第1章 戦いの舞台へ

斎藤達の世代も終わりプロ野球のスターが次々と引退して行った。勿論若手でもスターはいるが次々と記録を創って行った選手達が引退したのはプロ野球ファンに取っては嬉しくも寂しい話だった。
二階堂「・・・・・・・・・・」

ブンブンブン

河原で黙々とバットを振っている少年、遠くからでもスイング音が聞こえる所からかなりの強打者だろう。そしてそれを黙々と見てる少年が1人とここから物語は始まる。
嘉神「・・・・・・・・・・」

そしてノルマの素振り500本を終わらした後、そこでふと自分を見てる少年に二階堂が気付く。
二階堂「ん? お前、俺に何か用か?」
嘉神「素振りでも内外と分けて強振しこれは想像だが相手投手を想像し立ち位置をずらして打ってる。ひょっとしてあんたプロか?」
二階堂「そんな訳ないだろう。俺はまだ15歳、中学生だ」
嘉神「そうか、それでさっきの質問だが」
二階堂「ああ、俺の親父はプロのスコアラーでな。小さい頃から特定の投手、野手のビデオを何度も見せられていたんだよ。そんで素振りする時にプロの投手を想像してるんだ」
嘉神「ふーん、やっぱりプロを目指しているのか」
二階堂「プロなんか考えた事もないよ(自分で言ってて変だよな。俺、野球は好きだけど特に尊敬するプロ選手とかいないしな)」

二階堂はプロの投手、野手の名前はたくさん知ってるが憧れの選手などはいなかった。
嘉神「考えてないか」
二階堂「何かいこごち悪いな」
嘉神「自己紹介が遅れたな。俺の名前は嘉神利輝(かがみとしき)! 15歳だがジャイアンツにドラフト指名を確約してもらっている!」
二階堂「俺と同じ歳で来年からプロ!?」
嘉神「高校で俺の相手になる奴はいない! だから俺はプロになる!!」

自信家で生意気そうな奴、それが二階堂が嘉神に感じた最初の印象だった。しかし自分と同じ歳でプロになるなんて凄い奴だとも思っていた。
二階堂(今のうちにサインでも貰っておくか?)
嘉神「名前は?」
二階堂「ああ、二階堂大作(にかいどうだいさく)だ」
嘉神「二階堂! 俺がプロに行く前にお前と戦いたい!」
二階堂「え?」
嘉神「難しく考える必要はない。俺と1対1の勝負だ! 勝負は1打席でどうだ!」

二階堂にはここで嘉神と戦う理由はなかったが挑戦されて逃げるのも嫌なので何よりも来年からプロの嘉神の投球にも興味があったから挑戦を受ける事にした。
二階堂「分かった! けどストライク、ボールはどう判断するんだ?」
嘉神「ストライク、ボールの診断はお前がしてくれればいい」
二階堂「(信用されてんのかな)分かった!」
嘉神(まずはインハイにストレート!)

ズバ―――ン!

まずはインハイに144キロの速球が来る。二階堂はピクリともせず見逃す。カウントはストライクで両者様子見と言ったところだった。
二階堂(速いな、それにノビもある)
嘉神(次はアウトローにスライダー!)

ククッ!

次はアウトローにスライダーしかしストライクから外れ1ボールとなる。
二階堂(スライダーのキレも凄いな)
嘉神「1回もバットを振ってないがまさかこの俺の球を一振りで打てると思ってるんじゃないだろうな!」
二階堂「さあな(今はあいつの速球、変化球を見て行く)」

ズバ―――ン!

次はインローに145キロの速球で2ストライクとなる。追い込まれるが二階堂に焦った気配はなかった。
二階堂(今度はインローか制球は抜群だな。遊び球はなしで来る。狙うか!)
嘉神(ラストは真ん中高めのストレートだ!)
二階堂「来た!」

カキ―――ン! パシッ!
嘉神「何っ!?」

二階堂は147キロの速球を真芯でとらえるが結果は嘉神が反射的に取るピッチャーライナーとなった。
二階堂「この場合はどうなるんだろう? …………打ったけどアウトはアウト、俺の負けかな」
嘉神「…………俺の勝ちだと…………二階堂、この結果は納得いかない!」
二階堂「もう1回勝負か?」
嘉神「いや、お前とはプロで決着をつける。お前がプロに来るまで俺は何年でも待つ。プロで決着をつけよう!」
二階堂「…………ああ!」

これが二階堂大作と嘉神利輝との最初の出会いである。こうして16歳と16歳の異例のプロ対決が始まるのだった!