第4章 波乱な秋季大会

−1997年 10月−
赤竜高校は秋の大会でも活躍し一気に準決勝戦に突入する。そして相手は一足早く斉天大附属といつもと違った成り行きを見せていた。
孝介「なんか早い展開だな」
桐島「毎年毎年決勝ってのが異常な感じもするけどな」
孝介「否定はできないな」
桐島「相良さんの世代から連続で俺達の世代から変わったって事は俺達は何かを変える為にいんのかもな」
孝介「変える為ねえ?」
桐島「ま、今日が事実上の決勝戦みたいな物だし勝って甲子園に行こうぜ!」
孝介「あっさり言ってくれるな」
桐島「べ、別に……スタメンじゃないからって……呑気に言ってる訳じゃないよ」
村田主将「ボケてるのか素なのか分かりにくいな」
孝介「多分、素です」
矢吹「つうか中学の後輩だろう!」
村田主将「お前だって半年近い付き合いだろう」
矢吹「そうだけど」
小田切「こいつらは放って置いて……」
村田主将&矢吹「おい!!」孝介&桐島「……………………」
小田切「……今日の相手は斉天大附属だ。相手の先発は夏と同じく小比類巻だ。夏と比べて四死球が減っているとやっかいな相手だ!」
中西監督「それと今年の斉天は1年が多いと勢いに呑まれないようにな!」
全員「はい!」
工藤「中川のワンポイントリリーフや3番の大蔵なんかも注意ですね」
中西監督「打撃力はこっちの方が上だし戦力的にはこっちの有利だが」
小田切「それでも夏は負けましたからね」
中西監督「うむ。つまり小田切と松本がどれだけ頑張れるかが試合のポイントになりそうだ」
小田切「………………」松本「頑張ります!」
孝介「夏と同じく1、2点で決着がつきそうですね」
矢吹「ああ」

−地方大会準決勝戦 横浜スタジアム−
2年 後藤 直太
後攻 先攻
斉天大附属高校 赤竜高校
投手力 機動力 投手力 機動力
打撃力 守備力 VS 打撃力 守備力
意外性 経験値 意外性 経験値
総合力 総合力
佐々木 隆夫 2年
1年 中川 静馬 佐伯 勤 2年
1年 大蔵 智 中西 孝介 1年
1年 小比類巻 翔矢 村田 修一 2年
2年 山脈 和宗 矢吹 隼人 2年
1年 赤迫 伸一 松本 武彦 2年
1年 木暮 隆也 雪村 敏男 2年
2年 松倉 奨 金村 進也 2年
2年 千葉 活也 小田切 竜 2年

小比類巻「メンバーはかなり変わってるな」
大蔵「当然だがな」
中川「打線は向こうが上ですね」
大島監督「1年の大蔵が一番良いバッターだからな。来年はアベレージヒッターを探すかな?」
先輩達「……………………」
小暮「……小田切さんに関しては?」
大島監督「うちのエースみたいなもんだがコントロールは上だし自滅は期待できないな」
中川「球威もあるし確実にミートして連打で得点ですね」
大島監督「ま、わりとうちとは相性が良いかも知れんな」
小暮(と言う物の小比類巻と同格となると簡単には行かないだろうな)

放送席
霞「秋もいよいよ準決勝戦です。今回は一足早いイメージがありますが気にせず斉天大附属VS赤竜高校と名門対決を楽しみましょう!」
武藤「夏には斉天が勝ちましたが実力差は変わってないでしょうね。まあ3年生が引退したのは何処も一緒ですが斉天大附属のエースは変わらず赤竜高校は小田切君ですがここまで好投しているしさすがはドラフト候補ですね」
霞「あまり珍しくなくなって来ていますが140キロ同士の投げ合いです。これは全国区の対決と言っても良いんじゃないでしょうか?」
武藤「まあ一部の地区のレベルが高いだけですよ。実際ここじゃ赤竜高校と斉天大附属くらいしか140キロの投げ合いとは言えないですから…………多分」
霞「と言う事は今日の試合はやはり全国レベルですね。それでは両エースの投げ合いを楽しみましょう!」
武藤「……立ち上がりは2人共良かったので中盤くらいからポイントになるかも知れませんね…………多分ですが」

1回表 斉0−0赤 夏に完封された小比類巻&中川から得点する事はできるのだろうか?
佐伯「得点目指してゴー!」
佐々木「オッケー」
小暮(データが少ないから確定はできないけど、この選手はミートが下手だからコース付いて確実に打ち取ろう!)
小比類巻「うらっ!」

ズバ―――ン!
佐々木「なっ!?」

霞「145キロのストレートを空振り三振!?」
武藤「最初のバッターに145キロって今日はかなり調子良いみたいですね」

小暮(まったく抑えて投げろって言っても聞きはしないし)
小比類巻「ぶっ飛べ!」

ガキッ!
佐伯「重っ!?」

霞「佐伯君は当てましたが結果はピッチャーフライ!」
武藤「142キロと球速は落ちてますけど、1打席で当てるとは佐伯君はミートが上手いですね」
霞「……? 交代するかと思いましたが続く中西君にも投げるみたいですね?」
武藤「まあ夏でも投げてたら通用したと思いましたしおかしくはないと思いますが(ひょっとしたらケガかな?)」

中川「………………」
孝介「ふむ(交代しない理由か……やっぱりエースのプライドかな?)」
小比類巻「抑えて見せる!」

カキ―――ン!
中川「俺のところにか」

霞「あっさりとセンター前に打って2アウトランナー1塁となりました!」
武藤「コースがあまいとは言え140キロ以上出ているストレートを簡単に打ちますね。さすがに1年で3番を打つ事だけはありますか」

