第27章 因縁の対決、4つの軌跡(前編)

−1995年 8月 下旬−
赤竜高校は甲子園でも勝ち上がり後2つで全国制覇と言う偉業を達成する。
中西監督「さてと雪影高校だが、1年前はうちが格下だったが現在では同等と考えていいだろう」
相良主将「ですね。真っ向からやり合っても決して勝てない相手じゃありません」
真田「1年前は9対4で負けましたけど?」
中西監督「それはアクシデントもあったからだ。ま、また起こる可能性もあるが」
吉田「朝山をどう打ち込むかがポイントかな」
中西監督「いや、それよりも斎藤があの打線をどう抑えるかだな」
斎藤「ええ。さすがにあの打線を無失点で抑えるのは難しいでしょうね」
福西「やっぱり強いんだな」
相川「まあ、近年は連続で甲子園に出場してるからな」
福西「さすがは白銀さんの母校か」

−甲子園大会準決勝戦 阪神甲子園球場−
3年 馬原 泰三
後攻 先攻
雪影高校 赤竜高校
投手力 機動力 投手力 機動力
打撃力 守備力 VS 打撃力 守備力
意外性 経験値 意外性 経験値
総合力 総合力
真田 和希 2年
3年 益井 高師 相川 正人 1年
3年 衛藤 嘉男 斎藤 一 2年
2年 滝沢 裕司 相良 京一 3年
3年 真島 晴喜 玖珂 良雄 3年
3年 住吉 雅哉 嵯峨 蓬 3年
2年 山田 孝志 吉田 毅 2年
2年 新井 一馬 安達 正孝 3年
2年 朝山 正治 伊沢 樹 3年

滝沢「赤竜高校か」
白銀監督「昨年と比べて大幅にレベルアップしたと言われる赤竜高校が相手だ。昨年と違い総合ではうちが少し劣るかも知れん」
真島主将「どんな猛練習をしたか興味がつきませんね」
白銀監督「それはともかくエースの斎藤はバッターとしても要注意だ。当然4番の相良もな。朝山、お前は2失点以内に抑えろ!」
朝山「うーん、ちょこっと厳しいかない、いえ全力で頑張ります!」
大沢「紅蓮高校から7失点した朝山さんが赤竜高校を2失点か」
後藤「やはり無理か」
大沢「前の試合じゃ調子が最悪って感じだったからな。今日は調子が良さそうだったけど」
後藤「まあ、キャプテンも居るし何とかなるだろう……多分?」
大沢「うん」

放送席
霞「それでは準決勝戦をお伝えします。実況は私こと白銀霞です。解説は武藤さんと天野さんでお送りします」
武藤「解説( こっち )は名字だけの紹介かい!」
天野「まあまあ、打線に定評のあるチーム同士どんな打撃戦になるか楽しみです!」
霞「と言う訳で雪影高校VS赤竜高校の試合をお伝えします」
武藤「2年生エースの投げ合いにも注目ですね」

1回表 雪0−0赤 準決勝戦スタート!
朝山「くらえ!」

バコッ!
真田「ちょっと痛かったかな」

霞「なんと初球いきなりのデッドボール!」
武藤「いきなりですね」
天野「当たったのは身体のせいかな。ランナーの真田君は全然平気そうですね?」

相川「先輩、平気なんですか?」
真田「ふっ、100キロにも満たない失投当たったところで全然平気だね」
相川「いや、さすがに100キロは出てたと思いますが」
真田「ふっ、そんなささいな事より走るから初球は見逃してね」
相川「分かりました。球威がないから平気なのかな」

真島主将「力み過ぎだ」
朝山「すんません」

相川(この前進守備じゃバントは上手く行きそうもないな)

サッ! カキ―――ン!
朝山「うなっ!?」

霞「おっと構え直して打ったー! ファーストの滝沢君は捕れるか?」

朝山「滝沢、捕ってくれ!」
滝沢「…………ダメか、届かない!」

真田「うっししし、ホームも貰った!」

霞「ランナーの真田君はホームも蹴った!」
武藤「これはさすがに無茶じゃ!」

山田「うらっ!」

ビュ―――ン! パシッ!
真田「くっくっく」

霞「一歩速く真田君がホームに到達します。赤竜高校は1点先制!」
武藤「暴走と思いましたけど凄い足ですね!?」
天野「しかし追い込まれてからバスターエンドランとはさすがは勝負師の中西さんですね!」

真田「くっくっく、これでスカウトにアピールできたわい」
吉田「真田、性格が変わってるぞ!」
中西監督「…………くっ!」
真田「そんな事はどうでもいいよ。ね監督!」
中西監督「サインになく勝手に走ったりと怒りたいが」
福西「いつも走ってますけど?」
中西監督「ま、ホームを狙ったのもセーフだったからいっか」

