第8章 決勝への道標(後編)

−2000年 8月−
周囲の予想を裏切って斉天大附属が勝ち上がり次の準決勝戦も始まった。
大岡監督「今日の相手は名門の冥空高校だ!」
柴田「冥空高校と言うと神童さんのいたあの冥空高校か、エースはやっぱり150キロ出すのか?」
山本「違うし、エースの小国さんはMAX147キロを投げるジャイロボーラーだけど、どっちかと言うと変化球投手だよ!」
天野「その中でもスライダーは超の付く一級品だな!」
山口「うむ。ブーメランスライダーと名付けられた通りかなりの変化とボールが返って来るところから三振を奪いやすいと言うネーミング通りのボールらしい!」
高橋「本当に打ちにくそうですね。しかしスライダーと言うと雪村さんとどっちが上なんでしょうね?」
大岡監督「小国と雪村じゃスライダーでもタイプが違うな。前の試合で投げた雪村のスライダーは高速でのキレで三振を奪うが、小国のスライダーは大きな変化のキレで三振を奪うからな。しかしここまで勝ち上がって来たわけだがスライダーを決め球にするピッチャーとの対戦は初めてだったか?」
野村主将「そうでもないですが、ここまでレベルの高いスライダー使いとは初めての対戦になりますね」
岩田「それに小国さんは2年だから来年にはまた対戦する事になるかもな」
柴田「それで他に注意する相手は?」
大岡監督「チームの司令塔の鷹司やトップバッターの榊原や4番の天羽が特に注意だな。5番の佐々木もチーム1のパワーヒッターとかなりやっかいだな」
柴田「ここまで勝ち上がっているだけあってやっぱり凄い選手が多いですね」
大岡監督「後はリリーフで投げる与那嶺妹も注意っちゃ注意だな」
柴田「妹って事は女子か、女のピッチャーも多くなって来ましたね」
山本「ある意味、甲子園で一番有名なピッチャーを知らない方がおかしいよ」
高橋「テレビで観ましたけど、そんなに速くないし打てない印象はありませんでしたね。変化球の遅さにはびっくりしましたけど」
大岡監督「ある意味、ピッチャーとしてはかなり正統派だからな。コントロールの良いピッチャーで緩急で打ち取って行くタイプだ。プロじゃオリックスの仙石がそれに当たるな」
柴田「あの遅いボールを投げる人か」
天野「それでもずっと先発の柱を任されているんだ。球速だけが良いピッチャーを決めるだけじゃないって事だろう!」
柴田「まあ、変化球とコントロールは凄かったしな。その妹さんもそう言うピッチャーになる可能性はあるか?」
酒井「それと今日の相手は機動力が高いからバッテリーの責任が重大だね」
柴田「そうなのか?」
天野「ああ。今日の相手は足を使う選手が多いんだ。ランナー出すとすぐに得点圏だな」
柴田(今日の岩田の登板はないわけか)

−甲子園大会準決勝戦 阪神甲子園球場−
1年 柴田 竜
後攻 先攻
無明実業高校 冥空高校
投手力 機動力 投手力 機動力
打撃力 守備力 VS 打撃力 守備力
意外性 経験値 意外性 経験値
総合力 総合力
榊原 徹士 1年
3年 豊田 誠 坂口 清司 3年
1年 天野 守 鷹司 政輝 2年
3年 野村 栄治 天羽 健 3年
2年 山口 忠 佐々木 良牙 3年
3年 西岡 望 遠藤 幸司 3年
2年 野口 鉄雄 桐山 利夫 3年
2年 酒井 正次 鴨下 敏毅 3年
3年 安田 文夫 小国 清太郎 2年

