第2章 夏の終わり

−1997年 7月−
夏の大会も始まり赤竜高校は順調に勝ち上がり今日は決勝戦となった。相手は名門斉天大附属と恒例の試合だが今年も勝つ事ができるのだろうか?
孝介「あっさりと決勝まで来れましたね」
村田「途中に風雲高校とかもあったが、村雨さん達が引退してからは一気に戦力が落ちてるしな」
孝介「強豪でも先輩が引退したら弱小ですか」
工藤「まあ高校野球はすぐに世代交代になるからな」
孝介「そりゃそうですね」
相川「しかし今日の相手は春の甲子園出場校とやっかいだよ」
福西「しかし春の日本一が天狼学園とはね」
孝介「創部3年で日本一とは凄いですよね。夏も優勝すれば春夏連覇か」
木下「同世代で一番凄いって言われている奴がキャプテンだからな」
篠原「まあ無明実業を倒しての甲子園出場だったし勝てても不思議じゃなかったな」
中西監督「全国の相手よりもまずは身近な強豪校に集中するんだな」
柚主将「そう言う事、マネージャー、情報!」
灯子「はい。まずは4番でエースの小比類巻(  こひるいまき  )君ですね。1年生で既に140キロ以上を出す怪物投手です!」
村田「佐伯さんがいなくなってチャンスと思ったらまた凄い奴が出て来たよな」
工藤「小田切が地方最速だったのに抜かれたな」
矢吹「本当、名門だけあって凄い1年が入って来たよな」
小田切「その方が投げ合いは面白いがな!」
矢吹「ひゅ〜大物だね!」
灯子「速さもですがやっかいなのは球威の重さですね。でもコントロールは悪いからそこが攻略のカギになると思いますよ」
村田「剛球投手って感じだな。変化球はどうなんだ?」
灯子「高速スライダーとカーブですがストレートに比べたら大した事はありませんね」
柚主将「それでもかなり変化するから芯でとらえるのは難しいかも知れない」
相川「しかしストレートに比べたら球質は軽いし狙って見たら面白いかも知れませんね」
孝介「球威のあるタイプか、やっかいなのは今までの相手と段違いの球速だな」
灯子「他に注意するのはキャプテンの中尾さんですね。ミートとリードは言うまでもなくプロクラスです!」
相川「今年のドラフト候補だし当然の評価だね」
孝介「静馬は?」
灯子「登板した試合では120キロ半ばくらいで緩急を付けたピッチングでバッターを翻弄してました。レベルはそんなに高いと言う感じはしませんでしたね。それと守備とミートは上手いですね。長打力はないんでヒットに気を付ければなんとかなりそうです!」
相川「孝介君の話によればあの程度じゃなくもっと球種も変化もとんでもないって話だったね」
孝介「ええ。球速はともかくコントロールと変化球はとんでもないですね。特にバッターの裏を突く投球術は酷くむかつきます!」
工藤「スイッチされたらかなり面倒ですね」
福西「まったくだ」
孝介「ただスタミナはそれほどでもないんで球数を増やせば何とかなるかも知れません」
中西監督「とにかく失点を少なくしないとまずい相手と言う事だな」
孝介「そう言う事です。今日の試合はキャプテンのピッチングにかかっています!」
柚主将「なら投げ勝つだけ!」

−地方大会決勝戦 横浜スタジアム−
3年 岩山 太郎
後攻 先攻
斉天大附属高校 赤竜高校
投手力 機動力 投手力 機動力
打撃力 守備力 VS 打撃力 守備力
意外性 経験値 意外性 経験値
総合力 総合力
相川 正人 3年
1年 中川 静馬 福西 克明 3年
3年 中尾 忠光 中西 孝介 1年
1年 小比類巻 翔矢 村田 修一 2年
3年 西田 博樹 篠原 直道 3年
3年 秦野 良

