第4章 練習試合開始

−1994年 6月−
とりあえず佐伯や七瀬の事も終わり6月、赤竜高校は夏のメンバーを決める為、練習試合に行くのだった。
中西監督「さてと前に話したと思うが今日は練習試合をする為、東京に向かう」
相良「ところで練習試合の相手は?」
中西監督「言ってなかったけ?」
全員「言ってません!」
大下主将「と言うか監督が内緒って言って教えてくれなかったんじゃないですか」
中西監督「そうだったな。まあ、着いてからのお楽しみにしよう」
斎藤「何処なのかな?」
真田「東京と言ったら無明実業高校( むみょうじつぎょうこうこう )とか?」
吉田「春の日本一の高校だぞ。いくらなんでも」

無明実業高校
全員「あの無明実業高校って?」
中西監督「お前ら春の日本一の高校も知らないのか?」
大下主将「いえそうではなくてですね。こことするんですか?」
中西監督「じゃなかったらここまで来ないよ」
大下主将「そうですね」
吉田「真田の言った通りになっちまった」
真田「えっと僕は2軍とかと試合するのかと」
中西監督「そうだ!」
斎藤「と言う事は2軍と試合をするんですか?」
中西監督「いや、3軍とだ」

無明高校は全国でもトップクラスの強さで野球部は3軍まである。
相良「いくら何でも3軍なら勝てるんじゃないですか?」
中西監督「今日は勝敗より今年入った1年とかを見たくて来たんだよ」
相良「なるほど」

大下主将「はあ、平井と話でもしようかと思っていたんだが」
平井主将「それなら問題はない」
全員(うわっ! 本物の平井さんだ!!)
大下主将「何でキャプテンのお前がここに?」
平井主将「キャプテンだからだ。3軍の試合の主審は俺がする」
大下主将「キャプテンのお前が?」
平井主将「監督が今日のお前らの試合を入れ替え試験にしたんだよ。だけど監督は留守で代わりに俺が入れ替えの判断をする事になった」
大下主将「主審と監督の両方をするのか」
平井主将「そう言う事、まあ、お手柔らかに頼むよ」
大下主将「はいはい」
中西監督「大岡は留守か?」
平井主将「ええ、急な用事でさっき出かけました。若輩者ですがよろしくお願いします!」
中西監督「ああ!」

無明実業高校 3軍練習場
全員「3軍なのにうちより良い練習場ですね」
中西監督「悔しかったら甲子園に出て練習設備を上げてもらえ!」
全員「そんな事できるんですか?」
中西監督「勝てば寄付も集まるからな。それで学校に相談すれば色々上げてもらえるだろう?」
全員「はあ」
中西監督「多分な?」
全員「えっ?」

−練習試合 無明高校3軍練習場−
1年 佐藤 佐助
後攻 先攻
無明実業高校3軍 赤竜高校
投手力 機動力 投手力 機動力
打撃力 守備力 VS 打撃力 守備力
意外性 経験値 意外性 経験値
総合力 総合力
真田 和希 1年
1年 八木 芳一 間宮 亮太郎 3年
1年 大沼 和司 大下 真二 3年
1年 藤井 孝一 相良 京一 2年
1年 戸田 正樹 斎藤 一 1年
1年 鈴木 忠 嵯峨 蓬 2年
1年 本田 勇 吉田 毅 1年
1年 夏目 要太 玖珂 良雄 2年
1年 石岡 憲次 安達 正孝 2年

中西監督「スタメンは以上のメンバーだ!」
大下主将「ベストメンバーですね」
相良「いえ、斎藤はともかく1年の真田や吉田はまだ使い物になるとも思えません」
中西監督「だから練習試合で使うのさ」
相良「なるほど」
中西監督「正直、この試合の出来次第じゃあ、あいつらも夏から使うつもりだ」
大下主将「はあ、大した評価ですね」
中西監督「今年は面白い選手が多いからな。期待させてもらうさ」

