第31章 一縷の望みに賭けて(前編)

−1995年 10月 中旬−
赤竜高校はついにライバルの斉天大附属に勝って地方大会を優勝した。しかし今日はいよいよ柚の参加を賭けた試合が始まるのだった。
中西監督「ついにベイスターズ戦だ。何が何でも勝つつもりで行け!」
全員「うっす!」

赤竜高校の野球部員は少し早く横浜スタジアムに到着した。後は向こうが来れば試合が始まるだけだ。
真田「ついに『エアナックル』の出番だね!」
柚(コクッ!)

柚の新球はエアナックルと名付けられた。空力をプラスしナックルを更に速くさせたのでそう名付けられたらしい。通常のナックルとは違い縦変化より横変化に大きくなっている為、カーブやシンカーの高速タイプと考えた方が良い。初めて見る打者はまず打てないだろう。
吉田(問題は俺なんだよな。前以上に変化する分捕るのが難しい。何とか後逸だけはしない様にしないと!)
真田「吉田?」
吉田「ああ、頑張って点差を抑えるリードをしないとな!」
真田「そうそう。尊敬する及川さん達が相手だけど、今日だけは勝ちを譲れないね」
斎藤主将「今日じゃなかったら勝ちを譲るつもりなのか?」
真田「そうそうじゃなくて嫌だな。さすがの僕も負けるのはゴメンだよ!」
斎藤主将「なら良いが」
木下「そんな事より俺はベンチですか?」
中西監督「うむ。斎藤をレフトにいれるからな。柚が降りる時には柚と交代させるつもりだが」
福西「逃げ切るんならもっと守備の上手い奴を入れた方が」
中西監督「いるのか?」
ベンチ「すみません。ヘボばっかりで」
中西監督「そこまで言ってないが」
木下「ま、出番があるなら良い事だ」
篠原「ほう。相手がプロでどれだけ持つかな」
木下「ふふふ、プロ相手に試合をした事で俺の評価はいっきに上がるはずだぜ!」
真田「なるほど、そう言う考え方もできるのかプロの一流投手相手に打てば絶対スカウト評価は上がる。守備でも見せれば向こうの監督からぜひ指名するので来て欲しいなんて言われたりして」
福西「ぐふふふ、師匠、何処までもついて行きます!」
斎藤主将「あれ放って置いて良いんですか?」
中西監督「ま、夢を見るのは自由だからな。元々油断はあるだろうがあれを観てもっと相手が油断するかも知れないし」
全員「なるほど」
中西監督「あっちは高岡で来るらしい。四死球の多いタイプだし立ち上がりは見て行けそれと弱い相手には抜くクセがあるから下位打線も甘い球が来たらどんどん打って行け!」
全員「話を聞いてたらエースとは思えないぐらい欠点が多そうですね?」
中西監督「だから防御率はリーグ5位なんだよ!」
全員「今ので凄く納得できました!」
中西監督「ま、スタミナや球速や変化球は一級品だ。それにシュートは『ヘルシュート』と言って凄く危険だ。右バッターは死ぬ気で避けろ!」
右打者「実際、あの人、あの危険球で退場食らってるからな。確かヘルシュートって140キロ以上の球速が出るんですよね」
中西監督「うむ。それと高岡は左に強いので左バッターも相当手こずるだろうが打てないほどではないはずだ。少なくとも変化のキレは佐伯とそう変わらん!」
全員「と言っても佐伯さんから打てたのは相川に吉田さんにキャプテンか」
中西監督「うむ。それとキャッチャーのスローイングはそこそこなんでランナーは積極的に走れ!」
全員「うーん、四死球が多いから失点も多いし隙は多そうだな」
中西監督「来たか」
全員「凄え1軍で活躍してる人ばっかりだ」

中西監督が攻略法を話し終えるとちょうど横浜ベイスターズの選手が入って来た。
山崎監督「テレビでお顔を拝見した事はありますが初めまして監督の山崎信吾( やまさきしんご )です。今日はよろしくお願いします!」
中西監督「こちらこそプロの監督と会える事を光栄に思います。中西啓示です。今日はよろしくお願いします!」
全員(うわっ、本当に本物だ!?)
山崎監督「高校生相手に大人げないと思いますが約束なのでベストメンバーで立ち向かわせてもらいます!」
中西監督「いえいえ、立ち向かうのはこっちの方ですから」
山崎監督「そうでしたね恥ずかしながら今シーズンは散々だったものでつい!」
真田「本当にベイスターズファンとしては悲しい限りのシーズンだったな」
全員「申し訳ありません」
真田「いえいえ打線は好調だったんで野手の人達は許しましょう!」
投手陣「ごめんなさい」
大下「お前は何様だよ」
真田「おう。貴方は大下さん満漢全席期待しております!」
大下「待て今年の俺の成績じゃタイトルなんて獲れないぞ!」
真田「年俸UPは確実と言う訳で何かおごって下さい」
及川「なかなか面白そうな。後輩だな」
大下「ええ、貴方にそっくりでね」
真田「おおう。貴方は及川さん、僕、ファンなので樋川さんと一緒にサイン下さい!」
及川「ふふふ、君とは他人に思えないし良かろう。と言う訳で樋川さんも一緒にサインね」
樋川「ま、別に良いけど」
大下「ああ、やっぱり俺は眼中にないのね」
中西監督「こらこら、雑談は後だ。試合するぞ!」
全員&大下「はい!」
大下「しまった。つい高校時代を思い出して」
山崎監督「ま、1年前は高校生だった訳だからな。だからって後輩に手加減なんかするなよ!」
大下「ちょっと複雑ですね」
山崎監督「こっちも上から散々言われてるんだよ。高校生に負けたら恥以外の何物でもないから絶対勝てってな。特に先発の高岡は手加減なんかしたら即2軍に叩き出すからな!」
高岡「うっす!」
全員(こりゃ手加減なんかしてくれそうもないなま、ここまで来たんだ。後はやるだけだ!)
柚「………………」
望月「うーむ?」
小山「噂の女性選手かプロや大学では可能なのに高校生だと出場できないとは残念だな。俺もルールは守る事が大切だと思っているが女性だけで資格はないと言うのは納得できんな」
望月「いえ、そうじゃなくてちょっと子供過ぎて好みじゃないなと」
小山「マジメな顔して考えてる事はそれか、それよりお前は今年の成績を振り返れ!」
望月「全然活躍できなくてすみませんでした」
小山「全然ってほどでもないが」

