第6章 新球始動

−1994年 7月 中旬−
初戦からコールドを繰り返して勝ち上がり今日は3回戦!
中西監督「今回は赤竜高校(   うち   )と同じくらいのレベルが相手だ」
斎藤「強敵ですか?」
中西監督「ああ!」
吉田「それで何処の高校なんですか?」
中西監督「旭光(きょっこう)商業だ」
真田「旭光商業?」
相良「分かりやすく言えば2回戦レベルの高校だよ」
斎藤&真田&吉田「へーえ、2回戦レベル………………えっ?」
中西監督「説明するとな今年転校生が2人入ったんだよ」
斎藤「と言う事はその転校生は?」
中西監督「かなりうまい2人共プロが注目しているレベルだ」
吉田「はあ、何か作為的な感じもするんですか?」
中西監督「そんな物はないさ。相手は2回戦レベルの高校だし2人共完全な家庭の事情って奴らしい。それで1年未満ながら公式戦に出場できる様にしたらしい」
真田「家庭の事情って?」
中西監督「プライベートの事だから話す訳にはいかん。それにそんな事より相手の事だ! まず1人は岡崎芳樹( おかざきよしき )、バッティングはうちの大下以上だ。次は筒井博人( つついひろと )、140キロのストレートとスライダーはプロも注目している。そして最後は主将の山内努(やまうちつとむ)だ。こいつは1年の頃から旭光で5番を打っている強打者だ!」
大下主将「この3人以外は?」
中西監督「他はさほどでもないが基本的にパワーの高いチームだ。それと今日の先発は七瀬で行くからな!」
七瀬「俺がですか?」
中西監督「1回戦から斎藤に投げさせてるからな。休みを入れようと思ってな」
斎藤「と言う事は俺は完全に欠場ですか?」
中西監督「うむ」
真田「斎藤はバッティングが良いし野手として出場させれば良いのに?」
吉田「斎藤は投手以外守った事はないからだろう」

斎藤はリトルや中学では一応、外野と一塁を経験している。高校では今のところ投手以外守った事はない。
中西監督「それもあるが準決勝では万全な状態にしときたいからな。野手として出場するんじゃ完全には回復しないだろうからな」
斎藤「まあ、俺は回復速度は良くも悪くもないですからね。お言葉にあまえて今日はベンチで観戦してます」
七瀬「おう。今日は俺に任せとけ!」

−地方大会3回戦 地方球場−
1年 真田 和希
後攻 先攻
赤竜高校 旭光商業高校
投手力 機動力 投手力 機動力
打撃力 守備力 VS 打撃力 守備力
意外性 経験値 意外性 経験値
総合力 総合力
近石 孝太郎 3年
3年 間宮 亮太郎 堂上 近太郎 3年
3年 大下 真二 熊沢 昭 3年
2年 相良 京一 岡崎 芳樹 2年
2年 嵯峨 蓬 山内 努 3年
2年 玖珂 良雄 瀬尾 文 2年
3年 七瀬 忍 梶木 祐樹 2年
1年 吉田 毅 鹿取 秋 2年
3年 後藤 猛 筒井 博人 2年

九重監督「分かっていると思うが相手はバッティングの良いチームだ。特に4番の相良には気を付けろ!」
筒井「分かっています」
岡崎「相手の投手は七瀬さんか」
九重監督「そうだ。七瀬は肘を壊してからパッとしなくなったがそれでも起用すると言う事は何かあるのかも知れん」
山内主将「ケガが治ったんですかね」
九重監督「そうだとしても今の旭光高校(  うち  )なら打てるはずだ。頼むぞ!」
全員「はい!」

放送席
霞「さてと3回戦の放送も私事、白銀霞ちゃんが担当します!」
武藤「このテレビを観てる人に取ってはみんな貴方がアナウンサーでしょ?」
霞「細かい突っ込みは放って置いて…………そう言えば解説も全部武藤さんなんでしょうか?」
武藤「ええ、みんな忙しいので私が全部解説する予定らしいです」
霞「つまり暇人な武藤さんだから選ばれたと」
武藤「暇なのは認めますけど一応これでもピッチングコーチの話とかあるんですよ」
霞「………………」
武藤「何ですかその信じられない物を見る様な眼はこれでも変化球には自信があるんです」
霞「そう言えば武藤さんのドロップは変化が凄まじいと兄が言ってましたね」
武藤「通算200勝は伊達じゃないですよ!」
霞「しかし投手部門のタイトルを獲得した事はなかったような?」
武藤「確かにそうですけど日本シリーズのMVPとノーヒットノーランを記録してるんですよ」
霞「そうでしたっけ?」
武藤「まあ、17年ほど前の事ですから覚えてなくても無理はありませんよ」
霞「なるほど、私は3歳で兄は7歳の頃ですね」

