第7章 先行き不安な赤竜高校

−1998年 4月−
赤竜高校は甲子園でベスト8入りを果たしたが当然ながら部員達には悔しい敗退となった。そして新たな戦力を迎えて夏に向かって練習するのだった。
村田主将「むう〜〜〜」
孝介「どうしたんですか?」
工藤「バカがバカな事を考えてるだけだろう。放って置いて練習するぞ!」
村田主将「学力は大差ないだろう!」
工藤「そう言えば学力の低い奴もいないが高いのもいないのが我が部の特徴だったな」
村田主将「いや、ここに裏切り者がいるぞ!」
孝介「学年の違う俺を見ないで下さいよ!」
村田主将「小田切も頭が良かったよな。そう言えば1年の見どころがある奴も良かったっけ?」
孝介「御堂ですか、まあ御堂家の血筋だし当然と言えば当然と言った感じですけどね」
行人「呼びましたか?」
工藤「いや、頼りになる戦力の話をしてただけだ」
行人「そう言われると照れますね」
村田主将「正直、外野は頼りにならん奴ばかりだからな。お前のような即戦力は有り難い!」
行人「みなさん、良い物を持っていると思いますけど?」
村田主将「あいつらバッティングはどうにもいまいちなんだよな」
行人「そうでしょうか?(ハッキリ言う人だな。しかし本当に良い物を持ってると思うんだけどな?)」
孝介「ひそひそ(なんと言うか御堂って実力は高いけど闘争心とかが欠如している感じですね)」
工藤「試合では目の色を変えるタイプかも知れないがな」
孝介「確かにその可能性もあるのかな?」
行人「ベスト8と言う戦力からレギュラー奪えるか分かりませんが一生懸命頑張ります!」
村田主将「おう!(引退後の事を考えるとピッチャーの補強もしたいんだがな。誰か凄い奴がいないもんかな?)」
桐島「いやー最近の俺の成長と来たらプロも放って置かないだろうな!」
村田主将(また良いタイミングで来たな! 確かに実力が付いたけど全国のバッター相手にはまだまだかな。しかし大化けする可能性もあるか?)
孝介「確かに成長したけど、まだまだだろう」
桐島「どうしてそう冷たい事言うのかな? なあ行人?」
行人「130キロ以上投げるし十分凄いと思いますけど?」
桐島「そうそう。これなら来年は150キロも可能だろう!」
行人「まあ可能性はゼロじゃないと思いますけど」
桐島「そうだよな!」
孝介「アホ! 遠まわしに可能性が低いって言ってんだろうが!」
桐島「ええ〜!」
行人「まあまあ、それより練習試合とかしないんですかね?」
孝介「練習試合は5月からの予定らしいぞ。お前ら1年も積極的に使って行くって親父も言ってたし頑張れよ!」
桐島「行人ならレギュラー間違いなしだな」
行人「そう簡単には行かないと思いますけど」
孝介「それだけ実力があれば名門でもスタメン奪えるだろうな。しかしなんでうちに来たんだ?」
桐島「確かに気になるよな。でも言いたくなかったら良いぞ!」
孝介「俺も無理矢理聞こうとまでは思わないよ」
行人「うちの兄達はみんな別の高校ばっかりですよね」
孝介「確かに不思議だとは思っていたけど?」
桐島「ひょっとして兄弟の仲が悪いとか?」
行人「仲が悪いと言う訳ではないんですがコンプレックスもなくはないんで…………」
孝介「偉大な父親の後を継げるかどうかファンも期待しているし応えられなきゃと思うとプレッシャーもあるか」
桐島「うーむ。俺には分からん話だがお前らも苦労してるんだな」
孝介「俺はそうでもないさ(苦労したのは兄貴だけだしな)」
行人(父さんじゃなく兄さん達と比べてが主になんだけど…………それに僕じゃないしってもう遅いかな?)

