私は16歳の高校生。女の子だけど野球は大好き。高校は試合には出れないから硬式
ではやってはいないけど、今でもやっている。
まだ1年生で信頼も少ないけど、私なりに頑張ってる。これでも、ケッコー活躍して
たんだから。いつかは認めてくれる。

ジリリリリ・・・
「明美!いつまで寝てるの!起きてきなさい!」
う〜ん、もう眠いなぁ。何時?・・・7時!
「朝練遅れちゃうじゃん!」
ドタタタタ・・・
「おかーさん、なんで早く起こしてくれなかったの!?」
「起こしたわよ!もう。明美が起きなかったんでしょ!」
「知らない!起きなきゃ、起こしてない!もう、パンだけでいいよ。早く!」
明らかに遅刻ペース(汗)遅れちゃう、早くしなくちゃ。
はむ。パンをくわえて、レッツゴー。
「行ってきまーす。」
「気をつけてね〜」
奥でおかーさんの声が聞こえる。
体の割には大きなバッグを肩から提げて、駅まで走って行く。

・・・ ・・・

「どーにか間に合った。ふう〜」
彼女は汗をぬぐった。やはり、朝からのダッシュは堪えたのであろう。

ここら辺りだと軟式野球部を持つ公立高校は数少ない。
私立は、家はお金が掛かり過ぎるから行かせてくれるとは思えない。
だから、大変だけど30分も時間をかけて県外の高校に通っている。

〔次は、名倉崎。名倉崎。乗り換えは武西線・春日山線......〕
「ふう、やっとついた。さすがにずっと立ってるのはキツイなぁ」
いつものことではあるが、とても大変だ。

「おはようございますっ!」
おはよーという言葉が返ってくる。いつもと変わらない挨拶。
そして朝練が始まる。変わらない日々。

「おっ、相変わらず明美のショートは上手いな」
ありがとうございますと笑みを返す。彼は、キャプテンの三木先輩。私と同じく
ショート。怖そうに見えるけど頼れて、根は優しい先輩だ。
「守備は俺より明美の方が上手いよな。2年もお前の方が下なのに」
「へへ...」
得意げに笑う。しかし、体はボ−ルをさばき続ける。私ってやっぱり器用かも

上級生のフリーも終わってやっと私たちの番。
1年生の中でも有能な選手のみ打たせてくれる。もちろん私は打てる。有能だもんっ

私はホームランなんて打てないけど、ヒットはバンバン打てる。カーブなんて何のそ

体が柔らかいのが上手く活きてるんじゃないかな?
そんなことを思いつつ打つ。朝からかっ飛ばすのはやっぱり気持ちがいいね。(かっ
飛ばすって言っても、せいぜいセンターくらい。いいもん、気にしてないもん

集合という声がグラウンドに響き、監督がランニングして着替えろと言う。
着替えるって、私とマネージャーの明日香は朝練してないとこの部室を1つ占領する
んだけど、他の部員は3学年全部はいるから窮屈で、着替えるのに時間がかかるみた
い。
だから、20分も始業時間より早く練習をやめる。こっちは鼻歌歌ってゆっくり着替
えても、大半は部室に残っているみたいだからね。
悠々と着替えて、明日香と学校に行く。明日香とは中学からの付き合いで、そして親
友。
私はB型とO型が混じったような性格で(正直には言いたくない。
明日香はしっかりしてて元気がいいけど、たまにボーっとしてたりする。あと、勘が
いいっていうか怖いくらいに鋭い。
「明美っ!今日もお疲れだね!」
「いや〜、中学校と違って堪えるよ。あと、時間が早いしね」
「今日、遅刻しそうになってたしね。ふふふ」
「やっぱりばれちゃった?確かに汗いっぱいかいてたしね」
「中学のときは何にもサポートできなかったから、絶対同じ高校(とこ)に行って、
マネージャーになるって決めたのは良かったけど、やっぱりはこんなに早いのが続く
と堪えるよね」
「私は朝は苦手だからなおさらね」
「それはいっつも夜更かししてるからでしょ、ははははは」
「なっ何よ、何その言い草っ」
「焦ってる、図星だな〜」
「うぐぅ」
いつもこんな調子だ。私たちは峠道のガードレールのそばを私たちのペースで、歩調
で歩く。
一般生徒は大体バスを使うんだけど、野球部のグラウンドは山の4合目くらいにあっ
て、私たちの通っている高校はちょうど山の半分くらい。だから、歩いた方がお金も
掛からないし、いい。
談笑に花を咲かせていると学校につく丁度いい距離だ。今日もつまらない談笑で学校
に着いた。