斎藤「先発か頑張らないと」
真田「僕らもスタメンだね」
吉田「驚きだな。活躍できるかな?」
真田「相手も1年ばっかだし大丈夫じゃないかな?」
吉田「あまいな。向こうの中にはシニアで活躍していた奴が何人かいるぜ!」
斎藤「分かるのか?」
吉田「まあな。と言っても全員そこそこの選手で俺より少し上くらいの選手ばっかりだ。全国区の選手はもう1軍か2軍に上がったんだろう」
真田「へえ、つまり今日の相手は新入生の中でも下の下って感じなの」
吉田「まあな。それでも俺より上手いだろうけど」
平井主審「それでは始めさせてもらいます!」

1回表 無0−0赤 大沼と真田の対決から始まる
大沼「相手は赤竜高校か」
藤井「相良さんのいる高校だな。甲子園にも出てるし全国のレベルだと思った方がいいぞ!」
大沼「同級生が3人出てるけど?」
藤井「それだけ実力があるのか、まあ、最初の打者を相手にすれば分かるだろう」

真田「それで先発の彼はどんな投手なの?」
吉田「シニアで対決した事がある。球種の多いタイプで変化も速さもそれほどじゃない」
真田「へえ、僕の得意なタイプだね!」
吉田「ああ、少なくとも当てるのはさほど難しくないな」

ブ―――ン!

結局、真田は空振り三振に倒れる!
間宮「大して変化しないスライダーに見えたんだが?」
真田「あんまり遅くて打てませんでした」
間宮「しかし、110キロは出てるだろう?」
真田「100キロもなかったと思いますけど?」
間宮「速くではなく遅く感じる投手か」

ガキッ!

ストレートに軽く当てただけだが思ったより飛距離が出てセンター前に落ちるシングルヒットとなる!
間宮「軽く当てただけなのに」

藤井「相変わらず球威がないな」
大沼「人が1番気にしてる事を言わないでくれ」
藤井「とりあえずストレートはあんまし投げない方が良さそうだな」

大下主将「ここまで見てる限り球種が多いのが特徴な投手だな」

スト―――ン!

まずはフォークを見送り1ストライク!
大下主将「それにしても大して変化しない変化球ばかりだな」
藤井(俺も同感、今のところ大沼の1番の武器は制球力だな)

カキ―――ン!

2球目のあまく入ったシュートをスタンドへ叩き込む!
大沼「さすがは赤竜の主将か」
藤井「まずいな。調子は悪くないのに全然通用しない」

真田「みんな簡単に打つね」
吉田「相手投手は悪くないのにな。さすがは赤竜高校ってとこか」

大沼「ていっ!」
相良「あまい!!」

カキ―――ン!!!

カーブを場外へ叩き込まれる!
大沼「1回を3失点、こんな物なのか俺の力は」
藤井「とにかく、もう少し頑張れ」

斎藤「相手には気の毒だけど得点できる時にしないと!」

カキ―――ン!

続く斎藤もシュートを長打し2ベースヒットを打つ!
大沼「同じ1年に打たれるとは!?」
藤井「落ち込むな。相手の方が上だっただけだ」

嵯峨「良く打った斎藤!」
吉田「燃えてますね」
玖珂「得点圏にランナーがいるからな」
吉田「嵯峨さんってチャンスに強いんですか?」
玖珂「得点圏にランナーがいる時の打率は1割以下だ」
吉田「へえ、1割以下ですか………………えっ!?」
玖珂「だから期待すんなよ」

ブ―――ン!!!

結果は言うまでもなく空振り三振!
大沼「後1人!」
藤井「こういう時に言うセリフじゃないと思うが」

玖珂「まあ、こんなもんだろう」
嵯峨「うっせえ」
吉田「………………」

カキ―――ン! シュッ! パシッ!

