第21章 夏へ向けて

−1995年 6月−
赤竜高校では夏を目指して練習試合を増やしみんなが頑張って行くのだった。
斎藤「待たせたな」
瑞樹「今、来たところだから大丈夫よ」
斎藤「椎名、その恋人みたいなセリフは勘弁して欲しいんだが」
瑞樹「良いじゃん別に」
斎藤「軽いな。ま、いっか、とっとと用事を済ますぞ」
瑞樹「おう!」
斎藤「やれやれ」

スポーツ用品店
斎藤「椎名、これ何かどうだ?」
瑞樹「地味」
斎藤「別に派手なのを探してる訳じゃないだろう?」
瑞樹「そうだけどさ。地味なのばっかりだと目立てないし」
斎藤「別に目立てなくても」
瑞樹「いやいやプロってのは人気も商売だから」
斎藤「いやいや、お前んとこの親父さんは有名人だろう」
瑞樹「よくは知らないんだけどエースじゃないんでしょう」
斎藤「まあ、御影さんがいるからな。けど安定感で言えば上だし…………うーん、ま、チームの主軸の1人だよ」
瑞樹「ふーん」
斎藤「ふーんってこれ何かで良いんじゃないか」
瑞樹「3万近くか」
斎藤「プロ用のピッチャーグラブと考えたら安い方なんじゃないか、と言うかプロって契約したとこから野球用具を提供して貰うんだろう。何も市販の店で買わないでもと思うけど?」
瑞樹「家族で決めた結果、こうなったんだから知らないわよ」
斎藤「そんな適当な」
瑞樹「ま、これにするか」
斎藤「はあ、俺が一緒に来た意味あったのかな?」
瑞樹「…………何?」
斎藤「いや、何でもない」
瑞樹「とにかく、ありがとう。お礼に昼食をご馳走するわ」
斎藤「いいのか?」
瑞樹「いいよ」
斎藤「そんなあっさり」
瑞樹「元々、付き合ってくれたお礼におごろうと思ってたからさ。遠慮せず食べてよ!」
斎藤「(傍から観られると恥ずかしいが、おごりだしいっか)それじゃお言葉にあまえますか」
瑞樹「じゃあ行こう」
斎藤「とその前にどの店に行くんだ?(これでMOON(  うち  )や結依さんところだと面倒な事になりそうだ)」
瑞樹「そうだね。部活連中に人気のあの安い定食屋だと、あんまりお礼にならないし」
斎藤(俺としても結依さんにからかわれるのはごめんだ)
瑞樹「うーん、どっかないかな?」
斎藤「決めてないのかよと言うか行って見たいところがあるんだけど」
瑞樹「うーん、そんなに高くなきゃいいよ」
斎藤「多分、2人で5000円くらいかな?」
瑞樹「オッケー♪」
斎藤「あっさりしてるな」
瑞樹「そのくらいの軍資金はあるからね」

と言う訳で斎藤は以前から行って見たかったレストランに椎名を案内するのだった。
斎藤(つうか傍から観たらデート以外の何物にも観えないな)

レストラン

駅から電車に乗ってレストランへと来た斎藤達、席に着くと同時におすすめ料理を頼んで現在は味わって食べている。
瑞樹「へえ、このスープ美味しいわね♪」
斎藤「ああ。薬膳料理で健康だけでなく美容にも良いらしい。姉貴の言った通りさすがの味だな♪」
瑞樹「ほうほう、美容にも良いと」
斎藤「それより悪かったな」
瑞樹「いきなり何? こんな美味しいお店教えてもらったしこっちがお礼言いたいくらいなのに」
斎藤「いや、値段だよ。2人で7000円ちょっとだったからさ」
瑞樹「何だそんな事、父さんがいくら稼いでると思ってんの」
斎藤「そういや、椎名ってお金持ちのお嬢様なんだよな(親父さん、億単位の年俸だし、こいつ見てると全然そんな感じはしないけど)」
瑞樹「まあね、と言っても父さんも母さんも貧乏性なせいか大金使う様な事はないけどね。私もそんなにお小遣い貰わないし」
斎藤「なるほど、そういや親父さんって埼玉に住んでるのか?」
瑞樹「うん。たまにこっちにも帰って来るけどね。あんたもプロになるんなら気を付けた方が良いわよ。家族付き合いはあんまり出来ないから」
斎藤「俺がプロね?」
瑞樹「うちの学校のエースでしょう。あんたも今のキャプテンと同じでプロ入り確実とかじゃないの?」
斎藤「いや、たまにスカウトが観に来るけど、もっぱら相良さん目当てだからな」
瑞樹「うちの妹は将来プロ野球選手の嫁さんになりたいって話だからあんたがプロになったら紹介してあげるわよ」
斎藤「いや、会った事のない妹を紹介って言われても?」
瑞樹「ま、気が向いたら紹介してあげるわよ」