小比類巻「………………」
村田主将「もらった!」

カキ―――ン!
小比類巻「あっ!?」

霞「完全に振り切った! 打球はバックスクリーン一直線! 2ランホームランで一気に先制と武藤さんの予想は外れました!」
武藤「言うと思った。しかし高めとは言えあっさりとスタンドまで運ぶと凄いですね」
霞「村田君は高校ナンバーワンスラッガーですからね」
武藤「さすがは名門ってとこですか」

カキ―――ン!
矢吹「おっし!」

霞「続く矢吹君もストレートを綺麗に打ってセカンドでガッツポーズと熱いですね!」
武藤「彼もドラフト候補なんですよね。本当に赤竜高校も名門っぽくなりましたね」

小比類巻「ふんっ!」

ズバ―――ン!
松本「速いっ!?」

霞「最後は145キロのストレートを空振り三振とやっぱり速いですね!」
武藤「そうですね。しかし打たれたせいかコントロールが乱れてたし打てそうなボールもあると精神面はまだ1年生ですね」
霞「そう言えば甲子園での敗戦もコントロールが安定しなくて打たれたんでしたっけ?」
武藤「解説してたくせに忘れないで下さいよ」
霞「すみません。とにかく赤竜高校は貴重な得点を手に入れました。斉天大附属はこのまま終わるのでしょうか?」
武藤「まだ始まったばかりだっての!」

小比類巻「くそっ!」
中川「孝介に打たれた後は不用意に投げ過ぎたな」
小比類巻「分かってる!」
小暮「……俺がもっときちんとリードしていれば」
大蔵「悪いのはリードを無視して投げたあいつだろう!」
小比類巻「…………悪い」
小暮「ああ」
大蔵「同じミスを2回するなよ!」
小比類巻「分かってる!」
中川「まあ1年で斉天のエースなら今まで滅多に打たれた事はないし仕方ないと言えば仕方ないかな」
大蔵「それで負けたらどう言い訳してくれるんだ!」
中川「本当に辛口だな」
小比類巻「だが言ってる事は間違っていないからな」
中川「2失点なら十分追い着けるしな」
小暮「そうだな」

村田主将「夏の借りは返せたな!」
工藤「あまいコースだったし打てて当然だろう」
村田主将「ほほう。言ってれるじゃねえか!」
孝介「まあまあ、しかしスタンドまで打ったのはさすがですよ」
村田主将「さすがは次期主将! 分かってるじゃねえか!」
孝介「次期主将!?」
村田主将「驚く事はないだろう。経験的にも次はお前が適任だ!」
工藤「少なくともお前よりは向いてそうだな!」
村田主将「てめえはいちいち!」
孝介「………………」
小田切「それでお前は何を落ち込んでるんだ?」
矢吹「ヒット打ってもいまいち目立てないと言うか誉められないと言うか」
小田切「ガキだな」
矢吹(グサッ!)

1回裏 斉0−2赤 意外な展開か、1回から赤竜高校が2点先制した!
小田切(シュッ!)

ガキッ!
後藤「速度はともかく変化は小比類巻より上だな」

霞「スライダーを引っかけてセカンドゴロに終わると小比類巻君はストレート中心でしたが小田切君はストレートと変化球のコンビネーションで勝負に来ますね!」
武藤「2人共力押しってタイプですが小田切君は技術もあると結構柔軟なところも見せますね」
霞「1年の頃はもっと力押しでしたっけ?」
武藤「経験積んで良いピッチャーになってますね。まだ伸びしろはあると思いますしきっと将来性も高いですよ!」

小田切(打席では不用意に三振したがリードはきっちりとしているし心配は杞憂( きゆう )だったか)
松本(次は巧打者の中川だけど、小田切なら十分抑えられる!)

カキ―――ン!
矢吹「余裕だぜ!」

パシッ! シュッ!
中川「内野安打できるほどあまいショートじゃないか!?」

霞「矢吹君の強肩の前に間に合わずショートゴロに終わって2アウトです!」
武藤「斉天大附属にいた西田君に近いタイプと相変わらず身体能力は高そうです!」

小田切(ま、頼りになるバックもいるし役立たせてもらおうか!)

スト―――ン!
大蔵「ちっ、良いコースに投げて来るな!」

霞「最後はフォークがギリギリ入ったか見逃しの三振と良い立ち上がりを見せます!」
武藤「最後はストライクかボールかちょっと微妙でしたけど、このピッチングは大した物ですね!」

矢吹「見てくれたか!」
村田主将&工藤「ああ!!」
孝介「今日の小田切さんのピッチングは本当に凄いですね!」
小田切「立ち上がりを三者凡退で抑えるなんて事は良くあるだろう。ま、誉めるなら打ち取るリードをした松本だろうな」
松本「え?」
工藤「確かにバッターの顔を見る限り良いリードだったな」
孝介「ええ!」村田主将「そうだな!」
松本「ありがと」
小田切「今度はなんで落ち込んでるんだ?」
矢吹「分かってて聞くなよ!」
孝介「矢吹さんの活躍も凄かったですよ!」
矢吹「俺も調子が良いからな!」
小田切(どっちが年上か分からないな)

