第3章 甲子園への壁

−1989年 7月−
久住の件から冥空高校は良い雰囲気で夏に向かって行った。地方大会でも勝ち上がり決勝に進出していた。
燕「決勝で僕が登板するとは!?」

冥空高校はエースが不在だったが燕の才能は認められ1年でエースとなった。
神坂監督「確かにお前はバランスが整っているがエースと言えるほど凄い投手じゃない。だが、ここまでみんなを導いてくれたのはお前だと俺は思っている!」
轟「そうだな。失点も少なくはないけどピンチ時のピッチングは格好良かったな」
久住「当然だ。俺の弟だからな!」
日下部「久住君はコンバートしたばっかりだしきっと秋にはレギュラーになれるよ!」
久住「さすがに秋にもベンチに入れなかったから泣いてしまうだろうな」
遠山「身体能力は既にレギュラーレベルだ。後はエラーがなくなれば問題なくレギュラーに選ばれるだろう!」
久住「エラーしたつもりはないんだけどな。つうか音で落下地点まで走るってできないし!?」
轟「キャプテンはこなしてるけどな」
久住「キャプテンの守備は超高校級だからな。課題のバッティングをなんとかすればドラフトにも確実にかかるって噂されているし」
日下部「つまり久住君がキャプテンに追いつけばプロ入りも夢じゃなくなるんだよね!」
久住「おっしゃ! やってやるぜ!」
轟&遠山(単純バカ)
上条「ひそひそ(なんか日下部先輩、どんどん久住先輩の扱いが上手くなってますね)」
轟「ひそひそ(まあな。ケンカしてたのが懐かしいくらい違和感なく接してるな)」
燕「ひそひそ(まあ兄さんも単純だからね)」
遠山「ひそひそ(日下部も結構単純だし性格的に近い物があったんじゃないかな)」
轟「ひそひそ(そうだな。いっけん性格は違っても本質は似ているって事もあるだろうし)」
上条「ひそひそ(結局は似た者同士って奴ですね)」
轟&遠山「だな」
久住「そこひそひそ話してないでとっとと練習手伝え!」
燕「兄さん、今日は試合だし兄さんはベンチ入りもしないよ」
久住「そうだったな。はあ、俺は先に帰って練習するよ!」
轟「って勝ったら甲子園負けたら夏が終わるって試合なのに観て行かないのか!?」
久住「応援なら他にもいるしな。俺ら補欠組は帰って練習してレギュラー獲るぞ!」
全員「おう!!!」

久住は人望があるらしくみんなと一緒に学校へ帰って行く。
遠山「本当に帰ったな」
全員「……………………」
神坂監督「やれやれ本当にマイペースな奴だ」
燕「帰らして良いんですか?」
神坂監督「練習しに帰るって言ってるしな。それにああまでやる気になっていると止めるのもバカバカしい」
上条「そりゃそうだ。練習熱心になって責めるのも変ですもんね」
神坂監督「まあやりすぎても困るんだが、今日1日程度なら俺がいなくても問題ないだろう。あそこには専属のコーチもいるしな。それよりお前達は目の前の敵を倒す事だけ考えろ。勝てば甲子園、負ければ上級生の夏が終わる!」
轟「ですね。先輩達の為にも無失点で抑えて行こうな!」
燕「はい!」
上条(ここまで完封もしていないのに良くハッキリとうなずけるよなまあ燕らしいと言えばらしいのかな)

決勝戦もいよいよ始まった。相手は名門だが冥空高校ほど目立った選手はいない。だが長所もないが短所もなくそうそう勝てるとも言い切れない相手だけに不安もあるのだった。

−地方大会決勝戦 地方球場−
3年 尾上 駿
後攻 先攻
冥空高校 千歳高校
投手力 機動力 投手力 機動力
打撃力 守備力 VS 打撃力 守備力
意外性 経験値 意外性 経験値
総合力 総合力
上坂 潮 3年
2年 日下部 美能留 小池 肇 2年
3年 金本 晴己 小早川 尚次 3年
3年 桜庭 慶一郎 太田黒 武 3年
2年 遠山 章太 岩佐 轟雲 3年
2年 轟 賢太郎 花浦 春日 3年
3年 福元 恭司 友坂 力 2年
1年 上条 響 中久保 黄河 2年
1年 久住 燕 葛葉 完 3年

