第39章 春の終わり(5)〜会合する刻〜

−1996年 3月−
いよいよ春の甲子園も決勝戦と終わりに入った。残念ながら先発は柚だが兄妹対決として夏に負けない盛り上がりを見せている。
中西監督「今日は決勝戦だ。言うまでもないがここまで来たら勝つしかない!」
真田「まあね」
吉田「決勝でもこいつはいつも通りだな」
中西監督「何気に春の決勝進出は初めてだからな。ここで勝てばお前達の名が学校の歴史に残るぞ!」
真田「やる気アップと言う事で今日は走って走って走りまくるぞ!」
吉田「それであっちの先発はエースの大沼ですかね。あいつとは1年の練習試合以来の対決となるか」
中西監督「大沼は昨日投げてるから先発は小椋だろうな」
相川「御堂君、沢田君、後藤君に負けないピッチャーですね」
中西監督「ああ、140キロにコントロールが良いとバランスの整った投手だな。狙い目があるとすれば決め球がないって事くらいか」
篠原「一芸に秀でてはいないが整ってると簡単に崩せそうもない印象がありますね」
中西監督「篠原の言う通りそんな感じだな。こっちは風祭で行く。同じ学年だ。負けるなよ!」
柚(コクッ!)

風祭主将「あっちは柚が先発か」
直人「あれが風祭の妹か、兄に似て生意気そうだが可愛いな」
風祭主将「第一声がそれかよ!?」
直人「ま、冗談は置いといてやっぱり妹相手だと打ちにくいかな?」
風祭主将「試合じゃ親だろうが妹だろうが打つだけだ!」
直人「またまた」
大岡監督「いや、こいつは妹の入部テストで初球をホームランにした男だ!」
直人「あんたは鬼ですか? さすがに俺は妹相手にそこまでできんぞ」
風祭主将「手加減したところで何になる。あいつはこの厳しい世界で頑張ろうとしてるんだぞ。思いっきり打った方があいつの為になるだろう!」
直人「まあ、そう言う考え方もあるか」
大岡監督「ちなみに女性だから打てませんでしたと言う言い訳はなしだからな」
直人「うっす」
坂本「それよりも今日は小椋が先発なんですね?」
小椋「まるで俺がダメみたいな言い方はやめて欲しいんだが?」
坂本「ダメとは言ってない。ただ経験値の少ないお前で良いのかなと思ってるだけだ」
大岡監督「実力的にはどっちも大して変わらんからな。だから疲労の少ない小椋にした。それだけの話だ」
小椋「喜ぶべきか悲しむべきか?」
坂本「喜べば良いんじゃないか、だって勝てば甲子園優勝投手としてスカウトにアピールできるぞ」
小椋「ま、スカウトはともかく優勝は嬉しいけどな」
坂本「そんな意識じゃドラフトには…………でもないか、投手は指名される確率が高いからな」
小椋「まあな」

−甲子園大会決勝戦 阪神甲子園球場−
2年 真田 和希
後攻 先攻
赤竜高校 無明実業高校
投手力 機動力 投手力 機動力
打撃力 守備力 VS 打撃力 守備力
意外性 経験値 意外性 経験値
総合力 総合力
佐藤 佐助 2年
1年 相川 正人 坂本 隆行 1年
2年 吉田 毅 天野 直人 2年
2年 斎藤 一 風祭 大吾 2年
1年 篠原 直道 戸田 正樹 2年
1年 福西 克明 藤井 孝一 2年
1年 山口 昇平 八木 芳一 2年
1年 根本 昌弘 鈴木 忠 2年
1年 風祭 柚 小椋 真司 1年

放送席
霞「いよいよ春の甲子園も終わりに入りました。ここでの注目は先発はエースではなく控えのピッチャーってところですかね?」
武藤「そうですね。斎藤君は昨日の疲れから風祭さんになったんでしょうね。小椋君はエースの大沼君に負けないピッチャーだから昨日投げてる大沼君を温存しての登板ってところですかね」
霞「そうそう。斎藤君には残念ですが風祭さんがややこしいので柚さんにしましょう。柚さんが先発でファンから兄妹対決と騒がれております!」
武藤「いや、まんまだし?」
霞「そんな些細な事はどうでも良いんです。とにかく両校が甲子園で対決するのは…………とにかく何十年か振りになるのです!」
武藤(調べ忘れたな?)
霞「対決したのは福井さんと天野さんの時代でドラフトができた年でもありました。当時の赤竜高校は残念ながら敗退しましたが時代は進んでリベンジとなるでしょうか?」
武藤「当然ですがメンバーが全然違いますからね。それに大岡さんは監督じゃなかったし」
霞「さっきも言いましたがそんな些細な事はどうでも良いんです。解説の草薙さんもコメントをお願いします」
草薙「そうですね。質量共に無明実業が上ですね。先発の斎藤君が回避したところからも赤竜高校が不利な印象ですね」
霞「分かりやすいコメントをありがとうございます。しかし勝敗が決まった訳じゃありません。泣いても笑ってもこれが最後となりますので最後までお楽しみ下さい。以上決勝戦の始まりです!」
武藤(決勝だけあって必死で盛り上がらせようとするな)

1回表 赤0−0無 いよいよ斎藤と風祭との対決が始まった。しかし先発は柚と兄妹対決はどうなるか?
佐助「くっくっく」
吉田(不気味だ)
柚(シュッ!)

ズバ―――ン!
霞「134キロのストレートを空振り三振で1アウトです!」
武藤「休んだだけあって球が走ってますね」
草薙「まだ1人だけどな」

坂本「どうでしたか?」
佐助「ふふふ」
坂本「ふふふじゃなくてどんなボールでしたか?」
佐助「手元でノビるストレートだ。変化球は1球もなかった。コントロールは一応及第点かな?」
坂本「なるほど、ストレートだけなら積極的に振って見るかな」

柚(シュッ!)

ガキッ!
坂本「確かに手元でノビてるな」

霞「ストレートを打ちますがファースト正面のライナーで2アウトです!」
武藤「1打席から芯に当ててますね。さすがに夏からスタメン入りしただけはあるな」
草薙「バットコントロールは上手そうですね」

直人「それで?」
坂本「ストレートは手元でかなりノビますね。それと球威がないのでちょっと当てただけで長打になりそうなので注意して下さい」
直人「なるほど、強打者とは相性が悪そうだな」

柚(シュッ!)

カキ―――ン! パシッ!
直人「あのライト、バッティングだけでなく守備も良いな」

霞「良い当たりですがライトの守備範囲で3アウトチェンジです!」
武藤「結果は三者凡退ですが、良い当たりが多かったですね。調子が悪いのかな?」
草薙「球速は出てるし調子が悪いってよりは相手が上手いって印象だな」
武藤「なるほど」
霞「とにかく1回は三者凡退で兄妹対決は2回となりました。今後も期待して見ましょう!」

柚(バカ兄貴とは次回で対決か!)
風祭主将(成長したな。それだけに楽しみだ!)

1回裏 赤0−0無 柚は1回を三者凡退と立ち上がりは順調!
小椋(シュッ!)

ガキッ!
真田「外へ逃げるスライダーか、結構打ちにくいな」

霞「スライダーを打ち上げて1アウトです!」
武藤「球種も多いしなかなかやっかいそうですね」
草薙「コントロールも良いしな」

真田は凡退したが続く相川はフォアボールで出塁する。
吉田「だあっ!」

カキ―――ン!
小椋「やばっ!?」

霞「左中間を真っ二つ! 相川君はホームへ返って1点を先制します!」
武藤「昨日は1点が遠かったのに今日はまたあっさりと入りましたね」
草薙「まったくだ」

小椋(今日の俺の球悪いですか?)
藤井(いや、どちらかと言えば良い方だ。打った相手が全国区だって話だ。恐れず来い!)
小椋(はい!)
斎藤主将(決められるうちに決めるか!)

