第27章 因縁の対決、4つの軌跡(後編)

−1995年 8月 下旬−
赤竜高校は決勝まで進出した。そしていよいよ決勝での対戦相手が決まる戦いが始まる。
中西監督「それじゃ観戦するぞ」
全員「うっす!」
真田「いや〜暑いですな〜」
吉田「まったくだ」
中西監督「この炎天下の中、野球してた奴のセリフじゃないな」
嵯峨「観てる方がきついと言う事もあるんですよ!」
中西監督「分かる様な分からん様な」
真田「ちなみに完投した斎藤とケガしたキャプテンは一足早く宿舎に戻ってます!」
吉田「カメラに向かって言ってもこの距離だ。音声は拾ってくれんと思うぞ!」
中西監督「その前に写ってないだろう」

斉天大附属高校
大島監督「ボケボケな空気は置いといていよいよ決勝だ」
全員「俺達はいたってシリアスなんですが?」
大島監督「とまあ、置いといて今年は一足速かったが無明実業との再戦だ!」
全員(監督(あんた)が一番ボケボケだよ!!)
嘉神主将「ところで無明実業とは公式戦だけで練習試合とかしないのは何故ですか?」
大島監督「うーん、特に理由はないな。何となくだ」
全員「はあ(やっぱりよう分からん監督だな?)」
中尾「やっぱり総合力はうちより上ですかね。欠点のないとんでもない選手が多いし」
大島監督「いや、互角だろう。だから佐伯と天野兄の対決とも言える」
佐伯「最低でも2失点以内ですか」
大島監督「そんなところだ。とどめを刺すのは嘉神と高須、きっかけを作るのはその他の奴だ!」
全員「下位打線は?」
大島監督「四死球か守りに集中かな」
全員「天野相手じゃちょっと四死球は難しいんじゃ?」
大島監督「ま、頑張れ」
全員「はあ」

無明実業高校
大岡監督「と言う訳で相手は斉天大附属だ」
宗介「会うのが一歩早かったな。勝てば相良とも会えるのか」
名雲主将「近年他校も強くなってるからな。別に勝ち上がってもおかしくないだろう」
宗介「別にそう言う意味で言ってる訳じゃないが、何はともあれこれがラストゲームになるのか」
名雲主将「いや、お前達ならまだプロで競って行くよ!」
宗介「お前ともいつかって終わってもないのにしめっぽくなっちゃダメだよな」
名雲主将「ああ」
直人「やっぱりキャプテン達に取って斉天との試合は特別なんだな」
風祭「そりゃ1年の時からずっと決勝で戦ってる訳だからな」
坂本「しかし、ずっとってのも凄いですね」
直人「まったく」
大岡監督「誰も俺の話を聞いてくれないし」

−甲子園大会準決勝戦 阪神甲子園球場−
3年 佐藤 浩太
後攻 先攻
斉天大附属高校 無明実業高校
投手力 機動力 投手力 機動力
打撃力 守備力 VS 打撃力 守備力
意外性 経験値 意外性 経験値
総合力 総合力
風祭 大吾 2年
3年 鈴木 孝也 天野 直人 2年
3年 嘉神 高政 天野 宗介 3年
3年 高須 光圀 名雲 輝明 3年
3年 佐々木 新 片瀬 篤允 3年
1年 中尾 忠光 芝原 斎 3年
3年 渡辺 恵一 坂本 隆行 1年
3年 名倉 眞 谷沢 吉二郎 3年
2年 佐伯 真敏 尼崎 進 3年

放送席
霞「先の準決勝では赤竜高校が勝利しました。その赤竜高校の相手はどっちになるかの試合です!」
武藤「そんなおまけ見たいに言っちゃダメなんじゃ」
天野「そうですね。事実上の決勝戦とも言われてる試合ですからね」
武藤「その言い方だと今度は赤竜高校をおまけと言ってる様ですけど」
霞「とにかく因縁の対決とも言われている試合が始まります」
天野「双方あらゆるレベルが高いですからね。2人の先発がどれだけ失点を抑えて行くかがポイントになりそうです!」
霞「と言う訳で試合開始!」
武藤「こっちは置いてけぼりかい!」

1回表 斉0−0無 いよいよ因縁の対決スタート!
佐伯「いきなり風祭( こいつ )からだからな。本当ー嫌になる打線だ!」
風祭「春じゃ4の1と抑えられたからな。あの時より実力が上って事を証明しなきゃな!」

カキ―――ン!
霞「追い込んでから一転してクリティカルシュートをセンター前に運びます!」
武藤「はあ〜相変わらずあっさり打ちますね」
天野「安打製造機ですからね」

その後、風祭はたやすく盗塁を決めてノーアウト3塁となる。
中尾「そんな!?」
佐伯(あいつの足は特別だ。いちいち気にするな。多分、バントはないと思うが、一応、警戒はしておくぞ!)
中尾(はい!)
直人(うーん、やっぱりバントのサインは来ないか)

カキ―――ン!
霞「良い当たりだがこれはライトへの高いフライだ!」
武藤「しかし、犠牲フライには十分ですね」
天野「ええ。先に無明実業が1点先制になりますね」

パシッ!
風祭(タッ!)
佐藤「ムダと分かっても投げる!」

霞「ライトの佐藤君も懸命に投げますが風祭君の足が速くセーフ、無明実業が1点先制します!」
武藤「うーん、理想的な点の取り方ですね。個人的にはスクイズの方が理想的ですが」
天野「これで佐伯君が調子を落とさなきゃ良いんですが」

佐伯(シュッ!)

ククッ!
宗介「正直、これをヒットにするのは難しいぞ」

霞「最後はクリティカルシュートで決めます!」
武藤「相変わらずキレと変化が凄まじいですね!」
天野「速度もですよ!」

佐伯(シュッ!)

ガキッ!
名雲主将「春より球速も増してるな」

霞「名雲君はセンターへの深いフライ……」
武藤「あの当たり損ねがスタンドに入りそうになるとは!?」
天野「さすがはアマチュア最高の強打者と言われるだけはありますか!」
霞「とにかくセンターフライで3アウトチェンジです!」

佐伯「やれやれ、いきなり失点か」
中尾「この打線じゃ仕方ありませんよ!」
佐伯「まあな。しかしどんな相手でも抑えるのが俺達の仕事だ!」
中尾「は、はい!」

大岡監督「1点止まりかい!」
直人「1ヒットで1点って上出来だと思うんですが?」
大岡監督「うむ。やっぱり出塁の可能性が高い風祭が攻撃の要だな!」
風祭「はい!」

1回裏 斉0−1無 直人の犠牲フライで無明実業が1点を先制!
宗介「クリーンナップ以外は警戒する必要がない気はするが意外な活躍をする選手が多いからな」
名雲主将(普通に攻めれば問題ないだろう。教科書通りに行くぞ!)
宗介(オッケー!)