頼りになる新入部員も加わり赤竜高校はますます強くなって夏に向かって頑張って行く。

喫茶店MOON
桐島「順調に行っているがしかしだ! やはりピッチャーが欲しいとは思わないか?」

ここは赤竜高校近辺の喫茶店であり部員達に取っては偉大な先輩の実家でもあるらしい。とにかく飲み物食べ物が美味いので部員達は良く通っているらしい。
孝介「1年にも良いピッチャーいるし秋までに成長するんじゃないか?」
桐島「あまい! コーヒーに砂糖入れるくらいあまい!」
行人(何が言いたいんだろう?)
孝介「まあニュアンスで分からなくはないが普通と言うかかなり変と言うか、とにかく間違ってるぞ!」
桐島「悪い。ここのコーヒーがあんまり美味いもんでつい」
行人「それでピッチャーが欲しいってどうするんですか?」
桐島「来年の事考えて今から目星を付けて選手の引き抜きをしないかと思ってな」
孝介「思ったよりまともだな。しかしシニアでも見に行くのか?」
桐島「うむ!」
行人「しかしこの周辺だと何処も斉天大附属に行きたいって言うんじゃないですかね?」
孝介「どっちかと言えば旭光の方に良い選手が流れたって話もあったけど…………斉天の方にも良い選手が行っていると言われてるし」
桐島「どっちだよ!」
孝介「お前だって聞いてるだろう」
桐島「そうだけど」
行人「全国レベルとなると天狼学園の秋山君や錬生高校の柳田君が有名ですね。他には黒龍高校の雪村君が凄いって評判だけど…………近辺じゃ凄いって1年は聞きませんね?」
桐島「そ、そうだな」
孝介(一番有名なのは誰かって言われると御堂家のこいつなのにな)
行人「どうかしましたか?」
孝介「いや、それで何処に行くんだ?」
桐島「考えてない!」
孝介「やっぱりバカだろう?」
行人「そんなあっさりと」
桐島「ううっ、とにかくどうすっかな?」
孝介「やっぱりアホだ」
桐島「ううっ、くそっ! 本当にどうしたら良いんだ?」
行人「近くを適当に歩きましょうか?」
孝介「はあ」

結局、実のない話が進み休日と言う事で気分転換も兼ねて孝介達は適当に散歩する事となった。

河原
将「………………」
桐島「あれぞ未来のエース!」
孝介「って将じゃねえか!」
行人「確か武藤将君でしたね」
桐島「知ってるのか?」
行人「シニアの剛腕投手と全国でも有名ですから」
桐島「おっし! 早速スカウトだ!」
孝介「いやいや、将が入るとしたら来年じゃなく再来年入学になるから!」
桐島「意味がねえ!?」
孝介(つうか将の年齢くらいお前も知ってるだろうが!)
将「さっきから何をやってるんですか?」
孝介「まあ暇でブラブラしてるのかな」
桐島「違う! 未来の大エースを探してるんだ!」
将「まあ俺もそう呼ばれるよう頑張る予定ですが」
行人「良い後輩ができそうだね」
桐島「そう言えばお前は将とチームメイトになるんだよな」
行人「彼が赤竜高校に入って来るのならですが」
将「俺は知也と同じところに入る予定なんで知也が赤竜以外に行かなきゃ入る予定です。入った時はよろしくお願いします!」
行人「こちらこそね!」
桐島「って違う! それより将の一つ上の世代で良いピッチャーっていないのか?」
将「そりゃいますけど、なんの話ですか?」
孝介「簡単に言うと来年の投手陣が不安なので今のうちにスカウトしとこうってな話だ」
将「なるほど、一番有名なのは荒井さんかな」
桐島「どんな奴なんだ?」
行人「140キロ以上投げる剛腕投手ですね。コントロールに難はありますが球威は凄まじいと聞いています!」
孝介「俺も噂程度だけどそう聞いてるな。多分、将と同じタイプだろうな」
将「まあ俺と同じくストレートで勝負するタイプですね。赤竜高校は遠いし入る可能性は低いと思いますけど」
桐島「なら次だ!」
将「後は菅野さんとか結城さんとかかな? 他に有名な人もいるけど即戦力のレベルはこの3人くらいしか思い付きませんね?」
行人「菅野君も有名ですよ。左腕で実力は荒井君より上と言われています。結城君もこの2人と同じくらい速いボールを投げる天才左腕投手と言われています。3人共バッティングも凄いですよ!」
桐島「ふう」
孝介「どうした?」
桐島「どれもスカウトは難しそうだなと思って諦めました」
孝介「ま、仕方ないな。いる奴でなんとかすれば良いさ」
桐島「はあ、前途多難だぜ」
孝介「お前、自分のポジション忘れてるだろう?」
将(俺が入る頃に弱小になったりしないだろうな?)
行人「………………」

桐島も現実を知って諦めたが赤竜部員は変わらず夏に向かって頑張って行く。

赤竜高校 野球部
桐島(シュッ!)

ズバ―――ン!
松本「本当に伸びて来たな。ここまで能力が上がってるとは思わなかったぞ!?」
村田主将「137キロか、お前より速くなったな」
工藤「コントロールも悪くないしこれで次期エースは決まった訳か」
矢吹「成長期にしてもすげえな」
小田切「これなら秋も良いところまで行けそうだな」

行人(タッ!)

