第24章 赤竜VS斉天、終わりなき戦い(前編)

−1995年 7月 下旬−
今年も決勝まで上がったのは赤竜高校と斉天大附属、斎藤に取っては斉天との3度目の対決が始まる。
斎藤「いよいよ明日は斉天との3度目の対決か(佐伯、秋の借りは必ず返す!)」
真田「相手の先発は佐伯か、やっぱり昨年より凄くなってるんだろうね」
吉田「日本一のピッチャーだからな。当然と言えば当然だ」
月砂「ところであんた達は何やってるの?」
真田「ここまで練習付けでしたが明日は因縁の斉天と戦う為、今日だけは休めとのお達しです!」
結依「春から土日も休みなしで練習してたのにか?」
吉田「良く分かりませんが何か考えがあっての事じゃないですか?」
斎藤「俺は練習したかったけどな。何もしないとどうも嫌な事ばっかり考える」
真田「ちなみに僕達は明日の決勝で登板する斎藤が練習しない様にとのお達しでここに来てたりもします!」
斎藤「信用ないな」
吉田「いや、むしろ斎藤が練習熱心だと信用してるから言われたんだと思うが」
斎藤「どっちにしろゆううつだな」
月砂「気分転換に外で遊んで来たら」
斎藤「昨今の若者はどんな遊びをするんでしょうか?」
吉田「何処の爺様だよ。ゲーセンとかは?」
斎藤「バッティングセンター!」
真田「却下だね。斎藤が行くとバッティング練習になるから」
斎藤「そう言うと思ったよ」

そんな事を話していると予期せぬお客が入って来た。
奥森「ここで良いのか、えっと斎藤?」
斎藤&吉田「奥森さん!?」
真田「貴方は赤竜の疫病神、奥森孝司さんじゃないですか!?」
奥森「1年近く経ってるのにいまだに根に持ってるんだな」
斎藤「1年ほど前にも言いましたがこいつの言う事は気にしないで下さい」
吉田「そんな事より何故ブルーウェーブのエースがここに!?」
奥森「いや、俺、1年目だしエースだなんてそんな!?」
吉田「何を言ってるんですか! 現在9勝2敗の怪物投手なんですよ! 1年目でここまで結果出して本当に何言ってるんですか!」
奥森「すみません」
斎藤「謝る前にここに居る説明をお願いしたいんですが?」
奥森「実はな。去年の夏のお詫びをずっと考えてな。思いつかなかったから直接聞きに来たんだ!」
斎藤「まだあの事を気にしてたんですか? あれはただの事故ですし別にお詫びなんて良いですよ」
真田「ダメだよ。斎藤、ここで何もしなかったらシナリオが進まない!」
吉田「相変わらず何言ってるのか分からん?」
奥森「とにかく何かお詫びできないかな?」
斎藤「いきなり言われても?」
奥森「じゃあ何か夢はないか昔からしたかった事とか?」
斎藤「夢ですか? うーん、そうですね。プロ野球選手になりたいとかオールスター観たいとかかな」
吉田「野球関連なところが斎藤らしいな」
真田「ですな〜」
奥森「プロ野球選手は練習の手伝いしたくてもプロアマ規定で無理だしオールスターは終わったし―――シリーズか」
吉田「日本シリーズですか?」
奥森「うちは大差で首位だし可能性は高いな。良し日本シリーズに招待するよ!」
斎藤「それは嬉しいですけどそんな簡単にできるんですか?」
奥森「ファン設置のシートとかあるだろう。先輩達に土下座してでもお願いしてみるよ!」
斎藤「前にも言いましたけど、そこまで気にしなくても良いんですよ」
奥森「いや、1年のお前にケガさせた責任はあると思う。俺は今でも初出場の喜びを覚えてるからな。お前には本当に悪い事したと思ってるよ!」
吉田「なるほど、斎藤、素直に頷けよ」
斎藤「うーん、でもな?」
吉田「このままじゃ奥森さんはずっとここに居着くぞ。そうなったらブルーウェーブの戦力はガタ落ちだぞ!」
斎藤「そんなバカな? しかし有り得るのか分かりました。そう言う事ならお言葉にあまえます!」
奥森「そうか、それならご家族や赤竜高校の部員も誘える様に30席くらい手に入れて見せる。7戦全部な!」
斎藤「そうですね。家じゃ俺と柚と姉貴と結依さんってあの2人はどうなるんだ?」
月砂「残念ながら私はダメね。結依さんと柚を誘って行きなさい!」
結依「わしも遠慮しておこうか、月砂、1人にするのはちょっと心配での」
月砂「私の事は気にしなくても」
結依「祐一と朱里に頼まれた手前、1人にしておけん!」
斎藤「じゃあ、うちの野球部員だけですね!」
奥森「分かった。それで赤竜の部員って何人居るんだ?」
斎藤「確か33人です。しかしそんなに席取れるんですか?」
奥森「今からなら多分間に合うだろう。旅費も俺が何とかしよう!」
吉田「33人分の席に旅費って確かに斎藤じゃなくても頷きにくい話だな。と言うかシリーズって10月だよな。秋の大会と重なるんじゃ」
奥森「そう言えば…………どうするか? よっし移動の方は全面的に俺が面倒見る!」
斎藤「ここと神戸ってかなり距離があるよな」
吉田「けど確かに1日で移動出来ない距離でもないなただ無茶苦茶疲れそう!?」
奥森「仕方がない。恐らくセリーグはスワローズが優勝するだろう」
斎藤「断言は出来ませんが現在、圧倒的な強さで首位ですから可能性は高いかと」
奥森「神宮がホームなら距離的にもそんなに疲れんだろう」
吉田「比較の問題ですが確かに疲労は少なくすみそうですね」
奥森「携帯は持ってないか、仕方ない。おいおいこっちで連絡するから試合日とかは教えてくれ。とこれが連絡先だ。じゃあな!」
斎藤「まるで嵐だな」
吉田「ああ」
真田「ただで野球観戦だ!」
斎藤「つうかさ。神宮じゃ席は難しいんじゃ」
吉田「あっ!? けど後で連絡するって言ってたからその時に何とかしてくれるんじゃ」
斎藤「(やっぱり悪い事したかな)とりあえず、みんなにはもう少し黙っていようか」
吉田「そ、そうだな。まだ完全に決まった訳じゃないし」
真田「ふむ。それでこれからどうする?」
斎藤「そうだな。奥森さんの存在で色々忘れてたけど行きたいところがあるんだ?」
吉田「それじゃそこに行くか」