そういや今日はとにかく面倒な時間割だったような・・・
大丈夫、疲れてるからって、寝やしない。と、思う。(汗
1時間目・数学
何か目にゴミが・・・
2時間目・日本史
あれ、ちょっと瞼が重い
3時間目・外国語(英語)
・・・はっ、あたし寝てないよね。寝てなかったよね。危ない。
4時間目・古文
・・・zzZZzz・・・
「・・・あ...けみ、明美。」
「ふぁ、ふぁい?」
「ぶつぶつぶつ...」
ブゥン ゴチッ
「いっ、いったぁ〜」
目から火が出るかと思った。無防備な上に辞書の角で殴られるんだもん。
「寝てるんじゃないぞ。」
「はい。」
そのあと先生がほんとに小さく一言。
「角が入っちゃったけど大丈夫か、天川。」
じゃあ殴るなよ!!暴力教師!!とおもいつつも 一応・・・と答えた。

昼休みの教室に笑い声が響く。
もちろん発生元は明美のいるところからだ。
もちろん話題は明美のことだ。
もちろんさっきの授業のことだ。
「だ、だってさ私が声掛けたのに、『ふぁ、ふぁい』っていうだもん。あははは
は。」
「しっ、仕方ないでしょっ!」
「でも、笑えたよ〜」
「翔子もそんなこというの〜」
4人の話は弾む。弾む。

・・・

「はぁ〜、やっと終わったぁ。これから部活だ。しかも、今日は最高の野球日和っ」

「明美はいつでも野球日和だけどね〜」
「ちょっと、雨は違うわよ」
「明美って雨大っ嫌いだったよね」
朝来た道を戻りながらまた話す。
前にも後ろにも野球部員がぽつぽつと見える。
硬式野球部員も軟式に隣接してるから、100くらいいるのかな
役目を果たしているのか分からないほど古くて錆びたガードレール。
切り立った崖のような道。
なのに、トラックが多く通る道。
とっても、狭い道。

朝と同じように着替える。今度は男子が着替えたあと
朝と違ってもう一人のマネージャー亜紀乃がいる。
寝坊したとか言ってたっけ

監督はいつものように座っていて、他の部員は木陰で休んでいた。
そりゃもう7月だもんみんな暑いよね。

少しして練習が始まる。
ランニング
準備体操
キャッチボール




少しきついけどもいつもみたいに楽しい練習。

「貴好ぃ〜、一緒に帰ろーぜ」
「いいけど、早くしろよな」
着替えた人はどんどん帰っていく。
「明日香、私たちも帰ろーよ」
「うん。じゃあ行こうか。」

ガタン。ゴトン、ゴトン。
はっ、ここはどこ。
「あっ、明美起きたね」
「ここは?」
「今ね〜白内南過ぎたくらいかな」
「じゃあ、次なのね。ふあぁぁぁ」
「ふふ、寝顔可愛かったよ」
ドキッ。
明美がいつも以上にやさしく、可愛く見える。
何?なんか、鼓動が早くなってくのが分かる。
顔も徐々に赤く、熱くなってきているのが分かった。
いつもは少し暗いこの電車の中で、今日は明日香の顔が明るく見えた。

そこで、つい。
「お、お前...不意打ちか!?」
何でこんな事言ったんだ〜私!
焦ってる。これでまた鼓動が早くなる。
「お前は無いでしょ〜。しかも不意打ちって(汗」
「ちょっと今...そ、そう、頭のネジ緩んでるから。」
「そうなんだ。(『ふぁい』もそれなのかな)」
ガタン。ゴトン、ガタン。
さっきの言葉は闇と化し、風に流されていった。
でも、私の心からはさっきのドキドキと、は離れる事は無かった。
気がついたら、私も彼女も、過ぎてゆく窓の外の景色を見ていた。

「相変わらず遅いわね〜。敦士はもう寝ちゃったわよ〜。」
「しょうがないじゃん。遠いんだもん。」
いつものやり取りだった。
今日違うのは弟が寝てることくらいかな
取りあえずご飯を食べる。
温かくて美味しい。
お腹が空くと何でも美味しく感じる、とは違う。
おいしい。
茶碗の中の最後のご飯粒まで食べると、お風呂に入った。
明美の中ではお風呂より空腹の方が優先されているらしい。
ポチャン
「ふ〜、極楽、極楽。」
自分の姿が露わになる。
絶えない生傷。
毎日酷使している身体。
華奢で柔らかそうではない、女性らしくない筋肉質な身体。

自分も良くやってるな、ここまで。他から見ればバカにしか見えないよ。
でも、このお風呂の充実感はスポーツならでは
プレイの次にこれが好き。心も身体もリフレッシュされるって感じ。

お風呂でリフレッシュしたあとは、ちょっとテレビを見て、寝る。
眠い目をこすって、連続ドラマを見たら、ちょっとプロ野球の結果とハイライトを見
た。
そのあとは、自分の部屋に行ってベッドに倒れこむ。とにかく眠い。
身体も頭も寝ろって言ってる。
明日の用意とか宿題やんなきゃ・・・
で、も...もう、ダメ。

おやすみ

第1節(完)