三遊間を抜けると思ったが遊撃手の夏目に捕られて3アウトチェンジ!
大沼「夏目、風祭に劣らない守備じゃないか」
夏目「それは誉め過ぎ」

吉田「3軍の1年とは言え名門だけあって守備は上手いですね」
玖珂「らしいな」

平井主審(やれやれ、一時はどうなると思ったが何とか3失点で抑えたな)


1回裏 無0−3赤 絶好調の斎藤が襲い掛かる
大下主将「どうした?」
斎藤「いえ、襲い掛かるって何か悪役みたいだなって」
大下主将「なんだそりゃ?」
斎藤「気にしないで下さい」

佐藤「ふふふ」
大下主将(なんか不気味な奴だな)

斎藤「意地の一発!」

ズバ―――ン!

まずは佐藤を三球三振に抑える!
佐藤「ふふふ」
平井主審「『ふふふ』じゃなくて三振だからとっとと出ろ」
佐藤「…………はい」
大下主将「…………変な奴」

ガキッ!

続く八木は打ち上げ2アウト!
八木「良いカーブを投げるな」

カキ―――ン! タッタッタッ!
真田「よっと!」

パシッ!
大沼「凄い足だな!?」

良い当たりだが真田の守備範囲で3アウトチェンジ!
斎藤「よし!」

2回表 無0−3赤

ガキッ!

先頭の玖珂は打ち上げ1アウト!
嵯峨「お前だって打てないじゃないか」
玖珂「得点圏に誰もいないから打たなかっただけさ」

本当は大真面目に打って凡打した。
大沼「見たか俺の実力!」
藤井「はいはい。見たからとっとと投げてくれ」
安達(俺のセリフなんだけどな)

カキ―――ン!

初球を軽く打つシングルヒット!
藤井「大した実力だな」
大沼「くそっ!」

平井主審(2巡目か…………つかまらなきゃ良いんだが)

真田「ていっ!」 

コツン!

まず真田がバントエンドランを成功させランナーは1、2塁となる。
大沼「やばっ!?」
間宮(シュッ!)

カキ―――ン!

続く間宮もヒットを打ち満塁と絶体絶命のピンチとなる大沼!
大下主将「満塁男の実力を見せてやるか!」
斎藤「って言ってますけどキャプテンって満塁だと強いんですか?」
相良「知らん」
斎藤「そうっスか」

大沼「俺はピンチ時になると能力が上がるんだっけ」
藤井「まずい。頭の方が先にやられたか(こいつピンチに弱いからな)キャプテン、ピッチャーの交代は?」
平井主審「この場面で大沼以外に抑えられる奴がいないから続投だ!」
藤井「だけど今の大沼じゃ抑えられませんよ」
平井主審「確かにな。ここで打たれて大きくなれと言いたいが」
藤井「あいつ精神的にもろいからここで打たれれば」
平井主審「野球を辞めるかも知れないと」
藤井「……はい」
平井主審「しかしな代わりの投手が」
天野「俺が投げましょうか」
藤井「宗介さん!」
平井主審「天野か……試合を観てたのか?」
天野「ええ。相良と話でもしようかなって」
平井主審「練習をサボってか」
天野「いえいえ。練習は後でやります」
平井主審「まあ、人1倍練習熱心なお前の言葉だから信じるが」
天野「とにかく投げさせて下さい」
平井主審「まあ、良いだろう」

大沼に代わって1軍のエースの天野がマウンドに向かう。
大沼「1軍は遠いな」

全員「春の優勝投手に代わりましたよ」
大下主将「ふっ、相手に不足はないな!」
全員「さすがはキャプテン、打てる自信があるんですね!」
大下主将「はっはっはっ! そんな物はないぞ!」
全員「へ?」
相良「そんな事だと思いましたよ」
間宮「自信がないから空元気だけ見せてるだけだ!」
大下主将「わっはっはっは! その通り!」
全員「…………」

藤井「あの〜?」
天野「どうした?」
藤井「俺で大丈夫なんでしょうか?」
天野「ああ。大沼の変化球をとれるんだから問題はないだろう」
藤井「球種は大沼の方が多いですけど変化、キレ、速さ、ノビと全てに置いて宗介さんは大沼とは次元が違います」
天野「何気に酷いな。まあ、頑張って捕ってくれ」
藤井「はあ(捕球( と )れるかな?)」

ズバ―――ン!

