第6章 名門の始まり天狼と無明(後編)

−2000年 8月−
天狼学園野球部の争いも終わり無明実業は久し振りに甲子園に来ていた。
大岡監督「久々の甲子園だ。帰って来たって感じがするなー!」
全員「くう〜ようやく来た。ここが聖地か!」
柴田「凄いテンションだなー」
天野「仕方ないさ。それより宿泊するのは何処なんだ?」
高橋「代々無明実業が宿泊しているところって話だけど、どんなところなんだろうね?」
岩田「それよりここでの無明実業の評価ってどうなんだ?」
山本「うーん、優勝候補筆頭の天狼学園を倒しただけあってポテンシャルは高いって話だけど、選手層の薄さで優勝は厳しいだろうって評価だな」
高橋「こう言うのもなんだけど、妥当なところだね」
山本「まあね。ただ、天野の評価だけは凄く彼なら優勝まで導けるかと噂されているよ」
岩田「さすがは天野だな」
山本「と言うより天野家の評価が高いんだと思うよ。天野の一族はみんな甲子園で優勝した事があるからね。今回優勝したらこれで4人目だしね」
高橋「なるほど、評価が高い事はあるか」
岩田「しかし今回優勝すれば天野家ではなく天野守の名が全国にとどろくわけか」

こうして柴田達は宿泊施設に移動し冗談を言いながら過ごし1回戦の相手と戦う事になった。

無明実業高校
大岡監督「今日の相手は紅蓮高校だ。甲子園常連の有名校で昨年までは1、2回戦レベルと言われていたが今年入った1年の凄さか、優勝候補と言われる一校となったな」
野村主将「ただ、相手もうちと同じで1年が主力と言って良いチームなんで隙もあるんじゃないかと思えますね」
山口「1年でエースの亜蘭はMAX145キロのストレートを投げると聞いてます。それを捕るキャッチャーの郷野も強肩強打とシニア時代から有名でしたからね」
高橋「さすが甲子園、1年で140キロがゴロゴロいるんだね!?」
山本「さすがにゴロゴロはいないと思うが」
酒井「キャプテンの秋山さんはドラフトでも上位を期待されてるし2年でクリーンナップの風間も有名な選手と名門なだけはありますね」
大岡監督「そうだな。天野が警戒するバッターは今説明した奴らで良いだろう」
柴田「それでエースの亜蘭だけど、ストレートは速いらしいけど、変化球はどうなんだ?」
天野「スクリューはかなりキレるし球種も多いコントロールも抜群と付け入る隙はなさそうだな」
柴田「ふーん、スクリューって事はサウスポーかって誰かさんにそっくりな評価だな」
天野「おまけに1年でもあると確かに俺との共通点は多そうだな。ちなみに9番だがバッティングも良いらしいしな」
岩田(プロも注目している奴らの投げ合いか俺も楽しみだな!)

紅蓮高校
女川監督「相手は名門無明実業だと言ってもここ数年は天狼学園のせいで影が薄くなって来たがな」
秋山主将「しかしその天狼を倒して来ましたからね。特に1年の2人は要注意ですよ!」
風間「2失点完投の天野と3打席連続本塁打の柴田か」
風間「ま、1年程度には負けはしないと言いたいところだがここに例外もいるしな」
亜蘭「僕クラスがゴロゴロいるとは思えませんがね」
全員「……………………」
郷野「それでその2人以外に注意するのは?」
女川監督「そうだな。4番に座ってるだけあって野村も注意だな。5番の山口も名門にスカウトされただけあってセンスは良いと言う話だが……」
亜蘭「注意するのはクリーンナップと1番の柴田くらいってとこか、弱小だけあってこちらとの戦力差はあるな」
郷野「それでも天狼学園を打ち破って全国に来るだけあって注意は必要だとは思うけどな」
亜蘭「僕と怜治がいればなんの問題もないさ!」

−甲子園大会1回戦 阪神甲子園球場−
1年 柴田 竜
後攻 先攻
無明実業高校 紅蓮高校
投手力 機動力 投手力 機動力
打撃力 守備力 VS 打撃力 守備力
意外性 経験値 意外性 経験値
総合力 総合力
木村 隆太 2年
3年 豊田 誠 川村 英吉 3年
1年 天野 守 風間 廉 2年
3年 野村 栄治 秋山 輝 3年
2年 山口 忠 郷野 怜治 1年
3年 西岡 望 古賀 史也 3年
2年 野口 鉄雄 定岡 数馬 3年
2年 酒井 正次 七瀬 怜治 3年
3年 安田 文夫 亜蘭 慶哉 1年

放送席
霞「甲子園大会1回戦をお伝えします。わたくしこと、白銀霞と解説は武藤小太郎さんでお送りさせてもらいます!」
武藤「無明実業と紅蓮高校ですか、やっぱり1年でエースの2人が注目ですよね!」
霞「両投手サウスポーで全国区の知名度を誇っていると言うのは言い過ぎですかね。とにかく2人共まぎれもなく全国レベルのピッチャーです!」
武藤「2人共140キロを超えるストレートを投げてコントロールも変化球も言う事なしと1年生では1、2を争うほどかも知れません!」
霞「武藤さんの言葉から投手戦になりそうですけど、結果はどうなるか、それでは試合を楽しみましょう!」
武藤「ちなみに1年生ながら正捕手になっている郷野君も素晴らしいリードをしていると話です!」

1回表 無明実業0−0紅蓮高校 甲子園初戦は1年では全国頂点に立つと言われる2人の投げ合いとなった!
天野「ここが甲子園のマウンドか、こんなに早く立てるとはな」

ズバ―――ン!
木村「速いなっ!?」

霞「144キロのストレートを空振り三振と今日も初回から調子が良さそうです!」
武藤「いきなり140キロ以上とはさすがですね。これでコントロールも良いですから連打は難しいでしょうね」

天野「1番と2番は小技が上手く足がそこそこあるだったかな?」

ククッ!
川村「スライダーも結構変化するし」

霞「最後はスライダーで空振り三振を奪いこれで2アウトとなります!」
武藤「これで変化球混ぜられたら手が出ませんね。まあまだ1回ですけど」

風間「かなり速そうだな」
天野(バッティングセンスは抜群で全国レベルだったかな。どちらかと言えば強打者だから高めは厳禁だと思って低めに投げるとスタンドまで持って行かれるほどのローボールヒッターだったか?)