こうして斎藤とクラスメイトの椎名の初デート?は終わった。

赤竜高校
真田「ふっふっふ」
斎藤「何だよ?」

翌日、席に着いたと同時に真田のこの笑い嫌な予感がしたが斎藤はいつも通りに答えた。
真田「ふっふっふ、見ましたよ!」
斎藤「だから何をだよ?」

何となく先の予想が出来そうなやり取りだがいつも通り斎藤は答えた。
真田「斎藤のデート現場!」

ザワッ!?
斎藤「だあ―――!? 違うっての!?」

真田の言葉でクラスメイトが騒ぐ!
真田「違うのなら彼女とは遊びだったと」

ザワッ!?
斎藤「だあ―――!? お前はもう喋るな―――!?」

それから斎藤が頑張って何とか誤解は解けた。
吉田「つまり、誕生日プレゼントを選ぶのに付き合ってもらっただけと」
瑞樹「そう言う事」
真田「ちぇっ、つまんないのやはり僕がもっと話を盛大にしてゴールインさせれば良かったよ」
斎藤「頼むから貴方は何もしないで下さい」
吉田「ま、クラスの連中も真田の話は大概がホラだと分かってるから大丈夫だろう」
瑞樹「ま、盛り上がるのは勝手だけどね」
吉田(ま、椎名の方がこれじゃ噂になりそうもないけどな)
真田「けど、椎名さんのお父さんってプロ野球選手だったんだね」
吉田「しかも球界最年長左腕で球界を代表する椎名隆晴とは」
真田「椎名さんって確かライオンズだよね」
吉田「ああ。御影さんが入団して以来話題性は低いが安定感は御影さん以上でライオンズの影のエースとも言われている」
真田「じゃあ、今年も調子は良いんだ」
吉田「いや、今年は開幕から不調で今は2軍に居るらしい」
瑞樹「良く知ってるわね」
吉田「ああ。プロ野球のニュースは毎日見てるからな」
瑞樹「私はプロ野球をあんまり知らないけど、大丈夫なんじゃないの」
斎藤「そんなどうでも良さそうに?」
瑞樹「うちで野球に興味あるのって妹と弟くらいだからね」
真田「ふむ。椎名さんのお父さんっていくつなの?」
瑞樹「明日で38よ」
真田「明日が誕生日なの!?」
瑞樹「うん」
真田「と言う事は明日は家に帰って来るの」
瑞樹「らしいわよ」
真田「ふむ」
吉田「まさかと思うけど家族団欒をジャマしようとか言うなよ?」
真田「失敬な。ただ、プロ入りするにはどうすればとか聞ければと」
吉田「それをジャマすると言うんだよ!」
瑞樹「別に良いんじゃない」
吉田「良いのかよ!?」

だが、やっぱりジャマをするのは気が引けてか斎藤と吉田の2人で何とか真田を説得した。
真田「ブ―――!!」
斎藤「機嫌直せよ」
真田「分かってるよ。それで話は変わるけど、もうすぐテストだね」
吉田「本当にいきなりだな」
斎藤「うーん」
真田「どうしたの?」
斎藤「この前の小テストの結果はあれだったからな」
真田「と言っても斎藤は補習を受けなければ良いんだろう」
斎藤「まあな」
真田「それなら問題ないでしょう。いつも平均より上の点数なんだから」
斎藤「俺としてはそれでも問題ないんだけど」
真田「あっ、ひょっとして月砂さんが」
斎藤「姉貴ってそう言うとこ厳しいんだよ。現状で満足するな上を目指せって」
吉田「確かに月砂さんなら言いそうだな」
真田「これはテスト勉強フラグか」
吉田「何だよフラグって?」
真田「とにかく勉強会だね」
斎藤「家で勉強してるし良いと思うんだけど」
吉田「だな。ただでさえ練習が多いのに」
真田「ま、うちの部じゃ文武両道の人は少ないけどね。甲子園3回連続出場とかで勉強は大目に見られてる感じだから大丈夫でしょう」
吉田「確かに3年の先輩は文がダメな人が多いけど」
真田「そう言う意味じゃ僕達2年は僕、斎藤、吉田と成績は問題ないから教師に目を付けられたりしないし」
斎藤「ちょっと待てそれじゃ先輩達は目を付けられてるのか?」
真田「学年主席の玖珂さんは別の意味で付けられてるけど、問題はキャプテンと嵯峨さんだね。前に教師がグチってたよ」
斎藤「そんなに悪かったのか」
吉田「これは俺達より先輩達が頑張らないとな」
真田「だね。まあ、そっちは玖珂さんがどうにかしてくれるでしょう」
吉田「結局それかいって俺達は?」
真田「各自、勝手に頑張れと」
吉田「フラグがどうだかは?」
真田「そんな昔の話は忘れたよ」
吉田「ああ。分かってはいたさ。お前とまともに話すだけムダだって」
真田「と言うか君達が乗り気じゃないからこうなったんだけど」
斎藤&吉田「うっ!?」
真田「とりあえず今日は帰ろうか」
和音先生「と言うよりいい加減席に着いて欲しいんだけど」
斎藤&真田「あっ!?」
真田「そうだよ。まだ1限目なのに帰ろうとか不真面目だよ」