3回表 斉0−2赤 点差は変わらないまま3回に入った!
孝介「………………」

ククッ!
小比類巻「どうにも相性が悪いな!」

霞「これも外れて1アウトながらフォアボールで出塁します!」
武藤「ここまで球数が多いと今日はコントロールが安定していませんね」

小比類巻「さっきと同じミスはしない。全力で投げれば村田さんと言えど俺からは打てない!」
村田主将「流れは変えさせない!」

カキ―――ン!
小比類巻「………………」

霞「初球からためらわず振り切り打球はレフト場外! とんでもない飛距離でした!?」
武藤「2ランホームランと、あの飛距離には呆れるしかないですね!?」

大島監督「さてと」
七瀬「まさか交代ですか?」
大島監督「1回の時と同じパターンだしな。それに自慢のボールを場外まで運ばれたら気持ちも切れちまう」
七瀬「…………ですが」
大島監督「次に投げるお前がそんな顔してどうするんだ?」
七瀬「へ?」
大島監督「当然だろう!」
七瀬「ええっ―――!?」
大島監督「いちいちうるさい奴だな。交代だからとっととマウンドに行けよ!」

霞「ここでピッチャーの交代です。小比類巻君に代わって七瀬君がマウンドに向かいます!」
武藤「あっさり代えて来ましたね」

七瀬「えっと」
小比類巻「…………後は頼む」
七瀬「ああ」
大島監督(こりゃ荒れるな…………それよりこれ以上の失点はまずいしなんとか頼むぜ!)
小比類巻(くそっ! この借りは絶対に返す! 努力して努力して今度は三振を奪い取ってやる!)

カキ―――ン!
七瀬「っ!?」

そして交代も上手く行かず、すぐに中川と交代し2人で投げて行くが赤竜打線の爆発で失点を重ねて行く。

5回裏 斉0−11赤 一気に赤竜打線が爆発しこのまま行けばコールドと予想外な展開へ!?
霞「完全に意外な展開でこのまま行けばコールド成立と、とんでもない試合になりました!?」
武藤「さすがにこれは予想できませんでしたね」

小田切「残り3人!」

ズバ―――ン!
山脈主将「くっ!?」

霞「147キロのストレートを空振り三振と完全に振り遅れていますね」
武藤「うーん、まさかこんな展開になるとは思いませんでしたからね」

小田切「後2人!」

スト―――ン!
赤迫「フォークかよ!?」

霞「最後は落ちる球を空振りし2アウトとなりました!」
武藤「5回だしスタミナは十分でキレも変わらずですか、四死球1個のノーヒットで抑えられてるとせめてヒットの1本くらいと思うんですが」

小田切(こいつで決める!)

ガキッ!
小暮「ぐっ!?」
矢吹(パシッ! シュッ!)

霞「意地でなんとか当てたと言ったところでしょうが結果は平凡なショートゴロで試合終了!」
武藤「最悪な結末ですね。夏の勝利はなんだったのかって感じです!?」
霞「準決勝戦は完全に予想外の結果で11対0の5回コールドで終わりました」
武藤「夏の試合見てたらこんな結果予想できませんよ。こう言うのは良くないんだけど中尾君と小暮君じゃやっぱり違うって事ですかね」
霞「安定感抜群の中川君もキャッチャーが後逸する事で失点があったり変化球も制限されていると良いところありませんでしたからね」
武藤「相手は打線爆発で小田切君はノーヒットノーランと完全に抑えられましたからね」

中西監督「終わって言うのはなんだがこうも一方的に勝つとはな」
村田主将「まあ俺がキャプテンですから!」
工藤「それはともかく見事なピッチングだったな」
小田切「ハッキリ言ってバッティングレベルはかなり落ちてるな。まあ夏にも完全に抑えてたしキャッチャーの存在が勝利に繋がったのかもな」
矢吹「確かに相手のキャッチャーはキャッチングがいまいちだったな。おかげで変化球も簡単に打てたと楽勝だったな」
小田切「投手力は全国でも指折りなのに完全に打たれて負けると皮肉な話だ」
矢吹「松本は偉大と言う事だな」
松本「偉大と言われてもノーヒットなんだけど?」
工藤「確かに得点には貢献していないが無失点には貢献しているだろう」
村田主将「そう言う事だ。今日のヒーローはどう考えても俺と小田切だがお前の頑張りを知っているからお立ち台は譲ってやろう!」
松本「いや、お立ち台なんてないし」
桐島「しかしうちも強くなったもんだ。甲子園出場校にコールド勝ちだぜ!」
孝介「確かに強くなったが、今日の結果は相手の戦力の低下だろうな」

大島監督「それじゃ帰るぞ」
全員「………………」

ファンA「てめえらそれでも名門か!」
ファンB「甲子園出場校がなんてざまだ!」
ファンC「監督も監督だ。これでよく名門の監督を務めてられるぜ!」

大島監督「気にするな。夏に挽回すれば良いお前らにはまだチャンスがあるんだからな」
全員「はい!」
大島監督(と言った物の俺の首が夏まで繋がっていると良いんだが?)

名門斉天大附属がコールド負けと言う初の出来事にこれから各自のメディアが取り上げて行く事になるのだが大島の今までの功績が維持されて首は繋がったまま監督業を続けて行く事になるのだった。

赤竜神社
灯子「まさかあんな結果になるとはね」
孝介「ん?」
灯子「この前の試合の事」
孝介「相手が本来の実力を出す前に片付けたって感じだったけどな」
灯子「気の毒だけど斉天大附属はかなり言われてるね」
孝介「常勝チームがたった1回の敗戦で良く言われてるしそんな物なんだろうな。まあ今は次の相手の事を考えないとな」
灯子「決勝の相手は旭光商業で噂されているのは新キャプテンの大道寺君だね」
孝介「夏には聞かなかった名前だよな?」
灯子「うん。大道寺君は夏に引越して来て夏にはベンチ入りもできていないけど何故かキャプテンに選ばれて秋からは4番も打っているらしいよ」
孝介「何があったのか非常に気になるな」
灯子「う、うん」
孝介(本当に何があったんだよ旭光商業!?)