ズバ―――ン!
霞「最後は高めボール球の145キロのストレートを振らされて空振り三振に終わりました!」
武藤「1回を三者三振と言う事なしの立ち上がりでしたね!」

天野「ふう、全国でも通用するな」
野口「1番、2番はともかく3番は天狼のスタメンクラスだったな」
天野「4番の秋山さんは更に上のバッターって話ですけどね」
野口「ああ。天狼の秋山さんに匹敵するバッターって名字が同じせいかややこしいな」
天野「全国でもトップクラスの強打者か(勝ち上がればもっと凄い選手とも出会うのかもな)」

秋山主将「かなり速そうだな」
風間「ええ。おまけにキャッチャーのリードも結構良いと大量得点は難しそうです」
郷野「天野か、噂通りの実力だな」
亜蘭「ああ。次は僕の番だな!」

1回裏 無明実業0−0紅蓮高校 天野は1回を三者三振と文句のないピッチングを見せる!
柴田(何気に左の速球派って菅野さんくらいしか対戦経験ないんだよな。天野と対決したときみたいに打てるかな?)
亜蘭(天狼戦では天野以上に活躍したバッターだったな。一気に行くぞ!)

ガキッ!
霞「これは高く打ち上げファーストフライに終わります!」
武藤「いきなり143キロですか、やっぱり速いですね!」

亜蘭(大した事はないのか?)

ズバ―――ン!
豊田「手が出ないっ!?」

霞「142キロのストレートを空振り三振と2番の豊田君も手が出ません!」
武藤「ボール球を振らせるところを見るとコントロールもかなり良さそうですね」

天野「速さとコントロールは一級品ってところか」
亜蘭「こいつが噂の天野守か、偉大な父親の七光りだとも言われているが……ここまで来れた奴がそんな器なわけはないな!」

カキ―――ン!
天野「良し!」

霞「左対左で不利だとも思いましたが綺麗に合わせてセンター前に打ちました。これで2アウトランナー1塁となりました!」
武藤「無理に長打を狙わないのが功を奏しましたね。しかし天野君はバッティングセンスも素晴らしいですね!」

郷野(走ったら俺が刺す! ランナーは気にせず投げろ!)
亜蘭(コクッ!)

ガキッ!
野村主将「これが俺の限界かもな」

霞「最後はスクリューを打ち上げてピッチャーフライで3アウトチェンジです!」
武藤「三者三振とは行きませんでしたが1回を見ただけでも凄いピッチャーって事が分かりますね!?」

亜蘭「クリーンナップは注意だな」
郷野「柴田もな」
亜蘭「柴田も?」
郷野「振りのするどさは天野以上だった。バッターとしては一番注意する奴だ!」
亜蘭「なるほど、噂通りの奴だったわけか」

野村主将「すまんな。せっかくのチャンスを生かせなかった」
天野「あのスクリューを初球でとらえるのは難しいですよ。正直、いきなり当てただけでも大した物だと思います!」
山口「俺も同感ですね。あそこから見ていてもかなり変化したように見えましたよ!」
野村主将「ふむ。スクリューは捨てた方が良いかもな」
天野「状況によってはですが、ストレートに対応して来たらスクリューを多投しそうですし」
山口「なるほど、キャッチャーのリードもやっかいそうだ」

そして天野、亜蘭は1年生離れした実力で無失点ピッチングを続けて行き8回に入った。

8回表 無明実業0−0紅蓮高校 両校ともエースが凄まじいピッチングを続けて行く!
秋山主将「ここだ―――!」

カキ―――ン!
天野「……やはりコースだけじゃ抑えられないか」

霞「低め143キロのストレートでしたが完全にとらえられて打球はバックスクリーンに入った!」
武藤「8回でようやく試合が動きましたか、凄い投手戦でしたね」

天野「ふう」

ガキッ!
郷野「むっ!?」

霞「続く郷野君はスライダーを打ち上げて1アウトとなりました!」
武藤「球威は落ちてるようですがコントロールはまだ生きてますね!」

天野(シュッ!)

ズバ―――ン!
古賀「こんなの良く打てたなっ!?」

霞「古賀君は低めのボール球を振らされて空振り三振に終わり2アウトとなりました!」
武藤「球速も140キロ前半と落ちて来てますが良いコントロールで抑えてますね!」

天野(シュッ!)

ガキッ!
定岡「嫌なところに投げて来るなっ!?」

霞「定岡君もフォークを引っかけてピッチャーゴロに終わり3アウトチェンジです!」
武藤「天野君だけでなく野口君のリードも素晴らしいですね。しかしついに勝ち越しと試合はこのまま終わるんでしょうかね」

野口「どうなるかと思ったけど、なんとか1点ですんだな」
天野「しかし後2回でこの1点は重いですね」
野口「うーん」
天野「まあまだ打席はまわって来ますからその時に打ちますよ!」

秋山主将「ようやくの1点だな。これを守り切って勝つぞ!」
全員「おう!」
郷野「と言っても後2回あるけどな」
亜蘭「空気読もうな」

8回裏 無明実業0−1紅蓮高校 天野もついに打たれ試合はこのまま紅蓮高校の勝利に終わるのだろうか?
野口「このまま天野を負かせるわけには行かない。ここは俺が!」
亜蘭「残念だがやる気だけでは勝てないぞ!」

ズバ―――ン!
野口「無念だっ!?」

霞「140キロのストレートを空振り三振と亜蘭君も少しスタミナが落ちて来ましたね」
武藤「そうですね。ただ、スタミナが切れてもいきなり復活するタイプもいるのでいちがいに言えませんが(亜蘭君も根性で投げ切るタイプだからな)」

