第5章 屈指の名門対決!

−2000年 7月−
無明実業も無事に勝ち上がりいよいよ決勝戦を迎えた。
大岡監督「久々にここまで勝ち上がって来れたな」
全員「まだ信じられませんよ?」
大岡監督「信じようが信じまいが後1つ勝てば甲子園だ。今日は絶対に負けられない試合だって事は忘れるな!」
全員「おう!」
山本「さすがに今日の先輩達は気合が入ってるな」
岩田「当然だ! 後1つで念願の甲子園だからな!」
高橋「でも後1つが一番の問題なんだよね?」
全員「………………………………」
大岡監督「確かに高橋の言う通りだ。今のお前達の力では勝つのは難しいだろう!」
全員「………………………………」
大岡監督「しかしだ! ここまで来たお前達なら俺は勝てると思う!」
全員「監督?」
大岡監督「そうだな……言葉じゃ上手く説明できないが、ようするに気持ちの上で負けていたら絶対勝てない。だから勝てると思って戦え、そうすれば少しは勝てる確率が上がる!」
全員「はい!」
柴田「やっぱり今日は精神論なんだな」
山本「相手の力が圧倒的に上だからな。技術より精神に重きを置くってとこなんだろう」
柴田「つまり今日の試合で大活躍すれば技術より精神が大幅にUPだから特能をいっぱい習得できるわけだ!」
山本「いやいや、ゲームじゃないからっ!」
全員「………………………………」
天野「まあ、あいつらは放って置いて今日の試合は1点もやりません。だから野手のみんなは1点で良いなんとか取ってくれ!」
柴田「1点どころか5点は取ってやるぜ!」
山本「1番で5点は難しいんじゃないか、ここは塁に出て……も邪魔にしかなりそうもないからホームランで一発だけを期待しよう!」
高橋「うんうん」岩田「だな」
柴田「ひでえー」
酒井「1年連中はいつも通りと言うかリラックスしてるな」
山口「ここまで来たんだ。全力で勝ちに行くだけだ。監督だって言ってただろう!」
酒井「そりゃそうだけど」
野村主将「まあ分からんでもないな。天野達は負けを知らないけど、俺達は負け犬根性が染みついてると言われても否定はできなかったからな」
山口「今日勝てばそれも克服できます!」
酒井「あの天狼に勝てればか」

−地方大会決勝戦 明治神宮野球場−
1年 柴田 竜
後攻 先攻
無明実業高校 天狼学園高校
投手力 機動力 投手力 機動力
打撃力 守備力 VS 打撃力 守備力
意外性 経験値 意外性 経験値
総合力 総合力
山内 和馬 3年
3年 豊田 誠 一枝 良樹 3年
1年 天野 守 醍醐 耕助 2年
3年 野村 栄治 秋山 孝史 3年
2年 山口 忠 寺沢 啓一 2年
3年 西岡 望 真田 敏樹 3年
2年 野口 鉄雄 東山 章助 1年
2年 酒井 正次 川瀬 啓太 3年
3年 安田 文夫 篠原 壮也 1年

篠原「山内さん、一発頼みますよ!」
山内「………………」

篠原の何気ない言葉だったが返事する事なく山内はベンチに向かって行った。
篠原「また無視された」
秋山主将「だから無駄だと言っただろう」
篠原「だって絶対変ですよ!」
秋山主将「俺もお前の言う通りだと思うが」
醍醐「どうしたんですか?」
秋山主将「いつもの事だよ」
醍醐「なるほど」
秋山主将「前にも言ったと思うが俺に取っての一番は甲子園優勝ではなく野球部を昔のように戻す事だ。みんなで笑って楽しんで野球をしていたときのようになしかし俺では無理だったようだ。だから俺の代わりに耕助、壮也、頼む!」
篠原「任せて下さい。キャプテン達の意志は俺達が継ぎますから!」
醍醐「大丈夫ですよ。今のところ十人足らずですが必ず今の野球部を潰して新しい野球部を作りますから!」
寺沢「そうそう、俺か醍醐がキャプテンになれば大丈夫ですよ!」
篠原&東山「寺沢さんだと不安だなー」
寺沢「何か言ったか?」
篠原&東山「いいえ」
秋山主将「やれやれ……俺の意志はお前達が継いでくれ!」
醍醐&篠原&寺沢&東山「はい!」

放送席
霞「なんと言うかあっさりとここまで来ましたね。今年の決勝戦のカードは意外と言ったら失礼かも知れませんが無明実業VS天狼学園となりましたが武藤さんはどう思いますか?」
武藤「どうって言われても……無明実業は弱小と言われていますが過去の実績がありますから個人的には不思議じゃないと思いますよ。天狼学園はもう順当と言われる名門になりましたね」
霞「ふむ。まあ納得して置きましょう。ここでのポイントは両校のエースが1年で勝ち上がって来たと言うところですか?」
武藤「(上から目線が引っかかるが)そうですね。無明実業も天狼学園も絶対的なエースはいませんでしたからね。一番大事なところを1年がいてくれる事は長期に渡って大活躍してくれる予感がありますね」
霞「ちなみに天野君と篠原君ですが世間的には天野君が上と言われてますが武藤さんとしてはどうでしょう?」
武藤「うーん、難しい質問ですが総合的には天野君が上だと思いますよ。篠原君も負けてないんですがここまで無失点で抑え続けてる天野君は驚異的ですからね」
霞「しかし今日は全国でも最強打線と呼ばれる天狼学園ですし無失点は難しいんじゃないでしょうか?」
武藤「そうですね。この打線相手に完封できるピッチャーはアマチュアにはいないとも言われてますし、もし完封できるならそのピッチャーは全国でもナンバーワンと呼ばれるでしょうね」
霞「つまり天野君次第と言う事ですね」
武藤「はい……ですが無得点では勝てませんから不動の4番のいる天狼学園が有利でしょうね」

1回表 無明実業0−0天狼学園 ついに来た名門対決だが天野は無事抑えられるのだろうか?
天野(シュッ!)
山内「………………」

カキ―――ン!
柴田「オーライ!」

パシッ!
霞「良い当たりかと思えましたがライトの頭は越えず柴田君の守備範囲で1アウトです!」
武藤「山内君は打てそうなボールが来たら結構ガンガン振って来ますが、打てなかったと言う事は天野君のボールの威力が想像以上だったって事ですかね?」

天野「いきなり芯に当てて来たしやっぱり一筋縄では行きそうもないな!」

ズバ―――ン!
一枝「………………」

霞「147キロのストレートを空振り三振と天野君の調子は良さそうですね!」
武藤「飛ばし過ぎな気もしますが、飛ばさなきゃ打たれてしまう打線ですしここは仕方ありませんね」

醍醐「さてとキャプテンの前に一発打たせてもらうか!」
野口「おおっ! 初めて喋った!?」
醍醐「あのなー(まあ確かにうちは試合中の私語は禁止されてるけど)」

カキ―――ン!
天野「っ!?」

霞「左中間抜けた! 打った醍醐君はセカンドで止まります!」
武藤「カーブを完全に狙い打ちでしたね。巧打と長打を併せ持つこの醍醐君と秋山君は要注意ですよ!」

秋山主将「普通なら敬遠の場面だが、天野ほどのピッチャーならプライドが邪魔して勝負だよな」
天野「1打席目から歩かせるなんて弱腰じゃ流れが完全に向こうに行ってしまうしここは勝負だ!」

カキ―――ン!
天野「なんて飛距離だっ!?」

霞「飛距離は文句なしですが残念ながら切れてファールとなります!」
武藤「高校生の飛距離じゃありませんよ!?」

秋山主将「思ってたより遅いな。もう少し待って振るか」
天野「完全に引っ張られてのファールか」

ガキッ!
秋山主将「さっきより速い!? ん? 144キロって前の時と同じ球速じゃないか?」

霞「今度は前には飛ばず後ろに飛んでまたファールです!」
武藤「さっきと比べてノビてるんですかね?」

天野(様子見はなしの三球勝負だ! 今の俺がどれほど通用するか、当たって砕けろだ!)