朝山「ぽけ〜」
真島主将「口に出して言うなよ。それよりランナー2塁で斎藤だ!」
朝山「2塁!?」
真島主将「はあ、山田がホームに投げた時に抜け目なく2塁に行っただろうが!」
朝山「そうだったのか」
真島主将「1年ながら状況判断くらいはできるらしい。盗塁に関しては気にするな。しても俺が刺す! お前はバッターだけに集中しろ!」
朝山「うっす!(っとそうだった。2失点以内に抑えないと!)」

ガキッ!
斎藤「しまった!?」

霞「130キロのストレート(かな?)でしたが打ち損じてファーストゴロに倒れます!」
武藤「ストレートじゃないですね。少し落ちてるしムービングファストかな」
天野「相変わらず球種が多くて打ちにくそうですね」

相良主将「………………」

霞「続く相良君は敬遠です」
武藤「1アウトとは言え1塁は空いてますからね」
天野「しかし次はクセモノの玖珂君ですよ。吉と出るか凶と出るか」

玖珂「………………」
朝山「うっ!? 無言の圧力が!?」

カキ―――ン! パシッ!
滝沢「………………」
相良主将「…………げっ!?」

霞「これはアンラッキー、ファースト正面の弾丸ライナーで飛び出している相良君も当然ベースに戻れず3アウトチェンジ!」
武藤「うーん、確かに会心の当たりでダブルプレイとは不運でしたね」
天野「ここまで考えた訳じゃないでしょうが敬遠策は吉と出ましたね」

朝山「この俺の運を見たか!」
真島主将「実力じゃなく運か、まあ事実だけど」

1回裏 雪0−1赤 真田の快足で赤竜高校が1点先制!
斎藤「馬原さんか―――塁に出すと面倒だし三振に仕留める!」

ズバ―――ン!
馬原「ダメだ。こいつとはどうも相性が悪い」

霞「1回から140キロと今日も球が走ってます!」
武藤「コースも良いですね」
天野「速くてコントロールも良いか、今日の斎藤君を打ち込むのは本当に難しそうですね」

ガキッ!
益井「思ってた以上に変化が大きいな」

霞「追い込んでからカーブを高く打ち上げた!」
武藤「……これはピッチャーフライですね」
天野「緩急もですがああ大きく変化すると芯でとらえるのは難しいでしょうね」

ズバ―――ン!
衛藤「むう!?」
斎藤「よっし!」

霞「最後はインハイのボール球を振らせます!」
武藤「三者凡退―――今日も調子が良さそうですね!」
天野「斎藤君はいつも立ち上がりが良いですね!」

朝山「うーん」
滝沢「まだ1回だ。十分取り返せる!」
朝山「おう!」

2回表 雪0−1赤 三者凡退と今日も斎藤は好調!
嵯峨「ぬぉ―――!」

ガキッ!
住吉「くっ!?」

霞「芯を外しましたが力でショートの頭を越えた!」
武藤「通算1割台の嵯峨君が出ましたか」
天野「パワーは一級品ですね」

朝山「うーん」
真島主将(不運だったな。次は吉田かアウトコース中心で行くぞ)
吉田(強振でスタンドを狙うぞ!)

ククッ!
霞「最後はアウトコースのスライダーを空振り三振!」
武藤「長打狙いが裏目に出ましたかね?」
天野「これは真島君の好リードですね」

安達「大振りし過ぎだな」
吉田「夢よもう一度のホームラン狙いですから」
安達「そうか」
朝山(今度はインからか)

ガキッ!
霞「続く安達君はシュートを打ち上げます!」
武藤「内外と翻弄されてますね」
天野「今日は変化球がキレてますね」

ククッ!
伊沢「ダメだ!?」

霞「最後はカーブを空振り三振! ランナーは出しましたが後続を3人で抑えます!」
武藤「うーん、下位打線が朝山君から打つのは難しそうですね」
天野「そうですね」

2回裏 雪0−1赤 朝山もランナーを出すが無失点に抑える
斎藤「滝沢か」
滝沢「ここから伸びて来る!」

カキ―――ン!
霞「3球目、139キロのストレートをレフト前に打ちます!」
武藤「ノーアウトランナー1塁ですか」
天野「そしてキャプテンの真島君ですね!」

真島主将(うーん、斎藤のリードは読みにくいからな。追い込まれる前にストレートでカウントを取りに来るだろうからそれを狙うか!)