亜蘭「下位打線だし手を抜いて投げるかな?」

ガキッ!
酒井「沈んだっ!? シンキングファストって奴か?」

霞「ストレートかと思いましたがわずかに変化したみたいですしシンキングファストですかね?」
武藤「みたいですね。しかし下位打線にも容赦なしって感じの球速が出てますね!?」

亜蘭「ここまで1点差相手のチームに手抜きなんかしたら一気に流れを変えられそうだし全力で行くぞ!」

ククッ!
安田「俺にスクリューって油断なんざ全然しないって感じだな」

霞「安田君はスクリューを見逃し三振! 最後はここしかないってコースに決めました!」
武藤「打率1割台の安田君にも容赦なしですね(これは終わったかな?)」

郷野「三者凡退と8回も言う事なしだな!」
亜蘭「せっかくの甲子園で1回戦負けなんてごめんだからな!」
郷野「ああ。全国制覇が俺達の目標だからな!」
亜蘭「シニアでも全国には出たけど、全国制覇だけはできなかったからな」
郷野「今度こそだな!」
亜蘭「ああ。そして今度はプロ野球だ!」

野口&酒井&安田「すまん」
天野「いえ、まだ1点差ですし守って9回裏の攻撃にすべてを賭けましょう!」
柴田「俺から始まる9回裏の逆転劇か」
天野「その前に表の守備で無失点に抑えないとな!」
柴田「……分かってるよ」

9回表 無明実業0−1紅蓮高校 8回の攻撃でも無明実業は亜蘭から打つ事ができなかった。試合はこのまま終わるのか?
霞「ついに9回に入りました。ここまで1対0と言う点差から想像する方もいるでしょうが、その通り凄まじい投手戦となっております。両校共に1年生エースと言うところが末恐ろしいですね!」
武藤「まったくですよ。この3年間も退屈する事だけはなさそうですね」
霞「ピッチャーと言えば色んなタイプがいますがこの2人は結構共通するタイプですよね」
武藤「ええ。2人共サウスポーで145キロと出ますしコントロールや変化球も良いと素晴らしいですよね」
霞「まあ持っている者と持っていない者との差はありますからね」
武藤「持っていなくてもプロになれたしタイトルも獲れたもん!」
霞「幼児化している武藤さんは放って置いて試合に注目しましょう!」

天野「もう失点は許されない!」

ズバ―――ン!
七瀬「球速は落ちてるのか?」

霞「最後は145キロのストレートを空振り三振といきなり速くなりましたね?」
武藤「決め球の威力は大した物ですね。まあその分、コントロールが落ちたように見えますが」

天野「次はバッティングの良い亜蘭か」

カキ―――ン!
亜蘭「ちっ、正面過ぎたか!」

霞「141キロのストレートを完全にとらえたかと思いましたがショートライナーで2アウトとなります!」
武藤「ま、会心の当たりってのは野手の真正面に飛びやすいですからね」

天野「これで終わりだ!」

ガキッ!
木村「打ち上げちまった!?」

霞「木村君はスライダーを打ち上げてセンターフライに終わり3アウトチェンジです!」
武藤「スタミナが落ちてるわりにボールの威力は生きてますね」
霞「とにかく9回表の攻撃も抑え試合は9回裏と無明実業、最後の攻撃となるのか、です!」
武藤「打順は今日ノーヒットの柴田君からですか」

天野「後は9回裏の攻撃にすべてを賭けるだけか」
野口(俺には打てる自信がないし俺にまわる前に決めてくれる事を祈ってよう!)
天野「柴田からか、代打であいつらが起用される可能性は低いか?」

風間「俺までまわって来たらとどめを刺してやったのにな!」
亜蘭「ま、後は僕が抑えれば終わりですよ。守備を頼みます!」
風間「ああ。任せとけ!」

9回裏 無明実業0−1紅蓮高校 紅蓮高校の勝ち越しのまま進み、無明実業、最後の攻撃となるのか?
亜蘭「後3人で終わりだ!」
柴田(左じゃ打ちにくいけど決め球を狙う!)
郷野(…………追い込んだ。最後はスクリューで行くぞ!)
亜蘭(コクッ!)

ククッ!
柴田「こいつを待っていたぜ!」

カキ―――ン!
亜蘭&郷野「なっ!?」

霞「スクリューをとらえた! 打球はレフトの頭を越えて柴田君はセカンドでとまります!」
武藤「ここで2ベースヒットですか、やっぱり結果は分からない物ですね!?」

亜蘭「………………」
郷野(代打はなしか、送りバントの可能性が高いしバントに警戒するぞ!)

コツンッ!
豊田「良し!」

霞「送りバント成功でこれで1アウトランナー3塁となりました!」
武藤「この場面で天野君ですか、同点の可能性が高くなりましたね!?」

郷野(あんなバントしやすいコースに投げるとは、疲労が一気に来たのか、とにかく次は天野だ。出せる力はすべて出せ!)
亜蘭(コクッ!)

カキ―――ン!
天野「どうだ!」

霞「アウトコース140キロのストレートを流し打った。打球はそのままレフトスタンドに入った―――!」
武藤「嘘でしょう。まさかのサヨナラ勝ち!?」

亜蘭「………………」

霞「亜蘭君はいまだに信じられないのか、棒立ちしたままレフトスタンドを見ています」
武藤「気持ちは分からなくもないですが、まだ1年生、このまま終わらず頑張って欲しい物ですね!」
霞「1年生エースの投げ合いは天野君が勝利し最後は自身のバットで勝利を奪うと言う凄まじい1年生たちの登場となった試合でした!」
武藤「サヨナラになったのは柴田君のおかげと言うのもありますよ。そう言う意味では柴田君や豊田君も良い仕事をしましたよ!」
霞「そうですね。全国では微妙な評価の無明実業でしたが白熱した1回戦となりました。このまま活躍を期待しましょう!」
武藤「負けてしまった紅蓮高校は残念ですが評価では無明実業に負けていないので秋からの活躍に期待したいところですね!」

