第3章 新時代の怪物達

−2000年 6月−
天野の考案した練習で俺達1年はメキメキと実力を付けて行き今日はその成果をようやく見せる練習試合となった。
柴田「果たしてどんな結末が待っているのか(カチッ!)」
山本「まあ良いんだけど、ところでこっちが行くんじゃなくて向こうから来るんですか?」
大岡監督「ああ、前にも言ったが相手は赤竜高校(せきりゅうこうこう)、中西がプロに行って戦力は落ちてるが弟と剛腕投手が入って再び強くなったらしい」

赤竜高校は神奈川県でも斉天大附属と並ぶ強さを持つ強豪校と俺は聞いている。
柴田「剛腕投手ですか? まさか実雄じゃないよな?」
山本「あいつは東北に行ったんだから赤竜高校にはいないだろう」
大岡監督「名前は武藤将( むとうしょう )、シニアでは140キロを記録した剛腕投手だ!」
高橋「ここにいる岩田君や天野君のように今じゃ高校生で140キロも珍しくないんですか?」
大岡監督「まあ、この地区じゃ速球派の投手は多いが全国じゃそんなにいないと思うが」
天野「でしょうね。武藤については知ってるんですが中西さんの弟ってのは?」
大岡監督「兄と違って冷静なキャッチャーでリードは抜群、またミートも上手いって話だな」
岩田「ま、すぐに分かるか」
大岡監督「そう言う事だ」

無明実業 野球部グラウンド
????「それではよろしくお願いします」
大岡監督「こちらこそ」
岩田「あれが伝説の投手の中西啓示( なかにしけいじ )さんか」
天野「ああ」
高橋「うちのピッチャー組はずい分興奮してるね」
柴田「何十年経っても中西監督の伝説は有名なままだからな。それより中西監督の息子はどれだ?」

??「知也、とっとと構えてくれ」
知也「やれやれ、将は他校に来ても相変わらずだね」
武藤「当たり前だろう」
知也「はいはい」

山本「うーん、あの小さいのがキャッチャーか」
高橋「プロの香住選手が近いね。あの人の高校時代も160もなかったのかな?」
柴田「別に身長で野球やる訳じゃないだろう俺が憧れている景山さんだってチビだしな!」
天野「柴田は景山選手のファンなのか?」
柴田「あの体格であの飛距離は一発でファンになっちまうさ!」
岩田「ファンなのはよーく分かったが何で景山さんの母校に行かなかったんだ?」
柴田「ふっ、景山さんが東京出身で母校も東京にあると知ったのは入学後だったのさ。秀二の奴がもうちょっと早く言ってくれればな」
山本「大ファンって言ってたから知ってると思って」
柴田「ああ、そんな事も知らずに大ファンだなんて俺も自分でアホだなと思いました」
大岡監督「どうでも良いが試合が始まるぞ。お前らはスタメンだからな」

−練習試合 無明実業グラウンド−
1年 柴田 竜
後攻 先攻
無明実業高校 赤竜高校
投手力 機動力 投手力 機動力
打撃力 守備力 VS 打撃力 守備力
意外性 経験値 意外性 経験値
総合力 総合力
酒井 政人 3年
1年 高橋 陽太 山下 武人 3年
2年 山口 忠 中西 知也 1年
1年 天野 守 御堂 行人 3年
1年 岩田 定吉 安藤 巡 2年
3年 西岡 望 館林 勇人 3年
1年 山本 秀二 小石川 要太 2年
2年 河内 徹 牧田 時楼 2年
3年 豊田 誠 武藤 将 1年

御堂主将「相手は名門の無明実業だ」
安藤「名門と言っても部員数も少なくなっているし今は弱小だと思いますけど?」
御堂主将「まあそうとも言えるねしかし相手の先発は天野守とシニアではナンバーワンピッチャーと言われていたからね」
知也「左腕で145キロですからいくつもの名門校が欲しかったでしょうね」
武藤「天野(無明実業)、篠原(天狼学園)、小田切(黒龍高校)、望月(錬生高校)とシニアでは有名だったからな。あいつらなら1年でエースも難しくはないだろうな」
知也「それに将もね」
安藤「と言っても天野は弱小だし将は実力はあるから良いとしても他の3人は難しいんじゃないか?」
御堂主将「高校ナンバーワンピッチャーと呼ばれる柳田やその柳田に勝るとも劣らない雪村からエースナンバーを奪うのは難しいだろうね?」
安藤「そう言う意味じゃまだ篠原は可能性もあるかな?」
御堂主将「確かに天狼学園は不動のエースはいないけど、それでも春の日本一だし素質の高い2、3年からエースを奪うのは難しいんじゃないかな?」
安藤「そう言われるとそうかも知れませんね」
知也「それで無明実業はどうなんですか?」
御堂主将「実はよく知らないんだよね?」
知也「へ?」
安藤「風祭さんの世代から後は一度も甲子園に出ていないから高校名はともかく選手の名を知っている人は少ないだろうな」
御堂主将「まあ天野についてはある程度知っているし戦いながら知って行けば良いさ!」