カキ―――ン!
小椋「…………嘘だろう?」

霞「入った。一気に3点差となりました!」
武藤「完全な失投ですね。見逃さず打った斎藤君はさすがですが、打たれた小椋君は痛いですね」
草薙「当たり前だがキャッチャーの藤井君が必死に落ち着かせようとしてるな」

藤井「落ち着け!」
小椋「落ち着いてるつもりなんですがやっぱり調子が悪いのかな?」
藤井「失投を打たれて調子も悪いもあるかよ。もっと落ち着いて投げろ」
小椋「そうですね…………ふう、大丈夫です!」
藤井「頼むぞ!」
小椋「はい!」

ズバ―――ン!
篠原「良いコースに投げて来るな」

霞「最後はアウトローに140キロのストレートで決めます!」
武藤「インにアウトと綺麗に決めるな。調子が悪いと思ったらコース付くピッチングするし?」
草薙「ランナーが返って落ち着いたのかもな」
武藤「確かにそう言う事もありますね」

小椋(良し! 精度も良くなって来たし投げるぞ!)

カキ―――ン! パシッ!
福西「そうだった。ショートはプロ顔負けのあの人だった!?」

霞「ショートライナーに倒れて福西君もアウトで3アウトチェンジ!」
武藤「無明実業って昔から打撃だけでなく守備も良いですからね。得点するにはそれしか外野の頭を越えるしかないですよ!」
草薙「日本でも5指に入る名門校だからな。設備も環境もプロ並みだろうな」
霞「しかしいきなり3点と赤竜高校も負けていませんね」
武藤「そうですね。近年は凄まじくレベルが高いですからね。けど斎藤君が引退すると一気に落ちそうですね」
草薙「ま、その頃には良いピッチャーが入るか成長するかするんじゃないのか?」
霞「ま、高校野球は3年も経てばメンバーが代わりますからね。これも時の流れと受け入れるだけですよ」
武藤「達観したセリフだな」

吉田「一気に行くと思ったけど、流れを止めやがったな」
斎藤主将「ヒットなら2人で終わる事もなかったかもな」
真田「ま、貴重な3点が入ったしこのまま抑えて行けば良いよ」
斎藤主将「そうだな」

2回表 赤3−0無 ヒット2本で3点と流れは赤竜高校にあるか、だが試合はまだ始まったばかりだ
霞「高校球史では史上初めてとなる兄妹対決となりました!」
武藤「兄と弟の兄弟対決はありましたが、兄と妹はさすがに初めてですね」
草薙「プロじゃ始球式の兄妹対決は観たがな」
武藤「そんな事もありましたね。もう覚えてないですけど」

柚(とにかく慎重にボールから入る!)
風祭主将(さてと、どう言うふうに成長したのか)

カキ―――ン!
吉田「おいおい。このコースなら普通ヒットだろうが!?」

霞「入った―――兄の一振りで1点を返します!」
武藤「低めのナックルだったんですがね」
草薙「彼女の欠点は球威のなさだからな。あそこまで完成した打者ならスタンドに運ばれるんだろう。しかし厳しいコースを簡単に打つところは既にプロレベルと言われるだけはあるな!」

風祭主将(成長したな。変化球も悪くはないし良いコースを付いて来る。これなら大学、社会人と行けばプロ入りも期待できそうだ!)
柚「また打たれた」

ガキッ!
戸田「あんなところまで飛ぶとは噂通り球威はないんだな」

霞「風祭君に打たれた物の続く戸田君はライトフライに倒れて1アウトです!」
武藤「うーん、気落ちはしてないようですね」
草薙「球速も変化も悪くないな。一発打たれたくらいじゃ沈まないか」

柚(シュッ!)

ズバ―――ン!
藤井「手元で結構と言うかかなりノビてるな」

霞「藤井君は133キロのストレートを空振り三振で2アウト!」
武藤「結構通用してますね?」
草薙「まだ1打席だけどな」

柚(シュッ!)

ククッ!
八木(変わった変化だが、特に変化が大きい訳じゃないし打てなくもないな)

霞「八木君も見逃し三振とホームランを打たれた物の後続は抑えます!」
武藤「そう言えば兄妹対決は兄の勝ちだったんですよね」
草薙「最低でも後2打席はあるがな」

鈴木「やっぱり打ちにくいか?」
八木「それもあるが2アウトでランナーがいなかったから見るだけにしといた」
鈴木「ふーん」

2回裏 赤3−1無 兄妹対決は兄の勝利に終わったが試合はまだ始まったばかりだ
小椋(シュッ!)

ガキッ!
山口「速い球にも慣れて来たと思ったのに!?」

霞「140キロのストレートに当てましたが打ち上げてライトフライに倒れます!」
武藤「この小椋君も140キロと凄いですね」
草薙「ま、小椋のガキだからな。性格はかなり違うが」

小椋(シュッ!)

ククッ!
根本「変化球のレベルも高い俺達の同期ってこんなのばっかり!?」

霞「アウトコースのスライダーを空振り三振し2アウトです!」
武藤「父親の方はカーブが良かったんですけどね」
草薙「ああ。バッターが悪魔かあいつはかと言う事でデモンボールとか言って投げてやがったな」
武藤「ネーミングセンスはともかく通算勝利2位だし偉大な父親と同じ投手なんですよね」
草薙「無明実業で1年からベンチ入りしてるんだからやっぱり才能はあるんだろうな」
霞「父親の高校時代と比べてはどうなんでしょうか?」
草薙「どうと言われてもな。あの頃はスピードガンもなければ変化球もこんな多種類あった訳じゃないし現時点の小椋君の方が上じゃないかな」
武藤「まあ、設備環境共に現代の方が整ってますし当然と言えば当然ですね」
霞「うーん、夢がないですねっと?」

柚(速いけど打てる!)

カキ―――ン!
小椋「うおっ!?」

霞「いつの間にか追い込まれてた風祭さんがヒットを打ちます!」
武藤「そう言えば甲子園で初ヒットも打ってましたね。ピッチャーのせいかあんまり気にしなかったけど」
草薙「初勝利の事しか頭になかったからな。本人も知らなかったりしてな」
武藤「……それはさすがにないと思いますけど」

柚(タッ!)
小椋「なっ!?」
真田(ここは援護の空振りだね!)

ブ―――ン!
藤井「くっ!?(シュッ!)」

霞「風祭さんの足が一歩速くセーフです!」
武藤「初球から盗塁なんで完全に虚を突かれましたねと言うか藤井君って左投げのキャッチャーって珍しいですね」
草薙「まあな。何処か忘れたが左投のサードもいたし別に不思議じゃないだろう」
武藤「一般的に観れば十分不思議ですけどね。左打者相手だったから上手く投げれたけど、右だと投げにくそうだな」
草薙「それにサードはもっと投げにくいだろうな。それでもキャッチャーと言う事はリードか肩かキャッチングかとにかく向いてる何かがあるんだろう」
霞「現代じゃ左投げの内野は考えにくいんですが昔はもっといたんでしょうか?」
草薙「どうですかね。私のいた時代じゃ左投げは外野でもあまり見なかったし左打者もあんまり見ませんでしたね」
武藤「それって左投手って無茶苦茶不利だったんじゃ?」
草薙「いや、どちらかと言えば左投手が右打者を抑えて行く構図が多かったな。みんな右ばっかりと対決してるせいかタイミングが合わなかったな」

真田「ふっ!」

カキ―――ン!
風祭主将(パシッ! シュッ!)
真田「ヒット性の当たりをギリギリ捕るならまだ分かるけど、たやすく捕るってどんだけ守備が上手いんだよ!?」

霞「三遊間を抜けるかと思いましたが風祭君が捕って3アウトチェンジです!」
武藤「凄い守備ですね。ショートとしては文句なしですね」
草薙「カープの雨宮も守備が上手いが素質では風祭君の方が上ですね」

真田「柚ちゃんの前でこんな事言うのもなんだけど、あのショート無茶苦茶むかつく!」
柚「別に構わない」
相川「………………」

直人「愛されてるね」
風祭主将「やかましい!」
小椋「それはともかく危ないところをどうもです」
風祭主将「いや、それよりもずい分当てられてるけど調子が悪いのか?」
小椋「そんな事はないと思うんですが?」
直人「同じ左で昨日は石崎と対戦してるから140キロなんて止まって見えるのかもね?」
風祭主将「そうかも知れんな。まあ大沼は昨日のあれで調子がいまいちだから使えないんだが」
小椋「打たれてますけど、死ぬ気で投げて頑張ります!」
直人「うむ。それでこそ未来のエースだ。150キロのストレートで抑えて来なさい!」
小椋「140キロのストレートで抑えて行きます!」
風祭主将「………………」

3回表 赤3−1無 この回もヒットを打つが残念ながら無得点に終わる
柚(シュッ!)