ズバ―――ン!
佐藤「相変わらず血も涙もない球だ!?」

霞「145キロのブレイジングショットを空振り三振!」
武藤「相変わらず立ち上がりは良いですね」
天野「ストレートは走ってますね。これで変化球もキレてたらクリーンナップ以外じゃちょっと打つのは難しいですね!」

ガキッ!
鈴木「やっぱり当てるのがやっとだな」

霞「鈴木君はスライダーを当てる物の結果はサードゴロ!」
武藤「あの外角へのスライダーを当てられるだけでも凄いですけどね」
天野「1点先制されてますから意地でも打たないとダメですけどね」
武藤「そりゃそうですけど」
霞「しかし次はあの嘉神君です。天野君から打ち込めるんでしょうか?」

嘉神主将「打つぜ!」

カキ―――ン!
宗介「むっ!」

霞「絶妙なコースへのカーブでしたがセンター前に運びます!」
武藤「右打者とは言えあのコースに変化なのに良く打てますね!?」
天野「そりゃドラフトにかかるほどのバッターですからね。しかし次はもっとやっかいとも言えるバッターですよ!」

高須「2アウト1塁か、1ヒットでもホームまでは難しいな」
宗介「打たせるか!」
名雲主将(まずい!?)

カキ―――ン!
尼崎(タッタッタッ!)

霞「失投を見逃さず打ったと思いましたが思ったより飛距離は出ない。レフトの尼崎君が懸命に走ります!」
武藤「スタンドは無理かな。しかし長打にはなるかな?」
霞「尼崎君が飛びついたが…………惜しくも届かずヒットになります。尼崎君が立ち上がってって立ち上がりませんね?」
天野「……トラブル」
直人「尼崎先輩の前にボールを!」

ビュ―――ン! パシッ!
霞「天野君が懸命に送球しますが嘉神君はホームに返りあっという間に同点になりました!」
武藤「高須君は2塁ストップですか、とそれより尼崎君は?」
天野「大岡監督が出ましたね。交代ですか」
霞「尼崎君に代わってレフトに佐藤君が入りました!」
武藤「しかし今回の大会はこう言う交代が多いですね」
天野「それだけどの試合も拮抗してるんですよ!」

宗介「いきなりかよ!?」
名雲主将「事故だ。仕方あるまい。それより得点圏にランナーが居る事を忘れるなよ!」
宗介「そうだったな!」

ガキッ! パシッ! シュッ!
佐々木「ショートゴロか」

霞「逆転のチャンスでしたが佐々木君は続けず3アウトチェンジ、しかし斉天大附属、1点を返して試合は振り出しに戻りました!」
武藤「両投手立ち上がりはいまいちでしたかね」
天野「そうですね。特に宗介は1回から失投もありましたし、2人共これからどう立て直して行くのか楽しみです」

大島監督「良し良し打線は繋がってるな」
高須「嘉神はともかく俺はちょっとドジを踏みましたね」
佐藤&鈴木「ヒットを打って何を言ってんだよ!!」
嘉神主将「確かに失投を見逃すなんざらしくなかったな」
高須「追い込んでから天野が失投して来るとは思わなかったんだよ!」
嘉神主将「確かにそっちもらしくなかったな。なんだ2人揃って緊張してんのか?」
高須「そう言う訳でもないけど」
大島監督「ま、貴重な同点打を打ったんだ。調子が悪いって事はないだろう」
嘉神主将「ま、それもそうですね」

宗介「……今日の俺、調子悪いか?」
名雲主将「いや、むしろノビてキレてと調子は良いぞ!」
宗介「そっか、ならこれからだな!」
名雲主将「うむ!」

2回表 斉1−1無 現在、1対1の同点中
佐伯「ふう、強打者が続くなー」

スト―――ン!
片瀬「うーん、ラストはフォークか」

霞「片瀬君はフォークを空振り三振します!」
武藤「キレが増して来ましたかね」
天野「球速も1回よりは上がってますね」

佐伯「次はミートの上手い芝原さんか」
中尾(本当に気が抜けない打線ですね)

ガキッ!
芝原「想像以上に落ちたな」

霞「シンカーを打ち上げ2アウト!」
武藤「今のはコースも変化も良かったですね」
天野「確かに!」

ガキッ!
坂本「変化球だけでなくストレートも想像以上に速いな!?」

霞「続く坂本君はセカンドゴロに倒れ3アウトチェンジです!」
武藤「あっさり三者凡退か、やっぱり調子良いのかな?」
天野「最後は143キロか―――調子が良いですね!」

中尾(行ける。少しずつ調子が上がって来てる!)
佐伯(まだ7回もあるんだよな。本当きつい打線だぜ!)

2回裏 斉1−1無 佐伯はあっさりと三者凡退に抑える
宗介「中尾か」
中尾「佐伯さんからも打てないのに天野さんを打てるだろうか?」

ガキッ!
霞「2球目スライダーを打ち上げサードフライに倒れます!」
武藤「初めてで当てられるだけでも大した物ですよ」
天野「まあ、1年生にしては、ですけどね」

ズバ―――ン!
渡辺「うーん、調子が上がる前に叩いときたかったんだが」

霞「今日最速146キロのブレイジングショットで渡辺君を三振に抑えます!」
武藤「やっぱり球は走ってますね」
天野「しかしコントロールにはまだムラがありますね。絶好調ならそれこそ針の穴を通す精密さを見せるんですが」

スト―――ン!
名倉「しまった見逃せばボールだった!?」

霞「名倉君はフォークを空振り三振とこの回は三者凡退に抑えました!」
武藤「フォークの落差も凄いですけどね」
天野「ま、少しずつ調子が上がって来てるんでしょう」
武藤(少しずつかな?)

宗介「嘉神に打たれてから調子が狂ったがコースも狙える様になって来たな!」
名雲主将「クリーンナップに回るまでになんとかしとけ!」
宗介「おう!」

3回表 斉1−1無 天野も負けずと三者凡退に抑える
佐伯「下位打線だが気が抜けないな!」
中尾(と言うわりには自信満々の表情だな?)

ククッ!
谷沢「相変わらずの変化か」

霞「最後はクリティカルシュートで決めます!」
武藤「凄い変化ですね!?」
天野「うーん、佐伯君はどんどん調子が上がってますね!」
武藤(と言うかもうピークに達してるんじゃ?)

ガキッ!
佐助(タッタッタ!)

