「最後はシンカーとナックル以外は速いボールばっかりですね。言い遅れましたが結果はピッチャーフライです!」
真神「速いボールと言いましたが肝心のストレートはまだ1球も投げていませんね?」
類「元々変化球主体のピッチャーですがストレートを1球も投げないとは確かに妙ですね?」
真神「まだ140キロ出てないし調子が悪いんですかね?」
類「コントロールは悪くないようですが…………とにかく1回を三者凡退と見事なピッチングを見せました!」
真神「ま、初回からあっさり決まってもつまらないしこれから楽しくなるんじゃないですかね」

烏丸「この結果なら問題ないな」
木原「ああ。今日明日と勝って念願の日本一だな!」
和田「ついに俺も日本一になる時が来たんだな」
木原「そう言えば和田さんが入る前の年に日本一になったって事は優勝経験者はいないんですかね?」
和田「今日のスタメンの中にはな。まあ他球団で優勝した奴ならいるんじゃないかと思うがとそんな事より日本一の為にも打って来い!」
木原「はい!」

折笠「まわる前に終わるとは……」
野村「悪かった」
織田「今年もっともヒット打った人が三振か」
野村「ごめんなさい」
小山「まあまあ」

1回裏 巨人0−0日本ハム シリーズで活躍していた野村だったが第1打席は1人だけ三振に終わった
早乙女(ふん!)

ガキッ!
永瀬「速いな!?」

類「3割打者の永瀬でしたがあっさりとセカンドゴロに終わります!」
真神「剛速球で知られている早乙女ですがコントロールも素晴らしいですから調子良い時は本当に手が出ませんよ」

岡上「良し!」
早乙女「………………」

類「最後も外れてフォアボールで出塁します!」
真神「初回でのフォアボールは珍しいですね。それとも岡上には投げにくいのか?」

織田(ボールの威力は悪くないんだが…………本調子とも言えないか…………どちらにせよこれで十分通用するしテンション高めで投げれるようにしよう!)
早乙女(気にせずど真ん中に投げろか、やれやれ可愛げのない若造だ!)

ガキッ!
木原「くそっ!」
折笠「オーライ!」

パシッ!
類「あっさりサードフライと球威に押された感じですね」
真神「それは分かりませんが150キロ出てますし初回じゃタイミングが合わなくても仕方ないとは思いますよ」
類「巧打者の木原でしたがここでは打てず続くのは50ホーマーの怪物で今年の二冠王の和田です!」
真神「この歳で50本打てるなら俺の記録を越えるかも知れませんね。このまま終えても永久欠番は間違いないだろうしこりゃ生きた伝説だな!」

早乙女(和田さんにもど真ん中かよ!?)
織田(打たれるのが怖いならカーブでも良いですけど)
早乙女(上等!)

ズバ―――ン!
和田「くそっ!」

類「最後は153キロのストレートを空振り三振とやっぱり調子は良いですね!」
真神「フォアボールを出しましたがコントロールが悪いようには見えないし調子は良いんじゃないでしょうか?」

早乙女「結果オーライだがど真ん中ばっかりてのはどうかと思うぞ?」
織田「ミットをど真ん中に構えても普通はぶれるんですがね。こうもど真ん中に来るとはさすがですね!」
早乙女「まあな……そうじゃなくて」
織田「分かってます。打たれたら打たれたでリードを変えますよ。打たれてないうちから反省しても仕方ないでしょう!」
早乙女「まあな(どうもこいつと話すと納得できそうもないのに納得しちまうんだよな?)」

和田「ど真ん中のストレートってなんだよ!?」
木原「まあ、あれだけ球速出されたら1打席じゃ合わせられませんよ」
和田「自慢じゃないがタイミングを合わせるなんて高等な事はできん!」
木原「はあ、それで3割打つ事ができるなんて呆れるしかないですね」
和田「ふっ、目を瞑っても運が良ければ打てるもんさ!」
木原(普通ないし!!)

