第1章 伝説への第一歩

−2000年 4月−
いよいよ、俺の高校野球が始まる。俺はこの高校でどんな3年間を送るのだろうか?
柴田「俺の名は柴田竜(しばたりゅう)、シニアでは恐怖の1番バッターと恐れられた男だ」
??「誰に説明してんだよ?」
柴田「ああっ!? せっかくレコーダーで録音してたのに!」

こいつは山本秀二(やまもとしゅうじ)、幼稚園くらいからの腐れ縁で俺の親友だ。
山本「そう言えばプロ野球選手の次はアナウンサーになりたいって言ってたっけ」
柴田「良し、気を取り直して(ギロリッ!)ジャマしたら死なすからな!」
山本「YesSir!」
柴田「俺の名前は柴田竜、シニア時代には恐怖の1番バッターと恐れられていた男だ。今日ここ無明実業高校(むみょうじつぎょうこうこう)に入学した。無明実業高校、名門と名高い高校だったが2000年現在は天狼学園高校の活躍で弱小野球部と言う印象しかない。だが俺が来た限り弱小などと呼ばすつもりはない。俺の活躍で再び強豪と言わせて見せる。こうして俺の高校生活が始まったのだった!(カチッ!)ふう、もう良いぞ」
山本「YesSir! ところでこんな事する為にこんな早い時間に来たのか?」
柴田「ああ」
山本「俺は来なくても良かったんじゃ?」
柴田「はっはっは、やだなーこれからの時間潰しをする為にお前を呼んだんだろうが」
山本「結局、高校でも俺はこう言うポジションなのね」
柴田「はっはっは、何を今更」
山本「うえーん。お父さん、お母さん、お爺ちゃん、お婆ちゃんのバカヤロウ!(ビュ―ン!)」

そう言って秀二はどっかに走って行った。ま、時間はあるし始業式には間に合うだろう。
柴田「1人じゃなく4人の身内で来たかなかなかやるな」

と俺も一応ツッコミ役として当然のセリフを放つ。
柴田「むなしいぜ」

少し落ち込んだ後……ずっとこうしてもむなしいので俺は秀二を捜しに行く事にした。
????&??「……………………」

柴田「あれは確か?」

煙草を吸っているのはここの野球部の監督の大岡監督だ。そしてもう1人は?
柴田「分からん? 誰だ? 先輩か?」

何か知らんが監督はキャッチャーミットを持ってホームベースへもう1人の方はマウンドへ向かっている。
柴田「おおう。これはひょっとして入部テストってそんな訳はないか」

以前の名門の無明実業ならともかく現状は10数人くらいしか部員はいないらしいのでテストはなくなっているらしい。
柴田「つうかどうすればここまで部員数が壊滅的に悪くなるんだか?」

と俺が考えている間に何か知らんがピッチャーが投げる。
??(シュッ!)

フォームは普通のオーバースロー、しかし鏡を見ながら何度も投げたかの様な綺麗なフォームだ。
柴田「野球経験は長いな。10年近くやっていると見た!」

ズバ―――ン!!!
柴田「なっ!?」

俺は普通に驚いた。放たれるストレートは速い。とてもじゃないが弱小校のピッチャーのボールではなかった。シニアでもここまでの速球派は見た事がなかった。
大岡監督「こりゃ話以上だな。確かにこれなら再び名門に返り咲けるかも……ん? 誰だお前?」
柴田「あっ!?」

別段悪い事をした訳じゃないんだがちょっと萎縮してしまったが素直に監督達と話す事にした。
柴田「えっと柴田竜って言います」
大岡監督「新入生か?」
柴田「はい」
大岡監督「ずい分早く来てんだな?」
柴田「高校デビューの為には早朝に来る必要があったので」
大岡監督「そうか、まあ良く分からんが」
柴田「こほん。ところでさっきの速い球を投げたあの人は?」

俺は興味を持ったピッチャーについて訊ねる。
大岡監督「ああ、こいつは新入生のピッチャーだ。あの『天野家』の三男坊さ!」
柴田「プロで監督も息子も活躍しているあの天野ですか!?」
大岡監督「うむ。ところで君も新入生だったな。良かったら野球部に入らんか?」
柴田「はい。柴田竜、野球部に入らせてもらいます!」
大岡監督「誘って何だけど、簡単に入ってくれるな。ひょっとして野球部に入るつもりだったのか?」
柴田「俺、一応シニアでも活躍したつもりなんですけど、俺の名前知りませんか?」
大岡監督「そうなのか? 柴田ね。すまん。分からんわ?」
柴田「まあ知名度はあんまりないですが実力には自信があります。今見たピッチャーからでも打つ自信はあります!」
天野「何っ!?」
大岡監督「(この大口、名雲や天野を思い出すな)それじゃバッティングを見せてもらおうか?」
柴田「うっす!」
天野(どうも表情を見る限りハッタリとは思えん。俺のボールを見てここまでの自信バッティングがそんなに上手いのか?)
柴田(さてと大口叩いたのは良いがここで打てなかったらアホだな)