郷野「慶哉、整列だ。この借りは次に返せば良い。幸い俺達はまだ1年だしな!」
亜蘭「……ああ。負けてしまったな……天野守か」
風間(大和と戦う事なく去ってしまうとはな)
秋山主将「これで俺の高校野球も終わりか」
女川監督「悔いの残る終わり方だったか?」
秋山主将「そんな事はないですが、負けて終わるってのはやっぱり……ふう、終わった後で何を言っても仕方ないか、風間、後は頼むぞ!」
風間「はい!」
亜蘭(風間さんが新しいキャプテンか)
郷野(ふむ。性格的に悪くないが心配な面もあるな)

高橋「負けたら終わりか、分かっていたつもりだけど、全国だと余計悔しい想いが募りそうだね」
山本「そうかも知れないな」
岩田「負けは負けだ。予選だろうが全国だろうがいつも通りやって勝てば良い!」
山本「単純だな」
高橋「まあそう言う考え方もあるよね」
柴田「まったく全国でも投げて良し打って良しと鮮烈のデビューだったな!」
天野「1失点完投勝利と悪くはないが鮮烈と言うには完全試合やノーヒットノーランなんかじゃないとダメじゃないか?」
柴田「ふん! 全国でも相変わらずの自信家めっ!」
天野(他人( ひと )の事は言えないだろうにっ!)
酒井「凄いですね。これなら本当に全国でも良いところまで行けそうですよ!?」
野村主将「ああ。全国制覇とは言えなくてもベスト8やベスト4を目指したい物だな」
山口(もう少し夢を見ても良いんじゃないかと思うが監督もあの様子だしな)
大岡監督「甲子園での1勝がこんなに重かったとは監督生活をしていて初めて思ったぜ!」
全員(気付くの遅っ!?)

紅蓮高校
無明実業高校 2×
勝利
天野守
セーブ
敗戦
亜蘭慶哉
本塁打 紅蓮高校 秋山輝
無明実業高校 天野守

無明実業高校
大岡監督「さてと今日は2回戦だ。相手は1回戦の紅蓮高校に比べれば少し劣る清流高校だ!」
酒井「と言っても甲子園の常連で名門ですから油断はできないんじゃないですか?」
山口「一番有名なのは1年でバッテリー組む2人と先輩達は影が薄い印象があるな」
先輩達(影の薄い先輩か……なんかグサッと来るな)
野村主将「木崎はそこそこ有名だと思うがな」
大岡監督「確かに打率は高く守備も上手いがプロに指名されるかと言えば微妙なところだな。まあ大学や社会人で一気に開花する可能性もあるが」
天野「それでバッターで注意するのは?」
大岡監督「打撃のチームだから基本全員なんだが、ふむ、前回の紅蓮高校の方がチーム本塁打や打点が上だがチーム打率は清流高校の方が上かもな」
柴田「連打で確実に点を取って行くチームか、前回と比べて秋山さんみたいに突出した選手は少ないって感じかな」
大岡監督「正解だ! 4番に座っている関だが長打力は5番の田辺の方が上手だな」
高橋「じゃあなんで4番なんですか?」
大岡監督「確実性だな。4番の関は長打力もそこそこあるが強打者と言うほどではない。その代わり打率は高いけどな。逆に5番の田辺は長打力は高いが打率は低い!」
高橋「なるほど!」
大岡監督「とにかく田辺は例外だが他のバッターは基本打率が良いから油断はしないようにな」
天野「分かりました!」
山本「それでピッチャーは?」
大岡監督「谷田は1年でエースなだけあってセンスは抜群だな。前回の亜蘭と比べれば球速は劣るが変化球はある意味亜蘭以上だな。コントロールとキレの良いシュートはかなりやっかいだ。それと関の強肩+クイックが上手いので走るのは難しいだろうな」
岩田(さすがは甲子園かどんどん凄い1年が出て来るな)

清流高校
清水監督「相手は1回戦で凄まじい勝利を見せつけた無明実業だ!」
谷田「1回戦でのサヨナラ勝ちは劇的でしたね」
関「ま、記憶に残る試合だったのは間違いない」
谷田「相変わらずだな」
関「柴田は1回戦では爆発しなかったが天狼学園戦でのホームランは凄かった。長打は要警戒だ。天野は言うまでもなし野村さんと山口さんもセンスはかなり良い物を持っていると注意が必要だ!」
谷田「大丈夫、いつも通り投げてなんとか抑えて見せるさ。それより天野から得点する方が大事だろう!」
関「抑えるのも大事だが難易度で言えば得点する方が問題だな。まあどんな大投手でも隙はできる物だ。そこをすかさず狙って行くしかない!」
谷田「相手のミス待ちか戦力では負けていないつもりだけど投手力では負けてるかな」
関「そんな事はない。天野が降板する事があれば一気に崩れる。そんな危うい戦力と言う事は観客もひょっとしたら当の本人達も気付いてないかも知れないな!」
谷田「選手層の薄さか、確かにケガ人が出れば一気に終わるかも知れないな」
関「特にピッチャーはケガしやすいからな。お前も気を付けろよ!」
谷田(コクッ!)
関(さてと戦力の差だけで試合の結果が決まらない事を教えてやるか!)