−特別試合 横浜スタジアム−
2年 真田 和希
後攻 先攻
赤竜高校 横浜ベイスターズ
投手力 機動力 投手力 機動力
打撃力 守備力 VS 打撃力 守備力
意外性 経験値 意外性 経験値
総合力 総合力
及川 慧 9年
1年 相川 正人 大下 真二 1年
2年 吉田 毅 服部 雄太 8年
2年 斎藤 一 ジャクソン 3年
1年 篠原 直道 小山 力 15年
1年 福西 克明 望月 藤吉 2年
1年 山口 昇平 深町 意次 3年
1年 根本 昌弘 河村 信之介 17年
1年 風祭 柚 高岡 賢次 5年

放送席
霞「球史を変える試合になるのか赤竜高校VS横浜ベイスターズの試合をお送りします。解説は武藤さんに続いてもう1人なんと伝説の水原虎生さんに来てもらいました!」
武藤「まあ、色々と凄いですけど放送するんですね」
霞「ええ、テレビの前の中西監督のセリフに全国に凄い反響を呼びましたからそれで試合が決まり視聴率のチャンスと言う訳で私達に話が来た訳です。全国中継なので解説にはタイガースの監督だった水原さんをお呼びしました。いやーお爺さんの割りに若作りですね」
武藤「伝説の人に向かってなんつうセリフを!?」
水原「まあ、別に構いませんよ。後輩の山岡君に監督業を託して暇してたしそれにフランクな方が話しやすいですからね」
霞「本当に話せますね。世紀の大決戦をお伝えします!」
武藤「何か話が大きくなってるような?」
水原「と言うか先発の女の子の紹介とかしないんですか?」
霞「名前とプロフィールくらいしか紹介できないので」
武藤「選手としては謎なのか?」
霞「ちなみにスタンドはゼロなので観客はいないと変な放送になりますがご了承下さい」
武藤「確かに変な放送になりそうですね」

1回表 赤0−0横 いよいよ柚が登板開始!
柚(プロが相手、無失点で抑えるのは不可能、ならいつも通り投げるだけ!)
及川(うーむ。まずは見て行くか)

クルッ!
霞「空振り三振! 最後はナックルでしょうか?」
武藤「ええ、握りはナックルですね。ただ通常のナックルとはかなり違う変化ですね」
水原「それに速度もありますね。握りは一緒でも変化は違うし、うーん、どう言うふうに投げてるんでしょうかね?」

吉田(まずは1人、この調子で行こう!)
柚(コクッ!)

大下「ナックルですか?」
及川「ああ、落ちると言うより高速で斜めに曲がるって感じだな。変化の仕方が独特なんで打つより当てる事を考えた方が良いな」
大下「つうか俺、ナックルって見た事がないんですけど?」
及川「プロでもあんまり投げるピッチャーはいないからな。とにかく見て行って来い」
大下「了解」
柚(シュッ!)

ガキッ!
大下「あれ?」

霞「大下選手はナックルを打ち上げライトフライ!」
武藤「軽く当てた割にはずい分飛びましたね。球威はないのかな?」
水原「その様ですね。しかしここまでナックルしか投げていないのが気になりますね。ストレートに欠陥でもあるのか? それともナックルに自信があるのか?」
霞「とにかくこれで2アウト!」
武藤「初回とは言え通用してますね。このまま行きますかね?」
水原「うーん、4番のジャクソンに通用すればこのまま行きそうですね。しかし相手はプロですし意地でも2打席目には合わせて来るかな」

服部「球威はないか」
大下「ええ、普通より速度がある分飛びやすい見たいですね。当てるだけでも外野までは行きます!」
服部「なるほど、それなら非力の俺でも長打は打てるか、しかし当てるのは困難じゃないのか?」
大下「問題はそれですね。しかしチーム打率2位の服部さんなら1打席で打てますよ!」
服部「うーん、ま、やるだけやって見るか」

ズバ―――ン!
霞「初球ストレートを見せました。130キロを計測、服部選手は見送り1ストライク!」
武藤「女性、しかも1年で130キロですか素質はある感じですね」
水原「コントロールも悪くはない様ですね」

服部(130キロ? 手元でかなりノビてるのか、このストレート何処かで見たな…………って噂のジャイロボールだ!? こんなボールも持ってるのか……落ち着け、このボールなら慣れてるはずだ。実際130キロそこそここれなら打てる!)

クルッ!
霞「やはりラストはナックルで空振り三振! これは意外か! 初回を三者凡退とプロ相手でも通用しております!」
武藤「と言ってもまだ1回ですからね。けど、観た所良いボールを投げてますね!」
水原「それについては同感ですね。1年生でこれなら高校野球でやって行けると思いますよ!」

ジャクソン「ジャイロボール」
服部「驚かんのか?」
ジャクソン「いえ、なかなかやっかいそうなピッチャーとは思いましたが見た所球速がある訳じゃないし問題はなさそうだなと」
服部「さすがは今年もベストナイン獲得は間違いないだろうなのトニーだな」
ジャクソン「タイトルには届かなかったですけどね。それに出来ればメジャーに復帰したい気もしますし」
服部「曖昧だな」
ジャクソン「向こうに戻ったら年俸はダウンですし金の事考えたらこっちで頑張りたいって思うんですよ。それにこっちのボスにもお世話になっていますから」
服部「それって優勝するまでは戻れないって事か?」
ジャクソン「ええ、チームを優勝させるまでは居ますよ。優勝した後はメジャーでもう1回頑張りたいなと思います!」
服部「ま、お前は俺より年下だしな。まだ若いから問題なしだ!」
ジャクソン「だと良いんですけどね」

真田「まずは三者凡退おめでとう!」
吉田「1巡目だからな。プロと言え初めて見る変化球にはなかなか対応は難しいだろう」
柚「上手く行けば1巡目は抑えられる。2巡目になれば高校生レベルなら打つ! それがプロだ!」
真田&吉田「え?」
柚「とバカ兄貴に言われた」
吉田「なるほど」
柚「だから打たれても動じるな。打たれない方がおかしいんだって」
真田「本当に斎藤みたいだね」
吉田「ああ」
柚「元々打たれて当たり前の試合、だったらいつも通り投げるだけ!」
吉田「分かった。俺も全力で捕る事だけを考える!」
真田「それじゃ僕もセンターに来たらどんな当たりでもアウトにして見せるよ!」
中西監督「その前にお前の打席からだろう」
真田「そうでした」

