第4章 新星冥空高校!(後編)

−1990年 8月−
最後の相手は神坂監督の母校である黒龍高校と因縁の相手だ。そして日下部の高校野球もこれにて終わる。どんな結末が待っているのか?
神坂監督「良くここまで来た。後は勝つだけだ!」
轟主将「相手は監督の母校ですね」
神坂監督「ふっ、監督になって初めての決勝進出だ。ここで勝って母校に恩返しをしてやるさ!」
遠山「それ恩返しって言うんですか?」
久住「何はともあれ勝つ!」
神坂監督「まあそう言う事だな。ここまで来て負ける為に戦う奴はいないだろう」
上条「当然です。ここで大活躍すれば絶対プロ入りできるだろうし」
全員「………………………………」
神坂監督「呆れるな。むしろまともな思考だ。お前達もプロ入り目指すならこれが最後のアピールとも言えるだろう!」
燕「試合じゃそうなりますね」
神坂監督「想いはそれぞれだろうが今までの練習を思い出し勝利を手に入れろ。勝っても負けても満足なんて言うんじゃないぞ。全力で勝利を手に入れろ!」
全員「おう!!!」
日下部(色々な事があった。時には誤解しケンカしそして一緒に頑張ってとあははは、辛い練習も今なら楽しい事って思えるから不思議だよね。これで最後かも知れないんだ。全力で頑張って最後は勝利に笑顔で終わろう!)

−甲子園大会決勝戦 阪神甲子園球場−
3年 久住 鴉
後攻 先攻
冥空高校 黒龍高校
投手力 機動力 投手力 機動力
打撃力 守備力 VS 打撃力 守備力
意外性 経験値 意外性 経験値
総合力 総合力
不破 烏 2年
2年 上条 響 日暮 雅敏 3年
3年 日下部 美能留 近藤 那智 3年
3年 遠山 章太 界外 風 3年
3年 轟 賢太郎 石井 明 1年
3年 香川 亮祐 高岡 賢次 3年
3年 成谷 栄斗 山上 直登 2年
3年 谷沢 正樹 黒田 慶治 2年
2年 久住 燕 佐賀 大 2年

放送席
類「甲子園もいよいよ決勝戦に突入です。勝ち上がって来たのは名門同士の両校です。冥空高校は無明実業を打ち破り黒龍高校は斉天大附属を打ち破って来ました!」
真介「御堂君と言い浅野君と言い素晴らしい投手なのに残念でしたしかし今日の先発は高岡君と彼も良いですね。決勝まで来たせいか高校では最高の投手などと言われていますね。ちょっと安定感が欠けていますが実力は超高校級だと思います!」
類「コントロールはまずまずですけど、球速はMAX148キロとプロも興味を示していますね」
真介「何よりえげつないあのヘルシュートですよ。あれは本当に凄いですよ!」
類「確かに高岡君は速球派ではあるんですがストレートではなく変化球が一番らしいですからね」
真介「ええ。奪三振率も高いと彼は良い物を持っていますよ」
類「しかし四死球、特にデッドボールが多いですから不安もありますね」
真介「まあ投手やっていたらデッドボールは付き物ですからね」
類「荒れ球気質ですが結構被本塁打もあると不思議なピッチャーです」
真介「一発病って奴ですね。失投がど真ん中に行きやすいって、まあ昔から速球派でプロにも大勢かどうかは分からないけどいますからね。別に珍しくはないですよ」
類「ちなみに2番の日暮君や4番の界外君などもプロが注目しております」
真介「日暮君は良いですね。体格で拒否されるかも知れませんがセンスあるし大学に行けば伸びると思いますよ。界外君は安定感に欠けるって言われていますが今年の夏は安定した成績を出しているし下位で獲る球団もあるかも知れませんね」
類「っと評価の難しい選手が多いとイレギュラーなチームでした」
真介「………………まあ良いか、それでは決勝戦スタート!」

8回表 冥2−2黒 試合は2対2と実力は互角らしい
燕「さすがに連投はきついな」
轟主将「後2回だ。それまでには1点を取って見せる!」
燕「はい!」

ズバ―――ン!
界外「一撃必殺!」
轟主将(黒龍高校は確実性より意外性の選手が多い。近藤や日暮は逆に安定感があるが意外性がないとやっかいな打線だぜ)