赤竜神社
真田「へえ。ここが噂の神社か」
斎藤「噂?」
真田「斎藤や柚ちゃんの秘密特訓場!」
斎藤「別に秘密にしてはいないんだが?」
真田「こう言うのはノリが大事なんだよ〜♪」
吉田「とりあえず真田( こいつ )は放っといて何しに赤竜神社(   ここ   )に来たんだ?」
斎藤「いや、結依さんとここで会った事を思い出してな」
真田「結依さんとここで?」
斎藤「ああ。お使いの帰りにこの神社を見つけたんだ。その時に結依さんから赤竜神社(   ここ   )の由来を聞いた(と言うか聞かされたが正解か)」
吉田「それでどんな話なんだ?」

1年前の事だが斎藤は強く印象に残ってたのかあの時に聞いた話を一字一句間違いなく話した。
吉田「何か結依さんが語るとあの外見なせいか本当っぽく聞こえそうだな」
斎藤「実際、信じそうになったからな」
真田「しかし語り部が斎藤だと嘘っぽく感じますな♪」
斎藤「仕方ねえだろう。話し慣れてないんだから」
吉田「まあまあ、それで話を戻すが何しに赤竜神社(   ここ   )に来たんだ?」
斎藤「いや、特にただ思い出して足を運びたくなっただけだよ」
真田「他に何か面白話はないの?」
斎藤「後は練習する時に足を運んだくらいしか」
吉田「確かに静かで集中できそうな空間( ところ )だな」
真田「そう? 僕としては賑やかなところの方が集中できると思うけど」
吉田「そう言うタイプは少ないと思うぞ!?」
斎藤(本当に村雨と同じなんだな!?)
真田「そう言えばこの神社って人が住んでんの?」
斎藤「そりゃ住んでるだろう!」
吉田「確かに人は見当たらないが良く掃除されてるみたいだし住んでるんじゃないのか」
斎藤「と言うかいまさら何だが許可なしで練習してたけど良いのかな?」
真田「大丈夫なんじゃないの♪ 神社って参拝するのが目的な場所だし賽銭とか入れた事あんの?」
斎藤「ああ。試合の前日に来た時は毎回入れてるけど」
真田「じゃ問題なしだよ!」
吉田「それに問題があれば神社の人が注意するだろうから真田の言う通り大丈夫だろう」
斎藤「そうだな。それじゃ次行くか!」
真田&吉田「次?」
斎藤「他にもどうしても行きたいところがあるんだよ!」

斉天大附属高校
斎藤「ここなんだよな」
吉田「次の対戦相手のところかよ!? つうか何しにここに来たんだ? 偵察か?」
斎藤「佐伯とちょっとな」
吉田「エース同士が前日に話ね。ちょっとあれとも思えるけど」
真田「と言うか佐伯、ここに居るの?」
斎藤「今日も練習があるなら居るだろうと思ってな」

佐伯「………………」

そして許可なく入ってマウンドに居る佐伯を発見する。
真田「うーん、こう簡単に見つかると面白みがないな」
吉田「その前に勝手に入るってかなりまずいんじゃ!?」
真田「うーん、斉天のセキュリティはちと問題かな」
吉田「そう言う問題じゃないしって斎藤は?」

真田と吉田が話している間に斎藤はマウンドに行っていた。
斎藤「何してるんだ?」
佐伯「!?」
斎藤「いや、何も引っくり返るほど驚かなくても?」
佐伯「いきなりだったから、寿命が縮んだな。ってそんな事より何でお前じゃなくお前らが?」