1回裏 赤0−0横 柚は三者凡退と初回は難なく抑えた
高岡「全力で行くぜ!」
河村(四死球には注意しろよ)

ズバ―――ン!
霞「最後は150キロのストレートで空振り三振!」
武藤「うーん、このピッチャーから得点するのは厳しいですね」
水原「そうでもないぞ」
霞&武藤「え?」
水原「今年の高岡も防御率は悪い。その理由は初回での四死球の多さや失投の多さだ」
武藤「そう言えば高岡って立ち上がりは悪い事で有名だったな」
水原「ああ、それに点差がある時は手を抜くクセがあるからな」
霞「聞いてると欠点のかたまりみたいですが良くプロでやって行けますね」
水原「素質、ボールは一級品だったんだがな。こうやって観ると新人時代が一番凄かったな」
武藤「ああ、いますよね。新人王獲ってそれから伸びない選手っての」
水原「後、素質はあるのにケガに悩まされて引退したり、能力はあるのに成績に反映されないってのもな。こう言うのはどうかと思うが『運』ってのも大事な物なんだよな」
霞「(ジ〜〜〜!)なるほど!」
武藤「人の顔見て盛大に頷かないで下さい」

真田「泣けて来る速さだよ」
河村「まあ、150キロだからな。高校生には打てなくても仕方ないだろう」
真田「そう言われてもプロを目指してる僕としてははいそうですかと言う訳にはいかないんですよ」
河村(そりゃそうだな。向こうも全力で来てるんだ。こっちも全力でやらなきゃ失礼って物か)
真田「と言う訳でピッチャーに手加減してくれる様指示してくれませんか」
河村「……………………」
高岡「次だ。次とっとと構えろ!」
河村「って俺年上なんだけどな」
高岡「実力社会だ。とっとと構えんかい!」
全員(後でボコろう!)

この瞬間、別の意味でチームは一つになった。

ガキッ!
霞「7球目もファール! なかなか三振が奪えませんね」
武藤「と言うか140キロ後半のストレートやヘルシュートをファールするなんて秋よりまたミートが上手くなってる様な」
水原「1年生とは思えないバットコントロールですね。タイプ的には鎖是に似てるか良いバッターだな。うーむ、ドラフトにかかる3年にはどんな選手になるのか」
武藤「今は解説でしょう」
水原「っとそうだったな」

高岡「しつこいってんだよ!」

ズバ―――ン!
相川(佐伯さんよりコントロールが悪い分ファールするのは難しくなかったな。後は吉田さんや斎藤さんに……任せる前に走らないとな!)

霞「結局ハズレてフォアボール!」
武藤「やっぱり立ち上がりにはランナーを出しますね」
水原「高校生相手に情けないと言いたいですがこの相川君は別ですね。3年後にはドラフトにかかってもおかしくない良いバッターです!」

相川は盗塁を決めて1アウトランナー2塁でバッターは吉田となる。
吉田「落ち着け、ランナーは2塁だ。ダブられる心配はないし落ち着いて行こう!」
高岡「ホームには返さん!」

ガキッ!
霞「打ち上げたがこれはライトフライ! ランナーの相川君はタッチアップで3塁へ!」
武藤「進塁打にはなりましたね。次は斎藤君か高校野球なら歩かせる場面ですが」
水原「ま、監督にしろ選手にしろアマチュア相手に逃げて勝つなんてできない性格ですからね。ここは勝負でしょうね!」

斎藤主将(こんな形でプロ野球選手と対決するとはな。2アウトだがランナーは3塁! ここはコンパクトにヒット狙いだ!)
高岡「返さん!」

ククッ!
斎藤主将(大したもんだよ。佐伯、お前の方が上だ!)

カキ―――ン!
高岡「なっ!?」

霞「ライト前に落ちた! しかしライトは強肩の深町選手だ!」

深町(パシッ! シュッ!)

ビュ―――ン!
相川(とにかく1点を取らないと!)

霞「―――セーフ! 判定はセーフで赤竜高校が1点先制しました!」
武藤「むう、ホームよりファーストに送球した方がまだアウトの可能性が高かったかな?」
水原「そう言う考え方もできますが、ま、結果は戻せないしこの1点は仕方ありませんね。エラーとか失投でなく文句なしの1点の取り方でした! 欠点の多い高岡からとは言え良く取りましたよ!」

ガキッ!
篠原「やっぱり速度に合わせるのが難しいな」
高岡「ふう」

霞「続く篠原君は147キロのストレートを打ち上げ3アウトチェンジです! しかし赤竜高校はプロから1点を先制とやっぱり凄いんですよね」
武藤「そりゃね。高岡は3点台後半の防御率だけど、大したもんですよ」
水原「そうですね。斎藤君は噂通りバッティングも良いですね。うちは3割打てるバッターが少ないんでバッターとしてとりたいですね」
武藤「って水原さんは監督辞めたんでしょう!」
水原「おう、そうだったな」

真田「くっくっく、ついに1点取りましたよ!」
斎藤主将「ついってもまだ1回だぞ?」
柚「だけど、勝ち越したのは大きい。出来ればこのまま行きたい!」
斎藤主将「そうだな(問題は次のシャクソンさんだ。あの人を抑えられるかどうかがこの試合の勝敗に関わりそうだ)」
吉田(うーん、このまま行くと良いんだけどな)
中西監督(まずはこっちが先制か―――今の所は順調だな。後は風祭の力を信じるだけか)

高岡「この俺が高校生に点を取られた!?」
山崎監督「だからあまく見るなと言ったんだ。まあ、この1失点は仕方ない。ジャクソン!」
ジャクソン「服部さんから聞きましたがジャイロボールにナックルと、とにかく変わったボールを持ってるらしいですね」
大下「斎藤に続いて2人目かよ。と言う事はストレートもノビてんだよな」
及川「うちでジャイロボーラーはいませんね」
山崎監督「他球団と言うかセリーグでは生井、紅月、伴だな」
望月「つまり体感速度のあるストレートを投げるタイプか苦手なんだよな」
山崎監督「今シーズンそう言って打てなかったんだ。ここで打てなきゃ来年は2軍からを覚悟しとけよ!」
望月「げっ!? ま、何とか頑張って見ます!」
及川「ま、打率.220には期待できんわな」
望月「酷い」
服部「まあまあ、球速は生井以下だし打てなくもないと思うよ」
樋川「三振したバッターとも思えんが」
服部「あれはナックルに加えあんなストレートもあるからちょっと驚いて三振しただけだって」
山崎監督「ナックルの方がやっかいだな。握りはナックルでも変化は違うし見た事もない球を1試合で合わすのは大変だ」
ジャクソン「球威はなさそうだし球種も少ない。狙い球をしぼれば打てなくもなさそうですね」
山崎監督「うむ。それにストレートはボールでも積極的に振って行った方が良いな」
ジャクソン「ええ、とにかくどれほどか見て来ます!」

