第34章 冬合宿(前編)

−1995年 12月−
試合もなく練習のみに集中し赤竜高校は昨年以上に練習を頑張って行く。
祐一「美味美味と月砂も腕を上げたね。これなら調理担当でも通用するかもね」
朱里「そうね。これならあっちに来ても問題ないわね」
斎藤主将「つうか何でいんの?」
祐一「これまた悲しい言い方だね」
斎藤主将「いや、だってさ。昨年と言い今年と言い新年前に帰って来るなんて珍しいじゃん?」
朱里「そう言えばそうね」
祐一「ふむ。そうかそれでは安心してパパの胸に」
斎藤主将「飛び込むか!」
祐一「相変わらずの高速ツッコミだね。ハジメ君の場合は光速ツッコミかな?」
斎藤主将「は?」
祐一「忘れたかな。昔、一緒に野球観に行った時にあんな速い球投げられるなんてと感動してたじゃないか」
斎藤主将「そんな事あったっけな? 親父と一緒に出かけるのはまれだから良く覚えてると思うんだけどな」
祐一「愛する息子よ。不甲斐ないパパを許せ」
斎藤主将「パパだけは譲らないんだなとまあいいや、それでその試合のピッチャーって誰、福井さんかな?」
祐一「うーんと、プロじゃなくて草野球だったからね。誰なんだろうね?」
斎藤主将「……草野球……ダメだ思い出せない」
祐一「無理もない15年近く前になるからねプロに入ったらあの時の人を教えて下さいとか言えば(いたずらとかも多そうだけど)来るんじゃない?」
斎藤主将「ま、プロ入りしたら考えて見るわ(しかし本当にそんな事があったのか)」
結依「月砂や朱里も知らないのか?」
月砂「私達も見ましたけど私は覚えてませんね」
朱里「私も覚えてないわね」

と実家には昨年と同じく斎藤家は全員揃うと珍しい現象が起こっているが野球では斎藤はいつも通り、いや昨年以上にチームの柱として頑張って行った。

赤竜高校 野球部
斎藤主将(シュッ!)

ズバ―――ン!
木下「おおう143キロですよ!」
真田「相良さんの寄付のおかげで懐も盛りだくさんですな〜♪」
吉田「まあな。けどお前の懐が潤ってる訳でもないけどな」
真田「それはともかく、斎藤、柚ちゃんと方程式も出来てるし甲子園でもかなり良いとこまで行けそうですな」
吉田「そうだな」
斎藤主将「何言ってんだ目指すは優勝のみ優勝旗を持って帰るぞ!」
全員「おう!」
中西監督「うむ。これなら本当に優勝できるかも知れんな」
篠原「それはどうでしょう」
木下「出たな水差し男め!」
相川「水差し男って?」
篠原「2年の部員は3人のみ残りは1年とうちは選手層が薄過ぎます」
中西監督「まあな。だがそれでも関東大会で優勝できたじゃないか」
篠原「それはキャプテンのおかげです。無失点なら負けは永遠に訪れませんから」
福西「それはそうだな」
篠原「得点が少ないのが引っかかってるんですよ」
中西監督「春まで時間はあるしお前達は成長期だ。得点も少しずつ上がって行くだろう」
篠原「確かに一朝一夕で変わる事じゃありませんしね」
柚「私達はハジメについて行くだけ!」
相川「柚さんの言う通りですね。ここまでキャプテンの力で来れたんだから最後まで付いて行くだけです。もちろん僕達もできるだけ頑張らないとね!」
全員「おう!」
吉田「去年もだが今年も熱い春になりそうだな」
真田「そうだね。僕も来年の秋にはドラフトにかからなきゃ行けないから春夏とアピールしないとね」
吉田「この雰囲気でそう言う事言えるのも凄いわな」
真田「だから優勝狙わないとね」
吉田「あれ賭けは良いのか?」
真田「ふっ、僕がサヨナラ打って勝ったりしたら賭けの行方はどうなるかな」
吉田「有り得そうもない事だが確かにそう言う形で優勝したらおごられにくくなるな。それはそうとお前の望みってのはなんだ?」
真田「は? いまさら何言ってんの」
吉田「…………うーん、ひょっとして椎名の事だったのか」
真田「当たり前じゃん」
吉田「そうか珍しくシリアスだったからな。しかしそうするとお前の望みはすでに叶った事になるんじゃ」
真田「まあね。ま、実際優勝できるかどうかは分からんけどね」
吉田「確かに、キャプテンになって斎藤はますます凄くなってるから春も良いところまでは行きそうだけど」
真田「でも目標は高いに越した事はない目指すは優勝あるのみだよ。負けた時はついでに吉田にも払ってもらうとして」
吉田「何で俺が?」
真田「勝利の為にいさぎよく犠牲になろうしている僕に感動して吉田も一緒に犠牲になってくれると言うストーリーだから」
吉田「言わなきゃ考えたかもな(自ら感動をぶっ飛ばすとはこれも真田らしいか)」
真田「とにかく今年の春こそ優勝だね」
吉田「そうだな」