真田は神速の速さで自分の席に戻りいけしゃあしゃあと言う。
斎藤&真田「お前、いつの間に!?」
和音先生「相変わらずね」
斎藤「先生もですけど」
和音先生「貴方達の様な変な子にはもう慣れたからね」
斎藤「達って俺と吉田もですか!?」
和音先生「当然」

その言葉にクラス全員が無言で頷いた。
斎藤&吉田「…………はあ」

そして午前の授業も終わり
真田「どうして月曜の授業ってこんなに疲れるんだろうか?」
斎藤「セリフと表情があってないぞ?」
真田「いやいや、顔に出ていないだけですよ」
吉田「そんな事してないでとっとと学食に行くぞ!」
斎藤&真田「おう!!」

赤竜高校学食
真田「美味い♪」
吉田「こればかりは真田に同感だな。ここの学食は部活連中に取っては救いの神だな♪」
斎藤「ああ(ちょっと大げさな気もするがこの味じゃ頷くな)」
真田「ガツガツ! ムシャムシャ!」
吉田「相変わらず凄い食欲だこと」
斎藤「もぐもぐ」
吉田「こっちは逆に静かに食べるな」
真田「プハー! 美味かった」
斎藤「ご馳走様と」
吉田「それじゃ教室に戻るか」
真田「満腹になると動きたくないんだけど」
吉田「個人的には同感だけど、この混雑した学食で食後に席から離れなかったら明日の朝陽を拝めなくなるぞ。いやマジで」
斎藤「確かに真田のセリフの後からか多数の殺気を感じる」
真田「ちぇっ、それじゃ嫌々だけど戻ろうか」
吉田「よく、この視線の中でそう言うセリフを言えるな」
斎藤「まったくだ」

そして午後の授業も終わり放課後となる。

赤竜高校野球部
中西監督「まあ、見ての通り雨が降って来たから練習は中断だな」

昼までは晴れていたが昼過ぎから曇り始め案の定放課後から雨が降り始めた。
全員「そんな泣かなくても」
中西監督「これは涙じゃなく雨だよ。グラウンドが使えなくなるのが痛いな」
全員(室内で雨って雨漏りしてる訳じゃあるまいし)
真田「梅雨ですからね。それでいつもの様にビデオでも観るんですか?」
中西監督「いや、お前達に試合のビデオ見せてもあんまり成果はなさそうだし、どうするかな?」
真田「そう言えば監督って椎名隆晴さんって知ってますか?」
中西監督「うん? 椎名隆晴ってライオンズのピッチャーのか?」
真田「ええ」
中西監督「そりゃ名前くらいなら有名人だしな」
真田「いえ、プライベートで」
中西監督「知ってる訳ないだろう。いきなり何だよ?」
真田「いえ、球界最年長と言う話でしたから監督の知り合いかな」
全員「おいおい」
中西監督「あのな真田、俺は今年で54歳だ。その椎名ってのはまだ30代後半だろう」
真田「確か明日に38と今朝聞きました」
中西監督「ふーん、明日が誕生日なのかってそれはどうでも良いんだよ。とにかく17も歳が離れてる俺達とどう言う関係があるんだよ」
真田「いえ。ライオンズの中村監督と親友と聞きましたので」
中西監督「なるほど、けど話題で出た事はあっても本人に会った事はないな。そういや今、思い出したけど椎名って斉天出身だけど実家は赤竜市だったな」
真田「へえ。そうなんですか」
中西監督「つうか、誕生日とかを知ってるお前の方が詳しいんじゃないのか?」
斎藤&吉田「それは俺達から話します」