矢吹 隼人

2年
3年 新開 真澄 木下 義雄 3年
2年 千葉 活也 松本 武彦 2年
2年 後藤 直太 風祭 柚 3年

大島監督「相手はうちと並ぶ名門だ。昨年の夏の覇者だし知らん部員はおらんだろう」
中尾主将「ミーティングもしたしみんな知ってます!」
大島監督「そうだな。相手の先発は小娘だがあの『風祭』の妹だけあってとんでもないナックルを投げやがる!?」

あの風祭と言うのは風祭大吾(かざまつりだいご)の事で今年の新人王の本命と言われている選手であり現在の首位打者でもある。
小比類巻「何気にナックルボーラーとの対戦って初めてですし楽しみですね!」
西田「打つ方を楽しみにしてるところ悪いがあいつから点を奪うのは難しいし投げる方にも集中しろよ!」
小比類巻「嫌だな〜分かってますよ」
中尾主将「リードは俺がするから問題ない!」
中川「翔矢と相性が悪そうなのは相川さんと孝介かな」
小比類巻「中西孝介か―――篠原さんを退けての3番だしさすがにやりそうだな」
大島監督「打率4割以上で何よりも三振ゼロと言うのは大した物だな」
中川「あいつから三振を奪うのは死ぬほど難しいですからね。翔矢のストレートなら可能性はありそうだけど」
小比類巻「例え相手が誰だろうと俺が抑えてやる!」
大島監督「意気込んでるところ悪いが中西に投げる事はないぞ!」
小比類巻「そうでした」
大島監督「本来は村田もなんだからちっとは期待に応えろよ!」
小比類巻「もちろんです!」
西田「やっぱり村田の時も中川が投げるべきだと思うけどな」
中尾主将「赤竜の中では唯一翔矢からホームランを打ちそうだからな。しかし監督の決めた事だ。俺達はただ信じて行くだけだ!」
西田「まあな」

放送席
霞「ご存知の実況は白銀霞で(  しろがねかすみ  )解説はこの人!」
武藤「武藤小太郎(  むとうこたろう  )です。プロへの道はまだまだ遠いな」
霞「知っている人は知っている200勝投手の武藤さんです。ちなみに今日の試合の斉天大附属は武藤さんの母校になります!」
武藤「そう言えば霞さんって何処の高校出身なんですか?」
霞「私は海原高校出身ですよ。両親は北海道ですが私は今でも祖父母にやっかいになっていますから!」
武藤「そうだったんですか」
霞「まあそれはどうでも良いとして今日の先発は私の大ファンの柚ちゃんと新星ルーキーの小比類巻君です!」
武藤「1年生でエースはやっぱり凄いですよね。風祭さんも球速が上がってると成長してるし面白い投げ合いになりそうですね」
霞「ちなみに小比類巻君は4番ですが」
武藤「昨年もですが重量打線と言われた一昨年以前に比べてホームランバッターが少なくなってますからね」
霞「まあ斉天や無明に多かった特待生も天狼に多く行ってますと高校野球も新たな名門が増えて来てますからね」
武藤「そうですね。しかし斉天大附属はあの錬成高校と同じく野球部の歴史が長いんです。そうそう知名度で抜かれる事はないでしょう。もちろん実力でもです!」
霞「斉天に思い入れがあるのも分かりますが中立でお願いしますと言う訳で試合開始です!」
武藤「(他人( ひと )の事言えないと思うけど)分かってますよ」

1回表 斉0−0赤 1年の小比類巻がどんなピッチングを見せるのか
小比類巻「行くぞ!」

ガキッ!
相川「想像以上に重いな」

霞「巧打者の相川君ですがここは力負けして1アウト!」
武藤「143キロと結構速いですね……いや1年でこれは怪物と呼んでも良いのかな」

小比類巻(いきなり芯に当てて来るか)
中尾主将(今年のドラフト候補だし当然だがな。向こうも最初は様子見だろうし最初はストライクゾーンに入るよう投げて行くぞ!)
小比類巻(うっす!)
相川「やっぱり重いね」
福西「意外とコントロールも良いみたいだな」
相川「うん。加減して投げてる感じがするし落ち着けばヒットを狙えると思ったんだけど……ちょっと変わったストレートだったね」
福西「変わったストレートと言うとストレート変化球とかって奴かね?」
小比類巻「うらっ!」