こうして次の相手は色々気になる旭光商業に決まるのだった。

赤竜高校
中西監督「相手は秋じゃ強いイメージのない旭光商業だな。それじゃマネージャーに相手の強さを教えてもらおうか?」
全員「………………」
灯子「チームとしては足の速い選手が多く長打力の高い選手は少ないと例年と違ってますね」
全員(昨年の秋と同じだよな?)
中西監督「4番は無名だったな」
灯子「夏に転校した大道寺君ですが彼が打つとチームが波に乗るとムードメーカー的な存在です」
矢吹「真田さんに似てるのかな?」

真田さんとは赤竜高校出身の真田和希であり中日ドラゴンズで新人とは思えない活躍をしている。
小田切「4番と言う事は違うんじゃないか?」
灯子「性格は分かりませんがチームのムードを良くすると言う点では一緒だと思います」
矢吹「そういや1年に面識があるはずはないか」

真田達は村田達が1年の頃に…………つまり昨年引退した部員である為に孝介を除いた1年連中とは面識がない。
工藤「バッターとしては?」
灯子「一応は4番ですがタイプとしては中距離打者ですね。ただチャンスには滅法強いらしいのでランナー背負った時は要注意です!」
孝介「やっぱり無名でも実力のある選手っているんですね?」
中西監督「だからこそ面白いんだよ。プロ野球で全然無名な……うちで言うなら柳生のような奴が大活躍してファンも喜んでるだろう!」
桐島「それで他のバッターは?」
灯子「特に注意するのは新村君と大西君ですね。彼らの打撃技術はプロでも通用するほどだと言われています。最初に言いましたが長打力の高い選手は少ないので連打に気を付ければ良いと思います!」
村田主将「それで俺らのカモにされる可哀想なピッチャーは?」
灯子「森高君ですね」
村田主将「げっ!?」
孝介「確か左のアンダースローでしたね」
村田主将「あのひょろひょろ球は苦手なんだよな」
灯子「ストレートは120キロ前半と高校生の平均としては遅くはないんですが」
村田主将「十分遅いし変化球はもっと遅いし」
孝介「そう言えばキャプテンって軟投派が苦手でしたね」
工藤「スローカーブとかチェンジアップとか遅いボールとは相性が悪いがそれでも打つ時は打つからな」
灯子「打ちにくいのはライズボールだと思います」
工藤「うちはアンダースローに慣れてないから相性が悪いかも知れないな」
孝介「俺達も下から投げ込まれるのには慣れていませんしやっぱり相性は悪いんですかね?」
灯子「コントロールも抜群に良いですから四死球の自滅もないと思った方が良いですよ」
桐島「なんか意外性の高いチームって感じだな」
孝介「個性的な選手が多い。あるいは良い選手が揃っていると言うべきかな」
灯子「決勝に出て来るだけあって要注意なチームです!」
中西監督「総合力で言えばうちの方が強いだろう。油断さえしなければまず勝てるだろうし気を抜かずに戦うんだな!」
全員「はい!」

旭光商業高校
九重監督「相手は斉天大附属を破った赤竜高校だ。相手の説明は必要ないだろう」
前田「良く知らないので教えて下さい?」
九重監督「……ふう、相手の先発は工藤らしい。フォークは結構落ちるが他はそれほどでもないからじっくり打って行けば攻略できるだろう」
森高「球質は軽いし一発を狙うと良いんだけど」
大道寺主将「お前と同じくコントロールが良いし難しいかもな」
大西「それよりバッターだが」
森高「うーん」
新村「相変わらず自信なさそうだな」
浅木「もう少し自信があれば甲子園も夢じゃないだろうに」
大道寺主将「ま、4番の一発にだけは注意しとけ。他はヒットだろうがお前から連打は難しいだろうしなんとかなるだろう」
新村「相変わらず適当だな」
浅木「それで勝ち上がってるんだし文句は言えないな」
前田「それじゃいつも通り勝ちましょう!」
森高「が、頑張ります!」

−地方大会決勝戦 横浜スタジアム−
2年 佐々木 隆夫
後攻 先攻
赤竜高校 旭光商業高校
投手力 機動力 投手力 機動力
打撃力 守備力 VS 打撃力 守備力
意外性 経験値 意外性 経験値
総合力 総合力
新村 将悟 2年
2年 佐伯 勤 久礼 重 2年
1年 中西 孝介 大西 誠 2年
2年 村田 修一 大道寺 流星 2年
2年 矢吹 隼人 栗山 雄大 2年
2年 松本 武彦 島本 一正 2年
2年 雪村 敏男 浅木 将 2年
2年 金村 進也 前田 良哉 1年
2年 工藤 和馬 森高 玲於奈 2年

放送席
霞「まさかのコールド負けからそれほど経っていませんが決勝戦をお伝えします」
武藤「負けちゃいましたが気を取り直しまして初なのかは分かりませんが赤竜と旭光の名勝負を期待させてもらいます!」
霞「先発は工藤君と森高君と軟投派と言うと少し違うのかも知れませんが技術勝負になるとレベルは高いです」
武藤「前の試合もレベルが高くてあの結果でしたからね」
霞「武藤さんとしてはどう言うところに注目しますか?」
武藤「そうですね。登板する2人がどんなピッチングを見せるかですかね。できれば決勝に相応しいピッチングを見せてもらいたいです!」

1回表 赤0−0旭 意外な決勝戦も始まった。勝つのはどっちか?
工藤(シュッ!)