霞「内野安打! ショートへの深い当たりでしたが佐藤君の足が速く内野安打!」
武藤「さすが代走に良く使われるだけあって良い足してますね」
天野「風祭君に勝るとも劣らない足と言うのは…………言い過ぎですかね。とにかく足は一級品ですね!」

その後、佐藤は2塁への盗塁を成功させる。
中尾「………………」

霞「佐藤君が盗塁を成功し1アウトランナー2塁となりました。ここで頼りになる風祭君です!」
武藤「どっちかと言えばチャンスメーカーと言う印象はあるんですが得点圏で打つイメージはないんですけどね」
天野「それで風祭君の得点圏打率は?」
霞「えっと…………今大会では4の4で10割ですね」
武藤「パーフェクト!? いや打数は少ないから」
天野「とにかくチャンスには強い様ですね」

カキ―――ン!
佐伯「あれを打つのか!?」

霞「ボールからストライクに入って来るクリティカルシュートでしたが芯でとらえた!」
武藤「こりゃ左中間だな。ランナーの足からしたらホームに返るか」
天野「いえ…………追いつきましたね!」

嘉神主将「相手が悪かったな」
風祭「あれを捕られるのか!?」

霞「ジャンピングキャッチ! 嘉神君の快足で何とか追いつきました!」
武藤「凄え足と守備の上手さ!?」
天野「打球勘も良いですね。バッティングだけでなく守備でも魅せますね!」
霞「ちなみにランナーの佐藤君は何とか戻って2アウト2塁となっています!」
武藤「いや、知ってますけど」

佐伯&中尾「ふう、助かった!!」

カキ―――ン!
直人「定位置かよ!」

霞「続く天野君はストレートを打つ物のレフトフライに倒れ3アウトチェンジ!」
武藤「何とか無失点に抑えましたか」
天野「守備レベルも高いからなかなか失点しそうもないですね」
武藤「ま、そう言う意味じゃ初回から失点したのは不思議な事なんですかね?」

佐伯「ふう、思わぬ伏兵にやられるところだったな」
中尾「確かに足でかき回されるとやっかいですね………………もう少し俺の肩が良ければ!」
佐伯「気にするな。あの2人の足が特別速いってだけだ!」

3回裏 斉1−1無 佐伯はピンチを迎えたが何とか無失点と好投を続ける
宗介(シュッ!)

ガキッ!
佐伯「くっ、やっぱ当てるのがやっとか!」

霞「148キロのストレートを当てましたがセカンドゴロに倒れます!」
武藤「あの速さでアウトローギリギリか、天野君の調子が上がってますね!」
天野「普通なら見逃し三振のコースを当てる佐伯君も大した物ですよ!」

宗介(シュッ!)

スト―――ン!
佐藤「だあ―――打てるか―――!」

霞「最後はフォークで決めて三球三振で抑えます!」
武藤「最後は見逃せばボールでしたね」
天野「これはなかなか打てそうもありませんね」

宗介(シュッ!)

ガキッ!
鈴木「当ててもヒットにならん!?」

霞「鈴木君は真上へのキャッチャーフライ、天野君、この回も三者凡退に抑えます!」
武藤「天野君は安定感がありますね」
天野「打線の違いって気もしますが、こうして見ると斉天大附属は無明実業よりやや打線が劣るかな?」

名雲主将「調子が戻って来たな」
宗介「ああ、しかし調子に乗るなら次のクリーンナップを抑えてからだな!」
名雲主将「いや、抑えても慎重に行こう」
宗介「オッケー!」

4回表 斉1−1無 天野は前の回も三者凡退と好調
佐伯「ふん!」

ガキッ!
宗介「どうも佐伯( こいつ )とは相性が悪いな」

霞「クリティカルシュートを打ちますが結果はキャッチャーフライ!」
武藤「前に飛ばせないし完敗って感じですね」
天野「はあ、まったくだ。情けない!」
武藤「天野さん、中立で行きましょうね(いまさらな気もするが)」

ガキッ!
名雲主将「芯でとらえるのはなかなか難しい」

霞「クリティカルシュートを打ち上げライトへの高いフライ!」
武藤「何であんな当たりがあんなところまで行くんだか」
天野「あの怪力は現役時代の和田さんを思い出しますね」
武藤「確かに凄いパワーでしたからね」

佐伯(こいつで決める!)

ズバ―――ン!
片瀬「なっ!?」

霞「最後は144キロのストレートで空振り三振に抑えます!」
武藤「やっぱり天野君に見劣りしないピッチャーですね」
天野「無明実業のクリーンナップを三者凡退ですからね。確かに宗介と同等かも知れません」

佐伯「ふう、まだ4回だってのに無茶苦茶疲れるな」
中尾「ええ、残り5回ですか」
佐伯「同点だから延長も頭にいれとくか」
中尾「それは8回くらいから考えたいですね」
佐伯「はは、残り5回この調子で抑えような!」
中尾「はい!(っと俺が励まされてどうすんだか?)」

4回裏 斉1−1無 佐伯はクリーンナップを三者凡退と好調
宗介「叩き潰す!」

ズバ―――ン!
嘉神主将「くっ!?」

霞「150キロのブレイジングショットを空振り三振!」
武藤「ここでMAXか!?」
天野「アウトコース高め―――ちょっと手か出ませんでしたね!」

 高須「良し!」

カキ―――ン! パシッ!
宗介「―――ふう」

霞「MAX150キロのブレイジングショットを芯でとらえたが惜しくも天野君にキャッチされて2アウト!」
武藤「コースがあまかったとは言え150キロを良く芯に当てられるな」
天野「やっぱり高須君に対しては力んでいる感じがしますね」

ガキッ!
佐々木「想像以上に速すぎる!?」

霞「続く佐々木君にも150キロのブレイジングショットを投げますが結果はキャッチャーフライ!」
武藤「やっぱ斉天の打線も凄いですよ」
天野「ま、結果は三者凡退ですけどね」
武藤「そうですが…………」
霞「ま、言いたい事は分かりますからいいんじゃないですか、と言う訳で4回を終わって1対1と接戦が続いております!」

5回表 斉1−1無 1対1の同点が続いている
芝原「そこだ!」

カキ―――ン!
佐伯「…………ふう」

霞「良い当たりでしたがここでセカンドの名倉君がファインプレーを見せます!」
武藤「良い反応を見せますね」
天野「クリティカルシュートを上手く打った芝原君も良かったですが名倉君がその上を行きましたか!」

名倉「………………」
芝原「むう!」

ガキッ!
坂本「うーん」

霞「粘りましたが最後はクリティカルシュートを引っ掛けてピッチャーゴロ!」
武藤「今日の佐伯君はコントロールも良いから崩すのは至難の業ですね」
天野「正確には今日もですが確かにああコースに決められてヒットは難しいですね」

佐伯(シュッ!)