ズバ―――ン!
福西「なんつう速さだよ!?」

霞「145キロのストレートを見逃し三振とかなり速いですね!」
武藤「石崎クラスですね。しかもノビもあるみたいだし河島や石崎に続く逸材かも知れませんね」
霞「……? ここでピッチャー交代のようです。小比類巻君に代わって中川君がマウンドに向かいます。小比類巻君は当然ですが交代せずセンターを守ります!」
武藤「へえ。変わったリリーフですね。小比類巻君ならそのままでも十分に通用しそうなのにちょっと意外ですよ」

孝介「ここで来るのか」
中川「翔矢には悪いがこいつは俺の獲物だ!」
孝介「気合い入ってるな。こっちも負けないぞ!」

ククッ! ガキッ! ククッ! ガキッ! ククッ! ガキッ!
霞「注目の対決なのでしょうが…………延々とファールが続きます!」
武藤「球種と変化が凄いですね。しかしこのボールを延々とカットして行く中西君も恐ろしいですね。力勝負と言うより技術勝負なんでしょうが近頃じゃ観ない対決ですね」

中川(しつこい。こいつでどうだ!)

クルッ!
孝介「チェンジアップか!?」

ガキッ!
中川(完全にタイミングを外したのにこいつもカットするのか…………やっぱりこいつを投げるしかないか!)

クルッ!
孝介「二度も同じ手が通用するか!」

ブ―――ン!
中川(奥の手を早く出し過ぎたかな)
孝介「……ナックルだと!?」

霞「長かったですが最後はナックルですかねを空振り三振と中西君の三振も珍しいですね」
武藤「公式戦では初記録と……まあそれは置いといて風祭さんは別格とするもあのナックルの変化は凄いですよ。斉天のこのピッチャーコンビは驚異ですよ!?」

小比類巻「なるほど、俺だと根負けしてフォアボールになりそうだ」
中川「三振は数えるほどしかしないとバットコントロールとスイングスピードの速さは相変わらず健在とあいつを出すと確かに怖いな」
小比類巻「セットだとボールの威力も落ちるし交代は正解だと言う事か」
中尾主将「それだけ村田は怖いって事さ」
中川「それにしてもキャプテン相手だと投げやすいですね」
小比類巻「手加減せず投げれるってのがこんなに有り難いとは確かに思わなかったな」
中尾主将「後逸する事は滅多にないと思うがそれでも1年のボールくらいは捕って見せるさ!」
中川「頼りにしてます!」小比類巻「次もお願いします!」

村田「すげえ球種と変化だったな」
孝介「一番の武器はコントロールと洞察力の高さですよ。読み合いであいつに勝つのはまず無理ですから!」
村田「みんなに俺からも話しとくわ」
孝介(俺を封じる為の登板って事はやっぱり小比類巻はコントロールに難があるって事かな?)

1回裏 斉0−0赤 小比類巻と中川のコンビはやはりやっかいかあっさりと三者凡退に終わった
柚主将「次は私の番か」
松本(ナックル多投だから今日も後逸しないよう頑張るぞ!)
柚主将(シュッ!)

クルッ!
岩山(初回だってのに球速も変化もとんでもないな!?)

霞「今日も凄まじいナックルで三振を奪います!」
武藤「コントロールに少し問題がありますがストライクに入ると手が出ないとやはり一級品のナックルですね」

柚主将(シュッ!)

クルッ!
中川(ストレート狙いだったけどキャッチャーに読まれたな。名前は売れていないけどレギュラーだけあって良いリードをするな)

霞「中川君も見逃し三振とやっぱり柚ちゃんは凄いですね!」
武藤「初めて見る特殊な変化球ですし最初は見て行く事に決めたんでしょう。だからあっさりと三振したんですよ」

中尾主将(さてと、狙うはナックルのみだが、見て行くのも手かな?)