類「ストレートを空振り三振と今日の界外君は良いところがありませんね」
真介「評価がまた下がりそうですね。しかし次は1年生ながら5番を打っていて今日は2ランと活躍している石井君ですね」

石井「とにかく1点だ!」
轟主将(考える事は同じか、ミートはいまいちだが長打力はかなり高い。間違っても失投なんて投げるなよ!)
燕「はい!」

ガキッ!
石井「さすがは決勝のピッチャーか、疲労が出ているくせに肝心なところでは上手くかわして来るな」

類「カーブを打ち上げてセンターフライ!」
真介「あの当たりがあそこまで行くとは長打力は大した物ですね」

高岡「ふん!」

ガキッ!
久住「オーライ!」

類「高岡君はストレートをライトフライと確かにミートに不安がありますね」
真介「そうですね。才能はあっても技術的に未熟な選手も多いですねしかしああ言う選手は指導者に取って宝石の様な物ですよ。特に高岡君、今からプロに行けば150キロは行くだろうな。ヘルシュートも150キロで変化したりしてな」
類「それは恐ろしいですね。とにかく期待の高かった回ですが三者凡退に終わります」
真介「冷たいな」

燕「後1回だ。頑張るぞ!」
轟主将「その調子だ。俺達もなんとか1点を取るぞ!」
全員「おう!」
日下部「僕からだ。打つぞ!」

8回裏 冥2−2黒 燕はバテバテながらもなんとか三者凡退に抑える
高岡「打てる物なら打って見やがれ!」

ククッ!
日下部「あまい!」

カキ―――ン!

コースがあまいとは言え速くかなり変化するヘルシュートを真芯でとらえる。
高岡「またかよっ!?」

類「またしても流し打ち、これで5打数5安打と今日の日下部君は絶好調です」
真介「素晴らしいですね。小介の高校時代より凄いしドラフトの上位指名はまず間違いないでしょうね」

その後、盗塁も成功させると正に今日の日下部は絶好調だった。
日下部「後は頼むよ!」
高岡「くそっ!」
近藤主将「まいったな」

高岡は荒れてか続く遠山にはフォアボールを与えてしまう。
轟主将「ど真ん中の失投もらった!」

カキ―――ン!
高岡「………………」

類「ピンチに強い高岡君でしたが轟君の長打で一気に2点と引き離しましたね」
真介「ど真ん中ではね。しかし黒龍高校の悪いところが出ているな」

日下部「ただいま!」
久住「おう。お帰り!」

絶好調の冥空高校だったがしかしこれで火がついたのは高岡の方だった。
高岡(シュッ!)

ズバ―――ン!
香川「何っ!?」

高岡(シュッ!)

ククッ!
成谷「入ってんの!?」

スト―――ン!
谷沢「決め球がフォークかよ!?」

類「2点取られた物の後続は三者三振と素晴らしいピッチングを見せますね」
真介「ええ。148キロも出ているしボールも良いところ行ってたし最初からこれなら無失点だったろうに」
類「立ち上がりで失敗したり悪いところもありますが確かに実力は高そうですね」
真介「けど、安定感に欠けるし評価は落ちているかな」
類「とにかく、轟君の長打で冥空高校は貴重な2点を手に入れました。試合はこれで終わるのでしょうか?」
真介「せっかくの決勝なのにこんなにあっさりと終わってたまるか!」

高岡「こんな終わり方納得行くか! なんとしても点を取れ!」
不破「気持ちは分かりますが、2点差で山上からですからね」
山上「それじゃ俺がチームの足引っ張ってるみたいじゃないか!」
不破「いやいや、うちのチームって基本的に連打じゃなく一発ばかりじゃん」
近藤主将「いまさらだけどな」
日暮「近藤君は毎回毎回長打を捨てろって言ってるのにみんな聞かないからね」
界外「野球はホームランか三振か、それこそが野球の原点だ!」
近藤主将「半世紀前の野球か、それじゃ勝ち続ける事なんて…………できてるけどね!」
石井「キャプテンは相変わらずですね」
鬼頭監督「ピンチとチャンスは表裏一体だ。ここで流れを変えればあるいはだな」

ダメダメなムードになっている黒龍高校、勝敗は既に見えたか、9回へと進む。

9回表 冥4−2黒 8回で見事に勝ち越した冥空高校、本当にこれで終わるのだろうか?
山上「なめんな!」

カキ―――ン!
上条「アピールチャンス!」

バシッ!