7回表 赤2−2旭 現在は2対2の接戦中で両校とも譲らない戦いが続いている
霞「両校4回に2点を取ってからと言う物、0行進が続きます!」
武藤「両投手、今日は調子が良いですからね。取れて3点が良い所でしょう」
霞「武藤さんの予想では追加点を取れた方が勝ちと」
武藤「ええ。赤竜高校は相良君、旭光高校は岡崎君が決めそうな気がしますね」
霞「この回はその岡崎君から始まりますから期待できそうですね」

七瀬「…………こいつに今日は打たれてるからな。慎重に行かないと!」
岡崎「ここまで4の3、1打点と俺が勝ってる。こいつのシンカーはまだ不完全だな」

七瀬が新しく作った球はクリティカルシンカーと大下が名付けた。握りはクリティカルシュートと同じただし肘より手首に負担がかかる握りになっている為に今の七瀬でも投げられる。しかし作って1ヶ月程度の球では完成度はまだまだなレベルだった。
大下主将(さっきクリティカルシンカーをタイムリーされたからな。ここはクリティカルシンカーでカウントを稼いでスライダーで勝負と行くか)
七瀬(コクッ)

岡崎「あまい!」

カキ―――ン!
間宮「だあっ!」

シュッ! パシッ!
岡崎「何っ!?」
霞「会心の当たりでしたが間宮君のファインプレーで1アウト!」
武藤「今のシンカーはコースも変化もあまかったですね。間宮君のファインプレーに完全に救われましたよ」

大下主将「クリティカルシンカーを見せ球にする事が気に入らないのか?」
七瀬「気に入らないんじゃなくて情けないんだよ。せっかく作った新球が全然通用しないんだから」
大下主将「バーカ、当たり前だろ。岡崎はプロのスカウトも注目するほどの打者なんだぞ。そんな奴に1ヶ月で作った変化球が通用する訳がないだろう」
七瀬「ハッキリ言うな」
大下主将「当たり前だ。負けたら終わりだからな。今のクリティカルシンカーだと三振奪うのが難しいが凡打させやすいと言う利点がある」

シンカーと付いているが実際はシュートの速度で落ちる為、凡打させやすい利点がある。
七瀬「分かった。バックを信じて投げる!」
大下主将「おう! さっきの間宮みたいにみんな助けてくれるさ!」

山内主将「ランナーもいないし一発狙うか!」
霞「次の打者はキャプテンの山内君、ここまで4打数2安打1打点と当たっています」
武藤「キャプテンだけあって能力は高いですね。ここは一発をもらわない様慎重に行きたいところです」

ククッ! ブ―――ン!
霞「空振り1ストライク! 何か変化球のキレが増したような?」
武藤「増したと言うよりは戻ったと言う感じですね。先ほど大下君と話していたから調子が戻ったんじゃないでしょうか?」

山内主将「変化球のキレが戻ったな。こうなると一発狙うよりミート中心に打った方が良さそうだな」

ククッ!
霞「見逃し1ボール!」
武藤「2球共ボール球と慎重に攻めてますね」

七瀬「よし!」

ズバ―――ン! ブ―――ン!
山内主将「しまった。追い込まれた!?」

霞「3球目は高目ボール球のストレートでしたが手が出たかこれで2−1となりました!」
武藤「球速が結構出てましたからね。それで手が出たんでしょう」

この後、ボール球を2球続け2−3となる。
七瀬(決める!)
山内主将(シンカーにこだわっているようだから決め球はシンカーだ!)

ククッ!
山内主将「なっ!?」

ブ―――ン!
七瀬(おっし!)

霞「最後はシンカーで三振を奪いました。しかし最後の球は今日一番の変化に見えましたが」
武藤「そうですね。確かに今日投げた中では最高の球でしたね」

大下主将(呆れた奴だな。試合でクリティカルシンカーを完成させやがった!?)