パシッ!
中西監督「1年でここまでの足と肩と守備なら文句ないな!」
佐伯&佐々木「1年に負けた!?」
金村「内野で良かったかも」

灯子「御堂君は頼りになりそうね」
孝介「ああ。夏のレギュラーは間違いないな。センターには佐伯さんがいるしライトかレフトになるのかな?」
灯子「どっちにしろ戦力がUPするのは間違いないのかな?」
孝介「ああ。これで全国制覇の可能性も高くなるな」
灯子「…………全国制覇か」
孝介「ん?」
桐島「お二人さん、微妙な雰囲気でどうした?」
孝介「微妙な雰囲気って言われてもな」
灯子「今年は甲子園で優勝できるかなと思ってたけど、やっぱり難しいのかな?」
桐島「そりゃ難しいだろうけど、打線は凄いしチームとしては上位のレベルだと思うからきっとなんとかなるさ!」
孝介「なんとかなるか」
野田「どうした?」
堀田「何かあったのか?」
桐島「今年の夏は優勝をもらったなってな話だ!」
堀田「そりゃ気の早い話だな」
野田「あんまり調子に乗らない方が良いぞ。お前、意識すると一気に崩れるところもあるしな」
孝介「確かにな」
桐島「くそっ! 俺の成長をあまく見るなよ!」
野田「確かに凄い成長だとは思うけどな」
堀田「確かに……それより俺は行人が来たせいかベンチ入りも難しいかな」
孝介「まあ佐々木さんか雪村さんが外されるだろうからベンチ入りの外野も1人減る事になるな」
野田「お前や須藤も他校(  よそ  )ならスタメンだろうしやっぱり名門は厳しいよな」
堀田「まあな。しかし俺と須藤じゃ選ばれるのは須藤だろうな」
桐島「バランスは須藤の方が良いかな?」
野田「けどそんなに差はないし確定はできないな」
孝介「つまりまだ望みがあるし頑張れよ!」
堀田「打倒須藤だ!」
桐島(あいつはスタメンを狙うって豪語してるしベンチ狙いじゃ勝てないだろうな)

こうして赤竜高校は順調に成長して行く。もちろん孝介も成長して行きプロのスカウトも注目して行くのだがそれは飛ばして行く。

中西家
宏「それでチームの方は順調なのか?」
孝介「ベンチ入りの選手も他校(  よそ  )ならスタメン奪っても不思議じゃないしまあレベルは高いと思うよ」
宏「そうか、なら俺の夢を叶えてもらおうか!」

ここにいるのは中西宏、(  なかにしひろし  )広島の先発の柱でチームのエースとも言われている一流選手である。中西の名字で分かるように孝介の兄であるかつては赤竜のエースとも呼ばれていた。
孝介「いやもう先輩達が既に全国制覇してるし!」
宏「親の夢を息子が叶える事に意味があるのさ! なっ!」
中西監督「そう言われてもな。もちろん優勝が目標だし息子に夢を叶えてもらうのも悪くはないが俺個人としたらチームのみんなで叶えてくれた方が嬉しいな」
宏「親父らしくない優等生的な発言だぜ!?」
中西監督「どう言う意味だ!」
知也「野球は団体競技だし優勝はみんなで分かち合った方が嬉しいと僕も思うけど、ピッチャーとしたら別なのかな?」
孝介「兄貴が調子に乗るタイプってなだけだろう」
知也「なるほどね」
宏「そこで納得されるのもなんか悲しいな」
中西監督「4年連続2ケタ勝利と文句ない活躍をしてるから調子に乗っても仕方ないと思うが」
知也「タイトルはまだないよね」
孝介「新人王獲っただろう」
知也「そう言えばそうだったね。僕としては小野(阪神)さんの方が上だった気がするけど」
中西監督「望月(横浜)も20本と打ってレベルの高い高卒選手が多かったな」
宏「そこで勝ったのが俺とすげえだろう」
孝介「確かに凄いが、パリーグだと無理だったろうな」
知也「あっちのレベルはもっと凄かったからね」
宏「最下位だったチームをAクラスにした殊勲者に向かって良くもまあ言ってくれたな!」
知也「2ケタと十分貢献したけど、エースとは呼ばれなかったね」
孝介「守部さんと言う不動のエースがいたからな」
中西監督「過去形にしてやるなよ」
宏「今年こそタイトルと優勝だ!」
孝介「俺達も頑張らないとな」
知也「うん。そう言えば今年の大会は東西に分かれるんだっけ?」
孝介「ああ。と言っても斉天とは会う訳だからあんまり意味はないけどな」
知也「でも準優勝の旭光商業は西でしょう。強豪が消えるだけラッキーじゃない」
孝介「まあな」
中西監督「斉天はあれからかなり成長したって話だが」
知也「秋の大会のコールド負けでかなり叩かれたからね。夏に負けたらどうなるんだろうね?」
孝介「そう言われると戦いにくいなー」
中西監督「だが勝たなければ甲子園には行けないぞ!」
孝介「分かってるよ!」
知也「昨年は本命だったけど、今年も本命が優勝かな?」
中西監督「近年はいつも本命が優勝だからな。うちも本当に強くなったもんだな」
孝介「………………」
知也「そんな他人事( ひとごと )みたいに言わなくても」
中西監督「ははっ、とにかく今年も優勝目指して頑張るだけだ!」
孝介「ああ!」

こうして2年目の夏も始まるが孝介達は勝ち上がる事ができるのだろうか?