降りしきる雨の中、夕陽ヶ丘高校のキャプテンが打席に入った。

あの後なんとか黄瀬のファインプレーでスリーアウト目をもぎ取り今に至る。

榊原は自分が握っているバットを見つめていた。

榊原「……………」

羽柴「大丈夫かな…あいつ…。」

固まっている榊原を見て羽柴は小さく呟いた。

武沢「どうしてっすか?」

武沢がそう質問すると羽柴は真剣な顔で答えた。

羽柴「いや…あいつ実はすげぇプレッシャーに弱いんだよ…。」

羽柴が盛大にため息を吐くと武沢は生唾を飲み込んで榊原を見た。

榊原「…俺は出来る…俺は出来る…。」

榊原は何回も呟きながら右バッターボックスに入った。

京徳商業のナインはマウンド上に集まっていた。

もちろんその中心には最終回を守るべくエースが立っていた。

二宮「ついに…ここまできた…。」

内野手全員と捕手の海藤が大きく頷く。

二宮「よし!勝つぞ!!勝って監督のために…いや"俺たち"のために甲子園に行こう!!」

『よっしゃーー!!』

そう気合いを入れてナインは散っていった。










そしてスタンドの最奥、買ってきたのかビニール傘をさして手に持っている資料をパラパラとめくっている男がいた。

???「ほぉほぉ…。夕陽ヶ丘高校のキャプテンの榊原貴志。おっと…2年生…先輩か。ふむふむ…中学の時の試合で大事なところでエラーをしてプレッシャーに弱くなる…。なるほどね…。」