2回表 巨人0−0日本ハム 絶好調の和田も三振とシリーズ男達は不調なのか?
ゴードン「あの野郎!」
折笠「すっぽ抜けただけなんだしそう怒らないで下さい」
ゴードン「ふん!」

類「いきなりデッドボールと驚きですがノーアウトでランナーが出ます!」
真神「烏丸も早乙女ほどじゃないですがコントロールは良いんですけど、デッドボールとは珍しいですね」

烏丸「ちっ! 変化が強いとこうなるから加減が難しい!」

カキ―――ン!
折笠「おっし!」

類「今年の新人王筆頭の折笠はさすがと言うべきかこの場面でも打ちます。烏丸、これでランナーを得点圏に背負ってしまいました!」
真神「俺が言うのもなんだけど1年目でこれなら来年からは4番だな」
類「続く織田も高卒2年目で正捕手を奪った若手選手で今年は新人王候補と言われています」
真神「正直名も知らない奴だったんでこんなに早く開花するとは思いませんでしたよ。あの体格でプロで通用しているところがすでに驚異的っちゃ驚異的かな」
類「165cmと小柄ながらも強肩強打の持ち主で今シーズンは20本塁打と長打力を見せております!」
真神「ちなみに足は遅いのでランナーだと邪魔ですけど、こう言う場面だと頼りになったかな? 特にチャンスに強くも弱くもなかったっけ?」

織田(後ろにも使える奴らが多いしここは繋いで行く!)

カキ―――ン!
烏丸「レフト!?」

類「得意のスライダーでしたがレフトの頭を越えてランナーが2人返ると巨人が2点先制します!」
真神「ちょっとあまく入ったとは言えあのコースを良く打ちましたよ。それと今日の烏丸はコントロールがいまいちですね」
類「1回では良かったように見えたんですが?」
真神「ピッチャーはメンタルなポジションですからリズムが狂うとこう言う事にもなりますよ」

烏丸「まずいな。まさか2年目の小僧にやられるとは……そう言えば5番と7番は今年のルーキーでエースは3年目と若いな。まあ俺も2年目と若いが」
小山「届け!」

カキ―――ン!
烏丸「何っ!?」

類「完全なボール球でしたが綺麗に打ってランナーの織田が返って3点目です! 打った小山はセカンドベースでガッツポーズをしています!」
真神「個人的にボールに手を出すのはどうかと思いますがあいつはこれで打率を稼いでますからね。今のやり方で行く限り出塁率は上がりませんから6番以降が定番になるでしょうね」
類「真神さんが言うほど四死球は少なくないですけど?」
真神「今年はね。多分来年の折笠と比べてかなり落ちてると思いますよ。ま、スタメンから外される可能性もあるしいちがいに言い切れないか」

烏丸「ちっ!」

ガキッ!
石原「打ち上げちまった!?」

類「144キロのストレートを打ち上げてようやく1アウトです!」
真神「ちょっとはコントロールが戻って来ましたね。続くのはピッチャーにしてはバッティングの上手い早乙女か」

早乙女「はっ!」

カキ―――ン!
烏丸「むっ!?」

バシッ!
赤松「ぐはっ!?」

類「痛烈なサード強襲の内野安打です。ランナーは動けずこれでランナーが2人になってしまいました!」
真神「次の打席で代打送る為か…………ここでの交代はありませんね」

烏丸(シュッ!)

ククッ!
野村「これじゃ塁に出ても走れないし不完全燃焼だな」

類「これも外れて今シーズン盗塁王の野村も出塁します。これで1アウト満塁となりました!」
真神「ここで打たれるようなら試合は終わりでしょうね。まだ2回ですがここが正念場ですよ!」

烏丸「意地でも抑える!」

ガキッ!
永瀬(ここだな!)

パシッ!
小山(これなら行ける!)永瀬(行かせるか!)

