とんとんとホームベースと叩く。
そこから、相手にバットをかざし。一言呟く。
「―――勝負―――」
相手は左投手、名前は紀東何とかって。珍しい苗字だったな。
初球は？
インコースを抉る（えぐる）スライダー。
ストライク。
へえ、今のは取るんだ。インコーナーには甘いな。ちょっと離れて構えようか。
外角のシュート。
ストライク。
はあ、今日は両コーナーに甘いんだな。
そして、このピッチャーは審判員に助けてもらってるような状態だな。
本能的に彼女はそれを察した。
彼女はこんなことを本能的に感じ取れるのだから線の細い華奢な身体でハイアベレー
ジを残すことが出来るのである。
３球目。ストレート。
来たっ、甘い球！
カキィン
ピッチャーの左にライナー
体制を崩しながらもグラブを出す。
取った、ピッチャーライナーファインプレー。

いや〜、あれ取られちゃしょうがないね。
苦笑い。

さっきまで対峙していた投手の様子がおかしくなったのにも明美は気付かなかった。

どうやら、酷く足首を捻ったらしい。
ピッチャーはマウンドに膝をつく。

ちくしょう、あの女やりやがるな。
―――もちろんこれは明美のせいではなく、彼のせいである。
彼はゴリッいう音ともに彼は降板を覚悟した。それでも、この球だけは話さないと気
合で堪えた。
まあ、それが自体を深刻に怪我を重くさせてしまった様だ。
しかし、彼のプレーで流れは変わる。
まだもう少し先のことだが、重症との一方を聞いた選手達が何が何でも勝ってやる
と、気合が、気迫が入った。

さて、時間を戻して、今にもどる。

「心星高校、ピッチャーに紀東君に代わりまして、星君。背番号１。」
次のピッチャーは右サイドのようだ。
もちろん明美はそんなことには気付いていない。代わったことすら知らないのだか
ら。

「いけ〜、浜口ぃ！！　あたしの分まで打てぇ〜」
んなぁこといわれてもなぁと思ったのはいうまでも無い。
しかし、こんなときにツイているのが浜口である。
げっ、でも甘い球じゃん。もうけ♪
カキュィン　快音は続く。
１番夕月（ゆうづき）。２番難波が選び、２死満塁。
ここで打者は、御蔵（みくら）。
ケガで硬式での野球を断念したが、リトル・シニアの名門チームではだった４番選手
だ。


　―　心星高校がここで追加点を入れられたら、完全に流れが行くのは必至だ。
　―　美坂高校がここで追加点を入れられたら、完全に流れが来る。必ず。


大きな体、その構え、そして眼差し。右目が光り、只者では無いオーラが漂う。

ソラに翳すバット。
ぎらつく黒い色。
そして、

眼差し。

シューーー。

真ん中だ。

トラエタ・・・

高速カーブ※・・・！？

キィン。先っぽに乗った打球はファーストの裏。落ちるか、取れるか？
―

球場に声が響く。
ファール！

彼の集中力が今ので抜けたか、持ち直せるかが...だな。

カキィン
捉えたな
痛烈な打球が一塁線に飛ぶ

駒井！！
セカンドが届くか？
しかし、それを影が遮る

ぽーん
鋭く飛んだ打球は１塁走者に当たり、幕を閉じた。
９−９　８回裏　２死満塁　守備妨害により走者はアウト　よってチェンジ
流れはどちらにもよらぬ、混戦となった。


※（高速カーブはスライダーと表現されることが多いが、語句の意味を考えるとカー
ブの方が適するため、この先も縦スラは高速カーブとします。）

第３節（完）