放送席
類「それでは地方大会決勝戦をお伝えします。私はまあ(るい)と申す物です。と言う訳でよろしく!」
越智「はあ、変わった自己紹介ですね」
類「色々と訳ありでしてまあ私の事よりも解説はなんとドラゴンズでタイトルも獲得した越智海斗(  おちかいと  )さんです!」
越智「タイトル獲ったと言ってもお世辞にも活躍したとは言えませんでしたからね」
類「全体的に評価すればそうかも知れませんね。しかし長く頑張った選手でもタイトルが獲れなくて悔しい思いをしている人もいますからね」
越智「ちょっと失言でしたか、しかしアマの大会でプロの解説ってのも珍しいですね」
類「そうですね。まあ越智さんが先陣を切れば珍しくなくなりますよ」
越智「そう言う受け答えを期待した訳じゃないんだけどな。それに先陣は他にいるだろう(多分)」
類「ま、6−4で冥空高校が有利と言われていますがとにかく決勝戦をお伝えします」
越智「適当なしかし決勝だけあって均衡してますね。面白い試合になりそうですよ」

1回表 冥0−0千 いよいよ2年目の決勝戦も始まった!
轟(相手のレベルは低くはないが無明の様に高いと言う訳でもない。2失点以内に抑えれば問題ないだろう。しかしさっきも言った様に今日は無失点で抑えて行くぞ!)
燕(はい!)
轟(良い返事だ。このチームは小技が上手い。付け入る隙は与えずテンポ良く抑えて行くぞ!)
燕(小技が上手いのはこちらもですよ!)
轟(だな)

ズバ―――ン!
類「1番の上坂君でしたが一度も振らずに見逃し三振に終わりました!」
越智「130キロと1年生ながら速いですね。コントロールも良さそうですし崩すのは難しいかも知れませんね」
類「ちなみに千歳高校は貧打と言われていますがクリーンナップの打線には定評があります!」
越智「クリーンナップ以外の打線は大した事がないんですかね? まあ、観て行けば分かるか」

上坂「かなり速いな。完投タイプじゃないし作戦通り粘ってスタミナ切れを誘うのが良いと思う」
葛葉主将「そっか、じゃあ俺達らしく粘って行こう!」
全員「ああ!」

ガキッ!
類「小池君はスライダーを打ち上げてセカンドフライに倒れます!」
越智「良いスライダーを投げますね。さすがに1年エースだけあって実力もありますね」

小早川「ふっ!」

カキ―――ン! パシッ!
燕「入ってる!?」

類「会心の当たりでしたが久住君のグローブに入り3アウトチェンジです!」
越智「なるほど、クリーンナップはやる見たいですね。グラブに入ったのは偶然かな?」

最後は少し危なかったが三者凡退と燕は良いスタートを切った。
燕「小早川さんって人ミートが上手いですね」
轟「全国レベルで見ればそれほどでもないが地方レベルじゃ結構巧打者だな」
燕「話聞いてると僕の仕事は楽そうですけど」
轟「いや、秀でたバッターがいなくても粘り勝って来たチームだ。その証拠に全試合1点差で勝ち上がって来ている。一度のミスが試合の勝敗を決めかねない!」
燕「油断大敵って事ですか」
轟「とにかく今日は無失点に抑えるぞ!」
燕「はい!(ここで勝てば甲子園だ。兄さんの為にも頑張るぞ!)」

1回裏 冥0−0千 燕は初回を三者凡退と調子の良さを見せる!
葛葉主将(シュッ!)