タッ! ビュ―――ン!
類「これはセンターフライですね。浅いですが犠牲フライには届くか?」
真神「守備範囲の広い永瀬ですが肩は強くありませんからね。そして小山も足は速くないと本当に微妙ですね?」
類「―――ボールの方が速く小山はベースを踏めずに3アウトチェンジです!」
真神「さすがに暴走でしたか…………まあこの状況で3失点に抑えたのは上出来ですね!」

烏丸「………………」
和田「大丈夫だ。3点くらいならすぐに返せる!」
木原(佐島からだし代打で交代と思うけど…………しかしシリーズの烏丸は調子が悪いな)
和田「どうした?」
烏丸「…………いえ。打たれた俺が言うのもなんですが頑張って下さい!」
和田「……? おう!」

早乙女「3点あれば十分だ!」
織田「始まったばかりだし力み過ぎてポカしないで下さいよ!」
早乙女「分かってるよ。まあ任せておけ!」
織田(コントロールが抜群なくせに被本塁打も結構あるしその辺りを考えてリードして行くか!)

真神の予想通り烏丸は代打で欠場し巨人は更に追加点を取って日本ハムも点を返して行くが巨人優勢のまま9回裏に突入した。

9回裏 巨人6−3日本ハム 後3人で日本一と言う場面!
早乙女「日本一まで後3人!」
永瀬「このまま終わってたまるか!」

カキ―――ン!
早乙女&織田「っ!?」

類「意地を見せる左中間の当たりで打った永瀬はセカンドに向かいます!」
真神「球数も120を越えたし球威が落ちて来ても仕方ないですよ(打たれたヒットも2ケタだったかな……ヒットの数からしたら球数は少ない方か……)まだ行けるとは思いますけど?」

早乙女「くっ!」
織田(力まずかつランナーは絶対返さない気迫で押して下さい!)
早乙女「ふん!(相変わらず矛盾したような難しい注文だな!)」

ズバ―――ン!
岡上「この場面でこんなボールを!?」

類「最後は148キロのストレートを見逃し三振とまた球速が上がりましたね」
真神「球速よりコントロールですね。良いコースに良い気迫で投げ込んでますよ。これこそ一球入魂の精神ですね!」

早乙女(しかし難しい注文でも目の前の日本一の為なら!)

ガキッ!
木原「すみません。後は頼みます!」

類「完全に力負けしたか結果はファーストフライと日本一まで後1人と来ました。観客席から後1人コールが続きます!」
真神「ここで和田がホームラン打っても逆転はおろか同点も厳しいと試合を引っくり返すのは難しいでしょうね!」

和田「後は任せとけ! ここで俺が打てば火がついてみんな続いてくれるだろうさ!」
織田(消耗しているが目前の日本一と言う状況が早乙女さんの力を増している。これなら行ける!)
早乙女(これで俺達の勝ちだ!)

グィ―――ン!
和田「気持ちでは負けん!」

ガキッ!
早乙女(サッ!)

パシッ!
類「早乙女が手で制止して最後は自分で捕ってピッチャーフライと言う結果で読売ジャイアンツが日本一になりました!」
真神「最後は力でねじ伏せたと言うか相手側がプレッシャーに負けたと言う印象でしたが良いピッチングでした!」
類「先発の早乙女選手は9回を3失点四死球は2つで8奪三振の完投勝利となかなかのピッチングでした!」
真神「シーズンほどじゃありませんがまあナイスピッチングと言っときましょう!」
類「今日のヒーローは先制打の織田選手と完投勝利を飾った早乙女選手です!」
早乙女「どうもどうも!」織田「………………」
類「早乙女選手ですが8回には打たれましたが良く持ち直しましたね」
早乙女「まあ連打食らった時はさすがに焦りましたがそこにいる名捕手のおかげで9回も持ち直しました!」
類「2回で先制打を打った織田選手ですがあの場面でどうすれば打てたのかと言うのはどうでしょうか?」
織田「質問の内容を俺に聞かれても……」
真神「それでどうだったんだ?」
織田「……打てたのは後ろがいるし力む必要はないと一種のリラックス法ですね。俺は精神状態を普通にさせると言うか誰でもそう言う方法は持っているでしょうし俺なりの方法で打っただけです!」
類「話だけ聞くと無難な打ち方ですね」
真神「まあ斬新な打ち方ってのもあまり聞きませんしね。しかし若手のくせにベテランの神経をしていると織田は大成しそうですね」
類「そしてシリーズMVPはこの人!」
野村「俺が―――!?」
小山「あれだけ打って走ってたらMVPも当然でしょう!」
早乙女「シーズンMVPは譲らないがな!」
織田「それより質問に答えなく良いんですか?」
野村「う、うむ!」
類「ではもう一度言いますが今年のシリーズMVPに選ばれた感想は?」
野村「もちろん嬉しいですが俺で良いんですかね。今日の試合でもホームランは打ったけど決まった後だったし大して活躍できなかったんですけど」
類「しかし10盗塁はシリーズ最多ですし選ばれるのも当然でしょうね。既に通算盗塁もトップですし球史に残りますよ」
野村「まあチームに恵まれた感もありますがこれからもファンの期待に応えたいので来年も日本一期待しといて下さい!」