1回表 無明実業0−0赤竜高校 試合はシニアでも140キロを出す怪物同士の投げ合いで始まった!
天野(相手は赤竜高校か春は甲子園を逃したけど、全国レベルの高校だな。特に4番の御堂さんはプロも注目するほどだし胸を借りるつもりで行くぞ!)

ズバ―――ン!

ブレイジングショットが走り見逃しの三振とあっさりと抑える!
酒井「武藤より速くないか!?」

天野(相手もまずは様子見と言ったとこか)
岩田(天野の力なら名門でも十分通用するな…………そうか、天野の技術を盗んで勉強する為にキャッチャーになれって事か)
天野(シュッ!)

ククッ!

ボールからストライクになるスライダーを見逃し天野は2者連続の三振を奪う!
山下「これは手か出ないや」

知也「ストレートも変化球もコントロールも良いとまったく欠点のないタイプか」
天野「中西家の三男と俺と同じ立場か、しかしシニアでは聞いた事はなかったし3番って事は軟式の出かな?」

カキ―――ン!

左対左と相性が悪そうだったがカーブを流し打って2アウトランナー1塁となる!
知也(狙って行けば打てなくもないけど、やっぱり連打は難しそうだな)
天野「大した物だな。これだけ上手くてなんで無名なのか疑問だが……次は御堂さんか」
御堂主将「確かにレベルは高い」

カキ―――ン!
天野「なっ!?」
柴田「うらっ!」

パシッ!
御堂主将「へえ。あのライトとんでもなく足が速いな!」

初球を完全にとらえたがライトの柴田がなんとか飛び付き3アウトチェンジとなった!
岩田「ジャストミートだったな?」
天野「……ああ。悔しいが格上だな」
柴田「そんな格上をアウトにする俺はもっと格上だな!」
山本「はいはい」
高橋「天野君相手にいきなりヒット打つとはさすがは名門だね」
山口「プロクラスのバッターだからな…………しかしそんな選手がいても昨年は斉天に勝てなかったけどな」
高橋「昨年の夏の覇者でしたね」
山口「ああ。エースの大西さんはドラフト候補と言われているな」
山本「球速は大した事はありませんが総合力では高校ナンバーワンピッチャーと呼ばれる柳田さんより上と言われていますね」
岩田「ナンバーワンか」
高橋「そのピッチャーを打てなきゃ甲子園には行けないんだよね」
山口「それだけじゃなくそんなピッチャーすらも甲子園の土を踏んだ事はないと言う事実だ!」
柴田「それだけ天狼が強いって事か」
山本「いまさらだけどな」

安藤「打てませんでしたね」
御堂主将「確かにヒットにならなかったけど、あの当たりで責められるのは手厳しいね。しかしあのライトの足は要注意だよ!」
武藤「そうですね」
知也「1番だし典型的な俊足巧打の選手じゃないかな?」
安藤「体格からして長打力はないんじゃないか?」
御堂主将「君から見ればね。僕だって彼と大して背は変わらないし」
安藤「柴田って名は聞いた事ないし大した事ないと思うんだけどな?」
知也「すぐに分かりますよ」

1回裏 無明実業0−0赤竜高校 天野はヒットを打たれる物の味方の守備に助けられ無失点と無事に終える!
武藤(シュッ!)

シュルルル!
柴田「あまいわ!」

カキ―――ン!
武藤&知也「なっ!?」

柴田の一振りは完全にとらえて145キロのストレートはグラウンドの外へと叩き込まれた!
柴田「ふっ! 監督へのアピールに成功! これにてレギュラーに近付いたぜって録音するの忘れてた―――!?」

録音するのは打席に入る前と打席の終わった後だ。別に毎試合録音する訳じゃないが練習試合とは言え高校野球初の打席はやっぱり特別なのだ!
武藤(こんなふざけた奴に俺のボールが通用しないとは!)
知也「ナイスバッティング!」
柴田「ん? 確か中西知也だったか?」
知也「無名でも君みたいなのがいるからやっぱり野球は面白いよね!」
柴田「そりゃお互い様つうかやっぱりそっちじゃ俺の名は知られてないのかよ!?」

