「行ってきま〜す!」春の暖かな陽気の空の下に元気な声が響いた。

 「行ってきま〜す!」と、家から駆け出していった青年。どうやら遅刻らしい。学ランのボタンが上まで止まっておらず、だらしない格好だ。髪型は、短く刈ってあり、スポーツ少年のようだ。

 家から数分走ると、学校の校門が見えてきた。門は閉まっている。教室ではすでに、出席が確認されているだろう。校門の横の石柱には、『加治町高等学校』と、彫られている。

 「やっべ・・・・。」と、言った青年は、門を登って校内に入り、グラウンドを突っ切って、一年の学年の下駄箱へ入っていった。

 「え〜・・・高井良助!」と、教壇の上に立った先生が、出席を取っていると、廊下にドタバタと音がして、一人の青年が入ってきた。


「橘遼・・・・・。」と、先生は呆れ気味に言った。どうやら青年は、遅刻

「はい・・・・・。」はぁはぁと息を整えながら、橘遼(たちばなりょう)と呼ばれた青年は言った。

 そう、この遅刻してきた少年こそ、この話の主人公なのである。



 放課後、授業が終わり部活動が、校庭では始まっていた。なかなか広い校庭で、サッカーならば、Jリーグと同じ試合ができるほど、広い。部活動の生徒たちは、それぞれのユニフォームを着て、練習をしている。

 どうやら、一年生の姿はまだ見られない。なぜなら、一年生は、ユニフォームを入部時にはもらえず、後々にもらえるからだ。

 学校の校庭の半分を使って、練習をしている野球部を恨めしそうに橘は見ていた。すると、後ろから、肩をたたかれた。そこには、少し背の高い、イケ面の青年が立っていた。

「橘君。帰ろうよ。」と、その青年は言った。

「おう。わかった。」と、橘。

校門を出ると、イケ面の青年が橘に声をかけた。「橘君は、もちろん部活、野球だよね。」

「ああ。もちろん。当然、野球部!変な質問してんじゃねぇよ。社も野球だろ?!一緒に中学でやってたんだからよぉ。」と、橘は、カバンを持っていない手で、彼にどついた。

「も、もちろん・・・。ごめんごめん・・・。」社と呼ばれた青年は、どつかれて苦笑いをして言った。このイケ面の青年の名は、社駿介(やしろしゅんすけ)

「野球部の練習は、見てどうだった?」と、社は橘に聞いた。

「ああ・・・・。そりゃあ、つらそうでしたよ?」と、橘。

「そっか・・・・やっぱり?」と、社。

「確か、明日から俺たちも部活には入れるんだよな。」と、橘は社のほうを向いていった。どうやら、一年生の部活デビューは、明日かららしい。

「うん。そうだよ。」と、社はうなずいた。

「うんじゃ、また明日な!」と、家の前に着いたらしく家の門に手をかけて橘は言った。

「うん。また明日。」と、社は手を振った。

それに橘は、背を向けて手を振って答えた。

 夕焼けの空が、真っ赤に燃えていた。