神坂監督「さすがに今日の先発は天野のようだな」
鷹司「当然ですね。岩田では足を使えるこっちが圧倒的に有利です!」
榊原「天野からでも塁に出ればセカンドまでは可能ですね。警戒されてサードは少し難しいですが不可能ではないですよ!」
神坂監督「いや、無理にサードまで進める事はないだろう。行けると思ったら単独で試してくれても構わないが」
天羽主将「確かにサードまで一気に走れば有利に思えますが相手はあの天野ですから慎重に行った方が良いかも知れませんね」
小国「それでバッターとしてはどうなんだ?」
鷹司「何度も決勝点をたたき出しただけあって勝負強い奴だ。ここぞと言う時の集中力が高いと言うべきかバッターとしても注意だな。ただ、一番注意するのは柴田だな」
小国「最初のバッターか」
鷹司「あの緒方の決め球を完全に打ったイメージが強くてどうも気になる。半田との対戦を観る限り小国よりも与那嶺の方が相性が良さそうだな」
楓「私ですか?」
小国「最後まで投げ合いたいと思っていたが、決勝もあるし後半はスイッチの方が良いかもな」
鷹司「と言っても最低でも7回は投げて欲しいからな」
小国「もし与那嶺が打たれた場合は榊原しかいなくなるからな」
楓「まあ、なんとかして見せますよ!」
鷹司「まあコントロールも良いしリード通り投げてくれば大量失点はないと思うが(ただ、ここまでかなり楽な展開で投げて来たからな。勝負の場面でどれだけメンタルが強いかは未知数なんだよな?)」

放送席
霞「さてと第1試合は斉天大附属が見事に勝ち上がりましたが次の相手は無明実業VS冥空高校と、どちらになるのか楽しみな試合です!」
武藤「1年生の天野君と2年生の小国君との投げ合いと面白そうな試合になりそうですね」
霞「しかしこうやって観ると戦力差がありますね」
武藤「そうですね。ただ、個人的な意見になるんですが先発投手の評価としては天野君が少し上なイメージもありますから五分五分の試合になると思いますよ!」
霞「つまり攻撃力は冥空高校が上でも防御力は無明実業が上で良い試合になると言う訳ですね」
武藤「ええ(守備力は冥空高校の方が上なんでやっぱり両投手も差はないんじゃないかとは言いにくい)」

1回表 無明実業0−0冥空高校 天野VS小国とエース同士の投げ合いとなった試合が始まる!
天野(榊原か、急に出て来た奴だから足が速いくらいしか知らないんだよな)

ガキッ!
榊原「なるほど、独特なピッチャーだ」

霞「これは平凡なサードゴロ! まずは軽く1アウトです!」
武藤「ストレートに合わせましたがわずかにタイミングが外れている感じでしたね」

天野(シュッ!)

ズバ―――ン!
坂口「速っ!?」

霞「続く坂口君は三球三振に抑えられこれで2アウトとなります!」
武藤「145キロですか、球が走っていますね!」

天野「次は足は速くないけどバッティングの良い鷹司さんか」

ズバ―――ン!
鷹司「これがブレイジングショットか」

霞「最後は147キロのストレートを見逃し三振! これで3アウトチェンジですが、天野君、この回はストレートしか投げませんでしたね?」
武藤「それだけストレートと言うかブレイジングショットの調子が良いんでしょうね。とにかく立ち上がりは文句なしでしたね!」

天野「ランナー出さずに抑えるのが正解なんでしょうがいつまでも続くわけじゃありませんからね」
野口「そりゃそうだ。しかし鷹司より1年の榊原の方がバッティングが上っぽいな」
天野「そうなんですか?」
野口「まだ1打席見ただけだがスイングを見た限りはな。タイプとしては天羽に似ているとこいつも他校ならクリーンナップを任されるバッターに間違いないな」
天野「気付きませんでした。しかし相手は足を使って来るんでしょうがうちは無理でしょうね」
野口「ああ。さすがに鷹司からの盗塁は無謀だ。あの強肩から盗めるバッターはうちにはいないな!」