カキ―――ン!
福西「楽勝!」

パシッ!
霞「ライジングナックルをとらえたかと思いましたがセンターの福西君が追い着いて3アウトチェンジ!」
武藤「2人共と言うか3人共ですか良いピッチングをしますし今年も投手戦ですかね?」

柚主将「最後は怖かった」
松本「変化が小さかったらスタンドに届いてたでしょうね」
柚主将「やっぱり3番は要注意!」
松本「注意する人は多いですけど、中尾さんと西田さんは特にですね」
柚主将(コクッ!)

小比類巻「やっぱりナックルオンリーですね」
中尾主将「お前だとミートに徹しないとさすがに打てないと思うが」
小比類巻「俺は自分のバッティングで勝負します!」
中尾主将「……そう言うと思ったよ」

この試合を動かすのは4番の一振りと思われたが投手陣のピッチングは素晴らしく無失点が続いて行く。

9回表 斉0−0赤 投手戦は続き無失点で最終回に突入した
霞「本当に投手戦ですね。ハイライト見せようにもこれじゃ見せられませんね」
武藤「まあそれは置いといて3人共良いピッチングを見せてますよ。先発の2人は球数が多いしそろそろ均衡が崩れてもおかしくはないと思いますが」
霞「前の回でも同じ事言ってませんでしたっけ?」
武藤「うっ!? とにかくです。きっと決まる。恐らくちゃんと決まるっぽいです!」
霞「解説はあんまり期待できませんがクリーンナップからですし期待しましょうか」
武藤「特に裏も期待大です!」

中川(今のところ完全に抑えてるけど、このまま行けるとも言えないし慎重に行くぞ!)
孝介(ここまで完全に抑えられてるしここは…………ダメだ。読み合いじゃ絶対に勝てない。何が来ても速く振って打つ!)

カキ―――ン!
中川「っ!?」
西田「行かせるか!」

パシッ!
孝介「あれを捕るか!?(いやストレートと完全に裏を突かれたのが敗因かくそっ!?)」

霞「意外にも最後はストレートでショートゴロと言う結果に終わりました!」
武藤「普通ならセンター前でしたね。西田君は昨年から更に成長とこれならドラフトにかかるかも知れませんね」
霞「しかし完全に裏を掻かれたと思いましたが振り遅れる事なくヒット性の当たりを打ったのは驚きでしたね」
武藤「スイングスピードの速さは脅威ですね。それと中川君の球速は高校生にしては速い方ですが中西君から見たら速球と言うほどでもないのかも知れませんね」
霞「恒例のワンポイントリリーフは終わりまして小比類巻君がマウンドに向かいます!」
武藤「中川君と中西君の対決が技術勝負ならこの小比類巻君と村田君の勝負は力勝負と言うべきでしょうね。そしてこう言う試合だと一発のある強打者が怖いと試合でのポイントはここになると思いますよ!」

村田(球速は落ちていないが球威は落ちて来てるだろうしここで一発を狙う!)
小比類巻(パワーとパワーの勝負! 絶対に負けられん!)
村田「球種が分かってればスタンドにくらい運べるわい!」

カキ―――ン!
中川(芯を外してここまで飛ばすとは!?)

パシッ!
村田「ライトかレフトなら入ってたのに!?」
小比類巻「ノビてたぶん芯を外してくれたか、しかし外してあそこまで飛ばすのかよ!?」

霞「スタンドまで届くと思いましたがひと伸びせずセンターフライに終わります!」
武藤「球威と言うよりノビてたぶん芯を外せた感じでしたね。小比類巻君はここぞと言う時の力を持っているんですかね」

小比類巻「うらっ!」
篠原「速いが―――コースがあまい!」

カキ―――ン!
小比類巻「っ!?」
新開「ふんっ!」

パシッ!
篠原「ちっ! ここぞと言う時に良いプレーをするな!」

霞「ここで新開君がジャンピングキャッチと素晴らしいプレーを見せます!」
武藤「さすがは斉天のレギュラーですね。良いプレーをしますよ!」
霞「あっさりと三者凡退と今日のクリーンナップは調子が悪いですね」
武藤「いえいえ。バッターも調子は良いですよ。ピッチャーがもっと調子が良いだけでね」

