−1990年 3月−
キャプテンが轟になってからチーム全体のレベルもグングン上がり春の甲子園にも出場した冥空高校だった。
ビュ―――ン!
五十嵐「ヒット1本損した!?」
燕「ありがとう。兄さん!」
久住「弟を助けるのは兄の仕事だ!」
久住も秋から1番ライトを守り甲子園でも必殺のレーザービームでライトゴロを量産しスカウトの注目を集めて行く!
全員「嘘っ!? 1回戦で終わったの!?」
全員「斉天大附属に勝ったぞ!」
1回戦では斉天大附属と戦い冥空高校への注目度は上がって行く。ちなみに斉天が怪物的な強さを見せ続けて行くのは今年の夏かららしい。
遠山「ぬぉ―――!」
カキ―――ン!
紅月「俺ってファーストと相性が悪いのかな?」
全国でも5本の指に入る雪影高校の紅月だったがなんとか2点を取り2対1で逃げ切るのだった。
日下部「良い感じだね」
轟主将「ああ」
上条「しかし名門2校とぶつかったのに勝てるとは俺達も強くなったんですね」
久住「そこは1番ライトの天才のおかげだろうな!」
日下部「そう言う時は嘘でもみんなの力って言わないと」
久住「そんじゃみんなの力=俺の力で10000%の力を発揮できたって訳だな!」
燕「ケタが万の位なところは兄さんらしさを感じさせるね」
轟主将「まあ誰かさんはノーヒットだったけどな」
久住「守備で活躍したんだから良いじゃないですか!」
日下部「だね。しかし凄い良いピッチャーだったね」
遠山「140前半のストレート、独特にノビるボール、変化球にコントロールと弱点なしの怪物だからな」
轟主将「と言っても御堂と比べて少し評価が低いがな」
遠山「完成している御堂と発展途上の紅月って言われるしその辺が評価が低い理由かな」
轟主将「どっちにしろ2人共上位指名、ひょっとしたら1位で指名されるかもな」
久住「ふっ、将来のライバルとして俺も頑張らないとな!」
日下部「僕達だよ。やっぱりみんなでドラフトにかかりたいしね!」
遠山「日下部らしいがそいつは難しそうだ」
轟主将「だがそいつは良い目標だな!」
日下部「でしょう!」
冥空高校は2戦連続で名門を打ち破り3回戦には無明実業とぶつかるのだった。結果は
神代「ふっ!」
カキ―――ン!
燕「そんなっ!?」
轟主将(俺のリード力を持ってしても限界のピッチャーの力を引き出す事はできないか…………くそっ!)
御堂主将(これでラスト!)
ズバ―――ン!
遠山「ちくしょう!」
3回戦で燕も限界だったか無明実業には7対0と大差で敗北する。打線も145キロのストレートを中心に精密なコントロールを見せる御堂に手が出ず無四球完封勝利と練習試合と同じく無明実業に完全に敗北してしまうのだった。しかしこれで冥空高校の評価は落ちる事はなくむしろ今までの2戦で評価は上がり日下部達もプロ入りは夢ではなくなって行くのだった。
久住「負けちまった」
燕「僕がもう少し抑えられていたら」
遠山「いや、打てなかった俺も悪い」
轟主将「………………」
神代「キャプテンだろう。何か言わなくても良いのか?」
轟主将「俺もちょっとショックだからな。それに勝者が敗者に話しかけるのはルール違反だろう!」
神代「どうしても一言言いたくてな」
久住「ふっ、名門らしく俺達を嘲笑いにでも来たのか?」
高野「どんな名門偏見だよ! つうかお前らも名門だろう!」
芹沢「一言、君達は強くなったなって言いに来たんだよ!」
遠山「なんの冗談だ!」
芹沢「怖っ!?」
神代「そうじゃない。確かに俺達が完全勝利と言う形で終わってそう見えるかも知れないが君達は慣れない戦いで疲れている今日の勝敗はその差が出ただけだ。何より俺達は大差でも諦めず頑張る君達の姿勢を見て全国レベルだと判断しライバルとして認めたんだ!」
轟主将「無明実業が俺達のライバルか…………俺達に勝ったんだ優勝してくれ!」
遠山「さっきはすまなかった。次の試合も頑張ってくれ!」
久住「俺達に勝ったんだ。優勝よろしく!」
日下部「夏にまた会おうね!」
神代「ああ。約束は守る。そして夏にまたここで!」
高野「去年見たいに決勝で負けんなよ!」
芹沢「そうそう。勝ってまた会うんだから頑張って練習しなよ!」
御堂「それじゃまたね!」
こうして無明実業もライバルとして冥空高校を認めてくれた。そしてさすがは名門か約束はきっちりと守り春では優勝を遂げるのだった。
日下部「とおっ!」
パシッ! パシッ! パシッ!