140キロのブレイジングショット(ストレート)がズバリと決まる。
全員「速い!?」
相良「あの程度なら打てるさ」
全員「さすがは相良さん」

全員が尊敬の眼差しで相良を見る。
大下主将「1ストライクとったくらいで勝ったと思うなよ!」

ククッ! ブ―――ン!!

続くスライダーで難なく2ストライクと追い込まれる。
天野(さてと次で決めるか!)
大下主将「…………満塁男の実力を見せてやるぜ!(恐らくここは慎重にボールから入って来るだろう)」

もはや空元気もなくなって来ている。
斎藤「全然打てそうもないな」
真田「速いだけでなくさっきのスライダーも凄かったよ!?」
吉田「話には聞いていたけど凄すぎだろう!? もうプロでも通用するんじゃないか?」
相良「天野はとにかくまとまりが良いからな。崩すには苦労するだろうな」
斎藤「バッティングセンスには自信がある俺でもヒットを打てる自信はないんですが相良さんはこの人から打てるんですか?」
相良「ヒットではなくホームランを打って見せるさ!」
全員(格好良い)

全員が相良を羨望の眼差しで見つめる。

ズバ―――ン!
大下主将「げっ!? 3球勝負!?」

142キロのブレイジングショットを見逃し三振!
大下主将(アウトローにズバリと来たか)

天野「捕るのに問題はなさそうだな」
藤井「はい(さすがに凄い。速いだけでなくコントロールも抜群だ!)」

全員「…………」
大下主将「仕方ないだろう。相手の実力が上だっただけだ」
相良「まだ2アウト満塁です。俺が引導を渡してやりますよ!」
大下主将「さすがはミスターグランドスラム!」
斎藤「相良さんって満塁に強いのか?」
吉田「ああ。満塁にはよくホームランを打っているから!」
真田「ミスターグランドスラム!」
吉田「いや、それは今、キャプテンが適当に言っただけだ。とにかく満塁では通算4割近い打率を打ってるらしい」
斎藤「らしい?」
吉田「正確な数字ではないって事だ」

天野(さてと問題はこいつだな。確か満塁で強かったしここは慎重に行くか)
藤井(何か宗介さんだとこっちからリードはできないな。もう少しリードの勉強をしておこう)

相良「くらえ!」

カキ―――ン!

飛距離は文句なしだがこれはファール!
天野「あれだけ外した球をあそこまで飛ばすか」
相良「ボールから入って来たかストライクならスタンドだったのに」
天野「しかし144キロのブレイジングショットをあそこまで飛ばすか普通、いや考えるだけ無駄だ。俺の知ってる奴らはみんなこういう奴なんだ」

スト―――ン!

続くフォークを空振り2ストライク!
相良(見逃せばボールだったな)
天野(よし追い込んだ!)

ここまではボール球で2ストライクをとった天野のペース!
天野(サッ!)

天野が投げる3球目も慎重にボール球を投げる。
相良(サッ!)

カキ―――ン!!!

ボール球のブレイジングショットでも構わずに打ち打球は場外へ!
全員「本当に打っちゃったよ!?」
大下主将「さすがは相良!」

平井主審「アウト!」

全員「?」
中西監督「ボックスから足が出てるからアウトだな。相良にしては珍しいアウトだ」

敬遠でも積極的に打って行く相良はボックス内での足位置は特に気にする。
相良「すまん」

このアウトは天野だからとれたとも言える。天野はバランスの良い投手だがそれだけでなくマウンドでの動作が熟練に達している。事実外し方が甘い投手ならボックスから足が出る事はなかっただろう。
天野(まあ、要するに俺の方が実力が上って事だ!)