ガキッ!
鈴木(あいつの言った通り結構打ちにくいな)

霞「鈴木君はエアナックルを打ち上げて1アウトです!」
武藤「結構変化すると1日休んだせいか調子が良いですね」
草薙「しかし球種が少ないのは心許(こころもと)ないな」

柚(シュッ!)

ズバ―――ン!
小椋「全然当たらない」

霞「小椋君は135キロのストレートを空振り三振!」
武藤「父親はバッティングも良かったんですが小椋君は苦手みたいですね」
草薙「あいつは高校時代も3番を打つほどだったがな」

柚(シュッ!)

カキ―――ン! パシッ!
佐助「………………」

霞「良い当たりでしたがライトへの高いフライで3アウトチェンジ!」
武藤「合わせただけの打球があそこまで行くとはやっぱり軽いですね」
草薙「さすがに2打席目となると当てては来るか」

坂本「やっぱり球威はなさそうだな」
佐助「変化球は独特だから注意はした方が良い」
坂本「なるほど」

3回裏 赤3−1無 柚は三者凡退とこの回も調子良く抑える!
相川「来た!」

カキ―――ン!
霞「得意のスライダーでしたが相川君が綺麗に打ちます!」
武藤「さすがに変化球打ちが得意ってだけはありますね」
草薙「コースも悪くなかったがな。とにかくレフト前に落ちてノーアウト1塁か」

小椋「それにしても良く打つな」
藤井(まったくだ。調子は悪くないのにここまで打たれるなんて思わなかった)
吉田「あまいっ!」

カキ―――ン!
風祭主将(タッ! パシッ! シュッ!)坂本(パシッ! シュッ!)
吉田「あれを捕るのかよ!?」

霞「やはり三遊間は抜けない! 風祭君が捕って6−4−3のダブルプレーで2アウトとなります!」
武藤「ゴロ系の当たりじゃまず抜けませんね。打球判断は抜群で強肩で捕球も完璧と本当に完全無欠ですね!?」
草薙「確かにな。歴代でも遊撃手の名手はいたが彼なら全ての選手を超える守備を見せるようになるかも知れん!」
霞「とにかくキャプテンらしくピンチになりそうだった流れを一気に変えます!」
武藤「こう言うのをスター性って言うんですかね。風祭君がプロ入りしてからの活躍が楽しみですよ!」

吉田「二遊間は鉄壁だな。打つなら外野だ!」
斎藤主将「見たいだな」
小椋(助かった。次はさっきホームランを打った斎藤さんか、俺より小さいのに凄いパワーだったな)

次の斎藤には警戒したかストライクが入らずフォアボールを出す!
斎藤主将(素質はあると思うけど、ちょっと精神的に脆そうなイメージがあるな)

霞「斎藤君にはストライクが入らずストレートのフォアボールで出塁します!」
武藤「2アウトランナーなしなんだから勝負に行けば良かったと思うんですがね」
草薙「確かに誉められた四死球ではないな」

小椋(入らなかったか)
藤井(落ち着け! 何度も言うが調子は良いんだ! 恐れず投げて来い!)
小椋(はい!)

小椋は精神的に脆いイメージがあるが切り替えが上手くもあった。父親へのコンプレックスも多少はあるが何年も言われて来た為に慣れ親しむと精神的に図太い一面も持っている。

ククッ!
篠原「崩れるかと思ったが立ち直ったか」

霞「最後はアウトコースのスライダーを見逃し三振!」
武藤「左打者じゃ外のスライダーは打ちにくそうだな」
草薙「まあな。やっぱり打った相川君が凄かったんだろう!」
霞「ちなみに篠原君も変化球には強いと言う話ですが?」
草薙「相性か、相川君の方がミートが上手いかってところかな」
霞「なるほど、しかしフォアボールを出した時には打たれる予感がしたんですが見事に抑えましたね」
武藤「それは同感ですね」
草薙「さっき武藤が言ったように小椋君も流れを変えるスター性って物があるんじゃないですかね」
武藤「あの小椋さんの息子だからな。有り得ないとも言い切れないか?」
草薙「まだ1年じゃなくもう2年か、とにかく将来性を考えたらさすがは息子ってとこだな。少なくとも素質は高そうだ」

藤井「そうそう。ああ言う堂々としたピッチングで行け! 逃げ腰で無明のエースとは言えないからな!」
小椋「はい!」
藤井「お前はまだまだ成長期だからな。ドンドン打たれて成長して行こう!」
小椋「うーん、打たれては嫌ですね。それに成長できる物ならとっとと成長したいんですけどね?」
藤井「こればっかりはな。ただ1年でベンチ入りしただけ俺よりは才能はあるよ」
小椋「まあ坂本いわくピッチャーは使い勝手が良いですからね。ポジションでベンチ入りしてる感じです」
藤井「と言っても他の投手陣を寄せ付けないだけ才能はあるんだろうな」

4回表 赤3−1無 ヒットや四死球が出るが流れを止めると無明実業は王者の強さを見せる!
坂本(反撃開始と行きますか!)

カキ―――ン!
霞「右中間を抜けて打った坂本君はセカンドでストップ!」
武藤「風祭君に似て良いバッティングをしますね」
草薙「守備でも良いコンビしてるがバッターとしても1、2番で並べて見ると面白そうだけどな」
霞「しかし残念ながら風祭君は秋から4番を打っています。そして4番としての打点も本数も素晴らしい成績を出しています!」
武藤「元々良い成績ですからね。けど甲子園でも観てますがチャンス時のバッティングは素晴らしいですね」
霞「とにかくノーアウト2塁でバッターは3番の天野君です」
草薙「セカンドだから併殺はなさそうですけど、さっきの赤竜高校みたいになりましたかね」

柚(巧打者が多いけど、全員右なのはまだやりやすいか)
直人(合わせるだけで飛距離が出やすいからそこのところを考えながら打てば良いかな)

カキ―――ン!
霞「今度はライト前ヒットですが坂本君は無理せず3塁で止まります!」
武藤「次は風祭君ですからね。無理しなくても良いか、敬遠もあるかな?」
草薙「2人返っても同点ですし風祭君だって10割打てる訳じゃないし勝負じゃないかな」

柚(…………本当に良く打つ)
風祭主将(あの2人はセンスが良いし柚にはちょっと荷が重かったかな)

カキ―――ン!
真田「とおっ!」

タッタッタ! パシッ!
直人「あれを捕るのかよ!?」

霞「センターの頭を抜けると思いましたが抜けずセンターの真田君が快足を見せてアウトにします! しかし坂本君はタッチアップして返り天野君も戻って1アウトランナー1塁となりました!」
武藤「相変わらず凄い足ですね!?」
草薙「しかし犠牲フライと最低限の仕事はできましたね」

柚(…………抑えられた。初めてバカ兄貴を抑えられた!)
風祭主将(残念ながら打てなかったか)

ズバ―――ン!
戸田「何っ!?」

霞「続く戸田君は自己最速135キロのストレートを見逃し三振!」
武藤「ここで自己最速とはやりますね」
草薙「さっきのアウトで調子が良くなったって感じですね。藤井君に対してのピッチングも注目ですよ!」

柚(シュッ!)