ワァ―――!!!

こうして織田は早くも日本一と言う結果に終わった。シリーズMVPは野村でシーズンMVPは当然投手四冠の早乙女だった。織田はベストナインを獲得とオールスターでもMVPに選ばれたがそっちは大して話題に残らなかった。
織田「じゃあこれで!」

契約更改でも当然年俸はUPし織田は一発サインで決めた。

巨人寮
野村「今年は最高の年だったな!」
織田「そんなに感激する事ですか? 優勝経験なら前にもあるでしょう?」

織田に取って1年目みたいな物で日本一と言うのは最高の結果で喜びもあるが野村ほどのベテランなら何度も優勝しているしそれほど喜べる事なのか疑問に思ったらしい。
野村「優勝は何度しても良い物さ。それに日本一は初めてのような物だしな!」
織田「?」
野村「日本一になった年は1軍定着してなかったからな。それでスタメンで優勝した年は全部シリーズで負けたしな」
織田「ふむ」
小山「俺や折笠さんは1年目で最高の結果でしたね。言うならば高校1年が甲子園優勝したみたいな物ですね!」
折笠「妹尾だったかな」
小山「…………?」
織田「今年のドラフト1位ですね」
折笠「話によれば即戦力で来年の新人王間違いなしだと」
織田「それは広島に指名された守部ですよ。妹尾も評価は高いですけど、どっちかと言えば将来性を評価されての1位と聞いています。まあ新人王獲る可能性もありますけど」
小山「後輩できるの嬉しいですし頑張って欲しいですね!」
野村「俺や織田のような期待されない選手でも活躍できたんだし1位なら可能性は高いと思うが」
織田「期待されない選手が活躍した時点で期待されている選手が活躍できると言うのも疑問に思えますがね」
野村「うっ!?」
折笠「ま、それは置いといて帰郷の予定はどうするんだ?」
織田「………………」
野村「俺はここ出身だし帰郷って感じはしないな」
折笠「俺も神奈川と近いですからね」
小山「俺は京都と遠いですが実家でゆっくり休むつもりです!」
野村「それじゃ…………」
折笠「ん?」
小山「あれ織田さん何処に行ったんですか?」

織田は帰郷と出た辺りからこっそりと寮から出て行った。それから適当にふらふらと歩いていたら運悪く友人の高見と再会していた。

河原
織田「そろそろ実家に戻った方が良いか…………」
高見「そう思うなら帰れば良いじゃないか」
織田「気楽に言ってくれるな」
高見「急に話しかけられても全然驚かんのな?」
織田「もしかしたらお前に会うかもと思ってたからな」
高見「以心伝心って奴だな」
織田「きもいぞ!」
高見「ひでえ!?」
織田「それで?」
高見「…………そう素の表情が続くと落ち込むだけ損してる気がするな。簡潔に言うと酷くバカバカしいと」
織田「(ギロッ!)それで!!」
高見「う、うむ。そろそろ実家に帰るべきだと思ってな」
織田「帰りたいのはやまやまなんだが」