真田「ホームラン打ってアウトにもなるんだね?」
吉田「ひょっとしてお前、知らなかったのか?」
真田「うん」
吉田「スクイズって知ってるか?」
真田「何それ?」
全員「なっ!?」
真田「冗談だよ。さすがにそれくらいは知ってるよ」
斎藤「冗談はそれくらいにしてくれ」
真田「そうだね」
吉田「えっと何処までが冗談なんでしょうか?」
真田「全部」
全員「お前の冗談は分かりにくい」
斎藤「なんか姉貴の影響を受けてるような?」
吉田「俺もそう思った」
平井主審「雑談中悪いが早くしてくれ」
斎藤「すみません。今行きます!」

天野に代わってからは赤竜高校も得点は取れず3−0のまま8回裏へと続く。

8回裏 無0−3赤 赤竜高校がリード中

しかし斎藤も負けず無失点に抑えている。
斎藤「後2回で完封だな!」
夏目(相手の球種はストレート、カーブ、フォーク、ストレートとカーブは捨ててフォークに的をしぼるか!)

夏目が待っているフォークが2ストライクに追い込んでから来た!

ククッ! カキ―――ン!
夏目(ライト前ヒットだ!)

と夏目が思ったのも束の間

パシッ!
相良「行かせるか!」

ビュ―――ン!

ライト前に落ちたボールを相良が拾って必殺のレーザービームがファーストのグラブに突き刺さりアウト!
夏目「何だあの肩は!?」

玖珂(つうか痛えよ)
斎藤「何度見ても凄い肩だな。プロでもあれほどの強肩はいないんじゃないか?」

ズバ―――ン!
石岡「くそっ! また三振か!」

続く石岡は三振に抑えこれで17奪三振と今日も絶好調の斎藤!
斎藤「よし!」

佐藤「秘技バント!」

佐藤は2ストライクからバントヒットを狙うが打ち上げてアウト!
大下主将「敵の俺が言うのは何だけどバントするならもう少しバントの練習してからの方が良いぞ」

と敵の大下が言うほど佐藤はバントが下手だった。
平井主審「俺も同感だ。バントするならバントの練習もしろよ」
佐藤「はい(どうせ俺はバントが下手ですよ)」

9回表 無0−3赤 天野に代わってからは1人もランナーが出ていない
天野「ここを抑えて裏でサヨナラと行きたいところだな!」
斎藤「天野さんには完全に抑えられているからな。ここで打たないと」

ここまで天野は四死球、ヒット無しとパーフェクトに抑えている。

ガキッ!

初球はブレイジングショットを当てるが力負けしファール!
天野(さすがに3打席目だと当てる事は出来るか)

天野のブレイジングショットはノビと球威が特化してる為に当てにくく外野まで運びにくい。
斎藤「来たカーブだ!」

カキ―――ン!

斎藤はストレートとカーブに的をしぼっていた。斎藤(じぶん)と天野の似てる所はストレートとカーブと斎藤は思っていたからだ。
天野「やばい!?」

打球はセンターの頭を越えて2ベースヒットになる。
斎藤「やっと打てた!」

天野からの初安打は1年の斎藤となった!
天野「大した奴だな!」

嵯峨「続くぜ!」

チャンスに弱い嵯峨はあっけなく三振と思われたが

ボコッ!

思いっきり外れたボール球を当ててそれがファーストの頭を越えるポテンヒットになる。これでランナー1、3塁となる。
嵯峨「見たか!」

天野「妙な(ツキ)があっちに行った感じだな」

吉田(こんな場面で俺かよ)

左投手には強い吉田だが天野には2打席連続三振をくらっている。

ズバ―――ン!

145キロのブレイジングショットを空振りし1ストライク!
吉田「やっぱり速いなあ」

藤井(それにしても良いスイングしてるよな。同い歳とは思えん)
天野(さてとここは慎重に行きたいところだが次の玖珂を考えると歩かせたくもないしどうするか?)

ククッ!

続くボール球のスライダーは見逃し1−1となる。
藤井(あの微妙なスライダーを良く見逃したな)
吉田(凄えスライダーだな。まったく手が出なかった!?)

天野(さてと次は!)

ガキッ!

ストライクゾーンに入っているアウトローのブレイジングショットを当てるがファールとなり2−1となる。
吉田「追い込まれたか」

天野(さてと次は大胆に攻めさせてもらうか!)