天羽主将「やっぱり1打席でとらえるのは難しそうだな?」
鷹司「まあ俺達から見ればですが」
天羽主将「そうか(榊原も簡単に打てなかったし試合が動くのは後半からになるかもな?)」
鷹司(天野の調子も良さそうだし1点が致命傷になりそうだな)

1回裏 無明実業0−0冥空高校 天野の立ち上がりは文句なく1回を三者凡退に抑える!
小国「最初が一番要注意の奴か」

ガキッ!
柴田「ここまで変化するスライダーはさすがに初めてだな。スライダーに関しては高校ナンバーワンの使い手なんじゃないか?」

霞「スライダーを打ち上げて1アウトとさすがの柴田君も当てるのがやっとのようでしたね!」
武藤「まあそうでしょうね。あそこまで変化するスライダーはプロでもなかなか見ませんから」

豊田「やっぱり打ちにくそうだな」
柴田「1打席どころか1試合で打つのも難しいですよ。まあ左打者(  ひだり  )の俺達から見れば打ちやすい気もしますけど」
天野(キャプテン達は右打者(   みぎ   )だから俺までで決めろって事か、まあ柴田の言う事だから当てにはならないが)

小国「普通なら三振なんだがいきなり当てたな。やっぱり注意するバッターの1人だな」

ククッ!
豊田「こんなの当てるのも難しいっての!?」

霞「続く豊田君はあっさりと三振に終わりこれで2アウトとなります!」
武藤「天野君とは対照的でこっちは変化球中心ですね」

小国(あっさり三振と豊田さんは怖くないな。そして次が噂の天野か)

ガキッ!
天野「チェンジアップか」

霞「最後はチェンジアップを打ち上げてピッチャーフライに終わり3アウトチェンジです!」
武藤「最後は完全にタイミングを外されましたね。鷹司君の洞察力はこの大舞台でも健在ですね!」

小国「良く当てたな」
鷹司「フォームを崩された時点で天野の負けさ」
小国「しかしミートは上手そうだがパワーはそんなにないイメージだったな」
鷹司「まあパワーヒッターってわけじゃないからな。それでも甲子園で2本塁打、2本とも勝負を決める一発になっているんだからくれぐれも気を付けてくれよ!」
小国「ああ(しかしそれならなんで4番じゃないんだ?)」

柴田「しかし凄いスライダーだったな」
天野「ああ。決め球に使うスライダーも見たかったんだが鷹司さんのリードにやられたよ」
柴田「鷹司さん? それほど、難しいコースには来なかったけどな?」
天野「まあコース付かなくても抑えられると思ったんだろう」
柴田「それはそれで腹が立つな!」
天野「1打席目じゃ仕方ないさ。2打席目、3打席目にはボールの威力+コースを付いてくるとかなりやっかいだな」
柴田「先の事を考えるか……俺達じゃまだ難しい話だな」
天野「それも名門と弱小の差だな。総合力じゃどうしても劣ってしまう」
柴田「ふんっ! ここまで総合力で劣っていても勝てて来たんだ。今日も勝つぞ!」
天野「ああ!(しかし勝ち上がるとしても無傷ではすみそうもないな)」

7回表 無明実業0−0冥空高校 試合は無得点のまま進み投手戦が続いている!
霞「ここまで両チーム無失点イニングが続いています。天野君はピンチを迎えましたが失点は許さずと言ったピッチングを見せており小国君はランナーをセカンドには行かせないと天野君を越える実力を見せております!」
武藤「と言っても天野君は無四球で小国君は四死球ですからやっぱり差はないと思いますよ!」
霞「相手は俊足バッターばかりですから天野君はフォアボールも許されないと大変なんですね」
武藤「ええ。逆に小国君は一発に注意すれば問題ないと天野君よりは楽だと思いますよ」

天野「3番と9番以外は俊足だからこの鷹司さんはランナーとしては怖くないんだよな」

ズバ―――ン!
鷹司「できれば打ちたかったが仕方ないか」

霞「最後は外れてフォアボール! 天野君、ここまで無四球でしたが今日初めてのフォアボールを出しました!」
武藤「まあ不幸中の幸いと言うべきですが鷹司君は俊足ではありませんしランナーとしては怖くないですよ」

天野「前の回で打たれたせいか警戒し過ぎたな」

カキ―――ン!
天羽主将「行ったか?」

タッ! パシッ!
安田(タッ!)