新入部員「あの先輩俺達より小柄なのに強肩だし守備は熟練って感じだな!?」
日下部達も3年になり新入部員も加わりますます冥空高校は強くなって行く。しかしこれから日下部にある出来事が起こる事をこの時は誰もがいや本人ですら知る事はなかったのだった。
久住「しかし俺達も上手くなったもんだな!」
遠山「そうだな。スカウトも度々顔を出してくれるしプロ入りも夢じゃなさそうだな」
久住「くうっ! 何処が指名してくれるかな。やっぱり地元のドラゴンズかな!」
轟主将「気が早過ぎだ。まだ夏もあるんだぞ!」
日下部「でもプロは夢だからね。みんな好きな球団に指名して欲しいよね!」
遠山「だな。俺はカープかホークスが良いな」
久住「俺はもちろんドラゴンズ!」
轟主将「こんなので本当に夏は大丈夫なのか?」
日下部「本当に!?」
勇次「ああ。だから一度帰って来い」
日下部「でもこれから夏の大会に向かってどんどん練習試合も増えて来るしな」
勇次「そうだな。こんな時期にこんな連絡はすまん。でもこんなチャンスはそう何度もないぞ」
日下部「ありがとう。父さん。そうだね。一度帰郷して見るよ」
勇次「今のお前ならプロ入りも夢じゃないだろうし俺としてはこのまま野球を続けて欲しいがな…………けど、お前の人生だ。お前の好きに生きろ!」
日下部「うん。ありがとう」
こうして日下部はいったん実家へ戻る事に決めるのだった。
日下部「と言う訳ですみません」
神坂監督「そうか、そう言う理由なら仕方ないな。しかしこのまま黙ってあいつらと野球を続けるつもりか?」
日下部「チームのムードを悪くしたくないしタイミング的に見ていまさら言うのは手遅れかなっと」
神坂監督「夏の大会まで2ヶ月だ。これだけあればあいつらも受け止めてくれるだろう。まあ全員が全員、納得するとも思えんが」
日下部「すみません」
神坂監督「まあ、実家でじっくり考えて決めろ。どんな選択をしようがお前の自由だ。あいつらは俺が上手くごまかしてやる」
日下部「本当にすみません」
神坂監督「気にするな。これは教師としての務めだ!」
神坂監督だけに事情を説明し日下部は帰郷する事とした。
日下部「………………」
正月以来の帰郷となるが日下部は内心複雑だった。結局チームメイトには説明できず嘘をついたところからも罪悪感があり自分の進路をいまだに決めかねていた。
美奈子「では行きましょう兄さん!」
日下部「なんでミナがここにいる!」
美奈子「私が家にいる事がそんなに変ですか兄さん?」
日下部「時間からしたら変だろう。今日は平日で時間は正午学校はどうした?」
美奈子「持病のしゃくで早退するって言いましたらお大事にって言われました」
日下部「緩い学校だな」
美奈子「私は兄さんに会えて嬉しいです。一日千秋の想いでしたから、キャッ!」
勇次「相変わらずお前達は仲が良いな」
美奈子「父公認の仲になってしまいましたね」
日下部「父さんも見てたなら止めてよ。なんかミナのブラコン度が年々高くなってるよ」
勇次「ははは、父親としたらこのままの方が良いけどな。見知らぬ男と仲良くしてたらその男をボコボコにしてやりたくなる!」
日下部(この親にしてこの娘ありか…………ん?それって僕にも適用されるって事っ!?)