−甲子園大会2回戦 阪神甲子園球場−
1年 柴田 竜
後攻 先攻
無明実業高校 清流高校
投手力 機動力 投手力 機動力
打撃力 守備力 VS 打撃力 守備力
意外性 経験値 意外性 経験値
総合力 総合力
橋本 門木 2年
3年 豊田 誠 赤坂 勝 3年
1年 天野 守 木崎 博司 3年
3年 野村 栄治 関 義哉 1年
2年 山口 忠 田辺 英輝 2年
3年 西岡 望 坂上 連次 3年
2年 野口 鉄雄 森村 宏茂 3年
2年 酒井 正次 田中 幹生 3年
3年 安田 文夫 谷田 正喜 1年

放送席
霞「甲子園大会2回戦、無明実業高校の試合をお伝えさせてもらいます。相手は清流高校と1年生バッテリーの関君と谷田君が有名ですね!」
武藤「谷田君は1年生ながら135キロとなかなか速いストレートを投げますね。まあ他の怪物と比べて劣っていると言われてますが1年生で135キロなら十分速いですからね」
霞「そう言えば読売ジャイアンツのエースの斎藤選手も高校1年のMAXはそれくらいって言ってましたからね」
武藤「つうか解説していたでしょう。生で観てたし……まあそれよりも谷田君は変化球投手ですね。変化球だけなら天野君より上かも知れませんね」
霞「ほほう。キャッチャーの関君はどうでしょうか?」
武藤「1回戦では見事なリードでしたね。バッターを完全に空回りさせていた印象でしたよ!」
霞「1回戦と同じく再び1年生同士の投げ合いとなった2回戦、両投手はどんな好投をするのか注目しましょう?」
武藤「全体的な能力は天野君の方が上ですが関君のリード力でその分補っている印象がありますね。まあ大量得点な試合展開にはならないと思いますが?」

5回表 無明実業0−0清流高校 両投手は無失点を続けて試合は進んで行く!
天野「まずは4番の関からか」
関(ここまでは完全に抑えられてるしそろそろ突破口が欲しいところだな!)

ズバ―――ン!
霞「期待の関君でしたが手が出ず見逃し三振に終わります!」
武藤「これで8個目と天野君の奪三振率も高いですね」

天野「今日は1回戦以上に調子が良いしそうそう打てるとは思うなよ!」

スト―――ン!
田辺「俺にはフォークかよ!?」

霞「最後はフォークを空振りさせて三振を奪いました!」
武藤「130キロで落ちるフォークなんて高校レベルじゃ手が出ませんよ!」

天野「こいつで終わりだ!」

ズバ―――ン!
坂上「速すぎっ!?」

霞「最後は149キロのストレートを空振り三振し3アウトチェンジです!」
武藤「あのコースにこの速度じゃ手が出ませんよ!」

野口「三者三振で完全試合継続と言う事なしだな!」
天野「完全試合は意識してませんけど、完封は狙うつもりです!」
野口「しかし今日は1回戦以上に球が走っているけど、どうかしたのか?」
天野「どうかとは?」
野口「いや、関や谷田とは因縁でもあるのかなと思ってな?」
天野「まあシニア時代でも有名な選手達でしたからね。けど試合した事はないし因縁なんて物はありませんよ」

関「そうそうは打てないか」
谷田「ここまで完全に抑えられるからな」
関「次の回にはお前にも打席がまわって来るんだし期待しているぞ!」
谷田「バッティングには自信あるけど、天野クラスだとちょっと……」

5回裏 無明実業0−0清流高校 天野は5回を三者三振と完全試合を継続中!
柴田「うらっ!」

カキ―――ン!
谷田「げっ!?」

霞「外に逃げて行くシュートを完全にとらえて打球はバックスクリーンに入った!」
武藤「あそこまで変化するシュートを完全にとらえるとはっ!?」

谷田「ぽけ〜」
関「口に出ているぞ!」
谷田「おっと、それにしてもあれをとらえられたら投げるボールがないよ!?」
関「確かにな(俺の予想を超えるバッターがいるとはこれが甲子園レベルと言う事か)……ま、抑えられないなら歩かせると言う手もあるし結果的には勝てば良い!」
谷田「敬遠か」
関「ま、敬遠が好きなピッチャーってのも少ないし個人的にはそれで良いと思っている!」
谷田「へ?」
関「逃げて勝っても得れる物は少ないって事だ。立ち向かって負けても得れる物が多ければ敗北にも意義があると俺は思うがお前はどうだ?」
谷田「確かに負けた経験は今に生かしているけど、けど負けたら先輩達の夏は終わりだ。そうだ。まだ終わらせるわけには行かない!」
関(全力を発揮せず負けても得れる物は少ない。勝つも負けるも本気で行け!)
谷田「おっし! 気を取り直して行くぜ!」

ガキッ!
豊田「この速さで変化されたらヒットは難しいな」

霞「続く豊田君はツーシームを打ち損じてピッチャーゴロに終わります!」
武藤「ツーシームってストレートの速さで変化するからやっかいなんですよね。こっちではストレート変化球とも言われているボールであまり投げる選手も少ないんですが最近は多くなった気もしますね!」

谷田(柴田には通用しなかったけど、天野になら……いや通用しなくてもシュートで行く!)
関(来い!)

ククッ!
天野「……あいつ、これを良く打てたな」

霞「最後はシュートを空振り三振し2アウトです! しかし天野君の三振なんて久し振りに見ましたね!」
武藤「そうでしたっけ?(結構あったような気もするが?)」

谷田「天野には通用した。気を引き締めてふたたび行くぞ!」

ガキッ!
野村主将(あの変化なら打てなくもないと思ったんだが手元でキレてるのか?)

霞「野村君はシンカーを引っかけてセカンドゴロに終わり3アウトチェンジです!」
武藤「それほど変化はしませんでしたがコースは悪くなかったですね。しかし4番ならあのくらいのボールには対応して欲しいところですね!」
霞「と手厳しい武藤さんの言葉でした。これで5回も終わり試合は1対0と無明実業、ついに勝ち越しに成功しました!」
武藤「さすがは無明実業と言ったところですか、しかし1点差ならまだまだ分かりませんね。それと手厳しさは期待の裏返しですから!」

関「なんとか1失点で終わったな」
谷田「ああ。関の話を聞いたせいかやる気が出て来たからな!」
関「それは良かった。しかしこれ以上の失点はまずい。なんとか得点するからお前は失点しないピッチングを……いや次の回はお前の打席もあるんだったな。自分のバットで取り返して来い!」
谷田「おうって天野から打てる自信はないぞ!」
関「そこはそれ先輩達の為に打って来い!」
谷田「バッティングも嫌いじゃないけど、天野クラスとなるとなー」

柴田「この1点大事に行こうな!」
天野「ああ。守り切って行くぞ!」
全員「おう!」

両校共にやる気を見せるが試合はこのままの点差で続いて行く。。

8回表 無明実業1−0清流高校 柴田の一振りで手に入れた1点を守り続けて試合は8回に進む!
天野(完全試合はなくなったが完封はまだ残っている!)

