八回裏の夕陽ヶ丘高校のベンチの前で見られた光景が今は京徳商業ベンチの前で広がっていた。

二宮「………………」

『………………』

キャプテンの二宮が沈黙し部員全員も一言も発さなかった。

それだけ部員は二宮の一語一句逃さず聞こうと集中していた。

二宮「…俺が言いたいことは…一つだけだ…。」

二宮がようやく口を開くと気のせいか空気がピリッと引き締まった。

二宮「…勝とう。勝って由香里さんに…いや監督に勝利をプレゼントしよう!!」

『よっしゃーーー!!!!』

部員全員が気合いを入れた後今度は監督が口を開いた。

監督「皆、聞いてほしいことがある…。」

監督がそう言うと部員の意識が今度は監督へと変わった。

監督「俺は今まで監督らしいことを何もしてきてやれなかった…。ただ…試合に勝てるように…最善を尽くしてきた…。そのために…お前たちに苦しい思いをさせてきたかもしれない…。」

倉持「何いってるのよ!!監督!!」

海藤「そうだぜ!!俺達今まで一度も苦しいなんて思ったことなんかないぜ!!」

矢吹「私達そんなこと一度も思ってません…!!」

そうだそうだ!…思ったことなんか一度もないぜ!!

部員全員からそんな声が一斉に飛んだ。

監督は感動したのか目頭を抑えながらまた喋り始めた。

監督「…だが…お前らの楽しい野球を潰したのは…俺なのかもしれん…。そんな…そんな俺でも…監督として認めてくれるのか…?」

監督がそう言うと一斉に当たり前です!!と大きな声がかかった。

監督「…わかった…。じゃあ…監督としての…一人の男福田朔也としてのお願いだ…。頼む…この試合勝ってくれ…。そして…由香里に勝利を報告しよう…。」

監督がはっきりとそう言うと各々の顔を見ながら皆笑いながら頷きあった。

二宮「よし…。改めて言うぞ…。勝とう。由香里さんのために朔也さんのために…そして甲子園に行こう!!京徳ー…」
『ファイ!ファイ!ファイオーーーー!!!!』

ここでまた…京徳の指揮があがった…。

「九回表京徳商業の攻撃は一番ライト倉持さん」

倉持は過去の打席よりもさらに研ぎ澄まされた眼光を明日香に向け闘争心むき出しの顔をしていた。

倉持「(絶対に…絶対に…負けられない…!)」

倉持は心の中でそう言ってイチローの構えをとった。

そして明日香が第一球を投げる。

そのボールは倉持のスイングから逃げるように垂直に変化した。

「ストライッ!」

審判のコールをかき消すような大歓声が球場を包む。

倉持「(なんて…なんて変化球なの…。)」

天才バッターでもいまだ捕らえられない生まれたての朱雀。

そして明日香は大きく振りかぶって第二球を投げた。

倉持はボールの遙か下をスイングしにいく。

しかし白球はそのまま真っ直ぐミットに突き刺さった。

「ストライッ!ツー!!」

審判の大きなコールを聞き倉持はさらに冷や汗が増えた。

倉持「(まずい…。ストレートと変化球の見分けが全くつかない…。しかもこの変化球は狙わないと絶対に打てない…。)」

倉持はまさに土俵際まで追い込まれた。

倉持「(…私達…負けるの…?約束…守れないの…?)」

明日香は間をおかず第三球を投じるべく振りかぶった。














二ヶ月前、神様は試練を与えた…。

何故俺たちなのか…?

何故あの人だったのか…?

