−2004年 11月−
プロ野球も新時代に突入、新規入団の東北楽天ゴールデンイーグルスに入団した二階堂大樹がこの物語の主人公である。
二階堂「カープじゃなかったけど、まあ良いか」
上記の通り主人公にして5球団競合のドラフト1位で東北楽天ゴールデンイーグルスがクジを引いた。本人はカープ希望でクジがハズレたのが残念だが前向きに入団を希望している。1位の名に恥じない能力を持ち新人王候補の筆頭と言えるだろう。
???「何はともあれ良かったじゃないの」
この女性は月杜真衣と言って東北楽天ゴールデンイーグルスがドラフト8位で獲得した。リードに定評のあるキャッチャーだがプロで通用するのは厳しいとの意見が多い。
二階堂「つうかお前も8位で指名されたんだっけ?」
真衣「つうかそれくらい知っとけ、話題性はあんたより上なんだからね!」
二階堂「ま、女性選手で野手は史上初だからな。しかもキャッチャーってマジかよって感じ」
真衣「それ古い」
二階堂「古風と言ってくれ」
真衣「もう何がなんだか、はあ」
二階堂「人の顔見てタメ息吐くなよ。傷付くだろう」
真衣「そんな器か! それより連君や結依さんがお祝いしてくれるって話だけど」
二階堂「うーん、どっちかと言えば俺達がするんじゃねえ?」
真衣「卒業と同時に籍を入れるって話だけど、連君は大学に行くから挙式は挙げないって話だけど」
二階堂「それでもお祝いはしとかないとな」
真衣「まあね。2人にはお世話になったし異論はないけど」
二階堂「それでは行きますか」
??「………………」
二階堂「あの人何やってんだ?」
真衣「私に聞かれても知らないわよ。いつものあれ何じゃないの?」
二階堂「えっと巫女さん、何してるんですか?」
巫女さん?「大樹さんに真衣さん、今、悪霊を祓っている所なのでちょっと待って下さい」
彼女は赤竜神社に住み込んでいて名前は新野巫女とまんまらしい。さっきからお祓いと言うかブツブツと祝詞らしい物を唱えている。
二階堂&真衣「……………………」
暫くして祝詞が終わったか巫女が二階堂達に話しかける。
巫女「暫く振りでした。用事は結依さんと連さんにですね」
二階堂「ええ、俺達2人共ドラフトで指名されたんで報告にと」
巫女「まあまあ、それは良かったですね…………しかしドラフトって何ですか?」
二階堂&真衣「……………………」
真衣「こほん、要するに私達はプロ野球選手になったんですよ。それで卒業したら宮城(で良いのよね?)に行く事になったんです」
巫女「それはそれはおめでとうございます。なるほど、それでは結依さんと連さんの所にご案内しましょう」
二階堂(相変わらずの天然振りだな)
とにかく連こと日比野連と結依こと天神じゃなかった日比野結依(と名乗っている)の所に案内されるのだった。
結依「ようやく来たのじゃ」
連「よう」
二階堂「ん? 何だ来るの分かってたのか?」
連「こっちが行かなければそっちから来るだろうってな。記者連中が集まって苦労してるだろうから行くのはやめたんだが」
真衣「さすがは連君、ナイス気遣いよ」
結依「むむむ、やはり行かないが正解じゃったか」
二階堂「まあ来たら来たで嬉しいからどっちでも良いんですけどね」
連「そう言うと思ったよ。とにかく来年からプロ野球選手だな。おめでとう」
二階堂「個人的にはお前そっくりの斎藤さんと対戦して見たかったけどな。ま、別リーグじゃ仕方ないか」
連「ん? 確か2005年から交流戦があるんじゃなかったっけ?」
二階堂「え?」
真衣「そう言えばそんな話もあったわね」
結依「つまり別リーグでも試合はあると言う訳じゃな」
二階堂「ふっふっふ、打ち砕いてやる!」
連「その調子、テレビ観ながら応援するよ」
二階堂「うむ。まあお前が何処の大学に行くか知らんが近くで野球する時は必ず観に来い」
連「暇だったらな」
真衣「ところで結依さんはここに残るんですか?」
結依「うむ」
真衣「うむって心配とかないんですか?」
結依「たかだか4年じゃ問題ないのじゃ」
連「ま、携帯で連絡できるし暇な時や会いたくなれば戻って来るし」
二階堂「それじゃ俺の試合はいつ観るんだよ」
連「テレビでかな」
二階堂「所詮、男の友情なんて女の愛情の前には霞んでしまうんだな」
真衣「何気色の悪い事言ってんのよ」
二階堂「だって連とは何年間も幼馴染やってんだぞ。出会って数ヶ月の結依さんに完膚なきまでに敗北するなんて」
結依「そりゃ連とは千年の宿縁で結ばれておるからな」
二階堂「千年っ!?ダメだ。とてもじゃないが叶わん!?」
連「と、とにかくプロ入りおめでとう。大樹や真衣ならきっと1年目から結果は出るさ!」
真衣「うーん、どうだろう。近年怪物数も減って来たからね。大樹はともかく私は2軍からだろうし」
二階堂「人気面では早くも負けそうだけどな。そう言う意味じゃ客寄せパンダとして使われるんじゃねえ」
真衣「やな言い方するわね」
二階堂「嫌なら活躍すれば良いだろう。結果を出せば誰もそんなふうに言わなくなるだろう」
真衣「そりゃそうだけど、実際ミートに自信はあってもプロで3割なんて打つ自信はないからね」