ズバ―――ン!
谷沢「速い!?」

霞「ここで今日最速145キロを計測します。当然ながら谷沢君はかすりもせず三振です!」
武藤「肩ができて来た見たいですね」
天野「少なくとも下位打線では手に負えない見たいですね」

佐伯「ふう、何とか3人で抑えたな」
中尾(良し! この調子が続けば問題ない!)

5回裏 斉1−1無 1対1の同点が続いている
宗介「潰す!」
中尾「へ?」

スト―――ン!
霞「最後はフォークで決めます!」
武藤「ああ落差があるとボールでも振ってしまいますね」
天野「確かに1年生には厳しいボールですが」

ズバ―――ン!
渡辺「くっ!?」

霞「最後は150キロのブレイジングショットで決めます!」
武藤「また見逃せばボールでしたがああ速いとつられて振ってしまいますね」
天野「うーん、それでもボールですからね。しかしああ速いと…………うーん?」

宗介「ふん!」

ククッ!
名倉「むう」

霞「最後は外角スライダーを空振り三振、天野君、この回は三者三振と絶好調!」
武藤「どんどん凄くなって来ますね」
天野「まったくだ」

宗介「どうでもいいがそろそろ追加点が欲しいんだが」
名雲主将「風祭が塁に出ればお前に回るだろう。自分で決めろ!」
宗介「うーん、自信ないな」
名雲主将「はあ」

観客席
全員「わいわい!!」
斎藤&相良主将「……………………」

宿舎でテレビを観ていたが生で観たくなった斎藤と相良は甲子園に戻っていた。
真田「そこにいるのは我らがヒーロー斎藤君と相良主将ではないですか」
斎藤「つうかなんで雪影の連中と観戦してるんだ?」
滝沢「このまま帰るのももったいないって事で残って観戦してるんだよ。偶然赤竜の連中を見つけて監督同士が意気投合したって話さ」

そう言われて見てみると向こうでは監督同士が熱心に話していた。
斎藤&相良主将「なるほど」
真田「試合もいよいよ6回で面白くなった事だしここは1年、2年、3年と分かれて観ませんか?」
真島主将「分かれる理由が分からんのだが?」
真田「年上相手だと緊張するし同い年で一緒に観ると交友も上がるだろうなと思いまして」
真島主将「一理はあるか、こっちはそれで構わん」
相良主将「ま、監督達も意気投合してるしこっちもそれで良いか」
真田「それでは決まりです!」

6回表 斉1−1無 1対1の同点が続いている
佐伯「佐藤か、さっきはしてやられたからな」
中尾(うーん、長打力はそれほどでもないですが…………やっぱり外野を前にするか)

ククッ!
佐助「ふむふむ」

霞「クリティカルシュートを空振り三振!」
武藤「かすりもせず三振ですか」
天野「ああ変化すると手が出ませんよ」

風祭「ふっ!」

カキ―――ン!
霞「またもやクリティカルシュートを芯でとらえます」
武藤「右中間真っ二つ2ベース……も蹴りましたか」
天野「3ベースヒットですね」

佐伯「完全にクリティカルシュートに合わせて来るな」
中尾「ええ、風祭さんに同じボールを続けても通用しないって事はよーく分かりました!」
佐伯「確かに初球から完全にとらえられたからな」

霞「1アウトランナー3塁で巧打者の天野君です!」
武藤「佐伯君は天野君兄弟に関しては相性が良いですから問題ないですかね」
天野「普通ならスクイズの場面ですけどね」

直人(またバントはなしかよ。ま、今回は相手も警戒しているし仕方ないか)
佐伯(最後はこいつで決める!)

ズバ―――ン!
直人「速い!?」

霞「最後はインコース低めに145キロのストレートが決まり見逃し三振!」
武藤「せめて当てて欲しかったですね」
天野「確かに今のは情けなかったですね」

カキ―――ン! パシッ!
宗介「ちっセカンド真正面か!」

霞「フォークをとらえましたがセカンド真正面に倒れ風祭君は3塁残塁で3アウトチェンジ!」
武藤「芯でとらえてもこれか―――やっぱり佐伯君は天野君兄弟とは相性が良いですね!」
天野「本当に情けないです」

佐伯「ふう、フォークを芯でとらえられた時はどうなるかと思ったが何とか抑えられたな」
中尾「確かに今のは運が良かったですね」
佐伯「しかし風祭とは相性が悪いな」
中尾「まったくです!どうすれば抑えられるんでしょうか?」
佐伯「多分、最高の球を投げる以外に抑える方法はないだろうな」
中尾「やっぱりそうなりますか」

直人「………………」
風祭「まあまあ、落ち着いてチャンスならまた来るから次に打とうよ!」
直人「うん」

宗介「やれやれ」
名雲主将「そう言うお前は気落ちしてないようだな?」
宗介「いや、俺は身の程をわきまえてるから」
名雲主将「それ凄い情けないセリフだぞ!」
宗介「放っといてくれま、ピッチャーとしては負ける訳にはいかないけどな!」

6回裏 斉1−1無 1対1の同点が続いている
佐伯「変化球から入って来るかそれともストレートからか?」
宗介(シュッ!)

ククッ!
佐伯「きわどいとこをついて来るな」

霞「インコースギリギリへのカーブを見逃し三振!」
武藤「ああストライクゾーンギリギリを狙われたらなかなか打てませんよ!」
天野「それに速度差もありますからね」

ズバ―――ン!
宗介「ちっ!」
佐藤「来た来た。走る…………事はできないけど」

霞「最後はストレートがわずかに外れてフォアボール!」
武藤「さすがに斉天打線3巡目になると当てては来ますね!」
天野「しかし芯に当てられるのはクリーンナップくらいでしょう」

ガキッ!
鈴木「げっ!?」

霞「続く鈴木君スライダーをセカンドに当然ダブルプレーで3アウトチェンジとなりました!」
天野「ま、当てたら当てたでこう言う事もありますか」
武藤「そうですね。当てる事で最悪と言うほどでもないがこう言う事もあるか」

宗介「うーん、ちょっと納得いかないが何とか抑えれたか」
名雲主将「ま、今のフォアボールは仕方あるまい」
宗介「うーん」
名雲主将「人の話はちゃんと聞こうな」

鈴木「………………」
嘉神主将「ま、こう言う事もあるさ」
鈴木「………………」
嘉神主将「はあ、フォロー失敗か」

7回表 斉1−1無 1対1の同点が続いている
名雲主将「ふん!」

カキ―――ン!
佐伯&中尾「げげっ!?」

霞「これは文句なし初球ストレートを場外へ叩き込みました!」
武藤「相変わらずとんでもないパワーだ!?」
天野「今のはリードを読んで打ちましたね。それにしてもあの飛距離は凄いですが!?」