ククッ!
藤井「急に変化が良くなったな!?」

霞「最後はエアナックルを空振り三振し3アウトチェンジです!」
武藤「最後の変化球はかなり落ちましたね。3回投げただけで成長してるんでしょうか?」
草薙「元々実戦経験は少ないからな。少ない試合でも結構レベルアップするのかもな」

直人「俺も返れると思ったのにな?」
風祭主将「真田のファインプレーで流れが戻ったんだろう」
直人「まあヒット性の当たりだったから文句は言わないけどな」
風祭主将「そう言うふうに言われても結構堪えるけどな」

4回裏 赤3−2無 柚も調子を上げて行くが1点を返されて接戦となる!
小椋(下位打線だけど、油断せず行こう!)

ズバ―――ン!
福西「コントロールが良くなって来たな」

霞「最後はインコースのストレートを見逃しの三振!」
武藤「うーん、140キロでコース付かれると手が出ませんね」
草薙「調子がドンドン上がってるし尻上がりなタイプかな?」

小椋(このまま行く!)

ガキッ!
山口「タイミングが合わん!?」

霞「高めのストレートを打ち上げて2アウトです!」
武藤「思いっきり外れたボール球を振ってるし力み過ぎですね」
草薙「長打力はなかなかだったな」

小椋(これで終わりだ!)

ククッ!
根本「届かないか」

霞「最後はアウトコースのスライダーを空振り三振!」
武藤「外角スライダーは左打者に結構通用してるな」
草薙「あそこまで外れたボール球を振るのはどうかと思うがな」
武藤「確かに」
霞「とにかくこの回は見事なピッチングで三者凡退に抑えます!」

小椋「ようやく抑えられた気がするな」
藤井「まあ下位打線はお前の敵じゃないな」
小椋「だと良いんですけどね」
藤井「調子も上がってるしコースを付けばそうそう打たれないさ」
小椋「…………そうですね」

5回表 赤3−2無 三者凡退といよいよ小椋も実力を見せて来たか!
柚(シュッ!)

カキ―――ン!
八木「やっと打てたぜ!」

霞「低めのストレートをレフト前に打ってノーアウトでランナーが出ます!」
武藤「しかし結構難しいコースだったのに簡単に打ちますね」
草薙「他校なら3番を打ってもおかしくないのが7番を打っているからな。下位打線とは言え油断はできんな!」

吉田(攻守に長けたバッターだけど足はそれほどでもないからバッターに集中しよう!)
柚(コクッ!)
鈴木(個人的には送って行った方が良いと思うけど、監督はバント嫌いそれに小椋に佐藤とバッティングじゃあんまり頼りにならない奴らだし普通に打つか)

ガキッ!
霞「ファーストへのボテボテの当たりでセカンドは諦めてファーストへ投げて1アウトです!」
武藤「結果的には送りバントと変わらないか」
草薙「最低限の仕事はしたって感じですね」

鈴木「と言う事で後は頼むな」
小椋「バッティングは苦手なんですけどね」
鈴木「知ってるよ。とりあえずバットに当てろ。運が良ければヒットになるかも知れないだろう(ま、赤竜の内野は守備が上手いし可能性は低そうだけど)」
小椋「そうですね。なんとか当てて見ます!」

ガキッ!
霞「今度はピッチャーゴロで2アウトです。これで2アウトランナー2塁となりました!」
武藤「やっぱりバッティングはいまいちですね」
草薙「まあな。次は1番バッターか」

小椋「後を頼みます」
佐助「ふふふ……任せておけとは自信を持っても言えないがな」
小椋「………………」

ガキッ!
根本「届け!」

パシッ!
霞「ショートの頭を越えるかと思いましたが根本君が追い着いて3アウトチェンジです!」
武藤「今のは捕れなきゃ同点になってたでしょうから良いプレーですね」
草薙「うむ。赤竜高校の内野陣は良い守備を見せるな!」

柚「ふう、これじゃ9回まで持ちそうもない!」
吉田「それでも頑張ってもらわないとな!」
斎藤主将「飛ばせるだけ飛ばしてバテたら俺が投げるさ!」
吉田「大丈夫なのかよ?」
斎藤主将「連投で完投は難しいってだけだ。短いイニングなら万全に投げられる!」
柚「それなら最初からそう言え!」
斎藤主将「柚らしくないセリフだな。同い年の凄いピッチャーばかり観て自信がなくなったか?」
柚「そんな訳はない!」
斎藤主将「それじゃ同い年に負けないよう頑張らないとな!」
柚「言われるまでもない!」
吉田(柚も結構単純と言うよりは負けず嫌いなだけか、とにかくこれでもっと持ちそうだな)

佐助「抜けなかったか」
坂本「まあ決勝まで来るチームですから守備も上手いんでしょうね。小椋も気にせず抑えて行こうな!」
小椋「もちろんだ!」

5回裏 赤3−2無 柚はランナーを出すがホームへは返さずにこの回は無失点に抑える!
柚「届け!」

ガキッ!
戸田「ぬっ!?」

霞「ファースト前の当たりだがカバーに入る小椋君より一歩速くセーフです!」
武藤「なんか今日って先頭打者が良くヒットを打ちますね?」
霞「どれどれ……確かに良く打ってますね。打ってるのはミートの上手いバッターばかりって感じですね」
草薙「そう言えば風祭君も先頭打者でホームランを打ったな」
霞「はい。ちなみに坂本君が打った時も風祭君の犠牲フライで1点が入ってます!」
草薙「1〜3番が先頭打者の時は要注意って事か」
武藤「別に偶然でしょう?」
草薙「そう言う意味じゃなく今日の風祭君の前にランナーをためるのは危険って事だ!」
武藤「なるほど、まあいつも彼の前にランナーをためるのは危険ですからね」

小椋(もう少し俺の足が速ければな)
藤井(完全に打ち取った当たりだったんだ。気にする事はない!)
小椋(だから気にしてるんだけどな?)
藤井(とにかくあの妹君は足も速そうだから外して行くぞ!)
小椋(そうですね。真田さんも俊足だけど、前にランナーがいれば足は封じたも当然だから気にせず行くか!)
藤井(相変わらず豪胆なのか繊細なのか分からんな?)

ククッ!
真田「前にランナーがいるせいかあんまり嬉しくないな」

霞「最後も外れてフォアボールで出塁します!」
武藤「盗塁警戒してランナーがたまって行くな」
草薙「これでノーアウトランナー1、2塁か」

藤井(結局考え過ぎだったかとにかく送りバントの可能性もあるが真っ向勝負だ!)
小椋(はい!)

カキ―――ン!
坂本「ったく世話の焼ける奴だ!」

パシッ! シュッ!
相川「ダメか!?」

霞「一二塁間を抜けるかと思いましたが坂本君が捕ってダブルプレーに倒れます! しかし柚さんはサードに到達し2アウトランナー3塁となりました!」
武藤「風祭君は強肩ですね。しかしサードに投げても良かったと思いましたが?」
草薙「サードは無理と判断してファーストへ投げたんだろう。理由は分からんが?」

相川「すみません」
吉田「気にするな。しかしあの二遊間を抜けるのは難しいな」
相川「ええ。プロでもあそこまでのコンビはいないでしょうね」
吉田「オールスター並みっての言い過ぎかな。とにかくヒットで十分だけど長打を狙って見るか!」

カキ―――ン! パシッ!
小椋「助かった」

霞「センターの頭を越えるかと思いましたが天野君が捕って3アウトチェンジ!」
武藤「羨ましい。俺もこんなバックで投げて見たかった!」
霞「と武藤さんが言うくらい名手揃いの無明実業でした!」
草薙「それでもプロと比較すると落ちるだろうけど、高校レベルでは大した物ですね」
武藤「けど天野君はプロクラスだと思うんですけど?」
草薙「そうだな打球勘も抜群のようだしあれならプロでも即使えるだろうな」

小椋「本当に頼りになるな」
坂本「はあ、お前ももっと頑張れよ!」
小椋「頑張ってるけど打たれるんだよ!?」
風祭主将「あっちは1回戦から良いピッチャーとばかり当たって来てるからな。速い球やキレる変化球にも慣れてるんだろう」
坂本「それを言うならこっちも良いピッチャーと当たってますけどね」
風祭主将「まあな」
坂本「そう言えばなんでファーストに投げたんですか?」
風祭主将「あの体勢じゃサードよりファーストに投げた方が確実だからだ」
坂本(…………やっぱそれか!)