ズバ―――ン!
秋山主将「まさかの三球勝負かっ!?」

霞「最後は148キロのストレートを空振り三振! 天野君、1回から自己最速を更新しました!」
武藤「秋山君が三振したところを久し振りに見ましたね。さすがは天野君ってところですか」

天野「さすがの迫力でしたね」
野口「まあな。後3回は打席が来る事を考えるともう恐ろしいな」
天野「俺も完全に抑える事しか考えてませんでしたけど、こうなるとヒットなら許すくらいの慎重さの方が良いかも知れませんね」
野口「そうだな(ふむ。天野にしては珍しく弱気だな?)」

秋山主将「俺が空振り三振か……いつ以来だろう? 天野守か」
寺沢「嬉しそうですね」
秋山「まあな、しかし次の打席にはお返ししてやるがな!」

1回裏 無明実業0−0天狼学園 天野は得点圏にランナーを背負う物の最後は秋山から空振り三振を奪う!
篠原「さすがは天野、俺も負けられないな!」
柴田「ん?」

カキ―――ン!
篠原「えっ?」

霞「打球はライトスタンドに入った! 初球を完全にとらえると1球で無明実業高校が先制します!」
武藤「なかなか点が入らない展開かと思えましたが、いきなり入るとまさかの無明実業先制でしたね!?」

柴田「ふっふっふ、今日の俺は無茶苦茶絶好調だぜ!」
篠原「この1点は仕方ない。まだ試合は始まったばかりだ!」

ズバ―――ン!
豊田「速いっ!?」

霞「142キロのストレートを空振り三振! 柴田君に一発打たれた物の力強いストレートで豊田君から三振を奪いました!」
武藤「やはり調子は良さそうですね。打たれたのも失投と言うわけではなかったし打った柴田君が凄かったんでしょうね!」

篠原「これで終わりだ!」

ククッ!
天野「これが決め球のスライダーか」

霞「得意のスライダーで天野君から三振を奪いこれで2アウトです!」
武藤「右と左で違いますが2人共良いスライダーを投げますからね。ストレートと合わせて使われるとなかなか打てませんよ」

篠原「まだまだ!」

ガキッ!
野村主将「センターフライか」

霞「野村君は打ち上げてセンターフライに終わります! これで3アウトチェンジですが無明実業高校、いきなり1点先制と名門相手に負けていませんね」
武藤「そうですね。打った柴田君より抑えた天野君と篠原君のピッチングを観て間違いなく決勝に相応しいエース同士の投げ合いと思いましたよ!」

篠原「まさか初球でホームランを打たれるとは……」
醍醐「気にするな。偶然当たっただけだ。本来なら悪くてもヒットなんだが長打力が高かったせいかホームランになっただけだ」
篠原「うちのオーダーと同じく1番にパワーヒッターですか」
醍醐「守備を見る限り足も速そうだしランナーとしても注意する必要がありそうだな」
篠原「塁に出すのもダメとなかなか嫌なバッターですね」
醍醐「ま、出さなきゃ良い話だ。ただしホームラン打たれないようにな」
篠原「やだなー分かってますよ。ははっ」

山口「1年とは言え天狼のエースですしやっぱり打ちにくそうですね」
野村主将「うむ。球速は春のエースの静木より下だが他は勝っている感じとやっぱり1年離れしてるな」
天野「……それにしても良く打てたな?」
柴田「ふっ……マグレだ!」
天野「威張って言うセリフじゃないな?」
柴田「取り合えず決勝で緊張してるから思いっ切りフルスイングして緊張ほぐそうと思ったら完全にとらえて入っちまった。ま、運も実力のうちって言うしな。まあそれよりだ。約束通り1点取ったし頼むぜ!」
天野「ああ。必ずこの1点は守り切る!」

2回表 無明実業1−0天狼学園 柴田の一振りであっさりと先制と観客の予想を上回る無明実業のリードでこのまま試合は進むのか?
寺沢「ふん!」

カキ―――ン!
天野「綺麗に合わせて来るな」

霞「打球は1、2塁間を抜けて打った寺沢君はセカンドには走らずファーストで止まります!」
武藤「左と左で打ちにくいかと思いましたが結構簡単に打ちますね」

天野「走って来るか、送って来るか、それとも普通に打って来るか、ま、打率高いバッターばかりだしバッターに集中しよう!」

ククッ!
真田「………………」

霞「真田君はスライダーを空振り三振し1アウトです! ランナーの寺沢君は動かずファーストで止まったままです!」
武藤「変化球もかなりキレてるし天狼学園でも大量得点は難しいと天野君は良いピッチャーですよ!」

天野(シュッ!)

コツンッ!
東山「ふう、なんとか成功したな」

霞「走らず東山君が送りバント成功で2アウトランナー2塁となりました!」
武藤「天狼学園が送りバントってのも珍しいですね。しかし上手いバントでしたし東山君は2番の方が合っているかも知れませんね」

天野(ファーストで走るか走らないか心配するよりランナーを得点圏で背負う方が気が楽だ!)

ズバ―――ン!
川瀬「………………」

霞「145キロのストレートを空振り三振と勝負球は凄い威力ですね!」
武藤「ええ。ランナー背負った後の方がピッチングは凄いと精神力も素晴らしいですよ!」
霞「つまり武藤さんと反対なんですね」武藤「言うと思いましたよ」

野口「いきなりヒットを打たれた時はどうなるかと思ったがなんとか抑えられたな」
天野「なんかチグハグな攻撃でしたからね」
野口「ああ。走るかと思えば走らず打つかと思えばバントだったからな。得点圏にランナー置いても何も仕掛けて来なかったしな?」
天野「ええ。チームワークが良くないんですかね?」
野口「さあな」

東山「これじゃ送った意味がないな」
寺沢「出た意味もなかったな」
秋山主将「はいはい。とっとと守りに行くぞ!」

2回裏 無明実業1−0天狼学園 天野は再び得点圏にランナーを背負うが失点は許さない力強いピッチングを見せる!
篠原「行くぞ!」山口「見える! ここだ!」

カキ―――ン!
霞「決め球のスライダーをセンター前に運んだ!」
武藤「真ん中とコースがあまかったですね。しかし初見で決め球をヒットにしたのは大きいですよ!」
霞「そうですね。いきなり打たれたって事はこれから篠原君が山口君を抑えるのは難しいと言う事ですからね」
武藤「ええ……まあ隠している変化球でもあれば別ですが……あるわけないですよね」

篠原(通用しないのか?)
醍醐(気にするな。後続を断てば良い事だ!)
篠原(はい!)

ズバ―――ン!
西岡「スライダーが見せ球で決め球がストレートだとっ!?」

霞「最後はボール球のストレートを振らせて空振り三振に終わらせます!」
武藤「力押しでは抑えられそうもないので醍醐君もリードを変えて来たみたいですね」

篠原(シュッ!)

ズバ―――ン!
野口「しまった!?」

霞「野口君にも西岡君に似たような配球で三振を奪います!」
武藤「同じ手でやられるのはちょっと情けないですね。しかしキレも速度も素晴らしいですね!」

篠原(ふう、後1人か!)

ガキッ!
酒井「ランナー返せなかったか」

霞「酒井君はストレートに詰まってピッチャーゴロに終わり3アウトチェンジです!」
武藤「醍醐君のリードはやっぱり凄いですね。読み負けした事はないんじゃないですかね?」

篠原「醍醐さんのおかげで助かりました!」
醍醐「俺はお前の力を引き出しただけだ。抑えたのはお前の実力だよ!」
篠原「これからも頑張ります!」
醍醐「おう!(篠原の力があれば本来なら完封も可能なはずなんだがもう1点取られてるし柴田には特に注意しといた方が良さそうだな)」

山口「ノーアウトで出ても後続が続かないんじゃ意味がないな」
西岡&野口&酒井「………………………………」
野村主将「おいおい。そんな事言ったらダメだろう。しかし篠原は噂通りの良いピッチャーだな。静木がエースナンバー奪われた理由も分かったよ!」
山口「そうですね。しかしあいつらは大変ですね」
野村主将「ああ。篠原を打たない限り甲子園には行けないからな。1年でこんな怪物と戦う事になるのが幸福な事か不幸な事か、俺には分からんな?」
山口「大丈夫ですよ。向こうからしたら同じ事ですから」
野村主将「ははっ、そうだったな。こちらにも1年の怪物……いや怪物達がいるんだったよ!」

3回表 無明実業1−0天狼学園 ノーアウトでランナーが出るが後続は続かずいともあっさりと抑えられてしまう!
天野「それが経験値の差って奴かもな……いや相手も同じ1年だ。まだそんなに差があるわけじゃないさ!」

ズバ―――ン!
篠原(ふう、打って見たかったな)