ガキッ!
斎藤「よっと!」

パシッ!
霞「平凡なピッチャーゴロに倒れます!」
武藤「想像以上に伸びて来たって感じでしたね」
天野「ええ」

ククッ!
住吉「げっ!?」

霞「読み違えたか住吉君はスライダーを空振り三振!」
武藤「スライダーが決め球とは予想外でしたね」
天野「しかしミートの上手い住吉君が三振とは珍しい」

斎藤「あっ!?」

スト―――ン!
山田「おっし!」

霞「おっと、最後はフォークがすっぽ抜けてボールでフォアボール!」
武藤「一応落ちてますけどね……リトル以下のフォークでしたけどね」
天野「しかし2アウトですがこれで得点圏にランナーが行きました」

斎藤「おらっ!」

ズバ―――ン!
新井「ぐっ!?」

霞「最後は低めいっぱいに142キロのストレートが決まります!」
武藤「ここで自己最速ですか―――斎藤君もピンチに強いですね!」
天野「まったく」

3回表 雪0−1赤 ランナーを出すが何とか無失点と斎藤は好調

カキ―――ン!
真田「あっははは!」
朝山「ううっ、また打たれた!?」
真島主将「いや、1打席目は死球だろう」

霞「スライダーをセンター前に打ちます。警戒されてますが2盗も易々と決めます!」
武藤「気のせいか今日はスイングが鋭い気がしますね!」
天野「コースがあまかったせいって気もしますが」
武藤「あまいってほどでもなかった様な」

朝山「またこの状況かよ!」
真島主将(斎藤、相良と続くから歩かせる訳にもいかない。ここだ!)
相川(バントしやすいボールが来るといいんだけど)

コツンッ!
霞「送りバント成功、これで1アウトランナー3塁!」
武藤「手堅く来ましたね」
天野「いや、ミートとパワーに長けたバッターが続きますから当然ここはバントですよ!」

斎藤「打つ!」
朝山「くっ、俺よりチビのくせに凄い迫力だ!?」
真島主将(チャンスに強い斎藤か、歩かせて相良と勝負も危険だしどうするかな?)

ガキッ!
霞「これは高く上がったライトフライ、馬原君が捕った!」
武藤「これは犠牲フライになりますかね」
天野「うーむ?」

真田「GO!(タッタッタ!)」
馬原「ぬぉ―――!(ビュ―――ン!)」

パシッ! サッ!
霞「―――アウト! まことにきわどかったですがギリギリアウトです!」
武藤「相良君に引けを取らない強肩ですね!」
天野「浅いフライで快足を見せた真田君も凄いですけどね」

真田「嘘だ!? 嘘だといってくれ―――!?」
真島主将「あんな浅いフライで走るからだ!」
真田(グサッ!)

中西監督「結局3人で終わったか」
玖珂「まあ、こう言う事もありますよ」
中西監督「はあ、仕方ないか」

3回裏 雪0−1赤 朝山は守備に助けられてこの回も無失点に抑える
斎藤「たあっ!」

ズバ―――ン!
朝山「手が出ない!?」

霞「最後は138キロのストレートで見逃しの三振!」
武藤「うーん、相変わらずノビてますね!」
天野「斎藤君のストレートは分かってても打てないボールですからね!」

カキ―――ン!
斎藤「なっ!?」
馬原「我ながらあのカーブを良く打てたな?」

霞「アウトコースのカーブをライト前に打ちます。そして盗塁も決めて1アウトランナー2塁!」
武藤「足は真田君、肩は相良君に匹敵とこの馬原君もドラフト候補ですかね」
天野「基礎能力は高そうですから有り得るでしょうね」

ズバ―――ン!
益井「しまった!?」

霞「最後は高めのボール球を振らせて三振!」
武藤「140キロですか、やっぱりストレートが良いですね」
天野「この益井君はパワーは高いですがチャンスには少し弱い感じがしますね」
霞「データの方もそんな感じですね。得点圏打率は2割そこそこって感じです!」
武藤「感じって?」

斎藤「次!」

ククッ!
衛藤「うっ!?」

霞「最後はカーブを空振り三振!」
武藤「うーん、完全にストレート狙いでしたね」
天野「ええ、タイミングが全然合っていなかったですね」
霞「斎藤君はこの回も無失点に抑えます!」
武藤「好調ですね」
天野「1対0か、試合の行方はまだまだ分かりませんね!」

