第10章 先輩達との別れと先への不安

−2000年 8月−
弱小と呼ばれていたが夏の大会を制覇した事で再び名門と呼ばれるようになった無明実業だったが名門とは思えないピンチにおちいっていた。
野村主将「これで俺達も引退だ。最後に全国制覇と言う目標を達成できて嬉しかった。次のキャプテンは山口にやってもらおうと思う」
山口「俺ですか?」
野村主将「ああ。お前なら大丈夫だと思うからな」
山口「……分かりました!」
柴田「それで元キャプテン、スカウトが来ているみたいですけど来年からプロですか?」
野村主将「冷やかすなよ。まだ指名されるって決まったわけじゃないからな。一応大学に行く予定だよ」
柴田「木村さんは社会人でしたし他の先輩達も大学、社会人と別の道を行く事になるのか?」
山本「西岡さんは社会人、豊田さんと安田さんは大学とみんなまだプロ入りを目指すと頑張って行くんだろうな」
高橋「みんな凄い目標だね。僕はさすがにプロ入りとか考えていないから大学予定だけどね」
山本「普通そうだって」
岩田「惰弱( だじゃく )だな。俺は高卒ドラ1を目指すぜ!」
高橋「ははっ、岩田君くらい頑丈だと本当に達成しそうな目標だね」
山本「どうかな? 俺達の世代は天野をトップに凄いのがゴロゴロいるからドラフト1位は難しいと思うけどな」
柴田「俺は確実だけどな!」
山本(こいつは本当にやりそうだな)
天野「まあ俺達より先にキャプテンがプロ入りしそうだけどな」
柴田「プロ入りするとしたら何年振りになるんだ?」
山本「無明実業の選手が最後にプロ入りしたのは2年前だったかな?」
柴田「ふーんって結構最近じゃんっ!?」
山本「まあ甲子園に出れなくてもプロ入りできる選手はいたからね」
天野「まあ甲子園に出れなくてもプロでタイトル獲る選手も結構いるからな」
高橋「高校野球はチームプレーって事だね」
岩田「……そうだな」

こうして先輩達は引退して行った。そして数日後に誰もが分かり切っていた事だが(俺は忘れていたが)問題が発生したと言うかすでに起こっていたが……
山口主将「うーむ」
柴田「と言うか部員が少ない!」
山本「つうかいまさらだな?」
柴田「すっかり忘れてたんだよ!?」
天野「いまさら言うまでもない事だがうちは選手層が薄いからな。甲子園でもそれで優勝の可能性は低いと言われていた」
岩田「しかしそれをくつがえしての優勝だ!」
高橋「すべての試合が1点差で逆転が多かったとまさに奇跡的な優勝だったね」
天野「……奇跡か(代償もあったが確かに奇跡と言えば奇跡だったな)」
柴田「諦めなければ夢は叶うって事だな!」
山口主将「ふむ。思い切って部員を増やすか?」
柴田「へっ?」
山口主将「今の野球部の知名度で部員を募集したら一気に増えるだろう!」
山本「集まるでしょうが素人ばかりですよ」
岩田「素人に守らせるのは正直怖いんだが」
高橋「けど現部員は11人だから不安も多いよね」
天野「秋の事を考えると確かに部員募集した方が良いかも知れないが、多分ですけど入りたい奴は放って置いても入って来るんじゃないですか?」
山口主将「ふむ。入って来ても即戦力はないし素人が秋に戦力になるとは言えんか」
天野「春の事を考えてと言う事もありますけど、そこまで考えると来年の新入生の方が期待できますしね」
山口主将「そうだな。保留で良しとするか、それから山本と高橋は秋からスタメンだ。前以上に頑張れよ!」

そう言って新キャプテンの山口さんは去って行った。
柴田「相変わらずマイペースな人だそれはともかくとして良かったな!」
山本「………………」
高橋「僕は素直に嬉しいけどね」
岩田「俺は二番手と不服だけどな」
柴田「それで秀二はどうした?」
山本「俺は甲子園に出てないからな。どうしても不安があるんだよ?」
天野「まあ無理もないか」
柴田「しかしスタメンなら6番くらい打つ事になるんじゃないか?」
山本「まさかっ!?」
天野「いや俺も柴田と同意見だ。野口さんと比べてもお前の方がバッティングは上だ。いやお前のセンスならいずれはクリーンナップも打てるだろう!」
山本「うーん」
岩田「なんだ誉められてるのに不服そうだな」
高橋「期待されるとそれだけプレッシャーが大きくなるから不安になるのも分かるよ。けど出れない人もいるんだし出れるだけ頑張らないとダメだよね!」
山本「そうだな!」
柴田「うーむ。これではまるで陽太が秀二の親友のようだな」
天野「まあ下僕よりはマシだな」
柴田「古いネタ引っ張るなよ」
山本「ははっ、しかしあんなバカ話したのも懐かしく感じるな」
柴田「古いネタと言ったがまだ4ヶ月くらいだぞ?」
岩田「しかしその4ヶ月で弱小から名門と呼ばれるようになった!」
高橋「何年か振りに甲子園出場と優勝もしたよね!」
柴田「そう言われると結構凄く感じるな」
天野「日本一は凄い事だろう!」
柴田「まあな」

部員数と言う不安要素のある無明実業だが質は良く秋に向かって急成長する選手も多いとやはりセンスある選手は多いらしく周囲の人達は優勝候補と噂して行く。

公園
千歳「日本一は凄い事だよ!」
ディー「zzz」
柴田「そりゃ分かってるけどな」
千歳「みんなも言ってるよ。春の優勝も間違いないって」
柴田「ふむ」
千歳「竜君、何かあったの?」
ディー(ピクッ!)
柴田「いきなりなんだ?」
千歳「いつもの竜君なら当然だって二つ返事じゃない?」
柴田「まあ、そうだな」
千歳「何か悪い物でも食べた?」
柴田「そんなわけあるか!」
千歳「あっ! いつもの竜君だ!」
ディー「zzz」
柴田「はあ、俺にも分かんないんだよ。なんでこんなに不安なのかってな?」
千歳「周囲の期待でプレッシャーかかってるとか?」
柴田「秀二じゃあるまいし俺にそう言うのはないな!」
千歳「断言された!? けど竜君らしいね。となると他に何があるんだろう?」
ディー「ワン!」
柴田「そんな事気にせず頑張れってか?」
ディー「ワン!」
柴田「確かに分からないんじゃそれくらいしかできないか」
千歳「……ディーに負けた」
柴田「いや、良くある事だろう!」
千歳「何度あっても負けると悔しいの!」
柴田(まあ世間的に考えると犬に負けるのは悔しいかも知れんが)
千歳(竜君の相談に乗るのは私の役目なのに)
ディー「zzz」
柴田「ってこの状況でまた寝るか―――!?」
千歳(はあ、僕の想いが竜君に届く事はあるんだろうか?)
柴田「なんでマジメな事考えててこんなにグダグダになるんだろう?」

そんな感じで無明実業と言うか柴田達は日常を過ごしながら秋の大会へと向かう。