―彼女たちの夏―
「だぁ〜、暑い!」 そんな言葉で私の夏休みが始まった。 「何でこんなに暑いのかと問いたい!」 「夏......だから」 「ああっ、もう!鬱陶しい!しっしっ」 「気持ちも分かるけど、それで涼しくなったらね〜」 そんなこんなで、私の夏休みの初日はグラウンド。 先輩たちの最後の大会が近いので監督も先輩たちにも気合が入る。 「オラッ、まだまだ行くぞ!立てっ、立てっ!」 悲願の地域大会※に出場するため、監督も先輩たちも、そして私たちも必死だ。 ※地域大会‐例・中部大会や近畿大会のような、全国大会の1つ下の大会。 泥まみれといっても過言じゃないくらい、肌も着てるものも黒い。 もう追い込みの時期だ。否が応でも気合が入る。 「で、その追い込みの時期練習で私はブルペンキャッチャーをやらされてるってわけ・・・何で?」 「何でなんていうなよ、俺だって無口でジョークも通用しない木村といっつも一緒じゃストレス溜まんだもん。」 今日は、ブルペンにいる。何でなんだろ、私ショートだし・・・ 浜口も木村とじゃつまんないって言うけど だからって何で私が...... 私はブルペンキャッチャーなんてやりたくないっつーの はぁあ、こんなに練習でつまんないと思ったの何年ぶりだろ それから一週間がたった。 とうとう先輩たち最後の大会か・・・ でも、ヤフーBBスタジアム※で最初からやれるなんてラッキー。 ※ヤフーBBスタジアム‐ご存知オリックスブルウェーブの本拠地。兵庫県神戸市にあり、高校軟式野球の県大会、地域大会の本球場。 バシィ! 何であたしが・・・ 今日もブルペンにいるわけ! 今、試合は7−8で7回 壮絶な乱打戦。 だから、ピッチャーもすぐ変わる。 浜口は控えの捕手だから、レガースをつけている間のキャッチボールとかで忙しいかららしい。 でも、ちょっと得したなって思うのは、難波先輩と2人っきり!あとは、ブルペンとベンチをつなぐ電話かな。ちょっと感動しちゃった。 「難波先輩っ!ちょっと休みましょう」 「ん、ああいいよ。投げすぎは良くない。」 簡易ベンチに座って、掛けてあった白いタオルを取って汗を拭いている。 「明美ちゃん、試合はどうなってる?」 「え〜っとですねぇ、8−8で1死2塁です。あっ、フォアボール出しました。もうすぐ......」 プルルルル 電話が鳴った。 はい難波です。と先輩が電話を受ける。 ああ、もう登板なんだな 「明美。」 「はい?」 「セカンドだってよ」 「えっ...... はぁ?」 「いや、俺ピッチャー。お前セカンドに行けって」 ドクッ、ドクッ。 鼓動が早くなっていく。私、緊張してるんだな。 「行くぞっ!」 「はいっ!」 ―私、デビュー― 「美坂高校、ピッチャー平瀬君に代わりまして、難波君背番号1。セカンド広田君に代わりまして、天川さん背番号17。」 小柄な彼女が出てきたことについては観客も他チームの選手も、訝しげに見ていたが、まだ放送で気付いた人は少ないようだ。騒がれていない。 今の状況はワンアウトと1・2塁ね。私はランナーを構いつつも、バントのときはファーストに入る。内野ゴロはゲッツー。 カキィン 打球は、三遊間。三木先輩が取る。踏ん張って投げる。 「天川ぁ!」 無理な体勢からか、ショートバウンド。 「やばぁ...」 ヤバイと思ったけど捌く。捌かなきゃいけない。 タ、パシッ。 「(よし取った。投げなきゃって、えっ)」 容赦なくゲッツー崩しのスライディングが彼女襲う...... その瞬間。球場は天使を見た。 ショートバウンドをとった後にスライディングをよけつつジャンプし、そのまま体制をひねりジャンピングスロー。 「...っと」 さっきのプレーで落とした帽子を拾う。それとともに、球場に衝撃が走る。 『お、女ぁ〜!?』 そんなのも気にせずにハイタッチをする明美。 「ナイスプレー!」 「おー、凄かったぞー」 「ど、どうも・・・うわっ」 いきなり頭を叩かれてビックリした。 「おうっ、ナイスプレー。」 ちょっと嫌な顔をしてみた。けど、先輩の顔を見たらなぜか笑みが零れた。 こっちのベンチがにぎやかになった。いや、にぎやかになったのはベンチだけじゃない。バックネットも応援席もにぎやかになった。 無料配布になっていた大会パンフレットを見たのだろう。彼女が1年生ということに気付き、また驚きの声が上がる。 (この回はあたしに回ってくる。打席ではもっとあっといわせてやる。見てろ観客どもめ) なんともどす黒い考え。って思いつつも、ヤル気メラメラな状態になってゆく自分に、いつもの如く馬鹿を感じる。 「6番サード東君」 カキィ げっ、初球打ち。しかも、サードゴロ。 簡単に終わるなよ!せっかく風向きがこっちに向いて来たっていうのに! 「もう準備しなきゃって、ヘルメットとバットと・・・? 何であんた(浜口)がヘルメット被って出る気満々なのよ」 「え、俺だって出てるしさぁ。」 「はい!?」 「7番センター日下くん」 「お前が出てるって、どーいうことよ!」カキィン 「だから出てるんだよ!キャッチャーで!」ライト線に強烈なライナー・・・そのまま・・・? 「...え、カキィンって?」... カシャン 入った!!。や当たった!当たった!!!と、ベンチの中から声で、観客席で飛び交う。同点ホームラン。しかも、長打なんか全然打てない日下先輩が、流し打ちでホームラン... !? 「こりゃ、私もヒットは打たなきゃ」といって下唇を噛んだのはいうまでも無い。 鼓舞し、気合が溢れんばかりに出ている。 彼女の気迫を感じた観客も少なくないだろう とうとう、明美がデビューか・・・ ザザッ 足場を固める。 よしっ、いくぞっ! 第2節(完) |