小比類巻「さすがに合わせて来ますね」
中尾主将「そりゃ全国でもトップクラスのバッティングのチームだからな。四死球と無駄球が多いのは悪いとこだがエースとしては恥じない成績だ。自信を持て!」
小比類巻「はい!ですが1点が遠いですね」
中尾主将「相手もそれだけ良いピッチャーって事だ! こいつを打ってこそ全国に挑戦する権利ができると野球はこれだから面白いって親父なら言うんだろうな」
小比類巻「キャプテンは違うんですか?」
中尾主将「どうかな? 打つのも楽しいけど俺はリードする方が肌に合ってる気がするよ。お前だってバッターを打ち取る楽しさは分かるだろう!」
小比類巻「それは確かに!」
中尾主将「このまま抑えて甲子園に行くぞ!」
小比類巻「はい!」

矢吹「クリーンナップが三者凡退ってなんつう1年だよ!?」
篠原「バックもやっかいだぞ。回を増す事に奴ら集中力を上げて来る」
矢吹「こっちも負けずと守って行くしかないですね」
篠原「悔しいがな!」
孝介(ふう、完全に負けたな)
村田「ぼけっとしていないでとっとと守って次の回で反撃するぞ!」
工藤「お前が守って行くと言っても説得力がないと思うぞ!」
村田「うっさい! 俺だって言っててちょっと思ったわい!」
工藤「自覚があると喜ぶべきか悲しむべきか判断に困るな」
孝介「(ははっ、そうだな。個人では完全に負けてるかも知れないけど野球はチームだ!)守って打って勝ちましょう!」
村田「おう!」工藤「ああ!」

9回裏 斉0−0赤 赤竜打線は沈黙されたまま9回の裏に入るが
柚主将(このまま抑えて延長で勝利する!)

ガキッ!
中川「打ち損じた!?」

霞「わずかに芯を外れてショートゴロに倒れます!」
武藤「思ってたより変化が小さくて打ち損じた感じですね。やはりスタミナは落ちているようだしこう言う展開だと一発を期待したいですね!」

中尾主将「これなら打てる!」

カキ―――ン!
柚主将「っ!?」

霞「ライジングナックルをジャストミート―――スタンドにはわずかに届かずフェンス直撃のスリーベースヒット!」
武藤「やっぱり変化が落ちてますね。しかし一気にサヨナラのピンチですか」

小比類巻(スクイズのサインはなしか監督に感謝しないとな!)
松本(一気に大ピンチだな。ランナー3塁でナックルは怖いんだけど……)
柚主将(フルフル!)
松本(……ええい! 分かりましたよ! こうなったら意地でも捕って見せる!)

柚主将(シュッ!)

クルッ!
小比類巻「くそっ! 追い込まれた!?」

霞「空振りしてこれで2ストライク追い込みました。カウントは2−1と変化もコントロールも戻って来てますね!」
武藤「昨年の斎藤のようにここぞと言う時の力は凄いですね。しかし3球ともナックルとキャッチャーの度胸も凄いですよね!?」

柚主将(シュッ!)

ブ―――ン!
松本「なっ!?」
小比類巻「………………」
中尾主将(タッタッタ!)
松本「(パシッ!)あっ!?」

霞「ランナーの中尾君は返ってサヨナラだ―――! 最後はなんと振り逃げ後逸でのサヨナラと最後の最後でエラーが出てしまいました!」
武藤「ナックルを捕り損ねたのは何回かありましたけど、エラーが記録されたのはこれが初めてですね。しかし最後は完全に変化が戻った最高のボールだったのにこんな結果とは」
霞「昨年の夏の覇者の赤竜高校でしたがここで散ってしまいました。柚ちゃんも松本君も残念な結果に終わりましたがこれをバネにして復活してもらたいたいです!」
武藤「そうですね。敗北したとは言え力は凄かったです。個人的には全国でもトップクラスの打線を無失点に抑え込んだ斉天の1年生ピッチャー達を評価したい良い試合でしたよ!」
霞「キャプテンの中尾君も土壇場で良く打って良く走りましたね。最後の走塁はわたくし勝利への執念を感じてしまいましたよ!」
武藤「確かにチームのキャプテンとしてか1人の野球人としてかもしくは両方でありどちらでもないのか分かりませんが感動するような走りでしたね!」