4回表 雪0−1赤 またランナーを出すが無失点と斎藤は好調

カキ―――ン!
朝山「うっそー!?」

霞「ライトの頭を越えましたが惜しくもスタンドには届かず2塁でストップ!」
武藤「あのシュートを易々と打つ辺りは凄いですね!」
天野「さすがは4番か」

玖珂「続く!」

カキ―――ン!
朝山「またかよ!?」
新井「うりゃっ!」

ザザッ! パシッ!
玖珂「むっ!」
相良主将「ダメだ。どう見ても間に合わん!?」

霞「センター前に落ちるかと思われましたが新井君がジャンピングキャッチ! 3塁を蹴っていた相良君も戻れずに一気に2アウト!」
武藤「前評判より良い守備を見せますね!?」
天野「いえ、センターとショートは守備の名手として前評判が高かったですね!」

スト―――ン!
嵯峨「……無念」

霞「嵯峨君はフォークを空振り三振!」
武藤「ヒット打っても後が続きませんね」
天野「さすが準決勝だけあって実力が拮抗してますね!」

4回裏 雪0−1赤 再び朝山は守備に助けられて何とか無失点に抑える
斎藤(コースは狙わない。全力で行くぞ!)

ズバ―――ン!
滝沢「なっ!?」

霞「最後はインコースへの142キロのストレートで三球三振に抑えます!」
武藤「ストレート3つで三振ですか」
天野「今日の斎藤君は間違いなく好調ですね!」

斎藤(シュッ!)

ズバ―――ン!
真島主将「くっ!?」

霞「真島君も三球三振に仕留めます! これで4連続三振!」
武藤「何かますます手が付けられなくなってる様な?」
天野「うむ!」

斎藤(シュッ!)

ズバ―――ン!
住吉「かすりもしないとは!?」

霞「何と斎藤君、この回を三者三球三振に抑えます!」
武藤「雪影高校でも1、2を争うミートの上手い選手を……凄い!?」
天野「なるほど、これが斎藤君ですか!」

5回表 雪0−1赤 三者三球三振と斎藤は絶好調!

カキ―――ン! パシッ!
吉田「今日、良いところなし」

霞「フォークを芯でとらえますが結果はセンターフライ!」
武藤「打たされたって感じですね」
天野「打たせて捕るタイプですからね。基本的に強打者には強いんでしょう!」

朝山(ちょっと疲れたかな。まだ4回はあるのに)

ガキッ!
安達「うーん」

霞「安達君はシュートを打ち損じてサードゴロに倒れます!」
武藤「流し打ち失敗ですね」
天野「ミートが上手いと聞きましたが甲子園では良いところはありませんね」

朝山(これで決めるか!)

スト―――ン!
伊沢「くっ!?」

霞「伊沢君も三振と朝山君、この回は三者凡退に抑えます!」
武藤「下位打線が相手とは言え調子が良いですね」
天野「そうですね。この調子が続けば良いんですが?」

朝山「ふう」
真島主将(朝山のスタミナも6回までが限界かな?)

5回裏 雪0−1赤 朝山は調子良く三者凡退に抑える
斎藤「うらっ!」

ズバ―――ン!
山田「速くて手が出ない!?」

霞「三球三振とは行きませんでしたが最後は140キロのストレートで空振りの三振に抑えます!」
武藤「しかし雪影高校の打線をこれほどまでに抑えるとは、いやはや、さすがですね!」
天野「……分かってても打てないストレートか」

ガキッ! ポロッ!
嵯峨「またやっちまった」
玖珂「やれやれ」
新井「何とか出塁はできたか」

霞「平凡なサードゴロでしたが嵯峨君のエラーで新井君が塁に出ます!」
武藤「何とか塁に出ましたか」
天野「1アウトランナー1塁、しかし下位打線で斎藤君をとらえるのは難しそうですね」

ガキッ!
朝山「うっ!?」

霞「おっと打ち上げたバント失敗で2アウト、ちなみにこのバント失敗はキャッチャーフライであって三振ではないです!」
武藤「うーん、ハッキリ言って下手ですね」
天野「そんなあっさりと本当の事を言わないで下さいよ」
霞「何気に天野さんも酷いですがこれで2アウトランナー1塁となりました!」
武藤&天野「……………………」

ククッ!
馬原「何っスライダーだと!?」

霞「最後はスライダーで空振り三振に仕留めます! これは完全に裏を掻きました!」
武藤「最初はストレート狙いだったですね。それでカーブに切り替えたけどスライダーだったと、そう言うわけですね」
天野「口調が変だぞ?」
武藤「気にしちゃダメです!」
霞「とにかく、ランナーは1塁残塁で3アウトチェンジです!」

6回表 雪0−1赤 斎藤は5回も無失点に抑える

コツン! パシッ! サッ!
真田「何ですと!?」

霞「真田君、セーフティバントを狙うがファーストの滝沢君がそれを読んでいました。今、タッチして1アウト!」
武藤「滝沢君は守備勘も良いですね」
天野「そうですね。バントの気配を察知するのはなかなかの物です!」