霞「最後は手が出ず見逃し三振に終わります!」
武藤「146キロと1年生離れした球速を出してますし手が出なくても不思議ではありませんよ」

天野「次は1番か、ヒット性の当たりを打たれたし注意して行こう!」

ガキッ!
山内「………………」

霞「148キロのストレートになんとか当てたが結果はピッチャーフライと球威に押された結果に終わりました!」
武藤「天野君のボールは球質が重い感じはしなかったんですが、速度が出るとそこそこ重くなるんですかね?」
霞「元プロが私に質問するんですか?」
武藤「元プロって言われても昔より球種も増えてるしストレートも複数種類あると把握しきれていないんですよ!」

天野「クリーンナップの前にランナーは出したくないな!」

ガキッ!
一枝「………………」

霞「巧打者一枝君も打てずこの回は三者凡退に終わります!」
武藤「さすがは天野君ですね。しかし天狼学園の選手達は打てなくても落ち着いてると言うか冷静と言うかなんて言えば良いんでしょうね?」
霞「とにかく天野君はこれで3回を抑えたわけですが」
武藤「まあ大した物ですが、まだ3回ですしここまで飛ばし過ぎたイメージがあるし最後まで持つとは思えませんね」
霞「ちなみに天野君はここまで無失点で抑えて来ていると1年生離れした力を見せています!」
武藤「そうですね。今日もですがここまで頑張って来た疲労もあると思うんですよね」

天野「ここまでは完封ペースか」
野口「いや、明らかに飛ばし過ぎだ。このまま行けば9回持たずにスタミナが尽きるだろう」
天野「構いませんよ。後ろには岩田や木村さんがいますしそれに」
野口「手を抜いたらまず打たれるか」
天野「ええ。それはバッターを間近で見ている野口さんが一番分かってる事でしょう!」
野口「ああ(特にクリーンナップは注意しても一気に決められかねないからな)」

篠原「はあ」
醍醐「どうしたって聞くまでもなく。打席に立っただけで終わった事だよな」
篠原「ええ。ケガする可能性があるからバットは振らず打席の後ろに突っ立っていろですよ!」
醍醐「まあバッティングの良いピッチャーは結構振らせてるイメージもあるがプロでもそう言う事はあるからな」
篠原「天野ならコントロールも良いしまず当たる事もないのに」
秋山主将「まあ当たる可能性もゼロじゃないように監督の言う事にも一理はあるさ」
篠原「はあ、俺が言うのもなんですが静木さんのように実力あるピッチャーもいるのになんで俺がエースなんでしょうか?」
醍醐「それぞれに欠点があるのが理由だろうな。監督は完璧主義なところがあるし」
秋山主将「そう言う意味じゃお前は監督の好みのピッチャーなんだろう。ま、あの監督も対立しているとは言え悪い人じゃないさ」
篠原「まあ目をかけてもらってるし悪く言いたくはないですが」
醍醐「……そうだな」

3回裏 無明実業1−0天狼学園 この回は三者凡退と天野は問題ないピッチングを見せる!
篠原「安田さんと言う人は良く知らないな?」

ククッ!
安田「凄過ぎるっ!?」

霞「最後はカーブを空振り三振と安田君はあっさりと終わりました!」
武藤「これでバッティングも良ければ間違いなくドラフトに引っかかるでしょうに」

柴田「食らえ会心の一撃!」

カキ―――ン!
篠原&醍醐「っ!?」

霞「まさかと思ったが入った! 柴田君、2打席連続ホームランと無明実業、更に1点追加します!」
武藤「今度は決め球のスライダーを完全にとらえましたね。天野君だけでなくこの柴田君もいるんじゃ決勝進出は確かに実力だったと観客も気が付いたように歓声を上げてますね!」

柴田「いやーどうもどうも!」
豊田「俺も負けてられないな!」

コツンッ! ビュ―――ン! パシッ!
霞「ピッチャー前のセーフティバントでしたがキャッチャーの醍醐君がキャッチしファーストに投げて2アウトとなります!」
武藤「狙いは悪くなかったですが醍醐君にあっさり見破られましたね」

醍醐「落ち着け! 打たれたとは言え切り札もあるしまだまだ大丈夫だ!」
篠原「すみません。打たれて動揺して危うくランナー出すところでした。醍醐さんの冷静さを見習って頑張って行きます!」
醍醐「ああっ!(とりあえず柴田の一発のせいで完全に裏をかかれた事は黙っておこう)」

ガキッ!
天野「このボールを2打席連続ホームランか、とんでもない怪物がうちにいたもんだ」

霞「惜しくも伸びず天野君はレフトフライに終わり3アウトチェンジです!」
武藤「まあ少し伸びたくらいじゃ同じくアウトでしょうね。分かっていた事ですが天狼学園は守備の名手も多いですよ」

篠原「まだ3回だってのに1試合投げた気分ですよ?」
醍醐「打たれた時は疲労が倍増する物だがまだ大丈夫だ。精神的な疲労はあっても体力的にはまだまだ行けるさ!」
篠原「ですけど」
醍醐「分かってる。こうまで打たれたら柴田には切り札を使うしかない。できれば全国まで隠したかったが隠したままで勝てる相手じゃなさそうだからな」
篠原「はい!」

天野「………………」
柴田「どうした?」
天野「俺が打てば流れは完全にこっちの物だったかなと思ってな」
柴田「ん〜そうでもないだろう」
天野「そうだな。そうそう崩れる奴じゃなさそうだ」
柴田「だから名門のエースナンバー獲ったんだろうな」

4回表 無明実業2−0天狼学園 柴田の一振りで再び追加点と今日の主役は天野ではなく柴田らしい!
天野「追加点か、守って行くぞ!」

ズバ―――ン!
醍醐「くっ!?(1回の時より球威が増しているのか?)」

霞「148キロのストレートを空振り三振!」
武藤「高めで怖かったですが醍醐君から空振りを奪うとはさすがは天野君ですね!」

秋山主将「追い込まれると打てないなら追い込まれる前に打てば良い事さ!」

カキ―――ン!
天野「………………」

霞「初球から行った! 打球はバックスクリーンに入りました!」
武藤「追い込まれるときついんで初球のストライクを完全に狙ってフルスイングで運びましたね! そう言えば今大会初の失点でもありましたね。さすがは秋山君ってところでしょうか!」

秋山主将(おっし!)
寺沢「キャプテンの無言のガッツポーズ久し振りに見ましたよ!」
秋山主将「俺、ガッツポーズしてたか?」
寺沢「ええ。小さくガッツポーズしてましたよ!」
秋山主将「全然気付かなかった(ま、あんな手応えは久々だったからな!)」

霞「おっとホームランで調子を崩したか続く寺沢君と真田君はフォアボールで得点圏にランナーが出塁しました!」
武藤「初めての失点で一気に調子を落としたんですかね? このままだと一気に逆転されかねないしここは正念場ですね!」

天野「ふう、とにかく落ち着いて投げないとな」

カキ―――ン!
東山「これは行ったぜ!」
柴田「うぉ―――!」

タッ! パシッ!

霞「これは行ったか! 完全に失投をとらえて打球は……」
武藤「……柴田君が捕りましたね!?」

柴田「ランナー出てるチャンスだ!」

ビュ―――ン! パシッ!
豊田「酒井、パス!」酒井「はい!」
寺沢「しまった!?」

霞「サードをまわっていた寺沢君は当然ながら戻れずアウトになり3アウトチェンジです! ここで柴田君のとんでもないプレーが出ました!」
武藤「あれを追い着いてとったのはスーパープレーでしたね。しかし調子を落とした天野君を完全にとらえてこんな結果に終わるとは野球は分かりませんね!?」

柴田「捕れなかったら逆転になるところだったな。しかし我ながら良く捕ったもんだ!?」
天野「自分で驚いているとはなんと言うかお前らしいな。しかし助かったよ!」
柴田「らしくないぞ。お前はもっと俺に敵う者なんているわけないって自信満々な顔して投げれば良いんだ!」
天野「そんなに自信家じゃないつもりなんだが……まあ、今日のお前には打っても守っても助けてもらってばかりだな。本当に助かった!」
柴田「いつも活躍してるだろうが!」
天野「そういえばそうだなまあ、お前のおかげで呪縛が解けた」
柴田「呪縛?」
天野「ああ。秋山さんと対峙したときに凄い威圧感みたいなのにあって上手く力を出せなかったんだ。それで1回コテンパンにやられると続いて響いてくみたいにな。最初に対峙したときは三振に取ったから良かったけど、次に打たれたときにその呪縛ってのにかかったみたいだな!」
柴田「良く分からないけど、ようするに相手に呑まれたんだろう?」
天野「まあ、そう言う事だな。しかし秋山さんのプレッシャーはなんて言うか格が違うんだ。あの人の場合は呪縛って言った方が的確な表現だと思う」
柴田「……いずれ俺もそんな奴に会うかな?」
天野「お前には無縁な気がするけどな」