と言う訳で斎藤達は今朝の事を話した。
中西監督「へえ。椎名の娘が学校に居るのか」
真田「やっぱりみんな知らないんですね」
相良主将「ふむ。その娘は野球が嫌いなのか?」
斎藤「は?」
相良主将「いや、話を聞いたところそんな感じがしてな」
斎藤「そうですね。嫌いと言うより興味がないと言った感じでした」
吉田「確かに、父親が2軍に居るって事も知らない感じだったな」
福西「ええっ!? 椎名さんが2軍落ち!?」
吉田「知らなかったのか」
中西監督「とにかく真田は何を言いたいんだ?」
真田「監督が椎名さんと知り合いだったら乱入できないかなと」
斎藤&吉田「まだ諦めてなかったのか」
中西監督「やめとけプロ野球選手ってのは移動が多いからな。誕生日くらい休ませてやれ、それに今は2軍落ちなんだろう。それに家に居る家族も誕生日くらいは家族だけの方が良いと思うだろう」
斎藤&吉田(うーむ。今朝の椎名の様子からそうとも言えない気もするけど、まあ、概ね監督の言う事に同感だな)
真田「うーん」
中西監督「どうして椎名にこだわるんだ。他のプロ野球選手で良ければ紹介してやっても良いけど」
真田「いえ。確かに僕がわがままでした。これ以上は無理を言いません」
相川「ひょっとして師匠」
真田「そこまでだよ。弟子の相川君、これは僕の問題だ。幸い、僕の周囲では君以外は鈍い人ばかりだからね」
相川「分かりました」

次の日、椎名家では盛大に誕生会をやりその後、登板した椎名選手はプレゼントのグラブで6回を無失点と調子を上げ始めたらしい。

ドラスポ
椎名(コクッ!)

スト―――ン!
アルベルト「クッ!?」

霞「最後はSFFで空振り三振! 椎名選手、史上最年長でノーヒットノーラン達成!」
武藤「マジでやりましたね。確かに初回から球が走ってましたけど」

斎藤「凄え!?」
吉田「1軍復帰した初マウンドでこれか!?」
真田「さすがは椎名さん」
柚「Hスライダー、スローカーブ、SFF、緩急の使い方が上手い」
月砂「何かヒントはあったの?」
柚「分からない、けど試して見たい事が出来た」

霞「椎名選手のノーヒットノーランでライオンズは連敗を脱出しました。首位のブルーウェーブとは10ゲーム差ときついですがここから持ち直して欲しいですね」
武藤「ですね。と言ってもブルーウェーブは勢いがありますからね。ちょっと難しいかも知れません」
霞「首位打者を独走中の久住選手に引っ張られてかみんな頑張ってますからね」
武藤「投手陣ではルーキーの奥森が筆頭に安定した成績でチームに貢献していますね」
霞「とパリーグはブルーウェーブが独走しております。セリーグはスワローズが現在連敗中で2位のカープが3ゲーム差と追いついて来てます」
武藤「スワローズはエースのライアンが早くも10勝を達成しましたね。現在12勝1敗で12勝はリーグトップです。復活した光宗も頑張っていますし4番の姫川も18本塁打で現在ホームランランキング4位と好調です。後は抑えの切り札の生井もセーブランキング2位と好調をアピールしていますね」
霞「と言う訳でセリーグはカープが連勝を続けています。パリーグはブルーウェーブが独走中です!」
武藤「タイトル争いもですが、もう少しでオールスターですからそっちも盛り上がりを見せていますね」
霞「はい。と言う訳で以上です。高校野球ですが今年のドラフトは凄まじく甲子園では例年を超える盛り上がりを見せそうです!」
武藤「春には記録がいくつか更新されましたからね」
霞「斉天の高須君の4打席連続本塁打や赤竜の斎藤君の20奪三振などで盛り上がりを見せました。ちなみにまた鈴姫さんに全国の高校に行ってもらいました」
武藤「それは大変でしたね」

真田「おう。例の撮影だな」
月砂「今月の初めに来たって言うあれね」
真田「うん。いっぱい話したからね」
斎藤「カメラさん達は多分かなり短縮されるとか話してたけどね」
吉田「そうそう。期待しすぎると後悔するぞ」
結依「―――始まるのじゃ」
柚「………………」