朝山「助かった」

ククッ!
相川「今まで以上の変化!?」

霞「最後は外に逃げるシュートを空振り三振!」
武藤「相川君が得意コースで三振とは珍しいですね」
天野「前の回から変化球のキレが増してますからね。打つのはなかなか難しいですよ!」

カキ―――ン!
朝山「なっ!?」

霞「これは大きな当たりだ。入るか? いや届かない。新井君がジャンピングキャッチ!」
武藤「足も良いですね」

新井「たあっ!」

パシッ! ポロッ!
斎藤(タッタッタ!)

霞「届いたがグラブからボールが落ちる。ランナーの斎藤君は2塁も蹴った! 慌てて新井君が送球するが?」
天野「セーフですね。これで2アウトランナー3塁ですか」
武藤「しかし次の相良君は敬遠でしょうね」

玖珂「……………………」

霞「なんと相良君だけでなく玖珂君も敬遠です。雪影高校、満塁策に出ました!」
武藤「まあ、嵯峨君と勝負の方が有利ですからね。しかし代打の可能性も」
天野「ない見たいですね。中西さんは動いていません」

嵯峨「行くぞ!」

安達「あれで大丈夫なんすか?」
中西監督「あいつの意外性に賭ける!」
伊沢「ま、勝負師の監督がそう言うんなら何も言いませんけど」

朝山「何とか抑えるぞ!」

ズバ―――ン!
嵯峨「………………」
全員「………………………………」
中西監督「ま、こう言う事もある」
全員(こう言う事しかない気がするけど)

霞「2アウト満塁のチャンスでしたが嵯峨君は128キロのストレートを三振!」
武藤「やっぱり代打を出した方が良かったよな」
天野「いまさら言っても仕方ありませんよ」

6回裏 雪0−1赤 満塁のピンチを迎えたが朝山は何とか抑える
斎藤(シュッ!)

ズバ―――ン!
益井「気のせいか回を増す事にノビてないか!?」

霞「まずは益井君をストレートで三振、これで今日は13奪三振です!」
武藤「相変わらず凄いペースですね!?」
天野「アウトはほとんど三振ですか」

斎藤(シュッ!)

ガキッ!
衛藤「狙い通りの球が来たのに!?」

霞「衛藤君はカーブを打ち上げてライトフライに倒れます!」
武藤「ファールゾーンに落ちたところからタイミングは合ってないらしいですね」
天野「こうして見ると斎藤君も安定感がありますね」

滝沢「速いが打つ!」

カキ―――ン!!!
斎藤「………………」

武藤「そりゃ……ここまで自責点0で……来てます……からねって?」
霞「入りました。追い込まれてから142キロのストレートをバックスクリーンに運びます!」
武藤「………………」
天野「無敗神話も終わりですかね」
武藤「……いえ、まだ負けてませんから」
天野「しかしあの速い球を良く打てますね」
武藤「まったく」

斎藤「さすがは滝沢か」
真島主将「後輩には負けられん!」

カキ―――ン! タッ! パシッ!
相良主将「………………」

霞「アウト! ライトの頭を越えるかと思いましたが何とか相良君が追いついた! これで3アウトチェンジです!」
武藤「……なんか様子がおかしくないですか?」
天野「ピクリともしてませんね」

全員「キャプテン!?」

霞「やはりアクシデントの様です。赤竜高校がタイムを取りました!」
武藤「ケガかな?」
天野「まあ、そんなところでしょうね」

中西監督「打撲だな」
相良主将「すみません」
斎藤「キャプテンのファインプレイに文句を言える奴は言えませんよ!」
真田(コクコク!)
中西監督「ま、ランナーが居なかったのは不幸中の幸いかこれじゃ今日はもう無理だな」
相良主将「いえ!」
中西監督「それじゃこれを投げてみろ(ひょい!)」