ガキッ!
瀬尾「あっ!?」

霞「続く瀬尾君はシンカーを打ち上げ3アウトチェンジ!」
武藤「さっきのシンカーを見ているせいか打ち上げてしまったようですね」

大下主将(変化がまた戻ったな。あの変化はどうやら一度きりらしいな)
七瀬(山内から三振奪った感覚を覚えなきゃな)

7回裏 赤2−2旭 5番の嵯峨から始まる
玖珂「ので期待できないな」
嵯峨「何だよそれ?」
玖珂「気にするな(上の部分とつなげただけだ)」

筒井「1点もやれないからな。間違っても長打はくらわないようにしないと」

霞「筒井君は現在2失点と順調に抑えています。しかし140キロのストレートなんて良く打てますね」
武藤「それだけ赤竜高校はバッティングの良い選手が多いって事ですよ」
霞「ちなみに嵯峨君は3打数3三振と完全にタイミングが合っていません」
武藤「ホームランか三振か、みたいなバッターですからね。しかしこういう試合ではこの手のタイプはかなり怖いですよ」
霞「さすがは経験者ですね」
武藤「………………………………」

心当たりがいっぱいあるらしく思い出して落ち込んでいる。

カキ―――ン!
武藤「!?」

筒井「マジ?」

霞「なんと余所見をしている間にスタンドへ入ってしまいました!?」
武藤「心臓が止まるかと思った。しかしこれで赤竜高校が1点リードですか」

審判「アウト!」
全員「へ?」
嵯峨「一塁ベースの踏み忘れですか?」

審判(コクッ)
岡崎「………………」

霞「なんと嵯峨君、一塁ベースを踏まずにホームへ返ったようです」
武藤「大ポカですけど何となく嵯峨君らしいですね」

筒井「命拾いした。岡崎に感謝しないとな」
岡崎(ドジな奴だしかし俺もホームラン打った時は気をつけよう)

嵯峨「すまん」
玖珂「マヌケ過ぎて何も言う気にはなれんな!」
嵯峨(グサッ!!!)
全員「……えっとそのくらいにしといた方が」
玖珂「まっこのくらいで許してやるか」
嵯峨「本当にすみません。七瀬さん」
七瀬「土下座までせんでいいっての、次の打席でまた頑張ってくれ!」
嵯峨「はい!」

玖珂(サッ!)

カキ―――ン!
筒井「うなっ!?」

霞「玖珂君も初球から打ちます!」
武藤「しかしあの難しい球を良く打ちますね」
霞「スライダーはかなり変化してましたね」
武藤「ええ。コースもコーナーいっぱいとプロでもヒットにするのは難しいですよ」
霞「さすがは悪球打ちの玖珂君ですね」
武藤「そうですね」

七瀬(ここはバントだな!)

コツンッ!
霞「ここは送ってきます」
武藤「七瀬君はミートもうまいですし勝負しても面白いと思うんですがここは手堅く来ましたね」

中西監督「決めて来い!」
吉田「頑張ります!」

スト―――ン!
霞「最後はフォークで決めに行きましたが外れてフォアボールです!」
武藤「コントロールが少しだけ悪くなって来てますね」

筒井「おかしいな?」
吉田「何とか歩く事はできたな」
中西監督「決めて来いと言ったんだからもっと振れば良いのに―――後藤!」
後藤「分かってます。代打ですね」
中西監督「うむ。佐山!」
佐山「はい!」

霞「赤竜高校はここで代打のようですね。後藤君に代わってピンチヒッター佐山君!」
武藤「春の甲子園でレギュラーだった選手ですね。ケガかと思っていたんですがどうやら代打として起用する為にベンチに置いているみたいですね」

筒井「誰?」
山内主将「甲子園でレギュラーとして出場した選手だ。打撃はかなりの物だったと思う」

ガキッ!
霞「初球から積極的に振って来ますね」
武藤「ヒットを打てば1点ですからね。ここは待つより打つですよ!」

筒井「なるほど確かにいきなりボールに当たるなんてセンスがある」
佐山(ストレート、スライダー、フォーク、どれも簡単に打てる球じゃないな。ここはフォーク狙いだ!)