6回表 赤3−2無 打たれる物の小椋は守備に助けられこの回も無失点に抑える!
柚(こいつは抑える!)

カキ―――ン! パシッ!
坂本(さすがだな。セカンドの守備としては相川の方が俺より上か)

霞「二遊間は抜けず相川君が捕って1アウトです!」
武藤「坂本君も上手いですけど、相川君も上手いですね」
草薙「身体能力の坂本君と守備能力の相川君ってとこか、どっちが良いとは言えませんが彼らがプロ入りするとゴールデングラブ賞の争いとかになって面白そうですね」
霞「ちなみに坂本君はショートがメインって話ですが?」
草薙「そうなんですか、だけど風祭君との争いでも面白そうですけどね」
霞「そうですね。しかし過去より今の試合に集中しましょう!」

柚(次も抑える!)

カキ―――ン!
直人「うっそー?」

霞「バックスクリーンへ入った。天野君の一発で同点となりました!」
武藤「普通ならセンターフライですね。球威のなさが最悪な結果で出たか」
草薙「134キロで低めとコントロールも良かったんだがな」

直人「マグレでもホームランはホームランだ! 貴重な1点だぜ!」
風祭主将「貴重な1点は有り難いんだけどな。自分でマグレとか言うなよ」
直人「それよりも妹ちゃんだけどさ。致命的に球威がないな。合わせただけで入るってぶっちゃけ有り得ないだろう」
風祭主将「そうだな。それに交代のようだしな」
直人「へ?」

中西監督「………………」

霞「ここで中西監督が出ます。残念ながら交代のようですね」
武藤「会場中から凄いブーイングですね」
霞「ちなみにレフトの斎藤君がマウンドに向かってマウンドの柚さんがレフトへ走ります!」
武藤「おおっ一瞬にしてブーイングが歓声に変わった」
草薙「エース対4番か、なんか決勝戦って雰囲気になったな」

直人「ここで斎藤かよ?」
風祭主将「さすがは勝負師だな。悪くない交代だ」
直人「打てる自信あるのか?」
風祭主将「信じられないだろうがまったくと言ってない!」
直人「色々な意味で信じられないセリフだな?」
風祭主将「とにかく打席に立たないと分からないな」
斎藤主将「待ってたこの時をずっと待ってたぞ!」

天野のホームランが切欠となり斎藤と風祭の初めての対決となった!

ズバ―――ン!
風祭主将「速いが、それよりもノビがやっかいだな」
吉田(とんでもないスイングだぜ。いくら風祭でも1打席で斎藤から打てるとは思えないけど?)

霞「いきなり145キロを記録しました! 風祭君は空振りして1ストライク!」
武藤「コースはど真ん中でしたけど、あの速さにノビじゃなかなか打てそうもないですね」
草薙「ここからじゃ分かりにくいが風祭君のスイングスピードも凄かったな。捕手と球審は驚いただろうな」

斎藤主将「全力全開!」

ズバ―――ン!
風祭主将「ふう、これでも当たらないか」
吉田(かすった!? たった2球で対応して来るのか!?)

霞「続く2球目も144キロを計測し2ストライクと追い込まれました!」
武藤「目が慣れる前に終わらせたいでしょうから3球勝負でしょうね」
草薙「勝負球はやはりストレートか」

斎藤主将(こいつで終わりだ!)

ガキッ!
風祭主将「…………ピッチャーゴロか」
吉田(当てた。1打席で当てやがった!?)

霞「結果はピッチャーゴロで2アウトとなります!」
武藤「キャプテンになってから凄く成長した感じの斎藤君にいきなり合わせて来ましたね」
草薙「芯に当たればもっと飛ぶだろうしそれで合わせたもないだろう」
武藤「ですね」

斎藤主将「楽に抑えさせてくれそうはないな。ま、それでこそ戦いがいがあるんだけどな!」

ズバ―――ン!
戸田「打てそうで打てんな!?」

霞「143キロのストレートを空振り三振し3アウトチェンジです!」
武藤「さすがと言うべきか4、5番を6球で抑えましたね」
草薙「ここまでのストライク先行型も近年じゃ珍しいですね」
武藤「慣れる前に終わらすって感じのピッチングスタイルですからね」
草薙「異常と言うような速さやノビのピッチャーはそう言うタイプが多いがそう言うタイプはコントロールのない奴が多くもあるんだよな」
武藤「そう言えば小椋さんも四死球が少なかったんですか?」
草薙「四死球ってより球数がな。ま、リーグが違うし人伝で聞いた話だけどな」

柚「あのホームランは悔いが残る」
斎藤主将「と言っても低めを付いて打たれたわけだからな」
柚「あのバッターは低めを待ってたから高めに投げれば問題なかったと思う」
斎藤主将「結果論だな。勝負事に『たられば』はないって事だ!」
柚「分かってはいるけど、打ち取ったと思った当たりがホームランってのはきつい!」
斎藤主将「まあ、そうだろうな。タイムリーでは俺も経験があるからな。あれもきつかったな。けどサヨナラよりはマシさ!」
柚「昨日斎藤が打った」
斎藤主将「表情には出さなかったけど、さすがの石崎もかなり堪えたと思うぞ」
柚「私も負けていられないか!」
斎藤主将「そう言う事だ。二度とごめんだが去年の春にサヨナラ食らって今の俺があるんだ。そう言う意味じゃ貴重な経験だな」

6回裏 赤3−3無 ついに斎藤が風祭と対決しとりあえずは抑えるが試合は振り出しに戻った!
小椋「プレッシャーかけないで下さいよ」
風祭主将「そう言うつもりはない。ただここからは1点が致命傷になる!」
直人「そんなに凄いのか?」
風祭主将「甲子園ではいまだに無失点記録を続けている怪物だ。1打席で打つどころか当てるのも難しいのはよーく理解した!」
直人「そこまでかよっ!?」
坂本「ふむ。それじゃ死ぬ気で守りますか!」
風祭主将「とにかく四死球で自滅するのだけは避けろ!」
大沼「後ろにはエースの俺が控えてるんだし当たって砕けろで行けば良いさ!」
藤井「1点が致命傷の試合でお前の登板はないと思うが?」
大沼「何故に!?」
藤井「だって球が遅くて球威がないんじゃ頭越されて終わりだし」
大沼「くっ、一言も言い返せん!?」
藤井「それは真実だからです!」
風祭主将「とにかく真っ直ぐ向かって行け!」
小椋「分かりました。俺も覚悟を決めます!」
藤井「うむ。それでこそ無明のエースだ!」
大沼「ちょっと待てエースは俺だぞ?」
藤井「今はな」
大沼「えっ!? 俺、夏から二番手なの? ジ〜〜〜!」
大岡監督「そう言われてもな。夏までには時間があるし小椋が急成長したらそうなるかも知れんが、現在は投球術の上手さで大沼を上と見てるからな」
藤井「つまり努力型の大沼と天才型の小椋では努力型をひいきしてるんですね」
大岡監督「ひいきしてないし!」
小椋「その前に俺も天才型って訳じゃないと思うんですが?」
藤井「少なくとも大沼より才能はある。何故ならお前は特待生で俺達は推薦だからだ!」
小椋「うーん」
大岡監督「関係ないと思うが?」

長いタイムも終わり小椋は深呼吸し調子を整える。
小椋「抑えるぞ!」

カキ―――ン!
全員(いきなりかよ!?)