ズバ―――ン!
尾上「右バッターにはきついな!?」

葛葉は右のサイドスローで変化球とコントロールが武器であり右打者の尾上は手が出ず見逃しの三振に倒れる。
類「最後はアウトコースにストレートが決まり見逃しの三振に倒れます!」
越智「球速は120キロ前後ですがコントロールと変化球は良いとさすがに決勝だけあってレベルが高いピッチャーですね」

葛葉主将(シュッ!)

ガキッ!
日下部「なかなか難しい!?」

スイッチヒッターの日下部も葛葉の変化球に対応できず凡退する。
類「日下部君もサードライナーに倒れて2アウトです!」
越智「ストレートと変化球の見分けが難しく狙い球をしぼりにくいとリリースが上手いですね。まだ2人抑えただけですが投球術はかなり良いですね!」

カキ―――ン! パシッ!
金本「正面かよ!?」

類「良い当たりでしたがショート正面の当たりで3アウトチェンジです。しかしお互いの3番は良い当たりをしますね」
越智「彼らに共通しているのは左打席ですか、ひょっとしたら左バッターがカギになる試合かも知れませんね」
類「先発しているピッチャーは両方右投げですしそうかも知れませんね」
越智「久住君はストレートとスライダー、葛葉君はシンカーなど各変化球が武器と両投手がどれだけ失点を少なくするかがポイントになる試合かな。逆にバッターはどうやって点を取るのか、まだ始まったばかりだから結論は出せませんけどなかなか面白い投げ合いになるんじゃないですかね」
類「なるほど、それでは次回をお楽しみに!」

序盤は両校様子見なせいか試合は動かず両投手は無失点に抑えて行く。そして試合は中盤に入る。

6回表 冥0−0千 ここまで無失点と両投手は決勝に相応しいピッチングをしている!
燕「はあはあ」
轟「やっぱり完投は難しいか、こう言う展開だと最後まで投げて欲しいけど、ここで無理もさせたくないし、この回だけでも頑張ってくれ!」

燕は完投タイプではなく今日の様に球数の多い試合ではスタミナ面の問題もあった。

ズバ―――ン!
岩佐「そろそろ限界だな」

類「ここでコントロールが乱れたか、この回、最初のバッターの岩佐君をフォアボールで歩かせてしまいます!」
越智「前の回から疲労が目立って来ていますね。球数は既に100球以上ですし1年生だとまだまだスタミナは不足しているだろうし当然と言えば当然なんですが」

ククッ!
花浦「良し!」

類「続く花浦君もバントを警戒してかフォアボールで歩かせてします。これで今日4回目の四死球となりました!」
越智「ここまで4イニングで2回、そして1イニングで2回と明らかにスタミナ切れですね」

神坂監督「………………」
轟「待って下さい!?」
神坂監督「勘違いするな。交代じゃない」
轟「え?」
神坂監督「燕、1人で抑えようと思うな。エースとしての責任を持つのは良い事だが、お前の後ろにはおまえを守ってくれる野手達がいる事を忘れるな!」
燕「あっ!?」
福元主将「俺達は後輩1人に引っ張ってもらうほど頼りなくはないさ。それに守備は俺の得意分野だ。しっかり見せ場を作ってくれ!」
燕「はあ?」
神坂監督「このアホの発言はともかく野球は個人競技ではなく団体競技だ。その事を忘れるな!」
燕「はい!(そうだ。野球は1人で勝てる物じゃない。打たれてもみんなが守ってくれる。怯えずストライクに投げよう!)」

コツンッ!