正直に言えばバッティングに自信はあるが天野から打てると確信は持っていなかった。ここでの打算は監督へのアピールだけだった。そしてもう1つは天野……そう言えば下の名前は知らないんだっけとそんな事はどうでも良い。とにかく天野と言うピッチャーと対戦して見たいと言うただの好奇心だ。
大岡監督「勝負は3打席で行う。フォアボールやデッドボールも評価の対象になる。いいな」
柴田&天野「はい!」

この対戦が後世のライバルとなる柴田と天野の幻の初対戦だった。
天野(まずはコースを狙わずに投げる!)

ズバ―――ン!
柴田(なるほど、兄譲りで手元でかなりノビてるな)

1打席目は見る事に集中して結果は当然ながら見逃しの三振で終わる。
天野(平然と終わったな。不気味だ)
柴田(そろそろ反撃開始!)

カキ―――ン!

追い込まれてから来るボールは一級品だったが俺は何とか合わせ結果は……
大岡監督「………………」
天野「ライトを越える2ベースと言った所か、もういい俺の負けだ」
柴田「まだ1打席残ってるぞ?」
天野「2の1でも3の1でも大して変わらん」
柴田「ストレートだけしか投げなかったからな。変化球混ぜられたら打てなかっただろうな」
天野「それは結果論だ。お前とはブレイジングショットだけで勝負したかった」
柴田「ブレイジングショットって言うと天野さんの決め球か」
天野「ああ。兄貴に教わった」
柴田「それ規約違反じゃ?」
天野「んな訳ないだろう。教わったのは兄貴が高校時代の時だ」
柴田「ふーん、ところでお前、下の名前なんて言うんだ?」
天野「……? ああ、天野守(あまのまもる)だ。兵庫から来た。ここに来た理由は親父や兄貴達の母校だからだ!」
柴田「ふーん、俺の様に弱小が名門を破る方が面白いって訳じゃないんだな?」
天野「まあ、来た以上は全国制覇させるつもりだけど」
柴田「そう来なくちゃな。これで俺の伝説も現実味を浴びて来たぜ!」

こうして俺の高校野球が
柴田「まだ始まってねえよ!」
天野「何だよいきなり?」
柴田「ふっ、気にするな。それより結構時間が経っちまったな。もう秀二はどうでもいいや。入学式に急ぐか」
天野(変な奴?)

とりあえず入学式も担任との会話もスキップし再び野球部に向かう。

無明実業 野球部
大岡監督「知ってると思うが俺は大岡勲、(   おおおかいさお )野球部の監督をしている」
野村主将「そして俺がキャプテンの野村栄治( のむらえいじ )だ。チームの4番でサードを打っている!」
柴田(ふーん、やっぱり4番って事は凄いのかな?)
大岡監督「今年も少ないが1年からは5人入った。自己紹介でもしてもらおうか!」
新入部員「…………………………」
柴田(100人近くいた部員が10数人と現在は弱小校の位置付けだからなしかし俺が来たからには弱小なんて呼ばせない!)
大岡監督「おーい。柴田、お前から紹介だぞ?」

俺は左端にいるのでどうも監督は左から順番に呼ばすつもりらしい。
柴田「おっと柴田竜、シニアでは恐怖の1番バッターと恐れられていました。1番ライト希望です!」
大岡監督「1番希望って事は足にも自信があるのか?」
柴田「ええ、まあ」

そう足の速さには自信があった……しかし、まあいいかどうせ後に分かる事だし
大岡監督「ん? まあいいかそれじゃお隣さんも紹介してくれ」
山本「や、山本秀二、さ、先に紹介した柴田と同じシニア出身でポジションはサ、サードです!」
野村主将「ほう、俺と同じポジションか、練習とか相談に乗ってやるから気軽に聞いてくれ」
山本「は、はい! よろしくです!」
大岡監督「ちょっと緊張しすぎだな。ま、入部当初じゃ仕方ないな。それじゃ次のお隣さん」
高橋「高橋陽太( たかはしようた )です。ピッチャーやキャッチャーは無理だろうけど内野なら何処でも任せて下さい!」
大岡監督「そりゃ助かるな。それに元気で良いな。それじゃお隣さん」
岩田「岩田定吉( いわたさだきち )、ピッチャー希望でストレートには自信があります!」
大岡監督「なるほど、1年にしちゃ体格は立派だな。素質はありそうだし頑張ってくれ。それじゃラスト!」
天野「天野守、ピッチャーで特待生として兵庫から来ました。よろしくお願いします!」