霞「スタンドには届かず安田君がジャンピングキャッチし1アウトです!」
武藤「安田君ですがバッティングは全然ですが守備では卓越した技術を見せますね。こう言う守備を見せられると彼が何故レギュラーなのかが良く分かりますよ!」

天羽主将「センターよりに打ったのは失敗だったな」
天野「ふう、今のは助かった。安田さんじゃなきゃ追い着けなかっただろうしライトに打たれたと思ったらぞっとするな」

スト―――ン!
佐々木「くっ!? ボール球を振らされた!?」

霞「最後はフォークを空振りしこれで2アウトとなります!」
武藤「ストレートしか頭になかった感じの打席でしたね」

天野「こいつで終わりだ!」

ガキッ!
遠藤「打ち上げちまった!?」

霞「遠藤君は打ち上げてサードフライに終わり結局無死1塁のまま3アウトチェンジです!」
武藤「さすがに隙の少ないピッチャーらしいピッチングと天野君はさすがですね!」

野口「いきなり塁に出したときはどうなるかと思ったけど、結果的にはなんの問題もなかったな」
天野「安田さんのおかげです!」
野口「まったくだ。バッティングはともかく守備は頼りになるぜ!」
安田「………………」
野口「いや誉めたんだよ!」
天野「まあ柴田とはちょうど逆で助かってはいるんですけどね」
柴田「悪かったな!」
天野「悪いと思うなら1点頼む。正直、延長入ったら滅茶苦茶不利だ!」
柴田「ふんっ! うちの打線なら1点くらい問題ねえよ!」
安田「俺は自信ないんでこのまま守備で貢献させてもらうよ!」

鷹司「1点が遠いですね」
天羽主将「まったくだ」
小国「こっちが1点やらなければ問題ないですよ。それに延長になればこっちが有利になりますし」
鷹司「ああ。しかし油断はするなよ。こう言う展開だと1点が致命傷になりかねない!」
小国「分かってるよ!」
天羽主将「1点勝負か」

7回裏 無明実業0−0冥空高校 天野の調子は良く7回もランナー出した物の後続は完全に抑える!
小国「まずは4番からか」

カキ―――ン!
野村主将「会心の手応え!」

霞「バックスクリーン一直線! ここで均衡が崩れた。得意のブーメランスライダーでしたが完全にとらえられて無明実業が1点勝ち越します!」
武藤「さすがは4番ですね。正直、期待していなかっただけあってこの一振りは驚きですよ!?」

鷹司(今のはきついな。交代させるべきか?)
小国(最低でもこの回までは投げ切る!)
鷹司(まだ大丈夫そうだな!)

クルッ!
山口「今日は良いところなしだな」

霞「山口君はチェンジアップを空振り三振し1アウトとなります!」
武藤「崩れるかと思いましたがあっさりと立て直しましたね」

小国「このまま行くぞ!」

ズバ―――ン!
西岡「速いっ!?」

霞「146キロのストレートを空振り三振し2アウトです!」
武藤「ストレートはあまり投げませんがノビのある良いストレートですね!」

小国「こいつで終わりだ!」

ククッ!
野口「手が出ない!?」

霞「最後はブーメランスライダーが決まって見逃し三振とホームランを打たれた後は三者三振と見事なピッチングで終わらせました!」
武藤「ホームラン打たれて返ってすっきりしたんですかね?」

鷹司「1点で()んだのは不幸中の幸いだったな」
小国「言い訳はしない。打った相手の方が上だっただけだ」
鷹司「まあ1点なら及第点か」
小国「続投か?」
鷹司「ん? 当然だろう。この場面を抑えられるのはお前だけだ!」
小国「そうか」

柴田「まさかキャプテンの一発が出るとはっ!?」
天野「失礼な奴だな。チームの4番なんだからおかしくはないだろう!」
野村主将「まあ2回戦からあまり活躍しなかったからな」
柴田「そう言えばあの時は逆転弾打ってたな」
山口「バッティングセンスはプロも注目するほどだからな」
天野「とにかくこの1点を守って終わらせます!」
柴田(俺が打つ予定だったんだが、さすがはキャプテンってとこか、とにかくこれで決勝進出も決まりだな!)