二階堂「はあ、ちょっとはあの『風祭柚』さんを見習え。あの人は女性でも甲子園に出れる様プロの1軍相手に立ち向かったんだぞ。大体、あの人の母校でお前も初の『女性野手』のプロ野球選手になって憧れる子達もできるんだ」
真衣「緊張して来た」
二階堂「ったく相変わらず意気地がねえな」
連「まあまあ、そうプレッシャーをかけるなよ。最初は2軍でも良いから少しずつ結果を出して行けば良いよ」
真衣「そうだね。ありがとう」
二階堂「これからプロって苦しいところで頑張るんだぞ。あんまりあまやかすなよ」
連「うーん、でも普通は2軍で頑張って結果を出して行くからね」
二階堂「近年は高卒で記録が出まくってるけどな」
連「まあ百年近い歴史のプロ野球ならそう言う事もあるんじゃないかと」
二階堂「まあな。とにかく俺は新人王はもちろんホームランや打点のタイトルも狙ってやるぜ!」
連「大樹は高須さんに憧れてんだよな」
二階堂「ああ、まあ、あの人の世代もFAでメジャーに行ったし結果的に見れば楽天でも良かったけどな」
連「プロ選手もどんどん渡米するな」
二階堂「そう。斎藤さんの世代もFA権取ったらいっぱい出て行くだろうからな。俺が新たなスターとして頑張らないとな」
連「MVPの天野さんもFAで出て行くけど近鉄を日本一にした名監督の天野さんに4番の景山さんといるし1年目から優勝を狙えるかもな」
二階堂「どうだろうな。オリックスにもそっちの選手は流れてるし」
結依と真衣は連と二階堂を気遣って部屋から出る。
結依「うーむ。野郎に嫉妬するのも妙な物じゃ」
真衣「ま、気持ちは分からなくもないですけど」
結依「ほほう、やはり真衣も大樹とそう言う関係を希望か?」
真衣「違いますって男の世界に足を踏み入れた時からやっぱり体力的に男性には嫉妬してしまうんですよ。もし生まれを選べるんなら私は何で男として生まれてこなかったんだろうって」
結依「それでもプロ入りできたんじゃから大した物じゃと思うがの」
真衣「大樹の言う通りだと思うんですよ。私はただの客寄せパンダとして指名されたんじゃないかなって」
結依「それは考え過ぎじゃろう。確かにプロ野球も人気面の評価もするが実力もない選手をただ指名するだけなら過去にも前例が山ほどあるじゃろうし」
真衣「私がその初めてじゃないかって思うんですよ」
結依「むむむ、お主、まだ足を踏み入れておらんじゃろう。今からそんなじゃとてもじゃないが通用せんぞ」
真衣「分かっています。けど昔から大樹にも連君にも嫉妬するんですよ」
結依「別に構わんじゃろう。嫉妬するのは別に変なことじゃないじゃろうし」
真衣「え?」
結依「嫉妬しても良いじゃないか、ただ、それを己の内と認めて頑張るのじゃ」
真衣「結依さん」
結依「と言うかお主、下らん野郎に良く落とされなかったの?」
真衣「は?」
結依「いや、お主、見てたらな。男に騙されやすそうなタイプに見えるのじゃ、ま、相談事は男なら大樹か連、普通は女性に相談すると良い」
真衣「騙されやすそう」
結依「泣け泣け。涙がなくなるまで泣けば少しはネガティブな感情も消えるじゃろう」
真衣「はあ、何か泣いたらスッキリしました。こっちに来る予定があればこれからも相談させてもらいます」
結依「うむうむ。楽天戦はいつでもテレビで観れる様に契約しておくからドジは踏むなよ」
真衣「はい」
とりあえず話も終わり2人で帰る。
二階堂「何かすっきりした顔してるな。結依さんとどんな話したんだ?」
真衣「そう言うそっちは連君とどんな話したのよ?」
二階堂「質問で質問を返すなよ。まあいいか、連とは近くに行った時にはメシでも一緒に食べる約束とかだよ相変わらず友情より愛情って事で結依さんを優先だけどな」
真衣「そんなに悔しいならあんたも彼女作ったら」
二階堂「作ろうにも誰かさんが傍にいるからな。彼女連れだと思われてモテねえんだよ」
真衣「ま、それはお互い様だけどね」
二階堂「まあな。そう言うお前は連の事がずっと好きだと思ったけど違うらしいし」
真衣「連君は友達として好きなのよ。昔から優しいお兄さんって感じだからね」
二階堂「(お兄さんって本当のお兄さんがかわいそうだな)まあ、あいつは友達としては良い奴だけど、勝負師としてはどうなのかね?」
真衣「優し過ぎるもんね」
二階堂「ああ、そう言う意味じゃ今のあいつの方がベストなのかもな」
真衣「そうね。結依さん、変な所もあるけど文句なしに良い人だもんね」
二階堂「歳の差がちと気になるけどな」
真衣「良いんじゃない。姉さん女房は何だっけ?」
二階堂「知らんし」
真衣「うーん、そうそう姉さん女房は金のわらじをはいて探せだ」
二階堂「…………まだ考えてたのかよ」
連「どうかした?」
結依「いや、あの2人これからどうなるかと思っての?」
連「大丈夫だよ。あの2人ならきっとプロでも頑張って行けるよ」
結依「いや、そっちではなくてな」
連「?」
結依(まあ、仮にそうなるとしても大分先の話になりそうじゃの)
自信家の二階堂と自信薄の真衣と対照的な2人だがこうしてプロの世界へと彼らは足を踏み出すのだった。