東山「ヒットの当たりが一瞬でチェンジだとっ!」
篠原「会心の当たりでも正面でアウトになるなんて事は良くあるからな……ただ、あの状況であんな結果になったのは流れが無明実業に行ってる証拠とも言えるかもな?」
醍醐「ツキだけで勝てるわけじゃないさ。相手がツキで上回ってるならこちらは力で上回れば良いさ!」
秋山主将「そう言う事だ。俺達は強い。その強さを発揮すれば勝てる相手なんて全国にもいないさ!」
寺沢「すみません。俺が止まってたらチェンジはなかったのにっ!?」
東山「まあ仕方ありませんよ。あの当たりに追い着くなんて普通ありませんからっ!?」
秋山主将「うちの快速コンビがそう言うなら柴田の足が異常の領域って事だろう」
醍醐「異常の領域って? まあ確かに速いですが全国ならあれ以上もいますからね。あそこまでの守備をできる奴となればさすがに全国でも片手の指に満たないかも知れませんが」
篠原「ただ、そんなに守備が上手ければもっと騒がれても良いし見た感じマグレっぽいですよね」
醍醐「だから向こうにツキがあるって言ったんだろう。終わった事を言ってないでとっとと抑えに行くぞ!」
篠原「そうですね!」

4回裏 無明実業2−1天狼学園 柴田のファインプレーで一気にチェンジとなるが怪物の一振りで天野が打たれ1点返される!
野村主将「ふむ」

ズバ―――ン!
霞「最後はきわどかったですがコールはボールでフォアボールです!」
武藤「粘ってのフォアボールですか、まあ連打は難しいし出塁する事を考えるのは良い判断ですね!」

篠原(やはりこれだけじゃ抑えられないのか?)
醍醐(次の山口はやっかいだが、後は下位打線だし問題ないだろう。恐れずミット目がけて全力で投げろ!)
篠原(はい!)

カキ―――ン!
山口「ふっ!」

霞「センター前ヒット! 再び無明実業が得点圏にランナーを進めてチャンスを作りました!」
武藤「2打数2安打ですか、やはり隠れている名選手と言うのもオーバーですが良い選手はいるもんですね」

篠原(……醍醐さん、例のボールの使用を許可して下さい!)
醍醐(ピンチで使いたい気持ちは分かるがまだ必要ない。柴田の前に使いたくない気持ちは分かるだろう!)
篠原(そう言う事なら分かりました!)

ガキッ!
西岡「打たされたか」

霞「西岡君は打ち上げてセカンドフライに倒れます! しかし1アウト1、2塁とチャンスが続きます!」
武藤「次の野口君も長打がありますし最低でもランナーを3塁に進めたいところですね」

篠原(ゲッツーに取る事が一番なんだけど、こう当てられて来ると自信なくすなー)

ガキッ!
野口「後ろに打ち上げてしまった!?」

霞「野口君は球威に押されてキャッチャーフライに終わりました!」
武藤「せっかくのチャンスなんですが、代打送るにしてもまだ勝負かけるのも早いと言う判断からか大岡監督も動きませんし、あるいはベンチにバッティングの良い選手はいないのか」
霞「単純に選手層の薄さのせいかも知れませんよ」
武藤「そうか、部員ギリギリだったんですよね。少し前まで百人以上の部員がいたせいかすっかり忘れてたっ!?」

篠原(まだピンチに変わりないか)

ズバ―――ン!
酒井「ダメだっ!?」

霞「最後は143キロのストレートを空振り三振と最後は今日最高のボールでしたね!」
武藤「まあストレートではですが、しかしあのチャンスで得点できないところを見ると上位打線と下位打線ではかなりレベルが違うんですかね?」
霞「しかしまだ4回ですがこうやって観ると無明実業も負けていませんと名門のレベルですよね」
武藤「そうですね。ポテンシャルの高い選手が多く甲子園に出れば何人かドラフトで指名される可能性もあると結構と言うかかなり強いですね!」

篠原「なんとか抑えられました」
醍醐「お前の力なら難なく抑えられるだろう?」
篠原「ノーアウトで連打ではなかったか、とにかく得点圏までランナー進まれたら相手の力を認めないわけにも行かないでしょう!」
醍醐「確かにクリーンナップはドラフトで指名されてもおかしくない逸材だな。しかし全国に出てないせいか経験はそれほどもないと恐れる必要はないぞ!」
篠原「はあ、醍醐さんって慎重なのか大胆なのか良く分からない人ですよね?」
醍醐「俺はただ打たれてもいないうちからじゃなくて失点しないうちから心配しても仕方ないと言ってるんだよ」
篠原「いえ、2対1で負けてますから」
醍醐「打ったのは柴田だろう。つまり柴田以外気にする必要はないさ。それに今のところ天野に抑えられているが完全に抑えられていると言うわけでもないだろう?」
篠原「確かに1点返して打線もイケイケって感じでしたけど」
醍醐「仲間を信じれば必ず応えてくれるさ!」
篠原「そうですね!」

山口「前のときと同じ展開か」
西岡&野口&酒井「………………………………」
野村主将「まあ仕方ないさ。ただでさえピッチャーもやっかいなのにリードするキャッチャーが十二分な力を引き出させるからな」
山口「さすがは数年振りの大型キャッチャーってところか」
野村主将「2年ながら既にドラフト競合間違いなしと言われている天才だ。お前の良いライバルになりそうだな」
山口「ありがたい言葉ですがさすがに格上ですね。今の俺では勝てそうもありません」
野村主将「頑張れよ!」

5回表 無明実業2−1天狼学園 無明実業はチャンスを作るが生かせず無得点に終わる!
天野「前回の悪夢を蘇らせるわけにも行かないし3人で終わらせるぞ!」

ズバ―――ン!
川瀬「………………」

霞「146キロのストレートを空振り三振と前回の不調はなくなりましたね!」
武藤「回が変わって調子を取り戻す事は結構ありますからね。スタミナが少し不安だったんですけど、5回でも球速は落ちてないし7回くらいは持ちそうですね」

天野「次は篠原か」

ズバ―――ン!
篠原(立ってるだけってのはどうもなー)

霞「続く篠原君も手が出ず見逃し三振で2アウトです!」
武藤「下位打線では手が出ませんか、本当に大した物ですよ!」

天野「次も怖い人ではあるんだが、今の俺には関係ない!」

ズバ―――ン!
山内「………………」

霞「山内君も147キロのストレートを空振り三振で3アウトチェンジです!」
武藤「三者三振ですか、さっきの回が嘘のような凄いピッチングでしたね!」

天野「この回は完璧に抑えられたな」
野口「ああ。良いピッチングだったな」
天野「しかし相手選手、機械のような印象を持ちますね」
野口「ああ。打って当然、守って当然で落ち着いてるイメージもあるんだがなんか怖いような悲しいような感じがするな。ま、教育方針って言われたら返す言葉はないけど、少なくともファンの中には気に入らないって人もいるよな」
天野「ま、全員が全員そうってわけじゃなさそうですが?」
野口「そう言えばそうだな。なんでだろう?」

醍醐「やっぱり調子を取り戻したか」
寺沢「良いピッチャーだよな。ワクワクするぜ!」
東山「寺沢さんってそう言うセリフ言う人だったんですか?」
寺沢「いや、なんとなく言って見ただけ!」
東山「……こう言う人だったな」

5回裏 無明実業2−1天狼学園 前の回が嘘のようなピッチングで天野が抑える!
霞「裏に入ったばかりですがここで無明実業が動きます。安田君に代わって松山君が打席に向かいます!」
武藤「今日当たってる柴田君の前にランナー出したいってところですね。勝っているとは言え1点差ですからね。大岡監督もこのまま天野君が抑え続ける可能性は低いと見てるんですかね?」

大岡監督「期待するのはヒットだ。まあ四死球でも構わないんだがとにかく出塁してくれ!」
松山「はい!」
柴田「これって俺が期待されてるって思って良いんだよな?」
天野「他にどんな理由があるんだ。とっとと行け!」
柴田「おう!」
岩田「うーん、ここは俺かと思ったが?」
山本「長打の欲しい場面じゃないからね。ここはバッティングの上手い松山さんが適任だよ!」
高橋「キャプテンがいるからベンチだけど、バッティングでも守備でもキャプテンと変わらないくらい上手いからね」
山本「ああ。おかげで秋も俺はベンチかも知れないけどな」
天野「多分、秋には松山さんがファーストでサードはお前だと思うけどな」
山本「そうか、西岡さんも引退するんだった!?」

篠原(これで2−3か、コントロールには自信あるけど、しかしここで出したら柴田と対峙する時にランナー気にして打たれるかも……)
醍醐(……仕方ないか、最後の1球はあれで行くぞ!)
篠原(はい! コントロールにはくれぐれも気を付けろか、当然だな。あれがストライクに入らなきゃなんの意味もない!)