この男どこまでデータをとっているのだろうか…。

データ資料の分厚さが六法全書四冊分ぐらいある。

しかもそのデータの内容は中学時代はおろか小学生、幼稚園時代。血液型や誕生日、ましてや家の住所や電話番号まで…。

おそらくこの男法に触れているんではないだろうか…。

???「へぇ…バスターズの頭脳はこんなところでも資料をめくってるのか…?」

突然後ろから聞き覚えのある、いや自分が一番苦手な人物の声が聞こえたので資料を雨で濡れているコンクリートの上に落とした。

当然資料もびちょびちょである…。

???「…なんすか矢月先輩…?」

男はジトーッと睨みながら星光学園のエースを見た。

矢月「おいおい…。なんだよ。久しぶりに会った先輩に対してその態度は。」

矢月は少しむっとしながら男の横に座った。

???「あれだけ…小学校、中学校としごかれちゃ誰だって拒否反応起こすっつーの…。」

矢月「…なんか言ったか…?」

???「…いえなんにも…。」

矢月の爽やかな笑顔が妙に(いや確実に)気味が悪く男は即刻謝った。

男が怖ぇ…と呟いてるとき矢月は話しかけた。

矢月「で?バスターズの頭脳はこの試合どう見てたわけ…?」

矢月の質問に男は散らばった資料を一枚一枚拾いながら答えた。

???「…ちょっと予想外っすね…。京徳の投手が予想外によかったこと…。後は夕陽ヶ丘の女の子が朱雀を投げたこと…。」

矢月「…確かに朱雀の件は驚いたよ。もう投げれるやつはいないと思ってたからさ。まぁ前見たときも一球投げてたからな…。でもあれだけ早く投げるとは思わなかったな…。」

矢月はかなり感心してるらしく興奮気味にそう話した。

???「まぁ…それでもやっぱ怪我しちゃいましたね…。まぁ重傷にならないうちに黄瀬ちゃんが止めたみたいだけど…。」

矢月「まぁあいつは怪我には敏感だからな…。」

矢月がそう言うと心なしか二人の表情が少し曇った。

???「まぁ…結局はスコア的には俺の予想と同じですかね…。」

資料の端には3-2という文字が踊っていた。










榊原「(俺は出来るんだ…。)」

そう呟いて右バッターボックスにゆっくりと足を踏み入れた。

二宮「(このバッターだけは必ず抑える…!そして全力で…。)」

二宮は心の中でそこまで言いネクストバッターズサークルを見た。

黄瀬「……………」

そこには鋭い眼光をこちらに向けている男がいた。

二宮はその姿を見てもう一度気を引き締めなおした。

そして榊原に対して一回から変わらない綺麗なフォームで第一球を投げた。

投じられたボールはアウトコースに構えていたミットのど真ん中に突き刺さった。

「ストライーッ!!」

榊原はそのアウトコースのボールを平然と見送った。

しかし固まったこの後ろ姿はどこかで見たことがあった…。

黄瀬「…まさか…。」

羽柴「…まさか…。」

二宮「…まさか…。」

矢吹「へっ…?」

皆矢吹のほうを見てから榊原のほうを見た。

榊原はやっぱり全く動かない。

審判がこほんと言って君大丈夫かい?と榊原の肩を叩いた。

榊原「…はっ!す、すいません…。」

榊原は急いで審判に謝ると顔を2、3回叩いた。

黄瀬「やっぱり…気絶してたのか…。」

黄瀬はそう呆れながら呟いた。

榊原「(駄目だ…どうしても頭に浮かぶ…。あの時のことが…。)」

榊原は中学のときを思い出していた。










榊原は中学のときもチームのキャプテンであった。

その試合は中学野球の最後の試合だった。

チームメートに気合いを入れてもちろん自分も気合い十分で臨んだ試合だった。

しかしその試合の六回。

中学野球は七イニング制なので試合の終盤。

ツーアウト満塁、スコアは2対1。

榊原のチームがリードしていた。

そして打者の打球が大きく弧を描いて自分のほうへと飛んできた。

自分はそれまで守備は上手い方だと思っていた。

しかし…

榊原「えっ…?」

その時榊原の視界は太陽によって遮られた。

そして次に視界が捕らえたのはどんどんランナーが回っていくダイヤモンドと転がっている白球だった。

試合後…皆から慰められた。

「大丈夫だよ」「よくやったよ」そんな言葉を聞くたびに悲しくなった。

それ以降俺は重要な場面になると体がひとりでに固まる体質となってしまった。









榊原「(俺は…また同じ失敗をしてしまうのか…。)」

榊原は雨の中俯いている。

そして榊原は視線を感じネクストバッターズサークルに目を移した。

黄瀬「……………」

そこには黄瀬が自分を頼るような目線を向けていた。

榊原はその目線を見たあと明日香のほうを見た。

そこには疲労困憊の顔をした明日香が左肩を押さえながら榊原に黄瀬と同じような目線を向けていた。

榊原「(そうだ…。この回に逆転しないと結局は負けだ…。)」

そうなのだ。

この回に同点に追いつくだけでは夕陽ヶ丘高校は勝利をもぎ取れない可能性が高い。

何故ならこちらにはもう抑えられる投手がいない。

投手はいることはいるがうちの投手陣は決して褒められたものではない。

明日香でないと点をとられない保証はない。

ならばこの回で逆転して試合を終わらせることしか道はないのだ。

完全に夕陽ヶ丘高校は土俵際まで追い込まれていた。

榊原「(そうだ…俺がやらないと…。俺がでて黄瀬にかけるしかない…。)」

榊原は気合いを入れ直して打席に再び立った。

二宮「(俺の潜水艦はそう簡単に沈没しない…!!)」

「ストラックツー!!」

二宮の第二球はインハイいっぱいに決まった。

榊原「(ぐっ…なんで動いてくれないんだ…!!)」

榊原はそう呟いてバットを叩きつけた。

榊原「(…俺はキャプテンだ…。)」

榊原は叩きつけたバットを拾い直して心の中でそう言った。

榊原「(俺は…あの頃の自分に見切りをつけたいんだ…。)」

榊原は目をつぶってあの頃のエラーしたときの映像が出てきた。

榊原は目をゆっくりと開けると二宮の三球目を待った。

二宮は大きく振りかぶって長い腕をしならせた。

榊原「(あの頃の俺とは…変わったんだ…。あの頃の俺とはおさらばだ…!!)」

カキーン!!!

二宮「!?」

おもいっきりスイングした打球は二宮の横を破る…

バシィ!!!