ズバ―――ン!

真ん中高目のブレイジングショットを見逃し結局三振に終わる。
吉田「勝負でしかも真ん中高目とはくそっ! あんなボールを見逃すとは!!」
藤井(勝負球は2−3までにして低めだと思ったのに一転して勝負とは!?)

玖珂(次の安達じゃ天野は打てないだろうからここで俺が打たないと)
天野(問題はこの玖珂だな。ミート範囲の広い打者だから何処に投げても当てられる。併殺にとれれば最高なんだけど)

カキ―――ン!

初球ボール球のフォークを易々と当てるがファール!
天野「かなり落としたんだけどたやすく芯に当てたな」
玖珂「さすがは天野だな。あの落差のボール球ではファールがやっとだ」

ガキッ!

一転してインコーススライダーで攻めて来た天野の球を打ちそこなうがファールで何とか命拾いをした。
玖珂(やっかいな洞察力してるな。斎藤の奴、良くこいつからヒットを打てたな)
天野(よし追い込んだ!)
玖珂(問題は勝負球だ。何球目に何で来るのか? …………よし決めた!)

グイ―――ン!
玖珂「よしストレート!」

ボール球だがさほどストライクゾーンから外れていないボール球を迷う事なく打つ!

カキ―――ン!
天野(パシッ!)

芯に当ててセンター前に抜けるかと思う打球だったが天野が反射的にとって2アウトとなる。
玖珂「センター前に抜けると思ったのにあれを捕るとは!?」
天野(危なかった。もっと外すつもりだったのにあまく入っちまった)

スト―――ン!
安達「うっ!?」

続く安達はフォークを空振り三振し3アウトチェンジとなる。
大下主将「結局得点ならずか」
吉田&安達「すみません」
大下主将「別に責めてる訳じゃねえよ。あれだけ攻めても抑えるのはさすがに無明のエースだなって感心してたんだよ」
嵯峨「ふっ、結局打てたのは俺と斎藤だけだったな」
玖珂「お前のはまぐれだろうが!」
嵯峨「ふっ、ヒットを打てない奴の戯言(ざれごと)など聞く耳持たんな」
玖珂(言ってくれるじゃないか!)

しかし事実は事実、何を言っても言い訳にしかならないと思ったのか玖珂は渋々怒りをおさめる事にした。
全員「……………………」
嵯峨「みんなどうした?」
全員「いえいえ『ヒットを打てない奴の戯言(ざれごと)』など聞く必要はないですよ」
嵯峨「すみませんでした」
玖珂(ふっ、バカめ!)


9回裏 無0−3赤 これが最後の攻撃
斎藤「延長はなしって事だからこの回で終わりだな!」
八木「相手も同じ1年だ。このまま終わる物か!」

ククッ!
平井主審「フォアボール!」

2−3まで粘られてカーブで決めに行ったが外れてフォアボール!
八木「天野さん、頼みますよ」
斎藤「次は天野さんか、バッティングも良いんだよな」
天野「八木もなかなかやるな。よっし打つぞ!」

スト―――ン!

まずはフォークを見逃し1ストライク!
天野「無茶苦茶打てそうな球だったんだが」

ズバ―――ン!

続くストレートを空振りし2ストライク!
天野「問題はこのストレートだ。無茶苦茶当てにくい」

さすがの天野も斎藤の独特のストレートは打ちにくくここまでノーヒットに抑えられている。
斎藤(キャプテンは反対するだろうけど3球勝負で行く!)

ズバ―――ン!
天野「むっ!」

期待の天野は結局三球三振に倒れる。

ズバ―――ン!

続く藤井も三振に倒れこれでもう後がない無明実業高校3軍!
藤井「今日は全打席三振か、俺も2軍昇格は無理だな」

戸田「自慢じゃないがミートにかけては俺は藤井よりうまい。ここで打ってつなぐ!」

斎藤「これで終わりだ!」

2ストライクと追い込んでの決め球はストレート!