2回表 赤1−0横 斎藤のタイムリーで赤竜高校が1点を先制した

カキ―――ン!
全員「……………………」

霞「ライトスタンド一直線! 追い込まれたかと思いましたがホームランとプロの凄さを見せます!」
武藤「長身のセカンドってのも珍しいんですがこのバッティングに加え守備も上手いんですよね。いずれは首位打者か打点王のタイトルを獲得しそうだな」
水原「うちにもこう言うバッターがいれば良かったのに」
武藤「助っ人のブライアンはホームランのタイトルを獲ったじゃないですか?」
水原「まあな。本数と打点はブライアンの方が上だったけど」

小山「簡単に打てたな?」
ジャクソン「服部さんの言う通り球威が致命的に低いですね。ミートに徹すれば自然とスタンドまで届きます!」
小山「そうか―――ミートに集中と!」

柚「やっぱりそうそう上手くは行かないか」
吉田「まあ、打たれて元々、最悪ジャクソンさんは敬遠すれば良いし(つうかさすがは4番、高校生とは比較にもならないスイングスピードだ。あれがプロの一流選手か!?)」
柚「逃げて得る物はないと思う。敬遠はなしのリードで行く!」
吉田「OK」

ガキッ!
小山「ダメだ。タイミングが合わん」

霞「小山選手は打ち上げピッチャーフライ!」
武藤「小山って移籍してから調子が悪いですね」
水原「そうですね。元々無茶苦茶なフォームで打つからスランプになりやすい奴だと思ったんですが」
霞「スランプなんですかね?」
武藤「うーん、今年もいまいちな成績とは言え得点圏では3割以上打ってて打点もまずまずだしスランプってほどじゃないと思いますよ」
水原「そうですね。ムラの激しい奴だから良い時は良いし悪い時は悪いって感じですからね。評価はちょっと難しいですね」

柚(シュッ!)

ブ―――ン!
望月「ちくしょう!」

霞「望月選手はエアナックルを空振り三振!」
武藤「まあ一発狙いのブンブン丸だからな。ってエアナックル?」
霞「先程の回で情報が来たんですが風祭さんのナックルはエアナックルと言い高速のナックルと言った感じらしいです。通常のナックルと違い落ちるのではなく曲がる変化らしいです!」
水原「ふむ。手首に負担がかかる投法なのかも知れませんね」
武藤「ああ、三沢のエアカッターもそうでしたね」
水原「ええ、あれ多投すると負担が大きいんで三沢がクローザーやってる理由がそれなんですよね」
霞「先発向きではないって事でしょうか?」
水原「一概にそうとは言えませんね。先天性的に身体の柔らかさ特に肘と手首が柔らかくなければ多投はできないって話ですから彼女、相当身体が柔らかいのかな?」
武藤「かも知れませんね。まったく持ってケガに泣く選手には羨ましい体質ですね酢って飲むと身体が柔らかくなるって聞きましたがあれって迷信なんですよね。何で俺、嫌いな酢の物あんなに食べてたんだろう?」
水原「まあ、それは置いといて次は規定打席に到達していないとは言え3割打った深町からですね」
霞「うーん、それでは深町選手の打席は」

柚(シュッ!)

ガキッ!
深町「うーん、振り遅れるな」

霞「結果はストレートを打ち上げレフトフライで3アウトチェンジ!」
武藤「地方球場なら入ってたな。ストレートもあそこまで飛ぶとはやっぱり致命的に球威がないな」
水原「球速は131キロか、やはり女子で1年生でこれなら速いですね。将来的には140キロは越えそうですね」
武藤「やっぱり素質のある子はいるもんですね。今が最高潮の赤竜高校ならもしかしたらドラフトにもかかるかも」

斎藤主将「この1点は仕方ないな。後続は3人と良く抑えた」
柚(とにかく飛ばすだけ飛ばして行く!)
吉田「ムダ球を投げないリードで行ってるけど打者1巡は抑えれても2巡目は難しそうだな」
斎藤主将「ミートが得意なバッターが多いからな。だがナックルカウンターより変化が大きい分打つのも時間がかかるだろう」
吉田「けどプロはプロ、どうもこのまま行くとは思えないんだよな」
斎藤主将「まあな。しかし俺達に出来る事は点を取れる時に取る。それだけだ!」
吉田「そうだな。攻撃だ切り替えなきゃな!」

2回裏 赤1−1横 ジャクソンの一発で同点となる
霞「この回、コントロールが安定せず福西君を歩かせて迎えるバッターは山口君!」
武藤「噂通り四死球の多いピッチャーですね」
水原「しかし得点圏にランナーがいる時は良いピッチングをしますよ。と言ってもランナーは1塁で得点圏ではないですけど」

高岡「まあホームに返さなきゃ良い事だ!」

ズバ―――ン!
山口「速すぎる!?」

霞「149キロのストレートを見逃し三振!」
武藤「ま、1年生に打てる球速じゃありませんね」
水原「今度は三球三振か、やっぱり良く分からんピッチャーだな?」

高岡「ぬぉ―――!」

ククッ!
根本「ぎゃ―――!?」

霞「これは危ない!? 144キロのヘルシュートに危うくぶつかる所でした!」
武藤「危ねえ。大会前の高校生に投げるボールじゃないぞ!」
霞「当然ながら主審に警告を出されました。次に投げてバッターに当たれば退場です!」
水原「まあアマチュア相手じゃこの警告も仕方ないですね」

高岡(むっ、アウトコースにストレートか)
根本(あの内角のヘルシュートはとてもじゃないが手が出ないな。アウトコースを狙うか)
高岡「ぬぉ―――!」

ガキッ!
根本「ぎゃ―――!?」

霞「アウトコースのストレートを打ったがボテボテのピッチャーゴロ!」
武藤「そう言えば球威があるんですよね。140後半でそれじゃ外野まで飛ばすのも難しいだろうな」
水原「うーん、併殺打で一気に2アウトになりましたね。こうなるとさっきのフォアボールは結果的に良かった事になりますね」
霞「はい。そして2アウトランナーなしでバッターは風祭さん!」
武藤「あの体格でパワーヒッターって事はないでしょうね。9番だしバッティングは大した事はないんでしょうね」
水原「案外お兄さん譲りのバッティングを見せたりしてな」
武藤「いやいや、それならピッチャーでなくバッターとしてデビューするでしょう」
水原「それもそうだな」

柚(コントロールのあまい押して来るタイプのピッチャー、この手のタイプのピッチャーと私は相性が良い!)
高岡(さすがに女の子に向かって投げるのは初めてだったりするんだよな。どうもやりにくいな)

グィ―――ン!
柚(来た。この外のストレートを右に流す!)