霞「初球を打った! 打球は左中間を抜けて打った斎藤君はセカンドでストップ!」
武藤「1番なだけあってあのレフトも足が速いですね」
草薙「とにかくまたノーアウトでランナーが出たか」

風祭主将「あっさりと打つな」
斎藤主将「お前が言うなとツッコミたい!ま、コースも変化も特に難しかった訳じゃないからな。言っちゃ悪いがまだまだ経験不足だな!」
風祭主将「なるほどな」

小椋「当たり前だけどやる気が上がっても打たれる時は打たれるかま、怪物と遭遇した経験はいずれ役に立つって言うし切り替えて行こう!」
篠原(慎重に送りバントかと思ったが、打たせてくれるのか)

ガキッ!
小椋「サードは無理か、ファーストへパスだ!」

霞「ピッチャーゴロですが斎藤君はサードへ到達します!」
武藤「1アウト3塁か、ここで得点が入ったら赤竜高校が圧倒的に有利かな?」
草薙「ま、この大会じゃ石崎君と並んで難攻不落な投手の頂点って感じだからな」
武藤「ですね。逆に小椋君はこれまでも結構打たれてますからね」
草薙「ま、ランナーが出ても無失点で抑えてる時もあるからな。観ない事には分からんな?」

小椋「これを無失点で抑えろってのはきついなしかしやらなきゃ敗北ならやるしかない!」
福西「まあ、やる気があるのは良いんだけど(いや、こっちとしては良くないのか?)口に出して言うと聞いてるこっちもちょっと恥ずかしいんだけど?」
小椋「嘘っ!? 口に出してた?」
福西「うん」
小椋「こほん!(抑えるぞ!)」
藤井(あいつも結構オモシロキャラだよな)

ズバ―――ン!
霞「スクイズを警戒してかボールでフォアボール!」
武藤「ま、福西君はバントも上手いって話しだしこれは仕方ないかな」
草薙「次は小技の苦手な山口君だしスクイズはなさそうですね。ま、長打力があるから外野フライでも十分だから必要なくもありますが」
武藤「と言ってもミートはチームでも1、2を争うくらい下手ですけどね」

小椋(高めは禁物だな。とりあえずきわどいとこ付いて最後はボール球を振らせばいっか!)

ククッ!
山口「………………」

霞「最後はボール球のカーブを振らされて空振り三振で2アウト!」
武藤「普通なら代打の場面だけど、赤竜のベンチって良い選手がいないからな」
草薙「良い選手はいるがスタメンよりは劣るとそう言う意味じゃ無明も同じだがな」

小椋(なんとか2アウトまで来たな。8番は守備が上手いがバッティングでは活躍してないし真っ向勝負だ!)

ククッ!
根本「………………」

霞「最後はアウトコースのスライダーを見逃し三振でこの回を無失点に抑えました!」
武藤「今まで空振りしたから見て行ったんでしょうが、結果は見逃し三振と残念な終わり方でしたね」
草薙「しかしこの流れで無失点に抑えるとは大した物だな」
武藤「1点入るの確実って流れでしたからね」

藤井「さすがは無明のエースだ。良くぞ抑えた!」
小椋「まだそのネタ引っ張るんですか?」
藤井「心外だな。俺は本気で感動してるんだ!」
小椋「まあ、抑えられたのは藤井さんのリードのおかげですよ」
藤井「しかしミットに構えてるところに投げれなきゃなんの意味もない。つまりお前の実力が勝ったと言う訳だ!」
小椋「はあ、そうですね」

7回表 赤3−3無 打たれるのはお決まりになったがランナーは返さずこの回も小椋は無失点に抑える!
斎藤主将(シュッ!)

ズバ―――ン!
藤井「マジで速いな」

霞「インロー143キロのストレートを見逃し三振で1アウト!」
武藤「あの速さやノビでコースを付かれたら手が出ませんね」
草薙「ま、1打席じゃ当てる事も難しいだろうな」

斎藤主将(シュッ!)

ズバ―――ン!
八木「ノビのある球には慣れたつもりだけど、かすりもしないとは!?」

霞「ミートに定評のある八木君も三球三振に抑えられます!」
武藤「やっぱり1打席じゃ打てませんね」
草薙「勝負は風祭君の打席からだな」

斎藤主将(シュッ!)

ズバ―――ン!
鈴木「ぬっ!?」

霞「最後は143キロのストレートを空振り三振し3アウトチェンジです!」
武藤「完全に振り遅れてるな」
草薙「これで4者連続奪三振と末恐ろしいですね」

真田「これにて勝ちは決まったかな」
吉田「なら誰かさんは罰ゲーム確定か」
真田「覚えてたかだがまあ良かろう。優勝する喜びに浸れるなら一瞬の罰くらい受けよう!」
吉田「開き直ったな。それに一瞬って事は簡単な罰ゲームですませようって腹だな」
真田「まあね」
吉田「何を言っても無駄か」

柚「それでハジメは大丈夫?」
斎藤主将「スタミナなら問題ないよ。どっちにしろ弱音を吐けるような試合じゃないしな」
柚「泣いても笑っても今日が最後」
斎藤主将「そう言う事だ!」

7回裏 赤3−3無 やはり斎藤は難攻不落で4者連続奪三振中!
柚「スライダー!」

カキ―――ン!
小椋「また打たれた!?」

霞「スライダーを打った。今日は3打数3安打とバッティングでもアピールします!」
武藤「さすがは兄妹と言うべきかバッティングセンスはありそうですね」
草薙「それもだがここまで先頭打者に打たれるのも珍しい?」
武藤「そう言う意味じゃ僅差と言うのも変ですよね?」
霞「とにかくまたもや出ました。ちなみに1回目は盗塁を成功させてますが走って来るでしょうか?」
武藤「来ないとも言い切れませんね」
草薙「前の時見たいに警戒してフォアボールの可能性もあるがな」

小椋(どうするかな?)
藤井(案ずるな。お前はクイックが上手いしそうそうは走られん!)
小椋(1打席目に盗まれてるんですけど?)
藤井(あれは初球からだったからだ。こっちは完全に想定外だったからな)
小椋(真田さんには?)
藤井(2打席目にはタイミングが合ってたな。ま、四死球で自滅だけは避けろって言われたしインコースを付いて行くか!)
小椋(ランナーは?)
藤井(シカトだ。とにかくバッターに向かって行け!)
小椋(はあ、分かりました!)

真田「ハッハッハ!」

コツンッ!
八木(こっちか!)

パシッ! シュッ!
真田「…………無念」

霞「初球から走ったと思ったら狙ったのはバントエンドラン! しかしファーストはアウトで送りバント成功の形で終わりました!」
武藤「どっちかと言えばランが先ですけどね。しかしサードの八木君は落ち着いて処理と本当に名手が多いですね」
草薙「ま、進塁しただけ上出来だな」

小椋(うーん、アウトはもらったけど相川か)
藤井(さっきは抑えただろう。恐れず来い!)
小椋(歩かせたら吉田さんだし向かって行くしかないか!)
相川(ここは団長に続くか!)

コツンッ!
八木(またか!)

パシッ! シュッ!
霞「セーフティに見せかけたバントですが、結果的に送りバントの形で終わりました!」
武藤「2人続けてとは意外でしたね」
草薙「これで2アウトランナー3塁か」

藤井(ま、結果的にはアウト2つもらったんだ。ここで抑えれば問題はない!)
小椋(はい!)