ククッ!
松山「もらった…………なっ!?」

霞「今、直角に曲がりませんでしたか? …………失礼しました。松山君は空振り三振に終わります!」
武藤「曲がりましたね。球種はシュートですね。しかし球速とキレ、それに変化も凄かったですね。天野君より少し下と思われてましたがまさかあんなボールを隠してたとはっ!?(本当に隠しているボールがあるとはっ!?)」

篠原(決まった! これなら柴田も抑えられる!)
醍醐(全国まで隠していようと思っていたとっておきだ。柴田の奴でもさすがに打てないだろう!)

松山「ボールからストライクに入って来る高速シュートだ。インコースに投げて来たら気を付けろ!」
柴田「左にはかなり怖いボールですね」
松山「ああ。右打者の方がまだ打ちやすいかも知れん。それと球速は140キロ前後ってところだな。ストレートとの見極めはかなり難しいだろう」
柴田「さすがは名門のエースですね。なるほど、こんなボールを隠してるとはさすがに大したもんだ!」
松山「いや、シュートは打ちにくいから捨てろって言ってるつもりなんだが」
柴田「大丈夫! きっちり打って来ます!」
醍醐(無駄だ。対左打者用の秘密兵器だ。奴らを抑えるつもりのボールを打てる物か!)
篠原(Hシュートのみだ。食らえ!)

ククッ!
柴田「見えた。ここだ!」

カキ―――ン!
全員「…………………………………………」

霞「入りました! 切り札のシュートを完全にとらえました! 無明実業が更に1点を追加します!」
武藤「プロならヒットは打てるでしょうが、初見でスタンドまで運ぶとなるとやはり難しいでしょうね。つまり柴田君のバッティングセンスはプロでも十分に通用する事を示してるんですよね。彼、3年後には秋山君クラスに成長しますよ!」

松山「参考に聞くがどうやってあのシュートを打ったんだ?」
柴田「曲がってからストライクゾーンに入ったから叩きつけてやったんですよ!」
松山「ちょっと待て曲がったところが見えたのか?」
柴田「見えなきゃ振りませんよ!」
松山「(嘘だろう。俺は気が付いたらストライクに入ってたのに柴田の奴どういう動体視力してるんだっ!?)」

篠原「まさかあれをスタンドまで運ぶとはっ!?」
醍醐「………………」
秋山主将「いい加減にしろっ!」

ポカッ! ポカッ!
篠原&醍醐「……………………」
秋山主将「いつまでも落ち込んでないでとっとと切り替えろ!」
寺沢「そうそう。まだ2点差だし十分追い着ける!」
東山「俺はバッティングでは貢献できないだろうけど、守備ではきっちり守るからとっとと終わらせよう!」
秋山主将「そこまで素直に言う必要はないぞ!」
東山「すみません」
寺沢「はっはっは、まあここにいるキャプテンがちゃんとホームラン打ってくれるって言ってるんだし問題ないぞ!」
醍醐「くっくっくっ」
篠原「ははっ、なんか悩むのがバカバカしくなって来ましたよ!」
醍醐「まったくな。それじゃキャプテンに期待して抑えるか!」
秋山主将「お前らな。はあ、分かったよ。次の俺の打席でスタンドに叩き込んでやるよ!」
篠原「それじゃ気を取り直して行くぞ!」

ガキッ!
豊田「あのシュート見てるとストレートも振っちまうな」

霞「さすがにこのまま崩れるかと思いましたが直球勝負で豊田君を抑えて2アウトです!」
武藤「いきなり崩れるタイプではないって事ですか、さすがに1年でエースだけあってメンタル面も頼もしいですね!」

篠原(さすがに切り札なしじゃこいつも抑えられないだろうな!)

ククッ!
天野「これをスタンドまで運んだわけかっ!?」

霞「武藤さんいわく左殺しのシュートと言われるだけあって天野君も手が出ず見逃し三振に終わりました!」
武藤「とんでもなくキレてるのもありますがああコース決められたらとても手が出ませんよ……まあ1人例外もいましたが」

篠原「……3打席連続ホームランか」
醍醐「さすがのお前もここまで1人のバッターに打たれたらショックだろうな」
篠原「誰だってショックですよ。しかし何故これほど打たれるのか?」
醍醐「稀に相性ってのも発生する。ここまで相性が悪いと天中殺ってところか……あれ? 用法が間違ってるか、まあともかくプロに行ったらあいつとは別のリーグに行く事をすすめるな」
篠原「いえ。負けっぱなしってのは納得行きません。必ず次の打席では抑えて見せます!」
醍醐「そう言うと思ったよ」
篠原「すみません」
醍醐「ふっ、俺も負けっぱなしはごめんなんだよ。必ず抑えて見せよう!(ま、監督が敬遠の指示を出せば別だけどな)」
篠原「はい!」

野村主将「天野も凄いが今日の柴田は天野以上に凄いな」
山口「まったく頼りになる後輩達ですよ」
天野「やれやれ今日の俺は良いところなしだな」
柴田「1失点で抑えて何言ってんだ! もう半分以上抑えたんだし問題ないって顔して投げれば良いだろう!」
天野「だからそんなに自信家じゃないんだよ。ただ、篠原が少し羨ましくてな」
柴田「はっ?」
天野「絶好調のお前を打席に向かえる事はないからな。少なくとも高校では」
柴田「ふっ、お互い様だ。いつかそんな日も来るかも知れないが、今は優勝目指す仲間なんだ。高校では最後まで戦友でいようぜ!」
天野「ああ!」

6回表 無明実業3−1天狼学園 三度と柴田は名門相手に3打席連続で爆発し再び1点を追加する!
霞「さてと試合もいよいよ6回に入りました。私達も観客も信じられませんが現在、無明実業が3対1でリードしております!」
武藤「ハッキリ言い過ぎですよ。まあ気持ちは分かりますけど」
霞「先ほど代打で出場した松山君はファーストを守り西岡君はベンチに退き代わって荒井君がセンターに出場しています!」
武藤「守備固めの時に出場する選手でまだ2年生ですが3年生の安田君より守備が上手いと言う話ですね……ただバッティングはとても言葉に出せないくらいダメだとか」

天野(6回か、怖いのは7回以降って感じだが4番にもまわるからな。ランナーを出さないようコントロールには特に気を付けよう!)

ガキッ!
一枝「………………」

霞「まずはセンターフライと一枝君を軽く抑えますが、天狼学園の試合は連打ばっかりなのに今日は全然連打が出ませんね?」
武藤「それだけ天野君が良いピッチャーって事ですよ。ただ、3番からは天野君でも完全に抑えるのは難しいと思いますよ!」

醍醐(無理にホームランを狙う必要はない。ここはヒットで十分だ!)

カキ―――ン!
天野(コース付いたのにいとも簡単に打ってくれるなっ!?)

霞「145キロのストレートでしたが合わせてライト前に飛ばされます。1アウトでランナーが出ました!」
武藤「ランナー1塁ってのが嫌ですね。ランナー2塁なら敬遠で秋山君を歩かせる事もできるんですが」

秋山主将(さすがは醍醐だ。文句ない場面でまわしてくれた……いや打っても同点で逆転じゃないのか?)
天野(嫌な場面でまわってくるな。そして凄い威圧感だ。呑まれたら終わりだ。恐れず行くぞ!)

カキ―――ン!
霞「凄い飛距離ですがこれは切れてファールです!」
武藤「こんなバッターには絶対投げたくねえ!?」

秋山主将(ふん! 想像以上に遅いな!)
天野(俺のストレートを引っ張ってファールか、そうだ。俺はこう言う怪物に会いたいから無明実業に来たんだ!)

ズバ―――ン!
霞「145キロのストレートを引っ張ったと思ったら147キロのストレートを振り遅れて空振り2ストライクとなりました!」
武藤「気持ちの問題ですかね。あるいは1球目と2球目ではボールの回転力が違い球速以上の速度差が出ているのか?」

秋山主将(さすがだな。最後もストレートで来るだろう。問題は何球目かだが?)
天野(我がまま言ってすみませんが、こいつで決着を付けます!)