今でも俺はそう思っている。

京徳商業グラウンドでは今日も元気に楽しく練習をしていた。

高岡「こら〜!!そんなことでへばってたら甲子園なんかいけないわよ〜!!」

海藤「だ、だからって…2000本ノックは…無理…。」

海藤はグラウンドに顔を突っ伏した。

そんな様子を大笑いしているチームメート。

俺は…こんな時間が永遠に続けばいい…。

そういつも思っていた。

今でも覚えている5月8日PM6:00。

俺たちは市民公園でバーベキューパーティーをする約束をしていた。

その日いつもよりも早く練習を引き上げた京徳ナインは一足早く市民公園へと来ていた。

倉持「う〜ん!!楽しみ〜!!いっぱい食べるわよ〜!!」

二宮「おいおい…。一人で全部食うなよ…?」

二宮と倉持はジャンケンで負けて買い出しに出ていた。

倉持は大量の肉を見てこんなに食べないよ!!と言って頬を膨らませた。

今日のパーティーは偶然決まったわけじゃない。

俺たちが由香里さんと初めて勝った試合の記念日なのだ。

倉持「あれっ?あれユカピーの彼氏じゃない?」

二宮「うん?」

二宮は倉持にそう言われて前方を見ると確かに見たことがある顔が大きな紙袋を持っていた。

二宮「朔也さん?」

二宮がそう声をかけると朔也は二宮のほうを振り向いた。

福田「おっ?おぅお前らか…!ちょうど良かった!ほら光ちょっとこれ持て!」

朔也は倉持にそう言うと持っていた大きい袋を倉持に向かって投げた。

倉持「えっ…?ちょ、ちょっと…痛ッ!!」

倉持は朔也が投げてきた紙袋を受け取ると紙袋に下敷きになる形になり尻餅をついた。

倉持「な、なに入れてるの?」

唖然としている二宮を尻目に倉持は紙袋を見て朔也に質問した。

福田「うん?いやお前ら食べ盛りだろ?だから大量に食材持ってきてやったんだよ!」

倉持がこんなに食べれるわけないでしょ〜と叫んでいるとき二宮ははは…と苦笑いを浮かべていた。

この男は福田朔也。

うちの監督の先輩で彼氏でもある。

俺が初めて会ったのはこのアンダースローを教えてもらったときだ。

俺の球をずっと受け続けてくれていた。

今はあかつき大学という大学で大学野球をやっている。

福田「うん?そうか?まぁあんだけいるんだから食えるだろ!」

朔也はニコッと笑ってそう言うと行くぞっと言って歩いていった。

二宮も朔也についていった。

倉持「ちょ、ちょっと…!!か弱い女の子に何でこんな重いもの持たせるのよ!!」

倉持が後ろから何か叫んでいたが二人とも軽くスルーして歩を進めた。

二宮「そういえば朔也さん、由香里さんと一緒だったんじゃないんですか?」

二宮がそう聞くと朔也は学校にまだ用事が残ってると言って学校に残ったらしい。

そこで朔也が先に来たそうだ。

二宮はそうですかと言って後ろを振り向くと倉持が地べたに座り込んで泣きべそをかいていた。

二宮と朔也は顔を見合わせて苦笑いして倉持のほうに走っていった。











古豪京徳商業を見事蘇らした監督がここ京徳商業のグラウンドにいた。

高岡「…ふぅ…。」

由香里は右手にボールを持って壁に向かって投げていた。

大きく足をあげて上体がぐっと地上に向かって沈んでいき右腕がムチのようにしなる。

相変わらず美しいフォームである。

その右腕から放たれたボールはマルがかかれているところの真ん中を射抜いた。

加賀「いや〜…お見事。」

拍手をしながら高岡に近づいてきたのは京徳商業の校長加賀だった。

高岡「あっ…校長…。ごめんなさい…。勝手に壁にマル書いちゃって…。」

どうやら高岡は勝手に学校の壁に落書きをしたことを怒られると思ったらしい。

加賀は大笑いしてそんなことは気にしなくていいと言った。

加賀「あなたはうちの学校を救ってくれたんですから…。」

加賀はそう言ってまた笑った。

由香里がこの学校に来てからというもの京徳商業には活気が戻ってきていた。

野球部の頑張りを見て触発されたのだろう。

勉強や部活に身が入るようになってきたのだ。

それだけじゃなく来年度京徳商業を受験しようという人が村の中で増えてきたらしい。

これで何とか廃校の危機は免れたのだ。

加賀「これも君のおかげだ!もう壁一つと言わず何個でも書いてくれ!」

加賀はははと笑って高岡の肩を叩いた。

高岡「いや…それはちょっと…。」