そう言って中西監督はボールを渡す。
相良主将「(ポロッ!)あっ!?」
中西監督「投げる前にキャッチできないようじゃ話にならん。悪い事は言わん。医務室で休んで来い!」
相良主将「………………」
中西監督「ま、同点にされて得点力が落ちるのは不安だが明日は決勝だ。ここで無理して明日に響いたらどうする?」
相良主将「……分かりました。後は頼む!」
全員「はい!」
中西監督「野々宮、頼むぞ!」
野々宮「はい。ところで相良は明日試合に出れるんですか?」
中西監督「……正直分からん。しかし今は明日より今日の事を考えろ。同点にされて得点力が落ちたんだ。厳しい試合になるぞ!」
真田「前の時は斎藤で今回は相良さんか、雪影高校と試合するとこうなる運命なのかな?」
吉田「それは考え過ぎだろう。しかし4番に野々宮さんが入るのか得点力もだけど打線の繋がりも悪くなるな」
真田「大丈夫だよ。僕は今日当たってるし相川君や斎藤も調子は良いから」
吉田「しかしなさっきから朝山の調子が上がってる気もするし」
相川「こうなった以上、僕達だけで頑張るしかないですよ!」
吉田「……まあな」
真田「つうか次は吉田からだろう。そんな調子で打てるの!」
吉田「(ガーン!?)真田から突っ込まれるとは!?」
相川「そこまでショックを受けないでも」
中西監督「なんだかんだ言って余裕あるな」

7回表 雪1−1赤 滝沢の一振りで雪影高校が同点に追いつく!
霞「試合もいよいよ7回に突入です。先ほどの回で相良君がケガして退場などがありましたが試合はますます盛り上がりを見せます。現在、1対1の同点で赤竜高校は吉田君からの攻撃と下位打線からとなります!」
武藤「下位打線で朝山君から得点は難しそうですね」
天野「………………」

カキ―――ン!
朝山「………………」

霞「なんとここで吉田君がレフトスタンドに叩き込みます!」
武藤「確かにいきなりでしたね。120キロに満たないストレートと思いっきり棒球でしたね?」
天野「やっぱり、さっきの回からそんな感じはしてたんですがスタミナ切れですね」
武藤「なんと全然気付かなかった!?」

吉田「ふっふっふ起死回生の一発だぜ!」
真田「さすがは吉田、僕は信じてたよ!」
吉田「無茶苦茶嘘くさいが気分が良いのでここは突っ込むのはやめてやろう!」

白銀監督「………………」

霞「ここで白銀監督がタイムを取りました。朝山君が交代の様ですね。ピッチャーは1年生の後藤君に代わります!」
武藤「前の試合では速い球を投げてましたがコントロールに難有りって感じでしたね」
天野「まあ長打力の低い選手が続きますし力押しでも運が良ければ上手く行くんじゃないでしょうか、何より朝山君の後だとストレートもより速く見えるでしょうしね」

真島主将(力一杯投げる事だけを考えろ!)
後藤(はい!)

ズバ―――ン!
霞「変化球でカウントを稼いで最後は137キロのストレートで空振り三振!」
武藤「変化球から入って来るのは予想外みたいでしたね。安達君、完全にタイミングが合っていませんでしたから」
天野「真島君の打者心理を読んだリードは相変わらず見事ですね」

安達「やっぱり速さがやっかいだな。それと変化球はショボイがストレートを混ぜられるとやっかいだぞ」
伊沢(それなら変化球にやまを張るか!)
後藤「行くぞ!」

ズバ―――ン!
伊沢「………………」

霞「伊沢君はストレート3つで三球三振!」
武藤「天野さんの言う通り真島君のリードが冴えてますね」
天野「ええ。相手の読みを外すリードはドラゴンズの星野を連想させますね」
武藤「球界でもトップクラスのキャッチャーとは!?」
天野「多分、星野が高校の時より上じゃないかな」
武藤「そこまで!?」
天野「いや、星野って甲子園には出なかったから全国では無名でしたでしょう。プロのスカウトは注目してたけど」
武藤「そう言えば星野って赤竜高校の出身でしたね。新人王も獲ったっけ?」
天野「いや、確かタイガースの天道が新人王だった気がする」
武藤「うーん、星野の新人の頃って何があったっけ?」
霞「セリーグは大学即戦力の天道さんや樋川さんや星野さんが活躍しましたね。パリーグは御影さん一色でしたけど」
武藤「御影の年か、8球団競合で1位指名されて実力通りつうか以上で投手タイトルを総なめにしたんだよな。凄え新人が現れたもんだって感心したな」
天野「まあ、私も現役最後の年だったんで良く覚えてますよ!」
武藤「つうかあの御影から一番打ったのって確か天野さんだった様な」
天野「ええ。力押しで来るタイプだったんで割とカモにしてましたね」
武藤「ルーキー時代が全盛期って感じで凄かったんですけど、天野さん、やっぱり引退には早かったんじゃ?」
天野「もう50近い老人に言うセリフじゃないな」

ガキッ!
真田「こう言う速くてコントロールの悪いタイプは苦手だよ!」

霞「雑談している間に真田君はセカンドゴロに倒れ3アウトチェンジ!」
武藤「あっ、観てなかった!?」
天野「最後は139キロを計測ですがこのままだともっと打ちにくいピッチャーになりそうですね!」

7回裏 雪1−2赤 同点に追いつかれたが吉田の一振りで再び引き離す!
斎藤(もう1点も渡さない!)