ズバ―――ン!
秋山主将「三球勝負だとっ!? それにこのコースは?」

霞「最後は真ん中高め自己最速更新の149キロのストレートで空振り三振を奪いました!」
武藤「三球勝負で秋山君の一番得意としているコースとはとんでもない度胸をしてますね!?」

野口(まったくいい度胸してるよ!)
天野(内心冷や冷やでしたけどね。強気で行かないとこの呪縛解けそうもなかったからな!)

ガキッ!
寺沢「とんでもなく速くなってるじゃないかっ!?」

霞「ピンチと言う場面ではなかったかも知れませんが4、5番を見事に抑えて3アウトチェンジです!」
武藤「そう言えばランナーは1塁のままでしたね。ランナー1塁でもピンチと言う印象があるのは秋山君特有の物でしょうかね」

天野「6回1失点、ここまでは上出来だな」
岩田「ほう。お前なら完封して当然と言う顔してるかと思ったが?」
天野「だからそんなに自信家じゃないってなんだ岩田か?」
岩田「なんだとはご挨拶だな! しかし今日のお前のピッチングはなんと言うか凄いな!」
天野「ああ。こう言う相手と戦うのがピッチャーとして一番嬉しい事だよ!」
岩田「打たれてもか?」
天野「打たれたら今度は抑えてやるって挫折もまあ良い物とは言い切れないけど、悪い物でもないと思うよ。結局のところ負けなきゃ分からないし打たれなきゃ理解できないっと、俺、変な事言ってるな?」
岩田「いや、良く分かるぜ! 俺もこのまま控えで終わるつもりはない!」
天野「ああ。俺もだ!」

東山「見事にフラグ回収ですね」
秋山主将「言うなっ!?」寺沢「完全に抑えられた俺も言い訳できないぜ!?」
篠原「まあまあ、後3回ありますから確実にまた打席まわるんでその時にお願いしますよ!」
秋山主将「くそっ! 舐めてたつもりはないが最後のボールには久々にカチーンと来たぜ!」
醍醐「確かに、もう一度期待しますよ!」
秋山主将「ああ。今度こそ打つ!」

6回裏 無明実業3−1天狼学園 ランナー出す物の相手を圧倒するピッチングでこの回も天野は無失点に抑える!
篠原「これ以上の失点はさすがに厳しいな。ここは3人で終わらせる!」

ククッ!
野村主将「切り札だけあってさすがに打ちにくいなっ!?」

霞「さすがの野村君も初見ではHシュートは打てず空振り三振に終わります!」
武藤「変化もですが速度も140キロ前後出てますからね。やはりそうそうは打てませんよ!」

篠原「この人もやっかいだが!」

ガキッ!
山口「当てるのがやっとか」

霞「山口君はなんとかHシュートに当てましたが打ち上げてショートフライに終わります!」
武藤「当てただけでも大した物ですよ。やっぱりセンスは結構あると思いますね!」

篠原「この人は良く分からないんだけど?」

ククッ!
荒井「バッティングは苦手なんだよな」

霞「荒井君はカーブを空振り三振とこの回は三者凡退に終わります!」
武藤「選球眼は悪いですしあの見え見えのカーブを振りましたからやはりバッティングでは頼りにならないかも知れませんね」

篠原「この回は完全に抑えられたな!」
醍醐「Hシュートを使えばまず打てんさ。ただ、初見でHシュートに当てた山口は次からは対応する可能性もあるが?」
篠原「右打者とは言え一度目で当てて来たし慣れてしまえば驚異ではなくなると言うところですか?」
醍醐「驚異に違いはないが、知っている知らないじゃやはり驚異度も下がってしまうかもな?」
篠原「まあ、俺は醍醐さん信じて投げるだけです!」
醍醐「ははっ、それで良いさ!」

山口「やはりそうそうは打てませんね」
野村主将「追加点の可能性が低いとなるとこの点差を守って行くしかないから守備でできる限り天野を助けるしかないな!」
高橋「打てなければ守って助けるか」
山本「まあ打つだけが野球じゃないからな。バッティングでレギュラー獲る選手もいれば守備でレギュラー獲る選手もいる。両方備えている選手がいればそれに越した事はないんだけどな」
高橋「僕らもいつかはそう成れると良いね!」
山本「そうだな」

7回表 無明実業3−1天狼学園 切り札を出した篠原には手が出ず無明実業は三者凡退に終わる!
天野「後3回抑えれば甲子園だ!」

ズバ―――ン!
真田「………………」

霞「三球三振と天野君のピッチングは全然衰えませんね!」
武藤「案外スタミナが持ちますね。それとも顔に出ないタイプなんですかね?」

天野「こいつでどうだ!」

スト―――ン!
東山「やったぜ!(さてと次の塁も狙わせてもらおうか!)」

霞「最後はフォークが外れて粘ってのフォアボールとなります! おっと走った! 初球から盗塁を成功させて1アウトランナー2塁となります!」
武藤「ノーヒットで得点圏と理想的な出塁ですね。この東山君も1年生ながらレギュラーを獲るだけの事はありますよ!」

野口(すまん)
天野(得点圏とは言え下位打線ですから問題ないですよ。自信持ってリードして下さい!)
野口「お、おう!」
天野(ランナーは無視してバッターに集中しよう!)

ズバ―――ン!
川瀬「………………」

霞「川瀬君も手が出ず空振り三振に終わります! しかし天狼学園相手にガンガン三振奪って行きますね?」
武藤「まあ、ガンガンですか? ……取ってますね」

篠原(2アウトランナー2塁か、ここで代打出されてもおかしくはないんだが監督は動かずか、つまり三振して来いって事か……もう構わない。俺は俺のやり方で行く!)

カキ―――ン!
天野(何っ!?)

霞「山口君、必死に走りますが追い着けずレフトの頭を越える長打となりました。ランナーの東山君は今ホームに返って天狼学園が1点返します!」
武藤「9番の篠原君がタイムリーですか、意外でしたね。しかし再びランナーが得点圏に行きましたね」

天野(打ち気はないから問題ないと心の中では思ってたのかも知れないな。油断大敵とはなんともあまい事だここから全力を出す!)

ズバ―――ン!
山内「………………」

霞「最後は148キロのストレートを空振り三振!」
武藤「やはり打った篠原君が上手かったって事ですかね。天野君のピッチングは全然衰えてないとこのまま逃げ切る可能性もありますね!」
霞「しかしこの回1点返しまして3対2と1点差になりました!」
武藤「決勝に相応しい名勝負となりましたね!」

天野「すみません。1点返されました」
野口「仕方ないさ。打ち気がないと思ったら打って来た。まあランナー2塁だったし警戒があまかったのは確かにミスだったけど、お前だけが悪いってわけじゃない」
天野「まだ1点リードしていますからね」
野口「ああ。そう言う意味じゃ1点で良く抑えたと言うべきだろう。それに俺達がバッターを信じなくてどうするんだ?」
天野「そうですね。次の回からガンガン抑えます!」
野口「慎重に行く事も忘れないでくれよ!」

東山「今度はホームに返れたし余は満足じゃ!」
篠原「余って?まあ良いか、とにかく後は頼むぞ!」
東山「後はって次は守りだからすぐ投げるだろう?」
篠原「命令を無視した俺は交代だろう?」
東山「……そうだったな」

7回裏 無明実業3−2天狼学園 天野の調子は落ちていないが天狼学園の1年生コンビの活躍でこの回は1点返されるといまだに試合の行方は分からないらしい?
瀬戸監督「………………」
静木「代えないんですか?」
瀬戸監督「代えたらこの試合はもう終わりだ!(ま、代えなくても終わりかも知れないが?)」
静木「何故、この俺がエースではないんですか?」
瀬戸監督「言うまでもない事なんだがな……うちは実力主義だ。年齢に関係なく上手い奴が勝者となる!」
静木「この試合負けたら俺にも考えがあります!」
瀬戸監督「好きにしろ!」
全員「………………………………」

篠原「妙だな。ベンチに動きはないしこのまま投げても良いって事か?」
醍醐(命令違反を2回した後の篠原を代えないのは分かっているからだろう。代えたら勝てないって事が、それにしても無明実業がここまでやるとは)