雪影高校
鈴姫「春にはベスト4に残りましたが惜しくも準決勝で斉天大附属に敗北した雪影高校に来ました」
朝山「惜しくもって俺は10失点で降板したんですけど」
滝沢「まあ、俺達も6得点が精一杯だったからな」
朝山「そうですね! 俺が5失点で完投すれば勝ってましたね!」
真島主将「いい加減にしろ。取材の人達が引いてるぞ」
鈴姫「い、いえ。私の聞き方が悪かったんだと思います。それではキャプテンの真島君、最後の夏ですが意気込みのほどは」
真島主将「そうですね。奥森さんと言うエースは居なくなりましたが総合力では昨年以上ですし優勝できる可能性はあると思います!」
鈴姫「自信満々ですね。ところで真島君も今年のドラフトでは指名確実と言われていますが希望の球団とかあるんですか?」
真島主将「ふむ。そうですね。新人のキャッチャーが活躍する例は少ないのでキャッチャーに困っているチームのお役に立ちたいですね」
鈴姫「なるほど」
朝山「どうせなら奥森さんとコンビのブルーウェーブが良いと思いますけど」
真島主将「そうだな。それも良いかもな。ま、指名されれば何処にでも行きますよ」
朝山「つうかキャプテンなら誰からでもポジション奪いそうだな」
滝沢「確かに」
鈴姫「最後に白銀監督は今年のチームをどう思いますか?」
白銀監督「うちは基本的にバッティングのチームなんで真島、滝沢の居る今年が歴代最高のチームと言えますね」
鈴姫「と言うと息子さんが雪影を日本一にした時よりも上ですか?」
白銀監督「はい。確かにあの時は日本一になりましたが丸馬1人に頼った部分が大きく総合力はお世辞にも高いと言えませんでしたから」
鈴姫「それでもチームを日本一にした息子さんは凄いですね」
白銀監督「ええ。自分の息子とは思えん精神力の持ち主です。実際プロでも1年目から活躍しましたし指名されなかった場合は自分の後を継いで欲しかったんですけどね」
鈴姫「なるほど」
白銀監督「自分も20年近く監督をしていますが、雪影であいつ以上の精神力の持ち主は現れていませんね」
朝山「すんごい評価ですね!?」
白銀監督「事実を言ったまでさ。他校にはあいつ以上の精神力の持ち主も居たぞ」
真島主将「興味がありますね。誰ですか?」
白銀監督「竜崎武蔵、試合には勝ったがあの怪物を観た時には上には上が居るんだなと思ったよ」
朝山「確かに竜崎さんも凄いですが…………白銀さんの方が通算成績もタイトル獲得も上な様な」
白銀監督「それはチームに恵まれてないからだ」
朝山「確かに……それもあるかな」
白銀監督「野球は突出した投手の力に頼る事が大きいがやっぱり野球はチームプレイだ。そう言う意味で今年は日本一になった時よりは上なのさ」
真島主将「キャッチャーとしてはその意見には賛成ですね」
鈴姫「と雪影高校でした」

転生高校
鈴姫「雪影高校と同じく春にはベスト4に残った転生高校です。180cm以上と背の高い選手が多いですがキャプテンの木下君は170cmと小柄ながら頑張っています」
木下主将「背の事は言わないで下さい。結構気にしてるので」
鈴姫「すみません。ところで春にはベスト4と頑張りましたが夏への自信は?」
木下主将「そうですね。春より更に守備が上達してエラー数が少なくなっている分、総合力は格段に上がったとも言えますね」
鈴姫「1回勝負の高校野球でエラーが多いのは致命的ですからね」
木下主将「はい。俺が1年の頃はサヨナラエラーで何度も負けましたよ。あれ見てるともっと守備を強化しろと言いたくなるんですよ」
浅野監督「実際、俺が監督になった頃は草野球以下だったからな」
木下主将「まったくです。つうか長身の人が多いせいかゴロをエラーする事が多いんだよな」
浅野監督「だが熱心な守備指導のせいかみんな成長したじゃないか」
広瀬「そう言う事です」
木下主将「そうだな。後は暴投癖を何とかしてくれると優勝も夢じゃないんだが」
石崎「大丈夫です。俺が投げればみんな三振ですから」
木下主将「守るのが好きな俺としてはちと不満だがお前が居れば確かに優勝も夢じゃないな」
石崎「それなら早く立ち直って下さいよ」
木下主将「うむ」
鈴姫「えっと、ところで木下君も上位指名されると噂ですが希望の球団はありますか?」
木下主将「ジャイアンツですね。あそこ良い外野手が多いんで指名されるとは思えませんけど野村さんを尊敬していますから後はバファローズと言ったところですね」
鈴姫「バファローズですか?」
木下主将「小野先輩にはお世話になりましたから恩返しをしたいなと思いまして」
鈴姫「なるほど、ところで監督の浅野さんとしては今年のチームをどう思いますか?」
浅野監督「そうっスね。石崎が2年になって昨年より成長しましたし優勝を狙えるんじゃないかなと」
鈴姫「自信があるんですね」
浅野監督「いえ。そう言う訳じゃないです」
鈴姫「え?」
全員「おっさん!」
浅野監督「うち基本的に安定感がないもんで、けどポテンシャルはかなり高いしもしかしたらと言う可能性もあるかなと」
鈴姫「な、なるほど、以上、転生高校でした」
木下主将「正直だなー」