勇次「とにかく行くぞ!」
日下部「うん!」美奈子「はい!」
日下部「えっ? ミナも来るの?」
美奈子「当然です。ミノ兄さんのいるところにこの私ありです!」
勇次「まあ仕方ないんじゃないか、車出すぞ!」
日下部「教師ならここは学校へ返すところだと思うけど?」
勇次「教師である前に私は娘にあまあまのパパだ!」
美奈子「そして私は兄さんにラブラブの妹です!」
日下部「なんで人って生まれる場所を選べないんだろう(僕が冥空高校に行ったのってひょっとしたらこう言う理由からだったのかな?)」
とにかく日下部家一行は場所を移動する。
日下部(あっという間に着いちゃったな。この店に入ると僕はどうなるんだろう?)
勇次「ひょっとして誰にも言ってないのか?」
日下部「監督には話したけど…………友達には」
勇次「そうかまあどんな選択をしても俺達家族は味方だ。気にせず頑張れ!」
美奈子「私も一生付いて行くから頑張って!」
日下部「一生付いて来られても困るけどありがとう!」
芳賀「来たか」
勇次「こいつがそうだ」
日下部「どうもです」
芳賀「ふーん、お前、うどん屋をやりたいんだってな」
日下部「はい!」
芳賀「うどん屋ってのは年期だ。年老いた職人の方が上手く作れるからな。今からやるってのは悪くないと思うぜ!」
日下部「はい」
芳賀「別に今すぐ教えてやるって訳じゃない。高校卒業したらうちに来い。一から教えてやるから仮に他にやりたい事ができても俺は別に怒らねえよ」
日下部「…………あの、今日だけで良いんで仕事を見せてくれませんか?」
芳賀「ああ。客のじゃまにならければ良い好きにしろ!」
日下部&美奈子「はい!!」
日下部「ってなんでミナまで」
美奈子「私は将来ミノ兄さんのお嫁さんになるんですから当然です!」
日下部「兄妹で結婚はできないから」
美奈子「じゃあ愛人でも良いですよ。キャッ!」
勇次「うんうん。仲睦まじいな。しかし私もいる事も忘れん様に」
日下部「父さんもミナも見学するんだね」
芳賀「やれやれ日下部もすっかり父親だな」
勇次「芳賀も早く良い人を見つけるんだな」
芳賀「もう俺の青春は終わったよ。じゃまになるところにいるなよ」
勇次「分かってる」
日下部(仲良いんだな。どう言う関係なんだろう?)
こうして日下部は見学するのだった。技術的には何一つ理解はできなかったが一連の動作など大まかには把握できると日下部に取っては有意義な1日だったらしい。
芳賀「最初は雑用だが少しずつ技術も教えて行ってやる。気が向いたらうちに来い!」
日下部「ありがとうございます!」
芳賀(やっぱり日下部に似て真面目だな。もっともあいつは息子と娘の前じゃかなり性格が変わるが…………しかし日下部の息子ならあいつの代わりにプロに行って欲しいんだけどな)
美奈子「私の仕事は接客ですね。いつも笑顔でいる事を心がけようっと♪」
日下部「まだ言ってるの?」
こうして日下部は自宅で休み翌日に帰ると早い帰郷も終わるのだった。
日下部「ごめん。今日からまた頑張るから!」
轟主将「気にするな。家庭の事情じゃ仕方ない。それに今日から練習に加わるなら十分夏までには間に合う!」
遠山「そうそう。沈んだ顔してないで相方も待っているぜ!」
久住「おせーぞ。とっとと守備に着け!」
日下部「うん!」
燕「やっぱり日下部さんがいると兄さんの表情が生き生きしているね!」
上条「いつもと変わらない様にしか見えないけどな」
燕「まだまだあまいね」
上条「そんな事はない。俺は将来プロに行く男だからな!」
燕「大きく出たね」
上条「名門冥空高校で1年からレギュラー獲ったんだ。こんだけセンスあればどっかの球団が指名してくれるさ!」
こうして冥空高校は夏に向かって頑張って行く。しかし日下部の心中には複雑な物があり日下部はいまだに進路を迷っていた。