真田「僕が目立たないでやったんだから打てよ!」
相川「後はお願いします!」
吉田(俺にプレッシャーをかけるところはさすがは師弟って感じだな)

カキ―――ン! パシッ!
直人「さすがにきついはっ!?」
吉田「あれも捕るのかよ!?」

霞「センターの頭を抜けるかと思いましたが天野君がジャンプしてキャッチし3アウトチェンジです!」
武藤「普通は抜けてますね。抜けてたら間違いなく1点が入ってましたし今のプレーは大きいですよ!?」
草薙「さすがに決勝だけあって凄いプレーが良く出ますね!」

小椋「なんとか無失点に抑えられたか」
藤井「うむ。どうもトップバッターに打たれたら点が入らないと言うジンクスが」
坂本「こっちはトップバッターがホームラン打ってますけど」
藤井「つまり俺達の場合はトップバッターに打たれても平気だって話だ!」
大沼「良い具合にまとめようとしてるな」
小椋「まとまってないですけどね」
坂本「ま、この状況で3失点に抑えてるところはどっちもさすがと言うべきかな」
小椋「どっちもか?」
坂本「ああ。今日の先発はお世辞にも良い出来とは言えないだろう」
小椋「被安打は確かにな」
坂本「それで3失点に抑えてるのはさすがだって事さ」
小椋「なるほど」

8回表 赤3−3無 打たれるのはお決まりになったがランナーは返さずこの回も小椋は無失点に抑えた!
斎藤主将(シュッ!)

ズバ―――ン!
小椋「速っ!?」

霞「最後は144キロのストレートを見逃し三振で1アウト!」
武藤「なんかこっちは安心して観てられるな」
草薙「赤竜のファンなのか?」
武藤「そう言う訳じゃないんですけど打たれるピッチャーを観るのはなんか心臓に悪くて」
霞「現役の頃を思い出すからですね!」
武藤「その一言が何よりもきつい!?」

斎藤主将(シュッ!)

ズバ―――ン!
佐助「くっくっく」

霞「佐藤君も143キロのストレートを見逃し三振で2アウト!」
武藤「やっぱりあのストレートは無明実業でも簡単には打てませんね」
草薙「ま、夏の準優勝投手だからな。無明実業とは言えそうそうは打てんだろうな」

佐助「ふっふっふ」
坂本「それはいいからどんなボールでしたか?」
佐助「…………分からん?」
坂本「は?」
佐助「気が付いたら三振してた。ストレートを見逃したと気付いたのは終わった後だったな」
坂本「手元でノビるストレート、それも異常なほどにノビるか、分かってはいたけど想像以上に打ちづらそうなピッチャーだな」

斎藤主将(シュッ!)

ズバ―――ン!
坂本「ダメだ。ただでさえ速くノビがあるのにコース付かれたらそれこそ手も足も出ない!?」

霞「期待の坂本君も三球三振とこれで7連続奪三振です!」
武藤「ここまで奪三振率が高いピッチャーってのは高校球史では初めてではないかと思うくらい凄いですね!?」
草薙「地方はともかくここじゃ奪三振の記録を作ってるんだからそうなんじゃないのか?」
霞「とにかくこの回も無失点と試合はまだまだ続きそうな気がします!」
武藤「なんか変なセリフですね?」
霞「いやー流れが変わりそうで変わらない変な試合ですから」
武藤「言いたい事は分かるんですが決勝戦なのに緊迫感がないのはどうかなー?」
霞「大丈夫です。ここからは1点が重要と言う訳で緊迫感は多分あります!」
武藤「多分かい!」
草薙(緊迫感がないのは解説席(  ここ  )だけであって試合は別だと思うがな)

斎藤主将「裏で決勝点を取るか!」
吉田「そうそう。俺はしょせん秋からの3番だしな。1年からクリーンナップ打ってる斎藤ならきっと打てるさ」
斎藤主将「なんかトゲを感じるな?」
吉田「気にするな」
斎藤主将「普通気にするし」

8回裏 赤3−3無 やはり斎藤は難攻不落で7者続奪三振中!
小椋「当たって砕けろだ!」

ガキッ!
斎藤主将「しまった!?」

霞「期待の斎藤君からでしたが思ってたよりは伸びずにライトフライに倒れます!」
武藤「少し疲労を見せてますがコントロールは健在ですね」
草薙「ふむ。赤竜高校は初回以降点が取れてないからな」
武藤「そう言えばフォアボールから連打を食らった後は無失点に抑えてますね」
草薙「良い意味で立ち直りが早いんだろう」
武藤「立ち直りの遅いこっちと変わって欲しいかも」

小椋(とにかく抑えて行くぞ!)

カキ―――ン! パシッ!
篠原「もっと流すべきだったか」

霞「三遊間を抜けるかと思いましたがショートの風祭君が追い着いて2アウトです!」
武藤「あのショートは間違いなく争奪戦だな」
草薙「4、5番は一気に終わったか」

小椋(インコース!)

ガキッ!
福西「終わったな」

霞「意外にもこの回はあっさりと三者凡退に終わります!」
武藤「意外って? まあ分からなくもないけど」
草薙「ひょっとすると今日も延長戦かな?」
武藤「斎藤君からはなかなか打てそうもないしその可能性もありそうですね」
霞「とにかく3対3で9回に向かいます!」

藤井「ナイスピッチング! この回は安心して観てられたぞ!」
小椋「斎藤さんの時はやばいなって顔してませんでしたっけ?」
藤井「そんな事実はない。とりあえずこの調子で行くぞ!」
小椋「……はい!」

9回表 赤3−3無 疲労はある物のコントロールは健在で小椋は三者凡退に抑える!
斎藤主将(シュッ!)

ズバ―――ン!
直人「なるほど、これはもはや魔球だな」

霞「天野君も手が出ず空振り三振に終わります!」
武藤「やっぱり1打席じゃかすりもしないな」
草薙「球速も143キロと出てるしコントロールも良いからそうそうは打てんだろうな」

斎藤主将(問題はここからか!)
風祭主将(ストレートに狙いを定める。問題はコースと何よりもノビだな!)

カキ―――ン!
斎藤主将「なにっ!?」

霞「入った! バックスクリーンに叩き込んだ!」
武藤「この場面であっさりと…………」
草薙「コースがあまかったとは言え144キロと出てたのにな」

直人「それにしてもあっさりと打ちやがったな」
風祭主将「あっさりってほど簡単じゃなかったけどな。コースがあまかった分スタンドまで届いたし流れはこっちに傾いたかな」

斎藤主将「くそっ!」
吉田「落ち着いて行こうぜ」
斎藤主将「…………ああ、分かってる(そうだ。まだ終わったわけじゃない!)」

ズバ―――ン!
戸田「気落ちするどころか、ますます速くなってないか?」

霞「ホームランを打たれましたが続く戸田君は空振り三振に抑えます!」
武藤「143キロか、さすがと言うべきか切り替えが早いですね!?」
草薙「うむ。これでこそ決勝戦だ!」

斎藤主将(シュッ!)