いまさらだがシニアでも有名と思っているのは柴田だけが言ってる事である。しかし試合で大活躍していたのは事実でもあるのだがチームは大して強くなかったせいか柴田の知名度は低い。それでも知っている人間は皆無でないのが柴田への唯一の救いなのかも知れない?
知也「ごめん。将はともかく僕はシニアにいなかったから」
柴田「なるほど(だから無名なのか)」
知也(お調子者タイプと思っていたけど、そんなに簡単な性格って訳でもないのか?)
高橋「ナイスバッティング!」
柴田「おう! お前も続けよ!」
高橋「ははっ、バッティングには自信はないんだけどね」

さすがに2ヶ月くらいチームメイトやっているとそいつの良いところや悪いところが見えて来る。高橋はなんて言うかチームメイトとしては良い奴ではあるんだが野球の実力と言えばパッとしない奴でもある。
柴田「(まあ、それは単純に経験の差なんだろう。まあこれからだよな)相手は打たれてカッとなっているから見て行くのも1つの手だ!」
高橋「そっか、参考にさせてもらうね!」
武藤(もう油断はしない!)

ズバ―――ン!

柴田のアドバイスも役には立たなかったか高橋は軽く三振と捻られる!
高橋「ダメだ。速すぎてタイミングが合わない!?」
知也「もう少しコンパクトに振ると良いと思うよ!(彼は野球やり始めてそんなに経っていないと素人だね)」
高橋「コンパクト?」
知也「うん。肘の使い方をね。もっと柔らかくと言うか…………」

ブン!
高橋「こんな感じかな?」
知也「うん。良いと思うよ!」
高橋「ありがとう!」
知也「どういたしまして」
大岡監督「有りがたい事なんだがいちいち中断して教え込んでたら時間がかかるのでアドバイスは簡単に頼めるかな?」
知也「あっ!? すみません!(まあ仕方ないよね)」
武藤(次は3番か、弱小と言っても油断はできないか!)

ガキッ!

バッティングセンスのある山口ではあるが140キロ台のストレートはとらえきれずセンターフライに終わる。
山口「なるほど、速さだけなら天野以上かもな」

知也(次は情報の多い天野か、バッティングも怪物だし慎重に行こう!)
武藤(分かってる!)

ガキッ!
天野「カーブと言うよりドロップか、そこそこの変化だがストレートと混ざるとやっかいかもな」

続く天野はタイミングを外されてショートゴロの結果に終わる。
知也「柴田は大した物だったね」
武藤「大した物と言うか、打たれた俺を放置して打った相手と仲良くなってんじゃないと言いたかったぞ!」
知也「将なら放って置いても大丈夫だって思ったんだよ。それに情報収集は大事でしょう!」
武藤「あいにく俺はお前ほど達観していない。練習試合だろうが負けるのは嫌なんだよ!」
知也「ははっ、将は昔からチームに恵まれないよね。どれだけ好投しても良く負けるし」
武藤「笑い事じゃない!」
知也「笑い事だよ。天狼からも誘いがあったのにわざわざ赤竜高校に来なくても良かったのに?」
武藤「お前とバッテリーを組みたかったと言うまでもないだろう。後は憧れのあのピッチャーの母校だったと言うのもある!」
知也「そうだね。だけど」
武藤「けどはいらん! 自身の決めた事に後悔はない!」
知也「ごめん……いや、ここはありがとうだね!(練習試合は情報収集が目的だったから勝敗にはこだわってなかったんだけど、エースがそう言うならなんとしても勝たないとね!)」

岩田「しかし同じ1年で140キロなんて見てると自分は大した事ないんじゃと思えて来るな」
天野「速さだけで言えば俺達以上かもな。ただ球威ではお前の方が上だろうし速さにしても現時点では向こうが上と言うだけだ。すぐに追い抜けば良いさ!」
柴田「ポジティブだなま、そう言うの好きだけどな!」
天野「お前のおかげで1点入った。後は俺達が守って行けば初勝利だ!」
高橋「良い雰囲気だね!」
山本「ああ!」

天野にしろ武藤にしろ少しの油断と言うよりは慢心の隙をつかれてヒットを打たれたが以降は順調に抑えて行く!

6回表 無明実業1−0赤竜高校 試合は柴田の一振りで動き以降は沈黙しながら進んでいた!
岩田「ここからが俺の出番だぜ!」

天野は5回を2安打1四球無失点と見事な活躍で抑えた。6回からは天野に代わって岩田がマウンドに向かう。守備の方もキャッチャーは野口にレフトは天野に代わった。
野口(コントロールは気にせず全力のストレートを真ん中に投げ込んで来い!)
岩田(こくっ!)