上条は必死で捕りに向かうが打球は上条のグラブを弾く。
上条「まだだ!」

諦めず拾い上条はファーストに送球する。

シュッ! パシッ!
遠山「後2つだ!」
山上「今日ほど自分の足の遅さを痛感した覚えはない!」
黒田「ドンマイ!」

類「ショートへの強い当たり、惜しくも内野安打にはならず1アウト」
真介「おのれーあのショートめ!」
類「放って置きましょう。1アウトランナーなしで続くバッターは黒田君です」
真介「ごめんなさい。放って置かないで下さい!」

轟主将(疲れが出ているな。しかしここまで来た以上、最後まで投げさせてやりたい。それはみんなも監督も同じ気持ちだろう。応えろ!)
燕「疲れているけど後2つだ。意地でも抑えて見せる!」

ガキッ!
黒田「しまった!?」

類「これは高く上がったファーストフライ、今、遠山君がキャッチして2アウト」
真介「ボール球を振るなよな。次は9番か終わったよな」
類「後1つで終わりですが、このまま終わるのか?」
真介「無視しないで下さいよ」

燕(これで終わりだ!)

カキ―――ン!
佐賀「ふう、なんとか最後のバッターにはならずにすんだな」

類「ややボール球のスライダーでしたが強引に打った。ショートの頭を越えてファーストでストップします」
真介「俺は信じてた。さすがは黒龍のスタメンだ!」
類「調子良いですね」
真介「お祭り男ですから!」
類「別に良いですけどね。それで感想は?」
真介「そうですね。基本的にボール球に手を出すといけないんですがバットの振り方などリストは強いんじゃないですかね。この場面で打つところからも逆境に強いタイプと見ましたよ」
類「あまり信用できませんが、とにかくこれで1番の不破君に回ります。ここからの打線には定評があると言われていますがどうなるでしょうか?」
真介「逆転よか同点だな。その方が盛り上がりそうだ!」

不破「プレッシャーのかかる場面で来たな」
日暮「いつも通りのバッティングをすれば問題ないよ。チャンスに強くチャンスメーカーでもある不破君!」
不破「余計にプレッシャーかけないで下さいよ」
日暮「ガンバ!」
不破(天才に凡人の悩みは分かんないか)

既に評価で日暮を抜いている不破だったが自身では行けない領域にいると日暮の凄さは痛感していた。
逆に日暮はチャンスに強く良い場面で打つ不破の実力を認めているなどこの1、2番コンビの相性は大した物だった。
しかし轟と燕と相性ではこちらも負けていない。
轟主将(球威が落ちているな。日暮ならともかく他のバッターでこの球威は危険だな。だが交代はさせない。お前も冥空のエースならこの場面で真価を見せろ!)
燕(そうだ。もうすぐ最高の栄誉が手に入るんだ。抑えて見せる!)

疲れがあるのに燕はここで138キロと最高のストレートを投げる。
不破「この場面でか、だがこっちも終わらせられないんだよ!」

カキ―――ン!
燕「嘘っ!?」

不破は無情にも最高のストレートを打ち返す。誰もが黒龍高校の反撃かと予想したが
日下部(これが僕の見せる。最初で最後の最高のプレーだ!)

パシッ!
不破「嘘だろう!?」

しかし野球は1対1ではない。この場合、日下部が勝ったとも言えるがとにかくこの決勝戦で最高のプレーを見せたのは日下部であった。
類「試合終了! 最後は投げて打って守ってとこれこそが野球と素晴らしいプレーの連続とこれもまた決勝戦に相応しい終わり方でした」
真介「まあバッターは1人でも守備は9人ですからね。感動的な結末ってこんなの認めん!」
類「とにかく試合終了、終わって見れば日下部君が目立った決勝戦でしたね」
真介「黒龍高校の日暮君も猛打賞と打っていますからね。チビッコの希望になる試合でしたね」
類「なるほど、身体のできていない選手は勇気付けられますと良い試合でしたね」
真介「確かに美談ですけど、身体ができている選手のセンスだけでは通用しないみたいで個人的にはちょっとむかつきますね」
類「やはり放って置きましょう。今、冥空高校のエース、久住燕君が胴上げされていると良い場面ですね」
真介「俺も最後の夏に決勝で胴上げされたな。あれは今でも思い出に残っていますよ」

