次の日。

 橘は、珍しく(!)ちゃんとした時間に学校に来ていた。周りの生徒たちが、「どうしたのか?」と、彼をはやし立てた。

「うるせぇなぁ・・・・。俺が、ちゃんと学校に来ちゃ悪いのかよ?!」橘は、自分の周りに群がっている友達に言った。

「ああ、悪いよ。いつも朝から笑わせてくれるのに、今日はちゃんと来ちゃってるんだもんなぁ。」と、目の前の男子生徒が言った。

「ちぇっ。ひでぇなぁ、お前ら・・・。」と、少し落ち込んだふりを見せた。

 すると、どこからともなく声が聞こえてきた。周りでうるさい生徒がいるにもかかわらず、よく聞こえてきた。

「そ〜だよ!あんただって人のこと言えた義理じゃないじゃない!」と、橘の目の前の生徒に向かって言った。女子生徒だ。

「夕波・・・・。」と、橘は彼女をぽかんと見て言った。

耳たぶまでの長さの黒色の髪に、少し背の高い女子生徒が、手を腰に当てていた。顔は、広末に似ている。

「うるさいなぁ〜!こいつくらい遅れてねぇよ!」と、橘の目の前の男子生徒は、立ち上がり、橘を指して言った。

「でも、遅れてるじゃん。同類だよ〜!」と、夕波という女子生徒の隣にいた女子もその男子生徒に向かって言った。

「ちぇっ。二対一かよ・・・。」と、彼は彼女らを無視して、いすに座った。

「なぁ、夕波ってさぁ。お前に気があるよなぁ・・・・。」と、先程とは違う、右隣に居る男子生徒が橘を肘でつついて言った。

「だよなぁ・・・・・?よ!色男!あんなかわいい子、あんまいねぇもんなぁ。いいなぁ・・・。」と、今度は、左隣に居た男子生徒が言う。

「おいおいおい!勝手に話し進めんなよ!」と、橘は友達を止めながらも、楽しくほかの女子と話している夕波を見ていた。

 

 放課後。

「ついに待ちに待った部活だ〜!!」と、橘は、高校のジャージにばっちし着替えて言った。

「そうだねぇ!いやぁ。わくわくするなぁ〜!」と、社も興奮している。

 靴を履き替え、グラウンドに行くと、もう数人の一年生らしき生徒たちが、上級生の前に並んでいた。橘と社もそれに倣い、端のほうに並んだ。

「結構多いじゃん!新入部員!」と、橘より10センチくらい背が低い小柄な青年が、言った。

「うん。11人居るよ。」と、並んでいるちょうど真ん中の位置で目の前に立っていた青年が言った。

「ほ〜?!来てるじゃんか!」と、大柄な青年が、どすどすと歩いてきて、真ん中に立っていた青年の隣に並んだ。「浪館。何人居るんだ?」と、大柄な青年は言った。

「10人だよ。監督が来た。全員集合〜!!」と、青年が言うと散らばっていた部員も集まってきた。どうやら、真ん中に居る青年がキャプテンのようだ。

 全員帽子を脱ぎ、キャプテンの青年の号令で監督に挨拶した。かんとくは、まだ若そうで20〜30代といった感じだ。

「新入部員のみんな、よろしく。監督の賀田凪(かたなぎ)だ。」と、監督が言うと、新入部員は、全員で「お願いします!!」と、元気な声で言った。

「早速だけど、一年生たちに自己紹介をしてもらおうか・・・・。中学校時代のポジションとかがいいかな。じゃあ、一番右端の君から。」と、賀田凪は、一番右の背の高い青年を見て言った。

 青年は、少し緊張しながら自己紹介をした。

「僕の名前は、佐々木義巳(ささき よしみ)です。ポジションは、ファーストです。」と、背の高い青年は言った。

簡素な顔つきで、まだ中学生感が抜けていない感じだ。

「私の名前は、夕波奈美(ゆうなみ なみ)です。ポジションは、ピッチャーです。」と、聞き覚えのある苗字と声が橘の耳に入った。

「え?!夕波?」と、橘は列からはみ出て、夕波の姿を確認した。

「おや?女子か〜!初めてだなぁ!」と、背の低い青年が、目を輝かせて言った。

「女子の部員は、この高校初めてだと思います。」と、監督。

「よろしくお願いします!」と、夕波は元気良く頭を下げた。

 次々に自己紹介され、ついに橘の番になった。すっと前に一歩出て、大声で自己紹介する。

「僕の名前は、橘遼です!!ポジションは、センターでした!」

周りの部員が、耳をふさいで彼を胡散臭く見た。

「元気いいな〜!お前!」と、大柄の青年が言った。

「はい!よろしくお願いします!!」と、頭を下げて一歩下がった。

次は、社の番である。

「僕の名前は、社駿介です。ポジションは、ピッチャーです。」

「ピッチャーかい?僕が、この高校のエースの野村だ。よろしく。」と、眼鏡をかけた少しいやみな青年が、社に挨拶をした。まるで、下の者を見るような口調だ。

「これで全部だな・・・・。よし!」と、監督は近くにあったかごの中からボールを取った。

「この中で硬球を練習していないものはいるか?」と、監督が言うと、数人が手を上げた。

橘と社は、高校野球のために中学の部活引退後、硬球の練習をしていたので、手を上げなかった。

手を上げた数人の中には、佐々木、夕波の姿はない。彼らも練習をしたようだ。

「では、手あげた数人の人。この先輩たちに、教えてもらってくれ。」もうひとつ後ろに並んでいた部員の数名が前へ出て来た。そして、手を上げた数人を端のほうへ連れて行った。

「手を上げなかった人たちはこれからテストしたいんだけど・・・・。いいかな?」と、監督。

 少しどよどよと一年たちが動揺した。

 しかし、大柄な青年が彼らを一喝した。「当たり前だろう!硬球で練習していたんだ。どれくらいものかは、見せてもらうぜ!!」

話し声が、一気に静かになった。

「では、テストしようかな。野手の人たちは、浪館、お前連れってくれ。ピッチャーは、俺が連れて行くから。」と、監督が指示を出すと浪館は、「はい!」と返事をして、野手だと自己紹介した一年たちを引きつれ行った。

 一年生の実力が、橘の実力がついに見えるときが来たのである。

 

<選手名鑑>

橘 遼(たちばな りょう)血液型:B型 守備位置:中

右投げ右打ち バッティングフォーム;イチロー

 

社 駿介(やしろ しゅんすけ)血液型:A型 守備位置:投

左投げ左打ち ピッチングホーム:岩隈(近鉄)

 

夕波 奈美(ゆうなみ なみ)血液型:O型 守備位置:投

右投げ右打ち ピッチングホーム:三浦(横浜)

 

佐々木 義巳(ささき よしみ)血液型:AB 守備位置:一

右投げ左打ち バッティングホーム:福浦(ロッテ)

 

宮 嘉信(みや よしのぶ)血液型:O 守備位置:中

右投げ左打ち バッティングホーム:石井拓朗(横浜)*小柄な青年

 

大橋 大我(おおはし たいが)血液型:B 守備位置:一

右投げ右打ち バッティングホーム:松井秀喜*大柄な青年

 

浪館 豪(なみだて つよし)血液型:A 守備位置:三

左投げ左打ち バッティングホーム:小笠原(日ハム)

 

野村 泰樹(のむら やすき)血液型:AB 守備位置:投

右投げ右打ち ピッチングホーム:井川(阪神)