ズバ―――ン!

バッティングに関してはいまいちな武藤はかすりもせず三振に終わる。
武藤「岩田か、本当に無名でも凄い奴はいるもんだ!」

岩田「行くぞ!」

ズバ―――ン!

しかし続く酒井にはストライクが入らずストレートのフォアボールと欠点が目立つのだった。
酒井「結果的には良かったんだが、コントロールが悪いと打ちにくいな」

野口(仕方ない。変化球も混ぜて見るか!)
岩田(うっす!)

ククッ!
山下「フォークか、この程度なら!」

カキ―――ン!

しょぼいフォークだったせいか初見からあっさりと打たれて打った山下はセカンドへと走る。
野口(なんとか無失点だが、1アウト1、3塁ってのはきついな。次の中西を併殺にしたいがランナーもバッターも足は速いし難しいか、さてどうするか?)
岩田(こくっ!)

カキ―――ン!

元よりコントロールの悪い岩田にリードは意味もなくあまいストレートをあっさりと打たれてしまう!
知也「普通なら抜けるんだけど」
高橋「おっと!」

タッ! パシッ!
岩田(助かったぜ!)
知也「すみません」
御堂主将「仕方ない。相手の守備が良かったんだよ!」
知也(と言っても名門のレギュラーなら捕れる打球だったしもっと筋力付けないと全国では通用しないかな?)

ここで高橋が飛び付きキャッチし2アウトとなる。しかしランナーは戻り次の御堂は敬遠で2アウト満塁とピンチの場面となる。
野口(ピンチでチャンスに強い。安藤か、きついがこらえてくれ!)
岩田(天野は無失点に抑えたんだ。俺だって!)
安藤「良い場面でまわって来るもんだな!」

カキ―――ン!
岩田「柴田っ!」
柴田(期待には応えてやりたいが………… ダメだ。届かねえ!)

145キロと出ていたが安藤は見事に打ってライトの頭を越えた当たりとなった!
安藤「想像より重かったせいかホームランにはならなかったか!」

ランナーは一掃されて打った安藤はセカンドでストップするとこれで赤竜高校が一気に逆転するのだった!
岩田「くそっ!」

ズバ―――ン!

しかし岩田は怒りを力に変えて次のバッターを空振り三振に抑えると1年生らしからぬメンタル面を見せた。
館林「本当に速いな!?」

岩田「すまん」
天野「悔しいが相手の方が上だったって事だろう。仕方ないと言えば仕方ないさ。しかし打たれた後は良く抑えてくれたな!」
岩田「結果としてここまで守ってた物を失ったんだ。仕方ないなんて言葉じゃすまねえよ!」
柴田「確かに負けてるけど、まだ負けた訳じゃない。俺達で逆転してやるからお前はこれ以上失点しないように頑張れ!」
高橋「そうそう。これからだよ!」
山本「まあ今日当たってない俺が言うのもなんだけど、なんとか逆転して見せるさ!」
岩田「お前ら……(そうか! これからだよな!)」

武藤「助かりました!」
安藤「まだ試合は終わってないぞ!」
武藤「はい!」
安藤(それにしてもすげえ球威だった!? あんな1年達がいるなら弱小と言ったのは取り消すべきだな!)
知也「完全に行ったと思ったんですけどね?」
御堂主将「それだけ球威があるんだろうね…………しかし強いね」
知也「そうですね」

以降も四死球を投げると安定感はないが岩田の力投や味方の好守備に救われ7回以降は無失点に抑えて行く。

9回裏 無明実業1−3赤竜高校 安藤の一振りにて試合は決まったのか、それでも諦めず無明実業の最後の攻撃が始まる!
柴田(ここはヒットだな。しかしスタミナもあるとさすがは有名なピッチャーだな)
知也(今日は完全にカモにされてるし慎重にコース狙って行こう!)
武藤(ああ!)

カキ―――ン!

9回になると球威も落ちて来たか142キロのストレートをセンター前に打つと逆転の兆しを見せる!
柴田「おっし!」
知也(シングルなら大丈夫!)
武藤(そうだな)

コツンッ!

ここはきっちりと送って行きこれで1アウトランナー2塁となる。
高橋「ふう、なんとか成功した!」
山口「ナイスバント!」
高橋「はい。後はお願いします!」
山口「ああ」

知也(意外に上手いと言ったら失礼か、しかしバントは上手いし目は良いのかな。さてと3番の山口さんは良いセンスしているし注意して行こう!)
武藤(ああ!)