カキ―――ン!

フォークが来たので迷わず引っ張って打つ!
近石「うらっ!」

パシッ! ポロッ!

サードの近石が横っ飛びにキャッチするがグラブからボールを落とす!
近石「間に合え!」

ファーストに投げるよりベースの方が近いので急いで三塁ベースを踏みに行く!
玖珂「遅い!」

しかし玖珂の足がいち早くセーフ!
霞「1ヒットで1点追加と思いましたがならずこれで2アウト満塁!」
武藤「赤竜高校も良く打ちますが旭光高校も良く守ります!」

佐山「ほっなんとかヒットになったか」

今のは内野安打だったらしい。
筒井「これは何が何でも次の打者を抑えないと」

真田「決めてきます!」
中西監督「待て!!」

真田は足の速さを買われてスタメン入りをしているが打つタイプと言うよりホームに返るタイプなのでここはまた代打を起用する。
真田「監督は酷い人です!」
中西監督「仕方ないだろう。打率2割のお前にこの場面は任せられん」
真田「ブーブー! まあ、許してあげますよ。ただし僕の代打に出た人が打てなかったらこの後、部員全員に食事をおごらせますから」
中西監督「お前だけだよ。俺にそんな事言うのは」
真田「それで誰を出すんですか?」
中西監督「そうだな。ここはミートのうまい安達かそれともパワーのある大杉か?」
安達&大杉(ワクワク!!)
真田「斎藤じゃないんですか?」
中西監督「忘れてたそうだ斎藤が居たじゃないか行ってくれるか斎藤!」
斎藤「はい!」
中西監督「頼もしいな!」
安達&大杉(シクシクシク!!)

霞「ここでまたもや代打です。真田君に代わりましてピンチヒッター斎藤君!」
武藤「そう言えば今日は控えでしたね。1回戦で満塁弾を放ってるしこれは期待できそうですね」

筒井「確か1回戦で大きいホームラン打ってたな」
山内主将「俺の見立てじゃ佐山よりも上の打者だ。ここは」
筒井「慎重にですね」
山内主将「いや、当たって砕けろだ!」
筒井「砕けたらダメでしょう!」
山内主将「それは言葉のあやだ。満塁だしカウントを不利にしたくない。お前、さっきからコントロールが落ちてきてるし」
筒井「分かりました。当たって砕けはしませんが勝負しに行きます!」
山内主将「頼むぞ!」

カキ―――ン!
筒井&山内主将「……………………」

霞「飛距離は文句なし、しかしこれはファールです! 斎藤君、2球目から振って来ました!」
武藤「さすがですね。1打席目なのに芯に当ててます。斎藤君のバッティングセンスは本当に大した物ですよ!」

斎藤「良い投手だな。しかし前に対戦した天野さんほどでもない」

カキ―――ン!
筒井「俺のスライダーを!?」

霞「4球目、スライダーを迷わずに打ちに行く!」

堂上「とりゃっ!」

パシッ! ゴロゴロゴロ!!!
霞「堂上君、ジャンピングキャッチ! しかし倒れた捕っていてチェンジなのか? それとも1点追加か?」

審判「――――――アウト!」
堂上「見たか!」
筒井「助かった」

斎藤「すみません」
真田「何の為に代打を出されたんだか?」

霞「この回も追加点はならずです!」
武藤「しかしこの回は守備が下手な高校とは思えない守備が良く出ましたね」
霞「実は守備が上手いとか」
武藤「それはないですね。みんな足は遅いですし捕球にも問題があります!」
霞「それは残念、実は下手と見せかけてるだけとかだったら面白いのに」

8回表 赤2−2旭 まだ接戦が続いている
霞「現在、試合は2対2の同点、先ほど代打で出場した斎藤君がセンターに吉田君に代わって佐山君がレフトにセカンドには後藤君に代わって安達君が入っています!」
武藤「接戦ですからね。斎藤君と佐山君には残ってもらったんでしょう」

中西監督「何で予定通り行かないんだ。おかげで斎藤の休みがなくなった」

斎藤「外野を守るのはリトル以来か」

七瀬「7番からか」

梶木「塁に出ないと」

ガキッ! パシッ!
斎藤(いきなり俺のところかよ)