由香里は困惑気味に苦笑いを浮かべた。

加賀「それにしても…聞きましたよ…。プロから声がかかったらしいですね。」

加賀がそう言うと由香里は驚いて目を見開いた。

高岡「それ…どこで聞いたんですか…?」

加賀「朔也さん…でしたかな…?彼がまるで自分のことのように話してましたよ。」

由香里は小さい声であの馬鹿男…。と罵った。

加賀「しかしすごいじゃないですか!いつもここで練習してた賜物ですか…。」

高岡「…気づいてたんですか…。」

由香里がそう言うとはいと加賀が返した。

高岡「でも…まだ決まったわけじゃないんですよ…。この球が完成したらっていうことですから…。」

由香里は謙遜しながら少し恥ずかしいのか顔を赤らめていた。

加賀「この球…?」

高岡「あっ…こっちの話です…。」

由香里は笑いながらそう言うと空を見た。

高岡「私も…加賀さんに感謝してるんです…。あの子達とこうやって野球が一緒に出来る環境を作って頂いたんですもの…。ありがとうございました。」

加賀「何を言ってるんですか…!!お礼を言うのはこちらの方だ…!ありがとう。」

頭を下げた由香里を見て慌てて加賀も頭を下げた。

高岡「じゃあ私…この辺で…。」

加賀「おや…?彼氏とデートですか?」

加賀がからかうような口調でそう言うと由香里は加賀の方を振り向いて笑ってこう言った。

高岡「はい…。大事大事な恋人たちとデートです!」

由香里は眩しいぐらいの笑顔を見せて走ってグラウンドを出ていった。












倉持「ユカピー遅いね〜…。」

確かに倉持が言うとおり由香里さんはかなり遅刻していた。

由香里さんはかなり時間に厳しく練習試合のときなんか時間厳守が当たり前だった。

その由香里さんが今日は遅刻していた。

しかも一時間もだ。

朔也「おかしいな…。あいつ用事はすぐ終わるって言ってたのに…。」

朔也は市民公園の入り口をしきりに見ていた。

二宮「俺が探しに行きますよ。皆もうバーベキューはじめてていいよ。」

俺はそう言って市民公園を出た。

すると後ろから倉持も走ってきて私も一緒に行くと言って横まで来た。

俺と倉持は歩きながら話していた。

いろいろな話をしたが俺と倉持が話すと必ず喧嘩になる。

そしてこの日もそれは例外ではなかった。

倉持「何よ!そんな言い方しなくたっていいじゃない!!憲一の馬鹿!!」

二宮「お前だってそんなこと言ってるから駄目なんだろ!!馬鹿光!!」

倉持「馬鹿はそっちじゃない!!子供の頃ポストをお菓子と間違って食べてたじゃない!!」

二宮「ガキの頃の話だろうが!!お前の方こそガキの頃によくハトに遊ばれてたじゃねぇか!!」

倉持「遊ば…!?別に遊ばれてなんかないもん!遊んでやってたの!!」

こんな感じで子供の口喧嘩レベルの言い合いを披露しながら歩いていた。

そしてとうとうそのまま学校まで着いてしまった。

倉持「…あれ…着いちゃった…。」

二宮「ほんとだ…。」

倉持と二宮はそう言ってお互いを見たがふんっ!と言って背中を向けあった。

倉持「…学校の中調べてみる…?」

倉持は二宮に背中を向けながらそう言った。

二宮「馬鹿か…。学校はもう完全にしまってるだろうが…。」

確かに目の前の京徳商業の校門は完全に鍵がかかっているし校舎も灯り一つついていなかった。

しかし倉持は馬鹿と言われたのがよっぽど頭に来たのか顔を紅潮させもう知らない!!と言って市民公園のほうへまた歩を進めていった。

二宮もさすがにやりすぎたか…と思いながら倉持の横まで走っていった。

二宮「おい…!そんなに怒んなよ…。」

倉持「怒らせることするから悪いんでしょ!!」

頬をずっと膨らませながら歩を着々と進めていく。

そして二宮が倉持をなだめながら歩いていると通行人が気になるようなことを言った。

『いや〜しかし完全に信号無視だったな…。』

『あぁ…しかし可哀想だな…ありゃまだ10代ぐらいの女の子だったぞ…。』

二宮と倉持はその場で立ち止まった。

そして二人の体からだんだんと血の気が引けていった。

二宮と倉持は急いで通り過ぎた通行人を追いかけて詳しい事情を聞いた。

通行人の話によると若い女が信号無視のトラックにひかれたらしい。

俺たちは運ばれた病院の名前を聞き急いでその病院に向かった。

どのくらい走ったかは覚えていない。

必死にただひたすらその病院に向かって歩を進めた。