ズバ―――ン!
森村「1年坊が打てて俺達先輩が打てないとはっ!?」

霞「森村君も146キロのストレートを空振り三振と天野君の調子は良さそうですが? 6回、7回とランナーが出たのはなんだったんでしょう?」
武藤「さあ? 146キロ出てるんだから調子が悪いわけじゃないでしょうし打った相手が凄かったって事ですかね?」

天野(次の田中さんはまあ並みって感じのバッターだったな)

ガキッ!
田中「スライダーか」

霞「田中君はスライダーを打ち上げセンターフライに終わり2アウトです! そして次のバッターは6回で天野君の完全試合を打ち砕くヒットを打った谷田君です!」
武藤「ピッチャーの谷田君が清流高校初ヒットだったのは意外でしたよね。まあ6回はそのヒットの後続きませんでしたけど」

天野(9番を打っているが今までの打席を見る限りバッティングセンスはクリーンナップレベルだな。注意して行くぞ!)

カキ―――ン!
谷田「狙ってたら本当にカーブが来たおかげであっさり打てたな!?」

霞「左中間真っ二つ! 打った谷田君はセカンドで止まります!」
武藤「バッティングセンスは疑う事なしって感じですね。しかし狙っていたとは言えあの変化のカーブを良く打てますよね?」

天野(また打たれたっ!?)

スト―――ン!
橋本「…………ふう」

霞「フォークも外れてストレートのフォアボールと天野君は8回と同じく調子を落とします!」
武藤「メンタル面が強いかと思うと、こう言う弱さを見せる。良く分からないピッチャーですね?」

野口「何があったか知らんが落ち着け!」
天野「大丈夫です。前回だって抑えたし今回も問題ないです!」
野口「問題は6回から連続でヒットを打たれる事だな。ボールは生きてるし1回戦よりも調子が良いくらいなのに不思議だな?」
天野「同感です。まあ相手の選手がボールに慣れて来たってとこでしょう」
野口「次のバッターを歩かせるとクリーンナップにまわるしここで断つぞ!」
天野「はい!」

ガキッ!
赤坂「やばっ!?」

霞「ショートコースのゴロですがこれは面白いところに飛びました。酒井君が追い着いてサードに投げますが……」
武藤「セーフとアウトじゃ全然状況が変わりますね」

酒井「くっ! 間に合え!」

パシッ! シュッ!
赤坂「とおっ!」

パシッ!
西岡「くっ!」

霞「間に合わずセーフ! これで2アウト満塁となりました! 次のバッターはキャプテンの木崎君です!」
武藤「凄い展開になりましたね。しかしこれでも無失点と無明実業の方に運があるようにも思えますが?」

木崎主将「ふっ、とんでもない場面で俺の出番か……つうかどうしよう。ここで打てればヒーローだけど打てなければ終わりと最悪の場面じゃん!?」
野口「完全に打ち取った当たりでこの状況か、なんかツキがなくった来てるような」
天野(今度はチーム1の巧打者、木崎さんか)
木崎主将「こうなったら当たって砕けろだ!」

カキ―――ン!
野口「安田、バックホームだ!」

霞「145キロのストレートと速かったですが、木崎君、合わせてセンター前ヒット! サードランナーの谷田君はホームインしセカンドランナーの橋本君はホームへは走らずサードストップします!?」
武藤(4番の関を敬遠させない為か?)

安田「うおっ!」

ビュ―――ン! パシッ!
橋本「田中並みの守備のスペシャリスト、当然、肩の強さもかなりの物と呆れるほど関の調査は大した物だな」

霞「そう言えばセンターの安田君はバッティングはからっきしでしたけど、守備はスペシャリストでした。すっかり忘れてましたね」
武藤「かなりの強肩ですからね。橋本君が走れないのも当然ですよ!(やばかった。安田の肩の強さをすっかり忘れてたよ!?)」
霞「しかし木崎君のタイムリーで清流高校が同点に追い着きます。そして2アウト満塁で迎えるバッターは7回にヒットを打った関君です!」
武藤「ヒットどころかフォアボールやデッドボールの押し出しでも逆転と天野君、最大のピンチを迎えますね!」

天野「ふう、せっかくもらった1点を相手に取り返されると情けない結果だな。しかし逆転はさせない!」

グイ―――ン!
関「なるほどな!(弱点とは言えないかも知れんが天野の最大の欠点を見つけたぞ!)」

カキ―――ン!
天野「バカなっ!?」

霞「147キロのストレートでしたがライト前に落ちた。ライトの柴田君がバックホームするが当然セーフで清流高校が逆転します!」
武藤「これで2対1、おまけに2アウト満塁でチーム1のパワーヒッター田辺君を迎えますか」