しかし千歳高校も相手の弱点を突くのが上手くピッチャー前にボールを転がして来る!
燕「げっ!?」
友坂「ふっふっふ、この試合もらったな!」

現在バント処理の上手い内野手はいなく唯一フィールディングの上手い燕も疲労で上手く行かずノーアウト満塁のピンチを迎える。
類「なんでもないピッチャー前の送りバントでしたが誰も処理できずノーアウト満塁となります!」
越智「ここがこの試合のポイントになりそうですね。まあ1点は諦めて1個1個アウトを取って行くと良いと思います」

遠山&桜庭「すまん!!」
燕「いえ。僕がちゃんと捕ってれば」
轟「過ぎた事を言っても仕方ない。とりあえずスクイズの可能性もあるからみんな前よりに守って行こう!(俺もまだまだだな。ここで送りバントくらい読まないと!)」
燕「はい」遠山&桜庭「ああ」
轟「そんな顔しちゃダメだよ。ここは何がなんでも抑えるって気持ちで行かないと!」
燕「そうですね!」遠山「その通りだな!」桜庭「うむ!」
神坂監督(ふむ。良い感じだな。だが気持ちだけではどうしようもない事もある。今までの練習を思い出してここで成果を見せろ!)

ククッ!
類「中久保君は一度も振らずに見逃しの三振ですね」
越智「うーん、四死球狙いなんでしょうね。しかし打ち頃のボールでしたし個人的には振って欲しかったですね」

基本、現在の千歳高校に自分で決めると言う選手はいない。そう言う意味では消極的で母校の応援団にも良い印象は持たれていない。しかし決勝まで勝ち上がって来るだけあって味方同士の連係は上手く意思疎通のレベルも高い。
中久保「すみません」
葛葉主将「いや、お前の判断は悪くない。言ったら悪いが併殺に倒れる可能性も高いし俺や上坂に任せた方が確率は高いだろう!」
中久保「後を頼みます!」
葛葉主将「もちろんだ。こんなチャンスを逃がす訳には行かない!」

カキ―――ン!
日下部「抜かせない!」

シュッ! パシッ! シュッ!
葛葉主将「なんだとっ!?」

類「ここで素晴らしいプレーが出ました。セカンドの頭を越える打球に追いつきそのままセカンドに投げてダブルプレーで一気にチェンジです!」
越智「今のは見事でしたね。普通ならセカンドの頭を越えたのにそれを読んで迅速かつキャッチすると守備はかなり良さそうですね!」

燕「日下部先輩!」
日下部「今日はバッティングで活躍できないから守備で頑張らないとね!」
遠山「しかし打って走って守ってと頼りになる奴だな」
轟「だからこそレギュラーなんだけどな。俺達も俺達のできる事をやって行こう!」
全員「おう!」
神坂監督(この場面を無失点で抑えるとは大した物だ。しかし燕は限界だ。投手力は向こうとさほど変わらんと言っても葛葉は想像以上にやっかいだしきつい試合になりそうだな)

日下部のファインプレーでチームのムードは急上昇するが代わったピッチャーが打たれてしまい2失点する。葛葉は得点できなかった悔しさからか意地を見せていまだに無失点のまま試合は8回へ進む。

8回裏 冥0−2千 冥空高校はいまだに葛葉から打てず2点差で試合は進む
轟「ここだ!」

カキ―――ン!
葛葉主将「ふう」

類「インコースのシンカーでしたが完全にとらえて打球はレフトスタンドに叩き込まれました!」
越智「コースが少しあまかったですが良くスタンドまで運べましたね。パワーにマグレはないでしょうから長打力は結構ありそうですね」

中久保「大丈夫ですか?」
葛葉主将「1試合平均3失点の俺がここまで無失点に抑えて来ただけ上出来だろう。ここで勝てば初めての甲子園だ。俺の…………いや俺達の3年間の成果が出ると思えばまだまだ投げられる!」
中久保「…………キャプテン、勝ちましょう!」
葛葉主将「もちろんだ!」