無明実業高校
鈴姫「春の大会では惜しくも準優勝の無明実業に来ています。それではキャプテンの名雲君と監督の大岡さん夏への自信の程はいかがでしょうか?」
名雲主将「総合力じゃ昨年より上ですね。天野は相変わらず万全ですし斉天がどれだけレベルを上げて来るかが問題ですね!」
大岡監督「その通り斉天以外は眼中にないな。他の高校はうちの足元にも及ばん!」
鈴姫「恐ろしいまでの自信ですね。近くに出来る天狼学園も眼中にないんでしょうか?」
大岡監督「ええ。斉天以外は敵じゃありませんよ!」
鈴姫「確かにここ数年、甲子園では無明VS斉天の決勝戦ばかりですからね」
名雲主将「新設校が1年目で勝ち残れるほど、この地区はあまくありませんよ」
鈴姫「そうですね。全国でも強豪地区のここでは勝ち残るのは難しいでしょうね。ところで夏が終わればドラフトですが名雲君と天野君は希望の球団はあるんでしょうか?」
宗介「俺はバファローズ志望です。バファローズ以外だと大学も視野に入れてます」
鈴姫「やはり天野選手の永久欠番を継ぐんですね」
宗介「いえ。たとえそう言う話が来ても俺は番号を継ぐつもりはありませんから継ぐのは俺の役目じゃありませんから」
鈴姫「と言うと」
名雲主将「継ぐのは直人と言う事ですよ」
直人「何ですと!?」
宗介「何でお前が驚くんだよ?」
直人「だってまさか俺がプロなんて!?」
宗介「何でってスカウトが良く観に来るし無明の選手なら誰だってプロを目指してるだろうが!」
直人「それはそうだけど、どうせ俺なんて下位指名だろうし永久欠番を継ぐなんて大それた事!?」
風祭「いい加減落ち着けっての」
直人「そうだ。風祭が継げよ!」
風祭「そう言われてもな。指名されるとしてもバファローズが指名してくれるとは限らんし」
直人「いや、お前なら1位指名確実だろう」
風祭「そう言われても石崎や斎藤、それにお前も居るしな」
直人「いやいや、俺なんて良くて下位指名が良いところだよ」
風祭&宗介「それはどうかな」
直人「?」
鈴姫「えっと、それでは名雲君の希望の球団はやはりドラゴンズでしょうか?」
名雲主将「いえ。俺はプロ入りするつもりはないので」
鈴姫「え? と言うと大学かノンプロですか?」
名雲主将「いえ。渡米してメジャーを目指します!」
全員「………………え、ええ―――!?」
宗介「テレビの前で言って良いのかよ?」
名雲主将「ドラフトってのは下位指名でも貴重な物だ。入らない俺を指名なんてムダな事をする必要もあるまい」
宗介「そうかも知れないけど、俺と監督以外はまだ知らない事をここで言うか」
名雲主将「とにかくそう言う訳です!」
鈴姫「は、はあ」

天狼学園高校
鈴姫「新設校の天狼学園に来ています。スポーツ、特に野球に力を入れているとの事で1年目から全国制覇を目指していると言う話ですが?」
雫「はい。それだけの戦力は集めて来たつもりです」
鈴姫「遅れながらインタビューに答えてくれてるのは理事長代理の神代雫(かみしろしずく)さんです」
雫「はい。設備は最新の物で入ればプロ入り確実と言える様にしたいです」
鈴姫「な、なかなか正直なコメントをありがとうございます。ところで監督の瀬戸辰也さんは理事長直々に監督に就任して欲しいと頼まれたとか」
瀬戸監督「ええ」
鈴姫「えっと、監督としてこのチームはどうですか?」
瀬戸監督「全員が全員、ポテンシャルは高いがまだまだだと言ったところです。夏までに足りない部分をどう補うかで決まると言ったところですかね」
鈴姫「なるほど、監督に就任して間もないのに選手の特性を良く把握している見たいですね」
瀬戸監督「把握か…………」
鈴姫「何か?」
瀬戸監督「いえ。うちは4番の平下が中心の投打のチームと言ったところです。さっき話した様にポテンシャルが高いのであいつら次第で全国制覇を狙えると思います!」
鈴姫「なるほど、それでは平下君はこのチームをどう思いますか?」
平下主将「そうですね。監督の言った通り課題がいくつかありますが良いチームだと思います。俺自身はこの学校を気に入ってますから」
鈴姫「なるほど」