そして俺たちは病院に着き急いで受付にさっき運ばれてきた女性のことを聞いた。

「先ほど運ばれてきた女性ですか…?はい…確かにいらっしゃいますが…?」

俺はその人の名前はと言おうとしたが口が思うように動かなかった。

怖かったのだ。何となく自分では予感がしてたから…。

なかなか言えない俺の手を光が握った。

気のせいか光の手も小刻みに震えていた。

俺は意を決して聞いた。

その女性の名前は…?と…。

その時、外は土砂降りの雨が降ってきていた…。

まるで俺たちの心の中を暗示しているような嵐だった。

由香里さんは心肺停止からは救われたが意識不明の重体だった。

しかもいつ目を覚ますかわからないらしい…。

俺は信じられなかった…。

あの由香里さんがもう目を覚まさないかもしれないなんて…。

光はずっと俺の腕で泣いていた。

ただただ…泣き続けていた。

俺はもちろん朔也さんに連絡した。ただこのことは皆には今は言わないようにと釘を刺して…。

今言ったら皆病院に来たがってパニックになる可能性があるからだ。

朔也さんはその電話の数分後病院に駆けつけた。

生命維持装置をつけた由香里さんを見た朔也さんは意外に冷静だった。

しかし放心状態であることは誰の目にも明らかだった。

俺はそんな朔也さんと泣き続けている光を座らせ一人屋上へと向かった。

二宮「……………」

俺は今まで光があんな状態だったから自分がしっかりしなくちゃと思い冷静さを装ってきたがもう限界だった。

二宮「…うっ…。」

ひとりでに涙が地面に落ちていた。

昨日俺は由香里さんと約束していた。

このバーベキューパーティーが終わったあとあの球を教えてくれると…。

ようやく…あの球に…由香里さんに認めてもらったんだと思っていた。

しかし神様は俺のことをまだまだ認めていなかったらしい…。

二宮「だからって…なんで由香里さんなんだ…。なんで由香里さんなんだよーーー!!!」

俺は地面のコンクリートを殴り続けた。

何度も何度も…。

光が俺を探しにくるまでずっと殴り続けた。

翌日…。朔也さんから部員は事情を説明された。

これだけのショッキングな出来事だ。

皆完全に放心状態だった。

そんな部員達に朔也が口を開いた。

福田「聞いてくれ…。俺は由香里が目を覚ますまでこの野球部の監督をすることになった。大学にはそれまで休校届けを出す。ここの校長にも許しを得た。俺は絶対にこのチームを甲子園に連れていく。それが由香里の夢だったからだ…。」

朔也の話を聞いたあと皆の顔つきが変わった。

楽しい部活が戦う集団に変わったのだ。

そして俺は誓った。

必ず由香里さんを甲子園に連れていくと…。














「ストライッ!!バッターアウッ!!」

気がつけば雨が轟々と音をたててグラウンドへ落ちてきていた。

この雨はまるであのときと同じような雨だ。

倉持は三振したスイングから全く動かなかった。

そして大きな声で話しはじめた。

倉持「…勝たせて…。」

明日香「…?」

倉持「勝たせてよ!!あなた達も一年生でしょ!?来年頑張ればいいじゃない…。私達は駄目なの!!今年…今年甲子園に行ったって報告しないと…。」

倉持はそう言うと今度は俯いて何も喋らなくなってしまった。

二宮「…光。」

二宮に声をかけられた倉持はようやくバッターボックスを出た。

明日香「…あの…。」

明日香はベンチへと帰っていく倉持に声をかけた。

明日香「私には事情も何もわからないけど…。その報告しなきゃいけない人は楽しく野球することのほうが嬉しいんじゃないかな…?」

倉持「……………」

明日香「そりゃ当然勝ったら嬉しいと思う…。でもあなた達の野球って楽しむことでしょ…?試合練習前のあなた達の顔…とても幸せそうだったもの…。」

明日香がそう言うと倉持は自嘲気味に笑ってわかったこと言わないでよ…と言ってベンチに帰っていった。

二宮「…あの娘の言うとおりなのかもな…。」

二宮の小さな呟きに部員全員が二宮の方を見た。

二宮「…俺たち確かに無理してたかもしれないな…。皆本当はホームランを狙ってフルスイングするのが好きだったもんな…。それを勝ちたいあまりそれを止めて右打ちやエンドラン…そういう小細工ばっかり練習してきた…。確かにそれも重要かもしれないけど…俺たちの原点はそんなんじゃないよな…。」