ガキッ!
新村「なかなかキレるな」

霞「新村君はカーブを打ち損じてセカンドゴロに倒れて1アウトです!」
武藤「今日もコントロールは良さそうですし初回じゃヒット打つのも難しそうですね」

工藤(シュッ!)

スト―――ン!
久礼「手元で落ちて来るな!?」

霞「最後はフォークを空振り三振と今日の工藤君も調子が良さそうです」
武藤「決め球と言われるだけあって良い物を持っていますがどっちかと言えば工藤君は投球術で打ち取るタイプですね」

工藤(ここからが問題か)

ガキッ!
大西「詰まったか」

霞「巧打者の大西君ですがストレートを引っかけてサードゴロと三者凡退に終わりました!」
武藤「良い立ち上がりでしたね。これなら大量失点はないと思いますよ」

松本「今日は変化球もキレてるしコントロールも良いできる限り失点は抑えて行こう」
工藤「ああ」
松本(今日の調子なら失点も少なくすみそうだし3点あれば勝てるかな)
工藤(今日は1点もやらん!)

大道寺主将「結構やるな」
大西「確かにな。しかし打てないボールじゃない」
大道寺主将「なるほど、監督の言う通りじっくり見て行けば打てるか」
大西「ああ」

4回裏 赤0−0旭 試合は動かず無失点のまま打者2巡目に入る!
森高「これから2巡目に入るのか」

ガキッ!
佐々木「ここまでコントロールにやられるとは!?」

霞「またもや打たされて1アウトと完全に抑えられてますね。しかしここから観ても打てそうと不思議な感じです」
武藤「まあ言いたい事は分かりますけど、オリックスの仙石もこんな感じで抑えてますからね」
霞「良いピッチャーはコントロールが高いって事ですか?」
武藤「どうせ私はコントロールが悪かったですよ」

森高「なんか怖くなって来るな」

ズバ―――ン!
佐伯「入ってるのかよ!?」

霞「低いですが浮き上がってストライクとこのライズボールはかなりやっかいですね。ちなみに結果は見逃し三振です!」
武藤「それは分かりますけど、やっかいなのはライズボールと言うよりあの完璧なコントロールですよ。リードするキャッチャーもさぞかし楽しいんじゃないでしょうかね」

森高(村田さんがいる)
久礼(村田の前にまずは中西だろう。あいつのスイングはここで見てても結構怖い!?)
孝介(浮き上がるボールはかなり打ちにくいけど、当てられない訳じゃないしボールの頭を当てる感じで)

カキ―――ン!
森高「そんなっ!?」

霞「ライズボールをライト前に打った。綺麗に合わせて来ました」
武藤「やっぱりバッティングセンスは大した物ですね」

村田主将「うぉ―――!」

ズバ―――ン!
森高「………………」

霞「村田君は豪快な空振りで三振とこれで3アウトチェンジです!」
武藤「全然タイミング合ってませんね。軟投派と相性が悪いと言っても今日の村田君はちょっと力み過ぎですね」

森高「…………驚いた」
久礼「……まあ、あの豪快な空振りを間近で見ちゃお前の気持ちも分かるよ」
森高「…………中西君にはあっさり打たれたな」
久礼「確かに打たれたがシングルだったしあんまり気にするな」
森高「うーん」
久礼「いくらヒットを打たれてもホームを踏まさなきゃ負けにはならん。だからいちいち気にせず抑えて行くぞ!」
森高「うん!」

村田主将「くそっ!」
矢吹「しかし何であんなに力むんだ?」
村田主将「遅いボールだと、どうにも待ちきれなくて」
矢吹「気持ちは分からなくもないがランナーいるんだしもっと慎重に行こうな」
孝介「待って合わせて流せば良いだけだと思いますが?」
村田主将「そんな器用にできれば苦労はしないっての」
矢吹「まあ俺もできなくはないが、こいつほど器用じゃないな」
孝介「俺だってそんなに器用じゃないですよ。コツは相川さんに聞いただけですし」
矢吹「技術は真似できてもあの器用さまではちょっとな」

5回表 赤0−0旭 孝介がヒットを打つ物の後が続かず無得点のまま5回に入る!
工藤「………………」

ガキッ!
島本「回を増す事にコントロールが良くなってないか!?」

霞「ストレートを打ち上げて1アウトと完全にボール球を振らされましたね」
武藤「ストレートと変化球のコンビネーションが良いとキャッチャーのリードも素晴らしいですよ!」

浅木「………………」

カキ―――ン!
工藤「っ!?」

霞「カーブを綺麗に打ってランナーは2塁でストップ!」
武藤「これで1打数1安打1四球ですか、結構高打率のわりに目立たないのは何故でしょうかね? 次は打率1割の前田君ですし」

前田「ふん!」

カキ―――ン!
工藤「なっ!?」

武藤「………………」
霞「ランナーは返って1点先制とここで勝負強さを発揮しました!」
武藤「そう言えば勝負強いんでしたね」

前田「わっははは!」
浅木「あいつが来てから返れる事も多くなったな」
森高「低打率のわりに打点はあるからね」

工藤(落ち着け! ゆっくり抑える!)