ザワザワ

案の定、俺以外の知らない部員は天野の名だけで騒ぐ。まあ仕方ない。天野の名はここ無明実業野球部では伝説になっているのだから
柴田「………………」
岩田(天野守―――こいつとスタメンを争うのか)
大岡監督「知っての通りプロで活躍中の天野兄弟の三男坊だ。仲良くしてやってくれ」
高橋「そう言えば柴田君もお父さんがプロ野球選手って事はないの?」
柴田「えっと高橋だっけひょっとして柴田純一(しばたじゅんいち)選手の事か?」
高橋「うん。しかし一発で良く分かったね?」
柴田「まあ、柴田の性で一番有名っぽいからな。1番と言う共通点もあったしと取り合えずあれは親父ではなく親父の兄貴だ。つまり伯父さんって訳だ!」
全員「ここにもプロ野球選手と関連が」
野村主将「今更何を言っている。俺だってプロ野球選手の息子だろうが!」
山本「さすがは数々のプロ選手を送った無明実業、プロとの関連選手がいっぱいいるんだな?」
柴田「今更何言ってんだよ。お前も昔から伯父さんと会ってたじゃないか?」
山本「そりゃそうだけど、あの人は何と言うか近しい感じがして有名人って感じがしないんだよな」
柴田「まあそうかもな」

実際、俺も昔から会ってるし当たり前だが有名人と言うよりただの伯父さんでしかなかった。
大岡監督「とにかく、これで自己紹介も終わりだ。それじゃ練習開始だ!」
全員「はい!」

新入部員 基礎 打撃 走塁 守備 投球

大岡監督「ま、こんな物かしかし今年の1年はどいつもこいつもセンスがあるな。これからの3年間が今から楽しみだな!」
野村主将「確かに質は一級品って感じだな。今年こそ甲子園へ!」

柴田「しかしお前って呆れるくらい欠点のない奴だな」

俺は天野を見ながらしみじみ言う。
山本「うんうん」
天野「まあ、血は水よりも濃いって言うし天野家の血だろうな」
岩田「正直ストレートの速さで負けるとは思わなかった」
高橋「と言っても岩田君も143キロと1年生とは思えない速さだったけど」
山本「うんうん」
柴田「投手力は3年間問題なしだな。ケガとかには気をつけろよ!」
岩田&天野「ああ」
柴田「先輩達の練習も見たけど弱小な割りにセンスある人が多かったな」
山本「それは俺も感じた。量はともかく質は良い感じだよ」
高橋「けど、この野球部が1回戦勝つ事も難しいって事は?」
天野「全国でも屈指の激戦区って話は嘘じゃないって事だろう」
山本「これで甲子園には出れるんだろうか?」
柴田「ま、俺と天野がいるんだ。問題ないさ。ついでにお前らも頑張れよ!」
山本&高橋&岩田「ついでかい!!!」
天野「俺はここでお別れだな」
柴田「そう言えば天野は特待生だから寮か」
天野「ああ」
岩田「俺も寮だから一緒に行こうぜ」
高橋「僕も一緒に行くよ」
山本「何だ3人共寮なのか?」
天野「らしいな。お前らは実家通いか」
柴田「うむ。俺達はちゃきちゃきの江戸っ子でい!」
山本「生粋かどうかは知らんけどね」
高橋「せっかくだから東京見物する時はお願いするね」
柴田「任せとけ!」
山本「そんな安請け合いして大丈夫かな?」
柴田「問題なし俺は帰ってディーを散歩に連れて行かなきゃならんし」
高橋「ディー?」
柴田「家で飼ってる犬だ。どうせならドラゴン飼いたかったんだけどな」
岩田「そんなもん何処探しても見つからねえよ!」
柴田「いやいや、世界は広い。かつて世界を滅ぼしかけた邪神竜とか見つかるかも知れんだろう」
高橋「ゲーム見たいなネタだね」
柴田「まあともかくDragonの頭文字のDをそのままカタカナに変換してディーと言う名前にしたんだ」
天野「犬か」
柴田「俺の相棒、ま、いつかお前達にも紹介してやるよ」
高橋「相棒? 山本君は?」
柴田「(チラッ!)こいつは下僕だ!」
高橋&岩田&天野「酷っ!?」
山本「ふふふ、どうせ俺はこう言う立ちキャラだよ」
柴田「っと冗談は置いといて」
山本「ほんとに本当に冗談だったんですか?」
柴田「こうして俺達が5人、まあ戦隊物見たいに集まったのも何かの縁3年間よろしく頼むぜ!」
高橋「うん」岩田&天野「ああ」
山本(はあ、こんなメンバーで本当に甲子園に行けるんだろうか?)
柴田「こうして俺達の伝説が始まるのだった(カチッ!)」
山本「まだ録音してたのか?」