ククッ!

フルカウントと両者の力がぶつかり合うが結果は見逃しフォアボールで出塁とホームランが出ればサヨナラの場面となった。
山口「ふう、手を出さなくて正解だったな」

天野(ここで長打はいらないな)
知也(やっかいなバッターだけど、今日は完全に抑えてるし気を付ければ問題ないよ!)
武藤(おう!)

カキ―――ン!

生きたボールが来るが天野は物ともせず振り抜き打球は場外に消えた!
天野(狙う必要はなかったけど、狙っちまった。なんでかと言われると……)
岩田(さすがだぜ!)
天野(……あいつを敗戦投手にしたくなかったからだよな!)
高橋「これってサヨナラホームランだよね?」
柴田「当たり前だろう!」
山本「もしかしたらと思っていたけど本当に打つとは思わなかったな!?」
山口「まったく大した後輩達だな!」
野村主将「本当にな!」

武藤(この借りは必ず返すぞ天野!)
知也(最後は球威もコースも悪くなかったのに打たれたけど、ああ言う場面に強いと言う事かな)
安藤「完全に勝ちゲームだと思ったんですけどね」
御堂主将「まさかのサヨナラ負けだったね。天野君か」
安藤「個人的には全打席ヒット打っている柴田の方が活躍しているイメージですけどね」
御堂主将「彼のヒットから始まったサヨナラゲームか、どっちにしろ面白いバッターとピッチャーだね。いやピッチャー天野にやられたと言うよりバッター天野にやられた訳だから面白いバッター達なのかもね」
安藤「必ずと言うくらい凄い1年が出て来るもんですね」
御堂主将「だから面白いんだよ!」

赤竜高校 10
無明実業 3× 12
勝利
岩田 定吉
セーブ
敗戦
武藤 将
本塁打 赤竜高校
無明実業 柴田竜 天野守


こうして俺の初めての練習試合は勝利と言う形で終わった。そして1週間後に再び練習試合が決まった。
千歳「次の相手は転生高校なの?」
柴田「ああ。うちと同じく弱小校だ。石崎さんの世代がピークだったな」
千歳「元々弱小だったのがいきなり出て来たんだっけ?」
柴田「ああ。石崎さんは5回甲子園出場と転生高校の名を知らしめたな」

と柴田は言っているが正確には小島(ロッテ)が甲子園で活躍しドラフト1位で指名される事で全国でも知られるようになるのだった。
千歳「そう言えば実雄君は石崎さんのファンだったね」
柴田「あんなアホの事は知らん!」
千歳「なんで?」
柴田「あいつは敵になったんだ。だったら優しくする必要はない!」
千歳「敵って言ってもライバルだしそれにライバルになる前から怒ってたじゃない?」
柴田「秀二から何も聞いてないのか?」
千歳「えっ? 秀君も理由知ってるの?」
柴田「(しまった。余計な事言っちまった!?)いやーあいつは何も知らないはずだ」
千歳「そうなの?」
柴田「そうなの……(なんとか隠せたか)」
千歳(今度秀君から聞いて見よう)

全然隠せてなかったのだがまあそれはどうでも良い事である。

無明実業 野球部グラウンド
浅野監督「ふう、やっと着いた」
前田(ここが無明実業か、あいつらもここにいるんだよな?)
大岡監督「遠いところをわざわざありがとうございます」
浅野監督「いえいえ、それより今日はよろしくお願いします!」
大岡監督「こちらこそ!」
柴田「気のせいか実雄がいるような?」
山本「いやいや気のせいじゃないから!」
柴田「なんであいつが転生にいるんだよ!」
山本「東北に引越したからだろう!」
柴田「…………そうだったな。しかしあいつが弱小校?」
山本「確かに意外だよね?」
前田「意外で悪かったな。今日の先発は俺だし軽く勝たせてもらうぜ!」
柴田「つうか無能が勝つのがそんなに嬉しいかって言ってたお前がなんで転生にいるんだよ!」
山本(しつこいなー)
前田「まだ言ってんのかよ!?」
柴田「でどうなんだ?」
前田「まったくまだ根に持っているとは呆れた奴だぜ。まあ良いだろう。お前らが勝ったら理由くらいは教えてやるよ!」
山本(確かに呆れられても不思議はないな)
柴田「くっくっく、ボコボコにしてやるぜ!」
山本(それ悪役のセリフじゃ?)