ガキッ! パシッ! シュッ!
住吉「信じられねえ。またノビとキレが増しやがった!?」

霞「住吉君はショートゴロに倒れます!」
武藤「本当に調子が良いですね。これじゃ斎藤君を打てるのは滝沢君と真島君くらいですよ!」
天野「確かに、1点が遠いって感じですね」

スト―――ン!
山田「ちくしょう!」

霞「山田君はフォークを空振り三振、これで14奪三振です!」
武藤「これは記録が出るかも?」
天野「追い込んでからコースも抜群なところに行きますね!」

ズバ―――ン!
新井「くそっ!」

霞「何とか塁に出ようと頑張りましたが追い込まれてからは手が出ず見逃しの三振!」
武藤「これは決まりましたかね?」
天野「いや、9回には確実にクリーンナップまで回る」
霞「勝負は9回ですか?」
天野「ええ。もっとも雪影高校はこれ以上の失点は命取りですから8、9回は無失点、いや最低でも1失点に抑えないとダメですね!」
霞&武藤「なるほど〜!!」

斎藤「残り2回か」

8回表 雪1−2赤 斎藤は相変わらず好調、三者凡退に抑える

ズバ―――ン!
後藤「うーん」相川「…………」

霞「この回、ストライクに入らず先頭の相川君にフォアボールを出します!」
武藤「剛速球投手らしくコントロールは悪いですね」
天野「まだ1年生ですからね」

カキ―――ン! パシッ!
斎藤「真正面か」

霞「期待の斎藤君でしたがセンターフライに倒れます!」
武藤「斎藤君ってコントロールの悪いタイプが苦手なんですかね?」
天野「河島君とは相性が悪そうでしたが後藤君の場合はまだ球に慣れてないだけでしょう!」

後藤「ようやくアウト1つか」
真島主将(斎藤から取れたのは良かった。次は送りバントだろうから玖珂で勝負だな!)
後藤(分かってるのに送らせるんですか?)
真島主将(ああ。下手に1点にこだわるよりお前の勝負強さに賭ける!)
後藤(はい!)

コツンッ!
野々宮「あっさり成功したな?」

霞「送りバント成功で2アウトランナー2塁となりました!」
武藤「うーん、簡単に成功しましたね」
天野「と言うよりさせたって感じでしたね。真島君らしく1点にこだわらずにアウトカウントを稼ぐ方を選びましたか」
霞&武藤「はあ〜なるほど」
武藤「しかし次は玖珂君ですよ。後藤君に抑えられるんですか?」
天野「歩かすって事もできますが、まあ勝負でしょうね」

玖珂「ふむ。勝負か」
真島主将「お前を過小評価している訳じゃないが、次の嵯峨に代打を出される方が不安だからな」
玖珂「データのない奴よりある奴の方がやりやすいって訳か」
真島主将「そう言う事だ!」
玖珂「ふん!(それが過小評価だってんだよ!)」

カキ―――ン!
住吉「くっ、届け!」

パシッ!

霞「捕った。三遊間を抜けるかと思いましたがここで住吉君のファインプレイが出ました!」
武藤「この場面でファインプレイですか―――さすがは雪影高校ですね!」
天野「今日の玖珂君はツイてないですね。芯でとらえてもことごとくファインプレイで抑えられてます!」

玖珂「ちっ!」

白銀監督「何とか無失点に抑えたか」
真島主将「ええ、次は得点しないと」
白銀監督「後藤は代えられないからな。馬原と益井か」
真島主将「繋がれば逆転も可能ですが」
白銀監督「難しいだろうな。やはり要は9回か」
滝沢「そんな事言わずに期待しましょうよ」
白銀監督&真島主将「そうだな」

8回裏 雪1−2赤 四球を出すがホームには返さずと後藤が力投を見せる
斎藤(シュッ!)