ガキッ!
類「ボール球のストレートを打ち上げて1アウトとなりました!」
越智「福元君は選球眼が悪いですね。個人的には守備に専念できる9番の方が合っていると思います」
類「事実ですがひどいですね」
越智「いえ、これは守備力を評価しての事ですよ。センターとしての守備力じゃ彼は高校でも5本の指に入ると思っていますから」
類「ほう。そこまでですか、ひょっとしたらドラフトに指名されるかも知れませんね」
越智「まあ可能性は低そうですけど、けどドラフト外なら有り得るかも知れませんね」

福元主将「くそっ、こんなに打ちにくいのか!?」
上条「もう6打席目ですよ。これだけヒット打たれて1失点ってのが凄いですけど」
町田「そこが千歳の奴らの恐ろしいところだな」
上条「身体的にさほど優れている選手ってのはいないのに連係で均衡しているんですよね」
町田「あそこまでのチーム力、俺達も見習わないとな!」
上条「ですね!」

カキ―――ン! パシッ!
友坂「残念でした」

類「芯でとらえましたが打球はセカンド真正面! これで2アウトとなりました!」
越智「疲労でコントロールが落ちて来たとは言え芯に当てる辺りはセンスがあるって印象ですね。まあ1年でスタメンなんだしセンスあって当然か」

葛葉主将(シュッ!)

ガキッ!

ピッチャーながら勝負強い町田も葛葉からは打てず3アウトチェンジとなる。
町田「やはり簡単に流れは渡せないか」

類「町田君も打ち上げて3アウトチェンジです!」
越智「コントロールが落ちているとは言え変化球はまだ生きていますし緩急も上手いですね

なんとか1点は返した冥空高校だったが残り1イニングで逆転、もしくは同点にする事はできるのだろうか?

9回表 冥1−2千 轟の一発でなんとか1点を返す!
町田(シュッ!)

ガキッ!
上坂「ドンドン球威とコントロールが上がって来てるし典型的な尻上がりのタイプかよ!?」

類「上坂君はショートゴロに倒れて1アウトです。ちなみに球速は140キロをマークしました!」
越智「2失点した時はやっぱり二番手と思いましたが立ち上がりが悪かっただけですね。コントロールはそこそこですが球速と球威は大した物ですよ。センスはありそうだし投球術をみがけばプロ入りも夢じゃないかも知れませんね」

町田(シュッ!)

ズバ―――ン!
小池「くそっ、ボール球を振らせられるとは!?」

類「最後は143キロを記録とストレートは本当に速いですね!」
越智「力はありますね。けどエースでないと言う事は他にも問題があると思います」

町田(シュッ!)

ガキッ!
小早川「重っ!?」

類「町田君からタイムリーを打った小早川君でしたが、ここでは力負けしセンターフライに倒れます!」
越智「速い球を投げられるってのは才能ですからね。この回は球速もですがコントロールも安定してましたね。しかし長いイニングだと使える変化球もないし抑えや中継ぎ向きとも言えますね」
類「しかし立ち上がりが悪いのは致命的では?」
越智「致命的ってほどではありませんが、この辺りがエースナンバーをもらえない理由でしょうかね」

燕「143キロって凄いな!?」
神坂監督「あいつとお前とではタイプが違う。あまり参考にはならんだろうな」
上条「って言うかなんで燕がエースなんですか? スタミナから考えても町田先輩を先発で燕が中継ぎでも良いと思うんですが」
神坂監督「色々と理由はあるが町田は今年で引退で次代のエースとして燕には今から経験を積んで欲しいってのが一番の理由だな!」
上条「燕の責任は重大だな」
燕(そんな理由があったんだ。エースって色々な物を背負う物なんだな。もっともっと頑張って先輩達にみっともないところを見せないように頑張るぞ!)