真田と吉田も視界に入ってから言い直して聞く。
斎藤「いや、今日は休みで何もしないと色々と考えて自分でも少し非常識かなと思うがお前に会いたくなって来てな」
佐伯「なるほど、こっちも似た様なものかな。俺も休みでじっと出来なくてな。気がつくとマウンドで寝ながら色々考えてた」
斎藤「色々?」
佐伯「ガキの頃の事とか幼馴染や七瀬さん、そして明日の試合の事とかお前らの事とかな」
斎藤「お前、少し変わったな?」
佐伯「そうなのかな。みんなにも良く言われるんだけど?」
斎藤「何て言うのかな。余裕とでも言うのかな?」
佐伯「大人になったって事かな」
斎藤「えっと」
佐伯「勘違いすんな! そうじゃなくてだな。今まで俺は誰かに手を引っ張ってもらってたから何とかやってこれたんだよ! 今は自分の足で歩ける様になったって言うか」
斎藤「な、なるほど、何と言うか大人になったんだな。いや変な意味じゃなくて」
佐伯「分かってるってのいちいち注釈はいらねえよ。つうか忘れろ! それに良く考えたら俺はまだまだだ。俺の目標はあくまでプロだ。プロにならないと1人前とは言えん!」
斎藤「なるほど、人に歴史ありって言うがお前も色々とあるんだな」
佐伯「まあな。けどそれは誰もがだろう!」
斎藤「うーん、俺はこれと言って何も思い付かんが昔から野球が好きなだけだし」
佐伯「(なるほどね。俺も野球が好きなだけなんだよな。難しく考えすぎてるだけで答えってのは単純なものなのかもな!)ふう、ありがとな。話して色々とすっきりしたよ。明日は良い調子で投げれそうだ!」
斎藤「そうか? 俺はすっきりしてないんだよな?」
佐伯「何を悩んでるか知らんが自分で言っただろう。野球が好きってそれで良いじゃないか!」
斎藤「うーん、ダメだ!?」
佐伯「仕方ないな。何を悩んでるんだ?」
斎藤「ああ。サヨナラ打たれる事かな」
佐伯「春にサヨナラホームランを打たれた事を気にしてるんだな」
斎藤「ああ。練習してれば色々と考えずにすんだんだけど」
佐伯「昔から俺より上手い奴はたくさんいたんだ」
斎藤「?」
佐伯「俺はベンチ入りもできなかった。転校する直前に幼馴染にも嫌われたし野球を辞めようと思ったけど辞められなかった」
斎藤「………………」
佐伯「どんなに下手でもやっぱり好きだから辞められなかったんだよな。そしてあの日にエースにケガをさせちまった」
斎藤「あの日って?」
佐伯「…………その日は大会に向けてレギュラーを決める紅白戦だった。俺はベンチ入りも出来ない投手なのに何故か先発だった。緊張した俺は打たれたあげくにエースの角川さんにデッドボールを投げてケガさせちまった。チームのみんなは誰も俺を責めなかったよ。俺のせいで角川さんも最後の大会に出れなくなったのにその角川さんも責めなかった。翌日から俺は顔を出せなくなって気が付いたら泣いてたな。その時に七瀬さんに出会ったんだ。それから先はお前の知っての通り」
斎藤「ちょっと待ってくれ。そんな事があったのに辞めずに頑張ってるのか!?」
佐伯「七瀬さんから聞いてないのか?」
斎藤「ただ、リトルで頑張っていた子にシュートボールを教えたってだけしか聞いてないな」
佐伯「そうか、お前が俺と七瀬さんの仲を橋渡ししてくれたから全部聞いてるんだと思った。とにかく七瀬さんはシュートボールと言葉を送ってくれたんだよ」
斎藤「言葉?」
佐伯「諦めるな。ただ、それだけさ。今、諦めるといずれ後悔する事になる。だから諦めるなってな」
斎藤「それで諦めずに頑張った結果が斉天のエースか」
佐伯「……次の日にな。怖かったけどリトルに行ったんだよ。みんな何も言わずにとっとと練習するぞ。このボケって言われちまった」
斎藤「良いチームメイトだな」
佐伯「ああ。ヘタレの俺には勿体ない奴らだって思ったさ! そしてお前が言う通り斉天のエースになった! もっとも1年前には自信を持って言えなかったけどな!」
真田&吉田「……………………」
斎藤&佐伯「うぉっ!? お前らいつの間に?」
真田&吉田「良い話だ。感動したぞ佐伯!」
佐伯「どうも」
斎藤「ふう」
佐伯「どうした?」
斎藤「いや、我ながら小さい悩みだなと思ってな」
佐伯「そうでもないさ」
斎藤「いやいや、明日の試合では赤竜のエースの俺が抑えてやるからな!」
佐伯「望むところだ。斉天のエースの力を見せてやる!」
吉田「何か盛り上がってるな」
真田「明日は昨年に増して凄い試合になりそうだね」
吉田「まったくだ!」

こうして赤竜高校VS斉天大附属の試合が始まる。