佐伯「さすがに今のは堪えるな」
中尾「せめて低めに投げればスタンドはなかったかも知れません」
佐伯「ま、あの怪力じゃそっちでも望み薄だけどな」
中尾「それはまあ…………」
佐伯「落ち込んでる暇があったら次を抑えるぞ!」
中尾「あっは、はいっ!」

ククッ!
片瀬「3球続けてかよ!?」

霞「クリティカルシュート3つで三球三振に抑えます!」
武藤「完全に力押しで来ましたか」
天野「スタミナ配分を無視して来ましたね」

佐伯「次は!」

ガキッ!
芝原「げっ!?」

霞「最後はスローボールを打ち上げてセンターフライに倒れます!」
武藤「ここでスローボールか!?」
天野「スタミナ配分は無視してないようですね」

スト―――ン!
坂本「げっフォーク!?」

霞「坂本君はボール球のフォークを空振り三振!」
武藤「完全にひねられましたね」
天野「ま、ああコースつかれちゃね」
霞「後続は抑えましたがしかし名雲君の一振りで無明実業が待望の1点を追加しました!」
武藤「このまま行くのか逆転はあるのか楽しくなって来ましたね」
天野「このまますんなりと終わる事はないでしょうね。多分」

佐伯「逆転はキャプテン達に頑張ってもらうしかないか」
中尾「そうですね。クリーンナップからだし期待しましょう」
佐伯「ああ」

7回裏 斉1−2無 主砲の一振りで無明実業が1点勝ち越しに成功!
宗介(前と同じで行くぞ!)

カキ―――ン!
嘉神主将「届かんか」

霞「嘉神君はセンターフライに倒れます!」
武藤「150キロのストレートを芯でとらえられるだけでも凄いですけどね」
天野「球威で押されて一伸びしませんでしたね」

宗介(問題はこいつだ)
名雲主将(さっきも150キロのブレイジングショットに合わせて来たからな。コースを確実について変化球とブレイジングショットを混ぜるしかない!)
宗介(抑えるには神業か―――ま、芯でとらえてもアウトになる事はあるし全力全開!)
高須(初球と決め球は捨てて狙うなら2球目、恐らく変化球を外して来る。それを狙い打つ!)

カキ―――ン!
霞「入った。アウトコースのスライダー、ボール球でしたが流してライトスタンドに叩き込みます!」
武藤「はあ〜上手いですね。風に押されないパワーもさることながらあのキレ味のスライダーをライトへ叩き込む上手さが凄いですよ。三冠王獲った天野さん見たいなバッティングでしたね!」
天野「そうですね。私が三冠王獲った時はあんな感じで打ってました。力は技で流して運び技には力で対抗と、しかしそれはプロで技術を磨いてからです。高校生でこれほど完成されているスラッガーも珍しいですね。個人的には高須君、名雲君、相良君のホームラン争いってのも見たかったですね!」

高須「ふう、ギリギリ入ったか」
嘉神主将「ふっ、さすがは4番、見事だったぜ!」
高須「ふーん、で今度は何を落ち込んでるんだ?」
嘉神主将「ふっ、俺のお株を奪う見事な変化球打ち、そして名雲のリードを読んだずば抜けた洞察力、感心させられるぜ!」
高須「1つ訂正があるんだがリードを読むと言うのとは違うあれはただの勘だ。あの時ストライクが来たら結果は三振で終わっただろうな」
嘉神主将「相変わらずよう分からん奴だな?」
高須「お互い様だ」
嘉神主将「ふっ、違いない!」

宗介「ったくーあんな簡単に運ばれたらテンションが落ちるぜー!」
名雲主将「落ち着け!」
宗介「おっ俺は落ち着いて……」

天野は言おうとしたが途中でやめた。自分でも冷静でないのは分かっていたからだ。
名雲主将「ま、高須(あいつ)には俺も借りができちまったな。だが忘れるなよ。まだ同点なんだ。そして野球はあくまでチームプレーだ。1対1の戦いじゃない!」
宗介「ふう、分かってるよ。試合はまだ同点、これ以上失点はするなってんだろう!」
名雲主将「そう言う事だ。次の佐々木もクリーンナップの一角、調子を落としたお前じゃ抑えられん!」
宗介「つまり本調子なら抑えられるんだな!」
名雲主将「そう言う事だ!」

ガキッ!
佐々木「ダメだ。芯でとらえるのは至難の業だ!?」

霞「真ん中高めのブレイジングショットを打ち上げショートフライに倒れます!」
武藤「今、とんでもなくノビましたね!?」
天野「ええ、名雲君が何か言ったんでしょう。昔の宗介(あいつ)とは思えない変わり様ですよ!」
霞「そう言えば1年の頃の天野君は打たれるとすぐに降板してましたね」
天野「ええ、昔は打たれる相手が同じチームに居ましたからね。免疫がなかったんですよ。今の宗介(あいつ)は心技体のバランスが備わっていますね。ちょっと寂しくもありますが」
武藤「へえ」

スト―――ン!
中尾「どうやってこんなボールを打てってんだ!?」

霞「最後は落差あるフォークで空振りの三振、しかしまたもや主砲の一振りで斉天大附属が同点に追いつきました!」
武藤「取ってもすぐに取り返すと本当に互角ですね!」
天野「準決勝ですが、因縁の対決と言われるのが相応しい試合となりましたね」

宗介「もう1点頼むわ」
名雲主将「それは俺より風祭と直人に言ってくれ」
宗介「そうだったな」

8回表 斉2−2無 負けずと主砲の一振りで斉天大附属が同点に追いつく
佐伯「本当、キャプテン達には助けられてばっかりだな」
中尾「それがチームって物です!」
佐伯「ふっ、まったくだ。恩に報いる為にも絶対勝つぞ!」
中尾「はい!」

ガキッ!
谷沢「全然スタミナが落ちんな」

霞「144キロのストレートを打ち上げ1アウトです!」
武藤「さすがは春の日本一ピッチャーですね。昨年の夏とはスタミナも精神力も段違いです!」
天野「こうして来年、再来年も怪物が生まれて来るのかも知れませんね」
武藤「まったく、近年は怪物の出現率が凄い!?」

ズバ―――ン!
佐助「くっくっく!」
中尾「いえ、笑っても結果は三振ですから」
佐助「知ってる」
中尾「…………はあ(変な人だ)」

霞「佐藤君はインコースのストレートを見逃し三振!」
武藤「三振して笑ってるのは分かりませんが? やっぱりコースをつかれると打つのは難しいですね」
天野「ですね。145キロとストレートも走ってるし打つのはなかなかと次は風祭君か、彼ならコースつかれても打ちそうですが」
武藤「彼は、ね」