カキ―――ン!
高岡「え?」

霞「これは上手い。力に押されず流し打ちます。ライト前ヒットで2アウトですがランナー1塁となりました!」
武藤「147キロのストレートに軽く合わせましたね。バッティングセンスは良いですね!」
水原「この娘も鎖是に似てるバッターですね。ミートに関しては兄譲り見たいですね」
武藤「足も速そうだしバッターの方が成功しそうだけどな?」
霞「っと風祭さんが盗塁を決めて2アウトランナー2塁で真田君になります!」
武藤「河村、すっかり肩が弱くなったな。昔は強肩だったのに」
水原「年齢的にも40を越えてギリギリですからね。しかしリード力は健在と言いたいんですが今年のベイスターズの投手陣は樋川を除いて防御率が悪かったからな」
霞「と言う事は今年のドラフトではベイスターズはキャッチャーを指名する確率が高いんですね」
水原「まあ、うちもですけどね。若手のキャッチャーが多い事は良い事だし指名して行くんじゃないでしょうか?」

ガキッ!
真田「こう言う球威のあるタイプは苦手だ!」

霞「追い込まれてから打ったが147キロのストレートを打ち上げ3アウトチェンジ!」
武藤「ショートフライ、やっぱり外野まで飛ばすのは難しそうですね」
水原「今の所、赤竜高校のヒットは全てライト前ヒットと外野の頭は越えていませんからね」

高岡「ああ驚いた。まさかヒットを打たれるとは思わなかったわ」
河村「うむ。147だったか8だったか忘れたが大した物だ」
高岡「つうか河村さんがアウトコース要求して来たんですが」
河村「頷いたのはお前だ。それに危険球投げて退場する訳には行かないだろう」
高岡「そりゃそうですけど(もう少し河村さんの肩が良ければランナーも得点圏に行かないんだが、若手のキャッチャーも強肩は少ないからな。今年のドラフトで名雲に来て欲しかったのに―――メジャーに行かないでくれ―――!)」
河村「何で落ち込んでんだ?」
高岡「いえ、気にしないで下さい」

3回表 赤1−1横 高岡はランナーを出すがホームには返さないピッチングを見せる
柚(シュッ!)

ククッ!
河村「ナックルと言うより高速シンカーだな」

霞「空振り三振! 125キロとナックルと言うよりシンカーですね」
武藤「落ちると言うより曲がってますから確かにナックルと言うより高速のカーブかシンカーですね」
水原「まあ、ナックルを待つよりカーブかシンカーを狙った方が打てそうですけど、それよりも肩が出来上がって来ているのかな。さっきより球速も変化も上がってますね」
霞「そうですね。三振を奪ったボールは今日最高の変化でしたね」

柚(シュッ!)

ズバ―――ン!
高岡「ノビてるだけでこう打ちにくい物なのか」

霞「続く高岡選手は133キロのストレートで空振り三振!」
武藤「斎藤君ほどではないにしろ初速と終速が近いですね。分かっててもなかなか打てませんよ」
水原「まあ、バッターなら同意はできませんがピッチャーなら打てなくても仕方ない気もしますね」

ククッ!
及川「うむ!」

霞「2アウトですが及川選手がフォアボールで出塁します」
武藤「うーん、急にコントロールが安定しなくなりましたね。しかし歩かせちゃダメな選手を出しましたね」
霞「今年は33盗塁と年々盗塁数が減って来てますがそれでも足は衰えておりません。このランナーをどう刺すか?」
水原「多分、3盗も刺すのは無理でしょうから無視した方が良いと思いますよ。それに2アウトですしバッターに集中しないと」

及川(タッタッタ!)
吉田(シュッ!)

霞「当然の様に3盗も成功しカウントは0−2となりました!」
武藤「吉田君も結構強肩なのに軽く成功させましたね」
水原「名雲君は別にして高校生レベルで刺せる足じゃありませんからね。足にかき回されて調子を落とさなきゃ良いんですが?」

ズバ―――ン!
大下「ふっふっふ」

霞「結局大下選手にはストライクが入らずストレートのフォアボール!」
武藤「水原さんの言う通りになりましたね」
水原「得点圏で服部か、ここで切らないとまずいですね」

柚(落ち着く。現状ランナー2人でピンチ、4番に回すと最悪ならここで断ち切る!)
吉田(眼の色が変わった。どうやらマウンドに行く必要はなさそうだな)
柚(シュッ!)
大下(タッタッタ!)
吉田(なっ、この場面で盗塁だと!?)

霞「何と初球走った!?」
武藤「徹底的に足で乱す作戦らしいですね。さすがにこの場面で初球スチールは読めませんよね。変化球でこのタイミングじゃセーフだろうな」
霞「武藤さんの言う通り判定はセーフ! 2アウトランナー2、3塁となって打席にはチャンスに強い服部選手です!」
水原「ここで敬遠すればもっとチャンスに強いジャクソンだからね。勝負に行くしかないですね」

吉田「すまん」
柚「大丈夫、これでもう走られる心配はないし逆に落ち着いた」
吉田「そうか、まあさすがにホームスチールはないだろうし」
柚(それよりこのバッターで断ち切らなきゃならないから全球エアナックルで!)
吉田「了解!(何か斎藤と組んでる時と変わらないな。兄に似てると言うより同じピッチャーの斎藤に似てる様な)」

カキ―――ン!
相川「届け!」

タッ! パシッ! シュッ!
霞「捕ってファーストに投げた。もちろん判定はアウト! ここで相川君がファインプレーを見せました!」
水原「この場面でこのプレー、さすがは甲子園準優勝校ですね。しかし相川君か本当に良い選手ですね」
武藤「確かに派手さはないですけど、この世代のアベレージヒッターとしては平下君に続くかも知れませんね(と言うか昨今の高卒は怪物がゴロゴロいるからな。おかしいんだよ!)」