榊原「!?」

…ことはなかった。打球は小さなセカンドのグラブに収まっていた。

矢吹「へへっ…。」

朱音はこの打球を横っ飛びで捕ったのだ。

二宮「矢吹…!」

倉持「アカちゃん…!!」

しかし打球はまだ死んでいなかった…。

矢吹「…?」

打球はグローブを焦がすかの勢いで回転し続けていた。

矢吹「…う、嘘…!」

朱音のグローブは穴が開きそこから白球がこぼれ落ちた。

榊原「よっしゃーー!!!」

榊原は盛大に一塁ベース上でガッツポーズをした。

黄瀬「(キャプテンの打球はすげぇスピンがかかってるからな…。会心の当たりは絶対捕れねぇよ…。)」

朱音は落ち込んでいるのか俯き気味に二宮に謝った。

二宮は朱音を慰めて次のバッターに目線を向けた。

黄瀬「さてと…。行きますか…。」

「九番サード黄瀬君」

大歓声に送られて黄瀬は右バッターボックスに入った。

黄瀬「さぁ…行きますか…。」

二宮は黄瀬の顔をじっと見る。

そして黄瀬のユニフォームがだんだん柏木ウォルブスのユニフォームに見えてきていた。

二宮「(俺はもうあの頃の俺じゃないんだ…!)」

二宮は首を振って頭の中の映像を取り払った。

矢月「…ノーアウト一塁…か…。」

一方スタンドの二人は試合の戦況を冷静に見ていた。

???「…ひぇ〜…あんな打球絶対捕りたくないな〜…。」

男は顔をゆがめながらそう呟いた。

矢月はお前だったら楽勝で捕るだろうが…と呟いてまた試合に神経を集中させた。

二宮「(海藤…もう解禁する…。一試合五球限定のあの球を…。)」

海藤はわかったとばかりに頷いてミットを真ん中に構えた。

二宮「(今まで投げた数は一球…。その一球も黄瀬君に投げた球だ…。しかしこの球…そう簡単には打たれん…!)」

二宮は一塁ランナーに目を向けて第一球を投げた。

黄瀬「(…この球は…。)」

黄瀬は真ん中にスーッと入ってきた球を見逃した。

「ストライッ!」

その球を見てスタンドにいた二人の男は目を見開いた。

矢月「…あれは…!」

???「…へぇ…。」

二人は別々の反応を示して捕手からの返球を受け取る二宮を見ていた。

矢月「…最初っからどこかで見たことがあるフォームだと思ってたんだが…。」

???「…あの球を見て確信しましたね…。」

男と矢月は目を見合わせてから一緒にそのフォームが似ている人の名前を言った。

???&矢月「高岡優那!!」

高岡優那…。プロ野球初の女性選手である。

大洋ホエールズに入団し高卒2年目にして先発ローテに定着。

そして3年目には16勝をあげて最多勝に輝いた。

他にも最優秀防御率などを獲得し大洋の…いや日本のエースの名を背負っていた名投手である。

そこまでの活躍が出来たのはある決め球があったからである。

矢月「あの球に似てたな…。」

???「…えぇ…俺のデータにもそうありますしね…。」

お前のデータはどれだけあるんだよ…と呟きながらまた試合を目に移した。

二宮「(あの球を見てきた…。さすがは黄瀬君だ…。)」

二宮は感心しながらも第二球を投げる体制にもう入っていた。

二宮は第二球を投じるべく体が沈んでいく。

そしてボールがまた真ん中へと吸い込まれていく。

バシィ!!