斉天大附属高校
鈴姫「と言う訳で春の日本一、斉天大附属に来ました。それではキャプテンの嘉神君に監督の大島さんチームの調子はどうでしょう?」
嘉神主将「総合力は昨年より下っぽいんですけどね」
大島監督「そんな事ないぞ。全員が安定した成績を出してるしチームバランスは歴代でもトップだな」
嘉神主将「そうなのかな?」
大島監督「確かにパワーは落ちたがその他が良くバランスが良いんだ。春に勝てたのもそのおかげだろう」
嘉神主将「確かにスカウトも俺と高須以外の選手を観に来るのが多くなったけど」
鈴姫「そうそう。2人は希望の球団はあるんですか?」
嘉神主将「俺達は別にないかな。指名してくれれば12球団何処でも入るけど」
高須「ああ」
鈴姫「ドラフトでは2人共争奪戦必須ですね」
嘉神主将「いやいや、天野や河島や相良も居るから、うーむ、そう言う意味じゃ誰がたくさん競合されるかが面白そうだな」
高須「野球じゃピッチャーが重要だしやっぱり天野じゃないのか」
嘉神主将「しかし、あいつはバファローズ以外は入らないんじゃないのか?」
高須「まあな。じゃあ河島かな」
嘉神主将「河島か、確かに評価は高いだろうが、あいつだと決め手に欠ける様な」
鈴姫「えっと、それでは大島さん、夏の大会での自信の程は?」
大島監督「もちろん日本一です。八坂が抜けてキャッチャーに困ってたんですが……ふふふ、取って置きの奴が入って来ましたからね」
鈴姫「その取って置きの人とは?」
大島監督「それは秘密と言う事で」
鈴姫(ガックリ)
中尾「えっと」
鈴姫「君は?」
中尾「中尾忠光(なかおただみつ)と言います」
鈴姫「中尾と言うと…………ひょっとしてブルーウェーブの!?」
中尾「はい。息子です」
鈴姫「ポジションは?」
中尾「キャッチャーです」
大島監督「言うなよ」
中尾「すみません」
鈴姫「なるほど、以上が斉天大附属高校でした」

赤竜高校
鈴姫「赤竜高校にやって来ました。キャプテンの相良君に取っては最後の夏ですが意気込みの程は?」
相良主将「今年こそ斉天に勝って全国制覇を達成します!」
鈴姫「凄い闘志ですね。夏が終わればドラフトですが相良君の希望の球団は?」
相良主将「地元のベイスターズくらいかな。何処に指名されても入団はするつもりです!」
真田「ちょっと待った!」
鈴姫「えっと、君は?」
真田「頼れる赤竜の韋駄天真田君です!」
鈴姫「………………はあ?」
斎藤「記者の人が呆れてるぞ」
真田「良いの良いのアピールするチャンスなんだから」
吉田「またストレートに」
鈴姫「えっと、真田君でしたね。確か風祭君に匹敵する足を持っているんですね」
斎藤(なるほど、ああ言うふうにカンペを出すのか)
真田「そうです。希望球団はベイスターズとライオンズです!」
吉田(つうか観てるこっちの方が恥ずかしいな)
鈴姫「なるほど、ところで夏へ向けてチームの方はどうでしょうか?」
中西監督「相良がピークと言う事もあって今年がラストチャンスかも知れませんね。ただ、昨年より総合力は間違いなく上ですね!」
鈴姫「なるほど、以上が赤竜高校でした」
真田「ええっこれで終わりなの!?」
鈴姫「すみません。時間の都合上あんまり長く出来ない物で」
真田「でも柚ちゃんも紹介したいし」
柚「?」
中西監督「そうだな。すみませんが、うちで女性ながらプロを目指してる娘が居るんで紹介させてもらえませんか」
鈴姫「女性でですか? けど高校野球で女性は」
中西監督「分かっています。だからこそルールの改変をしてもらいます!」
鈴姫「良いんですか?」
中西監督「良いんですよ。確かにルールは順守されるべきですが、才能とやる気の溢れている娘が居るならルールその物を改変するべきなんです!」
鈴姫「は、はあ? ところでその娘は?」
真田「ここです!」
柚「………………」
真田「無口な娘なので僕が答えましょう!」
鈴姫「い、いつの間に私のマイクを!?」
真田「そんな些細な事はどうでも良いんです。彼女は風祭柚ちゃん。風祭君の妹にして赤竜の影のエース!」
鈴姫「そうなんですか!?」
中西監督「影のエースと言うのはオーバーかな。けど素質はありますし秋にはスタメンに入れたいですね」
鈴姫「なるほど、分かりました。同じ女性として私も応援します。頑張って下さい」
柚「うん」

流球高校
鈴姫「そして最後は流球高校です。あの御影選手の母校として有名な高校です。そしてキャプテンでエースの河島君にインタビューをしたいと思います」
河島主将「どうも、希望球団は特にありません。12球団何処でも入るつもりです」
鈴姫「残念ながら春には出場出来ませんでしたが夏に向けて調子はどうですか?」
河島主将「チームの状態は昨年より断然上ですね。良いキャッチャーが入って来たんで俺としても助かっています」
橋本「ああして話してるとキャプテンも普通の人に見えるから不思議ですね」
谷口「河島さんも大人になったって事じゃないのか」
3年部員「いや、それはないな」
常葉「相変わらず信用ないな」
河島主将「だあ―――! ちゃんと聞こえてんだからな!」
全員「逃げるぞ!」