服部「流すより引っ張る方が長打になりやすいと打ったのに!?」
及川「はあ、慣れない事をするからだ。ジャクソンに回せば試合は決まってたのに」
服部「酷いよ。及川さん」
及川「年下は年上にからかわれるもんだよ」
服部「ううっ」

吉田「ふう、どうなるかと思ったけど、何とか無失点に抑えれたな」
柚「しかしヒットの当たりだった。相川のおかげで助かった。ありがとう!」
相川「いえいえ、お役に立てて光栄です」
福西「相変わらず謙虚だね」
真田「さすがは僕の弟子なだけはあるよね」
吉田「ああ、いたんだ。さっきチャンスで凡退した真田君!」
真田「ごめんなさい」
斎藤主将「まあまあ、それより次は相川からかまた得点するチャンスだな」
相川「何とか粘って出塁を頑張ります!」
吉田「うむうむ。どっかの役立たずの師匠より役に立つな」
真田「うえ〜ん。彼女のいない吉田がいじめるよ!」
吉田「まだそのネタ使うのかよ!」
真田「まだって付き合って1ヶ月足らずだよ」
吉田「この緊迫感のある試合の中、お前ののろけなんざ聞いてられるか!」
全員(そう言いながら吉田さんも真田さんに付き合うんだから人が良いよな)
斎藤主将「それより柚、さっきの回結構球数投げたけど大丈夫か?」
柚「関係ない。大丈夫だろうが大丈夫じゃなかろうが勝つまで投げ続けるだけ!」
斎藤主将「(この強情さは俺以上だな)とにかく先発の責任回数5回までは2失点、いや3失点以内に抑えるんだ!」
柚(コクッ!)

3回裏 赤1−1横 柚は四死球2個でピンチになるが味方の守備に救われ何とか無失点に抑える
高岡「なめんじゃねえ!」

ズバ―――ン!
相川「え? 151キロって打てないよ!?」

霞「いよいよ本領発揮か今日最高速151キロのストレートで相川君を見逃し三振に抑えます!」
武藤「何かコースも安定してた様な肩ができて来たのかな」
水原「早いですね。いつもなら5回くらいから来るんですが今日はそこそこ調子が良いのかな。とにかく調子が出て来る回はやっかいですよ。コントロールも安定してますからなかなか打ち崩すのは難しいと私も監督として苦い経験をしましたよ!」

相川「すみません」
吉田「仕方ねえよ。151キロなんてなかなか手が出ねえだろうし」

高岡「食らえ!」

ククッ!
吉田「こんなボール打てるか!?」

霞「146キロのヘルシュートを空振り三振!」
武藤「速度抜群、コース抜群、変化抜群と、とてもじゃないけど、あれは打てんな」
水原「確かに大人げないくらい一流ピッチャーのボールでしたからね」

斎藤主将(一発を狙うか? 現在の高岡さんはプロの一流投手、佐伯以上だろう。長打狙いで打てるとも思えんがここで追加点を取って置きたいし長打を狙う!)
高岡「2度も打たせん!」

クククッ!!!
斎藤主将(想像以上に変化するが―――ここで打つ!)

カキ―――ン!!!
高岡「ちょっと待てベストピッチのボールだぞ。アマチュアに打ててたまるか!?」

武藤&水原「ブ―――!?」
霞「入った!? 147キロのヘルシュートを粉砕しました!? ちなみにこんな場面でのんびりお茶飲んでた爺共は案の定お茶を吹きやがりました!」
武藤「ゴホッゴホッ、くそっ気管に入った!?」
水原「…………ヒットくらいなら予想したんですがベストピッチのボールをスタンドとは予想外ですね!? バッティングセンスは凄いと聞いてましたがまさかこの場面でホームランとは!?」

高岡「嘘だ!? 嘘だと言ってくれ!?」

高岡は仮にも横浜ベイスターズのエースだ。加減したボールならともかく自分の渾身の1球をスタンドまで運ばれるとは夢にも思わなかった。彼のプライドは今の一振りで完全に打ち砕かれた。
斎藤主将「ようやく打てた気がする。佐伯からは打てなかったからな」

佐伯との試合で斎藤はホームランを打てなかったのが悔しく高速のシュート打ちの訓練を続けて来た。あえて言うなら斎藤はただ努力を積み重ねて来た結果が出ただけなのだ。佐伯と同じ種類のピッチャーと当たった偶然、しかし打てたのはマグレなんかではなく努力した結果でしかない。故に斎藤は自分を天才とは言わないだろう。
高岡「………………」

まあ打たれた本人はそんな事は知らないので天才にしか見えないのだが……

ズバ―――ン!
篠原「ダメか」
高岡「うっし!」

しかしさすがはプロのエース、気持ちを立て直し150キロのストレートで篠原を三振に抑える。
霞「ホームランを打たれた物の篠原君は三振とプロの意地を見せます!」
武藤「良く持ち直したな?」
水原「まあ、夢を与えるプロ野球選手が少年達の前でリタイアなんてできませんからね!」

真田「ナイス斎藤!」
斎藤主将「ああ、自分でも信じられないくらいの手応えだったよ。もう一度やれと言われてもできそうもないな」
中西監督「本来打たれるはずのないボールを打った訳だからな。さすがは相良に続く4番だな。バッターとしてのセンスはピッチャー以上かも知れんな」
斎藤主将「そんなー努力した結果が出ただけですよ。努力すれば勝てるなんて言えませんが勝率を上げる為には努力しなきゃ上がりませんからね」
中西監督「うむ。あながち全国制覇も夢じゃなくなって来たかも知れないな」
全員「はい!」