高橋「なんかいわくがありそうだね?」
岩田「あの柴田の事だ。どうせくだらん事だろう」
天野「まあ否定はできないな」
高橋「と言うか今日の僕達ってベンチだよね?」
岩田「先輩達の調子も見たいって言ってたからな」
高橋「じゃあどうやってボコボコにするんだろうね?」
岩田「ケンカでもするんだろう」
高橋「それまずくない」
柴田「誰がそんな事するかよ!」
山本「なあ?」
天野「それで相手は顔見知りみたいだが?」
柴田「奴こそが俺を小馬鹿にしてくれたアホ男こと前田実男( まえだじつお )だ! 理由は話すと長くなるから省略するが奴と俺との間にはとてつもない因縁が」
山本「竜ってばよ!」
岩田「どうせくだらん事だろう」
高橋「ははっ、僕もそう思うよ」
柴田「そんな事ねえし」
山本「おい!」
柴田「あん? なんだよ?」
山本「いや、今日の俺らってベンチじゃん。代打くらいなら出番はあるかも知れないけど?」
柴田「げっ!? すっかり忘れてた―――!?」
3人(やっぱり大した事じゃなさそうだな)

−練習試合 無明実業グラウンド−
2年 河内 徹
後攻 先攻
無明実業高校 転生高校
投手力 機動力 投手力 機動力
打撃力 守備力 VS 打撃力 守備力
意外性 経験値 意外性 経験値
総合力 総合力
武田 栄二郎 3年
3年 豊田 誠 吉川 良三 2年
3年 木村 正哉 江田 繁 3年
3年 野村 栄治 前田 実雄 1年
2年 山口 忠 奥川 政弘 3年
3年 西岡 望 早瀬 光平 2年
2年 野口 鉄雄 村井 嘉信 2年
2年 酒井 正次 山内 高雄 1年
3年 安田 文夫 平塚 正勝 1年

前田「つうかお前らベンチか?」
柴田「そう言うお前はエースで4番かよ!」
前田「知っての通りうちは弱小だからな。それにベンチ入りはないと9人ギリギリで戦わないと行けないからな」
柴田「なんでそんなところに行ったんだよ?」
前田「それを知りたければ勝つ事だな!」
柴田「良いだろう。ボコボコにしてやるぜ!」
前田「スタメンじゃないのにか?」
柴田「ピンチヒッター柴田を舐めるんじゃねえ!」
前田「ふーん」
柴田(くそっ! 試合も始まっていないのに負けた気分だぜ!?)

1回表 無明実業0−0転生高校 先発は3年の木村と変化球とコントロールは高いらしい?
木村「相手は弱小だがそこそこはやりそうだな」

ズバ―――ン!

130キロのストレートを空振り三振とあっさりと1人を抑えた!
武田「速いな」

木村(手も足も出ないのか?)

ククッ!

得意のスライダーも使いあっさりと連続三振を奪う!
吉川「結構変化するしこれで同じ弱小かよ!?」

木村(……ふむ)

ガキッ!

しょぼいシュートだったがストレートと思って振ってしまったかあっさりと三者凡退に終わった!
江田「打てなくもなかったんだがな」

無明実業 野球部ベンチ
柴田「やっぱり先輩だけあって上手いピッチングをするよな」
山本「変化球が手元で落ちるしやっぱり打ちづらさがあるよ」
岩田「球速は俺らより10キロは遅いのにな」
天野「並みの高校には十分速球で通じるけどな。しかし名門の多いこの地方じゃ勝つのは難しいだろうな」
高橋「そろそろ前田君が投げるよ。彼ってどんなピッチャーなの?」
柴田「アホなピッチャーだ!」
3人「………………………………」
山本「……球速はお前らと同じくらいで変化球はカーブだけだよ」
天野「と言う事はストレートは木村さんより上か」
山本「カーブも結構変化するよ。緩急を上手く使えば良いピッチャーなんだけど」
岩田「分かった! 俺と同じでコントロールが悪いんだな!」
山本「まあ良いとは言えないけど、別に悪くもないし普通かな」
岩田「そうなのか?」
高橋「ストレートとカーブだけか、予想はしやすそうだね」
山本「うん。狙われると結構打たれやすいのと後はクイックが下手なとこかな」
岩田「そこは俺と同じなのか」
柴田「トルネードだからそりゃ走られるって何度も監督がフォームを変えろって言っても聞かなかったしな」
天野「トルネードで通用しているプロ野球選手も数は少ないけどいるからな」
山本「タイプとしては河島選手(オリックス)に近いかな。だけど、カーブだけ見れば上だしコントロールもあの人よりは良いと思うし?」
柴田「むかつく奴ではあるがシニアでも一応エースだったし実力は高い。まあ見れば分かるさ!」

1回裏 無明実業0−0転生高校 いよいよエースで4番の実力が明らかになるのか?
前田(あいつらはいないがここで負けちゃ先輩達に自信を付けさせられないし全力で行くぞ!)