ズバ―――ン!
藤井「ここで打ってとどめを刺したかったのに!?」

霞「藤井君も三振とここまでのアウトは全て奪三振と斎藤君は怪物振りを見せます!」
武藤「ここまでの奪三振の数じゃ既に高校記録を超えてるかもな」
草薙「しかし風祭君の貴重なホームランで試合も観えて来たかな」
霞「そうです。初回に3点を失った無明実業でしたがついに逆転に成功しました。試合はこのまま終わるのか? まだまだ試合は終わらないか? 最後までご覧下さい!」
武藤(なんか無理矢理盛り上げようとしてるな)
草薙「裏は7番からと下位打線からだな」
霞「…………終わりましたねじゃなかった!? 下位打線とは言え当たってる柚さんにも回りますしまだまだ分かりませんね!!」
武藤「……そうですね」

真田「しかしこの1点は重いね」
吉田「バカ!?」
斎藤主将「すまん。後は頼む!」
真田「あっ!? 別に斎藤を責めてるわけじゃないんだけど、あのピッチャー打てそうで点が入らないからどうも不安で」
吉田「言いたい事は分かるんだけど、ますます不安にさせてどうするんだよ!」
真田「ごめんしかし当たってる柚ちゃんが打てば僕にも回るとまだまだ終わらせないから!」
吉田「でもお前ってノーヒットだしな」
真田「ツッコミながら同じようなネタで不安にしないでくれよ!」
吉田「悪い」

9回裏 赤3−4無 難攻不落の斎藤だったが天才風祭は見事に打ち崩した。試合はこのまま終わるのか?
小椋(後3人で全国制覇だ! キャプテンのホームランに報いる為にも頑張るぞ!)

ズバ―――ン!
山口「140キロ!?」

霞「微妙なコースですが主審はストライクをコールし見逃し三振!」
武藤「前の回じゃ130キロ半ばだったのに、この回は140キロが出ましたね!?」
草薙「勝利を意識して最後の力を振り絞ってるんだろう」
武藤「大物ですなー」

小椋(残り1人じゃなくて2人!)

ガキッ!
根本「確信した左投手のスライダーは無茶苦茶苦手だ!?」

霞「根本君は打ち上げてキャッチャーフライです! スタンドからは後1人コールと柚さんの応援コールで盛り上がっております!」
武藤「本当に凄い人気ですね。人気面だけで言えば既にプロの一流選手並みかな」
草薙「後は実力を付けて行けばプロ入りも夢じゃないかもな」

小椋(素で間違えちゃったじゃなくて問題はこの娘なんだよな?)
柚(変化球ならスライダーを狙うべきか?)
小椋(後1人抑えれば優勝なんだ。抑えて見せる!)
柚(内角ストレート!)

カキ―――ン!
小椋「なんで!?」

霞「インハイのストレートでしたがライト前に打って2アウトランナー1塁です!」
武藤「4の4と絶好調ですね!?」
草薙「打者転向するのも手だな」
霞「そして次は今日ノーヒットと当たってない真田君です」
武藤「フォアボールで出てるけど、前にランナーが出てたせいか足も見せられなかったな」
草薙「守備じゃ足も見せてたけどな」

小椋(1回も抑えられないとは……しかし後1人抑えれば全国制覇だ!)

ズバ―――ン!
真田「打たれて動揺するかと思えば生きたボールを投げて来るなこっちも負けてられないしシリアスモードだ!」
藤井「ってシリアスには見えないし?」
真田「これが僕のシリアスモードさ!」
藤井「ふーん(この崖っぷちでこう言う精神状態ってのはある意味尊敬できるかもな)」

霞「初球は141キロを記録して1ストライク!」
武藤「ここで141キロか、精神的にも強そうな印象ですね」
草薙「コースはあまかったけどな」

真田「ふん!」

カキ―――ン!
小椋「…………ふう、危なかった」

霞「レフト方向への打球でしたがわずかに切れてファールです!」
武藤「真田君って非力ってイメージがありましたけど、地方大会じゃホームランを打った事もあるんですよね」
草薙「確かに非力って訳でもないし弱肩って訳でもないな」
武藤「意外に高素材なのかな?」
霞「しかしこれで2ストライクと追い込まれました!」

スト―――ン!
真田「フォークはあんまり落ちないな。そう言えば1年の頃の斎藤もこんなフォーク投げてたっけ?」
小椋「うーん、外し過ぎたかな?」

霞「ワンバウンドのフォークをなんとかキャッチしこれで2−1となります!」
武藤「なんか緊張するな」
草薙「ま、抑えればこの大会も終わりって打席だからな」

小椋(今度はインコースにストレートか)

ズバ―――ン!
真田(ふう、外れてて助かった)

霞「インコースへのストレートですが外れて2−2です。次も外して来ますかね?」
武藤「そうですね。私はコントロールが悪かったですから2−3にはさせてくれませんでしたけど、小椋君はコントロールが良いし次も外すんじゃないかなと思いますけど」
草薙「ふむ。球種も気になるな」

小椋(次はアウトコースにカーブか!)

ガキッ!
真田「ボール球かい!」

霞「ボール球でしたが手が出たか、しかしファールで2−2のままです!」
武藤「こうなると読みにくくなって来るな」
草薙「今度は大きく外して来るんじゃないか?」

小椋(ここで高めを要求か、長打になったら怖いけど藤井さんを信じよう!)
真田「低めじゃなくて高めかよっ!?くそったれえ!!!」

ズバ―――ン!
霞「必死に振るもバットは空を切って空振り三振で試合終了!」
武藤「外すどころか長打になりそうなコースに投げて来ましたね」
草薙「度胸のあるリードだな。それに応えたピッチャーも大した物だが」
霞「と言う訳で短い様で長かった春の大会も終わりを告げました。大会No.1ピッチャーの石崎君を退けて決勝まで上がった赤竜高校の快進撃もこれにて終わりです!」
武藤「夏の大会ではまさかのベスト4敗退でしたが、やっぱり無明実業は強いですね」
草薙「ベスト4でも十分凄いと思うけどな」
霞「とにかく4対3で無明実業が勝利しました。今度は夏の大会の前にドラスポでお会いしましょう!」
武藤「そう言えば俺も高校野球の解説を始めて3年になるのか…………夏の大会か…………」

無明実業高校
藤井「良くぞ俺のリードに応えてくれた!」
小椋「一歩間違えば流れが一気に変わりそうで怖かったですけどね」
藤井「構わん。打たれても同点止まりだ!」
小椋「ランナー俊足だったしランニングホームランでサヨナラになってもおかしくなかったような?」
藤井「優勝だぞ。全国制覇だぞ。なんでそんなにテンション低いんだよ?」
小椋「そのまだ実感がわかなくて」
直人「そんなもんか、俺も初めて優勝した時は藤井見たいだったけどな」
風祭主将「今も変わってないけどな」
直人「今日のヒーローが何を言ってんだ。みんなで胴上げしようぜ!」
全員「おう!!!」
小椋「なんで俺が胴上げされるんですかっ!?」
坂本「そりゃお前が優勝投手になったからだよ」
小椋「お前もいつも通りの表情で何故やってる!?」
坂本「面白そうだから!」
大沼「わっははは、良くもエースの俺を差し置いて優勝投手になりやがったな!」
小椋「起用したのは監督ですよ!?」
大沼「知った事か、せいぜい優勝の美酒に酔いしれるが良い!」
小椋「あんた自分でも何言ってるか分かってないだろう!?」
風祭主将「これで俺の1勝かな。まさかこのまま終わる訳はないよな斎藤、今度会う時は今以上になってくれないと面白くないぜ!」

赤竜高校
斎藤主将「すまん。また一歩届かなかった」
真田「僕も結局打てなかったしね」
福西「まあまあ、打てなかったのは団長だけじゃないし団長らしくないですよ」
真田「まあね。ま、後1回チャンスはあるしそっちで返せばいっか!」
吉田「相変わらず立ち直り早いな!?」
真田「それが僕の良いところ!」
吉田「ま、今回だけは同意してやるよ!」
真田「と言う訳で落ち込んでないで次に優勝しよう。キャプテン!」
吉田「そうそう。キャプテンなんだから後輩に落ち込んでるところを見せちゃダメだろう」
斎藤主将「そうだな。夏にまた来て今度は笑って終わろうな!」
全員「はい!!!」
斎藤主将(まずは約束を果たす。そして風祭と決着をつける!)

こうして春の甲子園も終わった。斎藤に取っては苦い試合となったがチームメイトの励ましもあり夏に向かってもっと頑張る事を決意する。斎藤の高校野球もいよいよ終わりへと向かう。