喫茶店MOON 斎藤の部屋
真田「〜♪〜♪〜♪」
吉田「幸せな顔してゲームやってるところ悪いんだが俺達は暇なんだが?」
真田「〜♪〜♪〜♪」
斎藤主将「全然聞いてないな」
吉田「ああ、とそれより夏ならぬ冬の合宿か、正月返上で練習付けなんてきつそうだな」
斎藤主将「いまさら言われてもな」
吉田「ま、斎藤がキャプテンになった時について行くって決めたからな」
斎藤主将「それに借りるグラウンドにプロが自主トレに使う事もマレにあるらしいぞ」
吉田「仮に会えてもプロアマ規定で練習教わるなんて無理だし」
斎藤主将「いや、昔からプロを見たら目で盗めと」
吉田「俺は初耳です」
斎藤主将「とにかく春の甲子園で優勝する為には全員寝食を一緒にする事でチームの連係を上げるのに役立つと言う話も」
吉田「マンガっぽいな。ま、野球はチームプレーだし合宿に反対はしないけど、大晦日も元旦も休みなしか」
斎藤主将「ま、帰りの前日は練習時間も減らす予定だから」
吉田「おう! ちっとはやる気が出たぞ!」
斎藤主将(これまた分かりやすい)

と言う訳で今年も最後になるが赤竜高校は休みなしで練習し年明けを目指す事となった。

飛んで旅館
真田「なかなか良いところだね」
中西監督「そうだな」

赤竜高校野球部員は観た感じ綺麗に整ってる旅館と言う感じの場所にたどり着いた。
福西「観た感じ中も綺麗だし結構高そうですけど?」
中西監督「安心しろむしろ安い方だ。それに露天風呂もあるらしいぞ」
真田「おう!」
中西監督「しかし俺達はあくまで練習しに来たんだ。観光気分は帰る前日にな」
福西「ゲームできないってぼやいてた割にはもう立ち直ったな」
相川「あはは、師匠らしいよ」

簡単に荷物を置いて行き斎藤達は早速グラウンドに向かう。

グラウンド
吉田「正直期待してなかったんだが本当に練習している人がいるな」
福西「あれはジャイアンツの神代さん、俺、無茶苦茶ファンなんだよ。どうしようかな」
真田「決まってるじゃないか、ここは当たってサインをもらう! 続きたまえ!」

そう言って真田と福西は走り去って行った。
吉田「あれ放っといていいのか?」
斎藤主将「うーん?」

神代(もう少しコンパクトにして見るか? いやいや、このフォームで数字を出してるんだ。小さくまとまるなんて冗談じゃない!)
真田「突然ですみませんが貴方はジャイアンツの神代一歩( かみしろいっぽ )さんじゃありませんか」
神代「そうだけどって君達は近くの高校生かな?」
福西「遠いってほどでもありませんが近くってほどでもない野球部員で僕は貴方の大ファンの福西克明と申します」
神代「それはどうも」
福西「せっかくですけどサイン下さい」
神代「これまたストレートに来たね。別に良いけど、書く物とか僕は持ってないよ」
福西(ササッ!)

福西は一瞬にして色紙とペンを差し出す。
神代「準備の良い子だな(カキカキ!)こんなんでどう?」
福西「感激です。これは家宝にさせてもらいます♪」
神代「それはどうも(ポリポリ)ところで君達は何処の高校?」
真田「それは僕がお答えしましょう。今年は3人もプロ選手を出した赤竜高校の野球部員です」
神代「赤竜高校…………確か相良君の母校か」
真田「ちゃんちゃん〜♪ 正解です〜♪ 正解した貴方にはサインをする権利をあげましょう♪」
神代「それどっちかと言えば君達が得をするんじゃ?」
真田「と言う訳でサイン下さい(ササッ!)」
神代「やれやれ(カキカキ!)これで良い?」
真田「OKです♪」
神代「えっとひょっとして全員にサインしないとダメかな?」
全員「じ〜〜〜!」
神代「はあ、分かったよ。順番ずつね」