9回裏 冥1−2千 いよいよ9回裏、疲労が見えて来ている葛葉だが粘り強いピッチングはいまだに続いている。甲子園に行けるのはどちらか?
神坂監督「1番からの好打順だ。できればサヨナラ最低でも同点にしろ!」
上条「つうかできなきゃ終わりですもんね(俺にまわるとしたら延長だな)」
神坂監督「ここまでヒットは多いが得点圏までランナーが進んだのは数える程度だ」
遠山「打てそうで打てないんですよね」
神坂監督「うむ。だが打てない訳はない。狙うならあまい球だ」
桜庭「好球必打ってところですか、まあ、稀にあまい球も来ていますからね」
金本「つうか本当に稀だけどな。ここで勝負ってところじゃ嫌なところばっかり投げてきやがる」
轟「それにバックもやっかいですからね。得点するにはホームランくらいしかないかな」
神坂監督「長打力に自身のある奴はそれでも良いかもな」
日下部「僕の様な長打力の不足している選手は粘って失投を誘うのが良いかな」
神坂監督「その通りだ。失投を投げないピッチャーなんてまずいない。投げないのなら粘って失投を誘えば良い!」
日下部「それが僕達の好球必打ですね!」
神坂監督「最低でも1点、ここで終わりたくないなら粘って来い!」
全員「はい!」

冥空高校が円陣を組んで士気を高めている中、千歳高校も負けずに士気を高めて行く。
葛葉主将「アウト3つで甲子園だ。死ぬ気で守って甲子園に行くぞ!」
全員「おう!」

ガキッ!
上坂「ここで3球勝負かよ!?」

類「外して来ると思いましたが3球勝負でしたね」
越智「効果的ですね。スタミナの温存にもなるし相手の裏も掻いています。しかし粘るかと思ったらあっさりと1アウトになりましたね」

上坂「すまん」
日下部「そんなに落ち込まないで下さいよ。まだ終わっていませんから!」

こう言う状況では一番やっかいな日下部が打席へと立つ!

カキ―――ン!

粘った末に日下部がセンター前ヒットを打ち盗塁も成功させ1アウトランナー2塁のチャンスを迎える。
葛葉主将「むっ!?」
日下部「みんな、後は頼むよ!」

類「あまいコースのストレートを綺麗に打ち盗塁も決めて1アウトランナー2塁のチャンスを迎えました!」
越智「失投を見逃さず打ったところと警戒されている中、盗塁を成功させたところは本当に見事でしたね」
類「7打数2安打とそれほど相性は良くなさそうですけどね」
越智「盗塁も一度失敗してますからね。しかしファインプレーやこの場面での粘りなど良い場面で活躍できてるところは評価できますよ」
類「ふむ。勝負どころに強い選手なんですかね?」

金本「ふっ!」

ガキッ!
葛葉主将「後1つで甲子園だ!」

類「金本君はライトフライ、しかしランナーの日下部君は3塁へ走ります!」
越智「1打で同点、抑えれば勝利、最後まで盛り上げてくれますね!」

桜庭「俺はこいつと相性が良いけど、金本が打った後に続く事はできなかった。ここで終わりたくはない。打って見せる!」
葛葉主将「勝つのは俺達だ!」

ククッ!
桜庭「………………」葛葉主将「………………」
全員「…………そんな―――!?」全員「やった―――甲子園だ!」

類「最後はアウトコースのシンカーを空振り三振し甲子園の切符を手に入れたのは千歳高校でした!」
越智「ヒットは多かったですが失点は少ないと終わって見れば2対1の僅差と決勝に相応しい試合でしたね」
類「冥空高校が有利と言われた試合でしたが勝ったのは千歳高校とやはり高校野球は面白い試合ですね」
越智「ええ。葛葉君の甲子園への執着が勝ったって感じですね」
類「確かにバテバテながら最後はホームを踏まさない力投でしたね」
越智「実力はともかく気持ちでは千歳高校が勝っていた。そしてその執着心が勝利を招いたと言う印象でしたね。千歳高校は数年振りの出場ですし甲子園でも頑張って欲しいですね。本当に面白い試合でしたよ!」
類「はい。それではサヨナラです!」