「ストラックツー!!」

三塁側スタンドの声援がより一層高まった。

二宮「(ただこの球は何球も見たところで打てない…。)」

二宮は返球を力強く捕ってロージンを念入りにつけていた。

黄瀬「(まずい…。こんな球があるのか…。)」

黄瀬は予想以上に冷や汗をかいていた。

二宮の球を分析するために二球見送ったがわかったのはこの球の完璧さだけだった。

この球のすごいところそれは…。

黄瀬「(一球一球…違う変化をしてる…。)」

そう。この球はストレートではなかった。

手元で微妙な変化をしているのだ。

しかもその変化は一定していなかった。

スライダー変化をしたり、カーブ変化、フォーク変化にシュート変化、上に変化したりもするまさに七色の変化球であった。

二宮「(投げてる俺にもどこに変化するかわからないんだ…。バッターにわかるわけがない…。)」

黄瀬はたまらずタイムを要求して打席をはずした。

黄瀬「(どうすればいい…。ヤマを絞るにしてもあれだけ四方に変化されちゃ当たる確率は低い…。どうする…どうする…。)」

黄瀬は汗と雨が混じっている水滴を拭いながらそう考えていた。

考えていると頭の中にある男の映像が浮かんできた。

「俺なら…………けどな…。」

確かこれは俺があいつに打てない変化球が来たときにどうするかを聞いたときだ。

黄瀬「(…かけてみるしかないか…。)」

黄瀬は意を決して打席に入った。

二宮「(俺はこの球を朔也さんに教えてもらった…。本家の由香里さんのこの球はこんなキレどころじゃないがなんとか習得出来たんだ…。)」

二宮は勝負の第三球目を投じるためにいつものように体がゆっくりと沈んでいく。

二宮「これが俺の…」

二宮は長い腕を目一杯しならせた。

二宮「セブンチェンジ(七色の変化)だーーー!!!」

二宮のセブンチェンジが例のごとく真ん中に突き進んでいく。

そしてボールが変化する直前バットが現れた。

二宮「!?」

黄瀬はこの瞬間頭の中である男の言葉がリピートされていた。

「俺なら…変化する前で叩いちまうけどな…。」

カキーン!!!

黄瀬「当たったよ…!」

黄瀬はおもいっきり振り抜き打球の行方を確認する。

打球は左中間に大きく弧を描きながら伸びていた。

二宮「(そんな馬鹿な…!)」

二宮は自分の絶対の球を打たれた動揺を隠しきれなかった。

そして打球は倉持がジャンプするもわずかに届かずランナーが溜まった。

黄瀬「(ちっ…あれが入らないのか…。)」

やはり打つ瞬間に少し変化したらしくバットの先っぽに当たったらしくまだ手は痺れていた。

しかしバットの先っぽながらもなおも打球をヒットゾーンに運ぶその技術とパワーは並外れていた。

ノーアウト二塁三塁。

バッターは黒木明日香…。

二宮「(あのセブンチェンジをあそこまで…。)」

二宮はショックを隠せず左中間方向を呆然と見つめていた。

しかし海藤の大きな声で二宮はバッターボックスを見る。

そこには小さな少女が肩を気にしながらバッターボックスに立っていた。

矢月「ノーアウト二塁三塁…。」

???「さすが…黄瀬ちゃん…。でもあれが入らなかったのが意外と痛いな…。」

男がそう呟くと矢月も納得したように大きく頷く。

矢月「あぁ…。夕陽ヶ丘はここで試合を決めないと勝ち目は薄いからな…。」

???「へぇ…。矢月先輩でもそんなこと考えてるんですね…。」

矢月「でもは余計だ…。」

そんな会話をしながらもお互いの目はグラウンドへと向けられていた。

明日香「(痛い…。さっきまではこんなに痛くなかったのに…。)」

明日香は痺れるような痛みが左肩を襲っていた。

さっきまでは投球に集中して痛みがわからなかったがこうしてマウンドを降りると今の自分の状態が非常に危険であることがわかった。

明日香「(あそこで遼に止められてなかったら…。)」

考えるだけでも身震いする。

明日香「(ここで打たなきゃ…。)」

明日香は一旦肩のことは忘れて今は目の前の大チャンスに重きを置いた。

二宮「(大丈夫だ…。落ち着け…。確かにあれを打たれたのはショックだったがホームランにならなかっただけでもラッキーなんだ…。)」

二宮はそう自分に言い聞かせてバッターの明日香と対峙した。

明日香「(私はバット振るしかないよね…。)」

明日香はそう考えていつもより一握り短くバットを握った。

二宮「(落ち着いて投げれば打たれない…。)」

二宮はそう思いながらアウトコースにストレートを投げ込んだ。

ガシィ!!

「ファールボール!!」

打球は真後ろのバックネットに突き刺さった。

黄瀬「(いけるかもしれないぞ…!タイミングはバッチリだ。)」

黄瀬が期待を抱く中二宮は混乱に陥っていた。

二宮「(さっきまではあんなにタイミングがあってなかったのに…なにが変わったんだ…。)」

そう思った瞬間自らの体の異変に気づいた。

二宮「(…足が…重い…。)」

さすがの二宮もスタミナに相当な負担をかけていたのだ。

今まで明日香と同じく集中していたので気づかなかったが先ほどの黄瀬のツーベースで少し気が抜けたのだろう。

二宮「(だが…こんなことで負けられない…!)」

二宮は二塁三塁となったので大きく振りかぶった。

二宮「うぉぉぉぉ…!!」

バシィ!!