霞「初球から振りますが飛距離は出ずセンターフライです!」
武藤「そろそろ疲れで変化が落ちてもおかしくはないんですが、むしろ前以上にキレてますね」

鹿取「まずは出塁だな!」

ガキッ! ガキッ! ガキッ!
霞「続く鹿取君は粘って粘って2−3のままです」
武藤「ここは粘ってフォアボールを狙っているみたいですね」

七瀬「しつこい奴だくらえ!」

ククッ! ブ―――ン!
鹿取「前の打席とは全然別物じゃないか!?」

霞「勝負球はシンカーで三振!」
武藤「決める時のシンカーは凄いですね!?」

カキ―――ン!
七瀬「うなっ!?」

霞「続く筒井君も初球からヒットを打ちます!」
武藤「追い込まれると不利と見て初球からいったんでしょうね」

筒井「2アウト1塁で近石さんか」
大下主将(まあ、今のキレなら問題ないだろう)

ククッ!
霞「スライダーを空振り三振しチェンジです!」
武藤「他の変化球もキレていますね」

近石「無念」

8回裏 赤2−2旭 まだ接戦中
間宮「打てる自信はないからフォアボールを狙うか」

ズバ―――ン!
霞「あっという間に追い込まれて2−2!」
武藤「別にあっという間じゃないですけど」

筒井(とどめはやっぱりスライダー(これ)だよな!)
間宮(先に追い込まれたか最後は多分スライダーで来るはずだ)

ククッ!
霞「スライダーを空振り三振し1アウト!」
武藤「キレもありますがあの速さで変化されると高校生には当てにくいでしょうね」

間宮「ミートには自信があったんだがな」
大下主将「ここはアベレージヒッターの俺に任せておけ!」
筒井「何かこの人は苦手だな」

霞「次の打者は大下君、今日は4打数4安打と当たっています!」
武藤「筒井君と相性が良いみたいですね」

大下主将(シュッ!)

カキ―――ン!
霞「追い込まれてスライダーが来ましたが打ち返します!」
武藤「難しい球だったんですが良く打ちますね」

筒井「何でコース付いたのに打たれるんだか?」

相良「―――決めるか!」

霞「ここで4回に2ランホームランを打っている相良君の登場です!」
武藤「1点が欲しい試合では怖さも数倍増しでしょうね」

筒井「問題はこの人か……次も怖いけど」

カキ―――ン!
霞「2−3からストレートを投げましたが迷う事なく相良君が打ちます。これはスタンドまで届くのか?」

鹿取(パシッ!)

審判「アウト!」
筒井「助かった」
相良「届かなかったか」

霞「期待の相良君はセンターフライに倒れ2アウトです!」
武藤「レフトかライトならスタンドに入ってたんですけどね。センターに飛んだのが不運でしたね」

筒井「次は嵯峨か―――さっきの一発もあるし慎重に行くか」

霞「次の打者は先ほど色んな意味で驚かせてくれた嵯峨君です!」

嵯峨「前の打席の時の感覚だ!」

ボール球をブンブン振って一気に2ストライクと追い込まれる!
筒井(とどめはスライダーか―――さっきはスライダーをスタンドに持っていかれたんだけどな。まあここはキャプテンのリード通りで行くか)
嵯峨(ダメだ。全然タイミングが合わない――――――もうここは思い切って)

カキ―――ン!!!

ボールは一瞬にして消えた。
全員「……………………」

霞「―――えっと入りました。2ランホームランです!」
武藤「あの入ったんですが今の全然見えなかったんですが?」
霞「打球がレフトポールに突き刺さったらしいです!」
武藤「本当だ」