野口「えっ?」
大岡監督「どう言う理由かは分からんが今日の天野は何処か変だ? それにこれ以上の失点はまずいって俺が言うまでもなくお前が一番分かっているだろう!」
野口「ですけど」
大岡監督「こう言う事は言いたくはないんだが今のうちのリーダー的存在は天野だ。あいつが中心になってチームを盛り立てて行き甲子園出場の躍動力となった。お前達があいつの事を特別扱いをする理由も当然と言えば当然だろう。しかしな。野球は団体競技だ。あいつ1人に勝敗を押し付けるわけには行かないんだよ!」
野村主将「すみません。そこを承知であいつに任せるわけには行きませんか?」
大岡監督「あのなーキャプテンのお前までそんな事言ってどうすんだ? スタメンのお前達はまだ良いがベンチ入りの選手は試合出場もせず甲子園を去る事になるんだぞ?」
野村主将「それでもお願いします!」
大岡監督「………………それで本当に良いのか? 後悔しないのか?」
野村主将「ここまで来れただけでも出来すぎですよ。それにきっとみんな同じ気持ちだと思いますから!」
大岡監督「……分かったよ。俺が折れるよ。野口、あの1年坊にきっちりと言って来い!」
野口「はい! おい! 天野?」
天野「どうしたんですか?」
野口「いや、俺、監督のところに行ってたんだけど」
天野「って俺が交代ですか!?」
野口「いや、そうじゃなくてお前、どうかしたのか?」
天野「そうですね。ちょっとどうかしてました。心配させてすみません。もう大丈夫なんでミット構えてもらえますか!」
野口「えっ?ああ。分かったよ!」
天野「ふふっ、そうかならもう何も問題ないな!」

ズバ―――ン!
田辺「なんだこのストレートはっ!?」

霞「146キロのストレート低めギリギリを見逃し三振と満塁のチャンスでしたが追加点はありませんでした。しかしこの回に清流高校は逆転に成功し2対1で8回裏に入ります!」
武藤「田辺君はホームランが多いですがミートは下手ですからね。こう言う結果も分からなくはないんですが、気のせいでしょうか天野君のボールが前回に比べて変わったような気がするんですよね?」

野口「不調の原因は球の回転か」
天野「そうらしいです。今まで投げてたのはブレイジングショットではなくただのストレートだから打たれていた。ただ、普通のストレートだったのは俺の心的な問題でした」
野口「それで解決したのか?」
天野「ええ。我ながら単純だなと思うくらいあっさりとね。ここまで自分がもろいとは思いませんでしたよ」
野口「それでその問題はなんだったんだ?」
天野「個人的にちょっと恥ずかしいのでパスと言う事で」
野口「ずるっ!?」
天野「ずるくても良いんでパスします!(まったくダチの姿を見て安心したなんて恥ずかしくて言えるかよ!)」

谷田「キャプテンと関のおかげで逆転に成功! この1点を守って勝つぞ!」
関(気のせいか田辺さんに投げたボールが今までと違っていたような?)
谷田「どうした?」
関「いや、この1点を守って勝とうな!」
谷田「おう!(どうしたんだ? いつもと違って焦っているような? 怖がっているような?)」
関(くっ! 何故だ。逆転に成功したのにこの追い込まれている感じはっ!? まるでこれから何かが起こるような?)

8回裏 無明実業1−2清流高校 ここで天野は完封を逃しただけでなく相手に逆転されると無明実業がピンチを迎える!
谷田「行くぞ!」
天野「大振りする必要はない!」

カキ―――ン!
霞「ツーシームでしたが軽く合わせてセンター前に運びました。これでノーアウトランナー1塁です!」
武藤「投手戦の流れかとも思えましたが後半からは乱打戦の流れに見えて来ましたよ!」

谷田「………………」
関(スタミナが落ちて来たか、コントロールが悪くなっているな。しかしまだ行ける!)

野村主将「もらったぞ!」

カキ―――ン!
谷田「しまった!?」

霞「ここで痛恨の失投を投げてスタンドまで運ばれた! 野村君の一振りで無明実業が3対2と逆転に成功しました!」
武藤「嘘でしょう! バッター2人で逆転に成功っていくらなんでもこんな展開はないでしょう!?」
霞「っと武藤さんが言うほどありえない展開となっております。ここで無明実業打線が爆発と言うほどではありませんが逆転に成功しました!」
武藤「逆転したのは見ていれば分かりますよ。しかし守って行こうと思った瞬間にこれじゃバッター達も報われませんね」

関(まるで神風だな。無明実業を勝たそうと言う意志でも動いているのか? そんなオカルトな展開なんぞ誰が望むか! いや、そう意志だ! 天野のボールには意志が抜けていた。気持ちがこもってなかったから打てたんだ。田辺さんの時には意志がこもっていた印象があった。そして天野は長打を狙わず塁に出て後続のバッターに託した。その意志の結果がこれなのか!?)
谷田「………………」
関「(はっ! 谷田は打たれ弱い。この展開ではもう交代するしかないか、すまん。打たれたら真っ先にフォローするのが俺の役目なのに)谷田、悪いが交代だ」
谷田「悪い」
関「なあ谷田、お前、野球の神様って信じるか?」
谷田「はあっ!?」
関「ありえない展開だろう。逆転に成功したと思ったら一気に逆転されるなんてよ!」
谷田「俺は信じないよ。打たれたのは俺のボールの力が足りなかった。逆転に成功されたのは俺の精神的な弱さが原因だと思っているよ。神様なんかに頼っちまうと努力を放棄しそうでなんか怖いしな」
関「なるほど、優等生的な発言だな」
谷田「なんだよ!」
関「いや、好感が持てると言いたいのさ。ただ、神様がいるとして力を貸すとしたら諦めない奴であり戦う意志のある奴なんじゃないかと思ってな」
谷田「まあ、確かに諦めている奴に手を貸しても仕方ない気はするよな。しかしなんで野球の神様とか言うわけ?」
関「なんと言うか意志の力のような物を感じてな。もしかしたらそんな物もあるのかなと思ってな。ただ、お前の言葉を聞いてお前の言っている事が一番正しいと思ったよ!」
谷田「つうか忘れて下さい。思い出すと凄く恥ずかしいセリフ言ったなと思うので」
関「死んだら忘れる事にしよう!」
谷田「つうか生きている間は忘れてくれないのね」
関(しかし機会があれば天野から何があったのか教えて欲しい物だ。まあそんな機会があればあいつの欠点も話さなきゃならんわけだが)

霞「ここでピッチャーの交代のようです。谷田君に代わって小国君がマウンドに向かいます!」
武藤「まだ余力はありそうだし続投でも良いと思うんですがね?」
霞「小国君ですが140キロ台のストレートとキレのあるスライダーを投げるピッチャーと聞いてますが?」
武藤「スライダーは結構変化するらしいですね。防御率も悪くないと言いたいところですが試合数が少ないからなんとも言えませんね」