風祭「今日は当たってるし次もとらえる!」
佐伯(あまく入ったらスタンドまで運ばれかねないからな。どう攻めるか、つうかそっちは中尾の仕事だな)
中尾(分かってはいるんですけど、どう攻めたらいいのか? ボールを振らすのも難しいしコースギリギリを狙うしかないか!)
佐伯(シンカー、フォーク、クリティカルシュートの三球勝負か)
中尾(下手の考え休むに似たりと言う訳で思いっきり行きましょう!)
佐伯(キャッチャーがそれでいいか疑問が残るがそうするか!)
中尾(うっす)

ガキッ!
風祭「しまった!?」

霞「初球から振りますが結果はサードゴロと期待外れの風祭君でした!」
武藤「まあ、確かに珍しい凡退でしたね」
天野「10割打てるバッターなんていませんからね。風祭君もミスくらいはしますよ」

佐伯「本当に下手の考え休むに似たりだったな。あっちの方がミスして終わった」
中尾「ええ、とりあえず後1回、延長戦もありますから」
佐伯「延長になると面倒だな」
中尾「うーん、向こうもうちも控えピッチャーは同じレベルって感じですし大丈夫なんじゃないですか」
佐伯「そっか、いや、そうだな」

8回裏 斉2−2無 現在同点中
宗介(シュッ!)

ククッ!
渡辺「嫌なとこばっかり!?」

霞「渡辺君はスライダーを空振り三振!」
武藤「凄えコントロール、あんな低めギリギリじゃ手が出ないよ!?」
天野「9回までは持ちそうですね。延長になるとスタミナがどこまで持つか分かりませんが」

スト―――ン!
名倉「しまった!?」

霞「続く名倉君はフォークを空振り三振!」
武藤「追い込まれるとあのフォークは振ってしまいますね」
天野「ええ、しかし前の回より少し落差がないような」
武藤「へ? うーん、私にはちょっと分かりませんね」

ガキッ!
佐伯「やっぱダメか」

霞「佐伯君はカーブを打ち上げてキャッチャーフライ!」
武藤「やっぱり変化球は健在だと思いますが」
天野「そうですね。私の見間違いか考えすぎなのかも知れません」

宗介「三者三振とは行かなかったがあっさりと三者凡退だぜ!」
名雲主将「次は嘉神に回る。あんまり浮かれるなよ!」
宗介「それじゃ追加点頼むわ。入るとやる気が上がるし」
名雲主将「お前にも回るだろうがまずは自分で何とかしろ!」
宗介「できるならとっくにしてる!」
名雲主将「正論だが非常に納得がいかんのは何故だろう」

9回表 斉2−2無 いよいよ試合は9回、しかし同点とまだまだ試合は終わらないか?
霞「いよいよ試合も9回には入りました。しかし同点とまだまだ試合の行方は分かりません」
武藤「事実上の決勝戦、因縁の対決と言われるだけあって接戦が続きますね」
天野「このまま行けば持久戦、層の厚い方が有利ですね」
霞「しかし戦力に差はないって感じですね」
武藤「ベンチ入りしてる選手達もそう変わらないって言われてますしね」
天野「そう言えばここまで球数は?」
霞「ここまで佐伯君は108球、打たれたヒットは4本、2失点、10奪三振、天野君は105球、打たれたヒットは3本、1四球、2失点13奪三振と言うピッチングです!」
武藤「実質互角みたいな物ですが天野君の方が少し上って印象ですね」
天野「歳の差からしてそんな物でしょう。想像より球数は少ないですね」

佐伯「天野か、巧打者が多いな」

ズバ―――ン!
直人「9回でこれかよ!?」

霞「最後は145キロのストレートで空振り三振!」
武藤「9回でこれか、確かに延長の可能性もあるか」
天野「佐伯君も調子が良いですね」

佐伯「天野さんも抑える!」

ガキッ!
霞「これは大きく上がってライトフライ!」
武藤「1球でアウトか、本当に天野君兄弟とは相性が良いですね」
天野「しかし問題は次ですね」

宗介「ふっ、後は頼むぜ!」
名雲主将「………………」
宗介「ふっ、見事なまでにスルーか」

佐伯(歩かすのも一つの手か)
中尾(歩かすんですか!?)
佐伯(あくまで提案の一つだよ)
中尾(2アウトランナーなしですからそれも一つの手ですね。しかし勝負しましょう!)
佐伯(そうだな。逃げて勝っても得る物などないだろうし!)

ククッ!

1−0 ボール球のクリティカルシュートを空振り1ストライク!
名雲主将(この場面で今日最高の球か―――良い投手だ!)
佐伯(まずは一つ!)
中尾(次はストレートとそれはダメだな。今日最高のストレートを運ばれたしやっぱり変化球で行きましょう!)
佐伯(フォークね)

スト―――ン!

1−1 地面に落ちたフォークを見逃し1ボール!
名雲主将(………………これで1−1か)
中尾(今のは外し過ぎです!)
佐伯(すまんすまん。ん? もう1回フォークね!)

ガキッ!

2−1 バックスタンドへのファールで2ストライク!
名雲主将(打ち損じたか)
中尾(今度はストライクゾーンに入り過ぎです。めっちゃ怖かった!?)
佐伯(すまんすまん。ん? 外さずに次で勝負か―――クリティカルシュートって見え透いてないか)
中尾(はい。結論から言うと名雲さんを抑えるには佐伯さんの最高のボールじゃないと無理です。コースは気にせず全力のクリティカルシュートでお願いします!)
佐伯(燃えるなーおっし、最高のクリティカルシュートを見せてやるぜ!)
名雲主将(見えた。ここだ―――!)