嵯峨「やったぜ!」
玖珂「浮かれるのは良いがさっきみたいなミスをするなよ」
嵯峨「さすがに2回もあんなドジ踏まねえよ」

今回は踏み忘れもなくホームに返って赤竜高校が2点勝ち越す!
全員「ナイスホームラン!」
嵯峨「いやいや照れますなあ」
玖珂「しかしさっきのお前のフォーム?」
嵯峨「フォーム?」
相良「気付いてなかったのかお前さっきクラウチングスタイルで振ってたんだぞ」
嵯峨「そうなのか俺はもうこうなったら三振かホームランか思い切って行くしかないって思って振っただけなんだけどな」
玖珂「固めたフォームでなく全く別のフォームで打つなんて真似は俺くらいしか出来ないと思っていたんだけどな」
嵯峨「フッ参ったか」
玖珂「誉めてねえよ!」
相良「ホームラン打ったのは凄いけど問題はこの後なんだ」
嵯峨「?」
相良「ああ言う風に全く別のフォームで打って結果が出たからな。これが吉と出るか凶と出るか」
嵯峨「?」
玖珂「直球で言うとだ。お前はこれからスランプになるかも知れない」
嵯峨「何で?」
相良「フォームってのは繊細だからな。少し狂っただけでプロもスランプになる」
嵯峨「要するに俺がスランプになると」
玖珂「確定は出来ん。俺みたいな例外も居るしな。要するにフォームを変えていきなり打つのはやめた方が良いって事だ」
相良「そういう事、クラウチングにするにも練習でフォームを固めてからにした方が良い」
嵯峨「フォームチェンジは考えてないんだけど」
玖珂「まあ、いきなり結果が出たし何となくお前に合ってるフォームだと思うし考えるだけ考えてみても良いんじゃないか」
嵯峨「うーん、まあ、考えるだけ考えてみるわ」

霞「何はともあれこれで4対2になりました」
武藤「後1回で2点差と言うのはきついですね」

筒井「…………なんで」
山内主将「立て筒井! 試合はまだ終わってないぞ!」
筒井「分かってます。しかしさすがにあの一発は堪えました」
山内主将「あれは不運な事故だ。実力で負けた訳じゃない」
筒井(コクッ!)

玖珂(マグレだろうが結果は結果か俺も負けられん!)

カキ―――ン!!!
筒井&山内主将「……………………」

霞「――――――入りました。外角高目のストレートをライトスタンドへ!」
武藤「球速が落ちたとは言えあまい球ではなかったですね。打った玖珂君を誉めるしかないですよ。しかし3点差はもう絶望的ですね」

筒井「だあっ!」

ククッ!
七瀬「なあっ!?」

霞「恐ろしい変化をしたスライダーで七瀬君を三振に取ります!?」
武藤「何かホームラン打たれてレベルアップしたみたいですね」

筒井「すみません」
山内主将「この回にお前は失投らしい失投はしなかった。誰も責められないさ」
岡崎「そういう事だな。お前は限界だろうし次の回で逆転してみせるさ!」

9回表 赤5−2旭 まだまだ諦めてたまるかと言う旭光高校
七瀬「後3人! 必ず抑える!」
堂上「俺と熊沢が出れは岡崎が必ず打ってくれる! こんなマグレ勝ちされてたまるか!」

霞「この試合の終わりも見えて来たか、ついでに武藤さんの予想は当たりません」
武藤「いきなりフォームを変えて打つなんてさすがにこんな展開は読めませんよ!?」

ガキッ!
嵯峨(ポロッ!)
七瀬「おいおい」

霞「サードゴロの打球を嵯峨君がトンネルしてノーアウトでランナーが出ます」
武藤「打ってミス守ってミスと忙しい選手ですね」

堂上「―――とりあえず出塁はできた!」

ククッ!

審判「フォアボール!」
熊沢「よし!」

霞「続く熊沢君にはストレートのフォアボール!」
武藤「さっきのエラーで調子が狂ったみたいですね」

玖珂(まったく2人とも試合を盛り上げてくれるぜ)
岡崎「筒井! 仇は討ってやる!」
七瀬「仇は俺じゃなく嵯峨玖珂コンビだろう」
嵯峨&玖珂「コンビって言うんじゃねえ―――!!」
七瀬「…………地獄耳達(デビルズイヤー)
大下主将(さてと歩かす訳にはいかないしどう抑えるか?)

ククッ! カキ―――ン!!