ビュ―――ン!
河島主将「逃がすか! 足には自信がないがスタミナには自信があるからな。地の果てまで追いかけてやるー!」

ビュ―――ン!
鈴姫「ざ、残念ながらこれ以上のインタビューは不可能の様です。そ、それでは」

ドラスポ
霞「なるほど、今年も高校野球は白熱の試合となりそうですね!」
武藤「そ、そうですね。しかし何と言うかこの時期にドラフトとか聞くのは問題がある様な」
霞「そうですか、武藤さんもこの時期に指名とかの話とか来たんじゃないんですか?」
武藤「いえ、確かに指名するかも知れないとかは言われましたけど、スカウトが来たのはどっちかと言うと秋頃でしたね。2位指名と考えていたより評価が高く驚いたので覚えています」
霞「なるほど、私としては赤竜高校の風祭柚さんが気になっていますが」
武藤「あれには驚きましたね。けどプロは女性もなれるのでそんなに驚く事でもないのかなとも思いましたけど」
霞「しかし話題性は凄いですね。テレビで思いっきり挑戦状を叩き付けた感じです」
武藤「連盟相手にあそこまで大口叩けるのは中西さんくらいでしょうね。あの人の事だから本当に何とかしそうです」
霞「今年の高校野球は本当に色んな意味で盛り上がりを見せそうですね」
武藤「ですね」

喫茶店MOON
真田「しまった。一番良いところを河島さんに持って行かれた」
吉田「そこかよ!」
真田「いや、芸人としてオチは自分が決めたかったなと」
斎藤「いつから芸人になったんだか?」
真田「とにかく他校も夏に向けて頑張ってるね」
吉田「キャプテン達が3年と言う事もあって過去最高の盛り上がるだろうと言われているからな」
斎藤「だな。けど名雲さんが渡米してメジャーを目指すってのは驚きだったな」
吉田「ああ。プロ入り確実を蹴ってだからな。バカと言うか大物と言うか」
真田「つうかバカでしょう!」
斎藤「いや、一概にそうとは言えんぞ」
吉田「白銀さんも渡米して活躍してるしな」
真田「けど、確実と言われてるプロ入り蹴って渡米するなんてバカとしか言い様がないと思うけど」
吉田「まあ、否定は出来ないけどな」
月砂「ま、あの子達だからね」
斎藤「そう言えば姉貴って名雲さんとも知り合いなんだよな」
月砂「まあね。あの子達から色々と訳有りとは聞いてるけど、詳しくは知らないわよ」
真田「相良さん見てもそう言う訳有りとか思えないんですけど」
月砂「まあね。だけど、あの子達は絆とでも言うのかな。そう言う物があるんだと思うけど」
吉田「確かに嘉神さんや高須さんと話す時はいつもよりリラックスしてる感じがするな」
斎藤「ああしかし今更だが監督のあの挑戦じみたセリフはまずかった気がするんだがな」
吉田「まあな。だけど、柚の事を考えるとあれも仕方ないって気もするけど」
真田「大丈夫だよ。革命に犠牲は付き物だから」
吉田「最悪出場停止とかになったらこっちも迷惑なんだが」
真田「出場停止って…………いくらなんでも?」
吉田「だよな」
真田「僕も何か怖くなって来たな」
柚「………………」
月砂「気にする事はないわよ。もし危なくなってもここの人達はみんな赤竜のファンだから応援してくれるわよ」
柚「…………今はまだ力が足りないから」
結依「物事は一朝一夕ではできんのじゃ!」
月砂「そうそう。1人で何とかしようとするのは柚の悪いクセよ」
柚「分かってるけど、どうしても焦る」

斎藤「平下にホームラン打たれてからずっとああだな」
吉田「同学年って事もあるんだが、妙に気にしてるな」
真田「おおう! これは恋愛フラグか!」
斎藤「精神面の問題だから難しいけど何とかしてやりたいな」
吉田「ああ。俺もキャッチャーだからなピッチャーの精神面は何とか支えないとな」
真田「うわー、ナイスシカト」
斎藤「変化球か―――そう言えばストレート系の変化球はまだ試してないな」
吉田「―――確かに! 可能性が出て来たな!」
斎藤「ああ。明日、監督に話してみようぜ!」
吉田「ああ!」
真田「すみません。僕が悪かったです。いい加減話しかけて下さい」

斎藤達はいつも通りだが女性選手出現、今年のドラフト候補No.1はメジャーを目指すだの爆弾宣言が出て今年は昨年とは違った盛り上がりを見せる。そしていよいよ斎藤の2年目の夏が始まる。