8回表 無明実業1−0冥空高校 主砲の一振りでついに無明実業が1点先制する!
天野(待望の1点が入ったんだ。守って終わらせる!)

ズバ―――ン!
桐山「むっ!?」

霞「手が出ず見逃し三振! 最後は145キロのストレートが決まって1アウトとなりました!」
武藤「まだスタミナは十分あると冥空高校は1点が遠そうですね」

天野(下位打線なら問題はないか!)

ガキッ!
鴨下「打ち上げちまった!?」

霞「146キロのストレートを打ち上げピッチャーフライに終わりこれで2アウトです!」
武藤「鴨下君は足が速いですからゴロを打つつもりだったんでしょうね。けど、天野君のブレイジングショットは浮き上がりますから打ち上げてしまったんですよね」

小国(分かってはいたが下位打線では手が出ないな。そして俺にも代打はないと本当に続投させるつもりなのか?)
天野(代打はなしかと言っても1点勝負だからな。油断はせず行くぞ!)

ズバ―――ン!
小国(9番バッターにも容赦なしか)

霞「最後は144キロのストレートを見逃し三振とストレートばっかりでしたがきっちりとコース付いて来ましたね!」
武藤「まあここで油断して打たれたら同点と先ほどの野村君の頑張りがムダになりますからね。天野君らしいきっちりとしたピッチングでしたね!」

野口「下位打線とは言え文句なしの三者凡退だったな」
天野「まあミートに問題のある桐山さんにさほど怖くない鴨下さんと小国さん相手でしたからね。順当と言えば順当ですね」
野口「まあランナーとしては怖いくらいか」
天野「ええ。後1回抑えれば勝利ですからこのペースを維持して終わらせますよ!」
野口「おう(しかし今日の天野はすげえ気合いだな?)」

鷹司「下位打線じゃ手が出ないか」
小国「分かりきってた事だろう」
鷹司「いや、コントロールの良い天野でも1試合に1回くらい失投も投げる。下位打線には可能性も高いと思ったんだがな」
小国「少なくとも俺には容赦せずだったな。はあ、振ってもまるで当たる気がしなかったな」
鷹司「残り2回頼むぞ!」

8回裏 無明実業1−0冥空高校 天野の調子はやはり良く三者凡退と冥空高校は完全に抑えられる!
小国「スタミナは問題ないな!」

ククッ!
酒井「かすりもしないとはっ!?」

霞「得意のブーメランスライダーは素晴らしく三球三振とあっさりと1アウトです!」
武藤「相変わらずキレが良いですね。これならもう失点はないと思いますよ!」

小国「さてと、こいつで最後だ!」

ズバ―――ン!
安田「速っ!?」

霞「最後は147キロのストレートを空振り三振とこちらも9番バッターに容赦なしですね!」
武藤「安田君に自己最速ですか、天野君に感化されたんでしょうか? とにかく力強いピッチングで来年も楽しみですね!」

小国(そしてやっかいなバッターが相手か)
柴田(キャプテンのおかげで1点入ったとは言え1点差だからな。もう1点追加してやるぜ!)