大下は全球、クリティカルシンカーで責めると言う大胆なリードをしたが追い込まれてから岡崎が打ち返す!
岡崎「おっし!」

霞「タイムリーヒット! ランナーが1人返ります!」
武藤「2点差になりましたね。七瀬君の調子次第じゃ逆転されるかも知れませんね」

七瀬「………………」
山内主将「ホームランを打てば逆転か」

ガキッ!
山内主将「しまった!?」

霞「傍目には失投に見えたんですが打ち損じてピッチャーフライ!」

七瀬「(ポロッ!)あれ?」

霞「あっ七瀬君が落球しましたがインフィールドフライを宣告されたので問題はありません」
武藤「いえいえ問題は大有りですよ。ああ集中力が散漫してたら」

大下主将「七瀬、どうしたんだ?」
七瀬「すまん」
大下主将「謝る前に何で落としたのかを聞いているんだ?」
七瀬「………………」
大下主将「―――春の大会と同じでダンマリか」
七瀬「!?」
大下主将「去年と違って今回は斎藤って言うエースが居るんだ。無理する必要はないだろう!」
七瀬「悪い。確かにそうだな!」

スタスタスタスタ!
七瀬「すみません。交代をお願いします!」

霞「七瀬君が交代の様です。ピッチャー、七瀬君に代わって斎藤君! それとセンターには大杉君が入ります!」
武藤「どうも調子が落ちたのはエラーが原因ではない様ですね」

中西監督「真田、吉田、すまんが七瀬に付き添って病院まで一緒に行ってくれ!」
七瀬「大丈夫ですよ。俺、1人で行きますから」
真田「吉田!」
吉田「ああ!」

ズズズズズ!
七瀬「ひきずるな!?」

真田と吉田は無言で七瀬をひきずって病院まで運ぶ!
斎藤「後続を2人三振にとれば良いだけだろう!」

ズバ―――ン!
瀬尾「うっ!?」

ズバ―――ン!
梶木「ちくしょう!?」

霞「代わった斎藤君! 後続を三振にとって赤竜高校の勝利です!」
武藤「最後は138キロを計測しましたね」

斎藤「うっし!」
全員「勝った!」

ワァ――――!!

霞「観客席からも熱い歓声が起こります!」
武藤「最後の方は盛り上がりましたからね。観客は満足した試合だったんでしょう」
霞「武藤さんは予想が外れて残念な試合でしたね」
武藤「まあ、1回負けたら終わりの高校野球でこう言う展開があるから面白いと言う人も居ますが私としては―――」
霞「これは兄の自論ですがどんな経過になろうとも結果が出せなきゃ意味はないだそうです」
武藤「結果良ければ全て良しですか勝った方はそれで良いかも知れませんが負けた方は―――」

山内主将「すまん。今日負けたのは間違いなく主将の俺の責任だ!」
筒井「いえ5失点した俺が悪いんですよ」
岡崎「違いますよ。負けたのはみんなの責任ですよ!」
瀬尾「そうですよ。俺達も打てませんでしたし」
堂上「俺もエラーで出塁くらいだからな」
九重監督「そう言う事だ。お前に取っては悔いの残る終わり方だろうがこれでお前の野球が終わった訳ではないだろう。これからは今日みたいなミスは二度としない気持ちで頑張れば良い!」
山内主将「はい! 頑張ります!!」
近石「これで俺達も引退だな」
熊沢「ああ。けどこの3年間は楽しかったし満足してる!」
堂上「俺もだ!」
山内主将(はあ、悔いが残ってるのは俺だけか)

喫茶店MOON
月砂「それで七瀬君だっけのケガは?」
斎藤「久し振りに先発で投げ過ぎたせいで疲労を強く感じ過ぎたとか言ってたよ。実際決勝までには十分間に合うらしいから問題ないと思うよ」
月砂「それは何よりね。もし七瀬君がいなくなったらアンタが1人で投げなきゃ行けないだろうし」
斎藤「一応投手経験者はいるけど高校じゃ野手だからな。場合が場合だからしばらくはそいつがベンチ入りかな」
月砂「しかし、140キロ何てプロ並の投手に良く勝てたわね」
斎藤「まあ、1回戦で当たった遠藤さんも同等かそれ以上の投手だったしね。まっ実際、赤竜高校(   うち   )の打撃力は全国でもかなりの物だろうね」
月砂「相良君、1人のチームじゃないって訳か」
斎藤「そう言う事、その証拠に大下主将、嵯峨先輩、玖珂先輩、七瀬先輩が活躍した試合だったからね」
月砂(それにしても相良君か懐かしいな。大きくなってるんだろうな)

こうして赤竜高校は3回戦も勝利しこの勢いを続け決勝まで勝ち上がり甲子園への切符を手に入れた。