日下部「ごめん。久住君、負けてしまったよ」
燕「…………兄さん」
轟「勝てない相手でもないと思ったんだけどな」
神坂監督「だがお前達は負けた。これが現実だ!」
全員「………………………………」
神坂監督「ま、泣けるだけ安心したな。泣ける悔しさがあるならまだまだお前達は上達するよ!」
全員「…………監督」
神坂監督「残念な結果に終わったが、お前達も補欠の連中に負けられないだろう。帰ったら練習だ!」
全員「はい!」
神坂監督「ま、今日は軽めだけどな」
全員「…………監督」
神坂監督「無理してケガするのも嫌だろう。それに数やれば良いって物じゃないしな。まあ翌日には厳しくしてやるよ!」
全員「はーい(有り難い様な? そうでない様な?)」

冥空高校 野球部 寮
日下部「はあ」
久住「まだ気にしてるのかよ」

ここは冥空高校の野球部専属の寮である。野球部独自の寮と特別で広いが4人部屋にしたら少しせまいくらいとそれほど好待遇ではないらしい。ちなみに風呂やキッチン付きでもありその点は感謝しているらしい。もっとも野球部の人間の中で自炊する人間は少なくほとんどの部員は学食で食べるらしい。
日下部「甲子園に行けば久住君達ももっともっと頑張ろうと思えると思ったんだけどな」
久住「良い奴だなけど、先輩達が引退してレギュラー枠が増えるから俺達補欠組もやる気が上がってるし問題ないだろう。それにやっぱりレギュラーとして行きたいからな!」
日下部「そっかそうだね。明日も練習頑張ろうね!」
久住「おう!」
遠山「おっ、話は終わったのか、風呂空いたしどっちか入って…………って轟は?」
久住「多分、日課の素振りじゃないか」
遠山「あいつも練習熱心だな。汗を流してなきゃ俺も付き合ってやれたんだがな」
日下部「あっははは、2人も本当に仲が良いね」
遠山「まあ練習好きって奴だな。バット振るのが好きってのもあるけど」
日下部「好きこそ物の上手なれって奴だね。みんな本当に野球好きと…………そう言えばキャプテンは誰になるんだろうね?」
久住「そうか、先輩達が引退したから2年の中から決められるんだったな」
遠山「そうだな。俺達から選ばれる可能性もあるな」
久住「確かにお前ら3人は確率が高そうだな」
遠山「お前も人望があるし選ばれるかもな?」
久住「俺っ!? まさかベンチ入りした事もないんだぜ!?」
遠山「キャプテンは野球の実力だけでなく人柄も重要だろう。付いて行きたくない奴が選ばれてもみんなとまどうしな」
久住「この4人部屋の中に性格的に問題のある人物なんていないしやっぱり俺はないよ」
日下部「ま、個人的には久住君のキャプテン姿も見てみたいけどね」
久住「お前はどうなんだ?」
日下部「僕っ!? 無理だよ。小柄だし威厳なんてないし僕には無理っ!?」
遠山「ははは」
日下部「笑わなくても」
遠山「違う違う。そうじゃない。お前らって本当に仲が良いと思ってな」
久住「確かに最初の頃に比べりゃ仲良くなったけどな」日下部「だね」
遠山「お調子者の久住と謙虚な日下部、実際似ているイメージはないが結構似ていると俺は思うよ」
久住「気が合うなと思う事は結構あるけどな」日下部「だね」
轟「ふう、悪いが先に風呂に入るぜ」

談笑している中、自主練を終えた轟が部屋に戻って来た。
日下部&久住&遠山「どうぞ!」
轟「?」

外にいた轟には何があったか分からず終始?マークを頭に浮かべていた。こうして日下部の2年目の夏は終わった。しかしチームのムードはいまだに上がっているらしく気持ち良い雰囲気で秋に進んで行く。ちなみにキャプテンは司令塔の轟が引き受ける事となった。