カキ―――ン!
小国「ちっ!?」

パシッ!
佐々木「余裕だな」

霞「最後はチェンジアップでしょうか? 完全にタイミングを外されて終わりましたね!」
武藤「ええ。しかし良く分からないバッターですね? 緒方君のチェンジアップは打てたくせに小国君のチェンジアップは完全にタイミングを外されると?」
霞「まあ、それは置いといて無明実業はこの回、三者凡退に終わって9回に入ります!」
武藤「あっさりと流しますね?」

小国「緒方のチェンジアップを打ったわりにあっさりとタイミングを外せたな?」
鷹司「それはそうだろう。チェンジアップってのはタイミングを外すのにうってつけのボールだからな」
小国「だが緒方からはサヨナラホームランを打ったんだろう?」
鷹司「それはチェンジアップを待ってたからだ。ブーメラン狙いでチェンジアップならタイミングは狂う。まあそれでも当てたセンスはさすがと言うべきか」
小国「ストレート待ちだったら空振ってたと言う事か」
鷹司「まあ速度差がある方が当てるのも難しいだろうが」
小国「ふむ。つまり緒方より俺の方が上だと言う事だな!」
鷹司「えっと、うん。そうだな(もうそれでいいや)」

柴田「くそっ! 天野に頼まれたのに1点取れなかった!」
天野「1点なら前の回でキャプテンが取ってくれただろう?」
柴田「俺のバットで取れなかったのが悔しいんだよ!」
天野「野球はチームプレーだぞ。自分が決められなくても別の誰かが決めてくれるから嬉しいんじゃないか!」
柴田「……だな。しかしキャプテンか、正直、俺よか上ってイメージはなかったんだが考え直した方が良いかな?」
天野「少なくとも俺達より経験値は上だろう。強い相手と何度も戦ったはずだ!」
柴田「経験値か……そうだよな。俺達の高校野球はまだ始まったばかりだ!」
天野「ま、お前が悔しいと思うのも良い事だ。悔しいと思えるならまだまだ上手くなれるしチームに対して責任感もあるって事だからな!」
柴田「えっと? 何が正しくて何が間違っているんだ?」
天野「さあな?」
柴田「さては俺の事をからかっただけだな!」

9回表 無明実業1−0冥空高校 無明実業がリードのままついに試合も9回に入る!
霞「何か柴田君と天野君がやっているようですが、ここからでは音声は拾えませんので放って置いてついに9回に入りました。このまま無明実業が勝つのでしょうか?」
武藤「勝ちゲームって奴かな? 天野君がここで気を抜いたら同点はおろか逆転のチャンスもあると冥空高校もまだ可能性があるかも知れませんね?」
霞「冥空高校は1番からの好打順ですからね」
武藤「ええ。1番か2番が出れば得点圏でクリーンナップにまわると機動力と巧打を武器にできますからね!」

天野「特に注意するのは1、3、4番だが、塁に出すのも厳しいな。ま、3人で終わらせば良いだけだ!」

ガキッ!
榊原「決め球に関しては文句なしだな」

霞「榊原君は149キロのストレートを打ち上げてセカンドフライに終わり1アウトです!」
武藤「9回で自己最速ですか、スタミナに自信があるってタイプじゃないのに凄いですね!?」

天野「後2人!」

ズバ―――ン!
坂口「9回で最高のピッチングかよ!?」

霞「最後はアウトローいっぱいとこれは手が出なくても仕方ありませんね!」
武藤「147キロであのコースならプロでも手が出ませんよ!?」

鷹司(追い込まれたらとてもじゃないけど、手が出ないな!)
天野(この人にはヒットとフォアボールと今日は負けているからな!)

カキ―――ン!
霞「スライダーを綺麗に打った! 2アウトですが二遊間を抜けて打った鷹司君は1塁にとまります!」
武藤「ヒットとは言えここまで天野君から打てるのは凄いですね」

天羽主将(ここで打てなければ高校生活最後の打席になるのかな。後1試合なんだ。意地でも打つ!)
天野(完全に負けたな。しかし試合では勝たせてもらう。天羽さんで終わりだ!)