ズバ―――ン!
野口「援護したくてもこうコース付かれたら手が出ないぞ!?」

霞「140キロのストレートを空振り三振して1アウトとなります!」
武藤「ああコース決められたら打てませんよ。コントロールだけ取れば天野君より上かも知れませんね」

篠原「ふう、できれば球数も抑えたいんだけどな」

ククッ!
酒井「シュートではなくスライダーとはっ!?」

霞「最後はスライダーを空振り三振し2アウトとなります!」
武藤「完全に裏を掻かれましたね。やっぱり投球術も1年生離れしてますよ!」

篠原「松山さんか、やっぱり警戒が強いし良いバッターなんだろうな!」

ククッ!
松山「ダメだ。このボールだけは手が出んっ!?」

霞「141キロのHシュートを空振り三振し3アウトチェンジ!」
武藤「表情から見るに疲労が見えますがボールの威力は落ちてませんね!」

篠原「しかしなんで静木さん、ずっと睨んでるんですかね?」
醍醐「そりゃ春の日本一のピッチャーが1年なんぞにエース奪われたら憎まれてもおかしくはないだろう」
篠原「入学の頃には決まってて結構月日も経ってるんですけど?」
醍醐「そうだな。それでもみんな顔には出さないけど、面白くはないだろうな。ただ監督命令は絶対だからどうにもならないだけだし」
寺沢「かと言って実力ない奴がイジメなんぞやったら即刻退部だろうな」
東山「その言い方じゃ実力ある奴がイジメしても良いみたいじゃないですか?」
寺沢「良いわけはないが退部はないんじゃないか?」
醍醐「そうだな」
篠原&東山「……………………」
秋山主将「俺の目の黒いうちはそんな事にはならないさ! ま、克弥も直接イジメなんかはしないがあいつは権力と言うか欲が深いからな。ある程度目をつぶるところはあるかも知れないな。だからこそ俺がキャプテンに選ばれたんだが」
醍醐「そんな事ないですよ。キャプテンは十分にやってくれてます!」
秋山主将「いや、俺が1年の頃はまだマシだった。少しずつおかしくなったのはみんなを引っ張って行く人が不在だった事だな。まあそう言う意味じゃ大野(西武)さんの代でおかしくなったのかもなっと人のせいにしたらダメだよな。結局俺達後輩がだらしなかったんだろう」
寺沢「だそうだ。お前らはしっかりしろよ!」
篠原&東山「うっす!!」
醍醐「良く偉そうに言えるな!」
秋山主将「ま、寺沢のようなタイプは俺達の高校では貴重だ」
寺沢「だそうだ。もっと敬えよ!」
醍醐「あんまり誉めないで下さいよ。調子乗ってドジ踏む事も多いんですから」
秋山主将「う、うむ」

柴田「やはりそうそうは打てないか、ここは俺の出番だな!」
山本「竜、それってフラグだぞ!」
柴田「バカ言え。ここまで来たら全打席ホームラン狙うのが普通だろう!」
山本「ゲームじゃあるまいし現実でこんな状況想定できないし!」
柴田「俺だって2打席連続ホームランまでしか打った事なかったってのしかし今日ここに柴田竜の伝説が追加されるのだった!」
山本「まだ録音してたのか?」

8回表 無明実業3−2天狼学園 スタミナの衰えない篠原のピッチングは素晴らしく三者凡退と見事に抑える!
霞「いよいよ試合は8回に入ります。みなさん、意外でしょうが3対2で無明実業高校がリードしておりこのまま終われば大波乱な展開となります!」
武藤「と言うか今、そう言う展開なんですけどね?」
霞「しかし全国最強の打線と呼ばれる天狼学園高校を2点に抑えている天野君のピッチングは素晴らしい物がありますね!」
武藤「そうですね。少なくともボールの威力は全国でもかなりの物と言うかトップクラスでしょうね」
霞「しかし篠原君から3点と無明実業高校も負けていませんね!」
武藤「まあ無明実業と言うか柴田君1人で得点してますからね」

天野「この回がターニングポイントかな?」

ガキッ!
一枝「………………」

霞「一枝君は打ち上げセンターフライで1アウトです!」
武藤「うーん、こりゃ本当に勝つかも知れないな」

天野「ここからだな!」

ズバ―――ン!
醍醐「今日一番のボールか……完敗だな」

霞「最後は149キロのストレートを空振り三振!」
武藤「あの醍醐君が手が出ないとは凄過ぎですよ!?」

瀬戸監督(ここで試合が決まるな!)
静木(お前なら打てるはずだ。ここで終わらせないでくれ!)
秋山主将「ここで同点にしないと完全に流れがあっちに行ってしまうな!」

天野(この試合だけは譲らない。例えこの先どうなろうともっ!)

ズバ―――ン!
秋山主将(数え切れんピッチャーのボールを打って来たが、ここまでの相手はいなかったな)

霞「あ、秋山君も149キロのストレートを空振り三振で終わりました!?」
武藤「信じられない気持ちは良く分かります。確かにこれで1年生とは怪物としか言いようがないですよ!?」

野口「これは行けるぜ!」
天野「最後まで油断は禁物ですよ!」
野口「そ、そうだったな」
天野(しかし相手と比べて悪いがうちは良いチームだな。確かに実力の足りない人ばかりではある。だが誰もが野球が好きなだけでこんなに一生懸命になれるか、親父が兄貴達をこの高校に紹介した理由もなんとなく分かったよ。しかしどうして俺だけが紹介されなかったのか?)

秋山主将「悪いな。最後の最後で負けちまった」
篠原「いえ! まだです。試合の勝敗は譲りません!」
静木「………………」
瀬戸監督(面白くなって来たか、これならなんとか間に合いそうだな)

8回裏 無明実業3−2天狼学園 気迫のピッチングで天野は三者凡退と見事に抑えた!
柴田「さてと、終わらせてやるか!」
篠原(えっ!?はい。分かりました)

ズバ―――ン!
柴田(気に入らないが、ま、お前の顔見たら納得したよ!)

霞「最後はストレートが外れてフォアボールです!」
武藤「ノーアウトでランナーが出ましたね(勝負していると見せかけて実際は敬遠だな)」

醍醐(ふむ。リードの仕方が妙だな? まあ良い。走って来たら俺が刺すからお前はバッターに集中しろ!)
篠原(はい! ここまで来たらただ投げるだけだ!)

ククッ!
豊田「きついボールばっかり投げて来るな!?」

霞「最後はHシュートを空振り三振し1アウトです!」
武藤「当然と言うべきか、柴田君は走れずファーストストップのままですね!」

篠原(なるほど、足は速くても盗塁は苦手なんだな。これで本当にバッターに集中できるな!)

カキ―――ン!
天野「さすがに柴田のように引っ張って打つ事はできないが流し打ちならなんとかなったな」

霞「ここで天野君がHシュートを打った。レフト前に落ちて柴田君はサードには行けずセカンドストップです!」
武藤「やっぱりバッティングセンスも素晴らしいですね。良くあのHシュートを打ちましたよ」

醍醐(まったく1年のくせに良く打ってくれる。このままじゃ切り札にならなかった事を証明してるだけじゃないか?)
篠原(気にせず行きますよ!)

ククッ!
野村主将「すまん」

霞「続く野村君はHシュートに翻弄されて空振り三振に終わり2アウトとなりました!」
武藤「せっかくのチャンスなんですがあのシュートを見ると期待薄な展開ですね」

篠原(この人にはヒット打たれてるけど!)

ガキッ!
山口「1年に言うのはなんだが完敗だな」

霞「山口君は打ち上げライトフライ! 無明実業高校、チャンスでしたが生かせず無得点に終わりました!」
武藤「分かっていた事ですがシュートのあるとなしじゃこうも差が出る物ですかね」

篠原「ふう、最後まで油断できない打線でしたけどなんとか抑えられましたね」
醍醐「ああ。しかし天野に打たれたときはさすがにどうなるかと思ったが良く立て直したな」
篠原「次の1回に賭けたんですよ!」
醍醐「賭けたと言っても良くて同点だろう。延長に入れば層の厚いうちが有利だと思うが?」
篠原「俺が負けるとしたら天野ではなく柴田なんですよ」
醍醐「つまり延長に入ったら再び柴田が打って勝ち越しじゃなくてサヨナラになると言う事か」
篠原「恐らくは」
醍醐(まあ、天野にも打たれたし篠原はスタミナ的にも9回で交代だろうな。確かにうちのリリーフも良いが天野や篠原と比べると劣るかもな)

柴田「行ける流れだと思ったんだがな」
天野「歩かされたら仕方ないだろう」
柴田「いや、そうじゃなくてお前も繋いでくれたしホームに返れると思ったんだよ」
天野「まあキャプテン達の力なら打てなくもなかったと思うが?」
柴田「そうだろう。そこのところが分からん?」
天野「言うまでもないが今日は甲子園がかかった試合だからな。大舞台に慣れていないんで力を出し切れてないんじゃないかな?」
柴田「そうか……ちょっと待てよ。俺も大舞台に立った事はないぞ!」
天野「そこは性格の問題かな?」
柴田「それって誉めてるのか?」
天野「さあな……まあ、なんにせよ。後1回抑えれば甲子園だ。守備で足は引っ張るなよ!」
柴田「今日はファインプレーを見せただろうが!」