カキ―――ン!!!
佐伯「まさか!?」

霞「いったー! 打球はライトスタンドを越えて場外へ待望の1点が入りました!」
武藤「この場面で当たり前のように打ちますね!?」
天野「いや、そこでなく感心するところは今日最高のクリティカルシュートを完全にとらえた事ですよ!」

大岡監督「さすがは4番、良く打った!」
名雲主将「はい!(インコースに来たら打てなかっただろうな。アウトコースに来た為に打てた。ま、コースがどうこう言う変化でもなかったが、ふう)」

中尾「そんなー外に逃げてく最高のクリティカルシュートだったのに!?」
佐伯「それを打つバッターが居るんだよ。高校野球ではな。引きずってないで後続を抑えるぞ!」
中尾「は、はい(何であのボールを打たれたのに?)」
佐伯(来年になればお前にも分かるさ。俺も1年前はこんな感じだったんだな)

ズバ―――ン!
片瀬「届かんか!」

霞「次の片瀬君は三振に抑えます。しかし無明実業は待望の1点を得ました!」
武藤「こりゃさすがに決まったかな」
天野「まだ分かりませんよ」

9回裏 斉2−3無 いよいよ試合も終わりが見えてきた
大島監督「うーん、さすがにこの1点は重いな」
佐伯「大丈夫ですよ。キャプテン達が同点にしてくれますよ。なっ!」
中尾「え? あっ! は、はいっ!」
嘉神主将「ああ、俺の一振りで同点にしてやるぜ!」
高須「それじゃ俺はサヨナラか?」
嘉神主将「そう言う事だ!」
佐藤&鈴木「俺達は期待されてないのね」
嘉神主将「いや、俺としてもお前らが出てくれた方が嬉しいぞ。俺はサヨナラ男だからな!」
高須「そういやそうだったな」
嘉神主将「くっ、赤竜高校との接戦の中、苦手な斎藤から打ったのを忘れたのか!」
高須「ああ、繋ぐなんて消極的な事を考えてたバカに決めて来いと言ってやったっけ!」
嘉神主将「その節はお世話になりましたとバカやってる場合か!」
高須「お前が勝手にボケてたんだろうが! とにかくあいつらが出たら」
佐藤&鈴木「すみません。もう終わりました」
嘉神主将&高須「早っ!?」
大島監督「2人共初球打ちでショートゴロだ!」
嘉神主将「よりにもよって一番鉄壁なところかい!」
高須「延長も見据えてスタミナも減らすべきだったと思うんだが」
佐藤&鈴木「まったく持って申し訳ない!!」
嘉神主将「と審判さんが怖いのでバッターボックスに行きます!」
名雲主将「追い込まれてるのによくボケられるな?」
嘉神主将「俺に言われてもな(ま、俺から始めたんだが)」
名雲主将「決着( けり )をつけようぜ!」
嘉神主将「おう!」
宗介「嘉神、お前はジャマだ!」
嘉神主将「(ピキッ!)ずい分な挨拶だな!」

ズバ―――ン!
霞「惜しくも外れてフォアボール!」
武藤「あれ、急にストライクが入らなくなりましたね?」
天野「………………あのバカ」
武藤「へ?」
天野「いえ、こちらの事です」

嘉神主将「あのヤロウ、わざと歩かせやがったな。おい、こんな事許していいのかよ!」
名雲主将「よくはないな。しかし俺達、全員の総意だ!」
全員「………………………………」
嘉神主将「信じられねえ。一発勝負の甲子園で個人を優先するなんてこんなの我がままなガキの思考じゃないか何考えてんだ!?」
名雲主将「負けたらそうなるだろうな」
嘉神主将「おいおい、お前に取っても最後の夏だろう。いいのかよ!」
名雲主将「総意だと言ったろ。総意とは全員の意見や意思を指す言葉だ!」
嘉神主将「いや、それくらいは知ってるけど」
高須「分かったならとっとと1塁に行け!」
嘉神主将「はあ、分かったよ。もうやっちまってるしそもそも敵の俺が言う事じゃないしな。けど納得いかねえ!」
名雲主将「と言う訳で受け取ったか」
高須「ああ、宗介(あいつ)からの挑戦状は受け取った。しかしここまでこだわる物なのか?」
宗介「ラストバトルだ!」
名雲主将「宗介(あいつ)に取って高須(おまえ)との勝負は特別なんだろう!」
高須「春には俺があいつの後を追っていたのに夏は逆か」
名雲主将「勝者の立場が変わればそんなもんだろう。ま、とにかく決着( けり )をつけようぜ!」
高須「………………」
名雲主将(入っちまったな。後は天野の力を信じるだけか、どっちの力が上か、ただそれだけを比べる。1対1ならそうなんだけどな。これは野球だからな!)
宗介「行くぞ!」

ズバ―――ン!!!

1−0 ピクリともせず見逃し1ストライク!
高須(やはり初球は速いな。狙うなら初球と追い込まれるまでのボール!)
宗介(否、勝負だ。カーブで行く!)

ククッ!!!

2−0 変化球を狙うが空振り2ストライク!
高須(想像以上にキレる。なるほど、名雲の言う通りこれは特別な勝負だ!)
宗介(最後はブレイジングショット、狙うは低め外だ!)

グイ―――ン!!!

アウトコース低めストライクゾーンギリギリMAX150キロのブレイジングショットが来る!
高須(想像よりずっと速い。しかし届く、流すなこのまま巻き込め!)

カキ―――ン!!!
宗介(そんなバカな完全にとらえられるなんて!?)
名雲主将(恐るべき2体の怪物、目論見通りコース、変化、速度を出した天野も怪物なら最後の最後でそれを台無しにした高須も怪物だ!?)

霞「は? すみません。放送を忘れて見入ってしまいました。結果を言うとMAX150キロのブレイジングショットを完全にとらえて打球はレフト場外へ消えました!?」
武藤「弾丸ライナーでしたね。しかし最後の打席、スイングが見えませんでした!?」
天野「結果は想像通りでしたが、最後の高須君のバッティングは圧巻の一言しかないですね。彼がプロになっても今日ほどの境地には達さないかも知れません。それほどのバッティングでしたよ!」
霞「私も解説も珍しく興奮してるようです。それほどまでの名勝負でした。しかし勝者は1校、4対3で斉天大附属高校が勝利しました!」
武藤「明日は決勝戦か、今日を上回る対戦になるのかな」
天野「それは分かりませんが、同じ県同士の勝負、面白い試合にはなると思いますよ!」

観客席
真田「凄かったね。最後の打席!?」
朝山「まったく」
吉田「あれと明日、戦うのか」
斎藤「風祭とは会えずか」
吉田「って気にしてないのか?」
斎藤「あ、ああ、最後の凄かったな!」
真田「ひそひそ(ダメだね。全然聞こえてないよ)」
吉田「ああ」
滝沢「ま、風祭とは春か夏に会えるだろう。今は斉天の事を考えた方が良いと思うぞ!」
斎藤「あ、ああ(そうだな。まだ2回チャンスはある)」
滝沢「それで勝算はあるのか?」
斎藤「やってみないと何とも、けど決勝で何度も対戦したしやり難くはないな」
滝沢「佐伯の攻略もあるがクリーンナップ、特に4番の高須さんは抑えられるのか?」
斎藤「どうだろう。あの人とは相性が悪いし嘉神さんも追い込むと意外に強いし無失点で抑えるのは難しいと思う!」
滝沢「なら明日も今日みたいな試合になるかな。勝てばお前は天野さん以上と証明できる訳だ!」
斎藤「そう言う考え方もできるか―――そうだな。明日は勝つ!」
真田&吉田「おう!!」
斎藤「って居たのかよ!?」
真田&吉田「その言葉は酷いよ。気付いてないって分かってても傷つくわ!?」
斎藤「すまん」