カキ―――ン!
天羽主将「終わったか」

パシッ!
柴田「勝った!」

霞「最後はライトの頭は越えず柴田君がキャッチして試合終了です!」
武藤「良い当たりだったんですがね。あえて言うならパワーが足りなかったって事でしょうか?」
霞「とにかくストレートを打ち上げて天羽君は終わり鷹司君はファースト残塁のまま1対0で無明実業高校が決勝進出です!」
武藤「完全に投手戦でしたね。完封した天野君と打った野村君を誉めるしかないとエースと4番が活躍した。典型的な試合でした!」

天野「後1勝で日本一だな!」
柴田「ああ。相手は大西さんか、フォークピッチャーって結城さんくらいしか思いつかないしあの人にはストレートだけで抑えられたからな」
高橋「と言うより前の試合も1点しか取れないとだんだん打てなくなって来てるからね」
柴田「良いピッチャーが多いせいか大量得点はないからな。ひょっとして俺達ってクジ運が悪くない?」
山本「今頃気付いたのかよ!」
野村主将「まあ得点力が低いのは事実だからな。しかし得点が低くても勝ち上がって来たと言う事は失点が少ないと言う長所があるって事でもある!」
柴田「岩田や木村さんも頑張ってくれたけど、何よりも天野に頼りまくってたと言う証明でもあるって事か」
酒井「そうだね。天野君がいなければここまでは来れなかったね」
山口「後輩に頼るのは情けないが後1つで終わりなんだ。そこまで頼むぞ!」
天野「任せて下さい!」
岩田(俺の出番はなさそうだが、いつでも登板できるように仕上げとくか!)

天羽主将「結局1点に泣いた試合だったな」
鷹司「差はなかったと言うよりはホームランバッターが少なかったから負けたと言う事でしょうか?」
小国「負けは負けだ。打たれた俺が悪い」
榊原「天野を攻略できなかった。それだけの事ですよ」
鷹司「ま、そう言う事か」
楓「まあまあ、まだ次があるんだし次に勝ちましょう!」
天羽主将「与那嶺の言う通りだ。久住さんや神童さんに続いてお前達が日本一を達成するんだ!」
全員「はい!」

冥空高校
無明実業高校 ×
勝利
天野守
セーブ
敗戦
小国清太郎
本塁打 冥空高校
無明実業高校 野村栄治

宿舎
柴田「ついに後1つか」
山本「いきなり甲子園、しかも決勝まで来れるなんて夢にも思わなかったからな」
高橋「いよいよ明日で終わりなんだよね」
岩田「ああ」
天野「斉天大附属に勝てば俺達が日本一だ。俺達が最強の世代になる!」
柴田「後1つで全国制覇だ!こうして俺達の最初で最後の大舞台が始まるのだった!(カチッ!)」
山本&高橋&岩田&天野「………………………………………………………………」
柴田「ん? どうした?」
山本「お前は全然変わらないなっと思ってな」
柴田「そんなに誉めるなよ♪」
山本&高橋&岩田&天野(本当にいつも通りだな)
柴田「しかし今日のオーダーからして明日は俺と天野以外はベンチか」
山本&高橋&岩田「………………………………………………」
天野「味方のモチベーションを下げるなよ」
柴田「そう言う意味じゃなくていつでも出れるよう用意しといてくれって言いたかったんだよ!」
天野「確かに岩田には頑張ってもらいたいな」
岩田「言われなくても登板すれば無失点に抑えてやるさ!」
天野「頼むぞ!(特に秋には俺とこいつだけになるんだ。ここで成長してくれなければ本当に困るからな)」
岩田「あ、ああ?」
高橋「今日はゆっくり休んで明日か」
山本「いよいよなんだよな」
柴田(今日は打てなかったからな。明日は爆発するぞ!)
天野(鏡との初対決がこんな大舞台になるとはな)

周囲の予想を裏切って無明実業はついに決勝まで勝ち上がった。後1つ勝てば念願の全国制覇となるがこのまま無事終わるのだろうか?