ズバ―――ン! ブ―――ン!
戸田「速え!?」
平井主将「ストライクバッターアウト! 試合終了!」

完全に振り遅れての空振り三振で赤竜高校が勝利する。
斎藤「やった。完封勝利!」
大下主将「わっははは、良くやった斎藤!」

相良「試合には勝ったがお前には負けたな。この借りは甲子園で返す!」
天野「ああ。楽しみにしてるぜ(しかし、結局あの1年投手には負けちまったな。直人や風祭にもこの話をしてやるか)」

平井主将「2軍昇格の試験にするには難しすぎた試合だったかな。少ないがまあ2軍昇格者も出たし良しとするか」

こうして斎藤は夏の大会のアピールに成功した。この後も練習試合を続けて夏の大会へと向かうのだった。


喫茶店MOON
斎藤「と言う訳で大活躍だったな」
月砂「へえ、あんたって意外に凄いのね」
斎藤「意外はないだろう。弟をもう少し信じろっての」
真田「月砂さんは斎藤の応援に行った事はないの?」
月砂「1度もないわね」
吉田「1度も?」

ちなみに月砂と知り合って以来、たまに真田と吉田は斎藤の家で飯を食って行く様になった。
斎藤「姉貴は冷たいからな」
月砂「人聞きの悪い事を言わない」
吉田「だけど、斎藤が凄いのは本当ですよ。何でこんなセンスしてる奴が無名なんだって俺、思いましたし」
斎藤「そう言われると恥ずかしいな」
真田「そう言われるとそうだね。何で無名なの?」
斎藤「何でって言われてもな。中学じゃ軟式だったし、チームも弱かったからな」
吉田「村雨ってのは?」
斎藤「?」
吉田「名前は聞いたけど野球に関しては聞いてないからさ?」
斎藤「中学じゃ守備の下手な選手が多かったんだけど村雨は別だったな。守備勘が無茶苦茶良かったから何度もあいつの守備に救われたよ。それにバッティングも良かったよ。中学じゃ5割打ってたし」
真田「へえ、凄いね。ちなみに斎藤は?」
斎藤「4割だよ。まあ、本塁打や打点はその分、俺の方が多かったけど」
月砂「赤竜高校じゃ、誰が1番守備が上手いの?」
吉田「文句なしにキャプテンですよ!」
月砂「それじゃ、そのキャプテンと剣君だとどっちが上手いの?」
斎藤「村雨だと思う。あいつの守備は天性の才能だし」
真田「村雨君のポジションは外野かショートかな」
斎藤「3年の頃は外野だったな。けどあいつはファーストにこだわっていたな」
吉田「何で?」
斎藤「偉大な打者はファーストなんだって言ってたけど」
真田「なるほど」
斎藤「分かるのか? 俺は全然分からなかったんだが」
真田「僕も同じだからね。外野が1番だと思っているから僕は一生外野手のつもりだし」
吉田「似た感性をしているせいか通じ合う物があるらしいな」
月砂「それで何で3年の頃はファーストじゃなくなってたの?」
斎藤「凄くデカイ1年が入ってね。そいつパワーも物凄くて1年でレギュラーだったんだよ。それでそいつ、物凄く守備が下手でね。ファーストくらいしか守れなくてそれでだよ」
月砂「そんなに大きかったの?」
斎藤「うん。1年でキャプテンくらいあったかな? しかも凄い馬鹿力、飛距離じゃ俺も敵わなかった」
吉田「俺達より身長が大きいのか、しかも斎藤よりパワーが上って!?」
月砂「その子の名前は?」
斎藤「村田修一(むらたしゅういち)だよ。守備が決定的に下手だったけど他はどれも1年とは思えないくらいうまかったよ」
真田「見た感じは年上って事かな」
斎藤「まあ、俺達より長身だから見た目はな」
吉田「やっぱり聞いた事はなくても凄い奴がいるもんだな」
斎藤「確かに凄いよ(守備も別の意味で物凄かったけど)」

ちなみに練習試合では真田と吉田も1年生ながら活躍している。そして夏の大会が始まるのだった。