ズバ―――ン!
森高「………………」

霞「送りバントも失敗してあっさりと2アウトです!」
武藤「かすりもしませんでしたね(これなら何もせず打席で立っていても良かったような?)」
霞「そして次は3番の大西君に負けない高打率を残している新村君ですが?」
武藤「………………」

工藤(次はやっかいバッターだが)

スト―――ン!
新村「しまった!?」

霞「最後はフォークを空振り三振とやっぱり得点圏では全然ダメですね」
武藤「得点圏では凄い大振りになるんですよね。選球眼も悪くなるし最後のフォークなんて明らかにボールなのに振ってしまうとチャンス時は別人みたいなバッティングですよね?」

松本「前田の一振りには驚いたが後続はなんとか抑えられたな」
工藤「相手に恵まれただけだ(やはり無失点は難しいな。これを何度もしているあの人はやはり怪物って事か…………けどいつか俺も)」
松本「確かに森高にしろ新村にしろ実力は高いけど欠点はあるよな。お前は欠点はないけど長所と呼ぶべきところもないとまだまだ発展途上だ。ゆっくり実力を付けて行こう!」
工藤「ああ(もっともなセリフだが俺は……)」

久礼「前田の後はあっさり終わったか」
森高「ごめん」新村「すまん」
前田「いやいや1点取ったんだし気にしないで下さいよ!」
浅木「まあそう言う事だな」
森高「でも僕はいつも打てないし」
新村「俺も新村や前田がランナーにいる時はいつも打てないし」
前田「いやいや俺なんてまだまだ低打率ですから気にする事はないですよ! はっはっは、1割台と、とてもプロも俺をドラフトで指名してくれないですよね!」
久礼「ポジティブな表情でネガティブなセリフだな」
前田「目指せ千葉ロッテマリーンズ!」
新村「そう言えばロッテファンだったな」
前田「先輩達だってどうせならファンの球団に入りたいでしょう!」
浅木「まあ俺もお前と同じ千葉出身だしな。しかし入れるなら何処でも入れると球団にこだわりはないな」
前田「まあそこは俺もですから!」
森高「この前向きさは見習いたいな」
新村「まったくだ」
浅木「ま、待望の1点も入ったんだ。とっとと勝とうな!」
前田「目指せ甲子園!」

7回裏 赤0−2旭 試合は動いて2点リードのまま7回裏に入る!
霞「試合は旭光商業がリードのまま7回の裏へ入ります」
武藤「やっぱり森高君と相性が悪かったんですかね。前田君のタイムリーや大道寺君のホームランと目立っていますが森高君の好投がやっぱり良いですね!」
霞「まあ現在完封していますがマウンド上の表情を観ている限りそんなに凄そうなピッチャーには見えないんですがデータ上では初対戦のチームには強そうな印象ですね」
武藤「まあ否定はしません」

森高「後3回頑張って甲子園だ!」
久礼「おう。任せた!」
孝介(キャプテンを信じてない訳じゃないけど、狙って見るか!)

カキ―――ン!
森高「まさかっ!?」

霞「思いっ切り引っ張って打球は文句なしレフトスタンドに叩き込んだ!」
武藤「中西君だけは妙に相性が良いですね。変化球投手に強いと聞いてたけどここまでとはね」

村田主将「本当にあっさり打ってくれるな!?」
孝介「キャプテンが言ったんじゃないですか?」
村田主将「は?」
孝介「ここぞと言う時は思いっ切り振っちまえってね!」
村田主将「そうだったな(委縮している今がチャンスだ。後輩に負けずに続く!)」

カキ―――ン!
森高「う、嘘っ!?」

霞「ボール球ですが思いっ切り振って打球はバックスクリーンへ入った!」
武藤「ボール球で芯を外してあの飛距離だけで十分異常ですよ!?」

村田主将「続けよ!」
矢吹「任せとけ!」

森高「………………」
久礼(落ち着け! まだ同点だ。さっきのは確かにショックだったが今度から見せ球にストレートを使わなくすれば抑えられるはずだ。それより次の5番もタイミングが合っているしコントロールに気を付けてくれ!)

カキ―――ン!
矢吹「行け―――!」

霞「フェンス直撃! 打った矢吹君は2塁も蹴って3塁へ!」
武藤「惜しいですね。もう少し引っ張っていたら入ってたのに!」

矢吹「ちょっと納得行かんが続いたぜ!」
森高「また打たれた。しかもあのコースを!?」

決して失投ではなく抜群のコースに並みのバッターでは見逃すだろうし良いバッターでもファールが精一杯のコースに会心の当たりを食らって森高の精神はいっぱいいっぱいだった。
松本「そこだ!」

カキ―――ン!
霞「左中間を抜けた。当然ランナーは返って逆転と未だノーアウトのままです!」
武藤「完全に流れを取られましたね。中西君、村田君が追い込んで矢吹君がとどめを刺しましたね!」
霞「その森高君ですがここで交代のようです」
武藤「結果論ですが一歩遅かったように思えます。この試合終わっても関東大会あるんだし無事に調子を取り戻してくれると良いんですが」

七種「………………」

ズバ―――ン!
雪村「球速よか速くないか!?」

森高の後だと130キロのストレートでも相当に速く感じるせいか手が出ずアウトを重ねて行くが工藤もこれ以上の失点はせず抑えて行くと試合も決まりそうになっていた。

9回表 赤3−2旭 7回の逆転劇以降得点はできなかったが試合は9回に入る!
霞「試合もいよいよ9回、後3人で工藤君が完投勝利を飾ります!」
武藤「今日のピッチングはなかなかの物と工藤君のピッチングと松本君のリードがヒーローになってもおかしくはないですね!」

工藤「残り3人か!」

スト―――ン!
大西(この程度なら打てる!)