シーンと静まり返ったベンチにグラウンドからの審判のコールが響き渡った。

実況「海藤三振ーーー!!!またあの大きな変化球を振らされてしまいました!!ツーアウトです!ついに追い込まれました京徳商業!夕陽ヶ丘はついに決勝戦へ王手をかけました!!」

あと一人!あと一人!という大コールの中京徳ベンチは監督、福田朔也が口を開いた。

福田「…結局俺の勝ちたい気持ちがお前らの長所を消していた…か。二宮の言うとおりだ。あいつの口癖でもそんなこと言ってたし…。今までそんなことも気がつかないとは…。監督もあいつの彼氏も失格だな…。」

京徳ベンチはまだ静寂が続いていた。

二宮「…楽しく野球…ENJOY Baseball。その野球を貫いて勝者になろう…。」

二宮が小さく呟くと部員一人一人から同じ言葉がどんどん出てきた。

倉持「…楽しく野球…ENJOY Baseball。その野球を貫いて勝者になろう…。」

海藤「…楽しく野球…ENJOY Baseball。その野球を貫いて勝者になろう…。」

矢吹「…楽しく野球…ENJOY Baseball。その野球を貫いて勝者になろう…。」

一人一人が言っていき最後は全員で大声を発した。

『楽しく野球!ENJOY Baseball!!その野球を貫いて勝者になろう!!』

福田「よし!田中おもいっきり振ってこい!!」

田中「よっしゃーー!!!」

田中は気合いを入れてバッターボックスへと入ってきた。

明日香「(まだまだ…油断できない…。)」

明日香は気を引き締めて田代のサインを見た。

そして明日香は第一球を投げた。

しかし右バッターの田中の外側に大きく抜けた。

明日香「(あ…れ?)」

明日香はそのボールを放ったあと急激に重くなった左腕を見て嫌な汗が吹き出てきた。

明日香「(…なに?)」

明日香は左腕を凝視していた。

そんな明日香の様子を見ていた黄瀬は明日香と同じく…いやそれ以上に背中に嫌な汗が流れていた。

黄瀬「(…まさか…!)」

そのあと連続三振が11まで延びていた明日香からは考えられない八球連続でボールが抜け連続ファーボールとし、ランナーが二人溜まった。

轟々と降り出していた雨が完全に防止やユニフォームに染み込んで重たくなっていた。

それと同時に明日香の左腕も一球一球投げるたびに重たくなってきていた。

明日香「……………」

明日香は重たいというのを隠して放るつもりだったが黄瀬に止められた。

黄瀬「…もう代われ…。」

黄瀬に右肩を叩かれ明日香はそう言われた。

明日香「な、なに言ってるのよ!私が代わったら…。」

黄瀬「お前の左腕が危ないんだよ!!!」

黄瀬の怒鳴り声でアスカは体がビクッと震えた。

それに驚いたのは明日香だけでなくグラウンドにいるナインもベンチにいる部員も同様だった。


明日香「だけど…ここで代わったら負けちゃうよ…。」

黄瀬「逆転されたって次の回で俺がホームラン打ってやるよ…。」

黄瀬がそう言うものの明日香は納得しなかった。

すると両肩を掴んでまた大声で黄瀬は叫んだ。

黄瀬「…このまま投げ続けたら君の肩が壊れるかもしれないんだ…。」

明日香「だけど…。」

黄瀬「俺はもう…誰も大切な人を失いたくないんだ…!!」

黄瀬の目が充血し手が震えていた。

そして息が荒く顔色も悪くなっているように見えた。

明日香「……わかった…。だけどグラウンドには残るから…。」

明日香は今の黄瀬に何を言っても無駄だとわかったので引き下がった。

そして明日香はレフトに入り、レフトの久保に代わって投手として仲井が入った。

しかし二番手投手が京徳商業の打線を抑えれるわけがなかった。

実況「抜けたーーー!!!京徳商業五番二宮の二点タイムリーツーベース!!!京徳再逆転!!3-2!」

このドラマの結末は誰も知らない。

野球の神様でしか最後の結末はわからない。