こうして全員が神代のサインをもらった。
真田「いや何か自主トレ中にすみませんね」
神代「いまさら言われてもね」
斎藤主将「しかしずい分と早く自主トレしてるんですね」
吉田「そうだよな。今年の成績なら反省も必要なさそうだけど」
神代「まあね。色々と理由があるけど、やっぱり一番の理由は僕には野球しかない。だからかな」
真田「好きこそ物の上手なれって奴ですか」
神代「あははっ、そうそうそんな感じだよ」
斎藤主将「しかし1人で自主トレですか?」
神代「まあね。こっちの事情で12月半ばからの自主トレに誘うのもね」
真田「しかし神代さんの高校時代も凄い選手が多かったんですよね」
吉田「MVPの久住さんや沢村賞の御堂さんと同期でしたね。夏に優勝したのは冥空高校でしたっけ?」
神代「うん。うちは今年の夏と同じ様に準決勝で冥空高校に負けたからね。ちなみに準優勝は当時の甲子園No.1投手って言われてたベイスターズの高岡ね」
斎藤主将「プロに入って新人王を獲ったのは高岡さんと御堂さんでしたね」
神代「うん。他にも新人王は逃したけど14勝の紅月や2ケタ打った遠山や100打点の土丸屋、30本塁打の界外と浪川、3割打った日暮とか新人時代に活躍してるな。後は今年の打点王の轟、トレードで出された高野や桐生、今年リリーフで活躍した芹沢とかね」
吉田「新人の怪物軍団って感じだな」
神代「そうだね。ま、来年や君達が入って来る再来年はもっと凄くなりそうだけどね」
斎藤主将「プロか」
神代「ま、春の甲子園も楽しんで頑張りなよ」
斎藤主将「そうですね」
真田「と言う訳でスカウトの人に会ったら期待の星に真田君がいると言っといて下さいよ」
神代「ははっ、考えておくよ」

こうして斎藤達は合宿でジャイアンツの神代一歩と出会った。それから練習付けの毎日が進んで行く。

旅館
斎藤主将「うーん、思ったより早く目覚めたな。目が冴えて眠れそうもないし散歩にでも行くかな」

疲れているのに珍しく目が冴えて気分転換に散歩にでも行こうと斎藤は旅館を出る。
斎藤主将「ううっ寒っ!?」

早くも寒さに負けそうになるが目が覚めて良いかと思いながらやはり散歩にと出かける。
斎藤主将「辺りは森林ばっかり景色は良いんだけど、見事に誰もいないな」

元々山奥の旅館で人通りは少ないだろう場所だが寒いしやっぱり斎藤は布団の中で眠ってた方が良かったかなと後悔し始めていた。
斎藤主将「冷たって雪かよ!?」

そして雪が降り始めますます寒くなる一方
斎藤主将「俺は1人漫才する為に出て来たのかな?」
相川「あれ? キャプテン何やってるんですか?」
斎藤主将「相川か、お前こそこんな時間に何やってるんだ?」
相川「いえ、何となく目が冴えてしまって」
斎藤主将「お前もか」
相川「と言うとキャプテンもですか、じゃあキャプテンも悩み事ですか?」
斎藤主将「まあな。練習しても成果が出るのはまだ先だし春の甲子園でもケガに気をつけて頑張らないととかな」
相川「……! 悩みがあるのはみんな一緒ですかね」
斎藤主将「?」
相川「あれ?」

相川が指差す先には同じ理由で起きた野球部員達が揃っていた。
福西「まったくキャプテンと相川だけで自主トレなんて酷いじゃないですか?」
斎藤主将「いや、別に一緒に出た訳じゃ?」
真田「はあ、さむっもう少し寝たかったな」
吉田「確かに寒いつうか雪降ってからな」
柚「雪綺麗」
篠原「……そうだな」
木下「お前なんか悪い物でも食べたか?」
篠原「朝食はまだだ」
相川「ま、下手の考え休むに似たりですね」
斎藤主将「悩んで時間を浪費するくらいなら動いて時間を浪費しろってか」
真田「僕達らしく当たって砕けろくらいが丁度良いんじゃない」
斎藤主将「優勝する前に砕けたら困るが、ま、1人で考えるよかみんなで考えた方が良さそうだな」
真田「じゃ今日はイメージトレーニングで」
斎藤主将「そんな訳あるか、とりあえず全員揃ったのなら丁度良い雪道で走ると危険だから歩いてグラウンドに行ってキャッチボールの後、全員で露天風呂にでも入るか」
真田「良いですね。ここは熱カンできゅっと」
吉田「出場停止にするつもりか!」
真田「そんじゃジュースできゅっと」
斎藤主将「それじゃお前ら行くぞ!」
全員「おう!」

こうして赤竜高校は合宿で連係を深めて行く。