言うまでもないのだが織田は両親の反対を押し切ってプロ入りした。自分の道を歩んだ時から己は家に帰る事を許されないだろうと決意しているのだがそこは当然人の子と言うべきか完全に家族の縁を断ち切るのは当たり前だが嫌らしい。
高見(ま、仲が悪いならともかく仲の良い家族だったんだ。悩むのが当然だな。うんうん)
織田(女々しくも感じるが当たり前と言えば当たり前の事なんだよな)
高見「こほん、おばさんは許してくれてるんだしそれに幸か不幸か実家は近くだ」
織田「お袋は許してくれたのか?」
高見「と言うかおじさんの気持ちを考えてそっちを優先してしまったらしいよ。それにお前が自分よりおじさんを想って欲しいと思っていたからとも言ってたけど」
織田「ふっ、お見通しか」
高見「けど、おばさん後悔してたぜ。お前の方をかばうべきだって俺によく言ってた」
織田「………………」
高見「それとおじさんには口止めされてたんだけどシリーズ最終戦な。おじさん達も一緒に観戦してたんだ」
織田「…………そうか」
高見「知ってたのか?」
織田「……いや、ただ来てくれてる事を祈ってたかな。本当に来てくれてるとは思わなかったと言いたいが」
高見「内心驚いていないって事は思っていたって事だろう」
織田「そうかもな」
高見「ん、分かった。やっぱりお前は帰るべきだよ」
織田「ふっ、おかげで気分もすっきりしたし帰らせてもらうさ。怒鳴られようが罵られろうが構わん。実家に帰る!」
高見「呆れるほどに即断即決だな。これなら昨年のうちに帰ってろと言いたくなるぜ」
織田「そうだな」

肌寒くなる気温だが織田の心は熱く実家に帰る事を決意するのだった。ちなみに織田家は漁師の家系である。

織田家
利子「はーい」
織田「……ただいま!」
利子「あっ!? 利夫!」
織田「親父もだがお袋も元気だったか?」
利子「ええ! ぐすっ!」
織田「うっ!? とにかく帰って来たし入れてくれないか」
利子「ええ!」
織田(ふむ。2年振りだが変わってないもんだな。俺の部屋も綺麗だし少なくともお袋は想ってくれたらしいなしかし問題は親父なんだよな)

それから母親の織田利子(  おだりこ  )は息子の里帰りを喜びご馳走と言う事で買い物に出かけた。
和夫「むう」

そして父親の織田和夫(  おだかずお  )と気まずげに迎え合うのだがどちらもなかなか口を開かず無言のまま時間が経って行く。
織田「(しかしこの状況はきついな)親父は元気だったか?」
和夫「見ての通りだ。まだまだくたばりはせんぞ!」
織田「うむ」
和夫「お前も……その……チームで活躍しているらしいが大丈夫なのか?」
織田「……大丈夫って何がだ?」
和夫「むう」
織田「(どうやら親父もどう接したら分からないらしいな)そう言えばシリーズ観に来てくれたんだな」
和夫「あ、あれはあいつに言われたから仕方なくだな」
織田「良いよ。仕方なくでも来てくれてありがとな」
和夫「……ふう、悪かった」
織田「何の事だ?」
和夫「お前を追い出した事だ。こんなに早く結果を出すとはわしの目が曇っていたんだろうな。とにかく帰って来てくれて良かった!」
織田「結局心配かけてただけだったんだな。親父の後は継げないかも知れないけど、これからも帰って来て良いか?」
和夫「良いに決まっとるだろう! 自分の家に帰るだけなのに確認なんぞするな!」
織田「そっか」

父親との結末は意外とあっさりした物だった。それは喜ぶべきなのだろうが織田としては喜びと後悔とが重なった奇妙な感情を抱くのだった。
高見「上手く行ったか」
織田「おかげさまでな」
高見「ここからでも聞こえるくらいそっちは盛り上がってるな」
織田「一応プロ野球選手だからな。近所の連中のファンも多いし宴会になっているな」
高見「ほほう。さすがはスター!」
織田「おだてるな。今年はそれなりに活躍できたけど来年はもっと活躍するつもりだ!」
高見「現状に満足せず上を目指すか」
織田「でなければ成長はできん。それだけの事だ!」
高見「だな。俺ももう少し頑張ってから休むか、それじゃお休み!」
織田「ああ……(休める時に休むのも仕事か、あの中に戻るかと思うと気が重くなるが仕方ない)」

電話を切ってそう言うと織田は宴会の方向を見てため息を吐きながら渋々と戻るのだった。