ズバ―――ン!

ただでさえ速いストレートだが手元でグーンとノビる為か打てず河内は見逃しの三振に終わる!
河内「この前の武藤といい今年の1年は怪物ばっかりか!?」

前田(次はこいつだ!)

ククッ!

右と左で違うが天野に負けないカーブを投げられて空振り三振と奪三振が続く!
豊田「想像以上の変化だった!?」

前田(再びこれだ!)

ズバ―――ン!

143キロと手が出ず3番の木村も三振に終わる!
木村「コントロールも悪くはないか」

無明実業 野球部ベンチ
柴田「ちっ、やっぱり1打席で打つのは難しいか」
高橋「確かにストレートとカーブだけだったね」
山本「前より球速やコントロールも上がってるしやっぱり打ちにくそうだな」
天野「やはり無名でも良いピッチャーはいるな」
岩田「しかも俺達と同じ歳と面白いじゃないか!」

両投手はナイスピッチングが続き無失点のまま4回に入った。

4回表 無明実業0−0転生高校 ここまで両投手は完全に打線を沈黙させている。
武田「当たれ!」

カキ―――ン!

得意のスライダーで三振を狙ったがややコントロールも変化もあまかったかあっさりとセンター前に打たれる!
木村「抜けたか」

ガキッ!
酒井「オーライ!」

パシッ!

ストレートを打ち上げてショートフライとあっさりと1アウトランナー1塁となる……
吉川「ちくしょう!」
武田(タッ!)
野口(シュッ!)

……と思いきやランナーの武田が上手く木村のモーションを盗みセカンドに到達と1アウトランナー2塁に変わった。
木村(河内に負けない足をしているし三盗も狙うか?)

ガキッ!

ここで木村が痛恨の失投を投げてしまうが来たバッターも予想外で打ち上げてしまう。
江田「くそっ!」
武田「ドンマイ!」

しかしライトフライだったおかげかランナーの武田は三塁に到達と2アウトランナー3塁となる。
野口「危なかった!?」
木村「ふう」

カキ―――ン!
前田「行け!」

ここで4番の前田が高めのストレートを完全にとらえて打球は場外に消えた。
野口「くそっ! さすがは4番ってところか」
木村「仕方ない。次を抑えて行こう!」
野口「はい!」

木村はこれ以降も続投を続けて行き結局9回を2失点と言う成績と結果的には悪くない内容だった。

無明実業 野球部ベンチ
柴田「4番に座るだけあって見事な一振りだったな」
山本「どっちかと言えば荒っぽいバッティングってイメージだったけど、いつの間にか技術も付いてるね」
高橋「しかし木村さんも後続を無失点に抑えたのはさすがだね」
天野「と言っても四死球を出すしメンタル面では弱いかもな」
岩田「後続にヒットは打たれなかったしそんな事もないだろう」
天野「ふむ」
高橋「しかしあの前田君も大した物だね。ワンマンチームってイメージだけど、これなら甲子園も行けるんじゃない?」
柴田「うむと言いたいとこだがあいつ1人じゃ難しいだろうな」
山本「そうだね(いつの間にか認めてるしやっぱりすぐに評価が変わるんだな?)」
高橋「そう言う物なの?」

9回裏 無明実業0−2転生高校 前田はその実力で完封目前となっているが無明打線はここで終わらないのかも知れない?
前田「3人で終えて初勝利を飾る!」

ズバ―――ン!

142キロのストレートと衰えず先頭打者は三振で終えた。
豊田「疲労はあるはずなのになんでボールの勢いは増しているんだ!?」

前田「追い込んだぞ!」

ガキッ!

カーブをとらえきれずピッチャーゴロに終わりこれで2アウトとなる!
木村「ストレートとカーブだけなのにな」

前田「目指すは完封勝利!」

カキ―――ン!

140キロのストレートだったが野村の会心の当たりで打球は消えてなくなりホームランとなった!
野村主将「ようやく打てたか(一応はキャプテンとしての面目は立てたかな)」
前田「後1人のとこでこの俺が打たれたのか―――くそっ!」

ガキッ!