小国「行くぞっ!」

ガキッ!
山口「先発と違って球はかなり重いな」

霞「良い当たりかと思いましたが力負けした感じでセンターフライに終わります! しかし130キロ台と140キロも出るんでしょうか?」
武藤「急な交代ですからね。まだ肩ができてないだけって事じゃないでしょうか?」

関(今までのうっぷんがあるせいか、いつも以上にボールに力がある気がする。これなら力押しだけで行けるか)
小国「今まで投げてなかったうっぷんを晴らしてやる!」

ズバ―――ン!
西岡「速いっ!?」

霞「出た! 140キロのストレートを空振り三振とこれで2アウトになりました!」
武藤「あっさり打たれるかと思えば一気に抑えられると変な試合展開ですよね?」

小国「うぉ―――!」

ガキッ!
野口「やっちまったっ!?」

霞「最後はボール球に手を出してキャッチャーフライに終わり3アウトチェンジです!」
武藤「野口君にはボール球ばっかりとコントロールが安定してませんでしたね。そう言えば四死球もそこそこ多かったんだったかな?」
霞「しかし逆転に次ぐ逆転と8回は波乱万丈な展開でしたね」
武藤「まったくですよ。それにしても次の9回で天野君が抑えれば終わりですか、このまま行くんでしょうかね?」
霞「とにかく野村君の2ランホームランで無明実業高校が3対2で逆転に成功しました!」
武藤(清流高校は当たっていない3人だし普通に考えれば終わりなんだけど、まだ何か起こるのか?)

関「急な登板で不安もありましたが問題なさそうですね」
小国「総合力ならともかく球速や球威なら負けないからな。まだまだ行けるぜ!」
関「まあ立ち上がりの悪さや急な乱調で四死球連発する悪いところがなくなればエースに戻れるんですけどね」
小国「先輩に向かってきつい奴だな」
関「時には先輩相手でも物怖じしない態度も必要でしょう!」
小国(いつもそう言う態度だろうが!)

山口「続けなくてすみませんでした」
野村主将「いや逆転には成功したんだ。それだけでも上出来だろう!」
天野「柴田からもらった1点、そしてキャプテンからもらった2点、この3点を持って勝利する!」
柴田(はあ、この回では出番はなしか、まわって来れば更なる援護射撃をと思ってたのにな)

9回表 無明実業3−2清流高校 野村の一振りで再び逆転と8回は両校の打線が爆発!
天野「後3人で終わらせる!」

ガキッ!
坂上「カーブかよ!?」

霞「坂上君はサードゴロとまずは1アウトです!」
武藤「追い込められるとまずいと思ったんでしょうが、ボール球に手を出したらダメですよ!」

天野「後2人!」

ガキッ!
森村「俺もボール球を振らされた!?」

霞「最後はフォークを引っかけてピッチャーゴロで2アウトとなりました!」
武藤「またボール球でしたね。まあ普通なら空振りするところを当てただけでも大した物なんですが」

天野「こいつで終わらす!」

ズバ―――ン!
田中「負けた」

霞「最後は145キロのストレートを空振り三振と無明実業が3対2で勝利しました!」
武藤「強いですね。しかし相手も同じくらい強いと見応えのある試合でした!」
霞「全国相手だと通用しないかとも言われていた無明実業高校でしたが結構通用していると名門の復活も嘘ではないと言ったところでしょうか」
武藤「甲子園にいるチームが弱いわけはないですからね。ただ、1回戦、2回戦と観てた人達も無明実業の甲子園出場はマグレではないと思って欲しいですね!」

柴田「これで3回戦出場も決まったな!」
天野「優勝にはまだ遠いけどな」
柴田「そうだな。しかし今日のヒーローはキャプテンか、失投とは言え見逃さず打ったのはさすがだよな!」
天野「元々センスはあるんだ。強豪と戦って目覚める事もあるさ!」
野村主将(力が足りなくてもできる事はあったな。俺に取っても色々勉強になった試合だった!)
山口(秋になったらキャプテンが抜けるのか、4番は誰が座るのかね?)
大岡監督「本当に逆転して勝つとは」
全員「まあ俺達も信じられないですけど」
大岡監督(木村や岩田も投げさせてやりたいんだが天野の交代のタイミングが分からないんじゃ投げさせるのは先発の時くらいか……しかし木村や岩田で全国相手じゃ厳しいかな?)

谷田「1回戦勝ったときは行けると思ってたけど、やっぱり全国に出て来る高校相手だと俺じゃ厳しいな」
関「そんな事ないだろう。7回を3失点なら良い方だ。相手の天野だって9回を2失点と完封は逃したんだ!」
谷田「2点台と3点台じゃ結構差がある気がするけど、このまま終わったら先輩達に申し訳ないしな。秋はもっと頑張るよ!」
関「ああ。春にも来ような!」
清水監督「言う事はなさそうだな」
木崎主将「ええ。しっかりした後輩達で後を安心して任せられますよ!」

清流高校
無明実業高校 ×
勝利
天野守
セーブ
敗戦
谷田正喜
本塁打 清流高校
無明実業高校 柴田竜 野村栄治

観客席
天野「はあはあ、もういないか?」
?「よう、守!」
天野「……ふう、話を聞かせてもらいたいんだが?」
?「話すほどの事はないさ」
天野「…………とにかく、お前もレギュラーなんだな」
?「ああ。スタメンには入れなかったけどな。ただ、お前と戦う事があれば俺はスタメンとして出場する!」
天野「?」
?「ふっ、俺に会うまで負けるなよ!」
天野「そっちこそな!」

天野の不調はこの少年、鏡流が( かがみながれ )原因だったらしい。とにかく無明実業は甲子園でも無事勝ち上がって行くとかつての名門らしさを取り戻して行くのだった。