真島主将「お前達のところはお笑いキャラが多いな」
相良主将「お笑いキャラって否定できないのが悲しい」
玖珂「しかし帰って練習かと思ったのに見学とは余裕だな」
真島主将「余裕も何も俺はもう引退だからな。やる事と言えばプロ入りに備えて練習と、ふっ、確かに余裕だな」
嵯峨「なんだ。この余裕顔は?」
山中「知らんし」

後藤「そっちは後1つ勝てば全国制覇か」
福西「まったくここまで来れるなんてな」
大沢「斉天って同じ県だろう。勝算とかあるのか?」
相川「どうだろう。地方大会じゃ1点差で負けたし土壇場で引っくり返すから名門だって監督は言ってたけど」
大沢「凄く納得できるセリフだな。とにかく明日も頑張れよ!」
後藤「そうそう。俺達より強い高校なんて1校で十分だ!」
相川「うん!」福西「おう!」

中西監督「ふむふむ」
白銀監督「と言う訳です」
中西監督「なるほど、参考になった」
白銀監督「いえ、こちらこそ高校野球では伝説の監督の中西さんと話せて良かったです」
中西監督「伝説って俺はいまだに自分の高校を日本一にした事のない監督なんだぞ。北海道で甲子園初優勝させたお前の方がよっぽと伝説の監督だろう!」
白銀監督「いえいえ」

斉天大附属高校
大島監督「ふっははは、高校野球界では伝説の監督と知れてる俺が率いるチームだ。やはり無明より上だったな!」
全員(監督(あんた)、何もしてないじゃん!)
大島監督「明日は決勝、赤竜高校が相手と言うのも悪くない。中西さんと俺、どっちが上か決着をつける時が来たようだ」
嘉神主将「知名度は互角かな。野球の腕はあっちが圧倒的に上になるのかな」
大島監督「そうなんだよな。俺が小さい頃からあの人は凄い知名度だったんだよな」
高須「戦う前から負けてますね」
嘉神主将「そんな事だからプロ入りもできなかったんですよ!」
大島監督「(グサッ!)おのれー、人がこの世でもっとも気にしてる事を!」
高須「前から聞こうと思ってたんですが高校の時に指名されたんでしょう。何で入らなかったんですか?」
大島監督「それを聞くのか!」
高須「いえ。無理には聞きませんが」
大島監督「ふっ、まあ良かろう。高校時代、俺は自慢であるが全国でも名の通ったスラッガーだった!」
中尾「普通、そこは自慢じゃないって言うんじゃ」
大島監督「契約金をつり上げる為に指名を蹴って大学に進学した!」
中尾「スルーですか」
佐藤「つうかいきなり下世話な話になったような」
大島監督「うっさい! プロ野球選手ってのは職業だ。その為に金を稼いで何が悪い!」
佐藤「それは契約金とは違うと思うんですが?」
大島監督「うっさい! ま、それで大学に進学した訳なんだが自分やスカウトが考えたより成長しなかったんだ!」
鈴木「ようするに高校時代で伸びしろが尽きたんですね」
大島監督「そうハッキリ言われると傷つくな。とりあえず俺からのアドバイスとして『捕らぬ狸の皮算用』には気をつけろ!」
全員「は〜い」
嘉神主将「気をつけるのは俺達より名雲かな」
高須「あいつが欲しいのは利益ではないから違うだろう。あいつはあくまで挑戦者なだけだ!」
嘉神主将「海を越えて挑戦か―――はっ! まさか今から高校退学してアメリカ行くとか?」
高須「それはさすがに考えすぎだろう………………完全に否定はできないけど」
嘉神主将「海を越えてか………………(俺もいつか)」

無明実業高校
大岡監督「残念ながら今回は決勝に行かずに敗退しちまったな」
名雲主将「まあ、相手の方が強かったんだから仕方ありません」
大岡監督「お前はあっさりしてるな。それでそっちは?」
宗介「……別に」
大岡監督「気にしてるならとことん気にしろ。落ち込むならとことん落ち込め。お前の我がままで負けちまったかも知れないんだからな!」
宗介「文句があるなら文句を言えばいいです。殴りたいなら俺を殴ればいいです」
直人「……兄貴」
大岡監督「はあ、暴力事件起こしたら出場停止だろうが」
宗介「けど、みんなにはその権利があります」
全員「………………………………」
大岡監督「はあ、殴りたい奴はいるか、いれば挙手しろ!」
全員「………………………………」
大岡監督「はい。1人も居ないと満足したか」
宗介「どうすればいいんですか?」
大岡監督「質問に質問で返すが何でお前はみんなの事より自分を優先したんだ!」
宗介「それは………………ただ、高須(あいつ)に勝ちたかった。ただ、それだけです!」
大岡監督「分かりやすい解答をありがとう。じゃ何で嘉神をわざと歩かした時にみんながお前を止めようとしなかったんだ!」
宗介「それは………………俺の気持ちを分かってくれたからです」
大岡監督「良い答えだ!」
名雲主将「あれは俺達、全員の総意だ。負けた責任があると言うならスタメン、ベンチ、監督、全員にあるって事だ! と言っても学校に戻れば非難を浴びるのは間違いなしだろうな。分かってくれる奴が皆無とも言い切れんが」
宗介「そっか、俺に最後まで付き合ってくれてありがとうな。お前ら!」
3年生「お互い様だ!」
宗介「はっははは、まったくだ!」
大岡監督「ま、最高のチームとしたら目先の敗北を恐れて力を出し切らない訳には行かないって訳だな!」
名雲主将「勝負を楽しむ俺は同意しますが『勝たせる事』だけを考えてる人達は大人しく聞くと思えませんが」
大岡監督「そこは問題監督の俺がやるさ!」
全員(やっぱりそう言う評価なんだ)
風祭「ふう、どうなるかと思ったが雨降って地固まったか」
直人「我がままな兄貴だからね。こうなる気はしてたんだよ」
風祭「へえ、そいつは意外でもないか」
直人「勝負事だと、すぐに熱くなるんだよ。親父もギャンブルには手を出すなと呆れ顔で言ってた!」
風祭「ふーん(俺も人の事は言えないし注意しようっと)」

と言う訳で斎藤と風祭の会合はまたお預けとなった。しかし決勝は赤竜高校VS斉天大附属、またしても因縁の対決、因縁の決勝戦となった。果たして斎藤の行方は?