山口も負けずと芯に当てたがそれでも球威に押され打球は伸びずセンターのグラブに入って試合は終わるのだった!
山口「打たれて調子を落とすかと思えば上がるとはな」

こうして次の練習試合は敗北に終わった。しかし新世代到来とも言うべき試合は色々な収穫のあった試合と勝っても負けても学ぶ事は多かったらしい。

無明実業 野球部ベンチ
柴田「結局出番はなかった」
山本「まあ監督も今日は出場なしって言ってたしな」
柴田「俺とあいつの因縁があるんだし出してくれても」
山本(理由聞いたからこそくだらなくてやめたと思うんだけど、それに前の試合では大活躍だったしもう監督も見る必要はないって思ってたのかな?)
前田「さてと俺の勝ちだな」
柴田「後1人のところで完封勝利逃したバカが何をいきがってんだが?」
前田「(ピキッ!)ほう! 負けたくせにずい分と態度がデカイじゃないか?」
柴田「俺は出てなかったんだ! こんな勝敗はノーカンだ!」
前田「やかましい! チームの勝敗こそが重要なんだろう! スタメンだベンチだと言っても負けは負けだ!」
柴田「認めんったら認めん!」
前田「この負けず嫌いが!」
山本「それで理由はやっぱり教えてくれないのか?」
前田「まあそこのアホがケンカ売らなきゃ教えてやらなくもなかったんだが」
柴田「うっさい! アホにアホと言われる…………うーんと?くそっ!」
山本(これは学力の差を思い出したな)
前田「ふん! まあなんだお前らの元気そうな姿を見て少しは安心した。できれば夏に会おう!」
山本「夏か、けど竜はともかく俺はスタメンは無理かな」
前田「あの見事なホームラン打ったのがキャプテンだもんな。まあ夏じゃなくてもお前ならすぐにスタメン奪えるだろうし戦う事を楽しみにしてるぜ!」
山本「ああ! ほら竜も!」
柴田「……まあなんだ今日の試合見ててお前もお前で頑張ってるのが分かったよ。夏に会おうな!(プイッ!)」
前田「おう!(プイッ!)」
山本(素直じゃないな。まあ少しは仲良くなっているし次に会えば普通に接する事もできるだろうな…………多分だけど?)

転生高校
無明実業
勝利
前田 実雄
セーブ
敗戦
木村 正哉
本塁打 転生高校 前田実雄
無明実業 野村栄治


今日も今日とていつもの散歩に千歳と一緒に行って柴田は色々な事を話していた。
柴田(と言っても話題は野球しかないが)
ディー「………………」
千歳「どうしたの?」
柴田「しかし引っ越しで仕方ないとは言えなんであいつはあんな弱小校に入ったんだ?」
千歳「まだ言ってるの?」
柴田「だってよー理由を聞けなかったら余計に気になるじゃないかー?」
千歳「まあ分からなくもないけど、そう言えばもうすぐ夏の大会だけど……」
柴田「俺は多分レギュラーだな!」
ディー「………………」
千歳「断言しても多分が付くと曖昧に聞こえるね?」
柴田「だってレギュラー決めるの監督とキャプテンだしバッティングが良いって言われても守備に難があるって思われているだろうしな」
千歳「でも竜君は守備が上達しているって言ってたじゃない!」
柴田「4月に比べたらな。しかし安田さんや荒井さんは俺よりはるかに守備は上手いし(その分バッティングはしょぼいけど)」
千歳「それでもみんなベンチ入りはできるんだしみんな出番はありそうだね」
柴田「うむ。しかし秀二の精神面はもろいから代打で出されてもなんの事はない打席になるだろうな」
千歳「へ?」
柴田「ようするにロマンがない!」
ディー「………………」
千歳「ロマン?」
柴田「代打と言う物はたくさんの人間の期待を背負う物だ!」
千歳(状況に寄ると思うけど? でもそこで活躍できれば出番は増えるし期待を背負うと言うのも間違ってないのかな?)
柴田「しかしあいつのメンタル面って昔からもろかったっけ?」
千歳「僕より竜君の方が詳しいと思うけど?」
柴田「野球に関してはな。なんか原因があれば解明できるだろうし天野に相談しとくか」
千歳「そこは竜君が相談に乗ってじゃないんだ?」
柴田「もちろん相談に乗るがこう言うのはみんなで頑張って越えて行くからドラマなんだよなー」
千歳(はあ、竜君は全然変わらないなーこのままずっと変わらないのかな?)
ディー「………………」

いよいよ夏の大会も目前となった。今年の1年は誰もが大したセンスをしているがその中でレギュラーを獲得する者は何人出るのだろうか?