9回表 無明実業3−2天狼学園 ピンチを迎えるがこれ以上の失点は許さないピッチングを見せて篠原は無失点に抑える!
霞「試合はいよいよ9回で本当にこのまま来てしまいましたが無事逃げ切れるのでしょうか?」
武藤「前の回で同点にできなかったのは痛かったと思いますよと言ってもわずかに1点差引っくり返るとまでは言えませんが同点になる可能性はあると思いますね」
霞「天野君は今日の試合で初失点しましたがいまだに無敗です。変わりなくこのまま行くのでしょうか?」
武藤「スタミナの不安はあると思いますと言いたいところですが前の回のピッチングを見る限りこのまま完投で行きそうですね。まあ5番からと悪くない打順ですし天狼学園も期待できるんじゃないかと思いますけど」
霞「8回の醍醐君、秋山君の連続奪三振は圧巻でしたからね」
武藤「ええ。あれを見るとさすがにもう無理だろうなと言うのが私の本音ですね」

天野「流れは既に断ち切った! 後3人で甲子園だ!」

ズバ―――ン!
寺沢「評価を訂正しよう。こいつは柳田さんクラスだっ!?」

霞「頼りになりそうな寺沢君でしたが149キロのストレートを空振り三振で1アウトとなります!」
武藤「9回でこのピッチングですか、これは決まりましたかね?」

天野「流れは完全にこっちの物だ。一気に行くぞ!」

ズバ―――ン!
真田「………………」

霞「力の差を見せ付けるかのようなピッチングで真田君を三球三振に取ります!」
武藤「いよいよ残り1人となりましたね」

東山「このまま終われば俺が最後のバッターかよ絶対に打ってやる!」
天野「悪いがこっちも譲れないんだよ!」

ズバ―――ン!
東山「負けた」

霞「決まった! 最後も三球三振と圧倒的なピッチングで天野君の完投勝利で無明実業高校が甲子園の切符を手に入れました!」
武藤「とんでもない1年が現れましたね。しかし今日のヒーローは天野君と誰もが言うでしょうが私的には柴田君ですね」
霞「4打数3ホーマーですからね。驚異としか言えない長打力をみんなに見せましたしそう言っても良いかも知れません!」
武藤「切り札のシュートをスタンドで運んだところといい1年生の中では、いいえ。全国でもトップクラスのバッターなのかも知れませんよ?」
霞「最後に自信がなくなるところは武藤さんらしいですね。しかし春の日本一のチームに勝ったんだし甲子園でも勝ち上がって欲しい物ですね!」
武藤「そうですね。ただ不安があるとしたら選手層の薄さなんですよね。短期試合ならともかく長期試合になると不利と言うか、まあ天狼学園に勝ちましたしポテンシャルは高そうですね!」
霞「とにかく3対2と予想を上回る接戦で無明実業高校が勝利しました! ではみなさん、さようなら!」
武藤「うーむ。とりあえず期待して終わりとしましょうか」

高橋「勝ったよ! 甲子園だよ!」
岩田「2人共、大した物だったな」
山本「ああ。いつか同じ舞台で互角に勝負したいよ!」
野村主将「終わったな」
山口「今度は甲子園ですよ」
野村主将「いや、終わったのは弱小の時代だよ。お前らが頑張ればまた強豪の時代が始まるな!」
山口「ええ。期待には応えて見せます!」
大岡監督「ふっ、今日の俺の采配は完璧だったな」
全員「………………………………」
天野「まあ今日は柴田のおかげだな。正直、あのホームランが無ければもっと失点したような気がするし」
柴田「当然と言いたいところだが甲子園まで行けたのは誰がどう見てもお前のおかげだよ!」
全員「うんうん!」
天野「えっ?」
野村主将「お前のおかげで俺達も自信が付いた。もっと諦めの悪い奴になるつもりだ。諦めなきゃ夢は叶うんだと教えられたからな!」
天野「えっと?」
山口「ま、甲子園まではゆっくり休んどけお前が打たれたら今日の柴田のように俺達も頑張って少しずつ点を取るからな!」
天野「は、はい! みんなで最後まで行って全国の頂点に立ちましょう!」
全員「おう!」
大岡監督「俺の事は無視ですか?」
全員「あっははは!」

篠原&東山「……………………」
醍醐「帰るぞ! っとキャプテンまでどうしたんですか?」
秋山主将「やっぱり羨ましくてな」
醍醐「気持ちは分かりますが」
秋山主将「決めたよ!」
醍醐「えっ?」
秋山主将「後に託すとかじゃダメなんだよ。今、俺がこうしてキャプテンになってるんだ。この俺がやらなければ意味はないんだ。もちろん俺1人じゃ無理だけどな」
醍醐「……何をするつもりなんですが?」
秋山主将「負けたら終わりの戦争だ! どうだ。負け戦になってすべてを失うかも知れんが一緒に戦ってくれるか!」
醍醐「まったく俺達は一蓮托生って言ったのはキャプテンでしょう。現状を変えられるのなら覚悟を決めます!」
秋山主将「そうか、悪いな。決断力に劣るキャプテンで」
醍醐「そんな事ないですよ。それに」
寺沢「ようよう何話してんだ?」
醍醐「良いキャプテンには良い仲間ができるもんです!」
秋山主将「そうだな!」
寺沢「俺の事誉めてくれたのか? いやいや、俺って良い奴だからな!」
醍醐「まあそう言う事で良いよ!」

こうして決勝に相応しい試合は無明実業の勝利で終わるのだった。

天狼学園
無明実業 ×
勝利
天野守
セーブ
敗戦
篠原壮也
本塁打 天狼学園 秋山孝史
無明実業 柴田竜

無明実業高校 野球部部室
大岡監督「今日は俺のおごりだ。じゃんじゃん食え」
天野「もう全員、食べてます」
柴田「すき焼きは美味いな」
岩田「この肉もいい肉みたいだしな」
高橋「じゃんじゃん食べよう」
山本「俺達は試合に出場してないんだがな」
野村主将「俺は本当に良い後輩を持ったよ。俺が挨拶する前にガツガツ食ってるんだからな」
酒井「なんかカオスだな?」
山口「うむ。まあ腹は減っては戦もできぬと言うしな」
大岡監督「前にもこんな事があったような。これは噂に聞くデジャブと言う奴か!?」
高橋「いえ。1回戦の焼き肉のときにもこんな感じでしたようーん、美味しいな♪」
大岡監督「そういやそうだったな」
野村主将「しかしすき焼きなんて結構な出費でしょう。本当に良いんですか?」
大岡監督「(さっきまで落ち込んでたのにすき焼きで機嫌が直ったのか?)ああ。俺のおごりだと言ったが近所の人達からの差し入れもあるからな。無論、俺だって金払ってるんだからな!」
山口「ふむ。甲子園でも勝てと言うプレッシャーがかかるな」
柴田「美味ければ問題なし! 全国制覇するから問題なしだ。なあ天野!」
天野「ん? ああ。そうだな」
岩田「なんか心配事でもあるのか?」
天野「いや、ちょっと気になる事があってな」
山本「気になる事って?」
天野「ふう、天狼学園の事だ。なんか野球部でゴタゴタがあるとかないとか」
柴田「どっちだよ!」
天野「あくまで噂だ。ただ、その切欠を作ったのは俺達が試合に勝ったからだと思ったらどうも気になってな」
柴田「気になるなら見に行けば良いじゃないか」
天野「と言われてもな。他校のしかも野球部の俺達が野球部に行っても追い返されるだけなんじゃないかと思ってな。向こうに知り合いでも入れば別なんだが?」
柴田「誰も知り合いいないの?」
全員(ブンブンッ!)
大岡監督「ま、相手は名門中の名門だからな。すっかり弱小と言われているうちに知り合いはいなくても仕方ないだろうな」
岩田「つうか監督はどうなんすか?」
大岡監督「お、俺かっ!? 確かに瀬戸監督とは顔見知りではあるがあの人と個人的に付き合ってるわけじゃないしな」
柴田「むうー天野じゃないけど確かに気になるな」

こうして無明実業は勝利を満喫しているが天狼学園では何かが起こっているようだ。しかし無明実業はそれに関係なく甲子園に進んで行く。