カキ―――ン!
松本(少し変化が落ちてるな。疲労もたまっているけど後3人だ。頑張ってくれ!)

霞「最後のフォークでしたがあっさり返り討ちにあってノーアウトランナー1塁です!」
武藤「返り討ちねえーしかしあのバッティングはドラフト候補と言われるだけはありますよ」

大道寺主将「打てば逆転と良い場面で来たぜ!」
松本(自信満々と能力からすればそれほど恐ろしいバッターとも思えないんだが?)
工藤(個人的には勝負したいが)
松本(いや勝負しよう。こう言うとお前は怒るだろうがここで負けても次はあるし逃げて得る物はないって言うしな!)
工藤(分かった!)
大道寺主将(ま、今日は当たっているとは言え無名の俺を避けたりはしないだろうとは思っていたよ!)

カキ―――ン!
矢吹「何故か来ると思ってたぜ!」

パシッ!
大道寺主将「ちょっと待てあれを捕るか!?」

霞「三遊間は抜けず矢吹君が捕ってファーストも戻れず一気に2アウトです!」
武藤「この場面でこのプレーってさすがに決まりましたね!」

矢吹「今日も打って良し守って良しだったな!」
松本(やばかった。あれが抜けてたら流れが変わってたかも?)
工藤(頼りになる奴だ。そうだな。俺は三振を奪うタイプじゃない。バックを信じて投げるだけだ!)

ガキッ!
栗山「終わった」

霞「最後は133キロのストレートを打ち上げてキャッチャーファールフライで試合終了!」
武藤「球速はともかく技術面の高い投げ合いでしたね。今日のヒーローは完投の工藤君と言いたいところですが逆転の切欠を作った矢吹君ですかね!」
霞「先ほどの守備も見事でしたね」
武藤「ええ。多分直感的にそっちに走ってたんでしょうね。でなければ抜けてたはずです。まああの場面でヒットの打球を打った大道寺君も大した物だったんですが」
霞「注目の決勝戦はやはり接戦だったと言う事で3対2で赤竜高校が勝利しました!」
武藤「あの斉天も負けてしまったし新しい風が来てるんですかね?」

赤竜高校
全員「今日も勝ちと秋は順調だな!」
中西監督「確かにお前らは強くなったがうち以上に相手の戦力が落ちてると言う事でもある。むしろここからが本当の激戦になる。気を引き締めて行け!」
全員「はい!」
中西監督「今日は何を言っても無駄か」
矢吹「今日のヒーローは工藤と言いたいところだがやっぱり俺だろう!」
小田切「その一言がなければヒーローでも良かったかもな」
工藤「いや、立ち直った切欠は矢吹だったしな」
矢吹「ふっ、さすがは工藤だぜ!」
村田主将「これで先輩達に大丈夫なところも見せられたしうむうむ。さすがは俺だな!」
孝介「キャプテンってこう言う性格じゃないとダメなのかな?」
工藤「お前はお前らしくで良いんだよ。なったらなったで他の奴らは勝手に付いて行くだけだ!」
孝介「そうですね(まあ今から気にしても仕方ないか)」

旭光商業高校
九重監督「今日の敗戦は俺のせいだ。気にするな」
全員「え?」
九重監督「交代のタイミングを完全に間違えた。実際、七種は無失点だったしな」
七種(確かに無失点だったが……)
森高「………………」
七種「……まあ言わせてもらうとだ。俺が抑えられたのはお前のおかげだ!」
森高「えっ?」
久礼「遅い球に慣れて速い球にチェンジされたら打ちにくいって事さ」
森高「ああ、先輩の時もそうだったしね」
久礼「あそこで続投させたのはエースだからだろうな」
森高「え?」
大道寺主将「エースってのはチームを背負う奴だからな。チームを背負うってならあの場面では続投だろうな」
森高「あっ!?」
大西「これから先は全国レベルだろうしお前には期待しているって事だろう」
森高「が、頑張ります!」
九重監督「うむ!」
新村「あんまり変わってないけど?」
浅木「そうそう変わったら誰も苦労はしない!」
新村「そりゃな」
前田「人間頑張れば多分なんとかなるもんです! 努力は裏切らないって言うし多分大丈夫です!」
大西「ところどころ余分な一言があるが?」
前田「いやーそこまで夢見がちじゃないもんで!」
大道寺主将(妙なところで現実的だな)

個性的な選手と言うか人間の多い旭光商業は知名度は低いが確かに強く関東大会でも準優勝と言う結果で甲子園行きを決める事になる。

赤竜神社
孝介「関東大会でも優勝と無事に甲子園行きは決まると言う事なしだったな」
桐島「ふっ、俺の登板はなかったけどな」
孝介「ま、甲子園行きがかかっているし何が起こるか分からないし経験豊富な先輩達の登板が当然なんだろうな」
桐島「はあ、今のままじゃ甲子園に出れても登板機会には恵まれそうもないな」
孝介「だからこその練習だろう。まあ先輩達がケガして出れない可能性もあるから無理してでも頑張れとも言えないけど」
桐島「これでもストレートには自信があったんだけどな」
孝介「同期にとんでもないのもいるからな」
桐島「そうなんだよ。しかもスカウトさんにアピールしたら変化球はなかなか良いねって言うんだぜ。何っ! ストレート良いって思ってるの俺だけなの!?」
孝介「そんな事ないが打席からと外からじゃノビまでは分からないからな」
桐島「くそっ! こうなったら俺の凄さって奴を教えてやる! 練習だ練習!! 死ぬ気で頑張って意地でも甲子園で投げてやる!」
孝介(親父、こいつのこう言うところが分かってて投げさせなかったのか…………だったら尊敬するけど…………まさかな?)