日下部「終わったんだ」

日下部の最後はやはり涙だった。これで最後だと思うと涙は止められなかったらしい。
燕「疲れているんで勘弁して下さい!?」

燕は疲労している中で胴上げされているが表情は笑顔とやはり嬉しいらしい。
久住「これで俺達が日本一だな!」

久住もいつも以上のテンションとあまり活躍できなかったわりに凄く良い笑顔をしていた。
遠山「勝ったか、まさか日本一で最後の夏を終えるとはな」

負けず嫌いの遠山でもここまで到達できるとは思えなかったか遠山も最高の笑顔で夏を終えた。
轟主将「今日は帰ってもパーティーだ。キャプテンの俺が許す!」

轟もいつもの厳しさがなく今日はあまあまだった。自身がキャプテンとして頑張ってみんな付いて来てくれて最高の結果とみんなにお礼が言いたかったのかも知れない。
上条「ふふふ、これで俺もプロだな」

口ではこんな事を言っているが全員の様子を見るなど上条は結構人に気を使う。しかし今日だけは別だった。嬉しくない部員なんているはずがないと今日は信じて疑わなかった。
日暮「おめでとう。それとガンバ!」
不破「ここに落ち込んでいる仲間がいるんですから向こうを誉めないで下さいよ」

日暮は日下部に今までの頑張りとこれからの頑張りにエールを送るが事情を知らない不破は落ち込んだ。
日暮「まあまあ、不破君にはもう1年あるじゃないか、これからガンバだよ!」
不破「ちょっと引っかかりますが、そうですね。個人的には日下部さんにお返ししたいところですが、まずは打倒冥空高校ですね!」
高岡「てめえらなんで負けたんだ!」
近藤主将「誰かさんが4点取られたからだろう」
高岡「どうせそうですよ」
石井「まあまあ」
近藤主将「これで俺達も引退だ。後はお前達に託す」
石井「はい。プロに行っても頑張って下さい!」
近藤主将「俺は進学だ。それに今年の成績は悪かったし指名する球団もないだろうな」
高岡「何年かかってもいい必ずプロに来て俺のボールを捕れ!」
近藤主将「お前と同じ球団に行けるかは分からないが、野球選手としてまたプロで会おう!」
高岡「当然だ!」

こうして決勝戦は終わった。終わって見ればあっさりの気分だったが当事者としては色々あるのだろう。彼らの想いは未来へと進む。そして日下部の結末は?

冥空高校
久住「はあ!?」
遠山「マジかよ!?」
轟「………………」
日下部「今まで黙ってごめんね」

優勝から日数も経ち9月に入った頃、日下部は進路の事をみんなに話していた。
轟「時期が時期だったし話せないのも仕方ないか、人生は人それぞれだ。俺は応援するよ!」
遠山「そうだな。俺もいつか食べに行かせてもらうよ!」
久住「待て待てなんでお前らはあっさりと受け入れてるんだよ?」
轟「そりゃ夢に向かって頑張るんだから応援するのは当然だろう」
久住「お、俺は認めないからな! 俺達は4人でプロ入りしてずっと一緒に野球を続けて行くんだ!」

久住はそう言って部屋を飛び出して行った。
日下部「…………久住君」
遠山「急な話であいつも混乱しているんだろう。時間が経てばきっと分かってくれるさ」
轟「あいつに取って俺達は仲間なんだろうな。だからずっと離れず頑張って行けるって信じているんだ」
日下部「ごめん」
轟「謝るな。むしろこれはあいつに取っていつか越えなくちゃいけない事なんだ。それが早いか遅いかだよ」

轟の声も少し寂しそうだったがその言葉には優しさが満ちていた。
遠山「良い言葉だけど、1つ間違っているぜ。例え歩む道が違っても俺達はずっと友達だろう!」
轟「ああ。そうだな。その通りだ!」
遠山「つう訳だ。いつまでも泣いてんじゃねえよ。夢に向かって頑張る男が泣いてたら格好付かないぜ!」
日下部「うん!」

日下部の気持ちはこの2人の言葉で晴れていた。そして久住もいつか分かってくれると、いや、これからも友達だからこそ笑顔で頑張ろうと心に誓うのだった。