赤竜高校
松本「………………」
柚主将「気にするなと言うべきじゃないかも知れない。ただ私は仕方ない事だって思っている。サインに逆らったのは私だしランナー3塁だとこう言う可能性はあった。松本のせいではなく私の意地で負けた。だから自分を責めると言うなら私も責めるべきだと思う!」
孝介「(不器用な人だな)…………打てなかった俺達の責任でもありますし誰が悪いとかは良いじゃありませんか反省して次に生かしましょう!(ちょっと無神経な言い方だったかな?)」
相川「まあ僕達はこれで引退だけど、この悔しさは君達に晴らしてもらうよ!」
松本「…………みんな」
村田「つうかいい加減元気出せ! お前がこのまま終わっちまうと秋はすぐに終わっちまう!」
工藤「キャッチャーがそんなだと俺達も調子が落ちちまうしな」
小田切「そう言う事だ!」
矢吹「負けたのは1人だけのせいじゃなくみんなの責任だろう。また一緒に頑張って今度こそ甲子園に行こうな!」
松本「ああ!」
中西監督(これでまた戦力が落ちるが……そっちは控えの連中の成長でなんとでもなると……そろそろ俺の役目もごめんかな)

斉天大附属高校
小比類巻「………………」
中川「勝者の(つら)とは思えないな」
小比類巻「なんつうかすっきりしない勝ち方なんだよな」
中川「気持ちは分からなくもないが今はあっちの方が正しいと思うぞ!」
全員「次は甲子園だ!」
小比類巻「……そうだな」
中川「ふっ、夏にはもっと強いところもあるし秋には……多分……再戦もあるだろう」
小比類巻「だな。甲子園か……」
中尾主将(優勝したのは1年の夏か―――あれから結構経ったな。今年は再び斉天の名を全国に轟かせる!)
大島監督(あの1年ピッチャーが何処まで頑張れるかが優勝へのカギになりそうだな)

赤竜神社

ブン! ブン! ブン!
孝介「ふう、こんな物か」

静かな空気が気に入ったか孝介は自主トレのいくつかを神社でするようになっていた。
灯子「中西君?」
孝介「マネージャーか」
灯子「こんなところで練習してたんだ?」
孝介「まあな。マネージャーはこんな時間に参拝か?」
灯子「(うち)神社( ここ )近いから散歩とお祈りと両方を良くするの」
孝介「ふーん、まあどっちでも良いけど、ここで練習してる事は内緒にしててくれ」
灯子「別に良いけど、どうして?」
孝介「黙って努力するのが男って物と親父なら言うんだろうが俺はこの静かな雰囲気が好きなんだよ。妙に集中できると言うか」
灯子「…………邪魔しちゃったかな」
孝介「別に気にしなくていいぞ。俺も勝手にいるだけだしそれに静かに見ているだけならそんなに気にしないと言うか他人( ひと )の練習なんか見ててもつまらないよな」
灯子「そうでもないよ。私は誰かを応援したり頑張っている姿を見るのは好きだし」
孝介「そう言われると見られるのもなんか恥ずかしいな」
灯子「見ちゃダメかな?」
孝介「それは構わないけど、本当に楽しい物か?」
灯子「うん!」
孝介「(まあマネージャーってのはそう言う物かもな)…………ふう」
灯子「甲子園…………行きたいな」
孝介「頼もしい先輩達もいるし来年は行けるさ!」
灯子「そうだね!」

こうして赤竜高校の夏は終わり孝介と灯子の特別かどうかは良く分からない関係も始まるのだった。