高岡「くそっ!」
山崎監督「落ち着け! まずはあそこで崩れず良く抑えたな。さすがはエースだ!」
高岡「いえ、渾身のボールをスタンドに運ばれて悔しい思いでいっぱいです!」
河村「確かに高校生にはとても手が出るボールじゃなかったな。あれはセンスだけじゃ打てないだろうしお前を打つ為にかなり練習して来たんじゃないか」
高岡「天才だろうが秀才だろうが訓練しようがしなかろうが悔しいもんは悔しいんだよ!」
河村「まあな。しかし高卒でも1年目からタイトル獲る選手が出て来てるから予想はしてたけど、将来の怪物がゴロゴロいるんだな」
服部「いえいえ、ゴロゴロはいないでしょう」
望月「ふっ俺の様な怪物がね」
小山「今年は2年目のジンクスにハマったクセにそれに新人王は獲ってないし怪物とは言えないんじゃないか、もちろん1年目の成績は新人にしちゃ上出来だったけど」
望月「持ち上げるか落とすかどっちか1つにして」
及川「つまり新人王獲った俺こそがプロ最高の怪物だな」
小山「まあ1年目から最多安打や盗塁王のタイトルを獲ったし将来は名選手としてその名は残すだろうけど、そう言えばお前も2年目のジンクスだったっけ?」
及川「くそっ、その汚名は一生忘れたいのに」
小山(汚名って?)
及川「あれさえなければ新人から規定打席到達の3割記録を続けられていたのに」
小山「でも、今年もギリギリ3割で7年連続3割と天才振りを見せてるじゃないか」
及川「まあ実はそんな記録なんてどうでも良いんですけどね」
小山(だったら落ち込むなよ)
及川「それより盗塁王が獲れなくなって来てるんですよね」
小山「それは光宗さんや星野のせいだろう。あの2人には結構刺されてたよな。それにピッチャーもお前に盗塁をされない様クイックを練習してるみたいだし」
及川「くそっ、中継ぎ連中は牽制の上手いタイプが多いからな」
山崎監督「まあ、悔しいと思う気持ちは大切だと思うからその調子で頑張ってくれ」
高岡「もうそんな気もなくなって来ましたけどね」

4回表 赤2−1横 斎藤の一振りで赤竜高校が勝ち越し点をあげる
霞「様子見は終わりでいよいよ4回に突入、両投手は四死球が多いですがここまで2対1と接戦です。驚くべきところは2対1で赤竜高校がリードしていると言う事です。テレビの前のみなさんはプロなのに接戦とは情けないと思っていますでしょうか?」
武藤「まあ、リードされているとは言えこれからですよ」
水原「そうですね。この回の先頭打者は先程ホームランを打ったジャクソンからですし」

ジャクソン(最初に比べて変化が上がって来てるらしいし、じっくり見て打つか)
吉田(問題はこの人なんだよな。抑える術が思いつかん)
柚(打たれて元々、意地でも投げ切って見せる!)
吉田(プロの4番相手に萎縮(いしゅく)しないだけ立派なんだけど、勝ち越してると普通、欲がでるもんなんだけどな?)

カキ―――ン!
霞「2ストライクに追い込まれてから一転して入った。レフトスタンドに打球が入ります!」
武藤「さすがはベイスターズの4番、たやすく打つと言うか1人だけレベルが違うな」
水原「とりあえずエアナックルはミートとパワーに長けた選手には通用しないと言う事は分かりましたね」
武藤「いや、そう言う選手には普通に考えて通用するボールがないですよ」
水原「まあ、そうなんですけどね。しかしミートかパワーのどっちかに長けた選手には通用してますし高校レベルなら十分通用しそうですね」

全員(また同点か)
吉田「まだ同点、少なくともリードされてる訳じゃないしまだ届くな」
柚(コクッ!)
吉田(気落ちしていないし大丈夫そうだな。5回が勝負だなっとまずは守りだ!)

小山「良く打てるな?」
ジャクソン「当てるだけで飛距離は出ますからね。ミートに集中するだけで後はスタンドと簡単に行きますからね。俺との相性は抜群ですよ!」
小山(俺も本来は得意のピッチャーなんだけどな。どうも移籍してから本調子にならんな)

ガキッ!
霞「当てましたが結果はライトフライ!」
武藤「あんな当たりがライト後方へのフライとは本当に球威は低いんですね」
水原「しかし小山も衰えたかな。全盛期はジャクソンにも負けない打撃を見せてたのに」
霞「えっと資料によりますと小山選手は15年目の今年もフル出場と体力的には衰えておりませんが本数が6本と落ちてますね。他の成績はまずまず良いと思うんですが?」
水原「一応、得点圏には打ってましたしね」
武藤「しかしベイスターズのクリーンナップはみんなチャンスに強いんですね?」
霞「そりゃプロのクリーンナップなんだから普通はチャンスに強いんじゃないでしょうか、えっと打点はリーグ3位ですね」
武藤「TOPはやっぱり優勝したスワローズなのかな?」
霞「スワローズは2位ですね。1位はカープですね」
水原「ああ、分かりますね。あの打線は反則でしょうってくらい打ちまくりましたからね」
武藤「カープか」

柚(シュッ!)

ククッ!
望月「ちくしょう!」

霞「望月選手は当然の様に空振り三振!」
武藤「長打力は認めますが打率が低いですね。やっぱりタイプ的には6番なのかな?」
水原「打率はともかく本数に関しては一級品ですよ。いずれは本塁打王のタイトルも獲るかも知れませんね。私としては時には長打を捨てて単打で打つ練習もした方が良いと思うんですが」
武藤「貴方がそれを言いますか、普通のバットにすれば史上初の4割も狙えると言われた貴方が!」
水原「それは天野だよ。俺の方は1回しか首位打者獲れなかったし」
武藤「だから普通のバットにすれば首位打者も何度か獲れてたでしょうが!」
水原「その代わり本塁打王は獲れなかっただろうけどな」

柚(シュッ!)

ズバ―――ン!
深町「嘘!?」

霞「134キロのストレートを見逃し三振!」
武藤「意外に2巡目も通用してますね」
水原「深町も調子を落としてますね。普通なら打てないはずはないんだけどな」

吉田「ふう、何とか1失点ですんだか」
山口「しかしまた同点ですね」
真田「まあまあ打線に定評のあるベイスターズをここまで2失点で抑えているだけでも凄い事だよ。それにまだ同点、これから頑張れば何とかなるよ!」
福西「それもそうですね。と言う訳で…………えっと俺からかい」
吉田「何か前の回は凄かったから注意しろよ」
福西「凄くなくても打てそうもないんですけど?」
真田「まあ下位打線に打てる選手じゃないね」
福西&山口&根本「グスッ」
吉田「とにかくフォアボールでもデッドボールでも振り逃げでも良いから出塁しろ。今日、柚はヒット打ってるし真田は頼りにならんけど相川は頼りになるから大丈夫だ!」
真田「速いボールが苦手ですみません」
斎藤主将(うーん、やっぱり打線が落ちてるのが痛いな。基礎は問題ないだろうし春までバッティング中心のメニューを増やすか)

4回裏 赤2−2横 取って取り返されて再び同点となる
高岡(下位打線相手に力使っても仕方ないか)

ガキッ!
福西「スローボール!?」

霞「福西君はチェンジアップを打ち上げ1アウト!」
武藤「いえ、あれはただのスローボールですね。初球からあれなんで釣られて振ったんでしょうね」
水原「はあ、さっき誉めたのに手抜き癖が出たな。下位打線が続くと言っても次は長打力に定評のある打者だし同点の場面で投げてたら下手すると」

高岡(シュッ!)