関東大会での登板を逃した桐島に火がついたかここからかなりのレベルアップをするのだったがそれを知るのはもう少し先になる事だろう。

中西家
知也「ふーん、それで桐島さんが頑張っていると、で父さんはそれを狙ってやったの?」
中西監督「…………当然だろう。俺を誰だと思っている!(登板させてないし気持ちが切れてたらどうしようと思っていたんだが杞憂( きゆう )だったようだな)」
孝介「嘘だな!」知也「うん。嘘だね!」
中西監督「いきなり全否定かよ! そもそも何を証拠にしてるんだ?」
孝介「最初の間だな」知也「それに目が泳いでるしね」
中西監督「(さすが俺のガキ共、大した洞察力だ!?)ところでだがお前らの好きな広島は誰を1位指名するのかな?」
孝介「話を変えたな。まあ良い。指名するなら何処も平下さんか佐藤さんだろう」
知也「佐藤コンツェルンの御曹司でメジャーを目指している佐藤宗崇( さとうむねたか )さんか、どんな人なんだろうね?」
孝介「どうって普通に礼儀正しそうで落ち着いた人だったな」
中西監督「俺も同じ印象だったな。ただ目を見た時に直感でこいつはできるって感じたな」
孝介「時代劇の観過ぎだ!」
中西監督「失敬な。これでもアクション映画だって良く観るんだぞ!」
孝介「知ってるよ!」
知也「と言うか何で2人共知ってるの?」
孝介「偶然、斎藤さん達がプロ入り決まったお祝いの時に遊びに行ってな。その時に偶然会ったんだよ」
知也「そんな凄い人と出会えるなんてずるいよ!(ジロッ!)」
孝介「ま、俺もその時は佐藤宗崇と言う野球選手は知らなかったからな。今じゃもっと向こうの話を聞けば良かったと思ってるよ(ジロッ!)」
中西監督「え? 俺が悪いのか!?」
孝介「まさか佐藤コンツェルンの御曹司がメジャー目指しているなんて思わないし野球の話よか向こうの生活の事を聞いてたんだよ」
中西監督「野球の話をしなかったのか?」
孝介「メジャーリーグの事とか聞かないよう気を使ってた」
知也「うんうん。その気持ちは分かるよ」
中西監督「(やっぱりうちの息子共はみんな母親似だな)しかし今年のドラフトか、うちは指名されるのかね?」
知也「そんな他人事(  ひとごと  )みたいに?」
中西監督「相川はまず指名されるだろうけど、1位はないだろうし他の奴は指名されるかどうか難しいだろうな」
孝介「昨年の真田さん達にも同じ事言ってたけど、2位で指名されたじゃないか」
中西監督「確かにな。1年目でこれだけ活躍するとさすがはプロのスカウトと感心させられたな」
知也「宏兄の時もそうだったけど、これで良く見る目があるなんて噂されているよね?」
中西監督「名将なんてそんな物だ。他人が勝手に噂して祭ってそうなる。現に大島なんて実力も実績もあるのにメディアに散々言われてるだろう」
知也「まあ大島さんの事を持ち込まれると完全に否定はできないけど」
孝介「しかし斉天は人材不足なのか? とてもそうは思えないんだけど?」
中西監督「あくまで噂の類だ(   たぐい   )がな。天狼学園が裏金使ったり脅したりして大量の選手を引き抜いているって話だ!」
知也「本当なの?」
中西監督「噂と言っただろう。俺のような高校野球の関係者じゃ有名な話だ。ちなみにメディアがこの噂を取り上げないのは神代グループが圧力をかけているとも言われている」
孝介「神代グループか」
中西監督「あの佐藤宗崇が日本球界に突如入り込んだのも神代グループ関係かも知れないと言われている。まあ真偽のほどは分からんが…………とにかく神代グループに何か言われたら俺に相談しろ!」
孝介「考え過ぎじゃないか…………なんだって世界的な大企業が野球に関わるんだ?」
中西監督「そうかも知れん。ただ昔、信用できる人物に注意しろと言われた事を思い出した」
知也「誰?」
中西監督「まあ昔って言うほどじゃないな(まったく事情を話せないのは分かったが恩師に何も教えないとは…………相良、いつか話してくれるんだよな?)」
知也「まあそれより今年のドラフトでは誰が指名されるのか楽しみだよね」
孝介「高卒で1位の可能性が高いのは平下さんを筆頭に続くと御堂さんと坂本さんと言ったところか」
中西監督「うちには1人もいないのか? 先輩想いじゃないな?」
孝介「親父が1位で指名される可能性はないって言ったんじゃないか!?」
知也「ははっ、今年も予想は難しそうだね。ちなみに僕は柚さんが指名されると思うな」
中西監督「初の女性プロ野球選手か、夢があって良いな」
孝介「夢と言っても現実的だろう。それに他の先輩達だって可能性はゼロじゃないし」
中西監督「ふっ、そうだな」

こうして赤竜高校は秋には最高の結果を出すのだった。しかし春の甲子園に通用するかどうかは分からないと今年の高校野球もレベルが高いらしい。