「ストラックツー!!」

二宮は声を出しながら勢いよくストレートを投げ込んだ。

その球が見事インコースに決まった。

明日香「(速い…。だけど…負けられない…!)」

明日香はバットをもう一度握りなおした。

二宮「これで終わりだ…!!」

二宮はそう叫びながら勢いよく腕をしならせる。

しかしその瞬間黄瀬は大声を出していた。

黄瀬「危ない!!」

明日香「えっ?」

明日香の視界にはどんどん自分の方に白球が近づいてきているように映っていた。

そして自分の頭にボールが来た瞬間視界が真っ白に変わった。










明日香「ここ…どこ…?」

明日香は周りをキョロキョロと見てみた。

そこは周りには何もなくただただ真っ白い空間であった。

明日香「そうだ…!私確か頭にボールが当たりそうになってそれで…。」

明日香はその時自分の服装に初めて気がついた。

白のワンピースに麦わら帽子という格好でサンダルを履いていた。

何でこんな格好してるんだろう…。と疑問に思いつつ周りを調べてみることにした。

しかし探せば探すほどただ体力がなくなっていくだけであった。

明日香「もしかして私…死んじゃったのかな…?」

明日香はそんなことを思い出していた。

よくよく考えたら頭にボールが当たりそうになってこの空間にやってきたのである。

そう考えるのも不思議ではない。

しかしもしそうだとしたら三途の川というのがあるはずだがそんなものは見当たらない。

するとここはそういうところではないのか?それともそんなものは初めからないのか?などと無駄に考え込んでいると後ろから急に肩を叩かれた。

明日香「うわぁ…!!!!」

明日香は驚きすぎて後ろを急いで振り向いた反動で尻餅をついてしまった。

???「ははっ!ごめんごめん!そんなに驚くとは思わなかったから!」

そこには自分よりも少し年上かぐらいの男が笑いながら立っていた。

おそらくこの男が自分の肩を叩いたのであろう。

なのにこんなに笑われるのは少々腹立たしかった。

明日香「…なんなんですかあなた…。」

少し睨みながら言ったが男は何も気にしていないように言った。

???「う〜ん…まぁここの住人…?」

男がそう言ったら明日香は態度を翻して男の両肩を掴んだ。

明日香「住人!?じゃあここはどこなのよ…!!」

???「いや…あの…そんなに…揺らされたら言えない…。」

男は途切れ途切れにそう言うと明日香はあっそうか…と言ってすぐに話した。

???「こほん…。まずここは死の世界じゃあない…。」

明日香「じゃあどこなの?」

明日香は今度は至って冷静にそう聞いた。

???「う〜ん…説明しづらいんだけど集中力の極限かな…?まぁここに来るやつは久しぶりだけど…。やっぱ血は争えないな…。」

明日香「???」

明日香が疑問の顔を浮かべたがあっ!こっちの話…とはぐらかされた。

???「とにかく頑張って!」

明日香「へっ?」










キン!

二宮「なっ!?」

明日香は顔に来たボールを大根切りのような形で叩きつけた。

ボールは大きく弾んでセンター前に…抜けた!

二宮「光!!バックホーム!!!」

すでに榊原はホームインして黄瀬も一気に三塁を蹴った。

倉持「負けられない…!!」

倉持は快速を飛ばしてボールにチャージして矢のような送球をホームに送った。

ホームのクロスプレーで土煙があがる。

グラウンド内の選手、ベンチの選手、スタンドの観客までがシーンとし審判の判定に全神経が集中する。

そして審判の判定は…

「セーフ!!!」

その瞬間蜂の巣をつついたかのごとく一塁ベンチからは選手が飛び出しスタンドからは悲鳴とも思われる大歓声が球場を包んだ。

今死闘の決着はついた。

高校野球に明日はない。

勝者がいれば敗者もいるのだ。

神様は試合を見届けたかのごとく雨が止んだ。



チーム 1 2 3 4 5 6 7 8 9 R H E
1 0 0 0 0 0 0 0 2 3 5 2
0 0 0 0 0 0 0 2 4 4 1
勝 黒木(5勝0敗) 負 二宮(4勝1敗)
本 羽柴(1号)