ズバ―――ン!
後藤「はあ、バッティングは苦手なんだよな」

霞「最後は138キロのストレートで後藤君を三振に抑えます!」
武藤「後藤君はバッティングが得意ではないようですね」
天野「確かに選球眼も悪そうですし、ああ、大振りだとね」

ガキッ!
馬原「ダメか!」

霞「これは高く上がった伊沢君が捕って2アウト!」
武藤「珍しくボール球に手を出しましたね」
天野「馬原君にはコントロールが安定していませんでしたがそれが好結果になりましたか」

ガキッ!
益井「このスライダーはめっちゃむかつく!」

霞「インコースのスライダーを打ち上げて3アウトチェンジ!」
武藤「あっさり三者凡退か、これを観るともう赤竜高校の勝ちって感じだな」
天野「一応9回はクリーンナップですからまだ分かりませんよ!」

中西監督「ダメ押しにもう1点は欲しいが」
嵯峨「任せて下さい!」
中西監督「満塁で三振した奴が言ってもな」
嵯峨「と言う事は俺は交代ですか?」
中西監督「いや、ランナーが居ない時のお前には期待している。ラッキーヒットでも良いから何とか出てくれ!」
嵯峨「ちょっと引っかかりますが任せて下さい!」

9回表 雪1−2赤 斎藤は相変わらず好調、三者凡退に抑える
後藤「うらっ!」

ガキッ!
真島主将「よっと!」

パシッ!
霞「ファールになるかと思いましたが真島君がキャッチして1アウト!」
武藤「しかしずい分高く上がりましたね」
天野「パワーは一級品、しかし後ろに飛ばしたらエラーでもヒットにはならないですね!」

中西監督「せめて前に飛ばそうな!」
嵯峨「ごめんなさい」

霞「しかし続くバッターは先ほど貴重な1点を取った吉田君です!」
武藤「7番つう事で過小評価だったんですけど、こうやって観ると良いバッターですね!」
天野「確かに秋からはクリーンナップを打つバッターになりそうですね!」

後藤「うらっ!」

ズバ―――ン!
吉田「変化球に慣れてたらこれは打てん!?」

霞「あっさりと三球三振です!」
武藤「さっきの言葉を前言撤回したくなるダメダメさでしたね」
天野「うーん?」

カキ―――ン!
安達「ようやく打てたか」
後藤「うらっ!」

ククッ!
伊沢「うっ!?」

霞「安達君がヒットを打ちましたが続く伊沢君はシンカーを空振り三振!」
武藤「タイミングが全然合っていませんね」
天野「1点差か、裏で同点にできますかね?」

9回裏 雪1−2赤 ホームには返さずと後藤が力投を見せる
霞「試合もいよいよ9回裏、長かった試合もいよいよ決着がつきそうです!」
武藤「長いってほどでもないですが?」
天野「とにかく、このまま斎藤君が抑えて終わるのか、それとも雪影高校の反撃が始まるのかですね」

斎藤「残り3人!」

ズバ―――ン!
衛藤「………………」

霞「最後はやはりストレートで決めます!」
武藤「相変わらずノビてますね!」
天野「141キロか、全然スタミナは落ちませんね」

滝沢(決め球はストレートで来る!)

ズバ―――ン!
霞「これで2−2と斎藤君が追い込みます!」
武藤「うーん、さっきは見逃しましたがここから滝沢君が打ったんですよね」
天野「カウントは2−1でしたけどね。同じボールじゃ通用しないんじゃないですかね」

斎藤(シュッ!)

ズバ―――ン!
滝沢「―――これが斎藤の底力か!?」

霞「最後は143キロのストレートでねじ伏せました!」
武藤「9回裏で自己最速更新ですか!?」
天野「追い込まれれば追い込まれるほど強くなるタイプなんですね!」

ガキッ!
真島主将「―――終わったか」

霞「最後は143キロのストレート、何とか当てましたが結果はライトフライ!」
武藤「真島君もよく当てましたが結果はレフトフライでしたか」
天野「最後は滝沢君以上のミートの上手さを見せましたけどね!」

相良主将「見事だったぞ!」
斎藤「キャプテン!? そうだケガは?」
相良主将「ただの打撲、明日は試合に出て良いってさ」
真田「これで万全ですね。相手は斉天か無明か」
全員「キャプテンが万全なら何処でも来いだ!」
中西監督「ひそひそ(本当に大丈夫なのか?)」
相良主将「ひそひそ(軽い痛み止めをもらいましたし、いたって軽傷ですから問題ないです!)」
中西監督「ほっ、そうか」

白銀監督「1点届かなかったか」
真島主将「実力もですが何より最後は気力で負けましたね」
滝沢「そうですね。斎藤の決勝へのこだわりは俺達の比じゃない感じです!」
全員「何かバッティングの良いチームなのに全然活躍できないし無茶苦茶悔いに残る!」
白銀監督「相手ピッチャーがそれだけ良かったからな。ま、気にするなとは言わないが」
新井「言わないんすか」
白銀監督「ああ。それよりついでに残りの試合全部観てから帰るぞ!」
全員「うっす!」

こうして1つの戦いは終わった。斎藤は決勝に進出したが風祭との会合はあるのか、もう1つの戦いが始まる。