ズバ―――ン!
山口「速っ!?」

霞「出た153キロのストレートで空振り三振!」
武藤「ここで今日MAXか」
水原「意外と加減せずに行ってるな」

高岡(シュッ!)

ガキッ!
根本「手抜きでも結構重い!?」

霞「132キロのストレートを打ち上げ3アウトチェンジ!」
武藤「抜いたストレートでも外野にまでは飛びませんか、選手はともかくやっぱりボールは一級品ですね」
水原「いえ、バッターが非力なせいでしょう。あんなボールをクリーンナップに投げればまず長打になるでしょうね」

高岡「ふう、とりあえず三者凡退に抑えたぞ」
河村「手抜き癖は相変わらずだな。中継ぎや抑えもいるんだからスタミナなんて気にせず投げれば良いのに?」
高岡「ふっ、先発とは完投するもんです。と言う訳でスタミナを温存するのは当然!」
河村「いや、お前、今年はあんまり完投してないだろう?」
高岡「だって今シーズン絶好調の樋川に投げさせる為に俺って最後には代えられたからな」
河村「完封すれば良いだけだろう」
高岡「今年完封1回くらいはあったかな? とにかく毎度毎度完封できればもっと防御率は良いです!」
河村「ごもっとも(しかし次の回で代打を出されると思うけどな)」

5回表 赤2−2横 高岡は三者凡退と隙はありそうだがつけ込めない
中西監督「表を無失点で抑えて裏で得点し斎藤に交代ってのが理想だな」
吉田「ええ、裏はヒット打ってる柚をそのままですか?」
中西監督「ああ、ベンチより確率は高そうだしな。しかし今は裏より表だ」
柚「必ず抑えて見せる!」

ガキッ!
河村「下を叩きすぎたか」

霞「結果はキャッチャーフライですが、河村選手、この回は結構粘りましたね」
武藤「粘ってスタミナを減らそうとしたんですね。もう5回だし今更って気もしますが」
水原「そうでもないですよ。下手するとこの回でつかまるかも知れませんね」

山崎監督「………………」
高岡「ふっ」

霞「ここで山崎監督が出ました。やはりと言うかピンチヒッターは大塚選手だ!」

大塚「………………」

霞「今シーズンは主に代打として活躍したバッターです。打率.272、8本とバッティングには定評があります」
武藤「いずれはチームの主軸と期待されているんですがなかなか芽が出ませんね」
水原「ちなみに私もトレードで欲しかった選手でもあるんですよね。ベイスターズの外野は及川以外は特にレギュラーが決まっていないのでチャンスなんですけどね」
霞「そうですね。大塚選手はバッティングは良いですが守備は下手だし深町選手や大下選手は若手ながら守備も上手くバッティングも良いですからね」
武藤「レギュラーの道は厳しいな。俺、ピッチャーで良かった」
水原「うーん、打線に定評があるだけあって若手に良い選手が多いですね。大塚も30前後だし他球団に行った方が大成しそうだな」

柚(シュッ!)

ガキッ!
大塚「なんつう軽い球だ。合わせただけで外野まで飛びやがった」

霞「良い当たりではないがレフト前ヒット!」
武藤「本当に軽い球ですね」
霞「そしてここでベイスターズは代走を使います!」
武藤「当然ですけど選手の質にも差がありますね」
水原「何はともわれ代打は成功で3巡目の及川か」

及川(1アウトランナー1塁、左に流すか)

カキ―――ン!
柚「………………」

霞「及川選手もエアナックルを打ちランナーは2、3塁となりました!」
武藤「マジで水原さんの言う通りつかまりそうだな」
水原「表情には出ていませんがボールの力も落ちて来てますね」
霞「確かに球速は116キロとエアナックルも落ちている様ですね」
武藤「スタミナの方に限界があるのか?」
水原「球数は80球近くですが、練習と試合じゃスタミナ消費のケタが違いますからね。それに相手はプロ、このプレッシャーの中、良くここまで持ったと言うべきですか」
霞「お言葉ですがまだ同点、マウンドの風祭さんは諦めてない様です!」
水原「そうでした。しかし迎えるバッターは大下と赤竜高校の先輩ですがこれも因縁ですかね?」
武藤「本当だ」

大下(くそっ、何でよりにもよってこんな場面で回って来るんだよ。俺が後輩にとどめを刺せってのか!?)
柚「………………」
大下(そうだよな。これは男と男との勝負って正確には違うけどとにかく、今の俺はベイスターズの選手、全力で打つ!)

山崎監督「……待ってくれ。やっぱりタイムは取り消す」

大下の打ち気のなさに代打を出そうとした山崎監督だったが大下の打席の気迫が伝わって来たか慌てて代打を取り止めた。
高岡「大丈夫ですよ。あいつも一応はこっち側なんだから手加減なんてせず打ちますよ」
山崎監督「うむってまだ落ち込んでるのか?」
高岡「当たり前じゃないですか! 何で俺がベンチなんですか! けっ、それで次は誰に投げさせるんですか?」
全員(ふてくされてるな)
山崎監督「次は木崎だ」
高岡「木崎って先発じゃないですか、マジで勝ちに行ってるんですね」
山崎監督「上から散々言われてるって言っただろうそれにプロがアマチュアに負ける訳には行かないんだよ。プロの意地って物があるからな!」
全員(監督、本気だ。こりゃ何が何でも負ける訳には行かないな)

柚(シュッ!)

クルッ!
大下「悪いがここまでだ!」

カキ―――ン!
霞「入った。エアナックルですがレフトスタンドに叩き込まれました! 一気に3点差になりました!」
武藤「決まりですかね」
水原「決まりだな」

いよいよ試合も終わりが見えたか、柚はこのまま終わるのか?